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真・恋姫†無双 SS 『真・恋姫†無双〜仲天演義〜』 第4話


「ふふふっ・・・」
「どうしたのよ、アレ」
「どーされたんでしょうね〜?」
「怒りで色々と振り切れて変なツボに入ったのかもしれぬな」

荊州本城から離れた場所にある、孫家の屋敷に囲まれた中庭。
そこでは、袁術からの出頭命令を終えて帰ってきた孫策を中心に集まった周喩、陸遜、黄蓋の3人が、いぶかしげな瞳を主に向けている。
何時もであれば彼女たちにとって目の上のたんこぶである、袁術による召喚から帰ってきた孫策の機嫌が良いことなどあり得るはずがないのだが、今日の様子は大分違った。
孫策はどこか嬉しそうに、それでいてギラギラとした好戦的な雰囲気を隠そうともせずに含み笑いを洩らしているのである。
気にしないわけがなかった。

「雪蓮、どうした?
袁術の城でそんなに面白いことでもあったのか?」
「そーですねえ。
例えば・・・とんと、思いつきませんね〜」
「まぁ、あの儒子じゃしの。
儂らのためになることをしてくれるとは思えぬな」

袁術に養われている客分としての身分に甘んじているとは言え、彼女たちはあくまでも独立勢力を自負している。
その上、袁術が孫家を好き勝手に利用してきた経緯を知っているため、孫策がこうも上機嫌でいる理由が分からずに周喩たちは困惑の感情を隠すことも出来なかったのだ。

「ああ、ごめんごめん。
いくつか予想外のことがあったのは本当よ。
まず始めに。
私たちは荊州北部の黄巾本隊を討つことになったわ」
「分かっていたこととは言え、物資の乏しい我々には少々厳しい相手ね。
・・・それにしては随分と余裕があるな、雪蓮」
「袁術・・・と言うか張勲ね。
張勲が資金と兵糧の手配を約束してきたわ。
後は好き勝手にやれとのお達しでね」
「・・・なるほど」
「驚きですねー、はてさて、一体何を企んでいるのやら?」
「まぁ良いではないか。
これで冥琳が頭を悩ます必要も無くなったわけじゃしの。
今は有難く受け取っておけば良いじゃろ」
「そうね。
祭の言う通りよ。
そっちはまぁ、話がすんなり行くのは悪いことじゃないわ。
・・・で、問題はその後ね」

三者三様の反応を見せる周喩たちへ、孫策は一度興奮しそうになる自己を諌めるかのように息を吐いてから続ける。
それでも彼女の瞳からは袁術たちに対する警戒感とは別の、何処か嬉しそうな輝きが見て取れる。

「荊州の噂の人、天の御遣いにあったわ。
見た目はただの凡百の徒よ。
ただ・・・」
「雪蓮のお眼鏡にかなうモノがあったと言うの?」
「ええ、まだ外には見えてこないけれど、確かにアレは本物ね」

孫策の物言いに3者は各々苦笑めいたものを浮かべて肩をすくめる。
『外面は取り立てて騒ぐべき人ではないが、中身は本物だ』。
そんなふざけた確信をすることなど、普通であれば一番警戒すべき短慮なモノの捉え方である。
ただし、そんな前提は無論、普通の人間にとっての話に過ぎない。

「雪蓮の勘か」
「凡人には天才の考えることはとんと分かりませんからね〜」
「儂らの疑う余地はないというわけじゃな」
「ま、私だけじゃないわね、そんな結論を出している奴は。
少なくても張勲はそのつもりね。
だから、最終的には袁家で出すことになる私たちの金子を交渉だとか、出し惜しみだとかせずに手間を省いていきなり提供したのよ。
アレは天の御使いの初陣に相当力を入れるつもりね」

淡々と言葉を重ねる孫策の話を聞いた周喩たちの顔がわずかに曇る。
つまり、袁術は勢力を伸ばすための絶好のコマを手に入れたというわけで、その上、何時もは能天気なだけの連中すらも本気で『今後』を考えているというのだ。
孫家独立の大きな障害になるのは目に見えていた。

「・・・でだ。
そんな状況で我らが策殿はどうして嬉しそうなのじゃ?」
「あら、そう見える?
これでも困った困ったってところなんだけれど」
「誰が見たって嬉しそうよ、雪蓮」
「もぅ、冥琳まで。
・・・そうね、潰しがいはあるかもしれないわね」

そう周喩たちの耳にギリギリ聞こえる範囲で呟く孫策の言葉は、やはり、隠しようもないほどに嬉しそうな響きが篭っていた。





「・・・へ?
えーと、今、え、えと・・・?」

処変わって、荊州本城の玉座の間。
上座を牛耳る美羽と傍に控える七乃の前で、一刀は混乱した頭で今さっき言われたばかりの言葉を何とか反芻しようと真っ白な頭で言葉を搾り出す。

「俺が、黄巾党の征伐をする、だって!?」
「そうじゃ。
理解が早くて助かるぞ。
黄巾とかいう賊軍がな、生意気にも妾の荊州でも暴れておっての。
一刀も討伐に行ってくるのじゃ」

もう一度美羽からの言葉を耳に入れ、ようやく一刀にも実感が湧いてきた。
同時に、例えようの無い恐怖と戸惑いの感情が彼の胸中へと目指して、どうしようもないほど沈み込んでくるのを理解する。

「ちょ、ちょっと待ってくれ、美羽!
俺1人でそんなことが出来るわけないだろ!
戦うことなんて出来ないぞ!」
「何を言うかと思えば。
一刀一人でなんて、そんなわけ無かろう。
七乃、説明してたも」
「はいはーい。
一刀さんには兵3000を任せますから、それで荊州南部に散在する黄巾の分隊を各個撃破してきて下さい。
副将として、結構優秀な、紀・・・、えと、紀・・・?
紀何とかさんをつけますから、安心して大船に乗ったつもりでいて下さいねー♪」
「・・・いや、名前も分からない人で安心って・・・無理だから!?
と言うかそれ以前の問題だ!
俺がそんなこと、出来るわけないだろ!?」

手振り身振りで大げさなまでに自分が戦えないことをアピールしようとする一刀だが、どうも美羽には彼の必死さが理解できないらしく、彼女は眉を顰めていぶかしむように声を上げる。
その口調には、ただただ純粋な疑問だけが込められているようだった。

「何故なのじゃ?
お主は天の御遣いであろ。
であればそのぐらい朝飯前じゃと思うんじゃが?」
「その通りですよ、お嬢様。
それに一刀さん。
今日の朝も、ご飯を食べましたよね?
そのご飯、作ってくれたのはお城の料理人ですけど、そもそもは米も麦も野菜も、育ててくれた民がいてくれたからこそですよ?
彼らが、何も悪いことをしたわけでもないのに、理不尽な暴力にあうかもしれないのに、それを無視しちゃうんですか?」
「い、いや・・・それは。
でも、やっぱり俺には無理だよ!」
「だから其処が分からんのじゃ。
何が無理と言うのか。
兵は妾の軍団の精兵じゃ。
戦の理を知る副将もいる。
敵は山賊に毛が生えたような烏合の衆。
・・・でじゃ。
一刀は他に何が必要なんじゃ?」
「・・・っ!?」

美羽の話に返す言葉を詰まらせ、口をパクパクと開閉するばかりの一刀は、顔を真っ青に染めて、それでも頭の中では様々な葛藤を続けていた。
確かにお世話になった人たち、そして見たこともない人たちであったとしても、何の罪もない人たちがただ蹂躙されるのを見ているだけだなんて、そんなことは間違っているし、何とかできるのであれば何とかしてやりたいと思っている。
とは言え、一刀は所詮、天の御遣いだとか持て囃されていたとしても、剣道の嗜みがあろうと『ただの学生』に過ぎないのだ。
戦争なんてものを、殺しあいなんて話とは全く無縁に暮らしてきた、現代日本の一庶民なのだ。
もちろん人を殺したことなどあるわけもないし、誰かに殺されそうになったこともあるわけがない。

「・・・」

だからと言って、ここで拒絶することでもしも被害が大きくなるのであれば、自分の惰弱な心が如何に逃げたいと叫んでいたって、それでも、立ちあがらなければいけないことぐらい、・・・そのぐらいは理解していた。
顔面を蒼白にし、息を荒げ、いつの間にか湧いてくる冷や汗を流しながら立ち尽くしていた一刀の瞳は、それでも何かを決意しようとする、強い意志と確固たる信念を微かにのぞかせる輝きを見せていることに気付いた七乃が、最後の後押しをしてあげようと一歩前へと進み出る。
が、それよりもわずかに早く、城の主たる美羽の笑い声が部屋に響いた。

「ふ、ふははははは!
何じゃ一刀、その顔は!
まさかお主、万が一にも妾の兵が負けることがあるなどと思っておるのか!
心配せずとも一刀の役割は簡単なものじゃろ、七乃?」

七乃は一刀の悩みが美羽の言っているところの『負ける』ということではなく、『人と争う』ことそのものにあることは気付いていたが、あえて気がついていないフリをしてしばし黙考する。
どちらにしろ、この時点であまり重くなっても仕方ないのだ。
今は軽く受け流すぐらいで丁度良いだろうと、そう考えていた。

「はいはーい。
ネタ晴らしですね、お嬢様♪
つまりですね、天の御遣いである一刀さんを旗印にしたいだけなんですよ。
今荊州で騒乱を起こしている黄巾の主力は孫策さんに任せましたし、南側の小戦力はざっと1000から2000程度の勢力が5,6箇所点在しているに過ぎません。
武装も満足にない、騎馬も限られたただの雑兵に過ぎない賊など、3000もいればあっと言う間ですから。
一刀さんはそれこそ後ろから眺めているだけで兵を十分に鼓舞できますから、何も心配いりません」

尚も軽いノリで如何に安全かを説明しようとしていた七乃の口上だったが、それを一刀は遮った。
そうしてから彼は絞り出すように、それでもしっかりとした口調で声を上げる。

「やるよ。
俺はただの学生で、この大陸のことなんて何も知らない外の人間だ。
それでもこの国の人たちはこんな怪しいだけの俺を敬って、慕ってくれた。
だから俺は、俺に出来ることが少しでもあるのだったら、精一杯恩返しがしたい。
いや、・・・そうじゃなくて、俺が許せないんだ。
この国の人たちが不安に脅える生活をしなくちゃいけないなんてこと、許したくない」
「そ・・・」
「う・・・」
「よく言った、一刀!!!」

一刀の独白とも言える言葉を聞いて、自分でも分かっていないだろう気持ちで少しだけ嬉しそうな様子の美羽と、そこまで気負い込む必要はないと諌めようとした様子の七乃の台詞は、彼女たちの言葉に被さるように発せられたより大きな存在感を持つ大声で遮られた。
無論、その声の主はこの場にいたもう1人の男、華佗である。
彼は一刀の決意に思わず漢泣きしながら、彼の肩を両腕でがっしりと掴みながら続ける。

「およばずながら俺も一刀に協力しよう!
ただの医者に過ぎないが、戦となれば怪我人だってたくさん出るはずだ。
役に立てることもあるはずだ!!」
「・・・ああ!!
華佗が手助けしてくれたら100人力だ!
よろしく頼む!!」

最初は華佗の勢いに面食らっていた一刀だったが、華佗の熱血が感染したのかのように瞳に炎を宿して叫んだかと思うと、がっしりと2人で握手を交わす。

「な、何じゃ何じゃ。
何がどうなったんじゃ〜?」
「・・・ま、結果的には上手くいったわけだし、別にいいですけど」

突然の熱血展開に目を白黒とさせて状況把握に努めようとする美羽を横目に、七乃は男同士の熱い友情とやらを引き攣った笑みで見つめながらそっとため息をこぼす。
元々、華佗を一刀に同行させて参内させたのは、このためだったのだ。
一刀を医者として気にかけていた華佗であれば、彼が戦に出るということになれば付き合ってくれると考えたのである。
正直なところ、彼女にとって見れば全くの未知数、兵の鼓舞としてもどれだけの効果があるのかまるで分からない一刀よりも、現在のところと注釈をつけさせてもらえば、華佗の方が100倍は欲しい人材だ。
だが、まともに華佗に袁術軍に付き合え、と言ったところでのらりくらりとかわされる可能性が高いのが分かっていたからこのような演出を考えたのだが・・・思いのほか、上手くいったらしかった。
ちらりと七乃が後ろを振り返ると、ようやく色々と理解したらしい美羽もまた男同士の熱い友情に感動して目を潤ましていたりして、彼女はさらにくすりと笑みをこぼした。
仕掛けは上々。
後は仕上げをご覧じろ、と口の中でだけ呟いてから、改めて七乃はこれからの荊州を担うことになるかもしれない2人の男の姿を眺めるのだった。



「た、た、た、た、大変よぉーーーーーーっ!!」

とりあえず軍の運営については教えなければ、さすがに大将として使い物にならない。
七乃と一刀たちの下へ、珍しくも大慌てした様子の野太いダミ声が響いてきたのはそんな簡単なレクチャーの最中であった。

「な、何だ、どうした?」
「あらん、軍議中だったのかしらん?
悪いけど、ご主人様をお借りするわねん?」
「って、貂蝉!
軍議だって分かっているなら後にしてくれよ!?」
「それどころじゃないのよん!
今すぐ行かないと大変なのよ!」
「な、何がだ!?
ぎゃーーーーっ!!」

旋風のごとく軍議の場に乱入してきた半裸の巨漢は、一刀や七乃が反論する暇も与えずに、巨体に似合わぬ軽いフットワークであっと言う間に一刀の襟首を掴むや否や彼を抱えて走り出す。
しばし呆然とした様子でそんな闖入者と浚われていく一刀の様子を見ていた七乃と華佗であったが、七乃は諦めたかのように腰を下ろし直して華佗に説明を続けるのだった。

「お、お姫様抱っこはやめてーーっ!
俺のライフはもうゼロよっ!?」
「あらん、今度はわたしをお姫様抱っこしてくれるのかしら♪
貂蝉、感激!」
「するか、馬鹿!」

あまりにもおぞましい、もとい物理的に潰れてしまって不可能だろうことをのたまう漢女の腕から何とか逃れた一刀が、改めて貂蝉の後ろに続いて走り出す。
この地にやってきてから一月、このどう贔屓目に見ても変態な三つ編みが実は中々の常識人であることを理解していた一刀は、実際に大事が起こっているらしいことは疑ってはいなかった。

「それで、何処に行くんだ?」
「厩舎よん♪
そこでご主人様の到着を待っている仔がいるの」
「・・・?
とにかく急ぎなんだろ?
よく分からないが、さっさと済ませよう」
「そうねん。
わたしも賛成よん♪」

厩舎までやってきたところで、一刀はさすがに異常に気がついて足を止めた。
少し前から違和感を持ってはいたが、さすがにここまで訳の分からない事になっているなどとは考えもしなかったのである。

「な、何だ、コレ・・・?
小屋が光っているのか?」
「コレがご主人様を呼んだ理由よ。
ちなみに人払いは済ませてあるから、安心して♪」
「・・・何を安心しろって言うんだよ」

厩舎全体が光り輝き、まるで太陽が2つに増えたかのような眩しさが一刀の瞳にチカチカとした光の影を生み出す。
思わず目を背けてしまいたくなるが、何故か視線が固定されたかのように動かせなかった。
自分でもわけの分からない感情が胸を占め、ドキドキと一刀の胸が意識せずに高鳴っていく。
どうやら自分とこの現象に繋がりがあるのだろうと一刀が理解したとき、貂蝉が彼の心の整理が終わるのを待っていたかのようなタイミングで話を始めた。

「・・・ご主人様が気を失った後、わたしと華佗ちゃんはご主人様を急いで街まで連れて行って治療しなくてはと焦っていたわ。
そんなとき、倒したはずの龍がむくりと起き上がったと思ったら、瞬く間にご主人様と、それからわたしたちを背中に乗せてこの街へと向けて飛んでいったのよ。
だからこの街の人たちは龍に乗って空を翔けて降り立った天の御使いの姿を見ているから、ご主人様のことをすぐに信じたっていうわけ」
「・・・さっさと教えてくれれば良かったのに」
「そうねん。
隠す必要も特になかったわけだし。
ただ、目覚めたばかりのご主人様を混乱させないように秘密にしていたら、そのまま言い出すタイミングが掴めなくなってしまったといったところねん♪」
「まぁ、その辺りは別にかまわないよ。
それよりも、その話とこの厩舎が光っているのと何が関係あるんだ?」

一刀の当然と言ってもいい疑問に対して、貂蝉は少し考え込むような素振りを見せた後、厩舎の中へと入っていく。
慌てた様子で一刀が着いてくるのを確認した貂蝉が、ゆっくりとした口調で続けた。

「正直なところ、わたしも良くは分からないの。
ただ、ご主人様をここまで届けた龍はこの厩舎へと姿を消して、その後に龍の珠、と呼ばれるものを残したの。
人よりも大きな金色をした珠をすぐにどうこうすることも出来ずにここに放置していたのだけれど、さっき急に光り始めたって言うわけよ」
「龍の珠?」
「ええ、そうよ。
この大陸の龍は珠を持っているの。
ご主人様は美術館や教科書なんかで大陸で描かれた龍の絵を見たことがないかしら?」
「龍の珠って言ったらどんな願いでも叶うボールを思い浮かべちまうな。
・・・でも、確かに教科書なんかで見たことがある、気がする」
「まぁ、何でも良いのよ。
現実に、見てもらった方が早いわ」
「そりゃそうだ・・・ん?」

突然貂蝉の足がピタリ、と止まったことにいぶかしんだ一刀の怪訝な声が、外で見ていたよりもさらに光量の大きくなった空間に響く。
何が起こったのかと、貂蝉の逞しすぎる背中ごしに首を伸ばして視界の届かなかった場所へと視線を向けた一刀の目に、確かに巨大な珠としか言いようのない、意味不明な球体が見えた。

「・・・すげぇ。
って、何かアレ、ヒビが入ってないか?」
「ええ、そうね。
・・・ちなみにさっきまでそんなヒビなんて無かったわ」

ピシ・・・

「・・・気のせいか、ヒビ、増えていってないか?」
「そうねん、・・・気のせいじゃないわね」

ピシピシ・・・

「これはもしかして、中から何か出てくるオチなんじゃないかと思うんだが」
「あらん、ご主人様、奇遇ねぇ。
わたしも今そう思ったところよん♪」

ピシピシピシ・・・

「で、だ。
その龍とやらはもちろん、危害を加えたりなんかはしない善良な奴なんだよな?」
「少なくてもわたしたちは敵対して薬の材料として龍の身体の一部を奪い取ろうとしたわけだし、ご主人様は龍と事故ってたりはしているわ」

ピシピシピシピシ・・・

「よし、貂蝉。
龍と言えば生贄だ。
オマエには尊い犠牲になってもらおう」
「ヒドイ、ヒドイわ!
こうなったら龍に襲われる前にご主人様を襲って・・・」

ピシピシピシピシピシ・・・

「ぎゃーっ!!」
「うふーーーーんっ!!」

カッ!!
ドカーーーーーンッ!!!

貂蝉が一刀に飛びかかろうとしたほんの少し前だった。
龍の珠が大爆発を起こしたかと思うと、一刀と向き合うために丁度背中を向けていた貂蝉へと欠片がバチバチとぶち当たる音が響く。

「きゃーーーーっ」
「・・・謀らずとも、犠牲になってもらったな」

対角線上にいて、その上貂蝉よりも一回り以上小さな一刀はダメージを受けることなく済んだことにほっと胸をなで下ろす。
かなりの速度でぶつかったらしくかなり重い音を響かせた珠の欠片は、それでも貂蝉の肌を貫くほどではないらしい。
さすがに衝撃でうつ伏せに倒れこんだ貂蝉の背中は多少赤く腫れてはいるものの、傷一つ見当たらなかった。

「・・・なーむー。
貂蝉、君の犠牲は無駄にしないっ!
って、えええええっ!!
何がどうなってるんだよ!?
龍が珠で、珠が馬で!!?」

一刀がダメージのせいかぴくぴくと震えるばかりの貂蝉へと手を合わせてから顔を上げた先には、金色のたてがみを靡かせた見事な馬が一頭、一刀へと向けてじっと視線を向けていたのである。
そして、目があったと思った瞬間、馬が力強く首を大きく持ち上げた。

ヒヒーーーーンッ!!

龍の珠から生まれでた馬の嘶きが、まるで天を貫かんばかりの大音量で世界を満たしたのだった。


(続く)