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東方プロジェクト SS 『東方エロゲ夜抄』


「えーりん、えーりん、助けてえーりんっ!!」

永遠亭の素敵な天才薬師である私、八意永琳が何時ものように研究室で実験をしていた時である、
私の主人である蓬莱山輝夜の叫び声が耳に届いてきた。

「輝夜?
・・・どうしたのかしら」

私は右手に手にしていたピペットマンからチップを外しゴミ箱に投げ捨て、
エレクトロポレーション用に用意していた電極付きのセルを直ぐそばの冷却用の氷箱に突っ込んだ。
顔を上げると、永遠亭の各所に設置されたナースコールの中でも
輝夜の自室にのみ搭載された『助けてえーりんコール』が勢いよく点灯しているのが見える。

「さて、今日は何をお望みなのかしらね?」

私は未だに『えーりん、えーりん』と鳴り響くサイレンを止め、輝夜の部屋へと走り出した。
ぱたぱたという私の駆け足の音だけが皆が寝静まった真っ暗な廊下に響く。
どうせ何時ものようにくだらない事だろうと高をくくっていた私は、
あまり輝夜のコールに緊急性を感じてはいなかった。

昨日は、
『夜食食べたーいっ!』
だった。
・・・一昨日は、
『一句出来たから聞いてっ!』
だった。
・・・・・・一昨昨日はと言うと、もう思い出すのも馬鹿らしい。
私はため息を吐くと同時に無意識に足の回転を緩めてしまう。

「・・・感染しちゃった――――っ!?
助けてえーりーんっっ、死んじゃう――――っ!!」

そんな萎えかけた耳に聞こえた叫び声に、私はぎょっとして顔を持ち上げる。

「かぐやっ!!」

彼女の切羽詰った声を聞いた瞬間、私の頭が真っ白になる。
ただ、足だけは何百万回と通った道筋を辿って全力で回転を始めた。

「インフルエンザか、コレラか、結核か、エボラか、SARSかっ!
どれもこれも私の輝夜に感染するとは何と命知らずなっ!!!」

永遠亭全体に響き渡らんという勝ち鬨らしきものを上げつつもあっと言う間に廊下を駆け抜けた私は、
襖を開け放つと同時に私の到着を待ちわびていた主人へと視線を向ける。
そこには・・・

「えーりんー、コンピューターウィルスに感染したー」

ぐずり声を上げながら、目の前にあるパソコンを指差す輝夜の姿があった。

「・・・は?」

そんな愛しの主人に私が出来ることなど・・・、
訝しげな視線で、疑問を投げかけることしかなかった。



東方プロジェクトSS 東方エロゲ夜抄



「・・・で、どうしたの輝夜?」

私は輝夜の目線の先にあるパソコンに同じように視線を向けると、
内心で頭を抱えながらも、見た目だけは冷静に疑問を投げかけた。

「うん、あのね、WI○NYでポエム交換してたのよ。
そしたら、何だかコンピューターウィルスに感染しちゃったみたいで」

聞く人が聞けば、何処がとは決して言ってはいけないが、
あからさまに嘘だと分かる輝夜の言葉である。
そんな戯言を聞き流しながらも、私は冷汗をじっとりと背中にかきつつ精一杯頭を回転させていた。
・・・そもそも、輝夜のパソコンは山の上の神様たちが永遠亭に挨拶に来た際に
何故か一緒について来ていた河童のにとりが置いていったものである。
外の世界の技術を流用した・・・どころか、
NECとロゴが入った機体は明らかに外のものだろうと私は考えている。
ちなみに、NECとはNITORI ELECTRIC COMPANYの略らしいが絶対嘘だ。
説明は出来ないが、何故か確信できる。
・・・話が逸れてしまったが、私が何を言いたいのかと言うと、

「まいったわね、技術体系も全く知らないものを直せって言われても・・・」

輝夜には聞こえないようにボソリと呟いた通りなのだが、正直私にはお手上げである。
こんなことなら河童から貰った当初にメンテナンスと称して中身をチェックしておけばよかった、
今さらながら思うがそんなものは後の祭りだ。

「えーりん、ねぇ、どうしたの?」

輝夜のきょとんとした、信用しきった瞳が私に突き刺さる。
この信頼を裏切りたくはない、どうにかこの場を乗り切らないと・・・。

「えっ、えっとね。
輝夜?
そのね?」

「なぁに?」

うううっ、輝夜の鈴のような軽やかな声が今は痛いっ!

「1日、・・・ううん、12時間頂戴っ!」

「・・・ち、こいつ、つかえねぇなぁ」

永琳は9999のダメージを受けた!
パーティは全滅した!!
私が真っ白な塊と化し、サラサラと崩れ落ちる傍らで輝夜の声がかすかに聞こえる。

「もしもし?
あ、にとりサポートセンター?
ちょっとパソコンがウィルスに感染しちゃってさ、来てもらえない?
え、今すぐに行くから30分もあれば直る?
わぁ、はっやいわねぇ、嬉しいわ。
やっぱりこういうのは専門家に任せるに限るわねっ♪
何処かの天才とか言われてても大事な時には役に立たない従者とはえらい違いだわっ♪」


・・・えいえんはあるよ?
白い灰になりつつある私の脳内からは、そんなフレーズが聞こえてきた。
うん、あるわね永遠、知ってる。
私はそんな言葉を返せるあたりまだ冷静なのかしらん、と考えながらもゆっくりと崩れていく。

「さって、駆除が終わったらポエム交換ばっかりも飽きたし、
貰ったポエムでもインストールしようかなぁ〜?」

そんな輝夜の声が途切れ途切れに私の耳に届いてくる。
輝夜の言うソレは絶対ポエムじゃねぇ、
と突っ込みをいれつつも私の意識はゆっくりとブラックアウトした。





永琳亡き後の永遠亭では数日が平穏に過ぎ去った。
灰になった永琳を明朝発見した鈴仙が大慌てで回収しようとしたり、
それが風で飛ばされてしまったので永遠亭全体が大騒ぎになったりもしたが、
そんなものは些細なことである。

・・・多分。

その平穏が破られたのは、案の定輝夜によってである。


「・・・お、終わったぁ〜」

マウスに置いていた右手をへろへろ〜と力無く上げて、輝夜が精一杯の伸びをする。
数日間ほとんど同じ体勢でいたからか、背中のスジがばきっと音を鳴らした。

「ああ、でも面白かったぁ!
・・・雪が見たくなっちゃったわねぇ」

輝夜は憔悴しつつも満足そうな顔で画面上を流れるエンディングロールを見つめながら、
疲れきった目をしぱしぱと瞬かせた。

「ふぁああぁ・・・、この感動をどうせなら誰かと分かち合いたいわ・・・、
そうだっ!」

輝夜は欠伸を噛み殺しながら少し悩んだ顔をしてみせたと思うと、すぐにぱちんっ、と指を鳴らした。
絵画作成用に常備されている緑色の食紅を取り出して、
むふっ、と隈の浮かんだ顔でなお輝くような美貌をいたずらっ娘な笑みで歪ませてみせた。


「イナバ―――――っ!
イナバ―――――――っ!!」

「あぁ、なんですか姫様、師匠が大変なんですからあんまり無茶は言わないで下さいよ?」

「あら、イナバ、早いわね、感心感心っ♪」

迷惑そうな顔を隠しもせずに部屋に入ってきた鈴仙を、輝夜がにこにことした笑顔で出迎える。

「・・・はぁ、あの、ちょっと急ぎの用件がありますので、
ここはてゐに任せても良いですか?」

その『にこにこ』を己の危機と読み換えた鈴仙が咄嗟にてゐを生贄にその場を離れようとする。
さすがに玩具にされるのに慣れていると言うべきか、堂に入った危機認識能力である。
・・・だが、

「あら、ダメよ。
それに直ぐ済むから安心していいわ」

「そ、そうですか・・・?」

直ぐ済むと危険はないがイコールで繋がらないという事に気付かないあたり、
鈴仙はまだまだと言えよう。
その勘違いに鈴仙が気付くよりも早く、
輝夜の陶磁器のような腕が鈴仙の二の腕をがっしりと捕まえていた。

「・・・え?」

「まずは緑色に染めてあげるわね♪」

「・・・あれ?」

びしゃっ、と言う音とともに鈴仙に向けて緑色の液体が頭からぶっかれられた。

「ひぃいいんっ!」

よもぎの草いきれとどろどろとした液体の冷たさに悲しげな悲鳴をあげた鈴仙に、
輝夜が手をわきわきとさせながら緑色のまだら模様で彩られたブレザーに手をかけてくる。

「さぁって、服を剥いで皮も剥いで大きな鍋で煮込んでやろうかしらぁ〜♪」

「ぴ、ぴえええええええっ!!?」

鈴仙の悲鳴が永遠亭に響き渡った。
その声を別室で聞いたてゐは輝夜の私室のほうへ向けて手と手をあわせた。
とは言え決して助けに行くことはしない。
ただ、ビデオを廻すように部下の兎に指示することだけは忘れなかった。

その日鈴仙がびしょ濡れの下着姿で輝夜の部屋から泣きながら逃亡していくのを捉えた映像には、
鈴仙のこんな叫びが記録されている。

「すぴ――――――っ!?
だから、私は掛け軸なんかには戻れないですってば――――っ!!!」




「イナバ――――っ!
イナバ――――――っ!!」

てゐ命名、ぶっかけうどんげ事件より数日後のことである、
再び輝夜の声が永遠亭に響き渡った。

「・・・何で皆して私に押し付けるのよ、はいはい、何ですか姫様?」

おっかなびっくりと言った風に襖を開けた鈴仙が目にした光景は、

「うっうっ・・・ひっくっ、ティッシュもってきて」

目からボロボロと涙を流して、しゃくり上げる輝夜の姿であった。
驚きの光景ではあるものの、気にしてはいけないと鈴仙は己の好奇心を戒める。
君子危うきに近寄らずだ。
鈴仙は驚きの声を上げるのを何とか堪えることが出来たことに胸をなで下ろすと、
それから何気なく輝夜の視線の先にあるディスプレイを見つめた。
画面にはさくら色の着物に身を包んだ女の子が二人で立っていた。

・・・今度は私がひどい目に合いそうなこともないのだろうか。

そんな画面上の事とはいえ、幸せそうに見える少女たちの姿が鈴仙の怯えを取り去ってくれた。
言いつけに従って真っ直ぐ倉庫まで辿り着いた鈴仙は、
ティッシュを一箱取り出すとUターンして輝夜の部屋へと戻ってくる。
部屋では輝夜がいまだに泣きはらした表情で鈴仙の到着を待っていたようだが、
プレイしていたゲーム自体の方は終了したらしい。

涙を拭う主君の姿など見ない方が良いだろう。

ティッシュを渡し、輝夜から視線を外した鈴仙は画面上を流れるEDロールをぼんやりと眺めていた。
もう下がってもいいのだろうか、と鈴仙が思い始めた頃、

「じゃあイナバ、今からちょっと外に出るからついてきなさい」

ぽいぽい、と涙を拭ったティッシュを備え付けのゴミ箱に突っ込んだ輝夜の声が聞こえた。
さっさと逃げ出しておけばよかったと後悔するが、そんなものは先には立たないものである。


「じゃあイナバ、この小麦畑を走り回って」

「・・・はぁ」

永遠亭の裏に整備された畑の一角である。
人参を初めとする野菜だけでなく、稲、小麦、大豆といった各種の穀物まで揃えられた畑では、
今や成長まっさかりの金色の小麦畑がでん、と鎮座していた。
転作の関係で季節度外視で植えられた小麦ではあるが、
さすがは永琳作の種苗と言うべきか、
不自然なまでにがっつりと成長を続けた植物たちは
もう少ししたら収穫も可能であるほど丸々とした金色の穂を実らせていた。
輝夜はどうやらこの畑の中を鈴仙に走り回ってほしいようだ。

何故?と聞くまでもない、どうせただの気まぐれだろう。

鈴仙は輝夜には聞こえないよう、
そっとため息を吐くといかにもヤル気なさそうに畑の中に飛び込んでいった。

がさっ

がささっ・・・

がさささっ・・・・・・

取りあえず鈴仙は走った。
鈴仙の身長よりも高い、やばいぐらいの成長を続ける小麦畑の中で軽く一周して、
もういいだろうかと顔を出し・・・、勢い良く引っ込める!

「・・・全然ダメね。
と言うかイナバの耳垂れすぎなのよ。
アイツ、あの耳ついてなくても全然身長変わらないんじゃないの」

・・・ちらりと覗き見た限り、イライラとした様子の輝夜はどうやらご立腹らしかった。
何がだ。
何がダメなんだ。
それさえ分かれば努力のしようもあるが、逆に言うと今の鈴仙には努力のしようがない。
もう少し輝夜の独り言を聞いていれば何か解決策も見えてくるだろうか?
鈴仙はそう判断し、畑の外から聞こえてくる輝夜の声に耳を傾け・・・

「・・・そうね、と言うか魔物に追いかけられないとそれっぽくないわよね!
よっし、神宝『ブリリアントドラゴンバレッタ』」

「・・・へっ?」

金色の小麦畑に、竜が舞う。
鈴仙は即座に小麦畑から叩き出され、

「げふぅっ!」

と情けない声を上げながら地面に激突した。
「・・・イナバ、せめて2,3匹は倒しなさいよ。
あーあ、イナバがあまりにも情けないから小麦畑滅茶苦茶じゃない」

・・・それは姫様のドラゴンバレッタのせいですよ、

抗議する気力も失った鈴仙はただ地面に突っ伏しながら涙を流すのみであった。

ちなみにその後、皆が大事に育ててきた小麦畑を台無しにした罪で
鈴仙が兎たちにさらにぼこぼこにされたのは言うまでもない。




「イナバっ、イナバ―――――――っ!」

てゐ命名、小麦畑爆破事件〜犯人はうどんげ粉塵爆弾〜からさらに数日後、
鈴仙の下に三度目のお呼び出しがかかった。

「・・・何ですか」

かなりおっくうそうに襖を開けた鈴仙は、
今日も輝夜がPCに向かっているのを確認して隠すこともなくため息を吐く。

「今日もゲームですか。
もういい加減にしてくださいよ、姫様」

イライラとした気分を隠そうとしつつも隠し切ることが出来ない様子で鈴仙がぼやく。
そして、そんな従者の些細な違いなどには気付くどころか気付いていてもあえて無視するのが
輝夜のクオリティであるからして、彼女は当然のように鈴仙の言い分を無視した。

「うっさい。
それでね、イナバ。
デートしよっ♪」

「・・・・・・・・・・・・は?」

たっぷり三点リーダーを四つほど消費して、鈴仙がぎょっとした声を漏らした。
今度は何をたくらんでいるのか知らないが、確実にこの提案に対する答えは『NO』だ。
ここで、『YES』などと何の疑いも持たずいえるほど鈴仙も甘くは・・・、
ちらりと輝夜の顔を見ると、にっこりと笑顔を返してくれた。

ぼっ、と鈴仙の頬が真っ赤に染まる。

平安の都の時代にあって、当時の流行とは真逆を走りながらもモテまくった輝夜である。
その魔性とも言える美貌には男も女も関係なく狂わしてしまう何かがあった。

「・・・分かりました、お付き合いします」

鈴仙は、まぁ自分が気をつけて罠にはまらないようにすれば良いか、
と結論づけて輝夜の提案を受け入れることにした。
あくまでも、罠を見破り、突破できると思ったからであり、
姫様の美しさにフラフラと騙されたわけではないことを明記する。
・・・ウソジャナイヨ?

「じゃあ、今日のお昼ごろ、竹林を抜けた先の公園で待ち合わせね、イナバっ♪」

「あっ、・・・はいっ♪」

っとと。
あくまでも気は抜かない、抜かないんだ・・・・。
鈴仙はそう言い聞かせながらも、午後が待ち遠しくなる自分を止めるのに必死だったりした。


そして午後。
鈴仙はとにもかくにも公園へと足を向けた。

永遠亭を出ると、いい天気だった。
絶好の・・・暇つぶし、というか果し合いというか・・・あの、デート日和だ。
本意ではないが、付き合ってあげても良いかな、と思わせる陽気だ。
うん、陽気が良いんだからそのぐらいいいだろう。
ほらだって、誘われた手前、無碍にしたら可哀想だし。
時刻は正午。
この時間を押さえておけば先を越されることはないだろう。
あまり待たされるのは好きではないが、その・・・私はワクワクしながら待っていた。

・・
・・・
「うぉいっ!」

空に向けて鈴仙は突っ込みを入れた。
公園に来てからもう三時間経過していますよ?
えーと、アレ?
もしかして、待ち合わせの時点でダウト?
「・・・って、待て待て」
すーはー、と息をついて落ち着く。
時刻はまだ午後三時。
お昼ごろ、と言えば『ごろ』と言えなくもない。
少なくともあと1,2時間は許容範囲なのでないだろうか。
姫様のように千年も生きていると、そのあたり、ルーズになるんだろう。
うん、きっとそうだ。
だから、もう少しだけ待ってみよう。

・・
・・・
「カーカー」

カラスの声が聞こえる。
声が聞こえた方に顔を向けると、・・・空が、赤い。
暮れなずむ夕日が、何故か血の色に見えてくる。
・・・夕日って私の目と同じ力を持ってるんだっけ。
「うふ、うふふふふふふ」
独り言、もとい独り笑いが漏れたが、あまり気にならない。
だって世界は真っ赤なのだから、狂気に満ち溢れている。
とってもステキ。
さて、私は5時間もここにいるわけなのですが、どうすればよいのでしょうか。

その1、竹林に火を放つ。
その2、お腹も減ったし、ミスチーでも捕まえて焼き鳥にしてしまう。
その3、ニートをころ・・・

いえ、私は怒っていないですよ?
ほら、私ってば寛容なんで、怒っていないですし。
敬語ですし。
はて、私は誰に向けて敬語で喋っているんでしょうか。
まぁ、誰でもいいです。
では、今の私の率直な気持ちをその『誰か』にだけ、そっとお教えします。

「・・・輝夜、コロス」


「−ぴゃっ!」
「どしたの、姫?
変な声あげて」
「ええっ、ふふふっ、どうもいい具合に仕上がってくれたみたいっ♪」
「・・・はぁ」

てゐは係わり合いにならないのが唯一の正解と判断して、
鎌首を持ち上げた好奇心をぐい、と押し込みそれ以上話を続けるのを止めた。
懸命である。
輝夜とてゐは唐突に輝夜が人里でビビンバが食べたいとダダをこねたので、
里へと食事に行っていた。
その帰り道、空も飛ばずに、牛車も使わずに歩く輝夜とてゐがようやく竹林に差し掛かろうとしたとき、

ドガ−−−−−ンっ!!

大音量の爆発音が辺りに響く。

「けふっ」
「とっ?」

もうもうと煙る砂埃に咄嗟に口を覆う輝夜とてゐの前に、
ウサ耳の悪魔が罵声を浴びせながら降臨する。
感情に連動しているのか、ウサ耳がぴんっ、と立ち上がっているのが
一層彼女の本気をうかがわせた。

「この、蓬莱ニートっ!
頭引っこ抜いてやるっ!!」

「な、なにこの殺気」

てゐがいつもは温厚な鈴仙の変わりように、呆然と呟いたのを尻目に輝夜は軽い口調で言い放つ。
「イナバ、意外に暇人なのね」
「って、姫様っ!?」

てゐが輝夜の顔をギョッとした顔で見つめる。
きっとてゐには口に突っ込まれた銃のトリガーを自分で引くアホのように輝夜が映っていたであろう。

「うふ、うふふふふふ」

鈴仙の壊れたかのような笑いに、てゐはソソクサとその場から離れる。

「死ね、今すぐ、死ねぇええええっ!!」

喚き散らしながらも輝夜に殴りかかってくる鈴仙に、それでも輝夜は鼻で笑いながら言い放った。

「ふっ、わざわざクライストされるぼんくら主人公とは違うわよ。
神宝『ブディストダイアモンド』!!」

「でぃあまいふれんど―――――っ!!!」

問答無用で鈴仙が吹っ飛んだ。
安全圏まで逃げていたてゐでさえ、さすがにそこは鈴仙の攻撃くらってやれよ、
と突っ込みを入れたくなるほど、空気を読まない輝夜が鈴仙を叩きのめした。




永遠亭の一室、永琳の自室。
この部屋の中央には、壷が置かれていた。
無造作に置かれた壷には封印が施されており、『飛散注意!!』と赤紙テープが張られている。
封印をべりべりと剥がしながら、中に詰まっている粉末を取り出したてゐがそっと机の上に灰を敷く。
敷いた灰に口を近づけると、そっと囁く。

「そろそろ姫様の御髪を整える時期ですよ?」

永琳は輝夜の髪を一月に一度散髪しているが、それを他の人に任せることは決してしない。
恐らく輝夜が目を瞑って身を任せる必要がある行為で
自分以外を頼られるのが嫌なんだろうとてゐは考えている。
だから、この言葉を聞けば、きっとこの灰は復活を果たす。

実際・・・

ぼっ!と灰に火が灯り、煌々と燃え始めるのを見てにやり、とてゐが笑みを零す。
かなり昔のことだが、妹紅との勝負で灰になるまで燃やし尽くされた輝夜が
リザレクションするときに同じような現象を見たことがあった。

「3・・・
2・・・
1・・・」

てゐがカウントダウンを口ずさむ。
ゼロ、という言葉を発するとほぼ同時に、
燃え盛る真紅と群青の二色の火柱が絡み合い、あまりの眩しさに思わず目をつむる。
それでも閉じた目の向こうに白い輝きがちかちかと瞬き、瞳が焼けるような感覚すら覚えた。

「・・・全く、こんな経験するだけでも寿命が縮む思いね」
「あら、それじゃあお礼と言ってはなんだけど、貴女も蓬莱の薬を飲んでみる?」
「遠慮しておきます、月の尊き御方。
生憎ですが、私は独自の健康論で長寿を極めようと思っております」
「そう、残念ね。
高草の、今日は取りあえず感謝の言葉だけにしておくわ」
「勿体ないお言葉です、八意様」

私は復活すると目の前にいたてゐの軽口に、せっかく新しく生まれたのだから、
と懐かしい呼び方で久方ぶりの問いかけを口に出してみた。
突然の呼びかけにも全く驚く素振りすらみせないてゐは、
以前と同じ言葉で遠慮と言う名の拒絶の言葉を紡ぐ。
さて、私が居なかった十日程度の間に永遠亭はどうなってしまったのか・・・。


「・・・なるほど」
「はい、姫様に玩具にされまくってマトモに動けない鈴仙の代わりなのか、
姫様が5つの神宝を分け与えて5人の刺客なんてのも任命していたりします。
奴らも調子に乗って、5人なのに永遠亭四天王とか名乗っていて困ったもんです」

全く困っていない口調でそんなことを言うてゐの言葉を話半分に聞きながら、対応を考える。
とは言っても、話は単純だ。
つまりは、パソコンを取り上げてしまえば良い。
いや、生ぬるいか。
・・・うん、壊してしまおう。

「お師匠様?どうなさいました?」
「ん?ええ、対応を考えていたのよ。
で、決定したわ。
サーチアンドデストロイ、私の進軍を遮るものは粉砕あるのみよ。
最終目標はもちろん、輝夜の分不相応なパソコンの破壊」

私の言葉に、ぽかんと口を開けて驚いた表情を浮かべたてゐだったが、
すぐに詐欺師の名に恥じない人の悪い笑みを浮かべた。

「では、お師匠様、よろしくお願いします」
「あら?あなたは着いてきてはくれないのかしら?」
「ええ、お師匠様の弟子は私ではありませんから」
「なるほど、納得のいく言葉だわ」



私はてゐと別れると、輝夜の部屋に向けて一直線に駆け抜けた。
輝夜の部屋に辿り着くまでには、ここからではおあつらえ向きに5つの部屋を通る必要がある。
どうせ一人ずつ待ち構えているんだろう、と考えながら一つ目の部屋の襖を開け放つ。

「「「「「永琳様といえど、ここから先は通さぬ!!」」」」」

・・・おいおい、5人全員居るわ。

あまりの急展開にげんなりした顔で彼女たちを見渡してみると、それぞれ神宝で武装しているようだ。
仏の御石の鉢、火鼠の皮衣、竜の首の珠、燕の子安貝、
『本物』である蓬莱の玉の枝まで貸し出しているのか。
さて、この展開は好都合と言えば好都合なのだし、・・・そもそも身の程知らずにはお仕置きが必要ね。

「面倒が省けて良いわ。
さっさとかかってきなさい」

私が矢を弓に番えながらもそう言ってやると、あからさまに動揺の気配がした。
このぐらいで怯むのなら初めから逆らわなければ良いのに。

「ひ、怯むなっ!
姫様より賜りし宝具を持つ我らに敵はないっ!」

蓬莱の玉の枝を持つ妖怪ウサギが発破をかける。
やはりあの子がリーダーか。

「それじゃあ折角だし、ルナティックでいかせてもらうわ。
ステージ1、スタート」

「難題『仏の御石の鉢』」
「難題『火鼠の皮衣』」
「難題『竜の首の珠』」
「難題『燕の子安貝』」
「神宝『蓬莱の玉の枝』」

開始の合図と同時にスペルカード宣言をする5人の妖怪ウサギたちの弾幕を見た私は、
思わず苦笑を洩らしてしまう。

「こっちで言うまでもなくルナティックだったみたいね」

滅茶苦茶にばら撒かれた弾幕の雨の中、一歩横にずれて初弾を避ける。
さらに弓を引き絞りながら2メートルほど後ろに跳んで次弾をかわす。
続く弾を天井ギリギリまで浮き上がりやり過ごし、目標を狙いつつ矢を放つ。
残心の姿勢を取りながらも迫る玉を霊撃で弾き、ゆっくりと地面に降り立つ。

「あた〜り〜」

的中を確認し、口の中で呟くと同時に弓を下ろす。

「くっ!一人やられた程度ではまだまだっ!
みんな、次行くわよっ!!」
「あら?あなたが撃たないと誰も弾幕を張る人が居ないわよ?」
「え?」

まだ気付いていない蓬莱の玉の枝を持ったウサギに肩をすくめてみせる。

「さて、私は何本矢を撃ったでしょう」
「そんなっ!?」

彼女が後ろを振り向くと同時に素早く矢を射る。

「正解は4本、・・・いえ、これで5本目ね。
と言うかあなた達、もう少し連携を覚えないとせっかくの火力が台無しよ。
精進なさい」


四天王こと5人のウサギ、いい加減ややこしい呼び方はウンザリだ、
が一部屋に集まっていたのだから残りの部屋にはもう誰もいないだろう。
私は何事も無く二番目の部屋と三番目、それから四番目の部屋を通り抜けて、
最後の部屋まで辿り着く。

そのままの勢いで躊躇無く飛び込んだ光景はというと、・・・ぐちょぐちょ〜の、でろでろ〜であった。

部屋の中は生き物の体内を模したかのように赤黒い肉の塊がうごめき、
同じ色をした触手がいたる所から伸びてはうねうねと蠢いている。
そして部屋の中心には両手両足、それから特徴的な耳を触手でぐるぐるに巻かれ、
べたべたとした液体で身体中をてかてかと塗りたくられた我が弟子の姿があった。
彼女のブレザーのボタンは何処かにはじけとんでしまったのか見あたらず、
スカートは当然のようにまくれあがっていた。

・・・何でか知らないが、それでもパンツが見えないあたり、
サービス足りないぞうどんげ、と少し苛立ちを覚えてしまう。

「なーむー」

とりあえず南無る。
さようならうどんげ、あなたは私の可愛い弟子だったわ。

「ちょ、ちょっと!師匠、助けてくださいよっ!!」
「ゴメン、うどんげ。私処女専だから」
「わっ、私、まだ犯られてませんっ!」
「直ぐ助けるわ!
おのれ、卑猥な触手め、その汚らしい戒めを解きなさい!!」
「その自分に正直なところがステキです、師匠・・・」

泣きながら喜んでいる(はずの)うどんげに絡み付いている触手を狙い違わず容赦なく破壊し、
同時に放った二本目の矢が呪術の中心を射抜く。
べちゃっ、とうどんげが元の畳敷きに戻った地面に落下する。

・・・あ、ちょっとパンツ見えた。

ひゃあっ?とか叫んでるうどんげがさりげなく下着を隠そうと恥らう姿に私が萌えていると、

「・・・ううう、た、助かりました〜」

へなへな、とうどんげが畳に倒れこんだ。
さて、取りあえず事情を聞いておきましょうか。


「で、どうしたのよ?」
「ひ、姫様が、今度は陵辱ゲームにはまってしまわれて・・・ううっ、
実際に触手エロに遭遇したらエロく思えるのかどうか見てみたいと。
そのくせ私が捕まって一通り触手に弄られているのを見たら、
満足したのか自室に戻ってしまいました・・・」
「輝夜・・・何という羨ま・・・いえ、羨まし・・・いえ、羨ましいことを・・・」
「し、師匠?訂正できてませんけど、じょ、冗談ですよね?」
「勿論」
「ど、どっちに勿論なんですかーーーっ!?」
「そんなのは些細なことよ、うどんげ」

きっぱりと言い放つとそれなりに説得力が出てくるものだ。
案の定、うどんげはそうなのかな?と少し納得されかけている。
この機を逃す手はないだろう。

「うどんげが納得したところで、後は輝夜の部屋に乗り込むだけね。
残存している敵対勢力は?」
「いないはずです。
お師匠様がココにいらっしゃると言うことは、四天王を倒してきたのでしょうし」
「・・・ああ、アレね」

軽くため息を吐く私をうどんげが不思議そうに見つめるが、まあ今はそんなことはどうでもいいだろう。

「とにかく、これでクライマックスよ。
さ、容赦なく踏み込んでラスボスとは思えないぐらいあっさりと粉砕してあげましょ?」
「そうですねっ、さすがに私も容赦できそうにありませんっ!」

私の軽い口調に対して何時に無く怒気をふりまいているうどんげの瞳が煌々と赤く輝く。
・・・やれやれ、私はうどんげがやりすぎないようフォローに廻った方がいいかしら。



「姫様ご覚悟―――っ!」
「輝夜、今回はちょっとオイタがすぎたわね」

今日は散々襖を開けた気がするが、もうこれで最後にしたいもんだ、
うどんげに引きずられるように下がりつつあるテンションにムチうって輝夜の自室に突入する。

「さすがの私でも怒りましたから・・・ね・・・?」
「フォローは出来そうにないわ、大人しくそのパソコ・・・ン・・・?」

私たちの声が尻つぼみに小さくなっていく。
輝夜と私たちの視線が交錯していた。

パソコンの前に座り込んでいた輝夜がこちらに振り向いた格好のまま、
驚愕と絶望が入り混じった表情を浮かべている。
うどんげは当初の勢いは何処へ行ってしまったのか、
きょどきょどと落ち着き無くあちらこちらへと視線をさまよわせる。
私は、頬が染まり、顔中が熱を持つのを確かに感じながらも、
逆に視線を固定されて動かすことが出来ない。

「・・・あ」

その声は誰の声だったのか。
ともあれ、それで凍った時が動き出した。

「きゃああああああああっっ!!」
「す、すすすすすす、すいませんっっっ!!!」
「・・・あらまぁ」

輝夜はスカート中にどうしてかは分からないが、
入れていた手を大きく振り上げながら可愛らしい悲鳴を上げる。
何だか、指先が濡れているように見えたが、それはきっと気のせい。
うどんげは何故か謝りながらダッシュで逃げた。
そして、私は輝夜から未だ視線を外すことが出来ない。

「・・・ごくり」

私の喉が鳴る。
輝夜が振り回した腕が当たったのか、ディスプレイのウィンドウが動き

「あっ、はっ、・・・はぁっ」

などと言う色々気にしてはいけないうめき声が木霊した。

「・・・ごくり」

再び私の喉が鳴った。
輝夜はおそるおそると私に視線をあわせようとして、

「ひぃっ!?」

心底怯えたような悲鳴を上げた。
・・・何に怯えているというのか。

じり、と私が一歩輝夜に近づく。

「ひ、ひぃ・・・・」

輝夜が嫌々をする子供のように手を前に突き出しながら後ろに下がろうとする。
・・・やばい。
何がやばいって?
決まってる。
私の・・・理性、だ。

ぷるぷる、と震え始めた輝夜の肩が私の振れ幅をさらに大きいものにする。
ぐらぐら、と私の理性の砦が煮えたぎっていく。
落ち着け、私。
ビークール、ビークール。
壊れたラジカセのように、口の中だけで『ビークール』と念じ続ける。

輝夜の怯えた表情が、私の中の嗜虐芯を煽る。
ぐら。
輝夜の黒曜石の瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
ぐらぐら。
輝夜の、輝夜の、輝夜の、輝夜の・・・。
ぐらぐらぐら。

そして私の、理性は崩壊する。

「か、かかかか、輝夜ぁ――――――っ!!」

「ひ、ひぇえええええええっ!?
おっ、おか、犯されっ!!?
『月のイルミナイト』!
『エイジャの赤石』!
『金閣寺の一枚天井』!
『ミステリウム』!!!」

獣のように飛び出した私と、輝夜のばら撒いた四枚のスペルカードが激突する。



どかああああああんっっ!!!



「・・・けほ」
質素だが上品な部屋・・・だった場所で輝夜は呆然と立ち尽くしていた。
輝夜の頬と衣服にこびりついた黒い煤が、
スペルカード四枚と永琳ダイレクトアタックによる爆発の大きさを物語っている。

「・・・見通し良くなったなぁ」
「そうね、んー、周囲十部屋ほど吹き飛んでしまったみたい」
「ひえぇっ!?
・・・永琳?」

何故だか輝夜が私を見て心底驚いた顔でのけぞった。
と言うか、何があったんだろう?
どうも輝夜の部屋に踏み込んでからの記憶が曖昧だ、この輝夜の態度と関係あるのだろうか。

「はい?
何、輝夜?」

そんな思いが顔に出てきていたのか、私の声に輝夜は釈然としない顔をした。
何か思いついたのか、ぽん、と手を叩く仕草をすると再度私に向けて口を開いた。

「・・・さっきのこと、何か覚えてる?」
「恥ずかしながら、部屋に入ろうとしたところまでは覚えているんだけど、
その後の記憶が飛んでしまって・・・。
輝夜、そう言えばうどんげは?」
「・・・ほっ。
イナバなら逃げたわよ。
この爆発でも出てこないなんてよっぽど遠くまで逃げたんでしょ?」
「・・・あら、私を見捨てて逃げ出すなんておしおきが必要ね」
「うんうん、必要ね♪
むしろ、今日の記憶が全て吹っ飛ぶぐらいのお仕置きをお願いするわ」
「・・・?
断る理由はないし、分かったわ」

どうも何かを隠しているようであるが、それをわざわざほじくり返すこともあるまい。

「それはそうと・・・部屋、どうしようか」
「すぐに別の部屋を用意させるわ、この部屋も一両日中には元の状態に直しておくわ」
「そう、やっぱり永琳は頼りになるわね」
「お任せを」

そう言って恭しく礼をしてやると輝夜は微笑を浮かべてくれた、
それから、ついとこちらから目線を離す。

「そうそう、パソコンだけど壊れちゃったのよ。
でも、ま、私もちょっと調子に乗ってたし、そもそも必要のないものよ。
だから直さなくていいわよ。
・・・って言うかまたあんなトコ見られてたまるか」

「ありがとうございます」

そう言って私は頭を下げる。
輝夜はぼそり、と最後に何かを呟いたが聞き取ることは出来なかった。
うーん、ここまで執拗に隠すとなると、ホント気になってくる。
知りたくはあるけど・・・、止めとこう。
主の期待に応えられないより、主の嫌がることをしてしまうほうが従者としては失格だ。
私に出来ることは、精々うどんげにおしおきをして今日の記憶喪失仲間を増やすぐらいが
関の山ってところだろう。
ま、それも重畳。
かくして、永遠亭を滅亡の危機にまで追い込んだパソコン騒動は収束を向かえたのである。





「さて、河童」
「・・・な、何でしょう?」

永琳と分かれた後、てゐは一人妖怪の山に向かった。
例え永琳がパソコンを無事破壊し、輝夜が改心したとしても元を断たない限り、
また同じ事件が繰り返されるのは分かっている。
あの暇な蓬莱人たちは、下手に死なないものだから『懲りる』ということを知らない。
目の前にパソコンを置かれればその場のノリでまたはまってしまうだろうことは、
付き合いもいい加減長くなってきたてゐには想像に難くない。

そしててゐが川のほとりで発見した工房には、案の定何十台ものパソコンが並んでいた。
取りあえずその場にいたにとりをふん縛ると、
にやにやと人の悪い笑顔を浮かべたままてゐは彼女に尋ねかけた。

「あんた、廃業しなさい」
訂正、てゐは問答無用でにとりに命令した。

「ぇ?
そ、それはあんまりですっ!
良いんですか、こんなことをしてっ!
山の妖怪は組織ですから、構成員がやられたら黙っていないですよ!?
今なら大事にはしませんので、大人しく帰って下さいっ!」

縛られながらもにとりは怯むことも無く叫ぶ。
河童の組織もあるが、彼女には天狗の知り合いも多い。
そして、天狗と事を構えたがる妖怪など、普通は居るわけがないのである。

「へぇ?
青二才の天魔でも出てくるのかな?
それとも新聞で告発?
ま、どちらにしろ無理だろうけど」

だが、てゐはにとりの言葉をせせら笑う。
迷いの竹林に守られた妖怪と蓬莱人の混成部隊である彼女たちにとって、
そんな言葉は何の動揺を引き出させることも出来はしない。

「迷いの竹林に遮られて、風もペンも、何も届きはしないよ。
人里でことを起こせば、博麗がすっ飛んでくる。
結局あんたらに出来ることなんて何もないさ」

てゐの言葉は竹林から滅多に外に出ない彼女に関して言えばある意味では正論だ、
にとりの額にじっとりと汗が浮かぶ。
今後の対応を考えているのだろう。
・・・そして、五分ほど頭をひねっていた彼女はついに、

「降参、私の負けです。
・・・諦めます」

と力なくうな垂れながら、白旗を振った。

「そう、じゃあ敗者には・・・鈴仙がやられたのと同じ目にあわせてあげようかな?」
「え?
鈴仙って・・・誰・・・?
ちょ、ちょっと、その手に持った生臭い匂いのする緑色の液体は一体・・・
ぎゃ―――――っ!!」
河童の声が山中に響き渡った。


その声に機敏に反応して現場に駆けつけた某鴉天狗はその事件をこうふり返った。

「いや、驚きました。
私が河童たちの工房に慌てて駆け込んでみたところ、
彼女たちの新規ビジネスとして売り出し中だったパソコンがことごとく破壊されていたんです。
あれは巨大な槌のようなもので押しつぶした跡でしたね。
ですが、そんなことは些細なことでした。
工房のさらに奥にある仮眠室から人の気配、あ、この場合は妖怪の気配ですね、がしたんですよ。
私は好奇心半分、不安半分で恐る恐るその部屋に近づいていったんです。
逸る気持ちを抑えて、フィルムの枚数を確認して、遂にドアノブに手をかけた私が見た光景とはっ!!」

「・・・何よ、さっさと言いなさいよ」

神社の縁側で煎餅をぼりぼりと食べながら、
ことの次第を聞いていた博麗 霊夢がいつまで経っても話が進まない射命丸 文の説明にじれったそうに先を促す。

「この続きは明朝の文々。新聞でっ!」
「・・・あんたねぇ」
「い、いいじゃないですかっ!
だから、契約、契約してくださいよ〜!?」
「分かったから、必要以上に顔を近づけるな。
・・・目を閉じるな、目を」
「・・・は、はぁ、つい」
「どんな『つい』だ」

霊夢は指で目頭を押さえながらも突っ込みを入れる。
それから手が煎餅の醤油ダレで濡れていたことを思い出し、さらにしかめ面をする。

「ぷっ」
「笑ったな」
「滅相もない」
「笑っただろ」
「そんなことはありませんよ」

霊夢が手ぬぐいを取り出して目頭をこすってみると、茶色い色がこびりつく。
それを見て軽くため息を吐いた霊夢は、いかにもやる気なさそうに言った。

「じゃあ明日の朝届けてちょうだい。
私はこれから境内の掃除するからアンタは帰れ」
「ありがとうございますっ!
それでは私は次のお宅に参りますのでっ!」

言うや否や、すっ飛んで行く射命丸の背中を見つめながら霊夢は呟く。

「・・・弱ったものはたこ殴りか・・・ひどい話ねぇ・・・」

普段組織組織と謳いながらも、所詮妖怪、他人の不幸は蜜の味って言うことなんだろう。
スクープのネタにされたにとりは可哀想に思うが、
まぁ同情したからといって助けに動いてやるほどではない。
それよりも、だ。

「・・・掃除をさっさと終わらせて、晩御飯のおかずでも採りに行こうかな」

今晩のおかずの方が重要だ。
人間もよほど親しい友人でないと結構薄情なのは変わりは無い、
霊夢はそう結論づけると気だるそうに立ち上がり、竹箒を手に境内へと向かうのであった。

(終わり)