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俺の妹がこんなに可愛いわけがないSS 或る結末の続き0.1 第4話


この物語はフィクションであり登場する人物・団体・その他名称とは一切関係ありません。PSP版『俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブル・加奈子編』の後日談に相当する二次創作小説です。お兄さん?こんなダメな二次創作小説ばかり読んでいては余計に(ピー)な人になっちゃいますよ?








「・・・へぇ」
「あ、あやせ?どーしたのよ、な、何か急に声が怖いよ?」
「ぇーっと、そんなこと無いよぉ。桐乃は何っっっっにも!気にすることないからねぇ〜」
「そ、そう?」

わたしは電話口の向こうで戸惑った声をあげる親友にもう一度『何でもない』と笑顔で応えてから、少しだけ顔を俯かせる。心中は穏やかではなかったが、どうにか誤魔化すことは出来ただろう。

「それにしてもあやせも良くやるわねぇ。あたしのために馬鹿兄貴とコミケにまで参加するなんてさ」
「うん、桐乃のためだもん。当然だよ」
「・・・そ、そう。でも、さ。あやせには本当に学校でも仕事でもお世話になっているんだしさ、あんまり無茶しないで良いからね?ほら、特にあいつなんてあやせに色目使いまくりだし超キモいんだからあんまり2人きりとかならない方がいいからさ」
「え?そうだね。まさかお兄さんが加奈子に手を出していたなんて・・・うん、あの時お兄さんを蹴っ飛ばしてでも誤魔化した方が良かったなぁ・・・」
「あ、あやせ?け、蹴っ飛ばすって・・・?」

おっといけない、桐乃を怖がらせるなんてもっての外だ。一つ咳払いをしてから、意識を電話の向こうにいるはずの桐乃に集中する。顔を向き合わせていれば、可愛らしい桐乃の顔を見て少しは落ち着けたのだろうが、どうにも心のざわつきが抑えられない。イラつく。だが、・・・我慢しないといけない。

「やだなぁ、桐乃。冗談に決まってるじゃない」
「そ、そうだよね・・・あ、あはは・・・」
「・・・ブチ殺し」
「えっ!?」
「ん〜ぅん?何でもないよぉ〜♪」
「そ、そっか・・・疲れているのかな、あたし・・・」

ダメだ。顔と同様に可愛らしい桐乃の声を聞いていても心が休まることがない。何時もだったら延々と聞いていたい彼女の声ではあるが・・・、今日のところは切り上げさせてもらうことにしよう。

「とにかく、わたしからももう少し節度のあるお付き合いをするように話てみてもいいかな?相手が加奈子だったら、他人事じゃあないしね」
「え?いや、そんなことは・・・」
「桐乃に心配はかけないからさ。どーんと任せてくれれば良いから」
「そ、そう言われても・・・あの・・・」
「あはは、大丈夫、大丈夫。これでわたしも責任感じているし、お兄さんが本気なのかどうか少し確認するだけだよ。加奈子も子供っぽいところあるから、お兄さんがしっかりしてくれないと困るでしょ?」
「あ、うん・・・そりゃ・・・」
「じゃあ、そういうことで。桐乃、またオススメのゲーム、何か貸してね」

わたしは一方的に捲くし立てると、桐乃の返事を待たずに通話をきる。もしかしたら桐乃にも少し様子がおかしいことに気付かれたかもしれない。それでも、頑張った方だとは自分では思う。

「ふんっ!」

ベッドに置いてあった大きめのクマのぬいぐるみを思いっきり壁に叩きつけてから、何度か足で踏みつける。踏む。踏みつける。踏む。踏み抜く。踏む。踏んづける。縫製がほつれ、隙間から大量の綿が部屋中に舞い上がる。ぜいぜい、と乱れた息をそのままに、すっかりとせんべいのように潰れたぬいぐるみには目もくれず、わたしはじぃ、と机の上に置かれた携帯電話を見つめる。桐乃を傷つけたお兄さんが許せない、そんな風に自分を誤魔化しながら。





「あやせ、急に呼び出したりして何のようだ?」
「ずいぶんと素っ気無い態度ですね、お兄さん。ついこの前までことある度にセクハラしまくっていたくせに」
「えっ!?いや、その・・・スマン」
「はぁ・・・、ま、いいですけど」

まだ残暑の厳しいある休日のことである。俺は唐突に妹の親友、新垣あやせに呼び出されていつぞやの裏に交番のある曰くつきの公園へとやってきていた。いや、ここでセクハラしたら、俺、通報されんだろっ!?

「受験の忙しい最中、来てくださってありがとうございます。その・・・、ご相談があります」
「・・・相談、ね」
「はい。相談です」
「桐乃のことか?またあいつの趣味を理解したいとかってヤツの続きか?」

すっかり慣れっこになってしまったフレーズを耳にしながら夏休みのことを思い出す。アキバに行ったり、コミケに行ったりしたのはほんの一月ほど前の話だったはずなのに、えらい昔な気分さえするのはその後がさらに怒涛の日々だったからだろう。それは無論俺にとってだけの話だ。あやせにとってしてみれば、少しのインターバルを挟んだ程度の感覚でしかないのかもしれない。

「・・・え、ええ。そうです。桐乃からゲームを借りてみたんですけど、ちょっと分からないところが多くて。ほら、わたしがそのまま感想を桐乃に言っちゃったら怒らせちゃうかもしれませんし」
「あー。あいつもそこまで・・・いや、怒るかもしんねーなぁ」

俺は想像の中でも不機嫌そうな顔をしている桐乃の姿を顔をしかめて追い払いながら呟いた。何といってもあやせは桐乃のコレクターアイテムを見て『何で集めてるの?意味あるの?』と尋ねることが出来る猛者だ。予行練習ぐらいしておいた方が良いのかもしれない。

「なら、付き合ってもらってもいいですか?」
「えぇっ!?・・・ぉ、おう」
「ふふっ、良かったです♪」

この部分だけを切り取ってみたら嬉し恥ずかしワードを臆面もなく言ってのけるあやせに動揺を隠しきれずに返事をする。すぐ間近にいる少女がにこりと百合の花のような可憐な笑顔を浮かべると俺の胸が勝手に高鳴る。くそ、最近めっきりとロリな肢体に欲情するように調教された俺がときめくなんて、コイツ、マジで天使なんじゃないだろうか。

「じゃあ行きましょうか」
「ここじゃダメなのか?」
「今日も暑いですし、そもそも公園であんな話したくありません。それに・・・ゲームの画面を見ながら解説を聞いてみたいので、わたしの家に来てもらっても良いですか?」
「いくいくいくっ!」
「・・・何でそんなすごい勢いなんですか」
「いや、そりゃあやせたんの部屋なんて行きたいに決まってるじゃん」
「・・・はぁ〜、その変な呼び方は止めてくださいね」

何故かすごい勢いで脱力してがっくりと頭を落としてみせたあやせが、顔を上げる。ちらり、と覗いた瞳が、何か不穏な空気を纏っていた気もしたが、俺はさほど気にした様子も見せずに続けた。

「それじゃあさっさと行こうぜ!あやせの気が変わらないうちにさ!!」

正直に言って、俺の脳内ではあこがれのアイドルのお部屋にお邪魔するぐらいのワクワク感でいっぱいで、そんな細かいことを気にしてはいられなかったのだ。だが、それは男だったら誰だってそうだろうと思う。年下の超かわいい天使のような女の子がプライベートな空間に招待してくれるなんて話、例え罠と分かっていても飛び込まざるをえない。断言する。いや、桐乃との間の誤解が解けてからはそんなに身構えることもないってことも分かってはいるんだが。



新垣家は高坂家から見て駅の反対側の立地で、それなりに大きい庭付きの一軒家である。びっくりするほど大きいわけではなくそれなりに大きい、といった感じは、まぁアニメやゲームじゃあるまいし当然の話なのだろう。とは言え、ざっと見回した限りで庭も外壁も綺麗なもんで、高坂家の長年住んでいます感バリバリの大雑把さと比べるとそれこそあやせの家、という言葉がしっくりと来ることには違いはなかった。

「あの・・・今日は誰もいないので。気軽に入ってください」
「・・・へ?お・・・おおう。お、お邪魔します」

バッグから取り出した鍵を取り出しながら何気ない風に言ってくれるあやせに対して、思わず動揺する。そんな、『お』が多すぎる俺の言葉にくすり、と超かわいい笑みをこぼしたあやせが先導してリビングに案内してくれた。新垣家独特の芳香がふわりと鼻腔をくすぐる。田村さん家の甘い職業柄の匂いとは当然違うが、家にあるような芳香剤の匂いとも違う、何か自然な感じのする花の香りが漂っていた。

「ちょっと待っていてもらっても良いですか?少し部屋を片付けてきますので」
「お、おう。あんまり気にすんなよ?」
「すぐ戻りますから」

手早く麦茶をいれたグラスを俺の前に差し出したあやせが、少し慌てた様子でリビングを後にする。たんたんたん、と聞こえてくる音は多分階段を上る音だ。きっとあやせの部屋は二階なのだろう。

「・・・やっぱり落ち着かねぇな」

リビングに置かれたソファに腰をかけながらあやせに出された麦茶を口に運び、ソワソワと肩を揺する。考えないようにしていたが、俺はこれから天使といっても過言じゃない可愛さを誇るあやせの部屋に招待されるわけだ。・・・ドキドキしてくんな!やべぇ、テンション上がってきた!!

「・・・しかも誰もいないって・・・まさか・・・うへへ」

彼女持ちで何とも不埒なことをと思わなくもないが、想像だけならセーフである。多分。

「いや、セーフだよな、うん、考えるだけなら・・・女の子の家で2人きり・・・」

我ながらどうしようもないアホなことにリソースを割きながら、アレ?と思う。玄関には俺たち以外の靴が置かれていたような気がする。リビングもそうだが、あやせの家らしい潔癖さでとても綺麗に整頓された家庭だ。余計な靴を出しっぱなしにするなんて不精をしているイメージはないんだが・・・。

「ま、そのぐらいは良いんだけどさ、何だかやけに気になるっていうか」

既にあやせが部屋に戻ってから5分ほどが経過している。いい加減に暇を持て余していた俺は立ち上がるとリビングから出て玄関へと向かった。多少拾いとはいえごく普通の一軒家だ。10秒も掛からずに目的の場所まで到着する。

「・・・あれ、この靴って」

少し底の高い濃茶のブーツ。少し汚れているのは普段から使っているせいだろうし、持ち主が足元まであまり気を使わない性質なせいもあるのだろう。サイズはかなり小さく平均的な男性の俺から見ると玩具の靴のようで、どう贔屓目に考えても女性用の靴だ。いや、そんなことよりも、この靴ってか・・・

「お兄さん?何しているんですか、こんな所で?」
「へっ!?・・・あ、ああっ、ちょっと時間を持て余してさ、玄関にそー言えば絵が飾ってあったなと思って」
「ただの安物ですよ?興味があるならすいません、わたしは作家さんとか知らないんです」
「そうなのか・・・まー、ちょっと気になっただけだからさ」

突然あやせに背後から声をかけられて思わずびっくりとして上擦った声が出た。振り向いた先のあやせに何か嫌な予感を憶えた俺は、咄嗟に玄関に飾られた絵を見に来たなんて風に答えてしまう。ニコニコと笑うあやせは上機嫌そのものだが、何で俺はビビッてるんだろう・・・。

「そんなことよりもお兄さん・・・えっと、わたしの部屋に案内しますね?」
「お、おう、ありがとよ」

正直胸をなで下ろす。もしもあやせに絵の何処が気になったのか、などと尋ねられたらお終いだった。多分、あやせにとっちゃ桐乃のフィギュアもどこぞの画家さんの絵も等しく、『何で集めるの?』という感想なんじゃないだろうか。自分の家で飾っている絵にしてはまるで興味がなさそうだった。コレクターの天敵のようなヤツである。

「2階ですから着いてきてください」
「おう」

一般家庭の廊下がそんなに広いはずもなく、あやせの後ろに着いて歩く。そこで気がついたのだが、あやせのヤツ、わざわざ着替えてきたらしい。薄手の白いノースリーブのシャツにチェックの入ったミニスカート、・・・何だか一回り小さい衣服を無理矢理着ているような違和感がある。と言うか、言ってしまえば加奈子が普段しているような格好である。階段を上るあやせの均整の取れた太ももがチラチラと覗き、思わず生唾を飲み下しそうになり慌てて堪える。・・・もしも、この状況でそんなことをしたら確実にあやせのハイキックが飛んできて警察も飛んでくるコンボが待っている。

「ここがわたしの部屋です。さ、遠慮せずにどうぞ」
「そ、そうだな」

部屋の前で立ち止まったあやせが俺に向かって振り返る。先ほどは気付かなかったがボタンは上から3つまでが開いていてその上からゆるゆるのネクタイを引っ掛けただけの格好では、身長差のせいで見下ろす格好になっている俺の位置からはあやせの神々しい胸の谷間が見放題である。な、何でいきなりこんな状況に・・・!あやせの自宅での凄まじい無防備っぷりに戦慄しつつ、彼女に導かれるままに部屋に足を踏み入れた。

「・・・あ、あの、あんまり見ないでくださいね、恥ずかしいですから」

恥ずかしいのはオマエの今の格好だ、と思わなくもなかったが指摘して着替えられてしまってはとても残念なので決して声に出したりはしない。石鹸のような清楚な、香りまで可愛らしい部屋に感動しながらチラチラと部屋の中の様子を窺う。生真面目なまでに整理整頓された部屋の様子はわざわざ俺を待たせて掃除する必要など無かったようにしか見えないが、そこはそれ、女の子として見られたくないものなんていうのもあったのかもしれない。

「いや、桐乃の部屋なんかに比べるとすげー整理されているし、見られて困るもんでもないだろ?」

ベッドの上にはぬいぐるみでも置かれているかと思ったが、特にそんなものは見当たらない。桐乃でさえ謎のタコだか何だかのぬいぐるみを持っているのだが、あやせは違うようだ。代わりになのかは知らないが、枕元には写真立てがいくらか置かれていた。家族で撮ったらしいものと、友達と撮ったらしいもの。桐乃を含めたモデル仲間数人の写真と、桐乃とのツーショット写真の間、何故か2,3個分のスペースが開いているのが気になる。整頓された部屋だからこそ、逆に無意味な隙間があると気になってしまうのだろう。

「も、もう!見ちゃダメですよ、お兄さん!」
「お、おう、スマン」

顔を真っ赤にさせたあやせに叱られるように声をかけられ、さすがに自重する。普段のセクハラじみた発言での羞恥とは違う、唇を尖らせて年相応の女の子のように膨れるあやせは正直、凄まじい可愛さだった。こいつ、マジで天使なんじゃね?と先ほどからそればかりだが、やっぱりそんな風に思わなくもない。

「ところで話は変わりますけど、お兄さんは手錠と足枷、どっちが好きですか?」
「どっちも嫌だよっ!?」

変わりすぎだよ!どんだけ話変わったらそんな拘束プレイの話になるんだよ!

「わたしも喉渇いたので何か飲み物を作ってこようと思ったんですけど、その間お兄さんを一人でこの部屋にしておくのは不安じゃないですか」
「だからって拘束すんなよ!普通に余計なことするな、って言ってくれれば守るよっ!!」
「・・・いえ、それはちょっと・・・」
「何で淀むの!?俺はあやせが本当はただ手錠が大好きな人にしか見えなくなっちゃうよ!?」
「なっ!?そんなわけ無いじゃないですかっ!・・・分かりました。じゃあお兄さんはノートパソコンで桐乃から借りたゲームをしていて下さい。本当に変なことしないで下さいよ?」
「・・・なんで妹の親友の部屋でエロゲープレイしなくちゃいけないんだよ」

俺の呟きに返事が帰って来ることはなく、バタン、という部屋のドアが閉まる音を聞きながら俺は諦めてパソコンの前に座った。あらかじめセッティングしておいたらしく、ディスプレイ上では少し陰気な雰囲気があるものの可愛らしい黒髪の少女の立ち絵が表示されていた。

「・・・何だこのゲーム。アニメなのか?」

クリックするたびに画面がアニメのように動く。紙芝居のようなゲームばかりだと思っていた俺の目には新鮮に映るが、操作方法は普通のエロゲーと同じである。気にすることもなく進める。

「と言うか俺は一体何してるんだ・・・」

割と本気で頭を抱えたくなる。主人公らしき男が二股問題で悩んだりするゲームらしいが、こっちはそんなどうでも良いことに付き合ってやる義理はない。何といっても女子中学生(妹の親友)の家に転がり込んで絶賛エロゲープレイ中なのだ。プレイ中のエロゲーよりもエロゲーっぽいシチュエーションに違いない。これなんてエロゲ?

「・・・ん?」

ガタ、と音が聞こえた気がした。背後からである。マウスをクリックする手を止めて、耳を澄ます。ガタン、と先ほどより大きな音が再び響く。振り向くと、クローゼットの中から聞こえてきた音のようだ。・・・もしかして桐乃みたいに大量に趣味の道具が詰まっているんじゃないだろうな、と嫌な考えが浮かぶ。その上、中身は手錠なんて生ぬるい拷問道具がびっしりなのだ。うお、マジでそんな気がしてきた。

「・・・下手に見たら殺されそうだよな。エロゲーかと思ったらサウンドノベルでしたなんて洒落にもなりゃしねーし」

ぶるり、と震えて『オトギリソウ』やら『カマイタチ』なんて単語を頭から追い出してエロゲーに集中する。何だか思考と行動が妙にイラつく主人公が今度はセミロングぐらいの髪の少女と学校に登校する途中らしい。歩く2人の前に先ほどの黒髪の少女が現れる。

「・・・何コレ、修羅場?」

そんな風に思った時期が俺にもありました。

「えぇっ!?」

黒髪の少女が鞄からノコギリのような刃物を取り出してもう一人の少女の首を切りつける。血しぶきがディスプレイを満たし、後は黒髪の少女の嘲笑が響くばかりの画面で俺は呆けることしか出来そうになかった。何だか俺の今後を暗示する光景だったような気さえしてきて泣きたくなってくる。・・・もしかしたら、今すぐ此処から逃げ出した方が良いのかもしれない。

「お待たせしました」
「ぃひっ!?」

あまりにもタイミングの良いあやせの登場に、思わず悲鳴を上げてしまう。恐る恐る振り返る先にお盆を持って立っているあやせの姿が、先ほどの黒髪の少女とダブって後ずさりたくなる。な、何なの。コイツ、あんなところからゲームプレイさせるとか、確実に俺に殺意持ってるだろ!?

「・・・あれ?終わっちゃったんですか?何だか中途半端なところだったと思うんですが、うーん、やっぱりそーいうゲームは良く分かりませんね」
「あ、ああ?な、なぁ、あやせ。このゲームってどうしたんだ?」
「桐乃から借りたんですよ。パッケージで一番マトモそうだったんで借りたんですが・・・正直すごいシンドくてエッチですし、何とか頑張って進めてたんですけど、終わったのなら良かったです。どんなエンディングだったんですか?」
「あ・・・ああ、そのな・・・多分バッドエンドだよ。幸せにはなれなかったし」
「そうですか」

少しだけ肩を落として言うあやせの態度には特に不信な点は見当たらない。マジで偶然なのだろうか。幸せどころか殺人事件に発展してしまったのだが、もしもあの結末を知っていて惚けているのならば・・・いや、考えたくないな。

「どうする?俺が始めた場所でセーブはしているからやり直すか?」
「遠慮しておきます。バッドエンドと知ってこれ以上やる気はないですし、・・・それにそのゲーム本当にディスク叩き割ってやりたいと思いましたから、もう始めからやり直す気もありません。桐乃も借りる時、あやせにはまだ早いって言ってくれたんですけど、その通りでした」
「・・・むしろ桐乃が心配だな」

確かにあやせどころか俺にもまだ早い、というか一生理解出来そうに無いよ、このゲーム。・・・で、桐乃はこれ楽しんじゃうの?マジで?

「桐乃のオススメっていう別のゲームも借りてますから、そっちをやりましょう。お兄さん、夏休みの続きということでご協力いただけますか?」
「・・・まぁ、オマエがそれでいいなら、な」

今度は後輩の女子中学生と一緒にエロゲをプレイすることになったらしい。おいおい、本当にどうなってんだ、今日のあやせは。さすがの俺でもコイツの様子がおかしいことぐらい分かってきたぞ?

「えっと、インストールはもう済んでいますので、早速始めましょうか。あの、お兄さんに進めてもらいたいんですけど」
「へ!俺がやんの!?」
「はい。だって、あの・・・、恥ずかしいじゃないですか」

奇遇だな。俺も恥ずかしいよ。その言葉をぐっと堪えてゲームのアイコンをクリックする。

「・・・なっ!?」
「・・・げぇっ」

いきなりおっぱいのドアップから始まった。あやせの心底から嫌悪感がこもっていそうな悲鳴と、そんなあやせに脅える俺の悲痛な声が響く。あやせの方は見ないまま、ゲームを進めてやるとどうやら先ほどのは夢オチだったらしい。如何にもエロゲらしいカラフルな髪をした女の子が主人公を起こしにきたシーンに移る。

「・・・」
「・・・あの、あやせさん。やっぱり無理はしない方が」
「お兄さん、黙って進めてください」
「はい」

どうやらこのゲームは何人もの妹と同じ家で暮らす主人公のお話のようだ。・・・どう見ても18歳以上には見えないヒロインもいるが、恐らく突っ込んではいけないのだろう。

「裸ですね」
「・・・はい」

あやせの抑揚のない声が響く。画面では別の女の子(妹らしい)を起こしに行くシーンなのだが、何故か女の子はおっぱい丸出しである。こういうゲームにありがちなパターンで主人公にはボイスが入っていないため、声だけ聞いているとまるでヒロインの一人芝居のようにさえ見えてくる。いや、画面はなるべく見ないようにしてるんだよ!?

「勃起したんですか?」
「やめてっ!?」

画面の向こうの二次元の少女の発言にあわせてあやせが口を開く。思わずあやせの方を振り向いたら、すげー冷たい表情で俺の顔をじっと見てやがる・・・何この女。オマエがやろうって言い出したんだぞ!?くそ、こうなりゃ自棄だ。どんだけエロいシーンが出ても俺からは止めてなんかやんねーからな!


・・
・・・

「もしかしてこのゲーム、すげーエロいゲームなんじゃねーか」
「・・・どうもそうみたいですね。頭痛くなってきました」
「なぁ、あやせ。どうしてこの家には同じ年代の子供が6人もいるんだ?そんなことって可能なのか?」
「・・・お兄さん、そう言った疑問は禁句なんじゃないですか?桐乃から『お約束に突っ込みは野暮』って聞いてますよ」
「お、そんなこと言っているうちにヒロイン選択の場面みたいだな。・・・誰が良い?」
「な、何聞いているんですか、セクハラですかっ!?」
「いや、もう十二分にセクハラ三昧な感じもするしな・・・今さらだろ」

俺が疲れ切ったため息とともにそう呟くと、あやせもさすがに思い当たる場面がたくさんあったのだろう。コメカミを押さえるような仕草とともに、搾り出すような声で続けた。

「じゃあ、その・・・黒髪の女の子で」
「おう。コイツな」

恐れていた通りというか何と言うか、選択した女の子とのエッチな場面に移行したようだ。主人公のハイパー兵器を指で弄ぶ少女の18禁な姿に、さすがにコレはもう限界だとマウスから指を離す。いつの間にかカラカラに乾いた喉をあやせが先ほど持ってきてくれたお茶を流し込んで潤してから、それでも震える声で提案する。

「お、おい、あやせ。もう止めようぜ。正直、このゲームはこれ以上出来ねぇよ、俺」
「・・・そ、そうですか?もう少し頑張ってみませんか?」
「お、おい、あやせ・・・?」

ぎょっとする。あやせの声も羞恥でだろう。震えていたが、そんな状況でもこのゲームを続けるという選択肢を選んだことが信じられない。だって、あのあやせだぞ?破廉恥なことが嫌いな優等生のあやせが、天使のような清純な可愛さを持つあやせが、エッチなゲームをもう少し続けよう、だなんて、くそう、滅茶苦茶だよ。

「も、もしかしてお兄さん、興奮しちゃってるんですか?こんな絵で、興奮しちゃうんですか?」
「え、何言って・・・・」

つい俺が後ろを振り返ると、こちらに向けて、ぐい、と身を乗り出すようにしていたあやせが目の前に見える。3つ目まで開けられたボタンの先に覗く肌色は瑞々しくも何処か男を誘う色気が香る胸元だ。少し汗をかいているのか、しっとりと湿り気を帯びたようなシャツは余計にぴっちりとあやせの並の中学生とは比べ物にならないほど整ったボディラインを強調する。

「・・・な・・・お・・・おい」
「やだ、お兄さん、何て目でわたしを見ているんですか。うふふ、まるで変態みたい」
「あ・・・あや・・・せ?」
「・・・はふぅ」

高ぶった心情を吐露するかのようなため息をこぼしたあやせが、じりじりとこちらに近づいてくる。再び、がたん、とクローゼットが音を立てたような気がするが、気にしてなどいられない。エロゲーもとっくに意識の外だ。扇情的なエロゲーのBGMをそのままに、俺はあやせの潤んだ瞳に囚われたように固まっていた。

「ねぇ・・・お兄さん、このまま、その・・・エッチなことしてみます・・・?」
「お、おま・・・何をふざけたことっ!?」
「ほら、その方がゲームのことももっと良く理解できるかもしれませんし」
「そ、そんなわけねーだろっ!き、桐乃だってそんなことしちゃいねーよっ!?」
「・・・そうですね。でも、女の子がここまで言ったんですから、恥をかかせないでください」

立ち上がったあやせの腕がゆっくりと俺の身体に近づいていく。まだ硬直したままの俺が拒むことも出来ずにいると、かすかに陰鬱な笑みを浮かべたあやせが濁った瞳でこちらを見下ろす格好のまま、ごくり、と喉をならすのが聞こえた。遂に俺を捕まえた腕がズボンのチャックを掴む。指先はかすかに震えてはいたが、離さないように精一杯の力がこもっているようである。

「ダメだ、あやせ」

だから、俺もあやせを精一杯の力をこめて振りほどいた。

「え・・・?」

呆然と、彼女は俺と、転がった自分と、それから自分の腕を見つめた。それから、何かを悟ったように、呟くような声量で、それから叫ぶような大声で続ける。

「だって、お兄さん・・・、わたしのこと好きだって言ったじゃないですか!何ですか、散々優しくして、気を持たせて、わたしの味方して、それで気付いたら勝手に彼女作って!ひどいよ、ひど過ぎるよ!!ねぇ!?お兄さん、わたし変なこと言ってますか!?」
「・・・知ってたのか」
「だったら、少しでいいです!少しの間、わたしと思い出を作ってくれても・・・」
「あやせ」

あやせの捨て鉢な言葉を遮って、精一杯に誠意をこめて続ける。

「俺は彼女、・・・加奈子を裏切ったりできねーよ。加奈子に悪いし、何よりもあやせがすげー傷つくの分かってそんなこと出来るわけねーよ」
「・・・ふ、ふふふ・・・何でそこでわたしが傷つくんですか。わたしからしてくれ、って言っているのに」
「あやせ、加奈子のことも好きだろう?いや、悪い。俺の言い方が卑怯だったよな。俺は加奈子のことが大好きだから、加奈子以外の女性とそーいうことはしたくねーんだ。悪い、あやせ。俺が加奈子を選んだんだ」

俯くあやせに、酷なことを言っているのは分かる。きっと俺は、あやせが俺のことを好きになるなんてことは絶対にありえないと思っていたんだ。あやせの良識に甘えて、好き勝手に自分の好意を押し付けていた。泣かれるのだろうか、当然ながらモテたことなどないので、こんな修羅場は初体験で、キリキリと胃がストレスで悲鳴をあげる。助けてほしい。

「・・・ふふふっ、お兄さんは本当にヘタレですね。あーあ、残念です、ホントーに残念」
「へ?」

あやせは笑っていた。目の端に涙を浮かべながら笑顔を浮かべて、本当に嬉しそうに残念、と繰り返す。俺はあまりにも予想とは異なる光景に混乱しながらも、何事も無かったかのように立ち上がってクローゼットの前までゆっくりと歩いていくあやせを俺は見つめ続けることしか出来なかった。

「っ!!?」

無造作にクローゼットを開けるあやせの足元に、何かがごろごろと転がった。・・・って言うか。

「加奈子じゃねーかっ!!?」
「はい、正解ですお兄さん」
「むーっ!むぅーっ!?」

正確には下着姿まで服を剥かれた挙句、両手両足を縛られ猿轡まで噛まされた来栖加奈子である。慌てて加奈子の傍に近寄って、猿轡を取ってやる。ぶは、と色気のへったくれもない勢いで呼吸をした加奈子がぜいぜい、と息を乱したまま、凄い勢いであやせに声を張り上げた。

「て、てめぇっ!何してくれてんだよ、し、死ぬかと思ったじゃねーかっ!!?」

・・・死ぬっていうか、普通に犯罪過ぎるよ。あやせが未成年なのを差し置いても懲役取れるんじゃないかとさえ思う。さすがにあやせを驚愕の瞳で見つめてやるが、彼女は何事もなかったかのように天使のような笑みを浮かべて加奈子に両手を合わせる。

「ごっめーん。ほら、加奈子がお兄さんと付き合うって聞いたらさ、すっっっっっっごく心配になっちゃってさ?お兄さんってこの通りだし、加奈子もちょっと前まで逆ナンとかしてたみたいだったしさ。余計なお節介かな、と思ったけど、二人とも本気かどうか確認したくってちょっと確かめさせてもらったんだ。・・・本当にごめんね?」

そんな白々しい台詞を吐きながら手際よく加奈子の拘束を解くあやせは、どう見ても犯人とは思えない。多分今ここに警察が踏み込んできたら被害者A(加奈子)、被害者B(あやせ)、加害者(俺)という風にしか思えないだろう。・・・それにだ、今さらながらあやせの先ほどの誘惑がドレだけヘビーな罠だったのか気付いて、俺の顔がさっと青ざめる。

「こ、コイツはあたしんだからな。ゆ、誘惑してんじゃねーよ、このデカ女」

拘束を解かれた加奈子が俺の身体にぎゅっと凹凸の少ない身体を押し付けながら、警戒のこもったままの声をあげる。・・・いや、本当に危なかった。俺、ナイスだ。

「って、う、うを・・・急に外に出たら腹冷えて尿意が・・・やべぇ・・・超おしっこいきたい・・・」
「げぇっ!?何言ってんの、オマエ!さっさと行ってこいよ!!」
「きょ、京介ここで一人にしたらまたあのサイコがぜってー狙ってくるから離れたくねー。くそ、こうなった一矢報いるためにいっその事ここでしちまうか・・・?」
「え゛っ!?」

さすがのあやせも顔を青ざめさせるが、俺の顔も一緒にまっ青だ。だって、俺もコイツのおしっこ被ることになるぜ?

「ま、待て早まるな、加奈子!そ、それはダメだ」
「けっけっけ、こうなりゃ京介にもマーキングしてやるぜ・・・か、加奈子のなら、へ、平気だろ?愛があるし」
「あ、愛があってもノーサンキューーーーーーッ!!」

結局、あやせが土下座して俺と加奈子のことを認める、という条件で加奈子はトイレに駆け込んだのだった。全く、アイツは本当に転んでもただじゃ起きないヤツだよな・・・。



「お兄さん」
「・・・ん、何だ、あやせ?」
「すいません。ちょっと頭に血が上ってやりすぎちゃいましたね、その・・・許せないのなら・・・わたしは」
「何のことだ?」
「え?」
「ああ、桐乃が貸したゲームのことか?アイツにゃあ、もっとソフトなものを貸してやれって怒っておくからよ、あやせはあんまり気にせずにまた気が向いたら桐乃のゲームにも付き合ってやってくれよ。きっと、アイツも喜ぶからさ」
「・・・はい」

はにかむあやせを見て、俺だって少しは勿体無い、と思わなくもなかったさ。何しろ俺が愛を叫んだ女はしょんべんを交渉の道具に使うぐらいのキワモノだ。いや、俺だって不思議だよ、ぜってーあやせだろ、選ぶならさ!?

「ねぇ、お兄さん。わたし、加奈子のこと、実は嫌いなんです」
「そなのっ!?」
「はい。だって、加奈子ったら桐乃にズケズケと物を言うし、私がいくらタバコとかそれ以外の風紀のことを言っても誤魔化すし、桐乃が大好きな顔の作りしてるし、悪口ばっかりで社交辞令ってものをしらないし、桐乃に大好きって言われてもそんなに嬉しそうにしてないし・・・」
「そ、そっか・・・」

よーするに桐乃が加奈子のことを親友だと思っている以上、あやせは加奈子のことを好きになれないらしい。難儀なヤツだ。

「でも、わたしは加奈子のことを親友だって、凄い女の子で大切な友達だって思ってます。だから」

そこで一度一呼吸おいてから、あやせは笑顔で続けた。

「加奈子を悲しませたら、ノコギリで首を、きゅ、ってしちゃいますからねっ」

・・・コイツ、やっぱり最初っから、罠だったんじゃねーかよっ!?
訂正する。加奈子でもコイツでもどっちもどっちだよ、全く、俺の周りにはまともな女がいやしないな、はっきり言ってよ。





今日の後日談。というかオチ。
「いや、マジで助かったぜ・・・ありがとな、京介」
「あん?礼を言われることはしてないだろ?まぁ、二度はゴメンだけど」
「そんなことねーって。あやせ、あたしが猿轡しても騒いでたらさ」
「喋れるもんなのか?」
「いや、唸り声みたいのならいくらでも出るし」
「それもそうか」
「アイツさ、でっけぇ針と糸持ってきて加奈子の口縫おうとしたんだよ・・・」
「・・・え?」
「京介が下で玄関の方に移動してくれたから助かったけどよ」
「・・・ま、まさか、冗談だろ?」
「それにあのデカ女、あたしの服奪って自分で着てたんだぜ、まじやべーって」
「止めろ、今日は良い話だったように誤魔化させてくれよ、頼むから」
「加奈子、多分今日の夢に出るね、アイツ。オネショしたらまじやべー」
「俺も出てきそう・・・首が・・・」

俺と加奈子は揃ってため息を零しながらトボトボと新垣邸を後にしたのだった。


(続く)