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THEiDOLM@STER SS 『ウェディング・トラブル』


「お見合いをしてみないかい?」

「はぁ?」

思わず素で答えてしまった青年は、慌てて襟を正した。
いや、正確には正そうとしたのだが。

「社長?
どういう事ですか?
全く、急に呼び出したと思ったら突然何を言い出すんだか・・・」


仕事中に突然呼び出されたと思ったらいきなり一言目からコレだ。
彼でなくても、苛立ちを覚えるのは仕方のないことだろう。


「と言うか、千早たちを置いてきてしまってまで伝えることなんですか?」

言って、彼はため息を吐く。

彼が担当するアイドルたちは皆一様に扱いづらい。

その中でも今回仕事先に置いてきてしまったアイドルたち、
如月 千早、秋月 律子、菊地 真の3人は
きちんとした理由があれば何も言ってきたりしないのだが・・・。

その分、仕事でないことに関しては五月蝿い。
帰ってきた後から3人にどんな風に怒られるのか、
そう考えただけでため息の1つも出ようってもんだ。

社長が悪いって言ってもあいつ等聞いてくれないしなぁ・・・。

765プロ、唯一のプロデューサーの立場はかなり低いらしい。


「うむ。
つまりだな、私の友人がだね、
キミと娘さんをお見合いさせたいらしい。
娘さんも満更でもないそうでね」


相変わらずマイペースな社長は、
話相手が全然別のことに心配しているにも関わらず、
説明を続けている。


つまりは何か。
社長の友人の娘さんとお見合いしろってことか?


どうしてこのご時勢に、しかもこの年でお見合いなんてしなけりゃいかんのだ。

それから、この社長の知り合いだと聞くと、
なんか真っ黒なシルエットしか思いつかん。


「それにだ。
彼は765プロに出資もしていてね。
芸能界に顔も効く。
断りづらいと言う事情もある」

なるほど、と彼は納得の表情を浮かべた。

確かにそれならば返事も早い方がよいだろうし、
断ることも出来ない・・・か。


正直なところ、お金持ちのお嬢様ってヤツも気にならない訳ではない。
きっと楚々とした、俺たち一般庶民とは比べ物にならない感じのご令嬢なんだろう。

・・・でも、その娘さんも俺のことを知ってるらしい口ぶりだが、
そんな知り合いいないはずだが?


そんな疑問を抱えつつも、
仕事の礼儀と、一抹の下心からプロデューサーは

「ええ、分かりました」

と軽い気持ちで了承の言葉を発した。
それが新たな火種となるとも考えることなく。



THEiDOLM@STER SS 『ウェディング・トラブル』



「あ、亜美っ!?」

「ま、真美っ!?」

社長室の安普請とはぎりぎり言えない扉の廊下側で、
2人の少女、765プロの所属アイドルである
双海 亜美、双海 真美の双子が思わず声を上げた。

そしてその事に気付いた2人が、
互いの口をその手のひらで防ぐ。


「もがもがもが〜」

「もがもが?」


さすがは双子とでも言うべきか、口を塞いだままでもコミュニケーションが可能らしい。
・・・アイコンタクトで会話をしているらしく、
もがもがは意味がないということは内緒なのだ。

互いに結論を出した2人はそろそろと口から手を離す。
そして出した結論は・・・。


『兄ちゃんが結婚するって!!?』


見事に一致していた。

どうやら、2人の中では、
お見合い=結婚、という等号があったらしい。

まぁ、小学生である2人にお見合いと結婚の違いを理解しろ、
という方が難しいのかもしれないが。



『た、大変だぁ〜〜〜!』


2人はそのまま声を張り上げて、
一目散に駆け出したのだった。



事務所のオフィスで次曲のダンスの振り付けを覚えていた
高槻 やよいの前に亜美と真美が駆け込んできた。

「うっうー、どうしたんですかぁー?」

きょとんとした表情を浮かべたやよいの前に、
亜美が大げさな手振りでじたばたと事の重大さをアピールする。
そんな亜美の後ろから真美が声を上げた。

「あのねあのね、兄ちゃんがね、結婚するんだって!」

「そうそう、兄ちゃんが結婚するって!」

「わー、それはオメデタイですーっ」


亜美たちの期待とは外れた感じの答えを返したやよいだったが、
彼女たちの求めた驚愕の返事は予想外のところからやってきた。


「ちょ、ちょっとっ!?
それってどういう事なのっ!!
ちょっと、あんたたちっ、説明しなさいっ!?」

「え、ええええええ、えーと。
ぷ、プロデューサーさんがけ、けけけけけっこん?
えっと、
・・・血痕?
あはははは、ちっがいますよねー」

「あぁ、やっぱり私のプロデュースがイヤになったんですよね・・・。
私がちんちくりんで、ひんそーだから・・・、
穴掘って埋まってますーっ?」


レッスンからちょうど帰ってきた765プロ所属アイドル3人の反応は
それぞれの個性を反映した異なるものだった。


水瀬 伊織は亜美たちに詰め寄り、
ぎゃーぎゃーと事の説明を求めて喚き立てている。

天海 春香はどもりながらも、現実逃避をしているようだ。
・・・が、どこか発想が恐ろしいのは、この少女の根本を現しているのかもしれない。

萩原 雪歩は常備しているらしいスコップをどこからともなく取り出すと、
かつかつ、と音を立てて床をほじくり回している。


一気にカオスとなった場は混乱を極めた。
それぞれが勝手なことを言い合い、統一性など皆無に等しい。


プロのアイドルとして一線で活躍している彼女たちは、
同世代の少女たちよりはまだ、肝が据わっているはずなのだが・・・。
それでもある意味、自分たちのパートナーと言える存在のスキャンダルに
冷静を保てるだけの人生経験を積んできた訳ではない。

少女らしい想像力の逞しさで、
彼女たちは勝手な妄想を言い合っていた。



亜美と真美が、
「プロデューサーが社長に結婚の報告をしていた」
と大分話が湾曲されたことを言えば、

伊織が
「なんですってーっ!?」
とうさぎのぬいぐるみを振り回しながらヒステリックに喚きたて、

春香は
「フフフフフフフ・・・」
と何やら笑顔で握りこぶしを作り、

雪歩に至っては
「ぐすっぐすっ・・・」
と泣きながら、本気で事務所の床に20cmほどの穴を開けていた。


テンションの高さに違いがあるといえ、
彼女らの混乱にさほど違いがあるわけでもなく、誰もが冷静さを欠いていた。


どこまでも堕ちていく彼女たちの思考はまるで螺旋の渦のよう。
最早誰もが自分勝手な妄言を並べ立てるだけだ。

亜美と真美が虚実入り混じった情報を並べ立て、
伊織はここぞとばかりにプロデューサーを罵倒し、
春香は「ちょっと調子に乗ってますね・・・」などとぶつぶつと呟き、
雪歩の穴は最早直径50cmを突破していた。

そのまま10分も混沌が続いただろうか。


その場の雰囲気を一変させたのは、
最初の会話以降、全く言葉を発しなかったやよいだった。



プロデューサーが結婚してしまったら、という想像を続けていたらしい。

最初は大好きなプロデューサーが幸せになってくれることが単純に嬉しかったのだが、
段々ともう自分がいらなくなるんじゃないか、という不安にやよい襲われ始めた。
そして、断片的に皆の否定的な話を聞いているうちに悲しくなってきてしまったのだ。

その瞳がじわりとにじんだ。


一度決壊したダムは脆い。
が、一度決壊した少女の涙もとても脆いらしい。


一粒の涙が零れると、もう止まらなかった。
ぼろぼろと涙が零れ、顔をくしゃくしゃにゆがめる。

それに気付いた春香と伊織がようやく口を噤んだ。

これでようやく場が落ち着くかと思われたのも束の間、
ひっく、ひっくと声を上げて突然泣きじゃくるやよいに伝染されたかのように、
亜美と真美がわんわんと泣き始めた。


そんな風に泣き出した年少組を見て、
逆に冷静さを取り戻した春香だったが、
少し遅かったか・・・と後悔する。

やよい、亜美、真美の3人は抱き合って泣きじゃくってるし、
雪歩なんかは見るまでもなく最初から泣いている。
自分と同じかと思った伊織も、
横目でちらりと見てみると、
堪えてはいるものの泣き出すのは時間の問題のような気がする。

というか、あのままテンパってた方が楽だったかも・・・、
と再び現実逃避してしまおうかと考える始末だ。


が、一度冷静になるとそうも言ってもいられない。
自分でもどうかと思うが、
こういう責任感の強さというか、仕切り屋気質なところも自分の個性なのだ。


それに冷静になってみると、
プロデューサーさんが結婚するなんて話自体がおかしいだろう。
どうやら亜美と真美の情報らしいし、その信憑性はかなり疑わしい。

勘違いしてあの2人が騒いだことなど1度や2度じゃきかないのだ。
恐らく、社長の知り合いとか取引先の人が結婚するから、
その式に出席してくれ、とかそんなところが結論なんじゃないだろうか?


あ、遂に伊織が泣き出したや。


もう完全に他人事な感覚で春香は事の成り行きを見守っていた。
どうせ泣き始めたらしばらくはそのままだろう。

皆が落ち着いたところで、プロデューサーさんに事の説明をお願いすることにしよう。
もし本当だったら・・・、
とそこまで考えて慌てて頭を振ってその想像を追い出す。


ここで私まで落ち込んでしまったら、
どこまでこの空気を引っ張ることになるか想像したくもない。

それが限りなく誤報だろうと言うことが分かってるから尚更だ。

きっと律子さんには何故か、
「春香がついていながら」
とか言われてしまうだろうし、
千早にも呆れられてしまうだろう。

それは少し悔しいし、何よりもプロデューサーさんを信じていないみたいでイヤだ。

だから、春香は耐えたのだ。

それからやよいたちが落ち着くまでの10分ほどを。




「それじゃ、プロデューサーさんのとこ、いこっか?」

春香は泣き止んだ伊織とやよいの手を取り、
多分何かの間違いだよ、と出来る限り優しく言ってあげる。

だから、事の次第を確認に行こうと促す。

亜美と真美の2人に彼がどこにいるかを尋ねて、5人で一緒に歩き出す。


雪歩は、まぁ、私たちが居なくなれば寂しくて勝手についてくるだろう。
・・・いや、事務所の床に直径1mもの穴を空けるような人と、
正直あんまり関わりたくないし。


ことの発端である社長室につくと、誰かの喉がごくり、となった。
私だったかもしれないし、他の誰かかもしれない。


春香はゆっくりと腕を上げて安っぽいとは言えないドアをノックした。


ドアを開けると、そこにはいつも変わらない、
というか変えることのできない?社長さんの姿と、
困惑した表情のプロデューサーさんの姿があった。

「う、うわっ、お前たちっ、どうしたんだ?
目元、真っ赤になってるぞ?」

・・・そりゃ困惑もするか。

「うむ、青春だね」

社長さんは・・・まぁいいです。


私がそんなことを考えてる間に、

「兄ちゃん、結婚しちゃうのっ?」

なんて言いながら、亜美真美が彼に抱きついて・・・って、
勝手なことしないでね?

案の定、その行動に触発されたやよいに伊織までが彼にまとわりついて、
好き勝手なことを尋ね始めた。

私は、

「ほらほら、そんなに一度に聞いても、
プロデューサーさんも答えられないですよ?」

などと言いつつも、1人ずつ彼から引き剥がし、
自分が彼の真正面で向き合えるように立ち位置を調整する。


そこで彼を上目づかいに見つめながら、

「あ、あああ、あの、プロデューサーさん、
結婚しちゃうって、亜美と真美が・・・。」

ドモりすぎな私の言葉ではあったが、
きちんと言いたいことは伝わったらしい。


プロデューサーさんは、ああ、と納得の表情を浮かべて、

「そうか、さっきのドアの外の気配は亜美と真美だったんだな。
盗み聞きなんてするもんじゃないぞ?」

と軽く亜美と真美を嗜めてから、
事の真相を話し始めた。

「仕事の都合でお見合いをするだけで、
結婚なんてするわけないさ。
それにお前たちはまだまだ手が掛かるからな・・・。
俺もお前たちのことを考えるだけで手一杯だし、
他の女性のことを考える余裕なんてないなぁ」

なんてことを半ば自嘲と諦めの入った表情で言ってくれる。
まぁ、確かに今日の騒ぎを見るだけでもそうでしょうけど・・・、
でもそこは喜ぶところだと思いますよ、プロデューサーさん?


こんなに可愛いアイドルが目一杯気にかけてるんですから。


とは言え、安心したことに違いはない。
私はほっと息をつく。

「良かっ・・・、あわわわわっ!?」



「良かったですぅ〜〜」

私は跳ね飛ばされて地面にダイビング。
そして、私を轢いた雪歩がそのままプロデューサーさんの胸にダイビング。


・・
・・・雪歩、後でつぶしてイイ?


そのまま地面に寝転がった私を放置して、残りの皆も彼を取り囲む。

それでも、まぁ、いいやって思える。
太陽のジェラシーの霍乱なのですよ。

・・・ん?
それって、良い意味ではないかも?




「ねぇねぇ、プロデューサー?
アンタのお見合い相手って誰なの?」

伊織が笑顔で彼に問いかける。

泣いたデコがもう笑・・・って言うか、
それ私も気になります。


「え・・・あ?」

だが、彼はうろたえた顔を浮かべた。

「俺も知らないんだ・・・」


・・・おいおい。


私を含めた全員の冷たい視線を浴びながらも、
プロデューサーが必死に弁明を続ける。

「し、仕方ないだろ。
今さっき聞いたばっかりなんだぞ?
というか、お前たちが来るのが早すぎなんだって!」

プロデューサーが何も知らないと見ると、
今後は矛先が社長へと移ったようだ。

「うっうー、しゃちょー?
お相手は誰なんですかーっ?」

「あ、私も、私もー!
知りたいですーっ!」

やよいと雪歩の追求に、
社長はあっさりと爆弾発言を返してくれた。

「うむ、では教えてあげよう。

水瀬伊織君だ」



・・
・・・は?


「あらそう、私なんだ。
・・・って!
ええええーーーーーっ!!?」

「えええ、いおりん、兄ちゃんと結婚すんのーっ?」

「いおりん、ずっこーいっ!!」

「し、しししししし、しないわよっ!?
ていうかあんたたち、全然、お見合いと結婚の違い理解してないでしょーっ!!?」



伊織は必死に否定しているけど、なんか嬉しそうに見えるんだけど?
あ、もうダメだ?
ぷっつんきたや。

「伊織―?
ちょっと良いかなー?
・・・ま、ダメって言っても連れていくけどねー」

「は、春香?
あんた、何手掴んで・・・って、怖っ!
目がなんかとっても怖いんだけどっ!?」

伊織が何だか言ってるけれども、
ま、気にすることでもないか。

彼女の首根っこを掴み、
ずるずると社長室から引きずりだす。

「それじゃあ、社長さん、プロデューサーさん、
失礼しましたー」

にっこりと笑いながらそう挨拶した私に、
何故か最敬礼をして返す2人。

あれれ?
どうしちゃったのかな?






「ちょ、ちょっと!!
プロデューサー!!?
あんた、私のこと助けなさいよっ!?」

・・・すまん、伊織。
だって、春香怖いし。

ぎゃーーーーーっ!?
アイドルらしからぬ悲鳴を残して、伊織が廊下に消えていった。
俺たちは、それをただ見守る他、
なかった・・・・。


「って、私は別に悪くないんじゃー!?
だからその顔、怖いってーーーっ!!?」


見守るしか、なかったんだってばっ!!?

(終わり)