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俺の妹がこんなに可愛いわけがないSS 俺が黒猫とリア充なわけがない


最近、こんな言葉が流行っているそうだ。
『リア充爆発しろ』
意味を問えば返ってくる答えは、『リアル世界が異性関係で充実しているヤツは妬ましいからいっそ爆発してしまえ』と言ったところだろうか。
まぁ、こんな二次創作小説を読んでいるあんたらは良くご存知だろうが、ここ一年ほどで話題になったらしいMF文庫発行の『僕は友達が少ない』通称、『はがない』なんかで良く使われるフレーズなんだとか。
もちろん、こんな言葉がテレビやラジオで当たり前のように流れているわけがあるわけもなく、所謂一つのネットスラングって言うヤツである。
俺がそっちの世界に何の因果か足を突っ込むハメになってから早1年が過ぎた。
残念ながら、そんな言葉を耳にするぐらいにはアニメやら漫画やらゲームやら好きな連中どもに染められてしまい、またそんな濃いオタクたちとの交友も出来たって言う話である。
そんな今の俺を、昔の俺が見たら嫌だと思うだろうか。
いや、そうは思わないだろうぜ。
少なくても、今の俺は、そんな俺をそう悪いものじゃないと思っている。
いや、むしろ気に入っていると言ってさえ良い。
何と言っても黒猫や沙織といった多少変なところがあると言わざるをえないものの、性根の優しい得難い友人と知り合えたわけだし。
妹?
あんなヤツはどうでも良い。
そりゃ確かに以前と比べれば多少は口をきくようにはなったし、不覚にも可愛いと思ってしまうことはあるが、それがどうした。
妹は妹。
それだけじゃねーか。

そうそう、断っておくともちろん俺はリア充ではない。
なんと言っても女性と付き合ったことなどないし、クソ生意気な妹とその周囲の連中に振り回されてばかりの高校生活な上、廻りにいるのは本気か冗談か分からないが、『リア充爆発しろ』と口に出すような連中ばかりなのだ。
そんな俺がリア充なわけがない。
期待している人たちには申し訳ないなんて思いはしないが、そこんところだけはっきりとさせておく必要があるだろう。





桐乃に彼氏がいるかいないかなんて、本当のところ俺にとってどうでも良い話題を引っ張っていた夏休みのことだ。
あんたらの前では何時でも妹のことばかり考えて行動しているように見えるかもしれないが、実の処俺はそんないるのかいないのか分からないエア彼氏のことで頭を一杯にさせていたわけではもちろんないし、言ってしまえば妹のことを考えているような時間は非常に少ないもんだった。
そんな夏休み前半のことである。

「・・・急に何のようだ、真壁君?
わざわざ俺に学校まで来てほしいだなんて」

首を捻りながら俺が立っているのは、三年になってから縁あって所属することになったゲーム研究会の部室の前である。
受験生でもある、と言うかそちらが本分な俺はもちろんゲー研の幽霊部員に過ぎないのは言うまでもないし、例の『二日目』の準備などほとんど割り当てもなかったはずだ。
確か打ち合わせの際に聞いていた今後の予定とやらでも今日は特に何もないはずである。
わざわざ午前中の内から呼び出される理由は本当に見当たりはしなかった。

「まぁ、何時までもここでこうしていても仕方ねぇし。
覚悟を決めるか」

俺が部室に入るのを躊躇っている理由は簡単だ。
また『汗くさい』『メンマくさい』『ホコリくさい』の三拍子が揃っていたらと思うだけで、中に入る気も失せるというものだ。
それでグダグダと考える必要すらもない呼び出しの理由などを想像していたわけである。
現実逃避とも言う。
だが、それも何時までも続けていられるものでもないのは分かりきったことで。
俺は意を決して部室の扉を開いた。

「ちーっす」
「おう、高坂こっちだこっち」
「おはようございます、高坂先輩」
「「うぃーすっ」」

思わず胸に手を当ててほっと安堵のため息をこぼした。
さすがに散々怒られた部長はある程度の改心をしたらしく、あの惨状再びとはならずに済んだようである。
俺は部長に呼ばれるがまま、部屋の奥へと歩いていった。

「・・・あれ。
これだけっすか?」

拍子抜けした声を出す。
部室にいるメンバーは朝も早くからテンションの高い部長に突っ込み役という貴重な存在である真壁君、それからかなり出席率の良いデブの二人組、以上。
巨乳で俺の心を癒してくれる瀬奈の姿もなければ、黒猫も見当たらない。
それだけで既に俺のテンションはだだ下がりであった。

「おう、今日は高坂のために集まってもらったわけだからな!
女ドモはちょっと邪魔だしな!!」
「・・・は?」

部長の言葉に心当たりの欠片もなかったわけで、俺は疑問を発することも出来ずに立ち尽くす。
説明を求めて俺をここへと呼び出した張本人の真壁君へと視線を向けると、彼はコホン、と一つ咳ばらいをしてみせてから続けた。

「部長の思いつきですよ。
すいません、すぐに終わりますからちょっとだけお付き合い下さい」
「あ?お、おう」
「コラ真壁!
オマエも嬉々として参加してておいて何言ってやがる!
・・・ま、簡単に言うとだな、瀬奈っちと五更が入部してエロゲー話が大っぴらに出来なくなったんでな。
ちょっと時間作って赤裸々なトークに華を咲かせようぜ、ってわけだ。
高坂からプレイしたことのあるエロゲーの話を聞いて気になっていたこともあるしな」

最後に含むような素振りを見せながら喋りだした部長に何のこっちゃ、と思わなくもないが、なるほど。
とどのつまり、妹が沙織や黒猫と会ってオタクトークするようにエロゲの話をしようぜ、と言うわけだ。
・・・俺は妹から借りた妹ゲーしかやったことないんだけど。

「高坂が今までにプレイしたエロゲーは聞いていた限りだと見事なまでに妹ゲーばかりだからな。
萌え系の妹モノが悪いとは言わないがエロゲーっていうのは奥が深いもんだ。
もっと見聞を広げてほしいんだよ、マイブラザー」
「マイブラザーとか言うんじゃねぇ!」

からからと笑いながらある意味で物騒なことを言い出す部長に突っ込みを入れてから、あらためてコレが今日の呼び出し理由かと目力を込めて真壁君を見つめた。
何しろこちらは受験生なのだ。
受験勉強>エロゲーという超えることの出来ない不等号があることは言うまでもない。

「ま、まぁまぁ。
聞いた話によると高坂先輩は結構勉強に余裕があるみたいですし、夏休みなんですから時間もさらにいっぱいあるわけです。
息抜きってわけでもないですけど、たまには良いんじゃないですか?」
「そうだぜ、兄弟。
アレだったら俺と一緒に一年留年するのも楽しいもんだぜ?」
「ぜってぇ、断ります」
「あはは・・・」

何時もの氷の突っ込みを感じさせない、多分本人もこの話題自体には乗り気なせいだろうが、真壁君が中間管理職に疲れた中年のおっさんのような力のない笑顔を浮かべる。
・・・う、そこはかとなく罪悪感が。
仕方ないか。
真壁君には黒猫のサークル活動に参加するに当たり、俺の割当として割り振られたデジカメの写真加工の仕方の指導とかお世話になる予定なわけで、こちらから無理を言うばかりでは申し訳ない。
ココは付き合うしかないだろう。

「分かりました。
確かにココまでもう来ているわけですし、付き合いますよ。
それで部長は何かオススメがあるんですか?」
「おう、当然だ。
とは言えいきなり自分の属性とかけ離れた作品に挑戦しても楽しめないかもしれないからな。
まずは妹が出てくるゲームで新境地を開いてみようぜ、高坂」

実際のところ『妹属性』を持っているのはややこしい事に俺のリアルの妹である。
決して俺ではない。

「そんなわけでオレたち四人でそれぞれオススメのゲームを用意した。
共通点は妹が出てくるゲームってところだ。
それ以外は各々の自由に選ばせてみたから、どんなのが出てくるのか俺も知らん!」

如何にもオタク的な笑みを浮かべて八重歯をキラリと光らせてみせる部長はぶっちゃけキモかった。
と言うか何て無責任な話だ。
つまりはエロゲーをプレイしろと押し付けてくる妹が四人に増えたようなものじゃないか。
想像するだけで虫唾が走る光景に違いない。

「じゃあ僕からですね。
僕が持ってきたのはですね・・・」

言っておくとこの後は各々の部員からゲームを渡されて説明を受けるだけのはずなのだが、何故か三時間以上かかったことを付け加えておく。
自分のフィールドに入ると話なげぇんだよ、オタクってのは相変わらず!





「・・・と言うわけだ」
「それでウサ晴らしにあなたは私を急に呼びつけて愚痴を聞かせようという魂胆なわけね」
「ここは俺のおごりだ」
「当然よ」

部室に突如呼び出されてエロゲーを四本押し付けられた日から数日が過ぎていた。
さすがに全クリは不可能なので部長たちオススメのヒロインのルートだけ、あるいは一シナリオだけやった後は次のゲームに移るという進め方でやるようにと指示を受けていたわけだが、それでも結構な分量である。
四本もの慣れないエロゲーの連戦という苦行を超えて、俺はかなり疲れきっていた。
その上、どうにも一癖も二癖もあるシナリオ揃いだったせいで、誰かに話を聞いてもらいたくて仕方ない衝動に駆られてしまったとしても仕方のない話だろう。
そこで白羽の矢が刺さったのは。

「・・・何を見ているのかしら?」

真夏だというのに暑苦しい真っ黒のゴスロリ衣装を着込みホットコーヒーを啜る、それだけ聞けば超人のような生態を誇る黒猫である。
妹などはとんでもないし、沙織は家が物理的に遠い。
と言うか気付いた時には黒猫にメールを打っていたのでそれ以前の問題であった。

「何でもねぇ。
それよりも悪ぃな、こんな場所で」
「別に構わないわ、先輩の懐事情は多少なりとも知っているつもりだし。
今度デジカメを買いに行くのでしょう、無理なお金は使わないほうが良いわよ?」

言いながらフライドポテトを摘む黒猫の表情に嘘は無さそうだ。
俺たちが陣取っているのは駅前にある某世界一のファストフードの系列店である。
二階のテーブルを一つ占領しているわけだが、こうして高校生がダベるのにとても適している店であることは間違いない。
ちなみに、黒猫が言う俺の財布云々はバイトもしていない俺が財政的に潤っているわけがないということだろう。
当たりである。

「でだな。
始めは真壁君の持ってきたゲームから始めたんだ。
ほら、真壁君だったら無難なところを選んでくれると思うだろ?」
「そして何事もなかったかのように話を再開するのね」
「タイトルは『君が望む永遠』だったな」
「・・・はぁ。
分かったわ、苦言は後で言うことにするわ。
確かに無難かもしれないわね」

俺の声のボリュームが気になるのか眉を不愉快そうに下げながら不満を告げる黒猫にエロゲーのタイトルを告げると、彼女は幾分か安堵した様子で首肯を返す。
真壁君チョイスは女オタ(装備:厨二邪気眼)には引かれない程度有名な作品ではあったらしい。

「・・・アレ?
黒猫も知っているのか?」
「そりゃあアニメ化もされている人気作品だから、名前ぐらいは知っているわよ。
コンシュマー化もされているはずね。
細かいストーリーは知らないけれど、確か二部構成に分かれていて、学園編ではヒロインと恋仲になるものの劇的な別れがあって、その3年後の世界が舞台のメインとなる話なのよね?
三角関係の話で結構暗い雰囲気なところもあって、ストーリー的には人間関係上で重い展開が多いだとか。
あの女の携帯小説じゃあるまいし。
・・・そもそもあのゲームに妹って出てくるのかしら?」
「主人公の妹じゃなくて、ヒロインの妹だけどな」
「ふぅん」

ずずず、と結構な熱さを保ったままのコーヒーを口に含みながら相槌を打つ黒猫に言葉を続ける。
どう見てもハッピーエンドでは無かったのだろう衝撃のエンディングを。

「その妹妊娠エンドだった」
「ぶふぅっ!?」

コーヒーをテーブルの上にダラダラとこぼし、さらにはゲホゲホと盛大に咽てみせた黒猫が凄まじい怨念が篭っていそうな恨みがましい目を向ける。
もちろんワザとだ。

「・・・どんなエンドよ。
いいえ、やっぱり聞きたくないわ」
「ほんの少しの期間だけ目覚めた遥が妊娠してだな。
でもやっぱり再び昏睡状態に陥ってしまい、茜がだな・・・」
「眼を潤ませないでちょうだい。
そこまで。
そこまでよ!?」

口の端にコーヒーの泡をこびり付かせながら黒猫が必死の形相で繰り返したので仕切りなおしである。
こちらも涙目だったが黒猫も別の意味で涙目だった。
以前に桐乃のコレクションの前で説明を受けたときのように、やっぱり黒猫はドン引きである。
・・・それ以外の選択肢をされるとも思っていなかったがな。



「二本目はデブ二人組の片割れが持ってきた『シスターコントラスト!』だな」
「・・・同じ部活に所属する仲間の名前ぐらい覚えてあげなさいよ」
「すまん、教えてくれないか?」
「そのタイトルは聞いたことないわね」

さらりと無視する辺り、どうやら黒猫も彼らの名前は知らないらしい。
どちらにしろ、話の本筋にはさしたる影響もないので提供者のことは軽くスルーして続けることにした。
ひどい俺たちである。

「このゲームは桐乃から良く押し付けられている妹モノに近い類なんだろうな。
分類分けすると」
「兄さんの得意分野ね」
「兄さん言うな。
それから得意分野でもねー」
「あら、お気に召さなかったかしら?」

くすくすと呪われそうな、それでも見惚れてしまいそうな極上の笑みを浮かべる黒猫を敢えてげんなりとした顔をして見つめ返してやりながら、カラコロ、とストローで氷をかき混ぜながらアイスコーヒーをすする。
正直、確かに妹モノは慣れたもんだと思っていた。
思っていたんだが。

「それにしてもあなたの妹が好きそうなタイトルね」
「・・・妹がいる兄貴は妹とHしたいと絶対に思うらしい」
「・・・へぇ」

黒猫ドン引き。
当然である。

「・・・男の人はみんなロリコンで可哀想な存在なのかな」
「・・・・・・」

黒猫は無言で明後日の方を向き始めた。
おーい、そんな態度だとさらにひどい感想を言っちゃうぜ?

「・・・おっしこって美味しいのか?」
「さて、相席の人、さようなら」

他人の振りを始めた黒猫が額に汗を一筋浮かべるが、それも無理はないだろう。
黒猫はロボットを彷彿とさせる区切りを意図的に入れながら口を開く喋り方で、色々と無茶な事を言いながら同時に立ち上がる素振りを見せるが、それはきちんと押し留めた。
正直な話、アレは今までの妹モノとは一線を画するものだと断言できる。
あの末妹と俺の妹とどっちがマシなのかと言うと・・・さて、どちらだろうか。
即答は出来ないな。



「じゃあ次のゲームだな」
「あれだけ恥ずかしい性癖を暴露しておきながらさらりと流すのね、先輩は」
「性癖言うな!?」

まだまだプレイしたエロゲーはあるので、俺も半ば意地になって話を続けていた。
黒猫の視線が何時もの呪い云々ではなくて、ジト、とした冷たいモノになるが気にしないでおく。

「三本目は『らくえん〜あいかわらずなぼく。の場合〜』だ」
「長いタイトルね。
だけどそのぐらいの長さではまだまだ私には適わないわね、はっきり言うと」
「・・・おまえは何と張り合っているんだ」

タイトルから淫靡さや淫猥な雰囲気を感じなかったからか、黒猫が幾分か気を取り直したかのような態度で右手を上げてせせら笑う。
それを半眼で見つめてやると、黒猫は一度視線を自分のコーヒーへとチラリと向けてから改めて俺に向き直った。
また吹く流れになるのを警戒したのか、口はつけないようだ。

「それでどんなゲームだったのよ」
「エロゲー作ろうぜ!」
「・・・イヤよ」

またそのドヤ顔か、と目力で語る黒猫のツンドラの視線に耐えながら続ける。
双子の妹が出てくるのだが、妹云々よりもシナリオにのめり込んで妹がどうだとかはイマイチ記憶がアヤフヤだった。

「これだけは素で面白いと思っちまった。
エロゲーって基本エロとか萌えとか感動とかそんなんがメインの話ばかりだと思っていたから、社会的な部分にスポットを当てた作品がこんなに面白いなんて結構驚いたよ」
「そうね、18禁というレーベルは本来社会的なブラックユーモアこそ賞賛を浴びるべきだと私は思っているわ。
それで肝心の中身はどんな話だったのよ。
妹の存在を欠片も感じないのだけれど」
「エロゲー作ろうぜ!!」
「・・・結局そこに戻ってくるのね。
イヤよ」

最高にイカした笑顔で黒猫を誘ってやるものの、多少は乗り気を見せてくれた以前とは異なり今回はあっさりと振られてしまう。
地味にショックを受けるが、どちらにしろノリだけの台詞にマジで肯定を返されてしまっても実際の処、困るだけなので気にしないことにした。



「・・・で最後は部長から借りたエロゲーだ」
「どうせ今度も一筋縄ではいかないゲームなのでしょう。
分かりきっているわ」

さすがに四本目ともなると黒猫も慣れたもので、これまでは微かに見せていた動揺の気配すら感じさせない素振りである。
と言うか、一筋縄ではいかない、と言う指摘はぶっちゃけ大当たりだった。

「タイトルは『ウチの妹のばあい(はぁと)』だ。
コンセプトは『世界一のお兄ちゃんになりたい貴方へ・・・』だとさ」
「どう見ても妹ゲーね
残念ながら私はその作品を知らないのだけれど、あなたの妹は当然のように知っているんじゃないの?」
「比較的昔のゲームみたいだし、どうだろうな。
少し違うのを承知で一言で説明すると、すれ違いの多い妹が頼りない兄貴を煙たがって非行に走るっていう雰囲気の話なんだが・・・」
「突っ込みを入れたくなったけれどノーコメントで」

口の端をひく、と引き攣らせた黒猫が突っ込みを耐えるような両手を抱える仕草を見せる。
言いたいことは分からんでもない。
何処かの妹は非行には走らなかったけどな。

「・・・それで・・・気付いたらだな・・・」
「歯切れが悪いわね。
バッドエンドだったのかしら?」
「他の男キャラが・・・妹と・・・」
「・・・」

黒猫が『うわぁ』と何とも言いようのない苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
俺の断片的な台詞から展開を想像して見せたのだろう。
今度もそれで当たりだ。

「い、妹が・・・不良学生との子供に兄貴の名前を・・・」
「もう止めておきなさい。
顔色悪いし・・・何を投影しているのやら」
「いや、マジでアレはきつかったんだって!」

俺涙目。
黒猫は摘んでいたポテトを少しつまみながら、微妙に声にトゲを含ませながら諦めたかのように呟く。

「NTRゲーね」
「NTR?
聞いたことない単語だが、また新しいオタ用語か?」
「簡単に言うとヒロインが主人公以外の他の男に寝取られる・・・恋人や幼なじみ、妹なんか身近な存在を奪われる話のことよ。
ほら、昼ドラなんかを想像してもらえれば分かりやすいわよね?」
「そりゃまぁ・・・」
「あなたの妹の携帯小説だって広義に考えればNTRよ。
言うまでもないけど」
「・・・そうは言っても昼ドラや桐乃の小説じゃあもあんな絶望感はなかったけどな」
「ドラマと比べてゲームではリアルさがない上、逆にポップな絵柄の分だけ表現を生々しく感じてキツイのかもしれないわね。
それからあの子の小説は論外よ。
まるで経験がないのが分かるからファンタジー読んでいる気分になるもの」
「・・・なるほど、エロゲーって奥が深いんだな」
「そんな奥は一生知らないままの方が良いわよ、はっきりと言うと」

ぴしゃりと言い切った黒猫が最後のポテトを口の中でもそもそと咀嚼し終えると、はぁ、と軽くため息を吐く。
どうもこの後輩は先ほどから機嫌があまり良ろしくはないようで、会話には参加してくれるもののあまり積極的に話しかけてはこなかった。
内容が内容だけに分からないでもないが、店の前で合流したときは少し嬉しそうな素振りを見せていたし、もう少しノリは良いかと思ったんだが・・・。



「・・・」
「・・・」

空気が重かった。
俺が飲み干したアイスコーヒーの紙コップの中で、氷を弄り回すカラカラという音だけが響いている。
一体何故、とは言うまでもない。
こちらを呪い殺そうとしていると言われたら信じてしまいそうなほどじっとりと睨みつけている、目の前の黒猫の視線が全てを物語っていた。

「・・・何でこんな話を聞きにわざわざ呼び出されなくちゃいけないのよ。
信じられないわ。
本題があるのかと思えば、本気でエロゲー話で終わりだなんて」

ぼそりと呟いた台詞は何もかもその通りである。
黒猫の頬は怒りのあまりか高潮し、目の端にはうっすらと涙を浮かべている。
エロゲーのやりすぎで色々とぶっ飛んでいた俺の頭の中は、黒猫に散々愚痴のような話を聞かせたことで色々と発散してクリアーになったせいか、冷静に戻って『ぶっちゃけありえない』とこれまでの俺の行動を反省しきりだった。

「・・・すまん。
色々と突っ走りすぎて、何とも・・・」
「・・・はぁ、別に良いわよ、気にしてないし」

どう見ても言葉の通りの感情を抱いているとは思えないが、黒猫はそう言ってぷい、と顔を首ごとそむけてしまう。
だが改めて観察してみても、誰がどう見ても気にしていたのは明らかである
そんなことは俺が指摘するまでもなく、当たり前だ。

「嵌めた部長たちに文句を言うのは思惑通りな気がして癪にさわるし、妹に言うのもありえないし・・・」
「だからと言って後輩の女の子にエロゲ談義だなんてありえないわ。
想像してごらんなさい?
友達だと思っている異性の先輩に急に呼び出されてエロゲー談話。
しかもキツめ。
アリだと思う?」
「すまん」

もう一度大きく頭を下げると黒猫の態度は幾分か軟化したようだった。
はぁ、と頭を落としながらため息を吐くと、仕切り直したかのように少しだけ間を取ってから話を続ける。

「どの道これだけで御役御免でじゃあ帰れなんて『勿論』言わないわよね?」
「お・・・おう」

ブレスもなく一気に言ってのけた黒猫から何故か感じるプレッシャーの前に、俺はコクコクと首を横に振る機能を忘れてしまったかのようにひたすら首を縦に振り続けた。
この後は図書館にでも移動してここ数日の遅れを取り戻すために受験勉強をしようと思っていたが、さすがにそんなことを言い出せる雰囲気ではない。

「・・・じゃあこれから・・・黒猫?」
「あら」

もちろんノープランだった俺に気のきいた選択肢がそうポンポンと出てくるわけもない。
黒猫の希望も聞いてみようかと声をかけた俺の言葉など聞こえていないような様子で、彼女は向き合っている俺よりさらに店内の向こう側へと視線を投じているようだった。
何か面白いものでもあるのだろうか。

「・・・げ」

つまらないものだった。
俺の口から思わず嫌そうな響きの音が漏れるのも仕方がない。
階段を上がってきたのは誰であろう、千葉という土地柄にしては少し垢抜け過ぎた印象を受ける茶髪なギャル風の美少女、つまり俺の妹だったのだ。
もちろん、俺と黒猫の姿にソイツも気が付いたようで、トレイにセットメニューを載せたまま焦げ付きそうな悪意の篭った視線をバチバチとコチラに飛ばしてくる。
思わず俺はヘタレ気味に妹から視線を外し黒猫へと向き直る。

「・・・オマエは何ちゅう顔しているか」

黒猫は何故かクスクスと悪そうな笑みを顔中に浮かべ、ドヤ顔をしていやがった。
コイツはコイツで何をそんなに嬉しそうにしてやがるんだか。
どんだけ俺の妹が好きなんだよ。
改めて後ろの妹に視線を向けなおすと、アイツは余計に嫌そうな表情を浮かべてチッ、と舌打ちをしたジェスチャーを見せてこちらに近づいてこようと足を向ける。
だがそれはどうにも間が悪かったようで、妹は後ろからやってきたエンジェルあやせたんを始めとする中学の友達と思われるメンバーとともに別の席に瞬く間に連行されてしまった。
どうも目が合うことも無かったことから、あやせはこちらにはまるで気がついていなかったようだが。

「・・・全く、何してんだか」

それなりに広い店内の中で桐乃の姿が見えなくなると、俺は三度前に向き直る。
先ほどの危ない薬でもやってそうなアップ状況とは打って変わって、少し寂しそうな、あるいは何かに対し複雑そうな感情を抱いたような表情で沈黙を保つ少女の姿があった。
・・・友達少ない黒猫には、やっぱりアイツが他の友達と仲良くしているのを見るのは些かジェラシーを感じてしまう光景なのかね。
そんな風に感想を抱いた俺は、何気なさを装いながらトレイを持って立ち上がる。

「そろそろ移動しようぜ。
夏は日が長いけどダラダラしてたらすぐに夕方になっちまうからな」

ちなみにまだ10時を30分ほど経過した時刻である。
全然ゆっくりしていても問題ない。
だからだろう、ソイツは一瞬、俺の行動の意味に気がつかなかったらしく目をパチクリと瞬かせていた。
だが、合点がいった様子で手に微かに残っていた油分と塩分をペロリと舌で庶民的に舐め取ってから、如何にも不満である、と言った様子で声を上げる。

「余計な気は廻さないで結構よ」
「はいはい」
「全く、躾のなっていない犬ね」

誰が犬か、という突っ込みは海よりも深い心で流して、俺は黒猫のトレイからひょいひょいと空になった紙袋や紙パックを回収するのだった。





「・・・でココか」
「あなたと私だったら無難な選択でしょう?」
「それもそうだが」

場所は移って以前に妹と偽デートをした際に立ち寄ったゲーセンである。
黒猫が贔屓にしているらしいこのゲーセンは、以前は気付かなかったが立地や店内の照明や筐体の配置などから、女性も気軽に立ち寄れる雰囲気作りを頑張っているというのがウリらしい。
確かに女子高生がたった一人で遊ぶには心配な場所だと言うイメージだしな、ゲーセンは。

「二階に行くわよ」
「お、おい、待てよ?」

黒猫は勝手知ったる場所とばかりにクレーン筐体を軽くスルーして、ついでに俺もスルー気味にずんずんと歩いていってしまう。
俺も慌てて彼女の後を追いかけて二階に上がると、フロアに入ったところで何故か立ち尽くすしている黒猫と危うく衝突しそうになって立ち止まる。

「っとと!?
な、何でこんなとこで止まってんだ?」
「・・・」

くる、と身体ごとこちらに反転した黒猫が俺の顔をじっ、と見上げる。
一秒。
二秒。
三秒。

「何でもないわ」
「はぁ」

首を捻る。
そのまま何事もなかったかのようにスタスタと格ゲーコーナーへと歩いていく黒猫を何となくに見送りながらふと視線を奥へと向けると、思い出したくもないカップル専用のプリクラ機が望むべくもなく見える。
妹のこととそれから手錠のこととか、少しブルーな気分を思い出しながら黄昏ていると何時の間にやら黒猫の姿を見失ったことに気が付いた。

「・・・あれ?
ま、どうせその辺に・・・」

黒猫がゲームを始めたのならばどうせ長丁場になるのだ。
慌てることもなくゆっくりと歩き始めると、俺の思惑とは裏腹にあっさりと黒猫の目立つ真っ黒のゴスロリ衣装が視界に入る。
プレイしているゲームはシスカリ台のようだ。
捻りも何もなかったか。

「・・・飲み物でも買ってくるかな」

黒猫の後ろ姿を見つめながら呟く。
彼女は全国レベルのゲーマーでもあるのだ。
先ほど考えた通りエンディングまでたどり着くぐらいには時間が・・・あれ?

「嘘だろ?」
「・・・何よ。
調子の悪いときぐらいはあるわ」

あっさりとCPUに敗北した黒猫は俺に気がついていたらしく、目敏く俺の呟きを聞きとがめて声を返す。
おっと、まぁ一戦ぐらい落としても次で勝てば・・・?

「お、おいっ、黒猫!
もう始まってるぞ!」
「え?
きゃ、キャア!?」

俺に話しかけた体勢からさらに首を伸ばして何かを確認しようとしていた黒猫の操るキャラが無防備にガリガリと体力を削られていく。
俺の声に反応してゲームに戻った彼女だが、それでもその動きは普段の正確さがまるで感じられないヒドいもので、あっさりと二連敗をして『CONTINUE?』画面送りにされてしまった。

「ま、そういう日もあるよ」
「五月蝿いわね、だったら先輩がやってみせなさい」

俺は首を傾げつつ、ま、そういう日もあるよな、ともう一度心の中でこぼしてから黒猫に代わり筐体の前に着席する。
俺の結果?
聞きたいのか?
まぁ・・・そんなに盛り上がるものでも無かった、とだけ言っておくよ。



「さて、定番だけどアクセサリの店でも見てみるか?」
「まさかまた、エロゲーの選択肢のままの台詞じゃないでしょうね・・・」
「何でオマエがそのことを知っている!?」

俺驚愕。
確実に情報源は俺の妹だった。
俺は如何にも集中しきれていない様子の黒猫が何時までもゲーセンにいても面白くはないだろうと思い、駅の周辺をブラブラと歩くことにしたのである。
大きなデパートやら量販店から桐乃も利用しそうなアンテナショップ系の店舗もこの辺りにはひしめいている。
適当に歩くだけでいくらでも時間が潰せそうな気さえしてくるのは気のせいだろうか。

「情報流出の原因は管理が不適合か、あるいは情報共有者の間で思惑が一致していないからよ」
「・・・何のこっちゃ」

何を言いたいのか分かるようで分からない発言である。
俺の妹とは違ってピアスなど空けている様子もないし、アクセサリを必要以上にジャラジャラと着ける趣味はない様子の黒猫だが、ゴスロリなんてものを好む以上嫌いではないだろうと考えただけなんだが・・・。
まさかそんな返しが来るとは本当に予想の斜め上だった。
それで結局どうするんだ?

「・・・それよりも図書館に寄らせてもらっても良いかしら。
ついでに探しておきたい資料があるの」
「おう。
だったら俺は少し勉強しているから好きなだけ探してくれ」
「それは好都合ね。
一時間ぐらいはかかると思うけど、大丈夫かしら」
「そのぐらいなら何てことはないな」

これでも真面目に受験生に取り組んでいる身としてはもう少し時間を割いてくれても良いぐらいであるが、ここは言わぬが華であることぐらいは俺だって分かる。
どうやら黒猫の機嫌はエロゲ談義のときのダダ下がりっぷりよりはまだ良くなっているようだが、それでも何か気になることでもあるのか落ち着きがない様子だし。
好きにさせてやるさ。



「・・・とは言ったものの、イイ年した男女の所謂健全な付き合いってこんなんで良いのかね?」

何の面白みも感じられない、堅苦しいとまでは言わないが、俺の妹とは対極にあるようなごく有り触れた装丁の市営図書館に着いてから早くも一時間ほどが経過していた。
奥まった机に陣取って勉強道具と向き合いながらポツリと呟く俺の独り言に答える相手は今はいない。
彼女が足りない資料を探しに行くと再び席を立ってからもう5分ほどが過ぎていた。
幼なじみと良く訪れる場所であることもあって、居心地は悪くない。
だが、・・・何かこう、違う感じがするんだ。
わかんねぇかな?
慕ってくれていると言っても過言じゃない、可愛い後輩の女の子と休日に出かけて黙々と勉強してばかりってのは何だか間違っているんじゃないかと、俺の中のエロゲー脳が語りかけてくる。
ここは一つ、黒猫を探して本棚の上の棚から本を取るイベントでも発生させなければ。

「・・・って何でだよ!?
何だか脳みそが茹ってきた・・・休憩するか」

ハシゴを使って本を取る黒猫のスカートの中を下から覗き込むだとか、本を取ろうとして何冊かの本が雪崩を起こして思わず黒猫に抱きつくとかそんなエロゲ的イベントの妄想を頭を振って追い出す。
そう言えば黒猫ってやはり下着も黒い・・・ってだから止めろって!?

「どうしたのかしら、先輩。
まるで姫を捕らえた醜悪で下劣な魔王(中ボス)のような下品な顔をして」
「・・・うるせぇ」

くすくすと笑う、先輩への気遣いを忘れた薄情な後輩へ力の入りそうもない突っ込みを入れてから慌てた様子で参考書にかじりつく。
ガリガリと俺がノートにシャーペンを走らせる音と、ペラペラと黒猫が本のページを捲る音が耳に届いていたが、それも段々と聞こえなくなっていく。

「・・・」

黙々と数式を解く。
一問、二問、三問・・・む、コイツはちょっと手ごわいな。
しばし黙考してから、計算式を記入していく。

「・・・」

よしっ!
いやぁ、コレ解けるようになったとなると俺も自信を持ってもいいかもしれん。
さて、次の問題は・・・。

「・・・」
「なぁ、黒猫」
「へ、へぇぅ!?」

ふと顔を上げると黒猫がじぃ、と俺のことを睨みつけるように見つめていたので思わず声をかける。
彼女は俺から声を掛けられるなど思いもしなかったためだろう。
黒猫から赤猫に改名した方が良いのではないかと進言したくなるほど顔を真っ赤に染めた彼女は、聞いたことも無い変な叫び声をあげたかと思うと、ガタン、と机の上に両手を打ちつける。

「さっきから何見てんだ?」
「せ、先輩のことなんて、み、見ていないわ。
まったく、じ、じいぃ、自意識過剰ね、先輩は・・・」

どう考えても動揺しまくっているようだし、そもそも確実にガン見されていたが、黒猫が否定する以上話題を引っ張る必要もない。
俺は首を傾げながらもノートに向き直ろうとすると、彼女は衝撃を与えたことで机から転がり落ちた私物を拾おうと机の下に潜り込んだところだった。

「・・・まぁいいか」

諦めたようなため息を零してから次の問題文へと進む。
だが、どうにも落ち着かない。
具体的には何か視線を感じるというか、もぞもぞするというか、人の気配を間近に感じるというか。
どうにも集中できないのなら確かめてみるしかないか、そんなことを考えた俺が、ひょい、と机の下を覗き込む。

「・・・あ」

目があった。
サラサラとした黒髪の長髪に人形のようで少女特有の暖かさと柔らかさも両立させた肌の艶。
大きな、それでいて猫のようなツリ目がちな左目の下にはチャームポイントと言っても良い特長的な泣き黒子。
自作らしい真っ黒なゴスロリ衣装は四つんばいの状態では思わず汚れてしまわないかと気になってしまう。
つまりは、黒猫と。
目があった。

「・・・ぁ」

彼女は俺の眼前で信じられないものを見たといった様子で、口を開いては魚が呼吸するかのようにパクパクと開閉するばかりだった。
俺は混乱した頭で現状をもう一度振り返る。
下を覗き込んだら黒猫が俺の下半身、と言うか大事な部分を距離三十センチもないところからガン見していやがった。
ありのまま今起こっていることを言っているのに、何を言っているかわからねー。
頭がどうにかなりそうだった。

「・・・ぃひ」

まだ混乱から返ってこないのか、何時までも口をパクパクと開閉を続ける黒猫を見てさすがに過呼吸とか心配になってくる。
と言うかコイツ、やっぱりどう見ても誘っているだろ。
これがエロゲーだったら一年もエンカウントしてればフラグ立ってエロシーンに突入してもおかしくないしな!

「俺のハイパー兵器に興味があるのか?」
「セ、セクハラっ!!!」

ピチュンっ!!(比喩的表現)

「きゃあああああっ!!
何か柔らかくぁwせdrftgyふじこlp!?」
「おまっ、叫びたいのは俺だっての!?」

何を血迷ったのか黒猫は俺のハイパー兵器に向けて思いっきりチョップを叩き込みやがった。
そのくせ黒猫が悲鳴上げるってどういうことだ。
非力な女の子の一撃だって急所に撃たれれば、俺も飛び上がりたいほど痛いってーの!
種無くなったらどうしてくれる!?

ガツンっ!!

「いっ・・・・たぁああああっ!?」
「ってうわ、オマエ、大丈夫か!?」

かと思ったら今度は黒猫が机の下であることも忘れて思わず立ち上がろうとしたらしい。
思いっきり天板に下から頭を打ち付けてゴロゴロと床を這いずり回っている。
・・・と言うかどんだけカオスな展開だ。



「・・・ひ、ひどい目にあった」
「それは私の台詞よ・・・。
何てイヤラシイ雄なのかしら。
コレがエロゲー脳ってヤツね」

結局騒ぎまくった俺たちは図書館に居続けることが出来なくなり、逃げ出すように外へと飛び出していた。
黒猫は俺のハイパー兵器に滅殺攻撃を仕掛けた自分の右手をゴシゴシとウェットティッシュで拭いてやがる。
目の前で露骨に汚い物扱いとか、信じられねぇな。
汚くないよ!!
むしろ可愛いよ!!
って俺は一体何を力説しているのだろうか。

「・・・って言うかハイパー兵器とかはないでしょ。
もう少しデリカシーとか、雰囲気を大切にしてくれれば私だって・・・」

もごもごと黒猫が口の中だけで何事かを呟いているが、俺に対する呪詛だったら怖いので敢えて聞かなかったことにする。
もう一発攻撃を受けたらさすがの俺もマジで泣くし。

「・・・さて、これからどうするかな。
まだ昼には少し早いけど、何かオススメの場所はあるかな」

全て無かったことにして仕切りなおす。
黒猫の視線が若干冷たい気もするが、それも妹の扱いで鍛えたスルー力で全力で見逃すことにする。

「植物園でも行くか。
偏見あるかもしれねーが、言ってみると面白いもんもあるかもしれねぇぜ」
「・・・別に偏見はないわ。
アナタの妹ならきっと非難轟々なんでしょうけど」
「鋭いな・・・」

って言うかもしかしたら桐乃から聞いているのかもしれない。
だけど仕方ねぇじゃん、行ってみたいんだから!
心の中で言い訳をしてから、肩を竦ませて続ける。

「じゃあ行こうぜ。
実を言うと色々とお預けをくらっちまったから逆に興味が湧いてな。
行ってみたかったんだ」
「それじゃあ先輩の行きたいところに付き合ってあげるんだから、きちんとエスコートをしてちょうだいね」

黒猫の声に応えて大仰に頭を下げて、芝居がかった仕草で彼女の手を取って歩き出す。
横から覗いた黒猫の顔は、満更でも無さそうな笑顔を浮かべていたから、ま、俺のエスコートも捨てたもんじゃないのかもしれないってな。
そう思ったね。





その日の夜。
俺は家に帰って来ると早速PCを立ち上げていた。
ゲー研の部長たちに押し付けられたエロゲーに対する文句をつけるためであることは言うまでもない。
部長が俺から沙織たちの話を聞いて立ち上げた、『おたくっ漢あつまれー』という部長の頭を張り倒してやりたくなるSNSにログインする。

「・・・コイツら」

俺が散々借りたエロゲーに引っ張りまわされたのがそんなに嬉しいのか、先ほどからチャットルームでは草が生えまくっている。
つまり『www』だらけなのだ。
マジムカつく・・・。

「何だかんだ言って面白くて最後まで夢中でやっちまったのがまた癪にさわるし」

そんな趣旨の発言をすると草がさらに増えまくってディスプレイ中が草だらけになってしまう。
誰か草刈りしろよ!?
俺も何だかんだでテンションが上がってきて、勢いのままにキーをタイプしていく。

「しかもこの話を黒猫にしたらドン引きされるし、マジ許さねぇ!」

そんなアゲアゲだったチャットルームが、俺の発言でピタリと静まった。
皆の意見を部長が代表してアスキーアートを打ち込んだようである。

【審議中】
    ∧,,∧  ∧,,∧
 ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
| U (  ´・) (・`  ) と ノ
 u-u (l    ) (   ノu-u
     `u-u'. `u-u'


は?
俺が疑問に思うのと同時に、一気に参加メンバーから黒猫とのことを質問される。
な、何だコイツら!?
微妙にキモいと思いながらも、一つ一つ今日の出来事を報告する。
・・・まぁ、別に隠すような大人の階段上る嬉し恥ずかしイベントは無かったしな。
それに対する部長の答えはコレである。

【審議中】   /\/\/\/\/\/\
       ./  ./| /| /| ./| ./| ./|
      ∴\/./ . /  /  / /  /
      ゚∵ |/∵|/; :|/:;;;|/.;. |/ ;.;|/
     _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_  _, ,_
   (ノ゚Д゚)ノ゚Д゚)ノ゚Д゚)ノ゚Д゚)ノ゚Д゚)ノ゚Д゚)ノ    
  /  / /  //  //  //  //  /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


そして部長のコメントが続く。
以下、まとめるのも面倒くさいので俺たちのチャットログをそのまま引用する。
こんなやり取りがあったわけだ。

部長(管理人)          : オマエらやっぱり、と言うかどう見ても付き合ってんだろ。視ね。
KYOUSUKE           : 付き合ってねぇ
MKB@超電磁砲二期キボンヌ: まあまあ、部長落ち着いてください
部長(管理人)          : じゃあ質問を出してやる。それにどう答えるかで判断するぜ
部長(管理人)          : 五更が人と楽しそうに喋っています。どう思う?
KYOUSUKE           : ・・・?いや別に。そもそもあんま想像出来ないな。アイツ友達いねーし。頑張れ?
部長(管理人)          : その相手は瀬菜っちだ。
KYOUSUKE           : 特にいうことはねーな。
部長(管理人)          : その人は見知らぬ女子のクラスメイト。
KYOUSUKE           : ん、それがどうかしたのか?いや、むしろ嬉しいぐらいだぜ。
部長(管理人)          : その人は真壁。
KYOUSUKE           : よし、真壁君、少し校舎裏で話がある。
部長(管理人)          : その人は見知らぬ男子のクラスメイト。
KYOUSUKE           : あ、何だそれ?ぶっ飛ばすぞ?
部長(管理人)          : ・・・お前、独占欲つええのな。
MKB@超電磁砲二期キボンヌ: フォローのしようがありませんね。と言うか校舎裏ww学園都市のような治安の悪さktkr!
KYOUSUKE           : ほっとけ。
部長(管理人)          : いやいや、エロゲーマーの鑑だぜ。
KYOUSUKE           : 嬉しくない評価をありがとよ!
部長(管理人)          : よし、それじゃあ審議の結果を下す!

【審議終了】
    |∧∧|       (( ) )   (( ) )  ((⌒ )
 __(;゚Д゚)___   (( ) )   (( ⌒ )  (( ) )
 | ⊂l  京  l⊃|    ノ火.,、   ノ人., 、  ノ人.,、
  ̄ ̄|.|.助 .|| ̄ ̄   γノ)::)  γノ)::)   γノ)::) 
    |.|=.=.||       ゝ人ノ  ゝ火ノ   ゝ人ノ
    |∪∪|        ||∧,,∧ ||∧,,∧  ||  ボォオ
    |    |      ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧
    |    |      ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` )
   ~~~~~~~~     | U (  ´・) (・`  ). .と ノ
              u-u (    ) (   ノ u-u
                  `u-u'. `u-u'



部長(管理人)          : 高坂。オマエに相応しい言葉を贈ろう。リア充爆発しろ。


部長のメッセージの後に続いて参加メンバー全員から『リア充爆発しろ』を頂く。
うっせぇ、お前らが爆発しろ!?
大体俺の名前が間違ってるよ!!
・・・ま、黒猫とのことを何だかんだ言われても、あんまりイヤな気分でも無かったのは不思議だけどな。
断じて俺はリア充なんかじゃあ無いってのはどう贔屓目に見ても確かなんだよ。
未来のことは知らないが、少なくても高校三年生の夏コミ前はその意見に全く間違いは見当たらなかった。


(終わり)