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とある魔術の禁書目録 SS
『とある幻想の白黒色彩(モノクローム) 第8話 共感不和(ブリジ・プリンセス)B』


「妬ましい。
妬ましいで、カミやん。
そんな妬ましいカミやんは、恵まれないボクたちに面白いことを見せる必要があるんやないか?」
「そうだぜぃ。
女の子と一緒にいるカミやんが妬ましい。
会うたびに違う女の子を連れているカミやんが妬ましい。
カミやんには恨みはないが、オレが喧嘩を売る理由なんていくらでもあるんだにゃー」
「・・・会うたびに、別の女の子、ねぇ」

どうにも不穏な雰囲気をまとっている土御門と青髪ピアスのぶつぶつと呟く声に反応した黒子が、やけに冷ややかな声色でぽつりと言葉を零す。
会うたびに違う女とか言われても、当然だけど記憶にございませんよ?
過去の自分は一体どんなんだったのだろうかと上条の頬に一筋の汗がつたった。
それから隣に寄り添う黒子へと、上条さんはもちろんそんな人間ではありませんよ?と、そんな念が彼女に伝わることを信じて心の中で思い浮かべる。
続けて黒子へ言い訳めいた視線を向けてみるが、返って来るのは、へっ、という鼻で上条を笑う態度だったりして余計に彼の気が滅入ってくる。

「しかもあれやなぁ。
この前はシスターさんやったし、それから巫女さんもいたんやでぇ?」
「それで今度は常盤台の学生なんてもしかしてカミやん、コスプレフェチなんだにゃー?
だが!
至高の制服はメイド服であることだけは譲れないですたい!!」
「・・・へぇ。
ほぉ。
シスターさんに巫女さん、ですか」
「ちょ、ちょっと待て!?
アイツらは確かに知り合いだが、俺が要求してあの格好じゃないですよっ!?
そこのところは訂正させて下さい、お願いしますっ!」

冷ややかを通り越して、殺気に近いとさえ感じてしまう氷点下の視線をびしばしと飛ばしてくる黒子の方を見ないように心がけながら、上条がなんとか事態を好転させようと言葉を続ける。

「っていうか、俺の今の状況をちゃんと知っているのは白井しかいないんだけどっ!
そんな上条さんが女性と必要以上にお近づきになれると思ってるんでしょうか!?」
「・・・そ、そうなんですの。
わ、わたくしだけ・・・?」
「そうなんだよ。
今の俺のことを知られちまったのは、白井だけなんだからな・・・全く」

上条へと向けた突き刺さるほどびしばしと飛んでくる鋭い視線が唐突に来なくなったと思うと、黒子はもごもごとすぐそばに立つ彼にも届かないほどの小声で何事かを繰り返し呟いていた。
が、黒子からの視線の圧力がなくなると、待ってましたとばかりに、今度は野郎2人組みからのギラギラとした敵意の視線が急速に高まってくるのが分かり、上条はどうすりゃこのループ終わるんだよ、バグか!とそんな突っ込みを心の中でいれてみる。

「なぁ、カミやん?
ボクら親友やからな。
富は分け合うべきものと違うか?
そうやそうや、ツインテール、中学生、つるペタ、常盤台、お嬢さま、風紀委員(ジャッジメント)、お子様体系でその人を小馬鹿にしてそうな目つき、それぞれ属性ごとに分析して三分の一に分けるべきなんやーっ!」
「そうだにゃー。
カミやんのフラグ乱立世界に女の子はこれで一体何人目にゃー?
昔の人はこう言ったもんですたい。
お前のものは俺のもの、俺のものは俺のもの。
舞夏はオレだけのものだぜ、当たり前だろ、コラぁ!」
「ちょ、ちょっと落ち着けお前らっ!
特に土御門っ、何かお前ヤバイ台詞を口走ってるぞっ!?」

酔っ払いに絡まれるとこんな気分になるのだろうかと、そんな話の噛み合わない様子の2人を何とか落ち着かせようと上条が声を上げる。
だが、酔っ払いという単語が最も相応しい状態の2人に、そんな説得が通じるはずもなく『にゃーにゃー』やら、『やーやー』やらと鬱陶しい語尾が数倍になって返ってくるばかりであった。
だから上条は2人を自分の言葉だけで落ち着かせることを諦めて、今度は方向性を変えて事態の収拾を図ってみることにする。
ようは、土御門と青髪が、『白井黒子と上条当麻は何の関係もありません』ということを理解してくれれば良いのだ。

「そもそもっ、白井とはそんなんじゃありません!
大体お前ら、コイツのことを良く見てみろ!
まだ子供じゃねーかっ!!」

上条は隣から、ピシリ、と何かにヒビが入ったかのような音がしたのにも気付かずに土御門たちに向けて声を上げて熱弁をふるう。

「まだまだ背も胸も発展途上どころか、第二次性徴が始まっているかも怪しい幼児体系だぞ!
つるんぺたんすとん、で小学生みたいなもんだ!
よく考えてみろ、それで俺と白井がフラグとかおかしいだろ、お前ら!?」
「ロリは至宝だぜい。
後はメイド服を着せれば完璧だにゃー。
このままウチの担任のような奇跡が起こることを祈るばかりですたい!」
「いやいや、そいつは違うで多分。
カミやんのことだから今のうちに仕込んでおいて年頃になったら収穫するつもりなんやな、きっと。
なんていう孔明、なんていう策士やーっ!」
「おい、お前らっ!?
そんな人聞きの悪い、どころか下手すりゃ犯罪者じゃねぇか俺!」
「どちらにしても妬ましいにゃー」
「そんな些細なことは関係なく嫉ましいで、ホンマ」

上条の必死の説得にも耳を貸すどころか、余計に煽ってくる始末である。
やっぱり能力で操られている以上どうすることも出来ないのか、とあんまり会話に参加してくれない黒子にも意見を聞いてみようと首をひねった上条の顔が思わずひきつった。
隣に立つ黒子は、再びイライラとした様子で頬の筋肉を引きつらせ、唇を噛み締めたその姿は今にもあふれ出しそうな怒りを必死に堪えているようだった。
そんな彼女の様子を発見してしまった上条は、女の子を怒らせるとエライ目にあう可能性が高いと噛み付きシスターの普段の姿を思い浮かべながらも、顔を青ざめながら心なし必死な口調で説得を続ける。

「だから、俺と白井はっ!」
「だったらその腕は何だっていうんですたいっ!!」

だが、そんな彼の願いはあっさりと打ち砕かれた。
掛け声と同時に土御門のヘラヘラとした態度と脱力する口調とは打って変わった俊敏な動きで、上条と黒子の間を繋ぐ腕目掛けて土御門チョップが振り下ろされる。
やはり何者かの能力に操られているせいだろうが、かなり本気な一撃を受けた箇所にズキリとした痛みを感じる。
それを意識すると同時に、衝撃の拍子で上条の右手が黒子の腕からすっぽ抜けて離れてしまったのが分かった。

「ちょ、おまえっ!
何しやがるっ!!」
「あーあー、カミやん、そんなにロリーな女子中学生と腕組めないのが残念なんかなー?
しゃーないなー。
ボクで良ければ腕、組ませてあげるで。
優しくしてな?」
「離れろ、気色悪い!?」

慌てて黒子のそばに上条が近づこうとするが、その間に青髪が無駄にでかい身体を割り込ませてくる。
何しろ急がなければすぐに黒子も敵側にまわってしまうのだ。
土御門と青髪の腕っ節は知らない上条だが、黒子がまともに戦えば上条では勝ち目がないことは確かなので、どうにかマトモでいてほしかったのだが・・・。
残念ながら、不幸の星の下に生まれついたかのような上条に、そんな些細な幸福が訪れることなどありそうもなかった。

「おどきなさい!」

ピシャリとした声が響き、上条と黒子の間に立っていた青髪と土御門が怯んだ様子で横に一歩退くと、そこには当然のような顔をして腕を組んだ白井黒子が仁王立ちで立っていた。
その顔は一見すると何の狂気も感じさせないものだったが、だからこそ胡散臭い怪しさを疑ってしまう。
そんな予感を感じた上条の想像が正しいことを証明するかのように、黒子が自分よりも身長でいえば30センチ以上、体重で言えば二倍近い可能性もある大男たちを物怖じした様子も見せずに有無を言わさず押しのけてみせる。
そのまま一歩ずつ近づいてくる彼女から逃げ出すことも出来ず、上条はただそこに立ち尽くしていることしか出来なかった。

「お兄様。
少しお話がありますわ」
「は・・・はい?」

密着するほどに近づいた黒子が、ずい、と身を乗り出して胸元から上条を見上げてくる。
ここまで近づかれると、いくら上条とは言えよく分かる。

・・・やっぱり普通なんかじゃない。

一々描写なんてしなかったが、周囲では今でも数十の人間が今にも殴りあいを始めそうなほど、一色触発な雰囲気のままなのだ。
そんな場所で、話がある、だなんて言い出すことが普通であるはずがなかった。

「お兄様は、女心が分かってなさすぎですわ。
確かに、ええ、確かにわたくしはまだまだ子供でしょうけれど、それをあんな風に言われてカチンと来ない女性なんておりませんの。
ええ、ムカ、と来ましたし、そんなデリカシーの欠片もないお兄様が妬ましくてしょうがないですわ?」
「ちょっと待て、その話のつなげ方はおかしいと思いますよ、上条さんは!」

さらにずい、と顔を触れ合うぐらいまで近づけてきた黒子の瞳が上条の視界いっぱいに広がった。
右手で触れさえすれば、この修羅場から逃れることが出来ることも忘れた上条が、しどろもどろになりながらも兎に角この場を逃れようと、頭に浮かんだ言葉を推敲することもせずに黒子に向けて吐き出す。

「じ、実はだな!
今日一日でも何度か白井に触れちゃったりもしたけど、結構ぷにぷにしてて良い感触だったぞ!?
女の子っぽくてドキドキしました、ハイ!」
「ぷにっ!?」

固まった。
ガキン、と音がしそうな勢いで嫉妬の感情さえ忘れてしまったかのように硬直した黒子の様子を見て、上条が首を傾げる。
彼には、残念ながら、勢いに任せて叫んでしまった言葉が、良い結果を生むのか、悪い結果を生むのかさえ判断がつかない。
ふと見ると、土御門と青髪ピアスが、こちらを覗き込みながら両手でバッテンのマークを作っていた。
あ、ダメ?
そうですか。
やっぱり、と言うかそんな予感は始めからしていましたよ、上条さんは!

「お、おお・・・おにい、お兄様の!」

硬直から解き放たれた黒子の身体がガタガタと震えていた。
それを見た上条は、ああ、やっぱりアウトか、と諦めの篭ったため息をもらす。
結構余裕があるように見えるあたり、不幸には慣れ親しんだ彼なりの達観なのだろう。

「ドアホーーーーっ!!!」

だからと言ってどこぞのシスターに噛み付かれれば普通に痛いし、顔面の高さまで空間移動(テレポート)した女子中学生にドロップキックをぶちかまされれば、もんどり打つような激痛を感じるのを避けられるわけではない。
一点だけ良かったことと言えば顔面に飛び蹴りを受けたせいで、乙女の花園をかいま見ることが出来たことぐらいだろう。

・・・黒のレース。

意外と大人っぽいのを穿いているんだなぁ、などと考えながらも上条はそのままゴロゴロと地面を転がっていった。

「プニプニ・・・わ、わたくしの何処が・・・プニプニなんですの・・・?
お腹っ!?
腕っ!?
ウフ、ウフフフフフフ、それはアレですわよね?
わたくしが太っている、とそう仰いたいと言うわけですわよね!!」

上条は擦り傷だらけの身体をむくり、と持ち上げながらようやく合点が言ったとばかりに理解の色を表情に浮かべる。
そういう意味じゃないつもりだったのだが、今さら何を言っても通じそうもない。
キシャーと謎の奇声を発しながら結んだ髪をタコのように重力に反した動きでくねらせる黒子は、どう控えめに見ても話が出来る状況ではなかった。

「そやそや、カミやんは女の子のことが分かってないねん!」
「にゃー。
カミやんは反省すべきですたい!」
「今はっ、わたくしがお兄様とお話しているんですわっ!
邪魔をしないで下さいっ!!」

手持ちぶたさだったのか、不用意な動きを見せた青髪があっさりと上条と同じ空間移動(テレポート)ドロップキックの刑で地面をごろごろと転がっていく。
青髪の場合は後ろからだったから秘密の花園も見えなかっただろうし、まさにただ一方的に蹴られただけである。
そのままピクリとも動かなくなった青髪を一瞥だにせず、同じく話のコシを折った土御門へとルナテック黒子が向き直る。

「へぇ?
オレとやろうって言うのかい、お嬢ちゃん。
言っとくがオレは女には滅多に手を出さないカミやんやそこの青髪と違うぞ?
怪我するだけだぜ」

土御門が笑いながら、高い上背と比べてもなお長い両の腕をゆらりと垂らす。
黒子が、ピクリ、と動きを止める。
が、それも一瞬。
すぐさま腰を90度折り曲げたような格好で孤を描きながら、にやけた笑みを崩さない土御門へと目掛けて己の2本の足で肉薄する。

「貴方もお兄様とわたくしの話し合いを邪魔するならば、寝てなさいっ!」
「ふん、委員活動とプロの違いを見せてやるぜ!」

土御門がノーモーションから瞬時に、黒子の小さな頭ぐらいは踏み抜けそうな勢いで彼女の足先目掛けて凶器のような己の足を断頭台のように真っ逆さまに落とす。
その動きを見切ったようなタイミングで空間移動(テレポート)した黒子は、土御門が空振りしたせいで対応が出来ない彼の軸足側の死角へと忽然と出現した。

「ふっ!」
「ひゃっはーっ!」

続けて気合を込めながら、振り上げるような動きで黒子は垂直に尖らせた肘を土御門の顎目掛けて勢いよく持ち上げるが、彼は蛇を思わせるような動きで不可思議な軌道を描きながらも彼女の肘を迎撃しようと迎え撃つ。
同時にそれだけでは終わらんとばかりに、土御門は逆の手でいつの間にか引きちぎっていた自分のシャツのボタンを指弾にして飛ばした。
黒子の肘と土御門の拳、それから弾丸を思わせる速度で黒子へと迫るボタンがぶつかるよりもわずかに早く再び虚空へと少女の姿が掻き消える。

「ちぃっ!?」
「甘いですわっ!」

相手との距離を一歩分だけ空間移動(テレポート)で下がってみせた黒子が、相手を見失ってたたらを踏みかけた土御門目掛けて、漫画か何かで見かけたことがあるような中国武術の型で肘をみぞおちへと打ち込むべく渾身の踏み込みを見せる。

「・・・な、何だありゃ?」

上条は目の前で始まった、まるで違う物語のような戦闘を呆然と眺めながら呟いた。
パワーでも技でも土御門の方が勝っており、スピードではほぼ2人の力量は同等に見えるが、ただ黒子は能力のレベルが圧倒的なのだ。
空間移動(テレポート)を駆使して前後左右のみならず、上下も支配する黒子に土御門は劣勢を強いられているように見える。

「っていうか土御門ってあんなに強いのかよ・・・!?」

学生寮の隣室に住む、シスコンでメイドスキーなクラスメイトと思われる金髪、という印象しかなかった男の意外な姿に、唖然とした顔を向けることしか出来ない上条の前で激闘が続く。
数歩離れた格好で向き合った2人は、睨み合いながら言葉を交わしていた。

「なかなか・・・やりますわね。
それにしてもお兄様の昔からのお知り合いだなんて・・・妬ましいですわ」
「ああ、オレも風紀委員(ジャッジメント)にこんなヤツがいたなんて驚きだぜ。
高レベルの能力者なんて・・・妬ましいなぁ」

黒子がぎらついた瞳で土御門をねめつけると、彼は真っ赤な舌をちろちろと覗かせながら構えを取る。
ナンダコレ・・・どう収集つければ良いんだよ、と頭を抱えた上条がため息を零す。

「こんにちは」

そんな置いてけぼりな上条の耳に、声が届く。
振り返った彼の数歩ほど離れた距離に、一人の女の子が立っていた。
他の都市とは比べ物にならないほど国際化された場所であるとは言え、それでも学園都市が日本の一都市という位置づけには間違いない。
インデックスの銀髪もかなり珍しいし、この唐突に向かい合うはめになった少女のキラキラと陽光に反射するかのような金髪も結構珍しいものだ。
透き通るような濃度をまるで感じさせない白い肌に、西洋人形のような顔つきなわりに陰気な印象を何故か与える瞳をした少女だった。
フリフリとしたフリルをそこかしこにつけた青色のドレスを身にまとった少女の年のころは、中学生ぐらいだろうか。
かつ、かつ、と高い靴音を響かせながら、無造作な仕草で上条の目の前まで近づいてきた少女が、じっと彼の瞳を覗き込む。

「・・・な、なんだよ?」

ドロドロとした毒沼のような視線に怯んだ上条が目線をそこかしこに泳がせると、彼女が履く、血のようなべっとりとしたクレヨンで塗りたくった色で染められた靴の、真っ赤な色彩が彼の瞳に飛び込んでくる。
思わずちかちかと眩んでしまった目を右手で押さえると、その女の子の口から声が漏れる。

「それにしても妬ましいわ。
争えるだけの気にかかる人がいるだなんて妬ましいことこの上ない」

怨念がこもったような声だった。
思わずぎょっとした上条が声を出すことも出来ずに一歩後ずさると、女の子はその分だけ一歩間合いをつめてから続ける。

「あら、残念ね。
もっと驚いてもらえると思ったのだけれど。
リアクションがイマイチで妬ましいわ」
「お前っ、まさかっ!!」
「そうね、自己紹介が遅れたわ。
橋姫、と呼んでくれれば良いわ。
何であなたにはわたしの能力が効かないのかしら、妬ましい」

整った顔に浮かんでいるドロドロに煮詰まったスープのような表情が、上条の心に余計にゾクゾクとする恐怖を誘う。
ぶるり、と寒気以外の感情で震えた上条へ向けて、ヒヒヒ・・・、と橋姫が歪んだ笑みで声を漏らす。

「ああ、わたしのことが怖いのね?
当然ね、誰からも嫌われる存在だもの。
忌み嫌われる存在のわたしを前にして、全ての生きる者は不和と争いから逃れることなど出来ないわ」

自重気味な口調で呟く橋姫の言葉に違和感を持った上条は、うーん、と頬をかきながら何かが間違っているんじゃないかと考えた。
そして、彼は感じたままの言葉を口から発する。

「だったら大丈夫だ。
俺はこの通り、そんなふざけた幻想に惑わされたりなんかしねーよ。
だからさ、俺だったら一緒に遊んでやることだって出来るし、その能力もコントロールできるように一緒にどうすれば良いのか考えてやるからさ。
こんなこと、止めようぜ」
「・・・え?」

ぽかん、と呆けた様子で口を開けている橋姫の頬が、上条の言葉を頭の中で噛み砕いていくうちに、少しずつ赤く、彼女が履く靴のような毒々しい赤ではなく、熟した林檎のような鮮やかな赤に染まっていく。
彼の顔を再びマジマジと眺める橋姫を、今度は逃げも隠れもせずに上条はしっかりと受け止める。

「・・・わた」
「フラグ乱立、大☆禁☆止っ!!」

そこに割り込むようにして現れた影が大声で叫びながら錐揉み回転で近づいてくる。
その小柄な体格と、それに見合わぬ迫力で迫るその少女の名はっ!?

「し、白井っ!?」
「死にさらせぇーーーーっ!!」

どがぁっ、と逃げる暇もなく本日二度目のドロップキックを喰らった上条と、それに巻き込まれるように吹っ飛ばされた橋姫がごろごろと数度跳ね回りながらアスファルトの上を転がる。
ずきずきと痛む身体の節々に意識を向けながらも、地面に倒れた身体を持ち上げようとした上条が、右手に何かを掴んでいることに気がついた。
恐らく、蹴り飛ばされた拍子に何かを不意に掴んでしまったのだろうと、そちらに視線を向けて・・・、上条の表情が驚愕の色に染まる。

「お、おい・・・?」

上条の右手は、橋姫の手をしっかりと握り締めていた。
握り締めていた彼女の左手から、橋姫の身体がゆっくりと、まるでそう在るのが当たり前であるかの如く、彼女の色が消しゴムでもかけたように薄く滲んでいく。
慌てて右手を離した上条の前で、橋姫は消えていく左手をただ見つめていた。

「ちょ、待てよ!
俺はまだ、何もしてやってねぇぞ!!」

思わず声を荒げる上条に、ようやく合点がいったとばかりに橋姫がじぃっと見つめていた左手から視線を上条へと移す。
それから、初めて見る屈託のない笑顔を見せた橋姫は、上条へ向けてペコリと頭を下げた。

「あなたの手は暖かかったわ。
もうずぅっと感じたことのない、人の温かさを教えてくれただけで十分よ。
ありがとう」

上条が橋姫にもう一度触れようと今度は全く何の力もない左手を伸ばすが、うっすらと空気中に溶けるように透けてしまった橋姫に触れることさえ出来ず、ただ、ぎゅっと自分の指だけを握り締める。

「・・・くそったれ」
「ああ、最後まで不運なこの身が妬ましい」

そんな言葉とは裏腹に満足気に呟いた橋姫は、そのまま口を数度音をださずに動かしたと思うと、大気に溶けながら、まるで始めから存在しなかったようにして消えた。
もう一度、何もない虚空に差し出したままの左手を、ぎりっ、と握り締めた上条が、橋姫が開いた口の形から何を彼女が言いたかったのかを理解した頃、気まずそうな声色で発せられた声が彼の耳に届く。

「・・・あの、その、わたくし」

珍しくも言いよどむような素振りをした黒子が、何も言わずに立ち上がる上条を不安げな眼差しで見つめてから、ビクリ、と一度身体を震わせる。
オロオロとした様子で、上条が、ポリポリと後ろ頭を掻きながら近づくのを見上げていた黒子が、思わず目を閉じた。
余計なことをして殴られるんじゃないか、と顔を強張らせる黒子を見た上条がため息を零すと、その音に反応したかのように黒子はもう一度、先ほどよりも大きく身体を震わせる。

「・・・ったく。
何もしねーから、怖がらなくてもいいって。
まー、そのな。
俺だって何がしてやれるってわけでもないんだし、アイツも少しは喜んでくれた気もするしな。
何にも知らねえ俺たちに出来ることなんてあんなことぐらいだ。
気にすんなよ」

上条は優しげな表情で目をつぶって硬直した結果、頭を差し出すような格好になってしまった黒子の頭をゆっくりと撫でながら、そんな風に声をかけた。

「・・・それでも、すみませんですわ」
「ああ、分かったよ」

すぐに来ると思っていた痛みを伴うはずの衝撃が、ふんわりとした心地よい感触だったことに戸惑って目を開けた黒子が謝罪の言葉を告げながら恐る恐る視線を上げる。
上条の苦笑いを浮かべる顔を見て、彼の穏やかな声を聞いて、ようやく彼が怒っていないことに納得した黒子はほっと胸をなで下ろした。
と同時に黒子は、どうして失敗したことではなくて上条に失望されることに脅えたりしているのか、という疑問を抱いてしまう。

「・・・ま、そんなわけありませんわ」

不意に心の底から浮かんだ答えにぽつり、と否定の言葉を呟く。
黒子はそっとため息をついてから上条の手から逃れ、現場の後始末を始めるべく風紀委員(ジャッジメント)として動き始めるのだった。

(続く)