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アイドルマスターシンデレラガールズSS 週刊モバマス徒然帳02


ぐつぐつ…

「……」

ぐつぐつぐつぐつ…

「…………ぐ……ぐつ?」

ぐつぐつぐつぐつぐつ…

「………………も、もう煮えて…る、フフフ」

今日は楽しい鍋曜日。都内某所にあるアイドル事務所に持ち込まれた鍋を囲んでいるのは三人のアイドルと一人のプロデューサーである。アイドルたちは、引きつった顔で茫然と鍋を覗き込んでいる輿水幸子、ポコポコと沸騰する水泡を楽しげに眺めている白坂小梅、持ち込んだ食材を投入した鍋をゆっくりとかき回して煮え具合を確認している星輝子と、三者三様の様子を見せていた。

「ボクはちょっと急用を思い出したので失礼します!?」
「まぁ待て幸子、今日はお前たちの友好を深めるためのイベントなんだ。帰ってもらっては困る」
「うっ!」
「それにお前のスケジュールぐらい把握してないとでも思ったか。今日は一日何の予定もいれてないことぐらいわかっているからな」
「プライバシーって言葉知っています?」
「知ってはいるけど未成年のおまえ達を預かっている以上、最低限の責任ってヤツもあるんだよ。まぁいいから座れって」
「コレの参加は最低限の責任には含まれないんですかねぇ…」

不承不承な顔ではあったが、ボソリと悪態をこぼした後諦めた顔をした幸子が座りなおす。彼女の懸念はただ一点。輝子が持ち込んだキノコである。妙なハイテンションとネガティブな行動の揺れ幅が途轍もなく大きい輝子が持ってきたキノコ。それだけで、万が一のヤバさは折り紙つきであった。

「プ、プロデューサーに、と、とってあげる……」

幸子とプロデューサーの間にある静かな牽制に気付いてはいないのだろう。ごく自然な動作で小さめのお玉を手に持った小梅がプロデューサーの取り皿へと鍋の中身を一つずつ分けていく。

「は……白菜。しなびた白菜」
「ああ、ありがとうな、小梅」
「おに……お肉。死んだ鳥を切り裂いて、真っ赤な血がしたたり落ちていたお肉」
「その表現は止めたほうがいいな」
「きの……」
「ちょっと待ってくれ」

キノコをプロデューサーの取り皿に取り分けようとした恰好のまま、ピタリと止まる小梅をチラリと見つめた彼は対面に座る輝子へと視線を向けた。少しの脅えと、少しの期待を込めて。

「このキノコってさ。スーパーで買ってきたの?」
「と、友達は買ってこない…じ、自家製、フフ」
「しいたけだよな?」
「最っっっ高にハイになれるキノコだぜぇ!」

突如人格が変わったかのように叫ぶ輝子の言葉が終わらない内に、プロデューサーは神速で取り皿を手に持つと同時に白菜を口に含みながら続けた。

「小梅、ありがとうな。白菜美味しいぞ。そっちのキノコは幸子が食べたいそうだ」
「そ、そうなんだ……。あ、あげる」
「ええっ!そ、そんな!?」

幸子愕然。ぼちゃ、と投げ込まれるように飛んできたキノコを取り皿に乗せたまま、ゆっくりと周囲を見回す。きょとん、とした表情を浮かべた小梅はともかく、どう見ても生贄にしようとしたプロデューサーをギリギリと怨念の篭った瞳で睨みつける。

「大親友にもキノコ贈呈……フフフ」
「あ、ありがとうな!?」

天罰てき面。ニヤニヤと幸子の動向を見守っていたプロデューサーの皿へと、今度は輝子からキノコがプレゼントされる。

「良かったですね、プロデューサーさん。折角輝子さんが持ってきてくださったんですから、最初に食べてみて下さいよ」
「なっ……!?」

チラリと視線を交わした二人だったが、ごく自然な動作でアイコンタクトを交わす。

(ホラ、さっさとボクのための人柱になってくださいよ)
(ふ、ふざけんな。自慢じゃないが俺は胃腸がそんなに強い方じゃないんだぞ。死んだらどうする!?)
(アイドルにそんな得体の知れないものを食べさせる気ですか?)
(幸子チャレンジ!)
(食べないと輝子さんが不審に思いますよ?いいんですか?)
(うぎぎ……)

「よ、よーし、輝子のきのこ、食べちゃうぞー」

プルプルと震える箸で、キノコを掲げるプロデューサーがゆっくりと口へとソレを運ぶ。ハラハラとした表情で見つめる幸子、マイペースに自分の皿へ春菊を取り分ける小梅、期待のこもった瞳をした輝子、といった面々を一度見回した後、彼は一気にキノコを口の中に突っ込んだ。

「……ままよっ!」

もぐもぐ、と咀嚼するプロデューサーがそのままゴクリと輝子持参のキノコを呑みこむ。味は普通のしいたけ。触感もしいたけ。普通に美味しい。助かった、という気持ちが最初に浮かぶのはどうかと思うが、まぁ、色々な事情でしょうがない。しょうがない、と言うしかない。

「美味しいぞ。わざわざ持ってきてくれてありがとうな、輝子」
「わ、私が育てたキノコ……プ、プロデューサーに食べてもらって嬉しいです」
「こ、……こっちもたべて?」
「あ、ああ、ありがとうな、小梅」

ほっと一息つく間もなく、今度は小梅がつくね団子を皿に加えてくる。こっちはプロデューサーが先ほどスーパーで買ってきたつくねだから、何も気にすることはない。安心して口に運ぶ。

「おい……しい?」
「ああ、ありがとうな」
「よか……った。鶏をグチャグチャに……叩いて、練りつぶしたのをプロデューサーが気に入ってくれて」
「その表現は止めような。小梅にもその内グルメ番組のレポーターの仕事とか来るかもしれないし、矯正しないといけないよなぁ」
「プロデューサーさん!仕方ないですから、可愛いボクも取り分けてあげますよ!子子孫孫語り継いで下さいね!」
「大げさな……。ありがとうよ」
「何か小梅さんに比べておざなりな気がするんですけど」
「き、キノコ……」
「しめじとまいたけか?」
「フヒヒ」
「まて、何だその笑いは!?」

わいわい、と賑やかに鍋を囲む。個性派ばかりがそろってどうなることかと思ったこの集まりもとりあえずの効果があったようでプロデューサーはほっと胸をなで下ろして再び鍋へと向かった。そう言えば先ほどから取ってもらってばかりで、自分ではまるで鍋の中身を確認してはいなかった。

「たまには自分でもとらないと……な?」

菜箸で掴んだものは、キノコだった。ただし、プロデューサーの握りこぶしぐらいある大きさである。某国民的水道工事夫が食べると1upしそうな色合いは、実際見てみるととても……不気味です。

「お……大当たり、やったぜ、プロデューサー」
「お、おめでとう……」
「……さ、幸子?」

サムズアップして今日一番の笑顔をみせる輝子と何も分からずに輝子に釣られて賛辞の言葉を投げかけた小梅の言葉を茫然と聞き流して、ちらりと幸子に助けを求めてみる。

「さーて、ボクはもうお腹いっぱいですから……ご馳走様」

結果、あっさりと見捨てられてしまった。こうなればヤケだ。プロデューサーは勢いよくパクリ、と緑色をしたキノコを丸のみにして……

「ぐはっ」

パタリと倒れた。

「し、素人には量が多かった……かな」
「プ、プロデューサーさーーーーんっ!!?」・

首を傾げる輝子と慌てて駆け寄ってくる幸子の姿を最後に、プロデューサーの意識は闇に飲まれた。お疲れ様的な意味ではなく。





「……あ、あれ……プロデューサー、ぬ、抜けちゃったから、戻さない、と」

キョロキョロと周囲を見渡した小梅が何もない事務所の一角へとトテテ、と歩いていくと、ぎゅっと何かを握る仕草をする。涙目で気道を確保しようとしているのかプロデューサーの首を持ち上げている幸子と、とりあえず笑っておけという結論に達したのか壊れたようにフヒヒ・・・・・・と口から声を零し続ける輝子をぼんやりと見つめた。

「す、すごい……ね。わ、私もやってみたいな。死体ごっこ」

(続く)