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とある魔術の禁書目録 SS
『とある幻想の白黒色彩(モノクローム) 第10話 開花支配(フラワーマスター)A』


「・・・アレは気の迷い、アレは気の迷いですわ。
単なるアレですの。
いわゆる一つの勘違い」

風紀委員(ジャッジメント)の一七七支部がある事務室から出たすぐ向かいの場所にある女子トイレの中。
蛇口をひねったことで出てくる、眼下でジャーっ、と愚直に流れ続ける水音を耳に入れながら、黒子は鏡に映る自分に向けてぶつぶつと何事かを言い聞かせるように呟いていた。
呟くうちに、頬に貼られた絆創膏に自然と視線が集中する。
知らず知らずのうちに血色良く染まっていく自分の頬の熱色に気付くと、おもむろに手を流れる水の中に突っ込んで思いきりよくばしゃばしゃと顔を洗う。
さんさんと太陽が輝く蒸し暑い季節なせいか、彼女の顔を濡らす水はあまり冷たいものでもなかったが、火照った黒子の熱を冷ます程度の役割は十分に果たしてくれそうだった。

「・・・ふぅ」

支部から抜け出すときにわざわざ持ち込んだ清潔で良い匂いのするタオルでぐい、とびしょびしょの顔を拭った黒子が改めて鏡の中の顔と向き直る。
にこり、と笑顔を浮かべてみる。
むっ、と怒ったような表情を浮かべてみる。
ツン、とすました顔をしてみる。
何度かそんなことを繰り返してから、もう一度ため息をこぼす。

「いったい何をやってるんでしょうね、わたくしは」

鏡に向けて不意に浮かんだ疑問を自問自答してみるが、当然のように鏡の中の自分は答えなんて返してきてくれたりはしなかった。
とりあえず当初の目的であった浮ついた頭を落ち着かせることは出来たようなので、黒子は手を伸ばして蛇口を先ほどとは逆方向にひねり水の流れをせき止める。
いわゆる何の変哲もない学校のトイレ然とした狭い部屋に響いていた水音が止まると、彼女は軽くペチペチと頬を叩いて風紀委員としての役割を最優先とするよう、自分の意識をコントロールする。

「どうもオカルトがかった非常識な状況のせいであまり緊張感をもてませんが、下手を打てば大事になってしまいかねない事件には変わり無いですわ。
あまり役に立っているとも言いがたいですし、そちらに集中いたしましょう」

自分に言い聞かせるように声に出して呟きながら、黒子は一度目を閉じる。
数秒ほど沈黙を保った後で目を開けた少女は、風紀委員として取り繕った自分の表情を横目にしながら、元居た部屋の中へと戻っていった。





165 名前:レベル4◆SXIL+INII [sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:58:06 ID:???
>>123
見てきた
三沢塾跡にひまわり畑できてた

166 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:58:15 ID:???
>>165
mjd!?
ひまわり畑ってことは、え、本気!?

167 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:58:41 ID:???
>>165
ゆうかりんきたのおおおおおおおおお

168 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:58:42 ID:???
>>165
ktkr
スネークヨロ

169 名前:レベル4◆SXIL+INII[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:59:11 ID:???
>>168
OK

170 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 14:59:30 ID:???
>>169
やめとけ
本物なら軽く死ねるww

171 名前:レベル0の名無しさん[sage]投稿日:200X/8/14(金) 15:01:06 ID:???
っていうか三沢塾って何処?
漏れも逝きたいw

172 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:02:01 ID:???
>>171
第七学区の西端
この前新興宗教やってたとかで潰された
ビルも解体されて今は空き地になってるはず

173 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:02:16 ID:???
>>172
mjd?
こえー、統括理事会こえー

174 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:02:51 ID:???
っていうか>>169はどうなった?

175 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:03:00 ID:???
南無
無茶しやがって・・・(AA略

176 名前:レベル4◆SXIL+INII[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:04:32 ID:???
>>175
勝手に殺すな
能力で逃げなかったら確実死んでた
低レベル厨は現場やめとけww

177 名前:レベル0の名無しさん[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:04:40 ID:???
>>176
写メうp

178 名前:レベル4◆SXIL+INII[sage] 投稿日:200X/8/14(金) 15:05:04 ID:???
>>177
ムリぽ
ただ美少女だったとだけ言っとく






「・・・どうやら次の事件が始まったのは間違いないようですね」
「なんだか掲示板の学生たちのノリが軽くて、上条さんはこの事件に真剣に取り組むべきなのか微妙に悩んできましたよ?」
「確かに『死ぬ』だの物騒な単語があるわりには何だかアイドルの追っかけみたいな雰囲気になってますね。
まぁゲームのキャラが現実に出てきた、なんておとぎ話のような設定ですから仕方ないですけど」

何だか良く分からない理由でテンパった黒子が逃げるように部屋を飛び出してから、5分も立たないうちに状況が動き出したようである。
とりあえず黒子が帰ってきてから話を進めようと、今回の事件の実況スレの流れを追いかけていた上条と初春の2人は、実のところ疑わしさ50%強な気分で眺めていたのだが、ココに来て真相にほど近い情報を得ることが出来た。
もはや先に手を打っておこうと、初春はショートカットキーでスレッド観測のプログラムを最小化して別のウインドウを起動させる。

「こちらで街の監視カメラの情報を手に入れてみます。
三沢塾周辺のカメラと言うと・・・あそことあそこと・・・」
「よろしく頼む、と言いながらも上条さんは風紀委員(ジャッジメント)の権力がそこまで高かったことに驚きを隠せませんよ?」

真剣な表情でカタカタとキーボードを叩く初春を胡散臭そうに見つめながら上条はぼやいてみるが、当の張本人である風紀委員(ジャッジメント)は学園都市の風紀の前には多少のプライバシーの侵害など何処吹く風よ、とでも言いたげな様子でまるで作業を止める様子はない。
すぐにいくつかの動画ウインドウを開くと、初春は弄っていたパソコンの上や横に固定されているいくつかのモニタのスイッチを入れて見やすいようにサブモニタへと動画ウインドウを動かしていく。

「確かにひまわり畑がありますね」
「以前と全然雰囲気違うな。
ビル街の一角が突如お花畑っていうのは結構シュールなもんだ」
「あれ?
上条さん、三沢塾に行ったことがあるんですか?
塾生だったとか?」
「・・・まぁ野暮用でちょっとな」

初春の疑問に大して、バカ正直に魔術師と共闘して錬金術師と戦ったなどと言うわけにもいかず、上条は苦笑を浮かべながら答えをはぐらかす。
初春もあまり気にしていないのだろう。
あからさまに答えに窮している様子の上条をさらに問い詰めることはせず、背の高いひまわり畑の中の様子を探ろうと他に利用できるカメラがないかを捜していた。

「・・・中まではムリですね」
「でも何らかの異変が起こってるのは間違いないだろ。
ここからそう遠くないし、行ってみたほうがいいと思う」

どう見ても普通の光景とは思えない、数週間前まで三沢塾があった、そして今朝までは空き地であったはずの場所をディスプレイごしに眺める。
まるで何かのイベントのような規模で数十センチおきにみっしりと生えたひまわりの群生はざっと見ても百を軽く超えていた。
それも一本一本の高さは1メートル以上あるようだし、しっかりと大地に生えたその姿は十分にあの地に根付いていることを現しているようだ。
どう考えても、普通であるわけがなかった。

「それにしてもすごい花畑ですねー。
これは私も一度見てみたいですよ」
「・・・まぁ、確かにこの映像を見る限りそんなに悪い相手がいるわけじゃないって思っちまうな。
昔の人は花好きに悪い人はいないって言ったかもしれないし」

目をキラキラと輝かして画面を見つめる初春に、かなりの個人的な希望を込めた様子の上条が呟いた。
割と切実な様子である。

「そうですわね。
初春みたいに頭の上に花をのっけた甘ったるい相手かもしれませんわ」
「白井さんっ!?
どういう意味ですかっ!」
「白井、次に行くのはここで良いか?」

ロックを解除する必要がある関係で、入室の際には結構目立つ『ピー』という機械音が響いていた。
会話に自然に割り込んできた黒子は、入室したことに当然気付いていた初春と上条の声を耳に入れながら、最小化していたスレッドを広げて彼女はざっくりと板の流れを確認する。

「・・・ふむ。
この自称レベル4さんの言葉が正しければ、どうやら相手は普通に物理攻撃をしかけてくるタイプのようですわね。
またまた精神的な攻撃を受けたらどうしようかと思っていましたが、それは杞憂のようでしたわ」

現場を見てきたという人物のレスを見ながら呟いた黒子がニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
確かに彼女にとっては其処が一番重要な点なのだろう。
逆に精神攻撃が得意な相手であれば幻想殺し(イマジンブレイカー)によってほぼ無効が可能である上条にとっては有利となる。
相手が物理主体だということはあまり良い情報だとも思えないが、黒子が戦力として使えるのであればその方がやりやすい点も確かにある。

「じゃあ上条さんは今回は脇役に徹するので、白井さんにお任せします」
「今までの例の通りならば、お兄様が一撃を加えなければ敵を倒すことは出来ないのですから、当然お兄様がアタッカーでわたくしがサポートですわよ?」

上条が今回は黒子に全てを任せることが出来るのかと目をキラキラとさせながら問いかけてみたものの、彼女はそんなわけがありませんと大仰な動きで肩を竦めてみせた。
黒子の言葉にがっくりと肩を落とす上条を横目に、くすくすと初春が笑顔をこぼしながら何気ない口調で告げた。

「でもお花畑の花妖怪だなんてちょっと素敵ですよね。
スレッドの流れを見る限りファンも多いみたいですし、私も一度ぐらいは見てみたいかもしれません」
「それなら初春も一緒に行きましょうか?」
「・・・へ?」

黒子の言葉があまりにも突拍子も無かったからだろう。
初春はぎょっとした表情を隠すこともなく、慌てた様子でパタパタと両手を振って付き合わされてはたまらん、と逃げ出すべく言葉を続ける。

「い、いえっ!
私みたいな戦えないのが行っても邪魔なだけですしっ!!
「あら、遠慮する必要ありませんわ。
どうせ次で最後ならばもうバックアップは必要ありませんし、花妖怪でしたら初春の知識が何か役に立つかもしれませんの」
「うー、うー」

風紀委員(ジャッジメント)と言っても初春は見た目通り、前衛ではないようだ。
上条はうーうーと唸ってどうにかこの場に残ろうとする初春を見つめながらぼんやりとそんな風に考えていたが、積極的に初春をこの場に残そうという発言はしなかった。
風紀委員(ジャッジメント)というと知力体力能力の3本柱を兼ね備えた学生が多いのは事実なのだし、何も知らない上条は初春も武闘派ではないとは言っても現場仕事が出来ないわけではないだろうと考えていたのだ。
それから単純に未知の妖怪なんていう化け物と戦うにあたって、頭数は1人でも多い方が良いのも事実だ。
とは言え、年下の女の子を相手にそんな無茶を言うのもあまりにもかっこ悪すぎると複雑な男心で考えていたりした上条である。

「うーうー唸っても仕方ありませんわよ。
幻想御手(レベルアッパー)の事件よりは多分安全ですし、不用意な発言をした自分が悪いと思って準備なさいな」
「・・・はぁ。
分かりましたけど、喧嘩で使える戦力とは考えちゃ駄目ですよー。
上条さんも、こう言うのも何ですが普通に格闘とかすごく弱いんで私にあまり期待しないで下さい」

ペコリ、と上条に向けてそんな弱気にダメダメなことを告白する初春を見て、黒子が軽くため息をつく。
それから、何でわたくしがフォローをいれなくてはいけないんだ、などと内心で愚痴をこぼしながらも上条へと向かう。

「初春は腕っ節は弱いですけど、頭の回転は早いし機転もききますわ。
それにイザというときにはきちんと自分の仕事はこなせますので、頭数には数えることは出来ますの」
「いや、風紀委員(ジャッジメント)なんだからそんなに心配はしてないけどな。
初春も研修受けてるんだろ?」
「そ、そりゃもちろん。
・・・ギリギリラインでしたけど」

目を逸らしながらぼそりと呟いた初春の言葉は幸か不幸か上条の耳には届かなかったらしい。
多分彼のことだから不幸に違いないのだが。
とにかく、最後の事件ということで3人で一緒に現場に向かうことで決着のようである。

「さ、そうと決まればさっさと行きますわよ。
お兄様と一緒ですと空間移動が使えませんので、地図の場所まで10分以上移動にかかってしまいますし」
「あ、はい。
それから間に合うかどうかは微妙ですけど、応援は手配しておきますね。
今日は事件が一杯なんで皆てんてこ舞いですから、ホント一応ですけど」
「よっし、行くか!
妖怪退治!!」

ヤケクソ気味におー、と手を振り上げる上条に合わせて黒子と初春も片手を上げる。
そして、3人は一七七支部を後にして三沢塾跡地を目指して走り始めたのだった。





「相手が悪すぎますね、2人ではとても敵いません!
超撤退しますよ!!」
「賛成!
やっぱり麦野いないと無理だしーっ!
一時撤収!!」

上条たちが現場にたどり着くと、どう見ても自然とは思えないほどの量が生い茂るひまわり畑に目を奪われるよりも早く、花畑の中から女性と思われる2種類の声が響いてくる。
どうやら中にいる妖怪と交戦していたようであるが、声の調子から言って女の子たちの旗色はかなり悪いようである。

「先客か?」
風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)じゃないですね。
さっきの実況スレの人でしょうか?」
「・・・いえ、どうも違うようですの」

暢気な上条と初春に対して、黒子がちらりと視線を花畑に横付けして停車した黒いバンへと向けながら呟く。
それだけで初春は何かを察したように納得の表情を浮かべるが、残念ながら上条には何のことだかさっぱり分からない。
だが疑問を口にする余裕があるわけではない。
鬱蒼としたひまわりの大軍団を潜り抜けるようなガサガサという音が周囲に響いたと思うと、かなり背の低いショートカットの女の子とベレー帽をかぶった金髪碧眼な派手目の女の子の2人組がちょうど上条たちの目の前に飛び出してくる。

「っ!!?」

鉢合わせる格好になったせいか、ぎょっとした顔をした2人組の動きが一瞬だけ硬直する。
上条が咄嗟に初春を庇うような格好で構え、黒子はいつでも動けるように片手をスカートにそって滑らせる。
だが、2人は一度だけ上条たちへと忌々しそうな視線を向けたが、それでも当初の予定通りに物事を進めることの優先度を上にしたのだろう。
身体中に植物の蔓や葉っぱ、黄色い花弁や花粉などをみっともなく引っ付けたまま、停車していた車へ向けて走っていく。
待ち人の方も既に撤退命令は了解した上で、2人が乗るタイミングを待っていたのだろう。
上条が制止の声を上げる隙も与えずに、エンジン音を響かせた黒いバンがギャリギャリギャリと嫌な音を立てアスファルトの地面にタイヤ跡を擦りつけながら急発進していった。

「ま、待て!?
・・・って行っちまったか」
「撤収の手際は良かったですわね。
この中の情報が知りたいところでしたけれど、仕方ありませんの」
「気にはなりますけど、とりあえず今はこっちが優先ですよね。
彼女たちについてはまた後日考えましょう」

謎の女の子たちを乗せた自動車が見えなくなるまで見送った後、気を取り直して上条はむせ返るような花の匂いを撒き散らすひまわり畑を見渡した。
視線の端から端まで、大輪のひまわりが埋め尽くしている。
ひまわりの背丈は150センチほどあって、下手にこの中に飛び込んだりしたら黒子や初春はすぐに花畑の中に埋もれてしまうだろう。
高校生の平均身長よりは多少は上背がある上条であっても敷地の奥の方まで入っていこうと思ったら、あと身長が20センチはないと姿を見失ってしまうはずだ。

「・・・すげぇな」

ほんの数週間前に乗り込んだ場所のはずだ。
そのはずであるが、こうも見た目が違うと最早別の場所であるとしか思えない。
前回と全く変わらないはずの花畑の外の光景を見回してみても、圧倒的な違和感は上条ではとても拭えそうになかった。

「確かにすごい光景ですわね。
どう見ても異変ですの」
「でも綺麗ですね。
ちょっと感動です。
ちなみに今朝の様子も監視カメラから拾いましたけど、そのときはただの空き地でしたので悪しからず」

感動している割にはさらりとトドメとなる一言を発する初春の声を聞いた黒子がそっと息を吐く。
このひまわり畑が初春の仕業だと言われれば何と無く納得できない気がしないでもないが、さすがにそんなことが出来ればレベル1という範疇を軽く超える。
そもそも、さきほどの少女たちは恐らく学園都市暗部の人間なのだろうが、そんな奴らを手玉に取る程度は実力がある相手なのだろう。
黒子の頭の片隅にちらりと、『お姉様を応援として呼んだ方が良いのでは』という弱気な考えが浮かぶ。

「・・・はっ」

自分で自分をあざ笑ってそんな考えを打ち払う。
既に黒子は幻想殺し(イマジンブレイカー)というジョーカーのカードを手にしているのだ。
さらにエースの手札まで抱え込むなどと言うのは彼女の美学に反するし、・・・何よりちっぽけな自尊心が、わざわざ呼びつけて部外者を巻き込むことに対して躊躇いを生ませる。

「とにかくここにこうして突っ立っていても仕方ありませんの。
突入しますわ。
3・・・」

横に立つ2人の協力者と突入の呼吸をあわせるために、掛け声にはしっかりと明確な意志を込める。
この数字が何を意味するのかが、少ない言葉で正確に伝わるようにと考慮する。

「2・・・」

ざっくりと突入ポイントを見渡したが、やはり先ほど飛び出してきた少女たちが通ってきた場所が適切だ。
中の様子が確認できない以上空間移動は使えないし、今侵入者たちが逃げ出してきたばかりの場所には罠もないだろう。

「1・・・」

声に出しながら、前傾姿勢をとる。
まるで合図とともに駆け出すことが全ての勝利の基盤なのだとでも言いたげな態度だった。

「ゴーッ!!」

黒子が駆ける。
同時に、上条と初春がその後に続く。
ひまわりで出来たまるで遊園地の迷路のような錯覚さえ覚えるメルヘンチックな林の中に勢いよく突っ込む。
一瞬にして視界が背の高い植物によって遮られ、それでも鬱陶しさを感じるよりも早く、あっと言う間にそんな場所から抜け出した。
黒子の後ろには上条と初春が立っている気配がある。
どうやら、この畑は外からでは分からなかったが、ひまわりは周囲をぐるりと囲うようにして群生するだけで、中心だけ、まるでここに訪れる人たちがきちんと立ち止まってくれるように、とでも言いたげなぐらいぽっかりとスペースを空けていた。

「あら、今日は千客万来ね」

ひまわりの畑はまるで、城壁のようだ。
その中心の、さらに中心に立っているのは、少女である。
お城の中に住む少女は、きっと、このひまわりの世界の支配者だった。

「陰気くさくて魔術臭くて人間くさいこんな場所でも私の手にかかれば花が咲くわ。
最初は百日紅。
次はバーベナ。
今度は・・・月見草に水芭蕉、スイレン。
いや、貴方たちに合いそうな花を想像していたの」

少女はくるくると廻るパステルカラーの日傘で表情を隠しながら、せせら笑うような声色で上条たちを花に例えるたびに指差しながら嘯く。
傘が不意に上を向けると、ようやく少女の顔が覗いた。
ニコリと笑うソイツの目は、可憐に歪むソイツの唇は、透き通る隙のない笑顔を浮かべたソイツの顔は、どうしてだか、上条の目には獲物を見定める肉食獣の愉悦のようにさえ見えたのだった。

(続く)