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真・恋姫†無双 SS 『真・恋姫†無双〜仲天演義〜』 第8話


天の御使いと称される北郷一刀が荊州南部各地で黄巾殲滅による多大な戦果を上げ、孫尚香と出会っていた頃である。
孫策や一刀が捕らえた黄巾の大方たち武将格の一部は、南陽の城まで連行されていた。
そこには、彼らを自分たちの居城で拘束して情報収集にあたっている少女の姿があった。

「ではでは、もう一度確認しますね」

豪華とは言えない、それでも庶人の建屋よりは幾分かマシに見える建物の中。
木で出来た質素な机を挟んで一人の女性と数人の男性が向かい合って座っていた。
強張った、張り詰めた表情を浮かべる男たちとは対照的に、にこにことしたやわらかい笑顔を浮かべた美少女は暢気そうな口調で話をまとめる。

「黄巾の首領、大賢良師張角は担ぎ上げられただけの、力のない女の子に過ぎないと言うわけですか?」
「はい、その通りです・・・」

少女、南陽太守袁術に使える張勲こと七乃は、はたから見て一目瞭然に分かるほどに眉をひそませて考えこむ仕草を見せる。
彼女の中ではこの黄巾の乱について、真実のストーリーは既に出来上がっていたとは言え、話を引き伸ばすことで新たに得られることもあるだろうと考えていた。

「ですが、それならば何故、黄巾は張角さんを祭り上げたのですか?
当然理由はあるのでしょう?」
「それは・・・」
「あのお方と張宝、張梁の三姉妹は町々で歌と踊りを披露する旅芸人のようなことをしておられました。
ですが、彼女たちの公演は大変素晴らしいもので、官憲が腐敗し、様々な感情が鬱積した希望の見出せない世の中でやり場のない憤りを感じていた若者たちの心を強くつかむ影響力がありました。
彼らは張角様たちにくっ付いて街から街へと移っていき、新しい街でも同じことが繰り返されていくことで勢力は段々と大きくなっていった、と言った形です」
「芋づる式に増えていったと言うわけですか。
それにしても、ソレだけ人心掌握に長けた人間が祭り上げられているだけ、というのも凄い話ですねぇ」

言いよどむ人間もいるものの、大体の虜囚が協力的な態度である。
七乃は自分でもさして興味のないことを口に出しながら、彼らが喋りやすいだろうことから順番に話を聞いていけるように誘導を試みる。

「・・・恐らく張梁様が黄巾の反政府活動と彼女たちの興行行動を分離して動かすように管理されてきた結果でしょう。
張梁様は黄巾の活動が自分たちに及ぼす危険性を危惧しておられたようですし」
「張角様と張宝様は漢王朝への反逆など全く意図していませんでしたし、むしろ自分たちの楽曲を聴いてくれるものたちがいればそれだけで良かったようです」
「ただ、やはり必要以上の大人数が集まれば、この官憲が腐り果てたこの世です。
トラブルも多く、次第に黄巾という集団は反政府活動の色が濃くなると同時に、武装を強化していくことになってしまいました」
「特に一度官軍と武力衝突するハメになった後に加入した連中は血気盛んでして・・・」
「張角様たちの楽曲が一部彼らの行動を煽ることにもなりまして、大陸中にその波が広がるのは私たちだけではどうしようも・・・いえ、正直に言うと私たちもその波に酔っていたのです」
「なるほど、なるほど〜」

こくこくと七乃は頷いてみせながらも、彼らの話を右から左へと聞き流していた。
経過は正直なところどうでも良い、そんな内心を隠したままで彼女はようやく核心へと触れる。
知らず知らずのうちに、ごくり、と小さな音を立てる喉元を逸る心のままに受け入れてから、七乃は改めて口を開く。

「では、本題に入りましょうか。
あなたたちはこれまで決して官に情報を売りませんでしたよね?
張角の名前こそは知られておりましたが、その性別さえも不明。
年齢も不明。
背格好も不明。
何もかもが謎に包まれた神仙のような存在とされていました。
それがココに来て、私たちに打ち明けてくださった理由は何かあるのですか?」
「はい、黄巾は既に官軍と地方軍閥に追い詰められており、張角様もこのままでは滅ぼされてしまうのは確実でしょう。
私たちは仰る通り、これまで決して張角様の情報を洩らすことはありませんでしたが、このままではそれも意味のないことになってしまいます。
ですが、傷つき倒れた敵である私たちを大いなる慈悲でお救い下さった天の御使い様なら張角様をお助け下さるのではないかと」

実際、北郷軍の報告を聞く限り、彼らの戦いぶりは決して孫策の軍に劣るものではない。
その上、彼らと相対した敵軍の死傷率がかなり低い。
その理由は天の御使いを名乗る一刀が空を駆けるなどと人知を超えた趣向を見せているため敵の戦意が低下し降伏する者が多いためで、それから華佗による治療も死者の桁を一つ落とすのに役立っていた。
途中の街で有能な武将や軍師を召抱えていったという話も、話の持っていき方次第では一刀のカリスマ性をよく現す美談として吹聴することも出来るだろう。
元々旅芸人に騙されて反乱なんて起こす連中にしてみれば、新たな信仰の対象になってもあまり無茶な話ではないのかもしれない。

「分かりました。
それでは私たちは天の御使い様に、張角殿をお救いしていただけるようお願い致します」

表面上は慈悲の篭った表情を取り繕いながら、七乃が頷く。
一刀を上に見立てたのは単純にその方が都合が良いからだ。
例え名門と名高い家柄の袁術と言えど、大陸中に名の馳せた大勢力黄巾の首領を助命することなど出来るわけもないが、天の御使いともなれば話は別だ。
誰もが知らなかったはずの張角たちの身柄を拘束し、慈悲の心で改心させたなどと言っても正面から文句を言う輩はいやしないだろう。

「さて、それでこちらからもお願いがあるのですが・・・」

結局全く微動だにしなかった頬の筋肉はそのまま。
笑みを貼り付けたままの少女はやはりニコニコと笑顔を浮かべたまま、ぎしり、と古ぼけてくすんだ音のなる椅子に座りなおしてから続けた。





「何だか久しぶりに帰ってきたような気がするな」
「そうですねー。
風はまだ居ませんでしたけど、第3話以来ですから2ヶ月ぶりだと思いますよー」
「そういうメタ発言は止めようよ・・・」

一刀とその一行は荊州南部の黄巾たちをあらかた追い出し終えた後、各街から手助けに来てくれた兵を解散させて南陽まで戻ってきたところである。
軍事行動の理など全く知らなかった一刀であるが、風と趙雲から度々教育を受けた結果、それなりに軍隊のことを理解する程度には知識を得ていた。
ゆえに、帰ってきてまずは報告と、城内に参内した次第である。

「・・・それにしても、華佗も貂蝉も逃げ出しやがって」
「華佗は診療所が気になるって言ってたもんねー。
彼はあくまで医者だから、これまで付き合ってくれただけ良かったんじゃないかな?」
「貂蝉殿は自称踊り子だからな。
どう見ても鬼か化生のたぐいだが、ここで褒賞でも受け取ってしまえば軍から逃げ出しにくくなると小賢しいことを考えたのやもしれぬ」

謁見の間で美羽を待つ北郷軍メンバーは以下の通りである。
隊長の北郷一刀。
その横に立つのは、既に北郷軍の全体を一刀以上に把握しつくしたと言って過言ではないどころか、お釣りまで出そうな軍師の風。
逆の横にはこの街、というより実質上荊州全土を掌握している実力者と会うと言うのに、まるでそんなことはお構いなしと言った自由奔放な様子で一刀の腕を小さな上半身全体でぎゅっと捕まえている小蓮。
風の反対側の隣には城内に入るにあたり、彼女のトレードマークとも言える龍牙を預けることになり少し手持ちぶたさな様子で無意味に手をワキワキとさせている趙雲。
計4名である。

「それはそうと今日は暖かいですねー。
戦続きの戦場から離れた開放感もありますし、何だか眠くなってきま・・・ぐぅ」
「って、寝ないで!?」
「そうだよー。
もぅ、一刀の晴れ舞台なんだから、真面目にやるべきだとシャオは思うわね」
「だったらまず腕を放して!?」
「くっくっく、北郷殿も大変ですな」

立ったままフラフラと前後に揺れる今にも意識が飛びそうな様子の風と、自分のことは棚に上げる色々な意味で調子の良い小蓮に挟まれた一刀である。
色々とつっ込みが大変そうな面子ではあるが、趙雲も自分はボケ役だと認識しているからか、助けるつもりはないようだった。
むしろ釣りあがった艶やかな唇の端と、瞳の奥に輝く好奇心に満ちた光から察するに彼女が面白がっているのだけは間違いない。

「何よ、趙雲。
何か文句あるの?」
「いやいや、文句などとんでもない。
ただ北郷殿も洗濯板・・・もとい、大平原のごとく可愛らしい胸に抱きつかれても色々と物足りなさの余り、対応に困るのではないかと愚考した次第ですよ」
「今明らかにワザと言い間違えたでしょ!?
って言うかその後も全然言い直せてないし、大概にして失礼だけど!」
「そんな馬鹿な」
「白々しい嘘をつくなぁ!」
「まぁ、北郷殿がちっちゃい娘好き好き団の団員であればその限りではないかもしれませんな」
「一刀はそんな変態じゃないし、私に抱きつかれたらドキドキするはずだもんっ!?」
「矛盾ですな・・・世は理では測りきれないことばかり」

がうっ、と小蓮が叫ぶが、それこそ暖簾に腕押しという諺がぴったりと当てはまるように、趙雲はひょいひょいと小蓮の反論の刃をかわしていく。
それどころか返す言葉でバッサバッサと小蓮を斬りつけていく様は、さすがは全て肝っ玉と呼ばれる子龍である。
何がさすがで、何が肝っ玉なのかは不明だが。
むしろいじめっ子という表現が適切だと思うが、それを否定する人もいないだろう。

「趙雲さん、あんまりシャオを苛めてやってくれるなよ。
俺はただ、シャオはとっても可愛いし、こういうことって慣れてないから照れるだけだって。
一言で言えば嬉しさ半分、恥ずかしさ半分。
・・・やっぱり、ほとんど嬉しいかもしれないな」

小蓮の頭をぽふぽふと撫でながら、少しだけ頬を赤く染めた一刀が彼女を庇う。
ぎゅう、と力いっぱい抱きついている小蓮は、まるで好意の塊のような存在だった。
女性に対する下心とか軽薄な感情よりも先に、嬉しさとそれから天然の癒しのような効果効能がじんわりと感じられる。
だからこそ、彼にしてみればごくごく自然な流れから出た言葉ではあったが、逆にソレは意識せずに漏れ出た彼の本心というか、本質の現れであるとも言うことが出来よう。

「もう、一刀ったら可愛い♪
そんな本当のこと、面と向かって言われたらシャオだって嬉しくなっちゃうわっ」
「おや、・・・ほうほう。
これは少々北郷殿の評価を改める必要があるやもしれないな」
「そですねー。
結構女たらしさんなのかもしれません」

胸にキュン、と来るものがあったらしい様子の小蓮がごろごろ、と喉を鳴らして先ほどよりも一層一刀へとしな垂れかかっているのを棘の篭った視線で見つめる趙雲と風の眼差しは、如実に冷たい温度を感じさせる。
と言うかこんな時ばかりはばっちりと目を開いて起きているアピールをする風であった。

「まぁ、それはそれとしてだ」
「おや、北郷殿。
やけに強引な話の持っていき方ですな。
もう少し自然な話の流れでないと客がついてはいってくれぬぞ?」
「いやはや、それは風の不徳の致すところです。
お兄さんが一流の芸人になれるよう、今後も力を尽くしますよー」
「・・・だから話をさせてくれよ」

尚も余計な方向へと話を脱線させようとする2人から視線を外して、すぐ真下で抱っこ人形と化している小蓮へと向き直ってから続ける。
先日に話は聞いたとは言え、一つだけ気になる点があったのだ。

「これから袁術がここにやってくるわけだけど。
シャオは大丈夫か?
辛いこととかあったらなるべく気にかけるつもりだから、気にせず言ってくれよ」
「ではお兄さん。
風は枕が欲しいのです〜。
蕎麦殻も捨てがたいですが、前にお兄さんが言っていた羽毛というのも気になりますねぇ」
「私は風のように我が侭を言うつもりはないぞ。
メンマ一丁、特盛りでな」

どう贔屓目に見てもふざけているとしか思えない2人だが、それは場の雰囲気を和ませるためワザと奇抜に振舞っている・・・と言うわけではなく、やはりただふざけているのだろう。
この辺りにこの武将と軍師の大物さを実感出来る気もするが、ある意味ただのKYな人たちだ。
空気読めてない。
見なかったことに、聞かなかったことにするのが正解だろう。

「うん、大丈夫だよ。
袁術のことは正直分からないけど、一刀のことは信じてるし受け入れられるから。
心配してくれてありがとう」
「そっか。
美羽も話してみたら・・・決してイイ奴だとは言い切れないし。
それどころか、イヤな奴だと思うかもしれないけど、その・・・。
こ、心の奥底では善人だから・・・だったらイイヨネ!?」
「すごい微妙なフォローね、逆に楽しみになってきたかもっ!?」

くすくすとぱっちりとした目を糸にして笑いながら驚く小蓮の頭を、一刀がもう一度撫でる。
あの天上天下唯我独尊・・・と言うよりただのわがままお嬢様である美羽を褒めるってのは難しいものだなぁ、などと考えていたりした。
そんなこんなしていると、鐘の音が周囲に響く。
同時に謁見の間の前方、控え室の方がざわざわと騒がしくなってくる。

「お兄さんとシャオちゃんがイチャイチャしている間に城の主のお出ましのようですよー?」
「そうだな。
北郷殿と尚香殿がイチャイチャしている間に袁術殿の準備が整ったようだ」
「イチャイチャを強調しないでよ・・・」

一刀が趙雲と風の2人にいぢめられて凹んでいると、ゾロゾロと城の武官と文官の姿が入ってくる。
公式の場という認識は一応あったのか、慌てて襟を正す風と趙雲と、腕から離れる小蓮を確認して一刀が身軽になった腕をぐるり、と一回転させた。
そして、最後に久方ぶりに再会した、この世界で生きるきっかけをくれた人たちである、美羽と七乃さんの2人が入ってきたを見て、始めて尽くしのことだらけだったけどようやく帰ってきたんだなと一刀はほっと胸をなで下ろしたのだった。





「うむ、北郷一刀よ。
此度のお主の働きぶりは実に見事であった。
名門たる我が袁家の名に恥じぬ戦功じゃ!」
「そうですねー。
敵は小勢力とは言え、当初に知らされていた以上には数がいましたし副将の件などで不利な点もあったはずですけど。
戦死者数もほとんどいませんし、怪我人も同様です。
それでいて街を守り、黄巾と正面から相対し快勝を続ける姿は全領民たちに多大な勇気と希望を与えてくれたと思います」

いざ謁見の場となると一刀の報告を待つこともなく、美羽が心底嬉しそうな様子で一刀をねぎらった。
それに続いて竹簡を眺めながら捕捉をしてくれる七乃を見る限り、どうやら戦の報告自体は既に済ませていたらしい。
一刀はそれなら話は早いとばかりに一緒に戦ってくれた3人を紹介しようと口を開くが、それよりも早く美羽の甲高い音が辺りに響く。

「さすがは妾の見込んだ天の御遣いじゃな!
妾の慧眼には狂いはなかったわけじゃ!!」
「さすがはお嬢様ですね!
どう考えても一刀さんを褒める場面なのに、ご自分を褒めてしまうだなんて!
他人の手柄も全部袁術様のもの!
いよっ、追いはぎの親分のようなものの言い方!!
すごーいっ!!」
「うははははっ、もっと褒めるが良い!!」

どうハードルを低くして見ても七乃の言葉は褒めているとは思えなかったが、そんな些細な言葉の違いは美羽には届かなかったらしい。
喜色満面な顔つきでケラケラと笑い、ハイテンションな様子でふんぞり返る。

「相変わらずだなぁ・・・2人とも」
「何だかお姉様の心労が偲ばれるね・・・アレが袁術だと思うと」
「うぅむ、濃い人たちですねー」
「驚いたな。
所詮噂など話半分だと思っていたが、アレでは話二倍だ」

最早自分たちの世界に入り浸っている美羽と七乃に呆気に取られる一刀一行である。
一刀はそれでも変わらぬ二人の様子に心ならずとも自然に笑顔を浮かべていたりする。
小蓮は普段は困らせる側の立場であるはずの彼女にとって珍しい鎮痛の表情を浮かべて、今もどこかの戦場を駆けているはずの姉の苦労を初めて知った気分になった。
風はポーカーフェイスを保ったままであったが、寧ろ言葉とは裏腹に、視線は七乃の挙動へとしっかりと見据えられている。
そして趙雲はやはり安易に戦力に加わるなどと言質を取られずに良かったと、密に安堵していたりした。

「・・・って、ちょっと待ってくれ、美羽、七乃さんも。
黄巾の征伐がこれほど上手くいったのは協力してくれた人たちがいるからなんだ。
今はこの場にはいないけど、華佗と貂蝉はもちろんだし。
それから、この3人はとても世話になったんだ。
出来れば彼女たちの貢献に報いたいんだけど・・・」
「・・・おや?
・・・ふむ、・・・むぅ。
そうじゃな、良く見れば一刀以外に見ない連中がおるな。
誰じゃ、こいつらは」
「お嬢様ぁ、荊州のために身を粉にして働いた方々にその態度は普通はありえませんけど、可愛いから許しちゃいます♪」
「うむ、妾は可愛いから何でも許されるのじゃ」
「ちゃんちゃらおかし過ぎて、ヘソで茶を沸かせそうですねー」

声をあげてケタケタと笑う七乃の姿もそうだが、ソレをまるで気にした様子も見せない美羽もそうだ。
この国の中枢はフリーダムすぎる。
それが一刀の正直な気持ちだったが、いい加減慣れた一刀は手を上げてから2人の掛け合いを遮った。

「それで彼女たちを紹介したいから、美羽たちも聞いてくれ。
始めに軍全体の統括とか作戦指揮とかを任せていた程c。
彼女が軍師として参加してくれたお陰で俺たちは軍としての体裁を保てたと言っても過言じゃない」
「姓は程、名はc、字は仲徳。
しがない旅の軍師の身の上でしたが、この度お兄さんとの出会いでビビビっ、と来るものがありまして。
お兄さん専属の軍師としてお世話になりたいと思います」

そう言ってペコリ、と頭を下げる風は、少なくても名門袁家に媚を売って立身出世を謀るつもりはサラサラないのだろう。
ものすっごい端的で、そして美羽ではなく一刀に仕えるという、ある意味ではすこぶる失礼な挨拶を終えると、もう言いたいことは言い終えたとばかりに一歩後ろへと下がる。

「・・・のぅ。
程cとやら。
その頭の上のものは何なのじゃ?
随分と変わった頭巾じゃのぅ」
「おうおう、袁術さんよぉ。
初対面の相手に向かって頭巾たぁいただけねぇなぁ。
俺の名は宝ャっていう言うんだ。
相手の名を尋ねるっていう礼儀を忘れちゃいけねぇぜ?」
「・・・う、うむ?
な、何じゃアレ、な、七乃。
怖いのじゃあ!?」
「あらぁ、一刀さんが連れてきた人だけあってやっぱり変な人ですねぇ」
「ちょ、七乃さんっ!?
貴女、どんな目で俺を見ていたんですか!」

美羽は風の頭の上に乗っかっている宝ャが喋ったことに驚いて目を白黒とさせているばかりで、その台詞の中身まではあまり気にかける余裕もないようだった。
そしてさらりと毒を飛ばす七乃さんは今日も絶好調である。
とりあえず色々とスルーして次に進むのが正解だろうと判断した一刀は、鋼の心で全てを無視して次の紹介へと移る。

「・・・続けて、こちらの女性が趙雲さんです。
武将としても、一軍人としてもこの国でも随一の担い手だと言っても遜色のない実力の持ち主です。
黄巾の乱の間だけ、という条件で客将として協力してもらっていました」
「姓は趙、名は雲、字は子龍と申します。
風と一緒に旅をしておりましたが、縁あって微力ながら北郷殿のお手伝いをさせて頂きました」

切れ長の瞳の長身美人でスタイルも良い趙雲だ。
余所行きのような、あるいは借りてきた猫のような佇まいでしっかりと挨拶をすると、どう見ても完璧超人で非の打ち所の無い名武将にしか見えない。
実際はかなりのいじめっ子で変人な変わり者その2なのだが。

「ほうほう。
趙雲とやらは、自分が孫策よりも強いと思うかの?」
「正直に言わせてもらえば誰にも負けぬという自信と気概はあります。
とは言え孫策殿も噂で聞く限りですが、王でありながら一騎当千の強兵だとか。
こればっかりは実際に試合ってみなければ分からんでしょうな」
「あー、こういう雰囲気のある実力者がウチにも欲しいんですけどね〜。
趙雲さん、お給金言い値で出しますから雇われてくれません?」
「ふむ、即断即決は控えさせていただこう。
私も志を秘めて己が槍一本で旅をしているからな。
易々と一つの地へと留まることを決断するつもりはない」
「断わられてしまいましたー、しょぼーん」

孫策はもちろん美羽が持つ最強の手札な上、一線で活躍する武将なのだからソレに対して上とも下とも言い辛い立場なのだろう。
のらりくらりとした口調で美羽の疑問を受け流した趙雲だったが、今度は七乃の勧誘に少しだけではあるが焦りのような感傷を抱きつつも無難な理由で断りを入れていた。
最後の人物を紹介するために一刀が再び口を開く。

「それから、長沙の街で一緒になった孫尚香ちゃん。
美羽や七乃さんは知っているだろうけど、孫策の妹さんだ。
事情は簡単には聞いたけど、少しでも戦力が必要だったし、俺が無理を言って連れてきたんだ。
政略上、彼女は重要な立ち位置にいたかもしれないけど・・・非常事態だったわけだし、許してもらいたい」
「姓は孫、名は尚香。
街が危険な折助けていただいた天の御使い様の手助けが出来ないかと考えて同行させて頂きました。
それから、いつもお姉様がお世話になっています」

彼女の出自と名前を聞いた美羽のまぶたがぴくり、と跳ね上がる。
さすがに袁術にとって大事な大事な懐刀のアキレス腱を勝手に連れ去ったのは問題が大きいかと、一刀がごくりと唾を飲み込んだ。
それから、しばらくの間黙ってじいっ、と小蓮を見つめていた美羽だったが、ようやく口を開く。

「そー言えばそんなのもいた気がするのぅ。
確かに孫策みたいな赤茶けた肌じゃの。
わらわの白磁のような透き通った潤いの美肌とはえらい違いじゃ」
「かっちーん」

口に出してまで不快を表現する小蓮が何事か言い出す前に一刀が慌てて彼女の口を塞ぐ。
すぐ後に、『もがもがっ』というくぐもった音が響いたのは多分、小蓮が美羽に向けて言い放った罵詈雑言の類だろうことは想像に難くない。

「そ、それでだ。
美羽、小蓮を俺の部隊に組み込んでもかまわないか?
武将としても俺たちにとって欠かせない戦力なんだ」
「ふむ・・・ま、軟禁していた街から連れ出したのも含めてお咎めなど無しで構わないじゃろ。
特に反対する理由もないしの」
「ええっ!?
許しちゃうんですか、お嬢様っ!
すごーい、何てお人よし、っていうか絶対何も考えていない顔してますねー」
「はえ?
何か悪いのか、七乃?」
「それは・・・」
「な、何も悪くありませんよね、七乃さんっ!!」

まるっきりアホの子全開の美羽の疑問に答えようとする七乃の説明を遮って何とか誤魔化してもらえないかと一刀が必死で声を張り上げる。
それだけでは足りないとばかりに、美羽からは見えない位置で両手を拝むように七乃へと向けて懇願した。
無論、そんな熱意溢れる行動に感銘を受けぬ七乃など七乃ではない。
一刀へと向けてサムズアップをしてみせると、くるり、と美羽へ向き直って続けた。

「せっかくの孫策さんへの人質なのに解放しちゃったらダメですよ、って事です♪」
「全然っ、わかってねぇえええええ!!?」
「失礼ですねー、分かった上で敢えて気にしなかったんですよ?」
「余計性質悪いですよ、それはっ!」

どうやら七乃ではなかったようである。
六乃と改名すべきだろうか。
とにかく、あははー、と笑顔をこぼして外道な事を言い放つ七乃を前に一刀ががっくりと肩を下ろした。
さすがにここまでストレートに言われれば美羽だって小蓮の政略上の有用性に気付くだろう。
その上で、一刀の部下としての武将格との天秤で普通はどちらに傾くかなど・・・言うまでもない。

「いや、別に構わないじゃろ?
と言うか。
一刀はさっきから五月蝿いぞ」

普通ではなかった。
繰り返す。
普通ではなかったゆえに、美羽はそう言い切ってから続ける。

「一刀は妾の忠実な協力者じゃし、尚香は一刀の部下なのじゃろ?
だったら特に何も変わっとらんと思うのじゃが」
「・・・ソウダネ」
「だから敢えて気にしなかったんですよねー♪」

一気に力尽きた感のある一刀が美羽の懐の深い発言に放心気味の返事を返しながら、七乃の言葉は絶対に嘘だろうと思ったりしながら脱力する。
そんな一刀の力の弱まった腕から逃れた小蓮がぜぃぜぃと息を乱しながら、コレで自分の身の振り方は正しかったのだろうか、とそんな風に考えてしまうのも致し方ないことだった。



「さてさて、一刀さんの連れてきて下さった方々のご挨拶も済みましたことですし。
報奨は朝廷にも申請しておきますし、大した額ではないかもしれませんが当家からも幾許かの謝礼はいたします。
・・・それでは、美羽様。
人払いをお願い致します。
一刀さんたちと大切な密会がありますので♪」

ニコニコとした優しげな笑顔を顔に浮かべた七乃の瞳は、これからの悪巧みへの期待と興奮に満ちた光で爛々と輝いていたのは言うまでもなかった。


(続く)