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東方プロジェクト SS かけっこで一等賞になると早苗さんから脱ぎたてパンツがもらえるらしい


「幻想郷で一番速い奴は誰だ!
チキチキ!
妖怪の山踏破大マラソン大会――っ!!」
「分かったから帰れ」

幻想郷の端にある、博麗神社の一角。
やる気の欠片すら感じさせない様子で境内を掃除していたこの神社の巫女、博麗霊夢の前に突然やって来た普通の魔法使いである霧雨魔理沙は高らかに宣言した。
だが、霊夢もこの闖入者の妄言には慣れたもの。
ひどく冷たい目でお帰りはあちらとばかりに魔理沙に向けて、手をしっしっと振るう。

「つれないな、霊夢。
この魔理沙さんに駆けっこで負けるのが怖いのかい?」
「・・・誰だオマエ」

無論魔理沙も霊夢のその返答は予想済みだったのか、不敵な笑みを浮かべながらも霊夢に囁いた。
そんな魔理沙にげんなりとした表情を浮かべる霊夢であったが、魔女がやってきた方向から次々と人影が降り立つのを見てさらに面倒くさそうに眼を細める。

「・・・で、わざわざ暇人どもが神社に集合したわけ?」
「ああ!
全く皆暇人だよな!」
「黙れ、暇人筆頭」

最大限の嫌味を込めて放った霊夢の口撃も魔理沙には通じない。
霊夢は諦めて、魔理沙の後ろに立つ妖怪と人間を見つめた。
・・・かなり変わったメンバーだと素直に思った。

「勝って帰らないとどんなお仕置きが待っているか・・・っ」
「二百由旬を駆ける私の前に敵はありません!」
「軍隊仕込の山岳走法を見せてあげます!」
「距離は縮めてもいいの?
え、ダメ?
うわめんどくさいなぁ」
「まぁマラソンだろうと幻想郷最速は私のものですけどね!」
「これでも近所のマラソン大会ではいつも入賞してたんですよ!」

「・・・とまぁ、噛ませ犬の皆さんもこうして張り切っているんだぜ?」
「「「「「「誰が噛ませ犬だっ!?」」」」」」


・・・というかいっぺんに話すな、やかましい。
よくもまぁ、魔理沙の与太話にこんなに集まったもんだと霊夢は一人一人を観察する。

紅美鈴・・・、きっと魔理沙を紅魔館から追い出すための生贄にされたのだろう。
魂魄妖夢・・・、みょんに張り切っている。
鈴仙・優曇華院・イナバ・・・、『慰安婦』という言葉が浮かんだが気にしてはいけない。
小野塚小町・・・、能力禁止と聞いて既にやる気を失ったようだ。
射命丸文・・・、ネタ作りのため身体を張っているのだろう。
そして東風谷早苗・・・か。

霊夢は早苗の方を向いたまま、首を傾げる。
正直早苗に魔理沙のアホ企画に付き合う理由があるとも思えないが、上手くノセられたのだろう。
霊夢がこの馬鹿ドモをどうやって追い返そうかと頭を悩ませていると、
不意に霊夢の肩に軽い重量感が生まれた。

「なになに、何の話かな〜?」
「ああ、また面倒くさいのが・・・」

あははは、と笑いながら霊夢の肩にアゴを乗せているのは鬼の伊吹萃香であった。
魔理沙から事の次第を聞くと、ヘラヘラと笑いながら指を霊夢の頭より高い位置まで持ち上げる。
どうでもいいが、重いからどいて欲しいと霊夢は考えていた。

「へぇ、マラソン大会ねぇ
だったら賞品がないと盛り上がらないよね?
それだったら協力してあげようか?」
「・・・あんたが賞品を出してくれんの?」
「ううん、出すのは参加者の人たち。
私が皆の欲しいものをそれぞれから萃めるから、それを優勝者の総取りってことでどうだろう」

霊夢は『賞品』という言葉に心惹かれつつも、冷静さを保ったまま萃香の言葉に耳を傾けた。
なるほど、確かに賭けていればやる気も違う。

「・・・それはちょっと魅力的かも」
「あはは〜、じゃあやるよ〜っ!
それ〜っ!」

萃香が霊夢からぱっと距離を取ると軽く腕を廻す。
すると、周囲に鬼気とでも呼ぶべきものが満ち始めた。
・・・周囲がざわめくのと同時に、霊夢の懐もむずむずと震えた。

「・・・あれ?私も?」

霊夢の疑問に誰かが答えるよりも早く、
霊夢が常に常備している結界用の補強道具一式が空に舞い上がり萃香の元へと萃まっていく。
それは霊夢だけではなく、周囲でも同じらしい。
急激に辺りを混乱した叫びが満たした。

「私が今日泊り込むために神社に持ち込んでいた安眠枕が飛んできたっ!?」
「ああ、私が咲夜さんから頂いたお手製お弁当がっ!?」
「みょんな風に私のとっておきの簪がっ!?」
「師匠から頂いた救急アイテムがっ!?」
「映姫様に読むように言われたテキストがー」
「天狗の秘密アイテム、天狗キノコが勝手にっ!?
「えっ?
いや、ちょ、ちょっと、待って、な、何これーーーっ!?」

・・・どうも気になる声を上げたのが一人居る。

「あ、ああっ!?
私のパ、パンツ―――――っ!?」

・・・パンツ?

「えーと、どらどら。
萃まったのは・・・霊夢の結界補強セットに、魔理沙の安眠枕、門番のメイドお手製お弁当に、冥界ヒンヤリかんざし、月の頭脳の救急医療セット、死神の有罪無罪判定集、天狗の秘蔵きのこ、・・・それからもう一人の巫女の脱ぎたてパンツ」

・・・その言葉を聞いた瞬間、場に居た全員の目が早苗に、正確には早苗のスカートへと集中した。
彼女は恥ずかしそうに内股でよたよたと萃香に近づきながら声を張り上げる。

「うわーんっ、返してくださーいっ!?」
「・・・ていうか、それ欲しがったやつ誰だぜ・・・?」
「あやっ!?
脱ぐのはまだ早いですっ!
あくまでも脱ぎたてを貰わなければっ!」
「・・・犯人が自首してきたぜ」
「射命丸自重」

取りあえず天狗は変態らしい。
霊夢はそう結論づけると気を取り直してもう一度周囲を見渡した。
・・・幻想郷では色々と切り替えが重要なのである。

「まぁいいや。
さ、商品もそろったことだし、早苗がパンツを穿きなおしたらスタートよ」
「おや、やる気なかったんじゃないのか?」
「んー、メイド弁当美味しいしねぇ」
「わ、渡しませんよぅ!」

美鈴提供のお弁当を猛禽の瞳でぎらぎらと見つめつつ、霊夢はあくまでもやる気はなさそうに魔理沙の問いかけに対して呟く。
だが、弁当を狙われた美鈴以下、皆が理解していた。
・・・霊夢は本気で弁当を狙っているということを。





「おんっ!
ゆあっ!
まーくっ!」

萃香の合図で一列に並んだ少女たちが一斉に構えを取る。
鬼は垂直に持ち上げた自分の両手を続く声と同時に振り下ろす!

「れでい、ごーっ!!!」

その言葉に従い、普段は空を翔る少女たちが己の2本の足で大地を蹴る。
萃香はその光景を見てどこか嬉しそうにうんうん、と頷きを返す。
鬼は何でかは自分たちですら忘れてしまったが、人の成長が嬉しくなる生き物なのである。


「一斉にスタート・・・していないっ!
幻想郷一のサボさんの名を欲しいままにする小野塚選手!
なんと、なんとっスタート位置についてからスタートの合図が出るまでの短い時間でなんと寝ております!
何という怠け者っ!
何という怠惰っ!!
早くもこれはリタイヤ濃厚ですっ!!
・・・とは言えこれは予想通りの結末!
倍率も×1100とダントツでしたので、誰もが納得のスタートと言えるでしょう!!」

神社の境内の脇に、いつの間にか白いテントが張られていた。
そこでは『アナウンサー』という腕章をつけた稗田阿求が机に備え付けられたマイクに向けて声を張り上げている。
後ろには観客席という枠が取られ、そこに座る皆が幻想郷の暮らしをサポートする隙間ビジョン(地デジ完全対応)により鮮明に映し出されたレースの様子を眺めている。
早速のリタイヤ者に、応援席では小さなざわめきが起こっていた。
とは言え、超大穴を狙っていた虹川三姉妹の三女や、めきりっ!と木の棒らしきものを握りつぶした背の低い少女の周辺が騒がしいぐらいである。
ほとんどの場所では出張屋台を出展しているミスティアの

「生ビールに、ヤツメ〜♪
ヤツメ鰻はいかが〜♪」

という歌声が響くばかりであった。

ともあれ、そんな観客席の様子を尻目に阿求はなおも声を張り上げて実況を続ける。

「辻斬り庭師が本領発揮!
魂魄選手トップ独走!
倍率は一番人気、×1.5ですっ!
2番手は紅魔館が誇る肉体派小娘っ!
紅選手です!
倍率は×4.0!!
天狗と言えど空でなければ実力は発揮できないのかっ!
射命丸選手は現在第3位です!
こちらの倍率は二番人気の×1.8!!
4位以下は大きく離されて団子状態!
鈴仙選手、博麗選手、霧雨選手、東風谷選手、いずれも様子見といったところでしょうか!
それにしても人間勢は陸を走っても信じられないほど速い!
本当に人間かぁーーーっ!?」

そこまでをワンブレスで言い切った阿求の耳に、

「え?えいきさま?
・・きゃんっ!!!」

という声がかすかに届く。

「おおっと!
ここで小野塚選手、正式にリタイヤ!
リタイヤですっ!!
上司に連れられ現場を後にしていきます!!」

さて、このテントと応援席そして集った人妖は、レースが始まり役目を終えた今ミスティアからダース単位でビールを注文している萃香が呼び寄せ、それを面白がった八雲紫によりお膳立てされたものである。
観客席では、既に宴会騒ぎがそこかしこで起こり、永遠亭の詐欺兎の手によりレース予想の賭けにまで発展していた。
それどころか、レースをさらに面白くしようと、道中に罠まで仕掛けられてさえいた。
げに恐ろしきは、悪ノリである。




「さぁさぁ豊穣神に厄神と言った八百万の神々が住まう、山のふもとの森に早くもトップグループが突入いたしました!
言い忘れておりましたが、ここにはトラップが・・・っ!
おお―――っと!!
早くも、早くも盛大にトラップに引っかかったのは・・・こ、これはっ!」

どっかーんっ!!
とドデカイ音と砂埃を撒き散らしながらボテッ!と地面に人影が二つ落下した。

「みょ――――んっ!?」
「すいませ――――んっ!?」

「魂魄選手と紅選手の両選手です!
どちらが先に引っかかったのかは定かではありません、ありませんがっ、厄神特性『厄地雷』にぶちあたった―――っ!!
なんとこの爆弾っ!
当たるとエンガチョな匂いを巻き散らかすというおぞましさっ!
焼き芋の匂いがすると好評の神の性質をパクった厄神が試みた試作品でしたが・・・どうやら呪いのたぐいのようですねっ!
特別ゲストの永琳先生に解説していただきましょう!」
「どうやら麻雀で役満を出さないと呪いが解けないらしいですね、恐ろしい」
「・・・とのことですので、こちらのステージには麻雀卓が置かれております。
呪いにお悩みの方はそちらで呪いを解いてから先にお進み下さい!
ちなみにレートは点50です!
既に暇をもてあました厄神さまと紅葉神さまが待機しておりますので!
永琳先生、ありがとうございました!!」
「はいはい、二人とも麻雀頑張ってね?」

解説を終えた永琳が観客席に戻ってみると、ご近所のグループにいたメイドと冥界の姫が互いにため息をついていた。

「あら?
お二人とも外れちゃった?」
「ええ、残念ね」
「全く、妖夢ったらだらしないわねぇ」

二人とも苦笑を浮かべながら答えたが、その腹の中までは分からない。
とは言え気にしてもしょうがないと、永琳は己の賭け券をもう一度眺めて再びレースを見つめることにした。




「さぁさぁ、大きく遅れをとった二人に代わりトップに立ったのはホームグラウンドの射命丸選手です!
それにしても速い!
速い!!
速い!!!
ああっと、しかもこちらのカメラに向けて手を振る余裕をみせる始末です!!
まるで100mを疾走するボ○トのような速さと、そして余裕を見せ付けているっ!!!
そして、そのまま地雷地帯を抜けた射命丸選手!
次のステージは・・・っ
川辺の疾走、そして最後に待ち受けるのは大瀑布コースっ!!
心臓破りの急勾配が待ち構えているっ!!」

「さぁこのポイントではいくつもの盗撮ポイントが待ち構えております!
河からは河童!
空からは鴉天狗!
そして地中にも哨戒天狗が潜んでおります!!
ああっ!しかしっ!射命丸選手、さすがホームグラウンド!!
まるでポイント位置を把握しているかのように巧妙なコース取りだ―――っ!!
・・・あ、只今トラップ位置に居る天狗からのコメントが届きました。」

『射命丸のパンチラ(゚听)イラネ』

「おおっっと!
人里では人気の高い射命丸選手ですが、前評判どおり天狗仲間からはすこぶる評判がわるい―――っ!!」

「ほおっておいてくださいっ!!」

「どうやら射命丸選手が巧みに避けているというより、撮る側にやる気がないのが真相のようです!
さぁ、そんなことは何処吹く風!
射命丸選手は何の障害も受けずにあっさり滝のぼりステージに入ります!
さすがにスピードが落ち・・・おおおっ!!
ここで人間組+イナバ選手がやってきましたっ!
そして・・・・天狗による激写だ――――っ!!!
狙われたのは・・・イナバ選手っ!!!!」

「いやぁあ―――――っ!?
と、撮らないで―――――っ!!?」

「お前らどんだけウサ耳好きなんだよっ!?
との私の叫びを残しつつ、フラッシュが絶えることのないイナバ選手が遂に耐え切れなくなりましたっ!
スカートを抑えて逃げ出しますっ!!
その隙に人間勢が微妙に複雑な顔をしながら川原を走りぬけていきますっ!
解説の森近さん、この結果をどう見られますかっ!!」
「おそらく、霊夢に魔理沙、東風谷さんも山に立ち入ったことがあるため、もう写真を撮られているんでしょう。
そのため、初めて訪れた鈴仙選手がより狙われやすくなったのではないかと」
「なるほどっ!
別に少女としての魅力に博麗選手たちが劣っているというわけではないのですねっ!」
「・・・そういうことにしておいて下さい」
「森近さん、ありがとうございましたっ!」

解説を終えた香霖が観客席に戻ってくると、遠くの方から

「イ、イナバ――――っ!?
後で、お仕置きよ――――っ!!」

という叫びが聞こえた。
きっとイナバ選手に賭けていた誰かの叫びだろう、そう思って軽く首を振った香霖へと一人の人懐こい妖怪が声を掛ける。

「香霖さんが賭けた人は生き残っている?」
「・・・そうだね、まだ頑張っているようだ」
「ふーん、私の幸運は半妖に効くと思う?」
「さぁ、どうかな?」
「それじゃあ、お賽銭を入れたらさらに効果があるかもしれないよ?」
「・・・ぷっ。
全く、敵わないな」

香霖は苦笑を浮かべながら目の前の妖怪が手に持つ賽銭箱へと小銭を投げ入れる。

「まいどー♪」
「・・・そういえば、キミはイナバ選手に賭けていたのかい?」
「まっさかぁ!」

・・・どうやらイナバ選手が部下に恵まれていないという話は本当のようだ。
香霖はそう判断すると、座り込んで手に持っていたお猪口の酒を喉に流し込み、再びレースの観戦へと戻っていった。




「さぁ心臓破りの最難所、今までの走りっぷりが嘘のようにみるみるスピードを落としてきた射命丸選手ですが、それでももう半分を超えています。
どうやら前半飛ばしすぎたことと、カメラを意識してパフォーマンスに興じていたことが原因のようですね!
そもそも鴉天狗は走るのにはそこまで向いていない種族だと稗田1000年の歴史が囁いておりますっ!!
とは言え、人間チームとの距離差はまだまだ大きく約500メートル!
坂を上り終えた後はゴール前のストレートを残すだけとなった状況では、人間勢による逆転は難しいかっ!
ああっ、人間チームの唯一の巫女以外っ!
霧雨選手の足がもつれたっ!!」

「く、くそっ!
お前らとわたしで何が違うって・・・あ・・・!!」

「おおっと、ついに倒れこんだ霧雨選手!
このままリタイヤとなりますが、何かに気付いたようだっ!
ええっと、霧雨選手と博麗選手、東風谷選手との差は一体何が原因だったのでしょうか?
解説の八雲紫さんっ?」
「ダウンフォースね。
博麗選手と東風谷選手はあの独特の巫女服で風を腋から取り込み、上から下へと押し付けるダウンフォースを発生させてしっかりと地面をグリップさせている。
対して、霧雨選手のあの格好では空力を味方につけることは出来ない」
「さぁミニ四駆のようなこじつけ話で、体力切れの霧雨選手はリタイヤ!
残す選手はあと三人!!」
「風を味方につけたものが勝つのよ・・・」
「八雲さんっ、ありがとうございましたっ!」

解説を終えた紫が観客席に戻ってくると、

「むきゅうううううううっ!!」
「魔、魔理沙―――――っ!!」
「あっちゃああっ!?」

かなり大きなざわめきが待っていた。
紫はくすり、と笑みを零す。
このざわめきの大きさが魔理沙という人間の魅力を現しているんでしょうね、と心の中で呟くと自分の帰りを待つ式たちの下へと戻っていく。
その途中で肩を落とした魔女のパチュリーと吸血鬼のフランドール、そしてしばらく歩いてから賭け券を破る河童のにとりを見かけた。

「・・・?」

そしてようやく込み合った場所を抜け、自分の式の待つ場所まで辿り着くが何か違和感があった。

「藍、私何か忘れていないかしら?」
「は?
・・・いえ、特には思いつきませんが」
「紫さまっ!
紫さまの大好物のおつまみならわたしがきちんと持ってきましたよっ!」
「あら、ありがと橙」

式の式の柔らかな髪を撫でながら、紫はまぁ勘違いだろうと思うことにした。
鬼の力が届かない結界が張られた魔女の森の一軒家で今も黙々と人形を作っているだろう魔法使いのことなど、紫はすっかり忘れて最後の一瞬は逃すまいと隙間ビジョンへと視線を向けた。




「さぁ射命丸選手がようやくヒルクライムを踏破!
残すはストレート一直線!
約1km先にある守矢神社の鳥居がゴールですっ!
やはり最初にとばしすぎたのでしょう、苦しそうな表情の射命丸選手!」

熱狂したアナウンスを続ける阿求であったが、どうにも時折ヴィジョンに映る影が気になってしょうがない。
時たまピカッ!と輝くのは・・・もしかして・・・?
そこまで思いついた阿求は、少しカメラをズームアウトさせる。
・・・その途端、射命丸の横を併走する天狗たちの姿が鮮明に映りこんだ。

「ああっ!
第二ステージの天狗の皆さんっ!
もう貴方たちのステージは終わってますよっ!
写真を、写真を撮らないで下さいっ!
・・・あ、電信きてますね?」

『汗だくあやちゃん、疲れ切った表情(;´Д`)ハァハァ』

「・・・。
さぁ、幻想郷の天狗どもがろくでなしばかりだと理解したところで、最後の直線です!
いつの間にかすぐ後ろまで迫った博麗選手と東風谷選手は差すことが出来るのか!
逃げきれるか、射命丸選手!
残り、500メートル!
ああっ、博麗選手、ダッシュ!!
残り、400メートル!
東風谷選手も必死な表情でラストスパートだっ!!
残り、300メートル!
天狗どもっ!シャッターきるな!!
残り、200メートル!
おおっと追いついた!追いつきました!!
残り、100メートル!
射命丸選手、な、なんとここでスピードアップ!!!
これが、これが最速を頂く鴉天狗の誇りなのか―――っ!!!
残り、50メートル!
もはや、乱戦!!
これは写真判定に持ち込まれるのかっ!!」


・・
・・・

「ゴールっ!
ゴールっ!!
これは微妙!
こちらからでは同着にしか見えませんでしたっ!!
お手持ちの賭け札はまだお捨てにならないよう、お願いいたしますっ!」

阿求の叫びが観客席に響き渡る。
観客席のざわめきが大きくなっていく。
そこかしこで、

「霊夢だっ!」
「射命丸だっ!」
「早苗だっ!」
「腋巫女っ!」
「あやちゃーんっ!」
「女子高生っ!」

と言った叫びが生まれる。
元々血の気の多い連中が多い妖怪たちが爆発する寸前・・・

「・・・でましたっ!
トップは・・・博麗選手――――っ!!!
何ということだっ!!
やはり博麗っ!!
幻想郷の守護者は伊達じゃ・・・おや、なんでしょう?
審判員から意義申し立てが・・・あ―――――っ!
空ですっ!
博麗選手、空を飛んでいますっ!!
卑怯!
何たる卑怯!!!」

録画再生されたビジョンには確かに、『10センチほど浮いている』霊夢が映っていた。
あまりの結末に興奮した観客が次々と手元の道具をそこら中に投げ込んでくる。
人の頭を軽く粉砕してしまいそうなモノまで飛んでくる事態に、阿求が必死に声を張り上げる。

「物をっ、
物を投げないで下さいっ!
ああっ!
博麗選手、凄まじいブーイングの嵐をめんどくさそうな顔で一瞥しただけで何も言わずに逃げていきます!
何という、何というあつかましさっ!
これが博麗と呼ばれる所以なのでしょうか!」

背中で、
『文句のある奴ぁ、かかってきな?』
と語る霊夢に挑戦できる無謀者などいるわけもなく、彼女はそのまま退場していった。
霊夢が居なくなった途端、少し冷めていた妖怪たちのざわめきが再びピークを迎える。


「み、皆さん、落ち着いてくださいっ!
本当の勝者を発表しますっ!!
勝者は・・・っ」


その日、大歓声を一身に受けながら、早苗は泣いた。
神奈子も、諏訪子もその日のことはノーコメントを貫いた。

ただ、翌朝の文々。新聞は過去最高の売り上げを記録したことだけが幻想郷縁起には記されている。







おまけSS

「マラソン大会に参加しなかったある少女の一日」

ジリリリリリ・・・
ジリリリリリ・・・

「・・・なんだっけこのベルは?
ああ、そういえばそんな仕掛けを作ったっけ・・・」

作業台の上に向かっていた少女が気付いたときには、彼女の家中がやかましいベルの音で満たされていた。
彼女は作業の手を一度止め少しの間考え込んでいたようだったが、この事態の原因に思いあたったのだろう。

ぱちんっ!

鳴り響いていた耳障りな音が、少女の指先から放たれた小さな音でピタリと止んだ。
それを確認してから、彼女は両手を天井へ向けて、ぐっ、と長時間の作業で固まった身体の筋を伸ばす。

「鬼が人を萃めているみたいねぇ。
宴会のお誘いかしら?
・・・でもまぁ、こっちが先約だし」

鬼の能力に一度踊らされてから、必死に解析を続けて萃と疎を操るなどと言うふざけた力を防ぐ結界を用立てた。
ただ、鬼に無意識を操られて連れて行かれるのはシャクであったが、だからと言って面倒くさがりの霊夢が呼び出しに鬼を活用しないとも限らない。
鬼の力を防いで一人だけ宴会に気付かずにいるのも気にいらない。
だから、鬼の力が家の中まで干渉することを防ぐと同時にベルを鳴らして呼び出し自体には気付くような細工をわざわざ作ったのだ。
これなら『自分の意思で』呼び出しにしたがって、『行く』も『行かない』も選択できる。

・・・そして今日は

「納品の日だし、行かなくてもいっか」

呟いたとおりである。
声に出しながらもすいすいと針と糸を動かして、瞬く間に十以上重ねられた衣服を人形に縫い合わせていく。
もうしばらくしたら、今作っている人形たちの受け取り人が彼女の家に訪ねてくるはずだ。
・・・もしかしたら鬼の呼び出しに引きずられて依頼人も今日は来れないかもしれないが、その場合は報酬の上乗せでも要求してやろう。

「・・・よっと、完成」

針を針山に刺して両手で約15pほどの人形を支え、くるくると完成したばかりの人形を廻して出来上がりを確認する。

「うん、良い出来」

「ほーらいっ!」

「・・・ちょうど来たみたいね」

玄関に吊るされた首吊り蓬莱人形が来客が来たことを知らせてくれた。
少女は先ほどまで作業していた人形と、他の何体かの人形を作業台の上に並べていく。
そして注文書に書いてあった数と机の上の人形の数を確認して、間違いがないことを確かめていく。

「邪魔するぞ、魔女殿」
「いらっしゃい、慧音」

確認を終えた頃、人形に連れられ作業場に姿を見せたのは人里の守護者こと、上白沢慧音であった。

「授業の教材として頼んでいた人形セットなんだが・・・」
「ええ、そこに置いてあるわよ」

この家の主である魔女の指先に視線をやった慧音は、ほぅ、と感嘆の息を漏らす。

「相変わらず見事なものだな。
どうだ?
こんど寺子屋で家裁の授業を受け持たないか?」
「遠慮しておくわ。
・・・子供はあんまり好きじゃないのよ」
「それは慣れてないだけだ。
魔女殿も慣れてしまえば子供が可愛くなると思うが?」

魔女は肩をすくめて慧音の問いには答えなかった。
もとより慧音も答えには期待していなかったのだろう。
魔女が答えを言うのも待たずに、自分の身近にいた人形を手に取り耐久性を確認していた。

「うん、子供が遊んでも大丈夫そうだな。
皆乱暴に扱うくせに壊れたら泣き出してしまうからなぁ」

苦笑を浮かべる慧音に、魔女は注文を受けたときから気になっていた疑問を口にした。

「・・・ねぇ、何で一体だけごてごてしい衣装を着ているの?」

魔女の疑問は最もであろう。
烏帽子、と呼ばれる特徴的な帽子を被った男性の人形や、おじいさんおばあさん、子供たち、と言った人形に混じって一体だけ十二単を着ているのだ。
気にならない、と言ったら嘘になるだろう。

「ああ、これは歴史の教材に使わせてもらおうと思っているんだが、題材は『かぐや姫』にしようと思っていてな」
「へぇー、って『かぐや姫』・・・?」

魔女の頭に浮かんだ顔は永夜事件の際に出会った人物であった。
艶やかな黒髪と、ぱっちりとした瞳が印象的だった輝夜、と言う名の少女。

「ああ、今魔女殿が思いついたソイツの話だ。
史実では無く物語なんだが、子供たちに演じてもらおうと思っていてね」
「・・・それも教育なの?」
「ああ、・・・とは言っても阿求殿の発案なんだよ。
私としても面白い取り組みだと思ってはいるが」

そう言いながら慧音はモンペを穿いた黒髪の少女人形の髪を撫で付ける。
どこか優しげな表情を彼女が浮かべているのを魔女はぼんやりと見つめていた。

「おおっと、そうだ!
魔女殿、これが報酬だ。
これを持って店先まで行けば小麦の粉と変えてくれるはずだ。
・・・それとも私が取替えてこの家まで運んで来ようか?」
「いいわよ、人形がいるから荷物運びはそう苦にはならないしね」

そうか、と答えた慧音はぽんと手を叩き、懐から四角い小さな箱を取り出した。

「それからこれは私からおすそ分けだ。
新しく小屋に来た子が酪農家の子供なんだよ。
其の子の親御さんからバターを頂いたんだが、和食しか作らない私では余り使い勝手がない。
小麦粉を使うってことは魔女殿はバターも使うんじゃないか?」
「ええ、あんまり手に入らないから魔法で作った代替物ばかりなんだけど、本物の方がずっと美味しいのよ。
ありがたく頂いておくわ」

魔女は思いも寄らぬ報酬に珍しくも、にっこりと笑顔を浮かべた。
必要がないと言っても普段から食事はしっかりと取っているとの話を慧音は人づてに聞いていた。
どうやら、この喜びようを見る限り、この魔女にとって食事は楽しみなのだろう。
持ってきて正解だったようだ、と慧音は納得すると人形を持ってきた袋に詰めこみ始めた。

「・・・さて、済まないがこれでお暇させてもらおうか。
今日は神社で宴会があるようなのでな。
そう言えば、魔女殿は行かないのか?
行くのならご一緒させてもらおうと思うが」
「そうね、用は済んだのだし、行っても良いのだけれど・・・。」

それも面白そうだと思う反面、今日は研究に没頭していたい気分でもあった。

「やっぱり止めておくわ。
ちょっと今日は研究が進んでくれそうなのよ」

魔女がそう答えると、慧音はその答えもやはり予想済みだったのだろう。

「そうか、それは残念だ。
何、気が向いたら後からでも参加すると良い」



慧音が魔女の家を後にしてから、一時間も経った頃だろうか。
魔女は手に持っていたペンのインクをふき取り、ぐっ、と大きく伸びをした。
彼女の疲れに反応したのか、

「しゃんはーいっ」

予め給仕の役割を与えられた人形がたっぷりとミルクの入った紅茶を運んできた。
魔女は紅茶のカップを手で抱え込みながら、ゆっくりと飲みこんでいく。

「あー、おいしぃ・・・」

さて、今日の研究はどこまで進むだろうか、頭の中で作業を練り直しながら、魔女の夜は更けていった。

(了)