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とある魔術の禁書目録 SS
『とある幻想の白黒色彩(モノクローム) 第2話』


「・・・どうしてこうなったんだ」
「あら、どうせ行き先が一緒なのですから構わないでしょう?」

上条は自分の右隣に立つ、先ほど知り合ったばかりの小柄な女子中学生があっさりとそう言ってのけたことに対して、何かを悟ったのか深いため息を吐くと諦めた顔をすると再び繁華街へと向けてのそのそと歩き始めた。
そんなアンニュイな上条とは対照的に、何故だか機嫌が良さそうな笑顔を浮かべている少女の横顔にちらりと視線を向ける。
余程手入れに時間をかけているのかあるいはそもそも髪の素材そのものが違うのではないかと疑わしい、じとじととした生ぬるい風でもふわふわそよそよと揺れる二本の茶色の柔らかい尻尾のようなツインテールは、上条のどんな暴風も物ともしないと豪語出来そうなひたすらにビシリと尖がった針金頭とはまるで違う。
背は低く第二次性徴もまだまだ途上といった身体つきの上幼い印象のある顔立ちだが、上条の目から見ても黒子の一挙手一投足はしっかりと躾をされていることが良く分かり、振る舞いのせいか実際の年齢よりもずいぶんと年上のようにさえ見える。

・・・残念ながら、一筋縄ではいかない性格のようではあるが。

先ほど垣間見えた好戦的な振る舞いと、そもそも上条と知り合おうとする時点でクセ者である可能性はかなり高い。
上条はそんな風に自分を評価せざるを得ないのも悲しいものだと考えたが、こればかりは体質と思ってあきらめるしかなかった。

「どうかしましたの?」

そんな事を考えながら、黒子の横顔をぼんやりと眺めていた上条の目の前に、件の少女の顔がひょいと目の前に現れた。
黒子の髪の毛先が、上条の肩や二の腕に触れたような気がしてむず痒い感覚を覚えると同時に、瞬間的に彼の顔が数十センチほどのけぞった。

「うわぁあっ!?」
「・・・何か傷つく反応ですわね」

憮然と呟く黒子に対して、慌てて仰け反ったせいでバランスを崩した上条であったが、たたらを踏みながらも何とか動揺を押し隠して話題の転換を図ろうとばかりに口を開く。

「そ、そういえば、白井は常盤台の生徒なんだろ?
すごいよな、能力は・・・空間移動(テレポート)だっけ、レベルはいくつなんだ?」

しどろもどろでドモりながら言葉を発する上条は誤魔化せているつもりなのだろうが、黒子の目には彼が慌てているのは見え見えである。
だが、彼女は敢えてそのことを追及する素振りさえ見せずに、むしろこれは良いチャンスとばかりに上条の疑問に答えることにした。
気になっていたことがあったのだ。
学園都市230万の頂点、レベル5の第三位が手こずる能力者の正体とは一体何なのか、ということに。

「仰るとおり空間移動能力者(テレポーター)ですわ。
レベルは4。
と言うよりも自分の重量を動かすことが出来れば、その時点で大能力者(レベル4)確定なんていうお粗末な括りですけれども」

高レベルの能力者など滅多に見る機会のない無能力者(レベル0)の代表のような感じで、目を輝かして黒子の言葉に聞き入る上条の態度に気を良くしながらも、黒子は本題を切り出した。
黒子は自分の自慢がしたいから何て言うお粗末な理由で、こんな話をしているわけではなかった。

「お兄様はどうですか?」

上条は一瞬、目をパチクリと瞬かせた。
何しろ彼は未だ上条当麻と白井黒子は知り合いである、という前提を持ったままである。
それなのにわざわざ聞いてくるということは・・・、彼女なりの演出なのだろうか、と彼は見当違いの結論を下しながら答える。

「俺のレベルは0だよ。
無能力者(レベル0)、それも本当の意味で無能力なんだ」
「・・・?
それはつまり、発火やらの物理タイプも、念動などの空間タイプも、透視などの感覚タイプもどれも全くこれっぽっちも使えないということですか?」
「まぁ、そういうことだな。
コロンブスの卵やらすけすけ見る見るなんていくらやっても全く当たらん」

件の補習を思い出してしかめ面をしてみせる上条に対して、黒子は開いた口がふさがらないとばかりに、ぽかんとした表情のまましばし彼の言葉の意味を考えているようだった。
やがて結論が出たのか、ふるふると首を振りながら自論を述べる。

「まさか。
それはそれでありえませんわね。
学園都市のカリキュラムはどれだけレベルが低かったとしても、教育課程をこなしてさえいけば『必ず能力は発動する』だけの実績を持っているはずですわ。
本当の意味で、何の能力も持たない学生がいるなんて、それこそカリキュラムの意味を大幅に見直す必要があるという証明になってしまいます」

黒子は知らないが、それは上条のクラス担任である小萌も抱いている感想であった。
レベル6を創造するなんて真の意味で『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着く』ことを目指す上層部はともかく、現場の教師たちは無能力者(レベル0)と判定されてしまう生徒たちを如何に少なくするかについていつも頭を悩ましているのだ。
逆転の発想をすれば、上条の存在が如何に珍しいかは良く分かる。
つまり。
超能力者(レベル5)が230万分の7の奇跡だとするならば。
上条当麻は230万分の1の天災だった。

「ま、その理由は分かってるから、心配するだけ無駄なんだけどな」

眉をひそめて怪訝そうな表情を隠すこともなくぶつぶつと尚も呟いている黒子の疑問を解いてやろうと、上条は立ち止まった。
種明かしとばかりに自分の右手を黒子に見えるように持ち上げる。
この時点で、上条は黒子に過去にこの能力を説明したかどうかなどといった話は頭から消えうせていた。
彼女の話しぶりを聞く限り、どうやら過去の上条当麻は黒子に能力を説明したことがなかったのだろうと見当をつけていた。

幻想殺し(イマジンブレイカー)
この右手で触れると、ありとあらゆる異能を打ち消すことが出来る。
そう、神の奇跡から、超能力者(レベル5)の能力まであらゆる異能に対して例外はない」

魔術も含めて、という発言を口の中で呑み込んだ上条は黒子の反応を待った。
大抵こんな話をすると単純に信じてもらえずに『ぷっ』と鼻で笑われるか、妄想乙といった感じで頭の中身を心配されるか、そのあたりの反応なのだが。

「なるほど。
随分とけったいな能力ですわね。
・・・初めて見るタイプですが、書庫にかすかに残った痕跡で見た『原石』と言うヤツでしょうか」
「信じるのか?」
「嘘はついていませんよね?」
「ああ、もちろん」
「では信じますわ、もしもお兄様が超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレーター)だウハハハハー、などと仰るのであれば良い病院を紹介してあげるところでしたけれども」

むしろ黒子は信じてもらえるとは思っていなかったのか眼をパチクリと瞬かせている上条を心なし微笑ましく思いながらも、内心では非常に納得していた。
お姉様が執着するのも分からないでもないと。
彼女は『強すぎる』能力故にいつだって全力を出すことが出来ないのだ。
それが、いくら力を振り絞っても全ての攻撃を無力化されてしまう相手と出会った。

・・・なるほど。

力を思う存分にふるえない鬱屈した気持ちのストレス解消にピッタリなのだ、この殿方は。

「そっか・・・、信じてくれてありがとうな」

そんな黒子の本心など知る由もない上条が素直に感動して御礼を言うのを聞きながら、黒子はこれからのことを考えていた。
単純な好奇心ではあるが、幻想殺し(イマジンブレイカー)をどうにかして見てみたい。
だが、黒子の能力は如何せん地味だ。
その割に対人で使用すれば紙切れだって小石だって、確実に『必殺』になってしまう。
こういった場合、あまりデモンストレーションには向いていない能力だと言わざるをえないだろう。

「いえ、こちらこそ興味深いお話でしたわ。
ありがとうございます」

とりあえずチャンスを待とう。
黒子はそう答えを先延ばしにしながら、3たび上条とともに商店街へ向かって歩き始めた。
自分が何らかの形で事件に巻き込まれやすいトラブルメーカーだとは認識していたし、彼もどうやら同じ人種のような匂いを感じる。
遅かれ早かれ、その機会は訪れるだろうという確信があった。





「俺はこれからスーパーに行って今週分の食料の買いだめをするんだが、白井はさすがに違う場所に用事があるんだろ?」
「わたくしはウインドウショッピング兼見回りをする予定でしたし、問題を起こすようなアウトローな方々はあまり食品量販店にはいないのは事実ですわね」

繁華街の一角に入るとたちまち人通りが多くなってきた。
上条がいい加減、風紀委員(ジャッジメント)というだけでも目立つ上、常盤台中学の制服など着ているせいで周囲の視線を集めている少女と別れようと、自分の行動を優先させるための交渉を始めた矢先である。
甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。
上条は何て言うか、お約束の展開にげんなりとした表情を浮かべ、黒子は対照的に待っていた展開が早速やってきたとばかりに活き活きとした表情で唇の端を吊り上げる。

「あら、早速でしたわね」
「・・・不幸だ」

まるで驚いた様子も見せない所かむしろこの展開を待っていたかのような黒子の姿に、上条はまた面倒なことに巻き込まれそうだと、思わずいつもの言葉を漏らす。
がっくりと肩を落とした上条が百メートルほど離れた悲鳴の聞こえてきた方向、つまり事件現場に目を向けると、そこには歩道に倒れた格好のまままだ現実に気がついていないのか、呆然と上条と同じ年頃の黒いシャツにズボンといういかにもな格好の男が手に女性物のハンドバックを持って走り去って行くのを見つめている、しわの目立ち始めた初老の女性の姿があった。
年齢から言って学生であるわけがないのだから、多分教員か研究者、あるいはその家族だろう。
どちらにしろ、能力者だらけの街で身を守る術に長けた人物には思えなかった。

「なぁ、もしかして。
・・・学園都市って治安悪いのか?」
「あまりおおっぴらにしたくはないですが。
結構悪いですわね」

どうやら女性自身には怪我はなかったようであるが、立ち上がりどうしたら良いのだろうと挙動不審気味にうろたえている被害者にわざわざ声をかける奇特な学生は誰もいないようだった。
そんな周囲の反応を含めて尋ねてみた上条の言葉であったが、あっさりと言い切られてしまうのもどうかといったところである。
愕然とした視線を黒子の方へと向ける上条に対して、当の風紀を取り締まっている彼女は苦笑で答える。

「若い内の無茶と言いましょうか盗んだバイクで走り出す的な感覚で問題行動を起こす方もいれば、超能力なんてものを専門に取り扱っている関係でそれを格差の理由にいじけて非行に走る方もいらっしゃいますわ。
それに、・・・まぁ少年犯罪ですから、実は厳重注意とか無償奉仕だとか捕まっても刑罰はそんなんばかりで反省せずに同じことを繰り返す方が多いのも事実ですし」
「うわ、何その理想を打ち砕く悲しい現実」
「イタチごっこなのは否定いたしませんが、だからと言ってあんな不快な行為を放っておけるほどわたくし、出来た人間ではございませんので」

その顔は確かに目の前の犯行に対して憤りを感じているようで、上条はその点で黒子を評価する。
何故かは知らないがトラブルを望んでいたようではあったが、それでも弱い人間に一方的に暴力を押し付けるような行動に対して怒りを抱く少女であれば、その誘いに付き合ってやるのも悪くは無いだろう。
上条のそんな考えはお見通しなのか、黒子はそんな自分の正義感のような感情を隠すかのように大げさな動きで肩をすくめてみせてから、彼の顔をじぃっと見つめながら確認するかのように宣言した。

「さて、ではお兄様は一般市民ですし、ここから先は風紀委員(ジャッジメント)の領分ですわ。
お付き合い頂きましてありがとうございました。
ご機嫌よう、また会いましょう」

結局最後まで『お兄様』という呼称で上条を呼んでいた少女は、そう言うや否や上条も前から姿を消した。
上条の視界に点から点へと現れては消える黒子の後姿が映り、まだ何とか彼の視界に入っていた引ったくり犯の背中へと凄まじい速さで迫っていく。
そんな光景を見つめながら上条は、何ともいえないむずかゆいような表情を浮かべたかと思うと、両手でぐしゃぐしゃと髪をかきむしった。

「ったく。
ここでさよなら、と言ってさっさと買い物に行くのがイチ学生としては正解なんだろうけどな」

上条が住む学生寮で待つ、空腹シスターに対して心の中で今日はご飯が遅くなりそうだと謝罪をいれてから、彼は諦めたかのように声を漏らす。
結局こうなるのであれば無駄口なんて叩くことをせず、もっと早い段階で追いかけていれば疲れずに済んで良かったなどと、今さらどうしようもないことを考えながら上条は全力で黒子を追って走り出したのである。





「盗んだ物を今すぐ返してくれさえすれば、痛い目にはあわずに済みますわよ」
「・・・っ!?」

バッグを引っ手繰った黒いシャツの男が大通りから本格的な逃走のために裏通りへと入った瞬間、彼の視界の先にいつの間にか一人の少女が立ち塞がっていた。
さすがに驚いたのか、ビクリ、と身体を震わせて男の足が止まる。
男の年齢は高校生程度で中肉中背の何処にでも居そうなありふれた顔立ちをしていた。
走る動きと今の対応から喧嘩慣れしているチンピラではあっても、きちんと武術や体捌きの訓練を受けた人間ではないだろうと見極めた黒子は、それでも油断しないように強盗の動きを見つめながら用件を簡潔に告げる。

風紀委員(ジャッジメント)ですわ。
現行犯ですし今さら拘束理由を説明するまでもありませんわね?」
「・・・このガキが」

挑発的な言葉で、まるでひったくり犯をワザと怒らせるためのような振る舞いをしてみせる黒子に対して、ギリ、と歯を噛み合わせる音を響かせた男は、黒子の能力に対しての驚きを忘れたのかようにイラついた顔をしてみせる。
黒子はそんな年上の男が放つ怒気に脅えた様子も見せず、手に持ったままだった鞄の中に手を突っ込んでから、最近は物騒だから家の戸締りはちゃんとしてくださいね、といった具合に何気ない風に呟いた。

「わたくしにそう熱い目線を送ってくださるのもよろしいですが、頭上も注意した方がよろしいですわよ?」

黒子は言葉を言い終えるよりも先に、問答無用で鞄の中に隠し持っていたゴム製のトンカチをひったくり犯の頭上へとテレポートさせる。
後は、重力に従って落ちるゴムとは言え重さ数キロはある鈍器が、引ったくり犯の脳天にジャストミートするのを待つのみである。

「おっと、アブネェなっ」

だが、予想に反して男は黒子の話など聞く必要も無いとでも言いたげな様子で、さっさと後ろに3歩ほど下がっていた。
誰もいない空間を通り過ぎたトンカチはそのまま、がつん、と打ち所が悪ければ絶命もありうる凶器の威力に相応しい音を地面に響かせた。

「三下にしては良い反射神経ですわね」

黒子は内心の驚きを顔に出さぬように気をつけながら、改めて男の足先と両肩の動き、それから目線へと緊張感の篭った視線を向ける。
あのタイミングで何の迷いも持たずに後ろに下がるなど不可能に近い、その上、確実に黒子が何を狙っていたのかを把握していたかのようなよどみの無い動きだった。
彼女がひったくり犯の逃走経路の前に立ち塞がったことから空間移動系の能力者と見破って、次手も見抜いてみせたのだろうか。

いや、その可能性は低いだろう。

よしんば能力が看過されていたとしても、これから来る頭上からの攻撃まで完璧に予測して、その予想に疑いすら抱かずに行動するなどそれほどの事が出来る人物であれば、こんなところでチンピラなどやっているわけがない。
・・・となると、何かの能力を使用したと考えるのが妥当だろうか。

「くくくっ、相性が悪かったな、空間移動能力者(テレポーター)
俺は未来予知(プレコグニション)の能力を持っていてな。
数秒先の未来を知ることが出来るんだ」

そう思った矢先に、男はベラベラと自分の能力について語り始めた。
最大の利点をあっさりと相手に教えるなんて、なんて馬鹿なのだろうか。
そう思うと同時に、こんな馬鹿に苦戦している自分が情けなくなってきて、黒子はポーカーフェイスを崩してため息をつきたくなってきてしまう。

「・・・おっと。
どこかに金属矢を隠し持っているようだが、それも止めておいた方がいい。
わざわざ余計なプロセスを挟む必要もないだろう?」

自分の優位を圧倒的に信じているのか、呆れている黒子の内心にも気がつかずに饒舌に語る引ったくり犯だったが、それでも彼が優勢であることは疑う余地もない。
何しろ、黒子が考えていた次の手は実際に金属矢による攻撃だったのだから。
黒子はそれでも自分が負けるところなど想像すら出来なかった。
何しろ、この引ったくり犯の何と小者臭いことか。
コイツに負けるということは、そのまま自分は小者です、と認めてしまうようなものだ。

「あら、良くお分かりになりましたね。
ですが、これでわたくしが攻撃をしなければ未来が変わってしまうのではないですか?」
「俺の未来予知(プレコグニション)は可能性未来だ。
確定された未来ってわけじゃねぇから、視た結果で何とでも対処出来るってわけさ」

黒子は彼と世間話のような口調で話しをしながらも、このかっぱらいの能力について大雑把にまとめる。
つまり接近戦はアウトということだ。
未来を予知させても対処の出来ない事態に陥れば、例えば拳銃を使うだとか大人数でたこ殴りだとか出来れば彼はただの一般人とそう大差ないだろうが、残念ながら黒子には分かっていても避けられないといったような大出力の攻撃方法は存在しない。
超電磁砲(レールガン)であれば代名詞である一撃であっさりと粉砕出来るような相手であろうが、・・・確かに黒子にとって相性が悪い。
それにしても、それだけの能力を持ちながら引ったくりなどに身をやつしているとは、何とも情けない男である。

「それで、わたくしにそこまで聞かせたのは理由があるのでしょう?
お聞かせ願えませんか?」
「そうだ。
手前、俺の女になれ」
「・・・は!?」

男の言葉はさすがに予想の斜め上だった。
黒子がポーカーフェイスなどどこかに吹き飛ばして一瞬で嫌悪のこもった表情を浮かべると、引ったくりは何を勘違いしたのか知らないが、イヤらしい笑みを浮かべながら彼女に一歩近づいてくる。

「簡単な話だ。
未来予知(プレコグニション)空間移動(テレポート)
この2つの能力があれば誰も俺たちを捕まえることなんてできねぇ。
でけえ山をこなせるし、何だって出来る。
そして信用するにゃあ男と女の関係になっちまうのが一番てっとり早え」
「・・・ま、確かにそうかもしれませんけど」

底の浅い考えにがっくりと来た黒子は、むしろ一目ぼれしたとかそんな超展開の方がまだ面白みがあったとでも言いたげな冷めた瞳でひったくり犯を見つめた。
本当にそんなことが可能だとでも思っているのだろうか。

「ですが、わたくしの能力の限界は飛距離81.5メートル、質量130.7キログラムですわ。
ATMなんてもっての他、それどころか人間も含めて跳ぶとなると大量の札束でさえ一杯一杯になってしまいますし、それに何より、でかい事件を起こすのに数秒後の未来しか読むことが出来ない男が相棒だなんて、何の役にもたちませんわ。
精々街の喧嘩か引ったくり程度に能力を使えるぐらいが関の山の宝の持ち腐れ。
・・・ほら、わたくしが仲間になる理由がありませんわよね」
「なっ、なんだと、てめぇ!」
「それに何より、わたくし、貴方のように礼儀も作法も教養も誇りも持たない殿方は大っ嫌いなんですの」

声に出して黒子的人間ランキング、オール赤点男をせせら笑いながらも、黒子は男の後ろからこちらへとまっすぐ走ってくる上条の姿を視界に捉えていた。

・・・ま、あちらの方が幾分マシでしょうね。

初めから迷うだなんて素振りを見せることもなく、完全完璧にひったくり犯を否定する黒子に、遂にブチ切れたのだろう。
血走った目をして顔中を怒りで真っ赤に染めた男が、黒子の華奢な身体を殴り飛ばそうと右手を思い切り振り上げた。
彼女はそれでも逃げる素振りさえ見せずに笑いながら指摘してあげた。
このままでは、この引ったくり犯があまりにも無様だったから。

「あら、わたくしなどに構っていて良いのですか?
後ろを振り返ってごらんなさい」

その男は、完全に黒子など敵ではないと思っているのか、今度は彼女の言葉に従って無防備に振り返った。
そして、驚愕の表情を浮かべた。
彼目掛けて、一人の男子高校生が右手を握り締めながら迫ってきていた。
もう、わずか数メートル。
接触するまで、1秒もないタイミング。

「なんでっ!?
未来が読めないんだよっ!!」
「親切で教えてさしあげますわ。
相性が、悪かったですわね」

ドゴン!と固いもの同士がぶつかったような音がして、交錯した2人の男のうち、片方が吹き飛ばされる。
黒子のすぐ傍を跳ねとんだ男が数メートルも吹っ飛ばされてから道路に力なく横たわるのを確認したツンツン頭の男子高校生、つまり上条は、ふぅ、と息をついて固く握り締めた右手から力を抜いた。



「・・・やりすぎたか?」
「構いませんわ。
呼吸も正常ですし、骨などにも異常はないようです。
自業自得ですわ」

そう言いながらもテキパキとひったくり犯の怪我の様子を確認し終えた黒子が、風紀委員(ジャッジメント)特製の非金属製手錠で拘束するのを眺めていた上条がぼやくような声を上げた。

「しかし、白井が苦戦しているようだったから不意打ちしてやろうと突っ込んだだけだったんだけどな。
どうしてコイツは防御もせずにただ立ってたんだ?
アレじゃ殴ってください、と言ってるみたいなもんだったぜ」
「その理由は簡単ですわ。
この男の能力は未来予知(プレコグニション)
どうやらお兄様の未来を予知することが出来なかったようですわね。
幻想殺し(イマジンブレイカー)という名も伊達じゃないっていうことですの」

黒子は先ほどの引ったくり犯の動揺ぶりは多分そういうことなのだろうと当たりをつけて説明する。
恐らくあの男は普段から能力に頼りきりの生活をしていたのだろう。
そこに未来が予知出来ない相手と出会ったことでパニックとなり、何も行動できなくなってしまったのだろう。

・・・どんなに能力が強くても、使う人間次第ではこんなにも脆いということか。

黒子は能力者の傲慢にそっとため息をついてから、まだピクリとも動かないひったくり犯の傍に落ちているバッグを拾い上げ、先ほどの女性の下へと届けに行った上条の後姿を改めて見つめた。
なるほど、確かに便利と言えば便利な力だ。
と言うか、凶悪な能力犯罪に常に晒されている風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)としては喉から手が出るほど欲しい人材なのではないだろうか。
幻想御手(レベルアッパー)の時など、もしかしたら彼がいればあっさりと昏睡状態だった感染者たちを救えたのかもしれない。
そうでなかったとしても、こんなイレギュラーが一人いるだけで風紀委員(ジャッジメント)の仕事は大分楽になるだろう。
結局、まだまだ『自己』の形成が不十分な若者が多い能力者は、個々の『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』に基づく能力が人格形成の拠り所として強く作用している。
そんな拠り所を問答無用で無力化してしまえるのだとしたら、・・・能力に依存する者ほど恐怖を覚えるだろう。

「とにかく、折角の激レアなのですし、是非とも風紀委員(ジャッジメント)にスカウトしたい人間ですわ」

自分でも知らない内に、くすり、と笑みを零しながら呟いた黒子は、使いづらいことこの上ないと度々ボヤいている自分の携帯電話を取り出すと、この事件のことを報告しながらどうやってあの男をこちらの世界に引きづりこんでやろうかと考えるのであった。


(続く)