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とある魔術の禁書目録 SS
『とある幻想の白黒色彩(モノクローム) 第5話 此岸彼岸(ステュクス・アケロン)B』


「圏外だな、やっぱり」
「こちらもダメですわ」

一縷の望みをかけて試してみた携帯電話だったが、案の定というか当然の結果と言うか、圏外という救いの全く無いそっけない文字列を表示しているだけである。
不幸体質ですぐに壊れるために値段だけで購入している数世代は古臭い携帯電話を折りたたみながら上条が呟くと、風紀委員(ジャッジメント)用の高機能携帯電話とやらでも同じ結果だったのだろう。
黒子もため息まじりに言葉を返す。
2人は死神を取り逃がしてからも、さらにこの場所から逃れられずにいたのだった。

「・・・ところでお兄様。
先ほどのアレ、もしかして携帯のカメラで撮っていたりなどは?」
「そ、そんなことするかっ!?」

携帯電話を弄りながら黒子の口からボソリと漏れたのは、やはりまだ心の傷が拭いきれぬ先ほどの痴態についてである。
断言はしてくれたものの、上条の言葉をそう易々と信じることなど出来るはずもない。
記憶が曖昧な中であられも無い姿の証拠を残されてしまったのではないかと、そんな気がすると黒子はもう、写真を撮られたとしか思えなくなってしまう。

「いえ、きっと激写、いえいえ、それどころかムービーで録画なんてっ!?
ああ、可哀想なわたくし。
ほとぼりが冷めた頃ネットで流れている自分の姿を見て愕然と・・・。
ああ、まさか、お兄様がわたくしをソレで脅迫して、あんなことにっ!?
それどころか雌奴隷に調教されたわたくしに、ええっ、お姉様を呼び出せですって!?
なんて、なんて最高なシチュ・・・おおっと、チガウチガウ。
最低な下種野郎ですの・・・」
「上条さんはそんなことしません」

一瞬のうちに高テンションで想像の翼を広げ始めた黒子を、上条が簡潔な突っ込みで正気に戻す。
短い付き合いではあるものの、結構分かりやすい性格である黒子の取扱方を理解し始めた上条だったりする。
そして、黒子が再び暴走を始めるよりも早く、先ほど逃げられてしまった死神についての意見を求めてみることにした。

「結局アイツは何しに出てきたんだよ」
「こうなると面白半分としか思えませんわね」

言いたいことだけ言った挙句、さっさと逃げ出した犯人の奇怪な姿を思い浮かべながら呟いた上条の台詞に、良いように弄ばれてしまった黒子が先ほどの惨状を今度は素直に恥ずかしい記憶として思い出したのか、額に縦線を落としながら自分の意見を述べる。
どたばたと暴れたり、上着を脱いだりとしていたからだろうか。
黒子はどこかヨレっとして、しわが微妙に気になる自分の制服姿を見返して、さらにどんよりと肩を落とす。

「・・・ここまで虚仮にされたのも久しぶりですわ」
「お、落ち着けって。
怪我もないし、まだ十分に挽回出来るさ!」

ちょうど手を置きやすい位置に頭があるせいか、黒子を慰めようとした上条の手が何と無く彼女の頭頂部に、ぽすん、と収まる。
そのまま乱れた髪のセットを手櫛で自然と直してやっていると、恨めしそうな瞳で前方を見つめていた黒子が、そう言えばと、自分の頭の上で動いていた上条の右手へと視線を向けた。

「お兄様の右手でこのヘンテコな空間をどうにか出来ないのですか?」
「・・・いや、ムリみたいだな。
多分、どこかに能力の核があるはずだ。
ソイツに触れることが出来れば壊せるんだろうけど、核が見つけられない限りどうにもならない」
「となると、やはりあの死神さんとやらをもう一度探す必要があるということでしょうか」
「ソレが確実だろうな」

黒子は肩をすくめる上条が未だにぽんぽんと撫で続けていた右手から、逃れるように後ろに一歩下がる。
そして、上条が手持ちぶたさにわきわきとさせる右手を横目で見つめながら、彼女は気を取り直すように自分の考えを告げた。

「しょうがありませんわね。
では、気を取り直して犯人の追いかけっこを続けましょうか!」
「ったく、それっきゃねーな」




「・・・ああもぉーーーっ!?」
「・・・いい加減にしろぉーーーっ!?」

上条と黒子の叫び声が人っ子一人いない寂れた路地に響く。
歩き始めてから30分。
未だに2人はこの場所から抜けることが出来ずにいた。

「う、うふふふふ、いい加減同じ風景ばかりなのは耐えられませんわ。
さっきからまっったく風景が動かないのはもうこれは拷問ですわね」
「ホントだぜ。
足踏みしているんじゃなくてちゃんと歩いているはずなのに周りの風景どころか空も動いちゃねぇしな。
自分の目がおかしくなったんじゃないかと、頭もどうにかなっちまいそうだ」

今時の若者らしくあまり根気強いわけでもないテンパった2人は、イライラとする気持ちを隠すこともなく、ぶつぶつと互いの苛立ちを零しあう。
良い具合に淀んできた脳みそに触発されたせいで2人は先ほどから大声で騒いでいるが、誰かがやってくる気配もなかった。
上条と黒子も、そんなありとあらゆる意味での『異質』さを感じ取っているのだろう。
まるで、誰かがこの場所に自分たちの声を聞きつけて来てくれることをアテにしたかのような、騒ぎっぷりであった。

「こんなときはお姉さまの超電磁砲(レールガン)が欲しくて欲しくてたまりませんわね!
もうズガーンっっと何もかも吹っ飛ばしてやりたくなってきますわ!!
ああ、お姉様は今どこで何をやってやっしゃるのでしょう!
黒子のピンチですわー、助けに来て下さいましーっ!?」
「うお、コイツまたスイッチが入りやがったな。
・・・ん?」

ウケケケケ、と少しも淑女っぽさの篭らない奇声を上げつつも、両手を頬にあててくねくねと妄想にふける黒子の狂気を前に、逆に正気を取り戻してしまった上条が何かに気が付いたかのような声を上げる。
つまり、わざわざ上条たちをここで足止めする理由だ。
アイツは、あの死神は、確か・・・

「あっ!!」

気付いた。

・・・あの死神は、これから殺されるだろう誰かを救ってくれる、忠告を聞かせる人間を探していたんだ。

つまり、多分今もアイツは上条たちを見ているはずだ。
2人が、死神のお眼鏡にかなうかどうかを確認しているのだろう。

「おい、死神っ!
いい加減出てきやがれ!!
アンタの仕事を少なくするための手助けなら、俺がしてやるっ!!」
「・・・ほう。
気が付いたのかい」

ゆらり、と視界の端が歪んだ。
何もない空間から現れたソイツは、上条の瞳を100メートルは離れた場所から、じぃっと、覗き込む。
まるで、彼の名と、寿命を詠むような死神の瞳で。

「なるほど。
って、アンタ、この世界の英雄かい。
けったいな異能を持っているようだし間違いない・・・か。
こりゃ、小うるさい上司に怒鳴られるかもしれないねぇ。
いやいや!
道理であたいの能力がさっきから壊されてばかりなわけだ!
自動再生なんて出来ないから、修復が面倒くさいことこの上なかったよ!!」

死神が告げた前半の言葉は上条の耳には届かなかったが、後半の台詞はどうやら彼らにとって朗報のようだ。
パチパチ、と気の無い拍手を上条へと向けて送りながら、死神は呆れたかのように表情を彼の隣に向けながら口を開く。

「・・・で、そっちの小さいのは何してるんだい?」
「気にするな。
っていうかしないでくれると上条さんは嬉しいです」

再び現れた捜し求めていたはずの目標にも気付かずに、今度は何事か呟きながらも息を荒げだしたツインテールの少女は総スルーして死神はしばし黙考してから口を開く。

「ま、英雄ならばどちらにしろ巻き込まれるのだろう。
あたいとしても、結果として仕事が少なくなってくれるのであれば過程はどうだっていいんだ。
もうちょっと現世を楽しんでいたい気もするが・・・?」
「あああっ!!!?」

上条がようやっと解放されそうだと、ほっと胸をなで下ろしたところで、上条の隣から叫び声が響いた。
その音源が誰かなんて言うまでもない。
ツインテールをさらに4つか5つに再分化させた、八岐大蛇テールのような髪型をどういう自然の脅威か作り出してしまった黒子が、今さら死神に気付きました、とでも言いたげにびしり、とソイツにむけて指を向ける。

「ここで会ったがひゃくねんめえええええっっっ!!!」

上条や死神が何か声をあげるよりも早く、姿勢を低くした黒子の姿が掻き消える。
一瞬遅れて、動こうとした死神が目を見開いて叫ぶ。

空間移動(テレポート)!?」

寸分違わずに、アクシデントに巻き込まれることもなく死神の真正面へと出現した黒子が、ぽかんとして動けずにいたソイツの腕をとると、そのままの勢いで地面へと仰向けに転がす。
さらに黒子はスカートの中で滑るように手を動かしたかと思うと、瞬きの内に死神の四肢が黒い金属矢で固定されていた。

「・・・はっ・・・はっ・・・ふぅ」
「・・・すげぇ」

一連の動作を一呼吸のうちに行ったのか、行動が全て終えたのを確認した黒子が二度ほど短く息を吐いてから、肩の力を抜く。
上条は先ほどまでの妄想に耽っていた少女と同一人物だとは到底思えず、目を見開いて驚くことしか出来なかった。
というか何もしてない上条であった。

「こりゃ素直に負けを認めるしかないようだねぇ」

死神は、地面に貼り付けにされた格好で苦笑を浮かべながらも、そう言って、ごろん、と寝返りをうった。
いつの間にか、死神を縫い付けていたはずの金属矢は外されていたようだが、彼女はもう抵抗するつもりはないと言いたげに寝転んだまま両腕を降参だと言った格好であげるジェスチャーを示した。




「それにしても、よくぞまぁ計算してみせたもんだ。
あたいの力の解を出すってことは此岸と彼岸の間に流れる川幅を求めるようなもんだからね。
新興宗教の教祖さまにでもなれるだろうね」
「まだ頭が痛いですわよ・・・。
はっきり言ってわたくし程度では能力の限界を超えているようですし、二度はゴメンですわ」
「謙遜することはない。
あんたはすごいよ、誇っていい」

能力を解いた死神と上条たちが向かい合っていた。
かんらかんらと笑う死神の言葉に、しかめ面で辛そうに答える黒子は、どうやら『死神の異能』とやらを含めて計算した上で空間移動(テレポート)してみせたらしい。
上条にはとんとその凄さは分からないが、多分驚くべきことなのだろう。
今も頭痛がしているのだろう頭をしかめ面で支えている黒子は、かなりの負担を感じているようであった。

「さて、あたいは敗者。
兄さんたちは勝者だ。
こうなってしまっては、あたいはあたいの知る限りを何だって答えるつもりだよ」
「白井、聞けるか?」
「・・・いえ、ちょっとムリそうですわね。
申し訳ありませんが、お兄様にお任せしてもよろしいですか?」

声を出すと同時にぐらり、と頭をふらつかせた黒子を慌てて支える上条だが、やはり彼女の体調は良くないようである。
上条はそんな黒子の様子を確認してから、彼女の提案に受け入れると目線で返事をする。
そして、まずは一通り尋ねてみようと思って声を上げた。

「それで結局アンタは一体何者なんだ?
何が目的だったんだ?」
「最初に言った通り、死神さ。
あたいの目的は、これまた言った通りで忠告。
ただし、あたいをわざわざここに呼び寄せた奴は別の目的があったようだけどね」
「呼び寄せた・・・?」

眉を顰める上条を前に、死神はこともなげに続けた。
まるで、こともなげな口調で。

「ああ、呼び寄せられたのさ。
核はこの都市にある噂話と、盆というこの国独自のシステムによる召喚術。
これだけの街に年齢構成の低さ。
あたいらのような神格や妖怪、妖精の類の逸話や噂話なんてごろごろあるはずさ」
「ちょっと待て。
ここは科学の街、学園都市だぞ。
そんな冗談みたいな噂が・・・」
「あるはずだ。
現にあたいはそんな噂話の一つ、此岸彼岸(ステュクス・アケロン)、とやらを核に使われたんだ。
別に過去の噂やら現象はあたいのせいってわけじゃない。
過去に迷子になった学生が、きっと死神のせいだ、なんて噂していたんだろうよ」
「ちょっと、お待ちになって下さい・・・」

少しは頭痛が回復してきたのか、黒子が顔を上げて死神を見つめた。
気のせいか、彼女の横顔は、先ほどよりもさらに青ざめて見えた。

「それはつまり、貴女のような不可思議な存在が、今この街にたくさん溢れているということですの?」
「・・・そうだね。
それが犯人の目的さ。
噂の具現化に成功した例なんてきっと少数だろうけれど、あたいという成功例が居る以上、残念ながら成功率ゼロなんてわけじゃないのは確かだ。
多分あたいが成功したのは、噂されていた現象にわざわざ名前がついていたのと、それから死神なんてモンに対して多くの学生たちが同一のイメージを持っていたせいだろうね。
あたいは元々こんなくっきりとした人格を持つ存在じゃないんだ」
「おいおい、上条さんは何だか非常に大事に巻き込まれている気がしてきましたよ?」

上条が思っていたよりも大きくなりそうな事態に他人事のような口調で呟く。
だが、だからと言って科学の街であったはずの場所が、夜が明けたら百鬼夜行の世界でした、なんていう事態をみすみす許すわけにもいかない。
そこまで考えた上条の頭に疑問が浮かんだ。

「ちょっと待て。
そんな噂と盆だけで怪奇現象が溢れるなんていったら今頃日本全国怪奇現象祭りだぜ?
でも、そうじゃないだろ。
その説明はおかしくないか?」
「確かにそうですわね、そんなことが可能なのでしたら今頃この世界はお化けだらけのはずですわ」
「その秘密は、この街にある。
虚数学区。
AIM拡散力場の観測と操作。
ココとは異なる位相の存在に手を出せば、目的とする位相以外からも目をつけられる」

上条は死神の言葉の意味が良く分からなかったが、黒子は違ったようだ。
頭痛も完全に忘れてしまったかのように、呆けた顔をして搾り出すように呟く。

「そんな馬鹿なことが・・・。
わたくしたちの科学理論が、オカルトに侵食されるとでも言うのですか・・・?」
「逆だよ、逆。
科学理論がオカルトに侵食を始めたから、オカルトが陽炎のような虚像からうぶ声をあげて実像に、物理現象になろうとしているのさ。
それは魂なんてものを代表とするこの世で測定せざるものを観測する、あたい達みたいなのと世界が重なることに繋がる。
都市伝説という位相世界が、虚数学区という位相世界に押しつぶされようとした結果、逆にその存在が確固たるものになってしまったのさ。
ニンゲンの言葉で言うと、ワクチンとウィルスのいたちごっこのようなものかね。
天を目指したがために打ち滅ぼされるのは神話の時代からの常ではあるしな」
「・・・話の腰をおって悪いんだが、良く分からない」

口を挟むかどうか散々迷った挙句、ようやく漏れた言葉があまりにも情けないとは自分でも思う上条であるが、本心には違いない。
結局、どう動けば良いかを教えてほしいのだが、その話が出てくる前に上条の処理能力を軽くオーバーヒートしてしまいそうだったのだから仕方ない。

「ああ、そうだね。
あたいだってそこらへんを飛んでる虫を捕まえて得た情報に過ぎないんだ。
想像混じりの話をして混乱させるのも悪いしね。
本題に入ろう」

だが死神は気を悪くした風もなく、そのまま続ける。
どうやらこの死神は、個人としてはあまりこの世界に対して執着もなく、犯人の計画に協力する気もなさそうである。

「あたいは呼ばれただけの身でこの事態の全体像は知らん。
だが、想像は出来る。
コイツは、現世に常世を上書きするための儀式みたいなものだ。
些細な噂が現実となる世界を、さらに荒唐無稽な現実が噂より先んじる常夜の国」
「いや、もっと簡単に頼む」
「ああ、そうだね、簡単に言うとだね。
元々広く噂されていたあたいのような都市伝説が本当に起こる。
すると、人々の間で、人外の存在が許容される。
次第により小さな噂に宿る人外が現れてきて、最後には噂などされていないはずの人外が何気ない顔をして紛れ込んでくるって寸法だね。
恐らく犯人の目的はソコにあるはずさ」
「・・・どう頭を柔らかくしても、そんなふざけた話は信じられませんわね」

簡単に説明してくれた死神には悪いが、上条も黒子の呟きに同意見だった。
多少の非常識な世界を垣間見た上条でさえ易々とは信じることが出来そうに無いほど、死神の発言はぶっ飛んでいる。
つまりは何だ。
何がどうなっているんだ?

「タイムリミットは恐らく今日一日。
ただし、規模はこの都市一つ分だけということを考えると、大したことはないさ。
人外たちの存在が不安定な内に倒してしまえれば、きっとそれ以上の拡散はないはずだ」
「・・・俺は何をすれば良いのか教えてくれ」

死神の話しぶりからすると対応策はあるようなので、上条はほっと胸をなで下ろした。
何だかこのまま放置しておいたら、二学期になったら皆黒マントと三角帽子を被り、箒に乗って空を飛ぶ学園都市になっているなんて、トンデモポッターな展開になりそうな予感さえ上条はしていたりする。
それが本当であるのならば、幻想殺し(イマジンブレイカー)を持つ上条にとって、今よりもさらに生きづらい世界になるのは間違いない。
それだけでも上条にとって、この計画を阻止する理由にはなるだろう。

「簡単さ。
やることは2つ。
1つはこれ以上この話を広めないこと。
1人や2人程度ならいいが、不特定多数に広めると問題だね。
それだけで、虚像が実像になりやすくなってしまう」
「もう一つは?」
「幻想は幻想に還すことさ。
幻想がこの世界にいられないと言うことが実証を以て証明されれば、固定される前であればあたいらはこの場所には留まることなど出来はしない。
虚数学区とやらに、どう足掻いてもあんたたちが入れないのと同じ理屈でな。
つまり・・・」
「あんたを俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)で消滅させろってことか」

その通り、と言いたげに死神はこっくりと頷いてみせた。
この段階では黒子は勿論、上条でさえも死神の言葉に半信半疑の体であったが、どちらにしろ上条が死神に触ってみれば全てがはっきりするだろう。
幻想であるのならば、きっと幻想殺し(イマジンブレイカー)が例外なく有効なのだろう。

「恐らくこれであたいと同じ、年月を跨いだ都市伝説を具現化したタイプはドイツもコイツも消えてなくなるはずさ。
それでもかなり後手に廻っているんだよ、兄さんたちは。
次の召喚シーケンスに移行するのは止められそうもないから、変な事件がまた起こるのは避けられないだろうね。
まぁ、次はあたいみたいにお人よしではないと思うよ、多分だけどね」
「そっか、色々と教えてくれてありがとうな。
助かったよ」
「いや、いいさ。
その代わり、一人でも人死にが出ないように頑張ってくれよ。
あたいに楽をさせておくれ」
「ああ、約束する」

上条が一歩前へと足を進めて、右手を死神へと伸ばす。
にっこりと笑顔を浮かべた死神に、上条の右手が触れた瞬間、

「・・・嘘」

色々と付いていけない事態の連続で置いてけぼりであった黒子の呟きと同時に、死神の身体が揺らいで、ノイズが走る。
徐々に薄くなっていく死神は、自分のそんな姿を気にした様子も見せずに、思い出したかのように彼らに向かって声をかけた。

「ま、色々と押し付けちまったみたいだしな。
折角だから死んだ後はサービスしてやるとするよ。
2割引ぐらい運賃をまけてやるからな!」
「縁起でもないぜ、よしてくれよ」
「あははっ、ちがいねぇ」

笑い声を最後に死神の姿が完全に消えて見えなくなると、その場には上条と黒子、そして、アスファルトの上に転がる一枚の硬貨が鈍く太陽の光を反射しているだけだった。


(続く)