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アイドルマスターシンデレラガールズSS 週刊モバマス徒然帳01


「スタドリが1本〜、スタドリが2本〜」

都内とある場所。ごくごく在り来たりなアイドル事務所の一室。真っ暗な室内からは、男の呟きだけがブツブツと響いていた。

「スタドリが3本〜、スタドリが4本〜」

そんな居中へと、一人の少女、年の頃は十代中ごろの女の子が足を踏み入れる。彼女はこの事務所に所属するアイドルの一人、輿水幸子である。歳には見合わない自信に満ちた表情を浮かべた、それでも歳相応の臆病さを持った彼女は、真っ暗な室内を少し脅えた瞳で見まわしてから、良く見知った、そして信頼するプロデューサーの気配を感じると安心して室内の明かりをつけた。

「プロデューサーさん?どうしたんですか、こんなに部屋を真っ暗にして。いつも辛気臭い顔がさらに辛気臭くなりますよ」
「スタドリが5本〜、スタドリが6本〜」
「……あの、プロデューサーさん?こんなにカワイイボクが話かけているんですから、しっかりと耳を傾けるべきですよ」
「スタドリが7本〜、スタドリが8本〜」
「…………何でしょうか、イラっとしますね」

少しムッとした顔をした幸子が部屋を改めて見渡す。猫耳が邪魔くさいのやらキノコが邪魔くさいのやら怪談話が大好きなのやら眼鏡ジャンキーやらヒョウくんprprやら所属している個性的なアイドルたちも、いつも張り付いたような笑顔を浮かべて謎の元気になるドリンクを勧めてくる事務員の姿も見当たらなかった。

「……ふうん」
「スタドリが21本〜、スタドリが22本〜」
「ま、まぁ、別にどうってことは無いですけどね!」

どうやらこの部屋には彼女と、それからプロデューサーの二人きりしかいないようだ。その事に少し気分を良くした幸子は、尚もブツブツと何事かを呟く彼を放置して、誰かが持ち込んだらしきファッション誌を手に取ってソファに座りこんだ。幸い、今日は特に仕事が埋まっているわけではない。時間なら余っていた。

「スタドリが399本〜、スタドリが400本〜ふぅ」
「終わりましたか?全く、カワイイボクをこんなに待たせるなんて、プロデューサー失格ですからね?しっかり反省してくださいよ」
「エナドリが1本〜、エナドリが2本〜」
「……つ、つーん!そんなカワイイボクを無視するプロデューサーさんなんてもう知りません!」

相手にされない寂しさからか、色々と話を外した気恥ずかしさからか、ぷい、と顔を横に向けて機嫌が悪いアピールをしてみるが、そもそも聞いてくれないのだからアピールする必要すらない。諦めて顔をプロデューサーの方へと向きなおす。

「今度は何ですか。今日のプロデューサーさんは何時にもまして変ですよ、よくよく考えてみたら入ってきたとき事務所真っ暗だったのもすごい変ですよね」
「エナドリが18本〜、エナドリが19本〜」
「……べ、別に、プロデューサーさんが相手してくれないからって何も気にしてなんかないですからねっ!」
「エナドリが20本〜エナドリが21本〜」

大きな瞳に薄く涙を浮かべた幸子が誰にとも分からぬ言い訳の声を上げた。一体何をしているのかと気にならないでもなかったが、どちらにしても相手をしてくれる人がいないのではどうしようもない。彼の目の前でカワイイ自分が可愛らしくスカートでもまくり上げてみたら当然すごい反応が返ってくるだろう、何てことを思いつくが、さすがに自重する。アイドルの太ももはそんなに安くはないのだ。まぁ、彼がどうしても、と頼んでくるのであればやぶさかでもない。

「エナドリが499本〜、エナドリが500本〜ふぅ」
「フフン、今度も何か期待させておいて続きがあるんですよね、カワイくて賢いボクはそう何度も騙されませんからね!」
「なんだ。幸子、来てたのか」

初めて気づいた、といった何気ない口調で幸子に喋りかけたプロデューサーに幸子は気づかれないように、ほっと溜息をこぼす。内心、少し、ほんの少しだけ嫌われてしまったのだろうかと、ハラハラし始めていた矢先のことだった。

「ふ、ふふーん。別に寂しいなんて思ってないですからねっ!」
「お、何だなんだ、今日はヤケにご機嫌斜めだな?」
「べ、別にボクは機嫌悪くなんてないですよ。と言うかさっきからプロデューサーさんは一体何をしていたんですか。ちょっと、いやかなりブツブツと呟く姿が怖かったですよ」
「……この前のライブにかかった費用を、ちょっとな」
「そ、そうですか」
「すまんな、幸子」
「何を謝っているんですか?ま、まぁ、少し無茶な企画だったですけど、カワイイボクならではの完璧な出来だったはずですけど」
「いや、幸子の出来は完璧だったんだ。完璧だったんだけど……」
「はぁ」
「ちょっと事務所的に経費がかかりすぎてな。すごい好評だったし売込みのためにもう1回やってみたいんだが、さすがにスカイダイビングはもう出来そうになくてな」
「……ほっ」

心の底から安堵の息をもらす幸子だったが、プロデューサーがポリポリと頬をかきながらすまなそうにしている顔を見ていると、じわじわと虚勢を張りたい気分が湧き上がってくる。これはもう、或る意味彼女の習性のようなものだ。ときおり修正するべきなのだろうかと思うことがあっても、まるで修正出来たためしがなかった。

「まぁ、仕方ないですよね、ボクがカワイイカワイイ天使なのは一度で十分伝わったと思いますよ。空から舞い降りるなんてボクでなければ出来ませんけど、スカイダイビングとかはもういりませんから。ええ、いりません」
「そうか?……じゃあ、変わりといってはアレなんだが、そろそろクリスマスだよな」
「はい?ええ、そうですね。クリスマスぐらい家でゆっくりしていたいんですが、売れっ子アイドルとしては仕事で埋まっちゃうのは仕方ないですよね。ボクのカワイさを見たいファンのために協力してあげますよ」
「ああ、そいつは助かる。実はもう結構な大きな仕事が来ているんだよ」
「ボクの優しさに感謝して下さい!」
「悪いな、折角のクリスマスなのに仕事仕事で」
「その代り、今度また買い物に付き合ってもらいますから。光栄ですよ、こんなに可愛いボクと一緒にお出かけできるなんて」
「ああ、そうだな。楽しみにしてるよ」
「……アレ?これじゃあプロデューサーさんへのご褒美になっちゃいますね!!」
「分かった分かった。荷物持ちでも何でも付き合ってやるから」

プロデューサーが凝り固まった肩をぐるぐると廻しながら安請け合いをすると、幸子はくすくす、と買い物の場面を想像しているかのようなサドっぽい笑みをこぼす。何度かご褒美と称して買い物に連れまわしているので、買い物をしている自分たちの姿は簡単に想像できる光景だった。

「で、本題のクリスマスの仕事なんだけど、コイツは前代未聞の仕事だぞ」
「何ですか?当然、ボクのカワイさを全面に押し出した企画なのは間違いないんでしょうけど」
「スカイツリーの展望台からバンジージャンプで飛び降りてソラマチ特製ステージで歌うっていう企画なんだが」
「勘弁してください」

さすがの幸子と言え、90度の角度でごめんなさい、と言わざるをえなかった。そりゃ、もう、完璧な角度で。





「トベたらCDデビューだとしたら?」
「が……がんばります……」

大きなたれ目がちな瞳にいっぱいの涙を溜めながらそう言ってくれる幸子は本当にカワイイです。CDデビューはよ。


(続く)