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東方プロジェクト SS 『れいせんフレンドパーク』


「パッジェロっ!パッジェッロっ!」
「パッジェロっ!パッジェッロっ!」

幻想郷の一角にある迷いの竹林と呼ばれる場所の奥深く、
ウサギの妖獣たちと腕の良い医者が住むと巷で評判の永遠亭では毎月恒例の宴会が催されていた。
万象展以外では相変わらず顔を出すことさえ滅多にない永遠亭のお姫様、
蓬莱山輝夜の発案で毎月の例月祭の合間に行われる宴会である。

本日の宴は最高潮。

他の妖怪ウサギたちとは異なるへちょい形のうさ耳をした
鈴仙・優曇華院・イナバが一身に他の多くのウサギたちの声援を浴びている。
へなっとしたうさ耳と同様に普段は弱気に『ハ』の字を描く眉を、
きりりと「∨」の字に吊り上げながら真剣な表情で的を見つめていた。

「パッジェロっ!パッジェッロっ!」
「たわしっ!たわしっ!」
「パッジェロっ!パッジェッロっ!」

宴会会場を埋め尽くす一つのコールに混じって両手にたわしを握り締めた妖怪ウサギだけが、
鈴仙の狂気の瞳にも勝るとも劣らない眼力で以って怨念を込めた掛け声を送る。
一瞬そちらを見てひくついた表情を浮かべる鈴仙であるが、すぐに気を取り直して
視線を約30メートルほど離れた位置にある高速でくるくると廻る回転盤に固定する。
彼女にとって、そのぐらいの距離など外す要因が見つからない。
常人では目を見張る回転速度もさしたる脅威に値しないと判断する。
目をこらすと、回転している円盤の色違いに区切られたスペースに書いてある文字まで確認することが出来た。

たわし・・・
包丁・・・
雑巾・・・
竹箒・・・
薬・・・
杵・・・

次々と異様なまでに達筆で描かれた、その割には所帯染みた文字が鈴仙の視界に入り込んでは消える。
次の瞬間、一際狭いスペースが鈴仙の瞳に映りこむ。
枠内はきらきらと輝く金色で塗られており、他のスペースとは一線どころか二線ほど越えた感じの空間には、
『パジェロ』
とこれまた芸術的なまでの筆使いで記されていた。

・・・今だっ!!!

すかさず鈴仙の指先から一本のダーツが弾かれるように飛び出す。
その一矢は彼女のイメージ通りのまっすぐとした軌跡を描き、
勢いを保ったまま見事に的に突き刺さった。

「よしっ!!!」

鈴仙は確実に狙いをしとめたと、彼女にしては珍しいことにガッツポーズをしてみせる。
高速で回転している的のどこに矢が当たったのかを見切れる程度には動体視力が優れた
八意永琳が鈴仙の喜びように苦笑を浮かべ、因幡てゐが面白くなってきたとニヤリと口の端を持ち上げた。
そこまで視力に自信のない輝夜とその他ウサギたちが、鈴仙の喜びように事の次第を想像しざわざわと騒ぐ。
周囲のざわめきを尻目に矢が突き刺さったからか、ボードの回転が急激に遅くなっていき、
・・・完全に回転が止まった。

広間にいる全員の視線が集中した先には、
非常に狭い隙間に見事打ち込まれたダーツの姿があった。



東方プロジェクトSS れいせんフレンドパーク



「見事ね、ウドンゲ」
「やるじゃない、イナバ♪」

永遠亭幹部二名の賞賛の声に、テヘヘと照れた笑みを浮かべる鈴仙。
妖怪ウサギたちも突き刺さったダーツが見事に、
狭いスペースのさらに真ん中に命中しているのを見て一様に尊敬の視線を鈴仙に浴びせていた。
それを見てさらに嬉しそうに破顔する鈴仙である。

「いえ〜、そんな、今日は調子が良かったんですよ〜♪」

ここ最近、『ヘタレ』『パシリ属性』『イジられてナンボ』『縞パン』『座薬』『凋落キャラ』と
不名誉な謗りばかり受けてきた鈴仙は、久方ぶりに自身の名誉を回復出来たと謙遜しながらもほっと胸をなで下ろす。

「それじゃあ、ウドンゲには・・・」
「そうね、難題『パジェロ』をお送りするわ」

「・・・は?」

もっとも、続いて発せられた永琳と輝夜の言葉を聞く限り、それはどう見ても悪魔の罠でした。
本当にありがとうございます。



そもそも、この宴会のダーツ大会は簡単に言うと生贄を決める大会である。

たわしと書いてある的に刺さればお風呂掃除、
包丁と書いてある的に刺されば料理当番、
雑巾と書いてある的に刺されば廊下掃除、
竹箒と書いてある的に刺されば庭掃除、
薬と書いてある的に刺されば永琳の実験室掃除、
杵と書いてある的に刺されば餅つき当番である。

それを生贄候補として選ばれたウサギが10名ほど次々に矢を投げ、仕事を割り振られるのである。

選ばれなかったウサギは翌日の仕事から解放されるので気分良く宴会を謳歌できる。
選ばれてしまったウサギも他にも自分と同じ仕事が割り当たったモノが居れば、
仕事がその分減って楽になるのだ。
先に投げたウサギが同じスペースに後続が収まれ、と願うのも当然であろう。
ちなみに的に当たらなかった場合は『全部』が進呈されるが
さすがに弾幕も扱う妖怪ウサギたちと言うべきか、そんな辱めにあう奴はいなかった。

そんなスペルカードルールに慣れたウサギたちでも狙えないマスが『パジェロ』である。

誰もその名前の詳細は知らなかったが、
他のマスと比べると異常なまでのスペースの狭さ、金色が与える豪華絢爛なイメージ、
そして何よりも宴会の余興と銘打っているものなのだから、
ご褒美もあって然るべきだという考えの下、ウサギたちの間では『パジェロ』というのは
うんざりする仕事の押し付けボードにあって唯一の当たりだろうと噂され始めた。
そして数ヶ月を経て、なおかつ誰も『パジェロ』枠を取ることが出来なかったことで、
逆にその疑いが『本当のこと』のようになってしまった。
その結果が『パジェロ』コールであり、それについて輝夜も永琳も苦言を出すこともしない。
余計にウサギたちは『パジェロ』と言うのがご褒美だと思い込む結果となった。

そんな最中に生贄候補に選ばれたのが鈴仙である。
高精度な射撃の腕を持つ彼女にウサギたちの期待が集まるのは当然であった。

そして、どうにもこうにも煽てや羨望の声に弱い鈴仙である。
ウサギたちの声援に気を良くし、その気になって金色の枠を意気揚々と狙ってしまったのである。


・・・その結果、

「それじゃあ、イナバ。
見事『パジェロ』を手に入れて、私に献上しなさいよね」
「頑張ってね、ウドンゲ。
・・・見つけてくるまで帰ってこないでいいわ」

「だ、だ、騙された―――――――っ!!?」

絶叫を上げながら頭を抱え込む鈴仙の姿があった。
きっと、これは彼女のために何ヶ月も前から仕込まれた壮大なネタだったのだろう。
輝夜と永琳が浮かべるいじめっ子の笑みがそれを見事に証明していた。


「馬鹿ねぇ」

てゐはニヤニヤとした悪い笑顔を浮かべる輝夜と永琳、
それから自分に害が及ばない範囲で面白ければなんでもいいウサギたちに囲まれた鈴仙を、
輪から離れた場所で面白そうに見つめていた。

「・・・こっちの仕込みも準備を始めますか」

てゐはぷらぷらと手を揺らしながら、
悲鳴をあげる鈴仙の声を背中に最高潮の盛り上がりを見せる宴会場を抜け出していった。





翌朝。

「うっうっ、それでは行ってきます・・・」

早朝からたたき起こされた鈴仙が半泣きで永遠亭の門扉をくぐる。
ふらふらとした動きで後ろを振り向くと、見送り役のウサギがパタパタと手を振ってくれた。
鈴仙は彼女になんとか愛想笑いを浮かべたが、
前方に向き直ると自然とため息がこぼれてくる。
何しろこの時間、輝夜は絶賛お休み中。
永琳は鈴仙をたたき起こした後、そのまま研究室に篭ってしまった。
何時ものこととは言え、薄情なのではないだろうか。

「・・・このまま逃げてしまいたいなぁ」

割と本気でそんなことを考える。
何しろ『パジェロ』などという名前の道具など、聞いたこともない。
名前の響きからすると、外来語だろう。
大きいものなのだろうか、小さいものなのだろうか。
舌が落ちるくらい美味しい神秘の食べ物だろうか。
冬場でも暖かい不可思議な着物だろうか。
ピカピカする宝石の類だろうか。

いくら頭を捻っても鈴仙には『パジェロ』が何であるのかを想像することは出来なかった。

狭いようで広い幻想郷で名前しか分からない、
しかも名高いかぐや姫の難題となれば、どれだけ困難を極めるか。
そんな苦行をこなす位であれば・・・いっそのこと逃げ出してしまおうか、
ちらりとそんな不遜な考えまで浮かんでくる。

「白玉楼・・・、オチが見えるからパスいち・・・
博麗神社・・・、やっぱりオチが見えるからパスに・・・
マヨイガ・・・、あそこの式神になるとかはちょっと・・・
紅魔館・・・、人使い荒らそうだし血を吸われそうだし・・・」
「・・・そんな調子じゃ、何処行っても鼻で笑われて追い出されるのがオチね」
「う、うわああっ!?
す、すいませんっ、って、・・・てゐ?」
「おはよう、鈴仙」

逃げ出す先の算段を考えるという都合の悪い独り言、
それを聞いて相槌を返したのがてゐだと分かって鈴仙はほっと胸をなで下ろした。
そのまま、先ほどの独り言は無かったことにしててゐに向き直る。

「おはよう、てゐ。
・・・どうしてココに?」
「どうしてだと思う?」

両手で肩をすくめるポーズで、てゐが鈴仙の疑問を疑問で投げ返した。

「えっと、もしかして、その、もしかしてなんだけど・・・、私を助けに来てくれたのっ!?」

そんな無作法に気付くことも無く、鈴仙の顔が無邪気に輝く。

「まぁ、そうね。
手伝うつもりがないわけじゃないわよ」
「あ、ありがとぅ!」

含みのある言い方ではあるが肯定するてゐに、
余程切羽詰っていたのか、鈴仙が裏に気付くこともなく笑顔を浮かべる。

「それで鈴仙、あなたはどのくらい今回の難題を把握しているの?」
「・・・うっ!?
それが・・・、その、全然分からなくて・・・」
「そう。
・・・ま、思っていた通りか」

てゐの淡白な反応に鈴仙は少しムッとした表情を浮かべるが、
それで逆にてゐの含みに気が付くことが出来た。

「てゐ?もしかして・・・知ってるの?」
「私は知らないわよ、だけど・・・、知っている人の候補ならつけてあるわ。
これよ」

そう言っててゐが鈴仙に差し出したのは・・・四枚の紙である。
二つに折った紙を右手の指の間に挟むと、ひらひらと振って鈴仙へ自分の意見をアピールする。
鈴仙の首が握る紙の動きに合わせてひょいひょいと動き、うさ耳もぴくぴくと可愛らしく震えた。

「幻想郷が誇る知識人をご紹介するわ。
さぁ、鈴仙。
一枚引いてみなよ?」
「ああ、そっか。
分からなかったら、分かりそうな人に聞けば良いってことね?
それじゃあ早速・・・」

聞いてみれば納得のいく話だ。
鈴仙はなるほどといった表情を浮かべて、てゐの指の間から一枚の札を抜き取った。




「知らないな」

鈴仙が始めに引いた紙には、歴史収集家にして里の守護者である、
ワーハクタクの上白沢 慧音の名前が記されてあった。
てゐのことだから、チルノやらルーミアといった、ふざけた名前が書いてあるのではないか、
と少し心配していた鈴仙は胸をなで下ろし、てゐと別れ慧音の家へと向かった。
そして、家に滞在していた慧音へと質問を投げかけたのだが・・・、
慧音は鈴仙の質問に簡潔明瞭な答えを返してくれた。

「少なくとも私の所有する歴史にそのような単語は見当たらない。
力になれそうにないな」

続けて肩を竦めながらそう言ってあっさりと鈴仙の質問を突き放す。

「そ・・・そうですか・・・」

鈴仙がしょんぼりと肩を落とすのを見て、
慧音は少なくても鈴仙が本気で探しているのを理解した。
もう少し真面目に考えてやろうか、とも思うがどちらにしよ結果は変わらない。

「いや、もう少し中身について分かることがあれば話は別なのかもしれないが、
如何せん名前だけではな。
そもそも、その『パジェロ』とやらをどうして探してるんだ?」
「あ、はい。
実は・・・姫様の難題でして」
「・・・輝夜の暇つぶしか。
全く、アイツはたまにしか動き回らないくせに、碌なことをしないな。
それからだ、お前も嫌なことは嫌だとはっきり言ったほうが良いぞ?」
「そ、それが出来れば苦労しないんですけどねぇ・・・」

鈴仙は長い耳をへちょらせ、両手の人差し指をつんつんと合わせながらそんなことを呟いた。
慧音はそんな仕草が輝夜や永琳の加虐心を煽ってるだろうなぁ、と思いつつも、
そういうことなら別に度を越えて協力してやる必要も無い、と判断する。

「どちらにせよ、まだ探すつもりなら此処で出来ることなどないな。
諦めるというなら永琳を説得してやっても良いが」
「いっ、いえ、もうちょっと頑張ってみようかと思います。
姫様も師匠も意味もなくこんな悪ふざけはしないと思いますし」
「・・・悪ふざけであるなら、楽しむことが出来れば意味なんて必要ないと思うがな。
まぁいい。
もし、その『パジェロ』とやらが面白いことだったら、私にも教えてくれ」

そう言う慧音に、了解の意を伝えて鈴仙は彼女の家を後にすることにした。




「存じません」

合流したてゐから再び紙を引いてやって来た稗田の屋敷では、六文字で用件が済んだ。

「・・・そう。
邪魔したわね」
「お早いお帰りですねっ!?」

現当主である阿求があっさりと諦めて帰ろうとする鈴仙に素早い突っ込みを入れる。

「知らないのなら用はないわ。
あんまり油売ってる時間もないことだし、
・・・それに」

人見知りするわけではないが、知らない相手だと態度の硬い鈴仙の、
普段よりさらに冷たさ五割増しの視線が阿求に突き刺さる。

「何なのよ、その黒い眼鏡は」
「貴女の狂気の瞳対策として引っ張り出してみたんですが。
・・・そうですね、調査によると意識せず目を合わせるだけですら、
狂気を宿らせると聞いておりましたが、何ともないようです。
成功ですね」

阿求の顔の半分ほどを覆わんとしているサングラスは見た目素晴らしく滑稽で、
少女らしい体系の阿求に全く似合っていないことも含めて、
鈴仙のやる気をこれでもかと削りとっていた。

だが、滑稽阿求さんの言葉には少しだけ驚かされる。

極力狂気の能力を抑えたとしても、
阿求の言う通り無重力巫女や黒白魔法使い、時をかけるメイドでない
普通の人間ではそれこそ鈴仙とヘタに目をあわせることも出来やしないのだ。
薬の行商をしに里に来ても、ヘタをすると狂気に感染させてしまう売り子では
それはもう胡散臭いことこの上ないだろう。
確かに眼鏡一つでハンディが克服できるのなら、少々似合わなかったとしても身に着ける価値がある。

「稗田、その眼鏡を私に貸してもらえない?」
「ええ、それは構いません」

取りあえず難題のことは横に置いて、鈴仙は興味深い黒い眼鏡を掛けてみることにした。
鈴仙は阿求よりは身長も高い。
ブレザーにサングラスという組み合わせはお世辞にも似合うとは言えないが、
どうしようもなく不釣合いだ、というレベルでもないようだった。

「・・・別に何かの魔法が掛かっている代物だ、というわけではないのね」
「ええ、鈴仙さんのことは先代まで記述がありませんでしたので、
特に力を入れて調査させて頂いています。
どうやら『狂気の赤色』を見た、という事実が能力の発動に強く関与しているようでしたので、
色を透かせない工夫がしてあれば何とかなるようです。
現に鈴仙さんが眼鏡を掛けた場合でも私は狂っていないでしょう?」
「・・・ホントね。
ちょっとすごいわ」

鈴仙は眼鏡ごしに阿求と眼を合わせてぱちぱち、と眼を見開いたり閉じたりを繰り返すが、
転生することと一度見たことを忘れない、という能力以外は全くの人である阿求が狂気に犯される様子は全くない。
もちろん鈴仙が本気になればこんなものは意味さえ成さないだろうが、
普段から狂人を作って廻りたいと考えているわけではない鈴仙にとってはひどく魅力的な代物であった。


「・・・これ、借りても良い?
人里で動くのに使えそうだし」
「・・・ふむ、そこそこ貴重品ではありますが、
そうですね。
交換条件をのんで下されば」
「む、何よ?」

輝夜や永琳によって条件=難題or恥ずかしいこと、
という刷り込みがある鈴仙が思わず身構えるが、それを阿求は手を振って否定する。

「ああ、そう難しいことじゃあございません。
因幡てゐさんのインタビューをしたいと思ってまして」
「てゐを?
姫様やお師匠様じゃなくて?」
「ええ、彼女は古参ですから色々な逸話を知っているはずなんですよ。
ですが、私のようなものが直接お願いしてもはぐらかされるのがオチですからね。
上司である鈴仙さんから言ってもらえれば少しは話をしてくれると思いまして」
「てゐがねぇ・・・。
あの子、凶暴だし、狡猾だし、能天気だしで、
いかにも妖獣って感じだからそんな昔のことなんて覚えていないんじゃない?」
「いえいえ、八雲紫と同年代の妖怪などほんの一握りしかおりませんし、
その中でもマトモに話を聞いてくれるのは彼女ぐらいのものですから。
例え断片的であっても価値は非常に高いんです」
「・・・まぁ、話は聞いてもマトモに答えるかどうかは知らないわよ」
「ええ、そこから先は私が何とかします」
「分かったわ、てゐには協力させるように言うから、コレは借りていくわ」
「ええ、どうぞどうぞ。
代わりになるようなモノが見つかるまでは、いくらでも借りていて下さい」
「太っ腹ね・・・」
「そのぐらい稗田にとって価値があるってことですよ、
幻想郷の過去を知る妖怪とコネクションを作れることというのは」

そう言って微笑む阿求の満足そうな顔をサングラス越しに眺めながら、
鈴仙は次は誰に聞きにいくことになるのだろうと考えていた。




「ぶっ!?
な、何その黒いのっ!?」

稗田家を後にし鈴仙がてゐと合流した途端、てゐが唾を飛ばしながらげらげらと笑い出した。

「あははははっ!
ひーっ、お腹苦しいっ!」
「・・・笑いすぎよ」

憮然とした表情で鈴仙・優曇華院・イナバ・オン・サングラスが唇を尖らせて呟いた。

「だ、だって、それっ!?
稗田の家で何があったらそうなってるのよっ!
ありえないっ、予想外すぎるっ、中途半端に似合っているところがまたサイコーっ!」
「・・・波符『ルナウェーブ』」


ぴちゅーん


「・・・で、それは何なの?」

ぶすぶすと異音を放つ、所々が軽くこげたてゐが改めて疑問を投げかけた。

「この黒い眼鏡をつけてれば私の瞳の力を軽減出来るみたいなのよ。
・・・そんなに変なのかなぁ」
「あー、慣れればそうでもないよ。
ただうさ耳+黒眼鏡+ブレザーっていう異世界の組み合わせのインパクトが凄かっただけだしさ」
「人里行くときはこの上に白衣でも着れば少しはマシになるかなぁ」
「・・・それは霊夢が出撃するかもしれないから止めといた方がいいよ」
「そこまでっ!?」

うさ耳+サングラス+白衣な妖怪が人里に現れ薬を販売しているなど、それはもう完全に異変だろう。
自警団が間違いなくすっ飛んでくる。
その上、鈴仙にマスクでもさせたら、問答無用で即退治されてしまいそうだ。
正直面白そうなのでチャレンジしてもらいたい気もするが、余計な因縁を抱え込むのは得策ではない。
もしかしたら、自分の賽銭集めにも影響を及ぼす可能性もある。
てゐはそう判断して、サングラスについて考えるのを保留した。

「それでさ、てゐ。
今度さ、稗田の当主の聞き取りに協力してあげて欲しいんだけど」
「はぁ?突然何よそれ」
「いや、これを借りる代わりの交換条件らしくってさ。
てゐみたいに古くから住む妖怪から聞き取り調査がしたいみたい」
「ぅえー、めんどくさー」
「聞くだけでもいいからさっ!
お願いっ!!」

ぺしっ、と鈴仙が両手をあわせてお願いすると、
面倒くさげな表情をしたてゐは、それでもやれやれと両手を掲げてお手上げのポーズをとった。

「ま、しゃーない。
面白いものも見れたし、どうせもう稗田には安請け合いしちゃってるんでしょ?」
「ううっ!
・・・じ、実はそうなのよ」
「はいはい、協力しますよ、上司さん?」
「てゐっ!あ、ありがと〜」

どう見ても上司と部下の会話ではないが、鈴仙はそんなことは全く気にもかけずに肩から力を抜き、ほっとため息をつく。
てゐはそんな鈴仙を見てくすりと優しい笑みを浮かべた。

「さてっ、鈴仙っ!
気を取り直して次の助言者を選びなさいっ!」
「あっ、うんっ!」

鈴仙が顔を上げたときにはもう、
てゐはいつもの小憎たらしくも何故か嫌えないイタズラウサギの顔に戻っていた。




「・・・で、次はここか」

どうやら気に入ったらしく、サングラスを装備したままの鈴仙が次にやってきたのは妖怪の山である。
なんでも秋口に引っ越してきた人間と神様たちは外界の住人なので、
『パジェロ』がもし外の世界の言葉であるならば何か知っているのではないか、ということらしい。
森を抜け、川を渡り、滝を越え、山の頂までやってきた鈴仙の前に広がるのは
かなりの大きさの湖と、博麗神社と比べてやたらと広い神社である。

「うわー、広いなぁー」

永遠亭とどっちの方が広いかな、などと考えながらも鈴仙が鳥居の手前に降りる。
鳥居を潜りながら歩いていくと、参道の奥にこちらに背を向けて境内を掃除する巫女さんの姿が見えた。

「あの、すいませんーっ、この神社の方ですかぁ?」

まだこちらに気付いていなかったようので、鈴仙から声を掛けることにする。
普段ならもう少しおどおどした感じだったり、中途半端に強気だったりするが、
今日はサングラスで狂気の瞳は抑えられているだろうと自然な感じで振舞うことが出来た。

「あ、はいっ、どのようなごよ・・・」

鈴仙の声に応えるように、こちらもごく自然に振り返った
緑と白を基調とした巫女服に身を包んだ少女の返事が途中で固まる。
と思ったらすぐにがくがくと震えだし、箒を放り出して叫び声を上げた。

「うわあああっ!!
GIB!?
ガールズ・イン・ブレザーっ!!?
わ、私、宇宙人なんて知りませんっ!
だからっ、ミューテーションは勘弁してくださいっ!
首の後ろにチップを埋め込んだりするのも許して下さいっ!
変な機械を光らせて記憶を消すのも勘弁してっ!!」

「はぁ・・・?」

突然の緑白な巫女さんの意味不明な言動に鈴仙は困惑の表情を浮かべた。
何だろう、またヤヤコシイ人なのかな、巫女だし仕方ないかな、と結構失礼なことを考えていたりもする。

「あ、あのー、確かに私は月から来ましたけど、そんなことしま・・・」

「ぎゃ―――っ!!!
やっぱりっ!!!
幻想郷だから奴らもいると思ったのよっ!!
そ、外の記憶を消すつもりっ!?
それとも行動を統制するための機械を埋め込むつもりっ!!?
あ、アブダクティブされちゃうっ!!?
助けて、神奈子様っ、諏訪子様っ!!
た、助けて、モルダ―――――ッ!!!?」

「モ、モルダ?
いえ、ですから、そんなことしませんってば」
「ヘルプミーっ、ヘルプミーモルダ―――っ!!!」
「・・・巫女だしこれぐらい大丈夫よね?
落ち着きなさいっ、散符『ロケット・イン・ミスト』!」


ぴちゅーん


「ううう・・・、ひどい目にあいました」

巫女というものが皆霊夢のようなものだと盛大に勘違いしている鈴仙の弾幕により一機落とされた早苗が、
香ばしい匂いを醸しながらぐすりと涙ぐんだ。

「ごめんなさい、巫女と言ったら絶対に弾が当たらないと思っていたわ」
「そんなの、霊夢さんだけですよぉ」
「その割には頑丈ね?」
「頑丈でも痛いものは痛いんですからねぇ?」
「・・・う、そのことについては悪かったと思ってるわよ」
「ぷっ」

さすがに悪いと思ったのか、しょんぼりとした耳をさらにへちょらせてしまう鈴仙を見て、
早苗が思わず吹きだしてしまう。
それで早苗はこの愛らしい妖怪ウサギに何を怖がっていたんだ、
とようやく心の整理がつき、普段の落ち着きを取り戻すことが出来た。

「いえ、こちらも急に取り乱してすいません。
昨日そんなお話のDVDを見ていたもので・・・」
「でぃーぶいでぃ・・・?」
「あ、気にしないで下さい。
外のビデオみたいなものです」
「ああ、ビデオなら知ってるわ。
以前香霖堂にあった気がする」

そんな受け答えをしながら、鈴仙はなるほど、確かに外の世界は未知の言葉に溢れているな、と思っていた。
これならば、期待を持てるかもしれない・・・

「それでですね、今日こちらに訪れた理由なんですが・・・」

鈴仙は逸る気持ちを抑えきれず、早速早苗に事の次第を説明した。
ふんふん、と一方的に語られる事情を嫌な顔一つ浮かべずに聞いていた早苗であったが、
大体の話を聞き終えると、一つ大きく頷いてみせた。

「『パジェロ』ですか。
私も名前とか大まかなところは知っていますけど、それよりも、確か・・・」
「し、知ってるのっ!?」
「知ってると言いますか・・・、ちょっとすいません。
諏訪子様―――っ、諏訪子様、いらっしゃいますか―――――っ?」

早苗はちょっとだけ考える仕草をしたと思うと、
鈴仙から視線を外し、奥にある本殿へと向き直って声をかけ始めた。


「あー、はいはい。
そんな大きな声出さなくても聞こえてるよ、早苗。
それからサングラスのウサギさん?」

待つこと三十秒ほどである、
軽く幼い感じの声とともに随分とZUNな個性をした帽子をかぶった少女が、鈴仙と早苗のすぐ目の前に立っていた。
彼女こそ、守谷神社が祀る二柱のうちの一柱、洩矢諏訪子である。

「ええっ?あれっ?
さっきまで居なかった・・・はずよね」
「・・・居たなら、なんでさっきは出てきてくれなかったんですか?」
「え、ソレを聞くのっ!?
・・・あーうー、あうー♪」

突然現れた少女に驚く鈴仙と、ピンチのときには颯爽と無視してくれた信仰の対象をジトっと見つめる早苗。
それから唐突にHっぽく誤魔化す諏訪子の三者三様の反応は、しかし早苗が一歩リードしているようであった。

「無邪気っぽく誤魔化さないで下さいっ!
私、本当に怖かったんですよっ」
「だって、本気でMIBだったら私のが危ないじゃんっ!
だってアイツら『ばしゅっ!』ってするんだよっ!?」
「自らを犠牲にしてでも民を守るのが神様ですっ!」
「あーうー、そうだねー。
そして、神を守るために自らを犠牲にするのが巫女だねぇ?」
「ううっ!
そ、それは確かにっ!?」
「ほーらほーら、早苗よ、私のために礎になっておくれー?」
「そ、そんなことよりっ!」
「誤魔化した」
「誤魔化したねー」
「そんなことよりっ!!」
「二回言った」
「二回言ったねー」

だが、盛者必衰の理を体現するかのように優勢な状態から一気に劣勢になった早苗には、
鈴仙と諏訪子の容赦ない突っ込みが待っていた。
幻想郷は優しくないな、早苗はちょっと悲しくなった。


「改めて初めまして、迷いの竹林の永遠亭に住む妖怪ウサギ、
鈴仙・優曇華院・イナバと言います」
「私は守矢神社の巫女をしております、東風谷早苗です。こちらが・・・」
「土着神の頂点、この神社の神である洩矢諏訪子よ」

ひとしきり早苗苛めを終えた二人は、
互いのことをまずは知ろうかと自己紹介をすることになった。
先ほどまでざっくばらんに話していた鈴仙は相手が神であるため少し礼儀を正し、
諏訪子もまた神としての威厳を見せようと少し大仰な言い方で言葉を返す。

「それから今は出かけておりますが、もう一柱の神、
八坂神奈子様も普段はこちらにいらっしゃいます。
守矢神社ではこの3人で暮らしています」
「へぇ、神様なんて初めてです、よろしくおねがいします。
永遠亭は姫様・・・、蓬莱山輝夜様、
それから私の師匠で、医者の八意永琳様、
妖怪ウサギのリーダー、因幡てゐなどが主なメンバーです」
「わっ、お医者様ですか。
そう言えば里で評判の名医が居るとか聞いたことがありましたけど・・・」
「ああ、それが師匠です」

すごいですねー、と暢気に驚く早苗と、
師匠が褒められて満更でもない鈴仙を尻目に諏訪子はじっと考えこんでいた。


「・・・まさか、ね」
「諏訪子様?
どうかなさいましたか?」
「あ、いや、ちょいと昔の知り合いと似た名前だったから。
偶然だろうけどさ。
さて、鈴仙とやら、アンタの目的は何だったかな?」

早苗の疑問をはぐらかように強引に打ち切り、本題を始めるようにと諏訪子は鈴仙を促す。

「あ、はい。
姫様から『パジェロ』というものを手に入れて来いと言われまして」
「パジェロ?
ああ、アレかな?」
「・・・し、知っているのですか?
それはどんなモノなんですかっ!
何処に行けば手に入るんですかっ!?」
「ん?
簡単に言うと外の世界の乗り物で、四輪のガソリンという燃料で動く車だよ。
幻想郷ではまず手に入らないし、どうにかして手に入れたとしても燃料もないとなると、ただの置物だね」

「そ、そんなぁ・・・」

あっさりと難題の詳細を口にする諏訪子に鈴仙の表情が輝くが、
続く言葉の非情っぷりに、鈴仙はすぐさま顔に縦線を入れるぐらい落ち込んでしまう。

「でも・・・ちょっと待って。
はい」

そう言って、諏訪子は懐をごそごそとまさぐったと思うと、鈴仙に向けて握りこぶしを伸ばしてくる。
鈴仙が咄嗟に手を差し出すと、ぽん、と鈴仙の手の平に小さな金属製の物体が転がった。

「これは?」
「パジェロのミニカー。
まぁ、本物を小さいサイズにした・・・模型ね。
こちらに来る前食玩で手に入れてたのがあったのを思い出したのよ」
「へぇ・・・これが『パジェロ』ですか・・・」

良く分からない単語もあったが、どうやら鈴仙の手の平に乗るちっぽけな物体が難題の答えらしい。


・・・無論、目の前にあるこれは偽者だ。
本来であれば本物を持っていかなければならないのだろう。
ただ、別に鈴仙は輝夜を嫁に貰おうと考えているわけでもなく、
結局のところ、慧音の指摘通り輝夜と永琳の暇つぶしに付き合っているだけなのである。
なんとか本物を見つけたとしても、ご褒美を遠慮しなければいけない鈴仙であるからこそ、
この可もなく不可もなくな提案は渡りに船であった。

「あの、この車頂いていっても構いませんか?」
「あー、うん、いいよぉ。
その代わりさ、今度はこちらから永遠亭にご挨拶に行ってもいいかい?」
「そうですね、神奈子様もご紹介したいですし」
「あ、はいっ!
師匠も姫様も歓迎してくださると思いますっ!」

模型とは言え自分の道具を快く譲ってくれた諏訪子と、
誠実そうな笑顔でもう一柱の神も紹介してくれるという早苗に鈴仙も自然と笑顔を浮かべていた。
鈴仙は今度彼女たちが来てくれるときは団子でもご馳走しようと考えながら、
二人に別れを告げ、意気揚々と永遠亭への帰路についた。




「―とまぁ、そうしてようやくその『パジェロ』を手に入れたわけです」
「へー、それでこの車の模型を手に入れてきたわけか」

鈴仙が手に入れたパジェロのミニカーを手のひらの上に乗せ、
ころころとタイヤを転がしながら鈴仙の話を聞いていた輝夜が話の終わりに合わせて相槌を打つ。
鈴仙は輝夜が退屈することなく話しを終えることが出来たことに、ほっと安堵の息を漏らした。
ちなみにサングラスの件は鈴仙の胸にそっとしまっておくことにした。
言ったらまた玩具にされるのは間違いないが、今日はもう疲れもピークに達しているのだ。
とにかく早いとこ解放されたいという気持ちしか、もう鈴仙には残ってやしなかった。

「はいっ、なんでも本物は大人が4,5人も乗ることが出来るほど大きなものの上、
幻想郷では燃料が手に入らないものらしいですので、こちらの方が良いかと思いまして」
「ちょっと見せてもらってもいい?
へぇ・・・、かなり細かく作りこまれているわね。
面白いわ」

輝夜から模型を借りた永琳が、今度はひっくり返したりしながら車をじろじろと調べる。

「まぁ、いいわ。
余興にしては充分満足のいく結果よ。
ご苦労だったわね、イナバ」
「そうね、うどんげご苦労様。
お風呂を用意してあるから疲れを取って今日はゆっくり休むといいわ」
「・・・はいっ!!
それでは失礼しますっ!!」

鈴仙は二人に隠すことも無く、ウキウキとした様子で部屋を飛び出していく。

「・・・おっふろ〜おっふろ〜♪」

廊下の向こうから歌声が聞こえてきたので、輝夜と永琳は二人向きあってくすり、と笑みをこぼしあった。


「・・・で、これで良かったの、永琳?」
「ええ、輝夜、上出来よ。
妖怪の山に新しくやってきた神が、私達に益をもたらすのか、厄を呼ぶのか。
その見極めのためだったのだけど・・・」
「・・・予想以上だったみたいね」
「その通り、どうやらお山様も幻想郷で既に中てられてしまったよう。
暢気な紅い館や冥界、マヨイガと平和ボケぶりでは変わらないわね。
腹の底は知らないけど、しばらくは安穏無事に過ごせそう」
「月に縁もなさそう?」
「ええ、守矢の神社に、洩矢神、そして建御名方神。
どれも月の匂いを感じさせません」

「・・・因幡は何かある?」

永琳との話し合いを一通り終えた輝夜がつい、と顔を障子へと向けて呟くと廊下から声が返ってくる。

「いえいえ、私などが滅相もない。
・・・強いて上げれば懐かしい顔が居るな、と言ったところですか。
あんまりにも昔なので、私も相手も覚えていないフリをすると思いますが」
「そ、・・・いやぁね。
老獪で」

くすくすと笑いながら『老獪』という単語を強調する輝夜に、廊下の声は不快を覚えることもなくさらりと答える。

「可愛ければ老獪でも許されるんですよ、姫。
なんでも外の世界では、『可愛いは正義』とさえ言うそうですから」


「あら、それじゃあ一番可愛い私が世界唯一の正義ね」


輝夜がさも当然、とばかりにさらりと言い放った。
それが、意識せずに出てきた言葉であるからこそ、彼女が本気であることが見て取れる。

「・・・」

「・・・」

「・・・何よ」

「いえ、私は鈴仙でもからかってきますのでこれで」
「さて、私も調薬に戻ることにするわ」
「・・・ちょっと、待てこらぁ!?」

廊下の声はぱたぱたという足音とともに遠ざかり、永琳もいつの間にか部屋から消えていた。
残されたのは、何時の間に戻ってきたのか輝夜の手の中に残されたミニカーが一つ。


「・・・私が一番可愛いわよね?」


首を捻りながらもう一度輝夜が呟くが、
当然、ミニカーは何も答えたりはしなかった。

(終わり)