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東方プロジェクト SS 『お嫁になりたいっ!』


「嫁になろうと思う」
楽園の素敵な巫女であるところの私、博麗霊夢はそう言った。

「・・・は?」
普通の魔法使いであるところの彼女、霧雨魔理沙はぽかん、
と大口を空けて呆けていた。

私はお茶を1口、2口飲み、
魔理沙の差し入れであるお茶請けの饅頭をぱくり。
もぐもぐ、とゆっくりと咀嚼してから、ごくりと飲み込み、
さらにお茶を1口。
今度は魔理沙のお皿に手を伸ばそうとして、パシリ、と手を叩かれた。

「けち」

「けちじゃないんだぜ、と言うか・・・」
そう言って魔理沙ははぁ、とため息を吐いた。

「霊夢、嫁ってオマエ・・・?」

「つまりは結婚しようかと」

私の言葉に何故か魔理沙が多大なショックを受けていた。
きっと、
ちょいと年季の入った畳にひっくり返ってしまった魔理沙の中では、
雷鳴が
『ピカゴロドッシャーン!』
といった具合に鳴り響いていることだろう。
そんなに私が結婚することが衝撃か?

ある意味、失礼な反応だ。

だが、私は魔理沙の皿の饅頭を食べることに忙しく、
そんな突っ込みにまで手は回りそうもない。

あまり急いで食べることに慣れていない私は、どうしても食べるスピードが遅い。
巫女として、食べ物を食べるときは、
八百万の神様に感謝を捧げなければいけないからだ。
決して、ここ2日ほど何も食べてなくて久方ぶりの食事にあり付けたから、
というわけではないことをここに明記する。



東方Project SS 「お嫁になりたいっ!」



私が魔理沙のお皿の饅頭をきれいに掃除し終える頃、
ようやく魔理沙の頭が持ち上がった。

「そ、それってつまり、私の嫁になるってことかっ!?」

・・・ぶっ飛んだ結論に達していた。
どうやら、魔理沙にとって性別の壁というのはトタンよりも薄く、
ダンボールよりも脆いものらしい。
ちなみに、私にはその気はないので丁重にお断りすることにしよう。

「ごめんなさい、同性はちょっと・・・」

私の言葉が届いたのか、魔理沙が再びずりずりと畳に倒れこむ。
・・・倒れるぐらい本気だったのか。
これは今後の友人関係を考え直す必要があるかもしれないわね。

「そ、そうか・・・。
それは良かった・・・。」

突っ伏しながら、いかにもげんなりと言う口調の魔理沙。

「てっきり、私にプロポーズしてきたのかと思ったんだぜ・・・」

何故、そうなる。
それでもこの調子では魔理沙にあっちの気があるわけではなさそうだ。
つまり、今後も友人を続けていけそうである。


「でも、霊夢、お前相手はいるのか?」

自分のことではないと分かったからか、あっさりと立ち直った魔理沙は座りなおして、
それから空になった自分の皿を悲しげな顔で見つめてからそう切りなおしてきた。
どうやら、饅頭よりはこちらの話題の方が気になるらしい。

「相手?
・・・んー、ん?
あっ、そうか!」

「いないのかよっ!」

私の、それはうっかり失念していた、
という他愛も無いボケに魔理沙の本気突っ込みが入る。

「なによ、魔理沙。
怒鳴ることはないじゃない。ただ・・・」

「恥ずかしくて言えないってか?」

ニヒヒ、と笑いながら魔理沙が私のことを煽る。
いや、そうじゃなくて、

「相手いなかったことを忘れてたなーって」

「忘れるなよっ!!」

今日2度目の本気突っ込みだ。
ぜーはー、と息を切らせながら魔理沙がお茶をずるずると一気に啜る。
・・・相変わらず男らしい飲み方ね。
それからぼそりと、

「香霖とかじゃないのか?」

ちょっとだけ真面目な口調の魔理沙。
私をじっと見つめてくる。

「え、なんで?
お金もってないじゃん」

が、私の至極当然な回答に魔理沙が三度突っ伏した。
ぴくぴく、と震える姿はひどく滑稽なので、指をさして笑うことにする。

「ぷふっふっふふ、魔理沙今日のあんた面白いわ、ぐっじょぶ!」

「嬉しくないぜ・・・」

ぶすっとした声が私の耳に届く。

「あのさぁ、霊夢。
お前、旦那の条件ってなんだと思う?」

魔理沙の拗ねた感じの声が聞こえる。
一体、何がそんなにお気に召さないんだか。
まぁ、いい。
素直に答えてあげるとしよう。

「月に一回、家にお金を入れてくれる」

きっぱりと答える。
どうだ、この完璧な答えは!

「それだけかっ?」

だが、魔理沙は『うわ、ダメだコイツ、早くなんとかしないと・・・』
と言った失礼な視線をよこしてきやがった。

「し、失礼ねっ!
それだけじゃないわよっ!
えーと、

・・
・・・そうね、たまにお土産買ってきてくれる?」

考え込んだあげく、恐る恐る答える。
なにしろ、今度はちょっと自信がない。
そこまで要求してしまっていいものかどうか・・・。


「違うぜっ!!」


魔理沙は完全に呆れた表情で叫ぶ。
私の耳がキーン、と耳鳴りしたぐらいの勢いだ。

「旦那ってのは愛するべき、そして嫁を愛してくれる存在なんだぜっ!
恋を超えて、愛を育み、そして結ばれるのが結婚だ!
お嫁さんってのは、そんな幸せを表すものなんだっ!
そう!決して、そんな即物的なモノじゃないんだぜっ!!」

「・・・はぁ」

えらく熱弁だ。
そういえば魔理沙のスペカは恋に関するものだし、
その辺の拘りは人1倍大きいのかもしれない。

「いや、そんなこと言われても?
私一応神様のお嫁さんみたいなものだけど別に神様愛してないし」

とまぁ、小さい頃から巫女は神の嫁、としての刷り込みがある私にとっては、
嫁とは仕えるもの、といったイメージでしかない。

神様に仕えるのも、
旦那に仕えるのも、そう大した違いではない。
強いてあげれば神様は月に1回家にお金を入れてはくれないが、
旦那は入れてくれるものだ。
ほら、現実の旦那の条件はそのぐらいだろう?


「だからぁ、そういうことじゃないんだぜっ!
“嫁みたいなもの”と“嫁”はぜんぜん違うぜ!
つまり、その、
・・・
男と、
女が、
あの・・・一緒になって・・・」

魔理沙は真っ赤に頬を染めてごちょごちょと呟いている。
男と女が?
ああ、つまりは

「子作りの有無ってわけ?」

「そ、そうだぜっ!
愛がないと出来ない行為だぜっ!!」

やたらと意気込む魔理沙。
だが、魔理沙は一番大切なことを忘れている。
残念ながら、そのために魔理沙の言葉は私にはひどく、薄っぺらい。

「ふっ」

思わず鼻で笑う私に、かちんと来た表情を浮かべる魔理沙。
全く、魔理沙はホントお子ちゃまだ。

大事な大事な前提条件を忘れている。

「なんだ、霊夢?
何か私間違ってるか?」

イライラとした魔理沙の口調が私の耳に届く。
そうね、魔理沙。
貴女は大切な順番を間違えているわ。

「間違ってるわ、魔理沙!!
よく考えて御覧なさいっ!
人の欲求は、3つ。
その一番上に来るものは何っ!?」

「ん?
それは・・・食欲じゃなかったか?」

そこまで分かってどうして私の言いたいことが分からないのだろう。
つまりっ!


「お腹すくことに比べたら、愛の無いえっちなんて些細なことよっ!!」


「・・・言い切りやがった」

さすがにぐうの音も出ない様子の魔理沙。

「・・・というか、霊夢。
お前、そんなに苦しいのか?」

恐る恐るといった風に魔理沙が尋ねてくる。
その目には憐憫の情がアリアリと浮かんでる。

「うっさい。
同情するなら、賽銭入れろ」

何しろここ2日での始めての食事が先ほどの饅頭だ。
その前は一月ほど2日に一回の素麺だけで飢えをしのいできた。
アレは素晴らしい。
あんなにも一杯のお中元とやらを配る風習は、
是非とも未来永劫残しておいてもらいたい。

そして素麺飽きた、とか言ってる奴は私のところへ来い。
ぐーで殴ってやるから。
ちなみに私のところに素麺を持ってきた中国が紅魔館の人間は皆飽きちゃって、
とか言いやがったので、ぐーで殴ったのは言うまでもない。
そういえば、あの後庭に埋めた中国からは花が咲いたみたいだ。
結構綺麗な花だったのを覚えている。

「まだ月初めなのに苦しいってなぁ・・・」

「それはきちんと月収がある人間の台詞よ。
定期的な収入がない以上、1年を通して苦しいのは仕方ないじゃない」

魔理沙の検討違いの突っ込みは軽く流して、
最初に戻ることにする。

「だから、嫁になればお腹すかないかな、と」

庭に咲いた冬虫夏草もどきを売れば、
幾分の金になるかもしれないがそれは本当の本当に最後の手段だ。


「ていうか、お前以前は裏山の野草や魚を採ったりしてなかったか?」

ああ、あそこは今思うと天国だった。
でも・・・

「夏前にどこぞの幽霊が新芽と稚魚をことごとく食い尽くしてくれちゃって・・・」

今思い出しても涙が出そうだ。
あの山に入ったときの絶望感は忘れられそうにない。
・・・ちくしょう、泣いてなんかないもん。

「村の妖怪退治でも謝礼貰ってたろ?」

ああ、あれは私のほぼ唯一の現金収入だった。
でも・・・

「最近は慧音が色んな村に出張して片付けてるみたいで・・・」

全く余計なことをしてくれる。
今度満月の夜にきもいその首をとってやろうかしら・・・フフフ。

「そ、そうか・・・」
ようやく魔理沙もこの神社の現状が理解でき始めたらしい。
ここで、賽銭は?などと聞かないところはさすがに聞くまでもないと思ったのか。

「でも相手いないんじゃどうしようもないだろ?」

魔理沙の突っ込みは正確だ。

「そうなの・・・失念してたのよね」

「・・・初めに気付くべきだぜ」

この際、貧乏だけど食うには困ってないみたいだし、
霖之助さんでもいいかなぁ・・・。

とまぁ、私が人生の岐路を決めてしまおうとした時だ。

「お邪魔するわね」

と声を掛けてメイドが部屋にやってきた。



「ウチの門番を一ヶ月ほど前から姿を見ないんだけど、足取りをしらない?
最後に立ち寄ったのはココのはずなんだけど?」

そして、唐突に自分の本題を語り始めた。
相変わらず、レミリア以外には愛想の無い奴だ。

「咲夜、一ヶ月も放置していたのかよ・・・」

魔理沙のげんなりとしたつっこみが入る。
今日はもう大分お疲れのようで突っ込みにもキレがない。
でも、まぁ確かにそうだ。
私も庭に埋めたとはいえ、まさか何か花が咲くほど放置されるとは思ってなかったし。
その内、紅魔館の人間が掘り出しにくるだろうと思っていたのだ。

「あんまり居ても居なくても変わらないから、気付かなかったのよ」

悪びれることもない調子で言う咲夜。
さすがに中国が可哀想になるなぁ。

「そうね、さすがにまずいから、私までわざわざ探しにきたんだし」

そう言って咲夜の影からもう1つの影が現れる。

「レミリア?」
「おおっ、少しは部下想いになったみたいだぜ?」

部屋の中に突然現れたレミリアはウチをぐるりと見回してから、

「もう見つけちゃった」

とあっさりと呟いた。
吸血鬼の視覚、という奴は遮蔽物に遮断されないこともあるらしいが、
今のあれは気配か何かを探ったようにも感じる。
・・・もし気配を感じたのであれば、生きてるということか。
それはそれで、こっちとしても助かる。
さすがに死なれていては具合が悪いし。
わざわざ探しに来たほどであれば、レミリアと一戦交えることにもなりかねない。

しっかし、腐っても妖怪ね。
一ヶ月も地面の中で生きていけるなんて・・・。


「庭のようね。
霊夢、庭を探しても構わないかしら?」

つい、と庭の方角に指を差しながらレミリアが尋ねる。

「別に断る理由はないし、
好きにして構わないわよ」

そう言って手をひらひらとふってやる。
あの花は惜しいが、まぁ、所詮花だ。
別段、大した稼ぎにはならないだろう。
なんといっても食べられないし。

とはいえ、気になるものは気になるわけで。
レミリアたちの後ろをついて歩く。
魔理沙も私の横をわくわくとした表情を浮かべながら歩いてくる。


そして犯行現場にまっすぐ到着。
うーん、ホントにレミリア、アレだけで中国の居場所を突き止めたのか・・・。

「咲夜」

「はい、・・・全く、またやけに面白いモノを生やしちゃって・・・」

そう言って頭を抱えた咲夜が、地面に埋まった中国を引き抜きにかかる。
両手で中国を抱え込んだ咲夜は、そう。
昔話の、大きな野菜を抜く話の一場面みたいだ。
・・・ま、中国を食べる気はさすがにしないけど。

同じことを考えたのか、

「私も手伝うぜ」

と魔理沙が咲夜の後ろについて一緒に引っ張っている。
ずるずる、と地面から抜けていく中国を見ているとえらくシュールな光景だったりする。
・・・ていうか、アレ、生きてるとは思えないんだけど?

レミリアに視線を向けると、

「ああ、そろそろやばいかもと思ったのだけど、案外頑健なものね、ウチの門番」

アレでか。
白目むいてるし、当然のようにぐったりしてるし、意識もないみたいだし。
とても大丈夫そうには見えない。

「妖怪なんてそんなものよ?
むしろ、霊夢、あな・・・いえ、なんでもないわ」

レミリアは何かを言いかけたけど、
そこで口をつぐむ。
??
はて、何が言いたかったのか?
私のほうが大丈夫そうに見えない、ってことはさすがにないと思うけど。

「ふむ、・・・そうね。
霊夢、その花あるでしょ?」

ようやく発掘された(この言葉が一番適切だと思う)、
中国に咲いた花を指差すレミリア。

「ええ、何か生えちゃってるわね」

それに苦笑いで答えると、

「あれ、パチェが探してた貴重な花らしいの。
なんでも浄化された妖怪の亡骸にしか咲かない花らしいわ」

・・・そんな花だったのか。
ていうか、やっぱアイツそろそろ死んでたようだ
もしかして高いのだろうか?

「神社に生えていたのだから貴女のものよね?
これで譲ってはくれないかしら?」

そう言ってレミリアが私に何か紙の束を差し出してきた。
なんだ、これは?
トイレットペーパーか?
私がいぶかしんだ顔をしていると、

「って、こりゃ50万はあるぞっ!?
おいレミリア、お前こんなに出すのかよっ!!」

魔理沙の素っ頓狂な叫び声が聞こえた。
は?
えーと。
これが、噂に名高い札束てヤツかしら・・・。

「当然譲るわっ!!!」

声は素早く、でも手は恐る恐る札束に近づける。

「霊夢、早くお嬢様から受け取りなさい」

咲夜が何か言ってるが無視だ。
こんなにも珍しいモノだ。
毒を持ってるかもしれない、・・・ごくり。

「霊夢、生唾飲み込むなよ・・・意地汚いんだぜ」

ほっとけ。
これでまだ生娘でいられるのだと思うと、これぐらい当然だ。
両手でしっかりと受け取って、取りあえず透かしを確認。
ああ、何かこれだけで至福な気分・・・♪

「まぁ、そのぐらいの価値はあるもの。
さ、咲夜、帰りましょ?」

そう言って日傘と翼を広げるレミリア。

「・・・そうですか。
紅白?
お嬢様からのご好意、大事に使うように」

片手で中国の足を持った咲夜が空に浮かんだレミリアの傍に控える。
もしかしたら中国はあのまま地中に埋まってた方が幸せだったのかなぁ、
とさえ思える光景だ。

そして2人はそのまま紅魔館の方向へ飛んでいってしまった。
まったく、忙しないったりゃありゃしないわ。


紅魔館にほど近い湖の上空。
空中を行く満足気な顔をしたレミリアに、
不満を乗せた表情の咲夜が問いかけていた。

「お嬢様、あんなにあげてしまって宜しかったのですか?」

「何が?」

くすくすと笑うレミリアはやはり、ひどく上機嫌だ。

「紅白にですよ。
もともとウチの門番に咲いていたものなんですから、
いくらでも値切れたのではと思いますが」

本音を言うと、レミリアから直接ではなく、
メイドたる私を通して欲しかった、ということを言いたかったのだが。
さすがに、そこは伏せたようだ。

「んー、咲夜は気付かなかった?」

「何がです?」

「霊夢、かなり衰弱してたのよ。
外見はともかく、経絡・気脈はぼろぼろ。
きっと相当な恩を売れたわ。
ふふっ、あの娘、義理堅いから決して反故にはしないでしょうし」

「はぁ、なるほど・・・御見それいたしました」

さすがだ、と思うがそれは同時にレミリアが、
霊夢の実力を買っているという証明にもなり、咲夜にとって実は面白くはない。
つまりは何か有事が起こった際に便宜を図れるように、
霊夢に貸しを作った、ということなのだから。

それでも、ここはレミリアの知性と直感に素直に驚いておこう、
と判断した咲夜さんであったりする。
レミリアの機嫌を損ねるようなことはしないのである。



そして神社。
霊夢は懐にしまいこんだ札束を服の上から握りこみつつ、
呟いた。

「魔理沙・・・私、気付いたわ。」

「何がだ?」

「いや、お金があれば性別の差なんて小さいわね」

「それは違うぜ」

霊夢が食欲より上に愛を置く日なんてきっとこないだろう、
というのが魔理沙の結論だ。

(終わり)