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とある魔術の禁書目録 SS
『とある幻想の白黒色彩(モノクローム) 第6話 共感不和(ブリジ・プリンセス)@』


「さ、着きましたわよ」
風紀委員(ジャッジメント)の支部なんてもんに招かれてしまっては、もう後戻りも出来そうもないだろうし。
上条さんは、既に病院の入院手続きをしておいた方が良いかもしれないとまで考えてるぜ!」
「・・・それはさすがに気が早いですわね」

バスのステップから降りながらどう考えても本気としか思えない口調で発した上条の言葉に、さすがに呆れた口調で返事をすることしか出来なかった黒子が続けて会計を済ませてバスから降車する。
2人が下車した場所は、とある学生寮前の位置にあるバス停である。
とは言っても、別に上条の学生寮でも無ければ、黒子の学生寮の前であるわけもない。

「病院なら良い医者を知っていますから紹介してさしあげますわ」
「いや、俺も掛かりつけがいるから大丈夫だよ」

2人は互いにカエル顔をした医者のことを思い描いていることなど知る由もなく、そんな掛け合いをしながら学生寮の門扉の横をそのまま通り過ぎた。
目的地は隣接する学校の校舎の中にある。
何の変哲もないコンクリートで出来た奇抜さの欠片もないごくごく普通の校舎へと、すたすたと躊躇無く侵入した黒子が勝手知ったる来客用のスリッパを2足取り出して並べた。

「しかし、風紀委員(ジャッジメント)の支部ってのはどんなところなんだ?
やっぱり謎のメーターがいっぱい並んでいて巨大なスクリーンに街の様子が映ったりするのか?」
「・・・それはそれで面白そうですけれど、残念ながら過度の期待には応えられそうにもありませんわね」

靴を適当に脱ぎ散らかしてスリッパに履き替えながら、どう見ても冗談としか思えないようなことを口走る上条に、黒子は何と無く上条の靴を丁寧に並べながら適当に相槌を打つ。
黒子は自分もスリッパを引っ掛けてから、まるで案内役であるかのような点々とした小さな灯りに沿うように歩き始めた。
ぺたぺた、というリノリウムの床と安物のスリッパが奏でる、学生の身分では普段はあまり聞くこともないような足音を響かせて歩く2人の前に、すぐに一枚の扉が立ち塞がった。

「ここですわ」
「・・・風紀委員活動第一七七支部ねぇ。
というかここまでの警備って基本ザルなんだな」
「一応この扉にはこの通り、防犯上の設備がありますけれども」

そう言いながら黒子はドアの横にこれ見よがしに設置された硝子板に、自分の人差し指を押し付けた。
上条が指紋認識だろうか、と適当に想像していると、ピーッ、という愛想の感じられない音と同時にカシャリ、とドアのロックが解除される音が耳に届く。

「指紋、静脈、微振動と、指先一つで3つのロックが掛かっていますわ。
ここの情報を悪用しようとした場合、わたくしの指を切り落としても使えませんからそのつもりでお願いしますわ」
「笑えない冗談はやめい」

想像してしまったのかしかめ面をして呟く上条に一度くすり、と笑みをこぼしてから黒子はドアノブに指をかけた。
そのまま、勢いよくドアを開け放つ。

「う〜い〜は〜る〜ちゃんっ♪」
「ひぃっ!?」

突然響いたドアの開く音よりも、白々しいまでの喜色にぶっ飛んだ黒子の呼びかけに恐怖を脅えたのだろう。
部屋の中でカタカタ、と何事かキーボードを叩いていたらしい少女の背中から、黒子の背後で見ていた上条にさえ分かるほど、びくっ、とした驚きの感情が伝わってくる。
ギギギギ・・・、と壊れた玩具のような錆びた幻聴を響かせながら振り向いた少女の瞳が、不自然な態度で声を弾ませる黒子に対しての弱気な色を覗かせていた。
だが、それも一瞬のこと。
すぐに、きょとんとした、訳が分からない、といった顔つきにとって変わる。

「・・・えと、どなたでしたっけ?」

こくん、と擬音を出して首をかしげた少女が上条へと視線を向けていた。
普通のオフィスに置いてあるようなパソコンチェアと比べて、変な形であるがゆえに座り心地の良さそうな椅子に深く腰掛けている少女は、これまた一風変わった不可思議な人物のようだ、というのが上条の第一印象だ。
年のころは黒子と同じくらいか少し下といったところだろう。
背は座っていても分かるぐらい低く、丸肩で余計に小柄な体つきに見える。
その上、風紀委員(ジャッジメント)の活動中だからかセーラーの夏服という格好なのだが、どうも衣装に着られているといった感じにしか見えない。
悪く言えばまるで小学生のような子供っぽい少女だ。

・・・とは言え、それで不可思議だなんて言うつもりはさらさらない。

彼女の短めな真っ黒な髪の上には、さすがに造花だろうが、そんな問題でもない。
自分を花瓶に見立てたかのように様々な形と色の花が咲き誇っていたのである。
何の意味があるのかは分からないが、黒子の様子から見て、少女の格好は別に普段と違っておかしいと言う訳ではないらしい。
それともアレは上条にしか見えないお花畑なのだろうか。

「・・・さすがに無いか」
「ああ、初春は初めてですわよね。
こちら、今回の事件に『好意で』協力いただいている上条当麻さんですわ。
こっちの頭に花を乗っけた変な女はわたくしの同僚の初春飾利ですの」
「なるほど、好意ね」
「変なっ!?」

上条は黒子の言い回しに苦笑を浮かべてみせただけだが、一方、変な女呼ばわりされた初春の方はショックを隠し切れないようではあるものの、さすがにいきなり客人の前で言い合いを始めるわけにもいかず、パクパク、と丘に揚がった魚のように口を開閉させるだけである。

「初春の頭の上と中身のお花畑のことは置いておいて構いませんわ。
それよりも、さっさと中に入りましょう。
一応コーヒーやら紅茶なんかも結構な設備がありますから本格的なモノをご馳走出来ますわよ」
「りょーかい。
ちなみに上条さんは庶民舌なんで、くれるんなら何も文句を言うつもりはありません」
「え、ええっ!?
あれ?
し、白井さんっ!?
部外者を入れちゃ・・・」

椅子から立ち上がりわたわたと両手を振り回しながらそんなことを言う初春であるが、躊躇する上条にさっさと入って来いと先に入った黒子がジェスチャーで示す。
とりあえずの力関係を把握した上条は、まぁいいか、と気にしないことにして風紀委員(ジャッジメント)の支部の中へと足を踏みいれた。

「しかし、こりゃ。
なんつーか学校というよりどっかの会社みたいだよな」

部屋に入った上条の感想は正にその一言に尽きた。
ざっと教室二つ分ほどの広さの部屋には職員室にあるようなビジネスデスクが並び、設置型のコンピューターが半分ほどの机の上に並んでいる。
ガラス戸のついた本棚にはラベルの付いたファイルが見分けがつかないぐらい並んでいるし、大型の業務用シュレッダーにFAXなど上条の学校の職員室よりも良い設備が整っているのではないだろうか。
それから給湯設備もあるようで保温ポットに、学生の身分ではなかなかに珍しい本格的なコーヒーサーバーが何気なく設置されていたりする。
壁には少し色あせた『風紀委員(ジャッジメント)募集中』なんてポスターが貼ってあったりもするのだが、それは多分この場所に貼っても意味はないだろう。

「そうですわね。
ま、こちとら無償奉仕ですし。
このぐらいは出して頂かなければ、わたくしたちもさすがに不満を出しますわ」

支部内をきょろきょろと首をめぐらせて眺める上条を気にした様子も見せない黒子の姿がかき消えて、座ったまま、どうしたものか、という表情を浮かべた初春の背後に現れる。
無論、初春はその雰囲気に見合った程度のごく普通の身体能力しか持ち合わせていなかったため、黒子の行動に反応できるはずもなく、それどころか、がっしりと、自分のこめかみに黒子の両拳が当たるまで彼女が空間転移(テレポート)したことに気付くことも出来なかったりした。

「さて、初春。
お兄様は実害はありませんから放っておいても大丈夫ですわ。
そもそもこの支部にはお姉様も鍵を裏技で解除して立ち寄りますし、正直今さらですの」
「み、御坂さんは超能力者(レベル5)じゃないですか!?」
「あら?
何時から超能力者(レベル5)だと風紀委員(ジャッジメント)の支部に自由に出入りできるようになったのでしょう?」
「ううっ、って痛い痛い!」

ちょっとピントのずれた発言をする初春のこめかみに圧迫感を与えてやりながら、黒子は言葉を続ける。
聞きたかった話は別にあったことを思い出したのだ。

「それで、初春。
此岸彼岸(ステュクス・アケロン)の件ではわざわざわたくしを指名して下さりやがりましてありがとうございましたわ。
お陰でとっても、楽しい思いが・・・できましたわぁっ!!」
「ぎゃーっ!?
し、白井さん、普通にいたいっ!!
「痛くしているんですから当たり前ですわーっ!」
「で、でも、無事に脱出できたわけじゃないですかっ!
やっぱり白井さんに頼むのが正解なんでしたってば!!」

ぎゃーぎゃーと喚く初春を解放した黒子が、はぁ、とため息を吐いた。
そのまま黒子は指先を初春の肩越しに伸ばして、初春との間を阻む物が無くなった上条へと向けてから呟く。

「わたくしではありませんわ。
お兄様の協力があってこそですの」
「・・・はぁ」

事態が呑み込めていない初春が、改めて部屋の中を見回すのにも飽きたのか、どうしたらよいのだろうと途方にくれた様子の上条へと視線を向けた。
委員活動の関係上、数多くの高レベル能力者の名簿が頭の中に入っている彼女の脳内では、上条当麻という名前に対する検索に対する回答はゼロ。
もちろん、スキルアウトやら何やらの集団に属する、所謂学園の不良ともどこか雰囲気が異なる気がする。

・・・という事は、ちょうど事件に適した能力を持っていた強能力者(レベル3)か何か、ということなのだろうか、と初春は結論を出す。

黒子のこの行動にも納得が出来ないわけではない。
多分、この上条さん、とやらが風紀委員(ジャッジメント)に入るようにスカウトするつもりなのだろう。
初春は黒子の人を見る目を信用していることもあり、それならば、と彼の対応は一時保留とすることにした。

「えぇと、事件の方は片がついたんですよね。
もしかしてまるで理屈では説明が出来ない不可思議な現象とかまるで怪談話のような奇怪なことが起こった挙句、突然何の前振りもなく終わったりしたんですか?」
「・・・?
いえ、確かに突拍子も無いことばかりでしたけれど、ちゃんと解決致しましたわ。
そうですわよね?」
「ああ、少なくても来年まではお預けだと思うぞ」

初春の妙な言葉に眉を顰める黒子が答えると、上条も同意するような言葉を吐く。
どうも話がかみ合っていないようだ、と感じたのは皆一緒なのだろう。
一瞬視線を交錯させた後、初春はチェアから立ち上がって2人に声をかけた。

「どうも長い話になりそうですね。
そっちに打ち合わせ用のデスクがありますので、白井さんはそちらに上条さんを案内してあげて下さい」
「ええ、分かりましたわ」
「上条さん、コーヒーと紅茶、どちらが良いですか?」
「どっちでも良いよ。
さっきも言ったけど、そんな上等な舌じゃないからさ」
「じゃあ折角のお客様ですし、頑張って紅茶を煎れてみます」

むん、とガッツポーズをしてみせた初春がティーポットと茶葉を何処からともなく取り出す。
年頃の乙女として、彼女も男性に良いところを見せたいという当然の欲求はあったし、何よりも黒子に認められるような紅茶を淹れることを目指してこっそりと練習していたりもしたのだ。
この機会に張り切ってしまうのもしょうがないと言えなくもない。

「・・・随分とまぁやる気ですわね。
初春、お茶菓子もよろしくですわー!」
「あいあいさーです」

だが、そんな相棒の内心など知る由も無い黒子は、何を張り切っているんだか、と呆れるばかりだったりするのだが。
実に悲しきは難解な人の心とでも言うべきだろうか。





「・・・なるほど。
わたくしたちだけは無かったというわけですか」
「はい。
こちらに入った情報だけでもまるで冗談のような目撃情報のオンパレードでした。
トイレの花子さんに口裂け女、それから首無しライダーにテケテケさん、歩く二宮金次郎なんてのもありましたね。
見間違いや悪質な冗談もあったでしょうけど、それでも100件を超えてしまいますとどんなに頭の固い人でも異質なことが起こっていると思いますよ。
幾つかの事件では実際に風紀委員(ジャッジメント)が出動していますし」
「・・・大丈夫だったのか?
そういう噂の化物って結構やばそうな気もするんだが」

所変わって、一七七支部の打ち合わせスペースの一角である。
とりあえずこちらの情報を全て吐き出した上条と黒子に対して、初春は学園都市全体でそんなナンセンスな怪談話が現実になっていることを教えてくれた。
此岸彼岸(ステュクス・アケロン)なんてチープな怪談を担当した2人は、もしかしたら死神は話は通じていたしまだマシな事件だったのかもしれないな、などと同じようなことを考えていたりする。
そんな考えから出た上条の発言ではあったのだが、初春は手元のノートパソコンを弄りながら答えを返す。

「追いかけられたりとかそんな程度みたいですね。
実害はありません。
・・・まあ、トイレの花子さんなんて見てしまった学生は今晩は魘されるかもしれませんけど」
「そっか。
さすがに夢に魘されるぐらいは諦めてもらうしかないよな」
「という事はあの死神さんが言っていらした通りの現状だと考えてもよろしいですの。
これで事件のプロローグが終わり、直に第2のステージに入るということ・・・ですわね」

缶に入ったクッキーをさくさくと齧りながら、黒子が呟く。
それを見た上条もティーカップに手を伸ばして少し冷めてしまった紅茶を啜る。

「お、何だか本格的な味がする気がする。
旨いなコレ」
「そうですかっ!?
ありがとうございますっ♪
お代わりもありますから遠慮なくどうぞっ♪」

上条が素直に発した言葉に、手元のノートパソコンの画面に向かっていた初春が顔を上げてニコニコと喜びの言葉を口にする。
彼としては言葉通り、紅茶などティーバックのモノかあるいは缶やペットボトルの紅茶しか飲む機会がないので、それよりはしっかりと香りがあるんだな、と言った程度のつもりだったのだが。
今さらそんな台詞を吐くほど空気読めないわけでもない上条は、もう一口紅茶を喉に流し込んでからクッキーを一枚掴んだりして場を濁してみたりする。

「・・・まぁ、まだまだ指摘してあげたい場所は山のようにありますけれども」

だが、そんな上条の珍しい心配りなどどこ吹く風、とばかりにさらりと口に出した黒子の言葉に、初春の表情がぴしり、と固まる。
涙目であうあう、と黒子を見つめる少女を見て上条は不憫な・・・、と思ったりもしたが、紅茶の知識など人並み以下しかない上条ではフォローしてあげることも出来ない。

「とにかく。
どちらにしても今は次に何かしらかの異変の報告がココに入るのを待つだけですわ。
死神さんとやらの話しぶりからして、そう待つこともないでしょうし」
「・・・はぁ。
その、上条さんの幻想殺し(イマジンブレイカー)、ですか。
それでやっつけるんですよね?」

黒子が今は特に出来ることはない、と宣言してみせると、初春が見るからに半信半疑の様子で上条の右手に視線を向ける。
それもムリもないだろう。
上条だってそのぐらいの予想はつく。

「こればっかりは信用してもらうしかないけどな。
神話に出てくる神の奇跡(システム)でさえも打ち消せます、ってのが謳い文句だ」
「電化製品のキャッチコピーみたいに、そんな胡散臭い台詞吐くから信用出来ないんですわよ。
初春、少なくともお兄様の能力は今回の事件では有効なのはわたくしが保証いたしますわ」
「かみ、・・・かみ?
神の奇跡(システム)
まさか、・・・虚数学区?
幻想猛獣(AIMバースト)と、今回の物の怪の類が同じものだとしたら?
AIM拡散力場を誰かが利用している?
学園規模で?
・・・何のために?」

胡散臭い上条の右手に対して黒子がフォローをいれてみたものの、初春は上条の何気なく言った単語にのめりこんでいるようだった。
ぽわわん、とした先ほどまでの甘ったるい表情と声とは打って変わって、PCのモニターを覗き込んで凄まじい勢いでキーボードを打ちながら、ぶつぶつと呟いている。

「あーっと。
初春さん、だっけ?
大丈夫なのか?」
「いつもの病気ですわ。
・・・それにしても虚数学区、ですか。
いよいよ話が胡散臭くなってきましたわね」

愛想笑いを浮かべながら初春のことを心配してみせる上条であったが、とりわけ気にかけるような事態でもないらしい。
ひらひら、と手を振って気にすることは無い、と言外に示す黒子の態度からそんなことを感じ取り、紅茶をぐい、と飲み干して見なかったことにする。

「っと、すいません。
それでは上条さんは今日はこちらの支部で協力していただくということで良いんですよね?
こちらで申請しておきますので、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく」

だが、すぐにPCの世界から帰ってきた彼女は、モニターから再び視線を外して上条へとペコリと頭を下げた。
ついでに今の間に上条当麻、と言う名を書庫にて調べてみたりもしたが、彼女の腕前をして、上条当麻などという人物の詳細が掴めなかった。
これだけのレアリティの高い能力者が野放しなんてありえるはずがない。
上層部クラスの子飼いであればともかく・・・と連鎖式に思い出した初春が、あ、と声を上げる。

「そういえば!
白井さん、学園上層部の直属部隊が幾つか動いているみたいです。
現に警備員に連絡はしたのですが、警備員はこの件については積極的に関わることが出来ないようで、現場は混乱しているっていう話も来ています」
「直属・・・というと、噂の高位能力者のアレ、ですか。
遂に動きを掴んだんですのね!?」
「いえ、それはムリですよ!?
そちらに先手を打たれるとこちらは手の出しようが無くなる可能性が高いですね。
先に事件の情報を得ることが出来ないとジリ貧になっていきそうです。
とにかく、情報戦は私の力の見せ所ですので、なんとか頑張ってみます」
「ええ、期待していますわよ」

上条は何と無く物騒な話であることだし、聞かない方が良いような雰囲気を感じて、顔をしかめる。
あまり係わり合いになると、もう戻って来れないような気さえしてしまう。
無能力者(レベル0)の不良たちの組織、スキルアウトであっても係わり合いになどなりたくはないのだ。
学園の暗部やら虚数学区やらと言ったそんな不穏な話など聞きたいわけもなかった。

「ああっと、すまん。
ここまで本格的に協力することになるんなら、約束していた相手がいるんだ。
ソイツに今日は行けそうもないって連絡いれたいんだが、電話しても大丈夫か?」

だから咄嗟に思いついた、それでもやっておかないと歯型がついたりして危険なことになりそうな、同居人への連絡を口実にこの場から離れることにしたわけである。





「・・・初春。
一つだけ聞いておきたいことがありますの」
「何ですか?」

上条が電話のために席を外してから、すぐ。
向かい合った2人の少女のうち、ツインテールの少女が、真剣な口調で口を開く。

「今回報告された目撃条件の中に。
超電磁砲(レールガン)のクローン体』なんていう物騒な話は・・・ありませんわよね?」

それは、質問というよりも、むしろ願望に近いような口調だった。
初春はそこそこ有名なその噂のことは当然知っていたし、黒子の疑問に対する答えも調べるまでもなく持ち合わせがあった。

「ありません。
少なくとも先ほどの一連の事件では、現れなかったようです」
「そうですの・・・」

そこそこ長い間一緒に仕事をしている初春でさえ、見たこともないような心底ほっとしたような、安堵の表情を浮かべる黒子に、初春は自分が思いついてしまったことを言うべきかどうか躊躇した。
だが、と思い直す。
これは、自分の胸の内にしまっておいて良い問題ではないと、決心を込めて続ける。

「次の事件があれば、そちらで目撃される可能性もあります」
「・・・お姉様には、余計な心労をお掛けしたくありませんわね」
「それよりも。
私は最後まで、『御坂さんのクローン体』なんていうものが現れなかったときの方が、怖いです」

初春は、声に出してから伝えたことを後悔した。
彼女の最後の言葉を聞いてしまった黒子が、どうしようもないほど、泣き出しそうな顔をしているのだ。
そんな黒子に掛ける言葉も見つけることが出来なかった初春は、ただ全て杞憂であれば良い、そんなことを祈ることしか出来そうも無かったのである。

(続く)