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東方プロジェクト SS フランちゃんLV1


妖怪の山の麓には大きな湖があるのは周知の事実である。
この湖は年がら年中霧に覆われている上数多くの妖怪や妖精がたむろする場所であるため、ただの人間が訪れるには危険な地域として指定されている。
そんな霧の湖の畔に、狂気にとりつかれたかのような真っ紅な色をした洋館が建っているのは有名な話だ。
曰く、悪魔の住む家。
ただ、多くの人々は所謂、紅魔館に住む悪魔は一人だけだと思っている。

・・・それは大きな勘違いである。

この館にはもう一人、悪魔が眠っている。
館の主がいない隙に忍び込もうとか探検をしようなどと考えている不届きものはまず間違いなく、こちらの悪魔に弄ばれることになるだろう。



「・・・んぅっ?」

紅魔館の地下にある巨大な空間を抜けた先にあるのは広大な部屋だった。
そこには大きな大きな天蓋がついたキングサイズのベッドが無造作に置かれている。
ベッドの中には眠りにつく、一人の少女。
不愉快そうに整った顔立ちの上に乗った可憐な眉を顰めるその女の子こそ、この館の主人たる悪魔の妹、その人だ。

「・・・ぃやぁ」

再び不快そうにベッドの中で身体を捻りながら、寝言をもらす。
悪魔が悪夢を見るとはなんとも滑稽な話だと、ついついそんな感想を漏らしてしまいそうになるが、本人にしてみれば悪魔だろうが妹だろうが吸血鬼だろうが、見たくも無い夢、それも悪夢の類を見せつけられるはたまった物ではないといった所だろう。

「カエルがくるよぉ。
・・・わないでぇ、呪わ・・・でぇ」

不明瞭な寝言を呟きながら、少女は苦しそうに息を吐く。
どんな悪夢を見ているのか想像しているのも楽しいものではあるかもしれないが、どうせなら、というわけで彼女の夢の中に入ってみることにした。

「ケロケロケロケロ。
オマエは我が眷属を100とんで8匹も辱めた。
よってその償いを受けてもらう」
「し、知らない、知らないよぉ」

えらく具体的な夢のようだった。
ケロケロと鳴く真っ黒な影のようなヒトガタが、悪魔の妹を前に超然とした口調で宣言する。
心当たりがないと、ぶんぶんと首を振る少女の姿を気にした様子も見せず、ヒトガタはゲェロゲェロと不気味に喉を鳴らし続ける。

「何を言うか、ケロケロケロケロ。
オマエが祖先に倣ったのか、我が同胞に尻から棒を挿して串刺しにしたことは明白だ。
強きものよ、タタリはオマエの拠り所たる強さを奪う。
そうだ、レベルを1にしてやろう」
「し、してないってばぁ!?」

少女は恥ずかしい単語を耳にしただけで顔を紅く染めながら、なんとか自身の潔白を証明できないものかと叫ぶが、ヒトガタはやはり聞く耳を持たなかった。
それどころか、すぅ、と真っ黒な影の腕を少女へと伸ばす。
ふらふらとその動作を少女の視線が無意識に追いかけていく。
ピタリと影の動きが止まると同時に、ヒトガタは大きな声で叫ぶ。

「ドーーーーンっ!!」
「きゃああああっ!?」

がばぁ、と勢い良く少女が飛び起きた。
はぁはぁ、と荒れた息を正すよりも早く、部屋の中を見回した彼女がほっと息を漏らす。
部屋には、少女以外、他の誰の姿も見えなかった。

「・・・なんだったんだろ」

ぶるり、と寒さ以外の理由で少女の身体が一度大きく震える。
そこで自分の身体をかき抱くように身を縮こまらせて、彼女はようやく気が付いた。

「・・・翼が、小さくなってる」

驚き、慌てて確認する。
七色に輝く、宝石のような硬質の羽根が、背中に懸命に伸ばした腕で辛うじて触れるぐらいに短くなっていたのだ。
普段だったら、容易に自分の身体全体を包み込むようにすら出来た翼であったはずだが、それ以前の問題だ。

「まさかっ!?」

何かに気がついたかのように慌てて彼女は、自分の部屋のドアを見つめた。
物質にある『目』を手の中に移動させる。
いつものように容易に移動させることが出来ず、どこかズレたものが手の中にある気がする。
だが、そんな些細な違和感を気にしている余裕などあるわけがなく、嫌な予感に襲われた少女はそのままぎゅっと片手で『目』を握り締めて、爆発するイメージを具現化する。

ぽんっ!

確かにドアから爆音がした。
ただし、とても小さく可愛らしい音でしかなかった。
その上、ドアには細かいひび割れがついているぐらいである。

「能力が、弱体化してる・・・?」

少女は自分の握り締めた片手と煙を出すドアを見つめながら、呆然とした口調で呟くことしか出来なかった。





「パ、パチュリーーーっ!!
助けてぇっ!?」
「・・・フラン、どうしたの?」

どうやら少女、フランドール・スカーレットの『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』が極端に弱体化してしまったようだ、そのことに気付いたフランはこの館で一番の知識人に助けを求めた。
『動かない大図書館』という大層な二つ名を持つ知識人にして種族魔法使い、パチュリー・ノーレッジは突然の闖入者にかすかに驚きをのせた声で返事をする。
ティータイムの最中だったのか、かちゃり、と音を立てて彼女は手に持つ琥珀色の液体の入ったカップをテーブルに戻してから、彼女は図書館の入り口へと顔を向けた。

「・・・ん?
フラン、翼はどうしたのかしら」

目敏い魔女はすぐさま違和感に気がついた。
フランドールの背中から生えているはずの歪な造形の翼が見当たらない。
悪魔であるはずの少女が一見してみるだけでは、まるで人間の女の子のようにさえ見える。

「そう、それなのっ!
なんだか夢の中に変なカエルのでっかい真っ暗なすっごいのが出てきて、
わたしにドーンってやったと思ったの!
そしたら翼が小さくなってて、力もすっごい弱くなってて!!」
「・・・夢の中のカエル?」
「ちょっと待ちなさい」

パチュリーが、しどろもどろながらも何とか分かる範囲で説明しようと喋るフランの台詞から気になる単語を切り出していると、そこに第三者の声が割って入った。
パチュリーと向かい合って座っていたその少女は、声を掛けるタイミングを図っていたのであろう。
幼く甲高く響く声は、満ち溢れた自信と好奇心で弾んでいた。

「・・・ふぅん、随分面白い運命を手に入れたものね」

くつくつくつ、と笑う第三者はフランを流し見るような態度で眺めたあと、尊大な態度でそう言った。
フランはこの訳知り顔の少女をむっ、とした顔で睨みつけるが、平然と受け流されているあたりから力関係が見えてくる。

「レミィ、何か知っているなら教えてあげなさい。
かなり大事なんじゃないかしら」
「悪魔からモノを知りたいのなら対価が必要だね。
親友の頼みとは言え、大事な妹の頼みとは言え、それは絶対」
「・・・お姉さまのばか」

妹の罵倒が嬉しいとでも言うのか、恍惚とした表情で笑うもう一人の悪魔は何も答える気はないようだった。
パチュリーはこんな態度をとるレミリアからモノを聞こうとしても無駄だということは長い付き合いの中で良く分かっていたので、気にした様子も見せずにフランに向き直った。

「そっちのはほうっておきましょう、フラン。
それよりも、もう少し詳しく話してもらえないかしら」
「・・・べー。
うん、よろしくね、パチュリー」

レミリアに向けてあっかんべーをしてから、フランは自分に分かる範囲のことではあったが所々つっかえながらも話を始めた。
パチュリーはじっと瞬きもせずに、彼女の話を聞いていたが、事情を知ると

「そう」

と一言だけ呟き、テーブルの脇に積まれていた本のタワーから一冊の本を抜き出して、パラパラとページをめくる。
フランがイライラとし始めるよりは少しだけ早く、魔女がゆっくりと再び顔を上げた。

「どうやらタタリ神の類に呪いを掛けられてしまったようね。
・・・そうね、それもただの神じゃない。
かなり高位の神のよう。
フラン、あなたは・・・いえ、地下室に篭りきりのあなたに心当たりなんてあるわけないか」
「う、うん、カエルなんて幻想郷に来てから見たことないし」
「そうよね。
108匹、随分な数よ。
無意識にどうこう、ってレベルじゃないわ」

妖精のいたずらにしては手が込みすぎているし、
何よりもフランを相手にいたずらするほど命知らずな真似をする妖精なんて・・・まさかいるわけがない。
パチュリーは、ふと頭に浮かんだ妖精のいたずら説を頭を振って否定した。

「ん?
レベル・・・レベルね」

何気なく自分が言った言葉でピンと来た。
取りあえず原因はともかく、何をされたのかは想像がついた。
確か、そのあたりについて書かれた魔道書もあったはずだ。


「・・・その前に力の方の現状も聞いておきましょう。
フラン、教えてもらえるかしら?」
「う、うん。
飛ぶことは出来るみたいだけど、弾幕はほとんど張れなかった。
能力もあんまり・・・安定しなくて上手く壊せない。
腕力も咲夜よりも弱いと思うし、吸血鬼の技も使えないの」
「ほとんど人間と変わらないというわけね。
それは困りものだわ」
「・・・そうか?
長い人生、そんなこともあってもよいんじゃないか」

重苦しい雰囲気で話す2人を、レミリアがケラケラと笑って茶化してくる。
どうやらレミリアは、この状況をむしろ都合が良いと考えているとパチュリーは見当づけてそっとため息をついた。
確かに閉じ込めるためにはこの方が楽よね、楽だけど・・・。

「レミィ、良く考えてごらんなさい。
フランは今、力をほとんど使えないのよ。
今日は咲夜は博麗神社に行っていていないし、レミィも館を空けることもあるわね。
・・・考えて御覧なさい」
「確かに時折館を留守にすることもあるわね、それで?」

神妙な顔つきでレミリアをじぃ、と見つめたパチュリーは口元を右手で隠すようにしながら呟く。

「もしかしたら、この館が心無い人間、あるいはそこそこの力を持った妖怪に襲撃されることもありうるわね。
実際、図書館には黒白なネズミぐらいしか来ないけれど、本館には、ほら、この前もあったじゃない。
美鈴に撃退されたそうだけど、それなりの妖怪が忍び込もうとしていたみたいよ。
・・・そんな輩が、館に入り込んで御覧なさい」
「んぅ?
それがどうかしたのか?
まぁ、門番を突破するほどの腕ならば妖精メイドには荷が重いだろうが、だからとって・・・」
「想像して、レミィ。
大変、地下室に入り込まれてしまったわ。
そこには力の使えないフランしかいないのよ」
「ええっ!?」

頭を捻らせて、パチュリーの話に耳を傾けながらその場面を想像していたレミリアが悲鳴を上げる。
彼女の頭の中では、可愛い可愛い妹が、凶悪で醜悪な妖怪の前でガタガタと震える姿が浮かぶ。

「ああ、フランを見た妖怪が嫌らしい笑みを浮かべているわ。
舌なめずりをしながらフランへと近づいて、その刃物のように鋭い爪で、ビリビリとフランの洋服が切り裂かれ・・・」
「って、ちょっとまてぇ!!」

レミリアは両腕を振り上げて、ちょっと待ったコールを掛ける。
良いところで話を中断させられたパチュリーはめんどくさそうにレミリアへと視線を向けた。

「何よ、その展開!
ええぃ、そんなどこの馬の骨とも知れぬ輩にフランの乙女が散らされるぐらいならいっそわたしがっ!?」
「落ち着きなさい」

ぼかっ!

「いたぁ!?」
「あくまでも例えよ、例え。
なに興奮しているのよ」
「だからといって、その馬鹿みたいに分厚いハードカーバー本の角で殴るのは止めてほしかった。
・・・でも、よく分かったわ。
早速、周辺の妖怪を37564にしましょう」
「落ち着きなさい。
そんな無茶をやったら巫女かスキマ賢者が来るわよ」

パチュリーは頭痛がしてきた頭を抑えながら、簡潔に言い放った。
だが、レミリアはそんなパチュリーの忠告など知ったことかと、
手に持つ串のようなものを魔女の目前へと振り下ろした。

「ふん、そんなもの気にするほどでもない。
夜の王たる吸血鬼が恐れるものなど何もないわ!」
「・・・ふぅ。
全く、そんな傲慢だから月の・・・って、レミィ、あなた・・・」
「・・・お、お姉さま・・・それ・・・」

フランとパチュリーの2人の指先が、ぶるぶると震えながらレミリアが片手にしっかりと握り締めた串を指し示した。
レミリアは2人の指摘を受けると、当然のような顔をして言い放つ。

「ああ、これか。
以前の月でのことを反省して、ちょっとはこちらの神のことも学んでみようと思ってね。
口の軽い天狗がベラベラと喋ってくれた蛙狩之神事の真似事をしてみたんだよ」
「そ、そぉなの・・・」
「どうした、パチェ?
顔を引きつらせて。
なんと言っても、串刺しだなんて吸血鬼たるわたしにはピッタリの神事だろう。
ついつい面白がって手当たり次第串刺しにしてやったよ」

そう言って、レミリアは尻から串刺しにされたカエルを見つめながらニヤニヤと凶悪そうな目つきで笑ったが、パチュリーはそれに答えるどころではなかった。
じっとりと背中から汗が湧き出てくるのを感じたものの、自分の一言で惨劇の幕が開くのかと思うと、レミリアに口を慎むように忠告してやることすら出来なかった。

「だが、やっぱりつまらん。
多分100ぐらいはやったんだが、何も起こらなくてな。
飽きたんで庭に放置してきた」
「キサマが犯人かーーーーっ!!!」

何故かふんぞり返って大いばりで告げるレミリアに、パチュリーが何か言うよりも先に、フランが右手を姉の方へと突き出しながら叫んだ。
続けて他の人物たちのどんな行動よりも素早く、妹の右手がぎゅっ、と握り締められる。

どかーーーんっ!!

「へべろぱっ!?」
「お姉さまの馬鹿っ!!」
「レミィ!?」

やはり焦点があわないのか、レミリアの『目』を半ば本気で握りつぶしてやろうと逆上したフランの一撃は、姉の真下にあった床板を木っ端微塵に粉砕した。
レミリアはそれでも爆風で数メートルほど横に吹っ飛び、奇妙な悲鳴を上げながら頭から本棚に突っ込んでしまう。
見事に突き刺さった悪魔の上に、大きく揺れた頭上の本棚から次々に本が落下してきてすぐに彼女の身体は見えなくなってしまった。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「・・・さすがに同情し辛いわね」

力をほとんど失ったくせに大きな能力を無理矢理使った反動か、肩で息をするフランをパチュリーはどうしたものか、と見つめていた。
心情的には『GJ!!』と言ってやりたい気もするが、この妹も妹で調子に乗せるのはまずいとは理解していたパチュリーが発言に窮していると、突如ファンファーレが鳴り響いた。

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

虚空から聞こえた音は、確かにこの場にいる全員の耳に届いた。
パチュリーはその音を聞いて、先ほどまで確認していた書物に再び目を落としてからフランへと静かな口調で語りかける。

「どうやら経験値がたまってレベルが上がったようね。
下げられてしまったレベルは、また経験値が入ると再び上げることが出来るということか。
・・・ふむ」

パチュリーは未だ突然の音楽に混乱しているフランを尻目に、ぶつぶつと呪文を唱えていく。
本にあったのは、レベルを視覚化する魔法である。
この魔法でレベルを確認出来れば、今後の対策が立てやすいはずと喘息の発作が出ることもなく順調に詠唱を終えた魔法を解き放つ。

「わぁっ!
何コレ・・・3/666??
あっ、パチュリーの横にも出ているよっ、98/99だって!!」
「どうやらフランはレベル1にされてしまったようね。
・・・それにしても妙ね」

パチュリーはポン、という軽い音を立てて生まれたフランの頭上に浮かぶ数字を見つめてから、納得のいかない顔をしてレミリアが吹き飛ばされた本棚の方へと視線を向けた。

「高位の吸血鬼を倒してその程度の経験値なんて・・・そうか。
レミィ、狸寝入りはそのぐらいにしておきなさい」
「ばれたか。
フフン、わたしの演技力も捨てたものじゃないだろう?」

ピンピンした様子で本の山から立ち上がったレミリアがふんぞり返ってケラケラと笑う。
彼女の真上には、『231/447』と数字が表示されていた。
レミリアは一通り笑ってから自分の頭上にある数字に気がついたのか、自分の数字を指差しながら仕掛け人であろう親友へと疑問を発した。

「で、何よこれ?
何かの符号かい」
「それはレベルを視覚化したものよ。
左側にあるのが現在のレベル。
右側が才能限界。
わたしだったら現在は98で、限界は99になる、ってわけ」
「ふぅん、面白いな。
・・・ちょっと待て、フランの方が随分限界高くないか?」
「そんなことは今は関係ないでしょ。
それよりもレミィの場合はもっとレベルを上げられるんだから、修行が足りないわよ」
「そうか?」
「ええ、もっと頑張りましょう」

パチュリーはそう答えながらも、さすがにレベル差がありすぎて今のフランではレミリアを倒しきれないのか、と先ほどの一連の行動を頭の中でまとめていた。
もっとレベル差の少ない相手、例えばレベル30ぐらいの妖怪を探して狩りでもしようかなどと、物騒なことを考えていた。

「頑張れなんて、ずいぶんな発言ね。
そんな事を言うなら、パチェに対戦相手になってもらおうかしら?」
「遠慮するわ。
経験値を稼ぎたいのなら、スキマか亡霊姫か宇宙人にでも頼みなさい」
「ま、そんなことはどうでも良い。
それで、だ。
どうするつもりなんだ?」

レミリアがさも偉そうにふんぞり返って尊大な発言をすると、今まで自分のレベルを色々な角度で眺めながら会話に参加していなかったフランが、かちん、ときた表情で姉をにらみつけてから呟く。

「お姉さま・・・全然反省していない・・・」
「フラン、レミィへの制裁は後にして頂戴。
・・・そうね、地味なやり方だけど、適当にその辺の妖怪と戦わせて経験値を稼ぐのが一番手っ取り早いかしら。
元のレベルが分からないとは言え、どちらにしてももう少しレベルをあげてからでないと、話が進まないわ」
「呪いとやらを仕掛けた神を締め上げてやるんじゃないのか?」

ニィ、と口角を持ち上げて話すレミリアに対して、パチュリーは少しだけ考える仕草を見せてから、首を振ってその提案を否定した。

「止めておきましょう。
どうやら呪い神のようだし、下手をすると今度は別の呪いを掛けられてしまうわ。
東洋呪術はわたしも専門ではないから、呪いを『返す』なんて出来ないし。
・・・そうね、カエルの神のようだから、今度はレミィ自身がカエルに姿を変えられるかもね」
「それはゴメンこうむりたいねぇ。
コウモリに化けて移動するときにカエルになるだなんてことになったら、威厳がなくなることこの上ないわ」

しかめ面で呟くレミリアに、パチュリーは頬をひくつかせて怒りを堪えているフランを手振りだけでなんとかあやしながらも、折衷案という訳でもないが、代案を示すことにした。

「わたしは妹様について経験値稼ぎをしてくるわ。
今が酉の刻に入ったばかりだから、今晩まるまる頑張ればそこそこは上がるでしょう」
「それはご苦労なことだ。
悪いね、パチェ」
「・・・いえ。
それにレミィにも仕事を頼まれてもらうわよ。
神に呪いを解いてもらうのが一番の対策、だから貴女は遊びで殺してきたカエルを弔うぐらいはしてあげるように」
「うえ、面倒はゴメンだ」

パチュリーの言葉にレミリアは手をパタパタと振って、言外にやるわけがない、と宣言してみせた。
魔女は親友の人でなし、とは言え実際に悪魔ではあるが、な発言に頭痛を覚えたようで、軽く顔をしかめてみせた。

「こんなことを言っているけど、どうするフラン?」
「じゃあ、お姉さまは何もしなくていいよ」

にっこりと魅了の魔力が込められたような満面の笑顔でそう言ってくれた己の妹を、だがレミリアは何処か不穏な雰囲気を感じて顔を引きつらせた。
だが、そこはこの館の主である。
自らの言動を安易に翻すことなどしようはずがなく、フランの提案にこっくりと頷いてみせた。

「そうね、そうさせて・・・」
「うん、ただし。
生贄になってもらうけど」

そう言うや否や、フランは何処からか10メートルはある巨大な、見上げるような、弩級の木串を取り出した。
レミリアの頬に一筋の汗が落ちる。

「ちょっとフラン。
それをどうするつもり?」
「どうすると思う?」
「質問に質問で返してはダメと・・・というか何処からそんなの取り出したのよっ!?」
「やだなー、ただお姉さまを串刺しにして庭に晒しておくだけだよ?」
「疑問に答えて!?
って言うかさらりと凄いこと言われたわっ!!」
「大丈夫、痛くしないから」
「絶対ウソだっ!?
パチェ、パチェ!?
親友のピンチよ、何で黙って見ているの、何よそのしらけ切った表情は!」
「ばいばーい」
「アッ―――――――!」





「あれ、パチュリー様と・・・妹様っ!?
ど、どうしたんですか?」
「ああ、美鈴。
お勤めご苦労さま、異常はないかしら」
「こんばんわー」

一仕事終えてすっきりとした表情のフランとパチュリーが、経験値稼ぎをしようと紅魔館の門を潜ろうとしたところ、門を守っていた紅美鈴が気付いて声を掛けてきた。
滅多に見ないフランの姿に驚いているようだが、今は門番に構っている場合ではないと、パチュリーは先を急ごうとして、ふと思いつく。

「そうね、美鈴にも協力してもらいましょうか」
「??
取りあえず今日は平穏な様子です。
いえ、何だか今から不穏なことになりそうな気配を、気を操るまでもなく感じていますけど」
「そう、それは話は早いわね。
Awaken!!」
「へー、美鈴は49/60か。
あはは、今のわたしで倒せるかなー」
「え、えぇと・・・?」

未だ状況が読めない美鈴が、目の前にいる館の住人2人と自分の頭上に突如現れた数字に頭を捻っていると、フランが右手を前に出すのが視界に入った。

「きゅっとして・・・」
「ええええっ!?
ちょ、ちょっとまっっっ!?」
「ドカーンっ」
「ぐばあっ!?」

レベル3ではやはりまだまだ能力は上手く扱えず、美鈴のそばの空間を爆破しただけだったが、今度は上手く気絶させることが出来たようだった。
パチュリーが、つま先でつんつん、と倒れ伏す美鈴を突いてみると、ピクリと身体が動き出す。
どうやら、意識を取り戻したようだ。

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

「あっ、すごいすごいっ!」
「これでレベルは16/666ね。
美鈴、代わりの人員は手配しておくから、今日はもう戻って休んでなさい」
「・・・そ、そぅさせてもらいます」

何とかそう呟いたボロキレのようになった美鈴を放置して、一通りのファンファーレを聞き終えた2人は新たな鴨を求めて、霧の湖の真っ只中へと空を翔けていった。





タラララタッタッター♪

「うーん、大分レベルが上がるのが遅くなってきたね」
「そうね。
これでようやくフランのレベルは45/666かしら。
・・・この方法はそろそろ限界だわ」

フランとパチュリーが経験値稼ぎを始めてから、既に3時間ほどが経過していた。
なるべく強そうな妖怪ばかりを相手にするように心がけていたが、この辺りをうろちょろしている妖怪で美鈴よりも強いヤツはまずいない。
だから、湖の周辺をうろついて適当に出会う妖怪とランダムバトルしているだけでは、このあたりで限界が来てしまうだろう。
パチュリーは、先ほどフランのスターボウブレイクの直撃をくらい真っ黒こげになって気絶している夜雀をちらりと見つめてから、どうしたものかと頭を悩ましていた。

「どうしようか。
冥界か竹林でも行ってみる?
それとも妖怪の山か、地底なんて選択肢もあるみたいだけど」
「妖怪の数ならば山なのでしょうけど・・・さすがに山に喧嘩を売るなんてコトをして事件を大きくはしたくないわ。
とは言え、3桁のレベルを持っていそうな野良妖怪なんていないでしょうし・・・」

適当に飛んでいるだけで出会える高位妖怪の心当たりは、新聞記者の鴉天狗と、酔っ払い鬼ぐらいのものだ。
逆に、居場所が特定出来てかつ単独行動をしている最強クラスなんていうと、花妖怪と竹林の自警団といったところか。
・・・どれもこれも今のフランとは会わせたくはない相手ばかりだ。
パチュリーは一通り自分が知る限りの妖怪の名前を思い浮かべながら、妙案を思いつくことも出来ずに、はぁ、とため息をつくぐらいしか出来なかった。

「こんな場所を飛んでいるなんて、道に迷ったんだな。
道に迷うのは妖精の仕業なのさ!!」

そんなパチュリーの思考は、甲高い緊張感に欠ける声で遮られた。
魔女が声の聞こえた方向に従って視線を上げると、この湖で良く姿を見かける氷精、チルノがこちらの進行方向を遮るような格好で立ち塞がっていた。

「・・・妖精かー。
倒しても経験値入らなそうだなぁ」
「あんた、ちったあ驚きなさい。
目の前に強敵がいるのよ?」

夜の王と恐れられる吸血鬼を目の前にして尊大な態度を崩そうともしないチルノは、いかにも弾幕ごっこで遊びたそうにうずうずとした顔つきをしていた。
フランは対照的にどうでも良さそうな顔をして、妖精の言葉を聞き流していたが、さすがに黙っているのもどうかと思ったのかいかにもやる気の無さそうな口調で先を続ける。

「それで、強敵さんはどこにいるの?
教えてもらえない?」
「ふざけやがって〜。
最強のあたいが強敵じゃなくて、何だって言うのさ!」

ごう、とチルノから冷気が漏れた。
フランとパチュリーの着ている衣服の表面が凍りついてパリパリと音を立てる。
・・・妙ね。
パチュリーはチルノはこんなに力があっただろうか、と頭を捻りながら呪文の詠唱もなしで軽く指を振って小さな火を灯す。
そして、衣服についた氷を溶かそうとして気付いた。

「・・・全然溶けない。
もしかして、この子はわたしが思っているよりもかなり強い力を持っているのかしら。
Awaken!」

今日何度も使っているレベル探査の魔法を起動させたパチュリーは絶句した。
チルノの頭上に数字が踊っている。
それは良い。
良いのだが・・・。

「999/999!!?」
「何ソレっ!?」

パチュリーの叫びとフランの驚愕の声が同時に響く。
いつの間に氷精は自分の限界までレベルを上げていたというのだろう。
仰天した表情を浮かべる2人を見て、満足そうに笑っていたチルノがえへん、と胸を張って決め台詞を宣言する。

「さあさあ、英吉利牛といっしょに冷凍保存してやるよ!」
「ちょ、ちょっちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!!」

だが、凄まじくドモりながら声を張り上げたパチュリーによって、チルノが動きを止める。
折角カッコよく決まったのに、と唇を尖らす氷精に魔女は心底不思議そうに声を掛けた。

「ねぇ、チルノ。
貴女、最近何か変わったことがなかった?
具体的には変なファンファーレが聞こえたとか」
「ん?
それならあったよ!
さっきね、変な帽子の巨大カエルっぽいのが居たから、ふん捕まえて凍らせて遊んでたらすっごい勢いで『タンラタンラー♪』って五月蝿かった!」

レベルアップ音とはちょっと違うようだが、そもそも妖精の記憶力をあてにしてもしょうがない。
大事なのはカエルを倒したチルノのレベルが一気にあがった、ということだろう。
フランはチルノの話を聞いて、一気に喜色ばって興奮に声を弾ませた。

「それって!?」
「ええ、フランから奪われた経験値の可能性が高いわね。
妖精のレベルが上がるために必要な経験値は少ないのかしら?
それでフランの経験値を得て、一気に限界までレベルが上がったといった感じだと辻褄が合うわ。
それにしても、チルノの限界の999って・・・」
「・・・うーん、まぁ考察は後にするとして、今はこの妖精を倒せばわたしのレベルが元通りになると考えていいのかな」
「そうね。
そうなるわ」

パチュリーからの同意を得られるやすぐに、フランはチルノの正面へと小さな翼を広げて陣取った。
先ほどまでのやる気の無さとは打って変わって、この瞬間にもチルノを打ち破らんとばかりに、小さな氷精へとビリビリと皮膚が震えるぐらいの殺気を叩きつける。
その様子を見た魔女は巻き込まれることを恐れたかのように、ふわふわとこの場を離れていく。

「おっ、あたいと弾幕ごっこやろうっていうのか!?
あたいをなめると舌を火傷するよ!!」
「わたしの経験値を返してもらう!
あんたはコンティニュー出来ないからね!!」

そして、弾幕ごっこが始まった。

「クランベリートラップ!」

まずは小手調べとばかりにフランが普段より大分弾の数が少ないスペルを使う。
だが、チルノは避ける動作をするわけでもなく、右手をかざして自分の弾幕とフランの弾幕をぶつけ合わせると互いの弾幕があっと言う間に消滅してしまう。

Spell Break!!

「ボムっ!?」
「今のはボムじゃない、通常弾幕だよっ!」

そう言いながら、ぐるりと自分の腕を一回転させたチルノが頭上に自らの手を持ち上げる。
自信に満ちたいつもの氷精の表情が、実力を伴ったせいでひどく凶悪そうな印象を与えた。

「今度はこれだー!
チャージショット!!」

氷の柱がごう、とチルノのブリザードに包まれたと思うと、次の瞬間には氷で出来た怪鳥が生まれていた。
さすがに仰天したフランが次のスペルカードを慌てて手に取る。

「・・・ただのチャージショットのレベルじゃないわね。
もうスペルカードの範疇よ」

ただの傍観者をしていたパチュリーが、離れた場所まで伝わってくるひんやりとした冷気にぶるり、と身体を震わせながら呟く。
そして、チルノの指先から生まれた氷鳥がフランへと向けて解き放たれる。

「いけぇ!
ダイアモンドフェニックス!!」

いつものHなネーミングセンスだが、だからと言って馬鹿に出来ないだけの力が込められいるのは一目で分かろうというものだった。
巨大な氷の翼を生やした怪鳥が、フランへと凄まじい速さで一直線に迫ってくる。
彼女は慌てた様子で、スペルカード宣言をしてから自身の魔力を剣の形に具現化した。

「レーヴァティン!!」

フランは手に現れた火の魔剣で何とかチルノのショットを切り裂くことに成功したが、同時にレーヴァティンが力を使い果たして霧散していく。

Spell Break!!

「まいったな・・・、文字通りレベルが違うや」

フランが早々に使い果たした二枚のスペルを思い出しながら、どうしたものかと考えていると、突然の高笑いが周囲に響き渡る。
声のしてきた方向へと目を向けると、チルノが両手を腰に当てて、ワハハ、と声高らかに笑っていた。
カチン、と来るがここで激高していてはあっさりと自分がもうワンコインするはめになってしまうので、フランはなんとか冷静を保つことが出来るように息を吐いて心を落ち着かせる。

「甘い、甘いね、ネオテームよりも甘いわね。
そんな火の剣であたいがビビるとでも思ったのか?
見るがいい、あたいは火さえも克服した!!」

さきほどのチャージショットの体勢と同じ格好でチルノが再び力を貯め始める。
今度は先ほどとは違い、真っ蒼な色をした火柱が文字通りの火の鳥を形作っていく。

「くっくっく、これがあたいの真必殺技、カイザーフェニック・・・」
「きゅっとしてドカーン」

取りあえずもったいぶった言い方に対してイライラが頂点に達して、ぷちん、と何かを切らしたフランは半ばスペルカードルールを無視した形で能力を発動した。
大分レベルが上がったからか、狙い違わず火の鳥の頭を打ち砕く。

「へ?
・・・あ、あっつーーーいっ!!」

そのまま、チルノの頭に制御を失った火の塊がぼとり、と落ちた。
悲鳴を上げながら、じたばた、と両腕を振り回してどうにか火を消そうと頑張っているようだが、レベル999の火炎はそんなことで鎮火したりしない。
結局、火系の攻撃は使えるようになってもダメージについては克服出来なかったようで、チルノの背中にある羽根がどんどんと溶けて小さくなっていく。

「あれ、これってもしかして・・・大変!
もう一発、どかーんっ!」
「・・・え?」

フランは今度は火の『目』をつついてやって、火を文字通りの意味で消し飛ばす。
チルノは羽の一部が溶けて、身体のあちこちが焦げてしまっていたようだが、呆然としつつも声には十分に力はあり大事は無さそうであった。
離れた場所から『ジェリーフィッシュプリンセス』のスペルカードを準備していたパチュリーも、ほっと息を吐いて肩の力を抜く。

「どうして・・・?」
「えっと、よく分からないけど、ああした方が良い気がして・・・」

チルノがぽつりと呟いた言葉を、フランは自分の両手を見つめながら苦笑いを浮かべて、ごく当然のように答えていた。

「くそーっ、今日のところはあたいの負けにしておいてやる!
次は覚えていろよーっ!!」

何か自分の不利を感じ取ったのか普通に闘えば確実に勝利出来たはずなのに、結局尻尾をまいて逃げるチルノを見つめていたフランの身体が、ドクン、と大きく震えた。
・・・あ、力が戻ってきた。
そんな風に自覚するのと同時に、一斉にファンファーレが鳴り始める。

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

「・・・うん、いい感じいい感じ」

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

「・・・どこまで上がるのかなぁ?」

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

「・・・えっと、うん、まぁ」

タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪
タラララタッタッター♪

「あー、もうっ!
いい加減にしてよっ!?」

フランがイライラから叫んでみても怯むことなく未だ鳴り響くレベルアップ音を、彼女はうんざりとしながらも聞き続けるのであった。





「・・・ようやく止まったね」
「フラン、お疲れ様」

先ほどまで耳元で鳴り響いていたファンファーレが途切れたことにほっと胸をなで下ろしながら、フランとパチュリーは紅魔館の敷地へと降り立った。
真っ赤な色に塗りたくられた屋敷とは言え、闇夜の中では全く色など分かりはしない。
フランの夜目は闇をモノともしないが、着色まではさすがに分からない。
この館の装丁は、夜の悪魔である吸血鬼にとってホントはあまり意味がないんじゃないかな、などと考えながらも庭の一角に視線を移す。
フランの隣ではパチュリーも同じように黙って、庭の隅へと目線を向けていた。

「フラ〜〜〜〜ンっ!?
反省してるわ、助けてぇ〜〜」

闇夜にぼんやりと浮かんでいるのは、庭の一角を占領している巨大な柱のような串で吊られたレミリアの姿であった。
物理的な限界を超えて伸びきったフリフリのドレスとドロワーズが、レミリアの身体と串とを離すことなく繋いでいる。

「もうそろそろ日が昇るわよ!
そうすると大変なことになるわ、びっくり仰天よ!?
わたしが悪かったから、許してぇ!!」

フランは狂乱する自分の姉の姿を見てくすり、と笑みを浮かべると、右手をレミリアの方を向けてぎゅっと握り締めた。

ドカーンっ!

「ちょ、レミィ!?」
「地下に戻るわ。
後はよろしくね、パチュリー」
「え、ええ?」

パチュリーが混乱している間に、フランは魔女にむけて手を振るとすたすたと振り返ることもなく地下へと帰って行く。
どうしたものか、と考えているパチュリーの頭に宙に吹き飛んだ巨大な串の破片がこつりと、ぶつかった。
あまり痛みは感じなかったが、反射的に片手を頭に当てて患部を撫でてみる。

「はぁ、どうしよ」
「片付けなら朝になったら咲夜が帰って来るから、アイツにやらせれば良いよ」
「・・・無事だったのね」
「フランが狙ったのは串だけだったからね、ただ余波で吹き飛んだだけよ。
それなら一瞬で元通りって寸法だ」

パチュリーはこの常識とは真逆に存在する友人を胡散臭そうに見つめてから、再びため息をついて頭を抱えた。
それからこの姉妹の言動に一々付き合っているのは本当に面倒くさい、今までも良く見知っていたことを再認識してしまうはめになった自分の浅はかさを嘆きながら呟いた。

「・・・ま、それが貴女たちなりのコミュニケーションの仕方なら文句を言うつもりもないけど。
ただ吸血鬼じゃないわたしの心臓には少し悪影響みたいだから、なるべくわたしのいない場所でやるようにしてほしいわね」
「親友の言葉なれば、それは善処しましょ」

レミリアは肩をすくめて、パチュリーの言葉に頷くのであった。

(了)