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真・恋姫†無双 SS 『真・恋姫†無双〜仲天演義〜』 第1話


「って言うわけなんですよー。
自称大陸一の占い師、管なんとかさんが天の御遣いが現れるなんて占いを吹聴して廻っているらしいんです。
何でも『蒼天を切り裂いて、天より飛来する一筋の流星。その流星は天の御遣いを乗せ、乱世を鎮静す。』ですって。
凡俗の徒はソレ呪いだソレ占いだと、次から次へと飽きもせずにヨタ話が湧いて出てくるあたり、ちゃんちゃらおかしいですよねー♪」
「・・・むぅ」

中国大陸は荊州にあるかなりの贅を凝らしたと一目で分かる立派な城である。
華美で壮観、豪華で絢爛な部屋と呼ぶのもおこがましいほど広々とした、謁見の間、とでも呼ぶべき場所でたった2人、少女たちが向き合っていた。
ヘラヘラとしたしまりのない笑みを顔に貼り付けながら、何某かの竹簡を持って多少の自身の言葉で脚色を加えつつも下からの報告を投げかけ続ける少女。
短めの髪をピンで留め、腕にはめた『袁』と表された腕章が特徴的な白を基調としたスチュワーデースのような格好をした、年のころは10代後半に見える少女である。
対照的に、むすっとしたしかめ面であらぬ方角を向き報告を聞き流すかのようにしているのは、まるで玉座のような豪奢な椅子に堂々と腰掛けた少女。
金の絹糸のような長髪は大きなリボンでまとめられ、毛先はくるりとパーマがかけられたように見事なカールを描いている。
頭上には宝石をあしらった冠が、耳元には見るからに高価なイヤリングが輝き、まるでお姫様のようなふわふわとゆったりとした見るからに上等な服で着飾っている少女である。

「あらあら、そんなお顔じゃ可愛くありませんよ。
報告はあとほんのちょっとだけありますからもう少しだけ我慢して下さいね〜♪
ともあれ漢王朝の弱体化、盗賊の増加、食糧難も予想されておりまして、天の御遣い云々はともかくこれからの世は確実に乱れることになりますから。
お嬢さまも最低限の世の中の流れはご理解して下さった方が良いと思いますよ〜」
「・・・むむっ」

国が乱れるということを断言しながらも尚も変わらぬ笑顔を浮かべた部下である少女の言葉にも、玉座に座る少女は動じる気配はない。
むしろ、話を聞いている様子すらないようだった。
頬杖をついてしっかりと押さえていた頬から手を放すと、そろそろと口を開いて自分の指で口腔内を恐る恐る撫で付けるように触る。
しばらくちょいちょい、と言った具合に慎重に指を動かして何事かを確認していた彼女であったが、それからべとべとした唾液に塗れた指を口から取り出すや否や、間髪いれずに宣言した。

「七乃っ、蜂蜜水じゃ!」
「はいはーい。
・・・美羽様、後悔してもしりませんよ?」
「袁家の本家たるわらわに後悔などという言葉は似合わぬのじゃ!
良いから、はよう、はようっ♪」

国の混乱などという言葉を嘯いてでも微塵も動じることの無かった、七乃と呼ばれた少女の頬に微かに動揺の気配が走った。
それでも彼女は端から見る限りまるで変わらぬ笑顔を保ったまま、主の注文に答えようと準備を始める。
美羽と呼ばれた少女の要求は何しろ本当に何時ものこと、日に一度どころか数度もあることが普通であったため、玉座の間に何故かお茶を用意するための場所が確保されている始末だったのだ。

「・・・ま、お嬢様の泣き顔も可愛いから良いんですけど。
それにしてもあの2人、上手くやってくれているのかしらね?
順調にいったとしても、戻ってくるまであと・・・数日はかかるかしら」

そう誰に聞かせるでもなく呟いた七乃は西の方角に微かに首を振ってみせてから、気にしても仕方が無いと言ったばかりに肩を竦める。
そして、この後に確実に訪れるだろう、彼女の愛しのお嬢さまの可愛らしい悲鳴とぴーぴーと泣く姿を想像して悪い笑顔を浮かべた七乃は、改めて茶の用意を始めるのだった。








「な、な、な、何だこりゃーーーーーっ!!」

北郷一刀の叫び声が大空に木霊する。
そう、大空に。
誰もいない空の上で、誰にも聞こえない絶叫が響いていた。

「地球まるっ!!?」

上空約2000キロから見渡す大地は遥か遠くまで視界が行き届く、見事なまでの地平線。
一刀は初めて地球は丸いという言葉を知識ではなく、体感として学ぶことが出来そうだった。

「何処だここっ!!?」

見下ろせば視界に入るのは、日本の風景とはどう贔屓目に見ても思えない、ごつごつとした岩だらけの細長い山脈の群。
当たり前だが、聖フランチェスカ学園の姿は影も形も見えはしない。
もちろん一刀がさっきまで走っていた通学路がこの場所に繋がっているなんてはずもない。
そもそもこの空の下は、日本ですらない様子である。

「南無三っ!!?」

そもそも空中から落下しているなんて言う時点で、もうどんな推察も考察も無意味なことには間違いない。
せめてもの抵抗というか、最後は楽に逝きたいなんていう諦観か、目をぎゅっと閉じて視界を失ってみても気絶する様子もなかった。
飛び降り自殺なんていうものはすぐに気絶してしまう、なんていう話は所詮眉唾なのだろうか。
現に一刀の脳裏にはどうしてこんな事になったんだろう、と走馬灯のようにはっきりと今日の出来事が流れていった。

「今日は朝、目が覚めたらもう八時半で。
ああ、そっから既にケチのつき始めだったんだよな。
遅刻確定だって慌てて制服に着替えて何も食べずに寮を出てさ。
学校に向けて誰もいない通学路を全速力で走っていたら、角を曲がったところで何かにぶつかった感じがして・・・」

こうなった、という最後の言葉を一刀は呑み込んだ。
今の自分の状況に疑問を憶えたからである。
そもそも、遊園地のジェットコースターでさえ凄まじい風圧がかかる上恐怖でマトモな思考なんて出来やしないのが今時の男の子である。
それが上空数千キロからの自由落下でこんなに余裕があるなんて、その時点で何かがおかしいと言わざるを得なかった。

「ほとんど落下感がない・・・?」

言葉に出してみるとしっくりきた、と一刀は思う。
自転車で走るだけだって感じる空気の流れを、今の彼は自由落下の最中だというのにまるで感じてはいなかった。
何かに守られているかのように。
そこまで思いついた一刀は、改めて落下点である地表に目を落とす。
いつの間にか針のような山々が群生する土地を抜け、鬱蒼とした原生林が生え繁る、如何にもな未開の地へと飛んできてしまったようである。
一刀は知る良しもないが、大陸の言葉で南蛮と呼ばれる場所のさらに最も高い山の頂。
その周囲だけがまるで硫黄でも沸いているかのように禿げ上がった山頂には、2人の人間と、それから何か巨大な生き物が向かい合っているのが目に入った。

「・・・な、何だありゃぁああああっ!!」

曰く、角は鹿、頭は駱駝、眼は兎、体は大蛇、腹は蛟、鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛。
何て言うフレーズで語られる、誰もが知る伝説上の生き物である。
すなわち、竜に九似あり。

「ここはもしかして絶対で魔王な三界世界だったのかぁああああっ!!?」

あまりの危機的状況に電波を受信しながら叫ぶ一刀の目の前にぐんぐんと迫ってくる巨大な生き物。
正確には彼が龍へと目掛けてつっ込んでいっている、というのが正しいのだが、そんな違いは些細なことなのだろう。
兎に角、自由落下を続ける一刀に落ちる方向をどうにかする余力があるわけもなく、そのまま吸い込まれるように竜へと向けて凄まじい速度で進んでいく。

「どけぇ、どけえええええええっ!!!」

一刀の声が聞こえたのか、そういう訳ではないのか。
とにかく龍はおもむろにつっ込んでくる何か、すなわち一刀を迎撃しようと身体を天へと向けて持ち上げる。
その黄色に塗りつくされた自然界の生物とは思えぬほどの圧倒的な存在が一刀の視界を覆いつくさんとばかりに埋め尽くしていく。
一刀はさすがに衝突を覚悟するが、この後に及んでまだ余裕がある気がするのは恐らくまだこの事態を現実だとは理解していないせいだろう。
どちらにしろ、理解するだけの時間的な余裕があるわけでもなし、彼にとっては都合の良いことだったのかもしれないが。

「隙ありぃ!
今だ、行くぞぉおおおおおっ!!」
「必殺ぅ!
肉体大爆撃ぃいいいいいっ!!」

だが、地表を這いずるだけに過ぎぬ矮小な人間たちによる、龍でさえ予想だにしない強力な攻撃が2度3度と繰り返され、痛みか驚きか、思わず龍の口が開く。
その瞬間、一刀と龍の間の距離は10メートルにも満たなかった。
つまり。

「って嘘だろぉおおおおおっ!!」

ピシンっ、という何かが砕けるような音が龍と相対する2人の耳に届いたと思った時には、龍を中心に世界は真っ白な光で埋め尽くされていた。

「な、何だ、この光はっ!!
うおっ、まぶしっ」
「あらんっ♪
この光はもしや、もしかしてぇ!?」

しばらくして視界が回復した2人の人間は、真っ先に戦場の様子を確認する。
龍が何かの攻撃を仕掛けてきたのであれば彼らの命はもう尽きていただろうが、未だ彼らが元気であることから、おそらく第三者による介入なのだろうと判断したのは華佗である。
彼は如何にかして現状を把握しようと未だに視界が回復しきってはいない瞳を凝らす。
それとは対照的だったのがもう1人の人間である。
心の底から嬉しそうな含み笑いをこぼしながら、まだ光が微かに残る場所へと優しげな視線を向ける。

「な、何が起こったんだ?
あの男は一体?」

華佗が首を傾げるのも分からないではない。
彼らが先ほどまで戦っていたはずの龍は怒気に満ちていたはずの瞳をぐるぐるにして地面に倒れ伏し、それどころかその口から下半身を飛び出させた男が見て取れた。
龍と同様に、彼もやはり意識を失っているようだった。

「さすがご主人様ねん♪
わたしの危機にさっそうと駆けつけてくれるだなんて、貂蝉、カ・ン・ゲ・キ♪」
「ご主人様だと?
あれが貂蝉が探していた男なのか?
・・・どちらにしてもすごい偶然だったような気はするが」
「あらん、わたしたちが苦戦していたのは本当よん。
もう1人居れば話は違ったかもしれないけ・ど。
2人ではちょっと危なかったわねん♪」
「それはそうだな。
とにかく彼を助けよう。
依頼の品も持っていけそうだし、彼の怪我の具合もきちんと確かめないといけないな。
すぐに街に戻るぞ」

そんな会話が倒れ伏す男、すなわち一刀の耳に微かに入ってきた後、彼は意識を手放して今度こそ夢の世界へと旅立って行ったのであった。








「・・・あ、あれ?」

一刀が眼を覚ますと、そこは見知らぬ山の上でも龍の腹の中でもなく何処かの建物にある部屋のようだった。
彼が眠らされているのはかなり固めのベッドの上のようだが、ボロい男子寮のベッドも似たようなものである。
そんなことを気にするほど繊細な性格はしていない。
いや、そんなことよりも、だ。

「結局ここは何処なんだよ・・・」

まるで部活の体力作りと称して行われる10キロマラソンを終えた後のような倦怠感と腰のあたりに何故か存在する重圧感、身体のそこかしこから鈍痛が襲ってくるのに軽く顔をしかめて一刀は呟く。
どちらにしても天井を見上げていても事態は変わりそうもない。
ズキズキとした鈍い痛みを発する身体を労わるように寝台から上半身を起こした一刀の顔が思わずぎょっと固まった。

「・・・お、女の子?」

腰にかかっている重圧感の正体はとりあえず理解できた。
つまり、一刀の眠る寝台の丁度お腹あたりの位置に金色の髪を腰まで届くほどに伸ばした女の子が突っ伏して寝ていたようである。
もちろん一刀に向けてうつ伏せになっている彼女の顔は見ることが出来ないので、寝ているかは実際のところ分からない。
とは言えここで狸寝入りする理由などあるわけもないし、多分寝ているのだろう。

「困ったな・・・。
でも、起こさないと話も聞けないし」

よく手入れの行き届いている金糸のようなさらりとした髪と、どこか風変わりではあるが上等な装丁の服を着ていることから見てお金持ちのお嬢さま、といった風体である。
一刀は小市民としてそんな少女の姿に少し恐縮しながら、そして寝ている女の子に声をかけることに一抹の不安を感じつつそっと手を伸ばす。

「寝ている子は起こさない方が良いですよ♪」

その手が横から伸びた別の手にそっと抑えられて、彼はびくり、と身体を震わせた。
慌ててその腕の持ち主を上半身を捻って確認しようとして、全身に走った痛みに思わず引き攣った悲鳴をあげる。

「ったぁあっ!」
「あら、驚かしてしまいましたね〜。
でも大声はダメですよ、お静かにして下さい」

今度は一刀の口元にそっと指が当てられる。
その形の良い指先と整われた爪に少しドキリと胸を高鳴らせた一刀の唇に、ちょん、と軽く指が触れると彼の胸がさらに大きく脈打った。

「・・・あ、う、うん」
「ふふっ、いい子ですねー」

そう言いながらそっと離れていく指をつい視線で追いかけていって、一刀は初めて自分と話をしている人物と対面する。
年のころは一刀とそう変わらない年代だろう。
どこかおっとりとした雰囲気を持つ少女は、少したれ目がちな瞳に優しげな眼差しをしている。
綺麗な顔立ちに心が温かくなるような笑顔を浮かべているのが、一刀にはとても印象的に思えた。

「う、いい子って、俺はそんな年じゃ・・・」
「そうやって強がるあたりかわいいですよー」

美人が多いと評判の一刀が通う聖フランチェスカ学園の中でも確実に上位に入るだろう美貌の少女に対して、何と無く男の子として意地を張ってしまう彼の些細な抵抗も簡単に見破られてしまう。
やり込められることが気恥ずかしくて、ベッドに腰掛ける一刀と視線を合わせるために中腰をしていた少女からそっと視線を外す。
すると衣服を押し上げる豊かな胸元が視線に入ってきて、またドキドキと胸が高鳴ってくる。
それとともに一刀は下半身にドクドクと音が聞こえそうなほどの勢いで血が集まっていくのも同時に感じていた。

「ああ、そう言えば華佗さんが呑ました薬の関係でしばらくは発情してしまうかも、とか言っていましたけど。
ダメですよ、女性の胸元をジロジロと眺めては。
失礼ですからね〜」
「す、すいません・・・って薬?」

さすがにここまでイチイチ反応することは変だと一刀も思っていたのだろう。
少女の言葉に敏感に反応し、一体自分はどうしたのだろうと問いただす。

「ええと、簡単には経緯は説明してあげられますけど。
その前に自己紹介した方が良いですよね?
私の名前は張勲と言います。
荊州は南陽太守、袁術様に仕えるお世話係件教育係といったところですね。
袁術様がお求めのお薬の材料を集めに行ってくださったお医者様が、危ないところを助けてくださった恩人だと気絶した貴方を連れてきましたので、袁術様の指示で当家でお世話をさせていただきました」
「・・・え、袁術?
何処かで聞いたことのありそうな名前だよな。
それに荊州とか南陽って・・・ここはもしかして中国なのか?」
「ああ、それについては私からよりももっと事情を詳しく存じている方がいらっしゃいますので、そちらの方に尋ねてみて下さい」

一刀は矢継早に飛んでくる易々とは信じがたい情報を何とか受け入れようと苦心していたが、張勲は丁寧な態度で一刀が落ち着くのを待っているようだった。
自分のようなどう見ても胡散臭いだけの人間に、そんなことがあるのだろうか。
そのことに気付いた一刀は怪訝な顔で張勲を見つめる。
そんな彼の視線に気付いた張勲がさらににっこりとした笑顔を浮かべると、一刀は急にそんな風に人の好意を疑う自分が恥ずかしくなってペコリ、と頭を下げた。

「・・・張勲さん。
俺みたいな見ず知らずの得たいの知れない男にこんなに優しくしてくれてありがとうございます」
「ああ、いえいえ。
私だって善人じゃありませんから、見返りがなければそんなお世話なんてしませんよ。
北郷さんが天の御遣いだってことらしいですし、袁術様のお薬を手に入れるための功労者だったからです。
気にしなくてもいいんですからねー」
「は?
天の御遣い?」

またもや出てきた新しい単語に再び首を傾げる一刀に、張勲はもう話は終わったとばかりに視線を彼から外してお喋りの最中にも結局起きることはなかった少女へと顔を向ける。

「それもお連れの方に話を聞いて下さい。
私はそろそろ袁術様を寝室にお連れいたしますので」
「え?
あ、ああ、それはかまわないけど・・・」

何故彼の前で袁術を寝室に云々と話するのか、張勲の話が降って湧いた理由は良く分からなかったが、一刀はとりあえず頷いた。
袁術と言えば、三国志の中に出てくる偽帝としてある意味有名な人物と同名だ。
親もどうせだったら袁紹にしてやった方がまだマシだったんじゃないかな、などと思いつつも彼女の仕えるという偽帝(仮)袁術の姿を想像して少し苦笑いを浮かべた一刀だったが、次の瞬間には彼の思い描いたひげ面の小悪人といった袁術像が霧散することになる。

「さぁ、お嬢さま。
こんなところで寝ていては風邪を引いてしまいますからねー。
きちんとお部屋に行きますよ〜」
「・・・むにゃ、七乃ぉ、抱っこしてたも」
「もうっ、仕方ないですね、お嬢さまは〜♪」

思わず一刀の眼が点になった。
俯いた顔はまだ良く見えはしなかったが、明らかに一刀よりも年下の可愛らしい体躯の少女。
それも今の今までくーくーと剛毅に眠り続けていた彼女が、『袁術』?
そんな馬鹿な、という思いでマジマジと張勲と、彼女が抱える袁術らしき人物を見つめてしまう。

「では北郷さん。
後ほど事情に詳しい方をお呼びしますので、しばらく待っていて下さいね〜」

そして一刀が固まっている間に、張勲はゆっくりとした足取りで抱えた少女を起こさぬように気を使いながら部屋から出て行ってしまったのであった。



「・・・で、一体何がどうなっているんだ?」

張勲と袁術が部屋から出て行ってから数分。
ようやく落ち着いてきた頭で改めて一刀は現在の状況を考えなおしていた。
タイムスリップを装った壮大なドッキリかとも思うが、それにしては袁術が女の子だなんて時点でかなり不可思議な脚本だ。
そもそも三国志ドッキリだったら劉備・曹操・孫権と言った有名どころの名前を使うだろう。

「じゃあ本気で三国志の時代にタイムスリップしちゃったのか?」

とは言うもののさすがにそんなヨタ話をいきなり信じろと言われても中々難しいものがある。
せめて間をとって中国の何処かまでワープしてしまった、とかそんな所だと考えておくのが精神衛生上好ましい範囲だろうと一刀は考えていた。
どちらにしても、彼の頭からすっぽりと出会いがしらに衝突した龍のことは抜け落ちていた。
よしんば憶えていたとしても夢だと思ってそれこそ信じることなど無かったであろうが。

「まぁ、俺がどうなったかなんていうことはこれから来る奴が詳しいらしいから、今考えても仕方ないし。
・・・それよりも、コレはどうすれば良いんだよ」

そう呟いて一刀は毛布に隠れた自分の下半身のある辺りをそっと撫でてみる。
当然のようにいきり立った逸物は、衰えることを知らず元気一杯に『やあ!』と自己主張を続けていた。
張勲が言っていた薬の副作用は凄まじく、彼女の豊かな乳房を服越しに少し見つめただけで今も彼の身体を弄んでいたのである。
自家発電でも出来れば落ち着くのかもしれないが、この状況で始められるほど一刀も非常識な人間ではない。
じっと耐え忍ぶばかりであった。
こんな様子では一晩このまま、なんて言う無様なことにもなりかねないのではないか、と一刀が不安に思い始めたときである。

「ごぉ〜しゅ〜じん〜〜〜〜さまぁぁああああっ!!」

一刀の部屋のドアが勢いよく解き放たれた。
瞬間、一刀のエレクトしていたはずの逸物がきゅっ、と縮こまる。
そのぐらいインパクトのある出会いだったのは間違いない。
という訳で一刀は心の赴くままに悲鳴を上げることにした。

「ぎゃあああああっ!!
な、何だオマエっ!?」
「あらんっ、ご主人様ったらつれない御人ね。
貴方が困っているって聞いて駆けつけた漢女に悲鳴で返事をする・だ・な・ん・て♪
でも可愛いから許しちゃうわ♪」

あまりの出来事の連続にようやく冷静を取り戻したはずの一刀の心は一気にメーターが振り切れてしまったようで、ただ呆然と目の前にただ立っているだけでむさ苦しいビキニパンツの巨漢を見つめることしか出来なかった。
そして、そんなチャンスを漢女が逃すはずもないのである。

「うふふ、ご主人様お久しぶりね。
あなたの貂蝉よん。
やっぱりご主人様は私の危機に颯爽と駆けつけてくれるのね。
思わず惚れ直しちゃったわ」
「は、はぁ?
な、何を言って・・・。
って言うかおまえ、貂蝉ってどんだけ分不相応な名前使ってんだよ!?」

思考停止をした頭でこんなふざけた名前と格好の巨漢と知り合いであっただろうか、と一刀は考えてみるが、思い当たることはない、あるはずがない。
ただ、先ほど空から落ちてくるときに確かにこんな男が視界の端に写っていたような気がして、ようやく自分が空から落ちてきた挙句龍と衝突して気を失ったことを思い出していた。

「あらん、ご主人様にとってヒロインを助けるのは当たり前のことだから気にするなですって。
もう、嬉しいことを言ってくれるわん。
あんまりにも嬉しいから、再会を祝してドラマチックに抱きついてみたりして♪」

言うや否や貂蝉は巨躯な身体つきに似合わぬ巧みなフットワークで寝台の傍まで駆け寄るとそのまま一刀を両手でしっかりと抱きしめる。
ふわりと浮き上がる浮遊感を感じた一刀がようやく思考を回復させた瞬間、一刀の頭がごりごりとした暑苦しい胸板に押し付けられる。

「ぃいいやああああっ!!
暑い!
べたべたする!
でも何かいい匂いがするのが逆に辛すぎるっ!!
「どぅふふぅ、私の胸で存分に甘えて構わないのよ、ご主人様♪」
「むーっ、むーっ」

一刀の言葉など耳に入るわけもなく、さらに強く強く抱きしめる腕に力を込める貂蝉。
そして一刀はそのまま、ランキングを取ればかなりの上位を占めるだろう嫌な窒息の仕方で、泡を吹いてがっくりと気絶してしまったのである。
南無。


(続く)