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東方プロジェクト SS
ズボン


幻想郷の奥の奥、人妖問わず立ち寄るモノすら滅多にいない木に囲まれた小さな空間に一人の青年の姿があった。
自分勝手な上怖いもの知らずが多い幻想郷の住人でさえ、誰もが躊躇する場所である無縁塚を我が物顔で歩きながら、彼はゆっくりと周囲を見渡す。
彼が前回ここを訪れてから一月余り経っていた。
また新しい掘り出し物があるのではないか、と青年は期待を抱かずにはいられない。
そして、普段は物欲の乏しい彼がそんな期待を抱くときは大抵実際に面白いものが見つかったのだから、なおさら青年は自分のカンを信頼していた。


「・・・さて、それでも大きなものは見当たらないようだ。
持ち帰るのが面倒だからそのほうが良いと言えば良いんだが・・・」


それでも大きいものの方が面白いと思ってしまうんだよな、という言葉を自分の胸の奥にしまいこみながら彼は目を輝かす。
何故ならば、目線の先には大きめの布で出来たバッグがあったからだ。
幻想郷では滅多にお目にかかれないものの、彼は何度もこの場所でその道具を拾ったことがあった。
だからこそ、その道具が、『中に別の道具を入れるもの』だと言う認識がある。
きっと今日のお宝はこの中身なのだろうと、彼は半ば確信を抱きながら無造作にバッグのある場所まで近寄り、ファスナーを摘まんで引き下ろすことにした。


「・・・おや?」


思わず首をひねる。
彼の予想通りバッグの中にはいくつか別のものが詰まっていたが、それは到底面白いものには見えなかった。
いや、ある意味面白いかもしれないが、彼の想像にあった面白さとソレは一線を画していた。


「・・・ふむ、僕のカンも鈍ったかな」


思わず呟きがもれるが、それでも少しは自分の直感に対するプライドがあった。
もしかしたら彼が思い描いているものと、目の前にあるソレは全く違うもので、目新しく、珍しいものなのかもしれない。
そう考えた彼はとりあえず自分の能力を使ってみることにした。

『道具の名前と用途が判る程度の能力』

それが彼、森近霖之助の能力である。



「・・・ズボン・・・?
これがズボンなのか・・・?」


案の定、外の世界の道具は霖之助の想像の斜め上をいっていた。
霖之助がソレをバッグから取り出してしげしげと眺めてみても、それはとてもズボンには見えはしなかった。
が、彼自身が名前を知っていたことで、用途が判れば大体使い道もわかるだろう。
霖之助は動じることもなく、その道具の用途を確認することにした。


「では、用途は・・・ふむ?
・・・なるほどなるほど」


だが、用途を知るや否や彼は納得の表情を浮かべる。
そして、再びファスナーを上げ今日の獲物が詰め込まれたバッグを肩に担ぐと、魔法の森の入り口にある我が家に帰ろうとゆっくりと歩き出した。




翌日。
霖之助は自身の店のカウンターに座り込みながら、いつものように誰も来やしない店を半ばほったらかして読書に勤しんでいた。
夏も終わりに近づいてきたがまだまだ残暑が頑張っている。
今日も茹だるような暑さが午前中からこの店を襲っていた。
だが、店主たる霖之助は気にした様子もみせず、ゆっくりと己の読む本のページをめくる。


「おはよう、こーりんっ!!
邪魔するぜっ!!」


静寂なひと時は真っ黒の三角帽子に黒白のエプロンドレスという、夏場には見たくも無い服装をした少女の騒がしい挨拶で打ち消された。
霖之助が嫌味の一つでも言ってやろうと顔を上げると、その少女はパタパタと自分の長いスカートを仰いで風を起こしていた。


「それにしてもあっついな、この店は。
モノが多すぎて風通しが悪すぎだぜ」

「君はもう少し慎ましさを覚えた方が良いね。
それは乙女のする行動ではないよ」


霖之助の指摘に少女はニヤリとした笑みを浮かべると、摘まんでいたスカートの裾を下ろして言った。


「役得だろ?」

「10年後にでもまたお願いするよ」

「イヤだね」


少女の冗談をサラリと流す霖之助と、指で×の字を作ってそれをあっさりと否定する少女。
二人のやり取りは堂にいったもので、恐らくこんな会話は何百回と繰り返されてきたのだろう。
少女はケラケラと一通り笑うと、改めて彼に向き直った。


「それにしても香霖は涼しそうな面してるな?
何か外の道具でも使っているのか?」

「・・・それは魔理沙、キミの格好が暑苦しいだけだと思うけどな」

「まぁ、それは否定しないぜ」


魔理沙、と呼ばれた少女がかぶっていた真っ黒な三角帽子を脱ぐと、汗が彼女のひたいに滲んでいた。
確かに今日はひどく暑い。
この炎天下の中、遮るものの無い空中を黒ずくめな格好で翔け抜けてきたのでは、彼女の負担も相当なものなのだろう。


「ほら、魔理沙」

「ああ、サンキュ!
香霖!!」


魔理沙に目の前においてあった水差しからコップに水を汲んで手渡すと、彼女はさも上手そうにそれを飲み干した。
そのままガラス製のコップをぺたっ、と自分の頬に中てて最後の涼を得ようと頑張っている。
・・・そんな彼女がひどく愛らしく見えてしまったせいだからだろうか。


「・・・でも外の道具も使っているのも本当なんだ」

「なにっ!?」


霖之助はガラにもなく、非売品にしようと昨日決めたズボンのことを告白していた。
他の誰かであれば他人のものを無理やり奪ったりなどしないから、むしろ霖之助は積極的に話してしまっていただろうが、彼女だけは別だった。
最近もっぱら職業盗賊、と噂高い魔理沙のことだから気に入ってしまったら即強奪されてしまうだろう。
だからこそ、今も穿いているズボンをなんとなく隠そうとしていたのだが・・・。


「実はね、外の世界のズボンを拾ったんだ。
これがなかなか優れものでね。
身体にピッタリフィットするし、そのくせ軽くしめつけてくるもんだからズボンの『余り』を気にすることがない。
僕も始めは見た目で抵抗感があったんだけどさ、喰わず嫌いはいけないな、やっぱり」

「なぁ、香霖!
もったいぶらずに教えてくれよ?」


霖之助の言葉に魔理沙はじれったそうに声を張り上げた。
魔女の格好はポリシーだが、それでも夏服があってもいい。
名より実をとるのもある意味魔女っぽいのではないか、とさえ魔理沙は考えていた。


「そうだね、見せてあげるよ」


霖之助はそう言いながら、ごそごそとカウンターの上に無造作に置いてあったバッグから昨日見つけたズボンを取り出した。
そしてそれを両手で掲げ持ち、魔理沙に見せ付けるように広げてみせた。


「ほら、これだよ」

「・・・」


霖之助は、魔理沙が自分のことを冬場のチルノを見るような目つきで見ていると感じた。
簡単に言えば、害虫を見るような目で見られた。


「香霖?
それはつまり、宣戦布告ととっていいんだな?」


笑顔で魔理沙が尋ねてきた。
だが目が笑っていない、それどころか既にミニ八卦路を構えている。
誰が何処から見ても、彼女はヤル気に満ちていた。


「ま、待ってくれ、魔理沙っ!」


魔理沙の本気を感じ取った霖之助が慌てたように叫ぶ。
どうやら彼女はこのズボンを他のモノと勘違いしてしまったようだ。
確かに霖之助も当初はそう思った。
でも事実はそうではないのだから、きちんと真実を伝えないといけない。

だが、霖之助は一つだけ間違いを犯した。
魔理沙の殺気に焦ったあまり、立ち上がってしまったのだ。
その途端、魔理沙の視線からは隠れていた霖之助の下半身が視界に入ってきた。


「・・・よーく判ったぜ」


この瞬間、彼は死を覚悟した。


「死ねっ、この変態っ!!
マスタ――――スパ――――クっ!!!」



後書き(クーリエ投稿時)

道具の名称:ズボン
道具の用途:パンツじゃないから恥ずかしくないもん!

ついカッとなってパロディをした。
今は反省している。


それでもきっと霖之助を吹き飛ばした後、魔理沙は穿いてくれるに違いない。

(了)