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俺の妹がこんなに可愛いわけがないSS 或る結末の続き0.1 第3話


この物語はフィクションであり登場する人物・団体・その他名称とは一切関係ありません。PSP版『俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブル・加奈子編』の後日談に相当する二次創作小説です。で、その加奈子とやらは今度は何処のスーパービッチなのかしら。








あのお盆の日のことを思い出すとこぼれてしまうため息が、また口から自然と出てくるのを感じた。いい加減に、直視しなければいけないのだろう。とは言え、直接聞くことは憚れる。何を、どうやって聞けと言うのか。分からない。分かるわけがない。
結局、私は弄んでいた携帯電話のディスプレイをじっと見つめた後、ここ一年で間違いなく最も多く繰り返したであろう行動を焼きまわすようになぞる。トゥルルルル、トゥルルルル・・・わずか数秒のタイムラグの後、目的の人物の能天気そうな、それでいて何処かイラついたように感じる声が聞こえた。

「・・・あんたか。なに、何のよう?」
「今日は随分と機嫌が悪いのね。そう、また兄さんと喧嘩でもしたの?」
「何それ。と言うかきもいからその呼び方すんな」
「ふふっ。訂正するわ。先輩と喧嘩でもしたの?」
「してねーっつの」

彼女と話していると、自然と口の端が嬉しげな様子につりあがる・・・らしい。私は自分の調子を取り戻しつつあることに安堵を覚える。だが、そんな素振りは見せるつもりもなく、電話ごしの声色にはおくびにも出さずに続けた。

「ええ、そうでしょうね。あなたはそう言うのでしょう。分かっていたわ」
「・・・ま、あんたに理解しろと言っても無駄か。厨二病乙〜」
「その呼ばれ方は好ましくないわね」
「そりゃそーでしょ。高校生にもなって厨二じゃあねぇ。ぷぷっ、マジウケる」
「言ってなさい。今日はそんなことを言うために電話したのではないの」
「ん?何?どったの?」

一歳年下の、それでも交友関係の少ない私にとって間違いなく一番仲が良いだろう少女は、見てくれと言動はともかく中身は結構真面目で面倒見の良い常識人だ。だから、私の口調からこれから振られるであろう話題がそこそこ真剣なモノであると理解したようだった。彼女のこういう頭の回転が速いところは、正直に言って私はすごく助かっている。

「あなたの兄の話よ。夏コミに来ていたのは・・・知っているかしら?」
「ああ、そうみたいね。・・・ちっ、荷物持ちでもさせりゃ良かったわ」
「・・・」
「・・・あによ?」
「いえ」

話しのトーンが大分落ちたことに、少しだけ面食らう。もしかしたら彼女も既に知っているのかもしれなかった。・・・いけない。私まで落ち込んでいては話が進まない。気付かれないよう、一度深呼吸をしてから続ける。

「夏コミで、私のサークルにやってきたのよ、あなたの兄が」
「は?何それ、って言うかあんた参加してたんなら言ってくれれば売り子ぐらいやってやったのにさ」
「売り子の件は冬コミでお願いするわ。・・・女連れだったわ」
「へぇ」
「確か・・・あなたの親友で、新垣あやせ、とか言ってたわね」
「はぁっ!?」
「随分と仲良さそうに私のサークルの前でいちゃいちゃと・・・、一言文句は言ったけれどまだ言い足りない気分よ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」

幾分か話に誇張を加えながら話してやろうとしていたのだが、電話口から横槍が入ったので一度中断する。そんなに驚くような話だろうか。訂正する。私は、あの子が驚くと分かって、それでも我慢出来ずに電話をかけてしまったのだ。

「あやせ?あやせって言った、今!?」
「そうよ?」
「本当に?どんな子だった?身長は?髪型は?」
「おかしなことを聞くのね?身長は・・・あなたよりも高いぐらいで、髪型は長髪のストレートで合っているはずよ」
「身長はあたしよりも小さくて髪形はツインテールじゃないの!?」
「・・・違うわ。どういうこと?あの子は新垣あやせじゃないのかしら」

どうも話がチグハグだ。もしかしたらあの会場では偽名を使われたのかもしれない。理由は全く検討もつかないが。

「ううん。その子は新垣あやせで間違いない・・・んだけど」
「だけど?」
「あのバカ」

バカというのは彼女の兄で、私の先輩。つまり話題の人物だ。それにしても私は新垣あやせと先輩のことを尋ねておきたかっただけなのだが、何だか妙に食いつきが良い。しかし、私がまるで意図していない方向でというのが曲者だ。

「来栖加奈子っていう私の中学の友達と付き合ってんのよ。夏コミで会ったのがきっかけとか聞いた」
「は?」

思考が停止する。
今、桐乃は何て言った?
分からない。分かりたくない。

「なのにあやせとも会ってたとか・・・何アイツ。どんだけあたしの友達に手ぇ広げてんだってーの。マジ信じられないんですけど・・・」
「え、え・・・え?」
「まさかあのバカ、あたしの友達でハーレムとか作ってんじゃないでしょうね。エロゲーのやりすぎでその気になって」
「は、はれ?」
「そうだ、あんたさ」
「な、なにかし・・・」
「ちょっと兄貴のことレイプしてきなよ」
「ぶっ!!」
「それでさ、そのまま帰りとかに交通事故で死ぬの。そうすりゃ死んだ女を責めることは出来ないし、あのハーレム男も少しは目が覚めるんじゃない?我ながら良い作戦な気がしてきたわ」

携帯電話の通話口に思いっきり凍った頭のまま吹きだしてしまったが、逆にそれで頭が回転を始めた。とりあえず直前に彼女が言った言葉には反対しておこう。

「お断りよ。まるで良くないわ。さすがビッチね、脳内があのおめでたい携帯小説のままなのね」
「えぇ?良くない?めっちゃ燃えるじゃん!」
「お断りよ。大体、その作戦でもっとも大変なはずの私にメリットは皆無だし」
「あるじゃん。どーせ売れ残るだろう処女を無駄にしないで済むよ?」
「ぶふっ!あ、あなた・・・ちょっと何時にもまして変よ?何かヤバイ薬でもやっているんじゃないでしょうね?」

電話越しだと冷静に聞こえるが、冷静な発言のわけがない。私は額にじっとりと冷や汗をかきながら、今後の友人付き合いの進退を含めて彼女の発言の賛否を考える。・・・う。顔が凄まじく熱気を持つが、どう考えても出来るわけがない。考えるまでもなかった。

「失礼ね。あんたじゃあるまいし。で、どうなの?他に何も無ければこの作戦を・・・」
「ま、待ちなさい!まずはもう少し詳しい話を聞かせなさい。まるで状況が分からないわ。・・・そうね、始めに聞いておきたいのだけれど、その加奈子さんとやらはどんな人なの?」
「んー、背格好に顔立ちがメルルにそっくりなあたしの同級生」
「・・・なにその2.5次元キャラ」
「それで休みの日とかは繁華街とかで逆ナンして男にご飯奢らせたり遊んだりしてるって聞いたことある」
「ビッチ!スーパービッチ!!」
「え?普通じゃない?」
「ありえないわ。・・・もしかしてあなたもそう言う事をしているのかしら?」
「いや、あたしはしてないけど。知らない人とご飯とか超キモくない?」
「・・・ま、いいわ。しかし、そうなると話は違ってくるわね」
「何がよ?」
「先輩は正直言って女性の扱いに慣れた人ではないわ。そこに現れた遊んでる女・・・、騙されているのではないかしら」
「・・・そんなことはないと思うけど」
「友達をかばいたくなる気も分かるわ。だけど、あの先輩とその女の子、冷静に考えてみて・・・つりあっているかしら?」
「ないわ!」
「つまり・・・」
「つまり?」

そして、一時間も経過しただろうか。途中でチャットに切り替えたせいもあり、随分と彼女との話は白熱してしまった。そして出した結論は・・・、改めて考えて見るとただの友達に過ぎない私が何を場違いなことをしているんだ、と思わなくもない。同時に。でも、と考える。先輩に告げた言葉はまだ、私の胸に残っている。

「私はあなたのことが好きよ。あなたの妹と同じくらい」

納得させてごらんなさい。そう声に出さずに呟いてから、私はそっとため息をこぼした。





「・・・俺って受験生だったよな」
「そりゃーそうだろ、就職するつもりでなきゃーな。当たり前じゃん?」

俺の名前は高坂京介。高校三年生の受験生である、受験生なんだよ!そんな俺は、夏休みの日曜日にビシッとスーツを着込んでどこぞのイベントホールの控え室に詰めている真っ最中である。もちろん、受験勉強のためではない。・・・そんな奇抜な勉強方法があるわけはない。

「では、その受験生の俺は一体何処で何をしているんでしょうか?」
「決まってんだろ?」

パイプイスに腰掛けて髪のセットを弄っていた少女がくるりと振り返る。茶目っ気を秘めたつり目がちな大きな瞳が、いかにも意地悪気な様子に歪んでいた。ピンク色の露出の大きいコスプレ服のせいか、何時もよりも子供っぽく見える女の子はとても楽しそうに声をあげる。

「加奈子のマネージャー♪頼りにしてるよん、マネージャーさんっ♪」
「・・・はぁ」
「・・・んだよ。折角媚売ってやってんだから、もう少し嬉しそうにしやがれ」
「せめて顔も作ってやってくれ。声だけ媚びられてもな」
「はぁーい。マネージャーさんが一緒じゃないとぉ、加奈子ぉ、心細くて泣いちゃいそうなのっ♪」

俺の言葉に従ったのだろう。一度鏡に向き直った後、オタク好きのしそうな清純っぽい笑顔を浮かべて振り返る加奈子の姿ははっきり言って可愛い。これで許してしまいたくなるあたり、やっぱり女の子って得だよなと思わなくもなかった。

「だからぁ、加奈子と一緒に大学入学するために3年間浪人しよっ♪」
「出来るかっ!!何が悲しくて妹と同級生にならなきゃいけねーんだよっ!!」

思わず突っ込む。さすがに俺も自分の生活があるわけで、こうも毎回毎回、コイツに付き合ってやるわけにゃーいけないっての!いくら恋人だっても限度があるだろ?

「ち、近寄ってくんな。キメーんだよ」
「は、はぁ?」

だが、俺が加奈子に詰め寄ろうとした時である。コイツは俺が歩いたぶんだけ、わざわざ椅子から立ち上がってそそくさと後ろに下がって逃げ出しやがった。しかもキモいとか言うなよ!

「何逃げてんだよ。一緒じゃないと寂しいんだろ?」
「そ、そんなん、冗談に決まってんだろ?本気にすんな。お、おい?コラ、近づくなって!」

あれ?コイツ本気で嫌がってね?地味に傷つく!だけど何か脅えた様子の表情浮かべる加奈子って新鮮だから、コレはコレで追い込んでみたくなってくるな!

「いいじゃねーか。何逃げてんだよ?」
「だから近づくな!キモいんだよ、本番前にオメーのしょぼい顔みたくねーっての!」
「しょ、しょぼ・・・」

さすがにカチンと来るが、小動物のようにぶるぶると震えながら顔を逸らして言われてもそれほどイラつきはしない。彼女の罵声にもめげずにゆっくりと加奈子を追い込んでいく。狭い部屋である。すぐに加奈子は隅に追いやられ、俺の声に反応するように首をぶんぶんと左右に振って俺から逃れようとしていた。

「・・・さすがに傷つくぞ。そんなに逃げられたら」

折角の受験生がわざわざ休日を潰してやっているのに、という気持ちが強いせいもあったのだろう。俺は幾分強気な態度で加奈子の両頬をしっかりと掴んで顔を持ち上げると、ほんの数十センチほどの距離で彼女の瞳をじっと見つめてやる。・・・恋人でなければ普通に犯罪だよな、コレ。

「コラ、どういうつもりで・・・」
「あ、あわわわわわ・・・」
「おい、オマエ、本当にどうしたんだよ?」

だが、加奈子の態度は俺の予想とはまるで異なるものだった。大きな瞳がぐるぐるとあっちを見たり、こっちを見たり。それを俺が追いかけるように視線を向けるとさらに慌てた様子で瞳をぐい、と逸らす。しかもえっちなことをしている時よりもさらに頬を赤く染めた様子はまるで何かの病気なようでもあって、一転して心配になってくる。

「な、何でもねーってんだろ!良いから離せよ、この強姦魔っ!?」
「ご、ごーかんっ!?言うにことかいて何叫んでやがる、オマエっ!」

俺の拘束が弱まったのを察した加奈子が不穏なことを叫びながらじたばたと暴れ始める。冤罪を生み出しそうな彼女の口を抑えてやろうと手を伸ばすが、がちがち、と歯を鳴らして威嚇する加奈子の前に怯んでそこまでの強硬手段を取るのを躊躇わせる。・・・噛まれそうだしな。

「顔近づけんなってんだろ!キメーんだよっ!」
「お、おい・・・くそ・・・何だよ急に・・・」

本気で抵抗されていると思うと、俺の腕から自然と力が抜けてしまう。加奈子の態度があまりにも意味が分からなくて、困惑のあまり問い詰めることも出来ずに距離を取る彼女を言葉もなく見送ってしまう。

「・・・って、あら・・・?」

気付くと俺の足からも力が抜けて、ぐたり、と床の上にうな垂れていた。くそ、どんだけショック受けまくってんだよ、俺・・・。情けねーな。

「かなかなちゃーん、本番前に少し打ち合わせしておき・・・何この状況っ!!?」

何時の間に入ってきたのだろうか。楽屋に入ってきたブリジットがぎょっとした表情で俺と加奈子を見つめていた。そりゃ、この前加奈子が俺を押し倒していたと思ったら、今度は俺がうな垂れていればその気持ちも良く分かるよ。・・・って言うか俺にも今の状況は訳が分からない。



「そっか。それで問題ないんじゃないか。ブリジットちゃん、わざわざありがとうな」
「あ、はい。かなかなちゃん、大丈夫?」
「うっせー。何ガキのくせに年上ぶってんだよ、テメー。加奈子が問題あるわけねーだろ、オメーこそ台本通りに進めることに精一杯になって取り返しのつかない失敗すんじゃねーぞ。大まかな流れさえ間違ってなけりゃフォローできるんだからな」

そんなわけで一先ず加奈子の問題は先送りにして今日の舞台の打ち合わせである。事前にスタッフと段取りを話し合ってはいるが、今日は寸劇のようなコスプレをしたりミニコンサートをするわけではなくて、2人で司会進行をやらなくてはいけないそうだからブリジットも不安になっているのだろう。何時もよりも幾分饒舌気味にイベントの進行について話すブリジットの様子はかなり緊張しているみたいだった。それこそ、傍若無人な加奈子が心配気なコメントを返してやるぐらいに。

「そうだぜ、ブリジットちゃん。こんなんでも加奈子はお姉ちゃんなんだから。コイツ、見た目よりは結構頼りになるからさ。困ったら頼ればいいんだって」
「な、何恭介の分際で勝手なこと言ってんだっつーの。オメー、自分は何もしてねーくせに軽々しく頼れとか言うんじゃねーよ」
「はい、よ、よろしくね、かなかなちゃん」
「はいはい、よろしくー」

ぱたぱた、とブリジットへとうっとおしそうに手を振る加奈子は何時も通りのクソガキである。取りあえずステージにまではさっきのドタバタは引き摺らない様子だと、少しだけ安堵の息をこぼしてから改めてブリジットに向き直る。

「ブリジットちゃん、もう日本での暮らしは慣れたか?困ったことがあったら俺でもコイツでも言ってくれていいからな」
「あ、はい。困ったことと言えば、あの・・・。かなかなちゃん、今度一緒に遊びにいきたい・・・んだけど」
「何で加奈子がこのガキの面倒みなくちゃいけねーっつんだよ、オイ」
「そっか。じゃあ加奈子置いて俺と一緒に遊びにいくか?」
「何言ってんだ、このロリコン。マジヤベー、本気でヤバすぎだろ。しゃーねぇなぁ〜、加奈子ぉ、暇じゃないけどこのアホとつき合わせるぐらいだったらあたしが遊んでやっからよ、感謝しろよ、ガキんちょ」
「う、うんっ。えへへ、嬉しいな」

ブリジットは一通り加奈子に心の底から嬉しそうな笑顔を見せた後、思い出したように真面目な顔で俺に向かって口を開いた。

「お、お兄さん。お兄さんはかなかなちゃんの彼氏さんなんですから、他の女性にそうやって声をかけるのは良くないことですよ。かなかなちゃん、可哀想です」
「そ、そっか・・・。うん、そうだよな・・・」
「そうです。じゃあ、お兄さん、ごめんなさいは?」
「おう、加奈子、ごめんな」

正直なところ、さすがの俺でも小学生相手に下心を抱いたりはしていないし、先ほどの発言もあー言えば加奈子もブリジットと遊ぶ約束をしやすいかと思っただけなんだが・・・。ここはブリジットの女心と、それから小学生ですら恋敵となると心配されている俺の彼女に気を使って素直に謝っておくことにしよう。

「・・・あー。まぁ、うん、・・・いや、気にしてねーし」

実際、加奈子も俺の謝罪をどう受け取ったら良いものか、困惑している様子だった。いくら童顔な上スタイルも小学生並みと言っても、リアル小学生に色恋でライバル扱いされるという自分が想像つかないのだろう。だが、ブリジットはそんな俺と加奈子のやり取りに満足したらしく、嬉しそうに破顔してから続けた。

「でも良いなぁ、恋人同士。ねぇねぇ、お兄さん、かなかなちゃんの何処が好きなんですか?えへへ・・・ちょっと厚かましいですけど、折角なんで教えてほしいんですけど」
「え?え、えぇっと・・・」

俺はちょっとじゃねぇよ、精一杯厚かましいよ、と心の中でため息をこぼしつつ、チラリと隣の加奈子へと視線を向ける。アイツは再び落ち着きなさそうにきょろきょろと視線を縦横無尽に走らせ、それでも俺の発言が気になるようで意識はこちらに集中させている様子である。器用なヤツだ。それにしても好きなところって言われてもな・・・、要はアレか。このクソガキの良いところをあげればいいんだよな。

「顔」
「はぁっ!?」

加奈子が分かりやすいほど憤怒の表情を浮かべていた。いや、ここで身体の相性とか答えなかっただけ、俺、空気読んだつもりなんだけどな。いくら色んな意味で重要とは言え、小学生の子供にするべき話では到底ない。言うまでもないけどな。

「それからアレだ。コイツの前向きさとか度胸のあるところとか好きかな。後は女々しくなくてさっぱりしてるんだよな、コイツ。女の子らしくないっちゃーらしくないかもしれないけどさ、俺はそういうところ悪くないな、って思うぜ。」
「きゃーきゃーっ、いいなぁ、いいなぁ。かなかなちゃん、いいなぁ〜♪」
「ぅ・・・うっせーな。は、恥ずかしくねーのかよ、そんなアホ面ぶら下げて」
「恥ずかしーけどよ。ま、いいだろ、たまにはさ」
「ちっ・・・マジうぜー」
「かなかなちゃん、顔まっかーっ♪」
「う、うっせー、テメー、このクソガキっ!?」

尚もきゃーきゃーと騒ぎ続けるブリジットを加奈子が押さえつけようと手を伸ばす。その手を何とか掻い潜ったブリジットがニコニコと笑顔を浮かべながら嬉しそうに声を上げる。

「お兄さんもかなかなちゃんも本当にラブラブなんですね。いいな、いいなぁ。かなかなちゃん、さっきのお兄さんの言葉を聞いてるとき、すっごい嬉しそうでしたよ♪」
「なっ、何言ってんだオメー!」
「・・・そっか。そりゃ良かった。さっきは何だか避けられていたからさ、ちょっと凹んでたんだけど」
「そ、そりゃ・・・」

ごにょごにょ、と口ごもる加奈子。だが、俺が加奈子のどんなところが好きなのかを素直に伝えたせいだろうか。アイツは諦めたかのように顔を上げると、消え入りそうな声で続けた。

「な、何だかよ。桐乃にアレ話して以来、どうもダメなんだよ。きょ、京介の顔マトモに見れねーってのか、すげー意識しちまうってかさ。近づかれただけでアホみてーに顔熱くなんし、加奈子が加奈子じゃなくなっちまうっていうかよ。まじヤベーんだって」
「わー、かなかなちゃん、可愛いー♪」
「・・・何だそりゃ?」
「だ、だから自分でもわかんねーんだって」
「きっと、かなかなちゃんがお兄さんのことが大好きだからですよっ!!昨日見たアニメにそんなシーンがありましたしっ!!」

何故か鼻息荒く力説するアニオタなブリジットに胡散臭そうな瞳を返してやってから、加奈子の耳元へと顔を近づかせる。物は試しだ。

「おい、加奈子」
「ひ、ひぁっ♪」
「可愛いな、オマエは」
「ひゃん♪」
「愛してるぞ」
「ひゃぁああっ♪」

なんて言うか、妙に反応がエロい。ビクビクと震えながらヨダレを垂らさんばかりに半開きにした口から甲高い声を洩らす少女の姿は、恋と言うより発情と言った方があからさまにぴったりと来る。今すぐスカートの中に手を突っ込んで下着を確認してやりたい衝動が浮かぶが、ブリジットの見ている前でそんなことが出来るわけがない。自省してから加奈子の耳元でこっそりと、後でたくさん相手してやるからと囁いてやってから離れる。

「・・・な、何だかわたしまでドキドキしてきました・・・」

ブリジットの情操教育にもどう見ても悪すぎだしな。



「そー言えば、今日の台本に一箇所抜けがあんあけどさ。何コレ、落丁なん?」
「ちょっと待ってくれ・・・ああ、この最後のところか。普通にプログラムが全て終わりなのかと思ったけど、そう言われると確かに構成がおかしいな?何だこりゃ?」
「そうですか?わたしのは普通ですけど・・・ああ、コレは何だかドッキリとか言ってました」
「ドッキリ?」
「はい、かなかなちゃんに内緒のサプライズがあるから秘密にしてくれって言われてます」
「そーなんか、ま、いいけど」

一応はマネージャーのはずである俺まで秘密ってどういうつもりなのかね。俺まで秘密にする理由・・・分からんな。ちらりと時計に目を向けると本番まで後10分ほど。どうせすぐ分かることだし、それにブリジットの様子から言ってもそう悪い話でもなければ、気にするほど大したサプライズでもないのだろう。多分だけどな。

「加奈子、もうすぐ時間だけど色々と大丈夫か?」
「あん?・・・ぉ、おう、別に問題ねーって。イベント終わったら京介がご飯奢ってくれんだろ?」
「奢らねーよっ!?」
「あん?後で相手してくれんだろ?デートしよーぜ、デート」
「・・・ぐ。確かに言ったな、俺。早まったかな・・・」
「いいじゃねーか。その後食ったカロリー分は京介のために使ってやっからさ」

にまにま、とイタズラ気に笑う加奈子は既に先ほどまでの取り乱した様子はない。本番が近いからプロ根性で耐えているのか、あるいは俺に内心を話したことで少しは吹っ切れたのか分からないが、まぁ、この分なら本番で変なミスはしねーだろうし、一安心ってところかな。

「一緒にランニングでもするんですか?それだったら、わたしも一緒に・・・」
「いや、しねーし。でも、そーだなぁ〜」
「かなかなちゃん、わたしの顔見てどうしたの?」
「京介、3人で、とかどうよ?」
「しねぇよっ!?何考えてんのっ、オマエっ!!?」
「冗談に決まってんだろ、バァーカっ!フヒヒヒっ、何顔赤くしてんだよ、このロリコンっ!」
「・・・?」

こくん、と小首を傾げるブリジットは加奈子が何を提案したのかは分かってないようだが、マジ洒落になんねえからな、その冗談っ!俺は一瞬だけ頭の隅に浮かんだ加奈子とブリジットが裸で折り重なっている映像を何とか吹き飛ばそうと彼女たちには気付かれないように首を振ってみせた。くそ、さっき小学生女子には興味ないよ、と考えていたばかりだよ、俺!もう一度言うけど、興味ないからね!?

「そう言えば今回も楽屋別々だね。わたし、一人は寂しいから、かなかなちゃん、一緒のお部屋の方が良いよね?」
「うっせー。加奈子は一人の方が気楽でいいっつの。ガキは塗り絵でもして時間潰してな」
「ひどいよ〜。だったらかなかなちゃんのマネージャーさん借りるから良いもん」
「ダメ」
「かなかなちゃんのどケチ〜〜っ」





「それでは、最後となりましたが、ここから驚きの展開が待っています!今日のサプライズゲストでーす。今日はなんと、コラボイベントも決定したアニメ化企画進行中!『妹都市』でいきなり大ヒット、謎の女子中学生作家のきりりんさんが、何と、遊びにきてくれていまーすっ!」
「は?何それ?・・・っとと、えぇー、すごぉーいっ、びっくりぃっ!そんなサプライズ全然聞いてないよぉ〜!?」
「かなかなちゃんにはどうしても秘密にしてくれって、きりりんさんから頼まれたんでーすっ。ごめんね、かなかなちゃん。それでは、本日初公開となる『妹都市』のPVとご一緒にメッセージをお願いしまーすっ」

イベントも終盤に差し掛かり、プログラムもほぼ順調に消化したことで何処か弛緩した雰囲気が漂っていた会場だったが、ブリジットの前置きの無い突然のサプライズのせいで観客中にざわめきが走る。加奈子も一瞬ではあるが、素の自分が出そうになったために、慌てて猫を被るのを俺はステージ横からハラハラとした様子で窺っていた。だが、気になるのは加奈子がドッキリ企画とやらを無事に切り抜けられるかどうかだけではない。桐乃だと?アイツ、一体何を考えてるんだ?俺の疑問を他所に、バックスクリーンに流れ始めたメルルとは違うアニメのPVと同時に、年の若い女の子らしい、可愛らしくも芯の通った声が響く。

「・・・こんにちはー。きりりんでーす。顔出しNGらしいんで皆さん声だけで、ごめんなさーい。今日は私も大好きなメルルイベントに呼んで頂いてとっても嬉しいです。しかも、私の小説とコラボ企画までしてくれるなんて、本当に感激していまーっす」
「・・・?」

どうやら桐乃は関係者席に座ったまま、マイクで会場のスピーカーに出力しているようである。会場も突然のサプライズゲスト、それも声だけの存在に不可思議そうなざわめきが続いている。いや、ステージにいる加奈子まで首を捻ってる始末だしな。

「今日はこの場で一つ、発表させて頂きたいことがありましてお邪魔させて頂きました。この秋スタートの新番組『妹都市』に登場するヒロインの妹役に、かなかなちゃんを指定させていただきます。かなかなちゃんの声を聞いた瞬間、絶対にやって欲しい、とスタッフの皆様に無理を言ってしまいました」
「はぁっ!?」

思わず俺の口から声が漏れた。観客席まで届かないように咄嗟に口を抑えたが、・・・どうやらそんな心配は無用だったようだ。俺だけじゃない。観客たちも突然の発表に桐乃の発表をどう受け取るべきか迷っている様子だった。

「うわぁ〜!かなかなちゃん、良いなぁ〜。おめでとうございます〜!!」
「え?あ、・・・あ、ぁあ?」
「か、かなかなちゃん。ほら、何か言って?」
「えぇ・・・と。うわぁあっ、ごめんなさ〜い。突然の指名にびっくりして何も言えなかったですよぉっ!もう、ひどいよ、ブリジットちゃん、ナイショにしているなんて」
「えへへ、ごめんね、かなかなちゃん。という訳でかなかなちゃんにもサプライズな『妹都市』とのコラボ企画でした〜。ドッキリ大成功〜〜♪」
「あ、ありがとうございます。精一杯頑張りますっ!」

加奈子が取り繕うようにペコリと頭を下げると、会場のボルテージがわっ、と急上昇するのが分かる。聞こえてくる声はほぼ全てが加奈子に期待するものばかりだ。加奈子のステージを見ている連中は、アイツの声質がすげーアニメに向いているのを分かっているせいもあるだろうし、コラボ企画の一環としての採用だと考えているせいもあるのだろう。だが、桐乃のアニメ化におけるゴタゴタを知っている俺としては些か不思議に思うところもある。アイツ、この企画通すために結構苦労しただろうに、・・・何でそこまでして加奈子に仕事を斡旋してやってんだ?そこが良く理解できない。いや、裏を考えなければ加奈子のファンだから、で終わりなんだろうけど。

「そんなわけないよなぁ・・・」

俺は未だにステージの上で少しテンパり気味のまま何とか進行を保とうと四苦八苦する加奈子と、そんな彼女をフォロー出来て嬉しそうな様子で一層張り切るブリジットを見つめながら、そっとため息をこぼしたのである。





今日の後日談。というかオチ。
「・・・ふぅ。緊張した」
「お疲れ様。ふふふっ、中々様になっていたわよ、原作者様?」
「うっさい。・・・で、これで良いの?妹役っていってもさ、実のところは脇役よ?二期でもやるなら別だけど」
「ええ、今日のイベントを見て確信したわ。あの子なら、きっとコレで一気に人気が出るはずよ」
「うぅん、何だか友達を騙しているみたいで複雑なんだけど・・・」
「あら?あの子は人気が出て仕事が増える。あなたは指名が上手くいって発言権を上げる。WIN-WINの関係よ」
「それはそうだけどさ・・・」
「さ、先輩。闇猫発案、『アイドル声優はネット視線に晒されて恋人なんて作れないよ』作戦の開始よ。ふふふっ、さぁ、精々もがいてみせなさいな」
「・・・もしかしなくても、相談する人選を間違ったかなぁ・・・」

(続く)