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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第33話』


『3週間ぶりのわりには分量が少ないのみならず、やっつけ仕事で超申し訳ない』
「・・・なに言ってんだ、オマエは」
『いや何、よからぬ電波を受信しただけでございます』

俺は意味の分からぬことをほざくその無機物に改めて視線を向けた。
どこから声が出ているかも良く分からぬが、
ソイツはこの世界のあらゆる理を無視したかのような言葉を吐き出した後、おもむろに告げた。

『まずはショタキャラはボッシュート』
「ってわあああああああっ!?」
「ユーノっ!?」

余りにも唐突といえば唐突な展開である。
ソイツの言葉と同時にユーノが立っていた床の周囲1メートル四方がぽっかりと開き、
彼は問答無用でかすかに反響する悲鳴だけを残して真っ逆さまに落ちていく。
・・・ってヲイ。

「ちょっとまて、コラ!」
『あっはっは、つまらぬことを気にしても仕方ありますまい。
何よりも、彼はこの物語の重要な役割を持つ登場人物なれば、
今からする話を聞かれたくはないのですよ』
「なんだと?」
『ぶっちゃけ、男キャラの扱いなんてこの作品ではこんなモンですよ』
「・・・だからそういうのは止めろ」
『電波、届いた?』
「とどかねぇ!?」

思わず叫ぶ俺に再びケラケラと笑った無機物は、
一通り掴みは済んだとばかりに満足げな気配を浮かべる。
とりあえず、ユーノは・・・まぁ、死んでたりはしてないだろうし。
ほんの数秒で彼のことを思考から追い出した俺が、
改めて目の前のコイツへと疑問を投げかけるよりも早く、ソイツは自らの口で種明かしを始めた。

『さて、始めましょう。
主のためのらくえんとでも呼ぶべきこの世界の、あるべき姿を決めるための第一歩を決める選択を』
「どういうことだ?
いや待て、それ以前にオマエはセイなのか?
俺のデバイスなのか?
どうしてこんなところにいるんだ?」

白く濁った三角錐をしたよく見慣れた形のソイツは、
俺の混乱した叫びに動揺した気配など見せはしなかった。
こちらの懐にしまわれたデバイスと同一の形状をしたソイツが俺に向けて話しかけるのと同時に、
今までモヤモヤと漂っていた俺の疑問が一斉にあふれ出てくる。
ペンダントにしてひっかけているアクセサリ型のソイツを胸元から引っ張り出すと、
確かにセイと呼ばれたデバイスはソコに引っかかっていた。

『この場所にいたのがナニであったのか、その答は主が良く知るところでございましょう。
私が語るまでもございませぬ』
「待て、ということはココは、アッチの世界なのか?
俺はいつの間にか世界を股にかけたのか?
世界を駆ける青年なのか?」
『違いますよ、主。
コチラの世界の私がココにいる、そう考えて下され』

混乱した頭ではあまり効率的に考えることが出来ず、
俺はじっと冷静さを取り戻すために、何度もソイツの言葉を頭の中で反復した。
異次元同位体とでも言いたいのだろうか、コイツは。
この世界が俺のいた世界の地球と同じ存在であるならば、
当然同じモノが存在していなければおかしい、とそういうことなのだろうか。

「つまりは、お前は俺の知っているセイなのか?」
『その答えはイエスであると同時にノーであります。
言うなればセイセカンド
・・・いえいえ、やっぱりセイツー、セイダッシュ、セイベータ、セイ2、
それとも何が良いですかね?
自分で言っていて何が何だか、訳が分からなくなってきました。
面倒くさいですしセイで結構ですよ』
「そうかい。
名前はどうでも良いや、俺の持っているコレとお前は同じだって思っていいんだな」

余計な突っ込みをいれる余裕もない。
俺は急かすようにセイと名乗ったその存在に先を促す。
ついでに俺が手に持つもの言わぬデバイスをそのままかざしてやると、
やれやれ、といった雰囲気をその無機物は見せた。
具体的にどうこう、というわけでもないが、何となくぶーたれているのが分かってしまう。

『もう少々言葉遊びに興じましょう。
ソチラの私がこの世界に来た際にリンクされたとは言え、
私個人の意識的には数千年ぶりの客人なのですよ。
つれない態度は乙女に嫌われますぞ』
「知ったことか。
小学生にも分かるような簡潔な説明をよこせ」
『ま、確かにあまり遊んでいる余裕はないようですから、それでは単純に。
私はセイと呼ばれる遺伝情報を操作する魔法使いの道具である。
その根源たる役割はあらゆる世界の遺伝情報を監視し、生命の進化樹の完成を待つツールの一つ。
ゆえに、ありとあらゆる世界のこの場所に私は在り、
世界の命を見守り新たな進化の道筋を導くことが私の役割。
そして、世界に新たな可能性という名の進化を導くのが私の役割というわけです』
「・・・分からんな」

俺は首を振ってセイの事務的な説明を否定する。
言いたいことは何と無く分かるが、だからと言ってセイの意図がさっぱりと掴めない。
生命の進化なんてものは勝手に起こるものだし、進化樹は例えどれだけ細分化されたとしても、
完成などということはありえないだろう。

『簡単に言うと、世界のカンフル剤なのですよ。
硬直した世界に新しいエネルギーを打ち込み、世界の系統樹に新しい可能性を与える。
進化樹の先にある生き物に対して遺伝的変異を与えるだけではなく、
世界に影響を与える人物に新しい可能性を提示することもあります。
ソレは単一の世界のみに留まらず、複数の異なる世界においても当てはまります。
単一の世界が硬直していなければ、別のカンフル剤を必要とする世界を見つけ出し対処する』
「・・・じゃあ、俺はオマエに良いように利用されたってわけか?」
『ふむ、主がこれまでの物語を不満に感じておられるのでしたらそうなのでしょうね』

ぐむ、と言葉につまった俺に、セイがニヤリと笑みを浮かべたかのような気配を感じた。
反論を封じられた俺は、話が長くなりそうな気配を感じたこともあり、どかっ、とその場に座り込む。

『安心してくだされ。
私はただの道具。
決断するのは何時だって世界のメインキャラクターである人間の役割ですので』
「決断だって?」
『ええ、決断です。
世界にカンフル剤を打ち込むか否か。
それを決めるのが我が主の役割です。
故にクリスマスの翌日までにこの場所に来ていただく必要があったのですが、
スクライアの少年のお陰で無事にたどり着けたようで何よりですよ』
「オマエはその恩ある少年を舞台から蹴り落としたけどな」

俺がぼそりと突っ込んだ一言に怯んだ様子も見せない血も涙もないセイは、
真実、何事もなかったかのように話を続ける。

『実はこの場所に来ていただけるよう幾つもの仕掛けを施していたのですが、
全て空振りに終わっていたのです。
イヤ、ホント色々な場所に仕込みをしたんですよ?
バニングス家のアレそれとか、
月村家のアレそれとか、
学校の実習向けのアレそれとか・・・数え上げたらきりが無いのですが、
見事なまでのスルー能力でしたな、アッハッハ』
「オマエ、ホントに後でユーノに謝るべきだ」
『そうですな、全てに片がつき次第、そうありたいものです。
私としてもあまり期待していなかったスクライアの文献への介入が、
見事に的中するなどとは考えてもおりませなんだから』

・・・まぁユーノのことだし、
なのはに会いにいきたい一身で地球関係の文献がないか必死に調べたのかもしれないが、
そこの処は本人にしか分からないので口には出さない。
とにかく、今はユーノのことよりも先に尋ねておきたいことがある。

「決断ってのはソレで具体的に何なんだ」
『現在の時刻は少々主が目覚めるタイミングを操作させて頂きましたゆえに、
12月25日15時ジャストとなっております。
この時刻が持つ意味は・・・つまり、物語が佳境を迎えるタイミングでございます』

セイの意味深な言葉と同時に、周囲から光が失われ再び室内が真暗な闇に覆われてしまう。
だが、瞬きをした瞬間に、風景が生まれた。
それは、
・・・俺がこの半年の間に見飽きてしまったとある街の光景であった。





買い物に向かう途中だった。
今日は彼女たちの家族の一人が一泊二日の調べ物という名の旅行から帰って来るはずの日。
もう一人の家族も友人の家の手伝いを終えて帰って来るはずの日だった。
だから一日ぶりとは言え、今日も何か豪勢なものを作ってみようかと、
そんなことを話しながら彼女たちは歩いていた。
2人の少女はまるで仲の良い姉妹のように街を徒歩で移動している。
そんな微笑ましい日常は、一瞬にして崩れ去った。

「・・・っ!」
「・・・ヴィータっ!?」

その瞬間の内に、世界からこの街は切り取られていた。
騎士であるヴィータはもちろん、魔道士としての道を歩き始めたはやてでもあっさりと分かるほど、
『隠すつもりの無い』人払いの結界。
しかも、素晴らしく鮮やかで手際の良い魔法だった。
未熟な魔道士によってバレバレの結界が張られたというわけではない。
つまり、この結界を張った魔道士はかなりの実力を持つ、
それでいて初めから荒事を起こす気満々な人物であった。

「俺の名は騎士ゼスト。
お前たちの身柄を確保させてもらう、抵抗せずについてこい」

その人物の名はゼスト。
真正面から、ただ自分の意志を貫く無骨な騎士、ゼストだった。

「な、何でや!?」
「・・・残念ながらこれが結末だ。
大人しく着いてくれば、お前たち以外誰も傷つくことはない」

無慈悲な響きを持ったゼストの容赦の無い言葉に、ビクリとはやての身体が大きく震えた。
ヴィータがバリアジャケットを一瞬で展開するよりも早く、
はやての胸元に下げた漆黒のデバイスが自動起動して
圧倒的な脅威から持ち主を守ろうと凶悪な魔力のミサイルを撃ち込む。

『Auto Rakete』

ひゅぼっ、と気の抜けたような音がして放たれたのは、
小型ながらもなのはのスターライトブレイカーと同程度の威力が込められた暗闇の砲弾、計6つ。
ゼストの顔に、一瞬緊張が走る。
だが、彼は一歩も退くことはない。
それどころか前進しながら、弧を描いて接近する二つの魔力光を手に持つ槍であっさりと切り捨てる。
凄まじい勢いで槍を振り回したせいか、
ぐるりと回転することでバランスをとるゼストの背を目掛けて二つの追尾弾が忍び寄る。
彼は背中に目がついているかのようにぎりぎりのタイミングで身体を捻って魔力弾から身をかわすと、
魔弾は彼の張った障壁魔法にガリガリと削られるようにして暴発する。
その隙を突くかのように上下から獣の顎のように喰らいつかんと迫る、
魔力で作られたロケットと真正面からぶつかった彼は、障壁にワザと脆い位置を作って
爆発の余波を一方向へと集中させてその隙間をあっと言う間に潜り抜ける。

「・・・あ・・・ああ・・・」
「魔力が大きいだけでは俺には勝てん」

ぺたん、と腰が抜けたのか地面に座りつくしたはやての前に、
無傷で大砲の嵐を潜り抜けた男が立ち塞がる。
だが、ゼストが彼女のことを手に入れたと思うのはまだ早い。

「ナニしてやがんだ、てめぇええええ!!!」

最強のガーディアンにして主の敵を打ち砕く騎士であるヴィータが、
はやてに対する非道な行いを見逃すはずもない。
彼女は一瞬の隙をつくタイミングで真横から正確に彼の脳髄目掛けて、
巨大なハンマーを音速を超えるほどの速度で振るう。
同時にヴィータの持つハンマーからはガションガションガション、と何かを装丁する機械音が響く。
空の薬莢のような金属のキャップを地面にぼとぼとと落としながら、
そのまま暴風のように荒れ狂う紅の鉄騎の連撃に対して、
間合いを取り損ねたのかマトモに刃をあわせることも出来ないゼストが初めて後方へと下がる。
だが、やはり彼には焦りの色など見えはしない。

「・・・守護騎士のカートリッジシステムは既に対策済みだ」

言葉と同時に彼の槍からもガション、とヴィータのハンマーから漏れ出た音と同じ響きが聞こえた。

「はやてっ、さっさと逃げろっ!
フェイトたちを呼んでくるんだ!!」
「わ、わかった!」

ヴォルケンリッターは1対1でなら負けはないなどと信じているヴィータであるが、
はやてを守りながらではその力は100%発揮しきれない。
彼女もここに居てはヴィータの邪魔になると理解しているのか、
力の入らない足腰に無理を言って壁を支えにしながら何とか立ちあがる。

「・・・」
「・・・追わねーのか?」

騎士にして見ればどこまでものろのろと遠ざかって行くはやてを
何故か手を出すことも無く見送るゼストに、思わずヴィータから素で疑問が漏れた。
ゼストの目的は闇の書の主、つまり八神はやてのはずだ。

「追う。
オマエを捕獲してからな。
それに救援については俺の部下が相手をしている、期待するだけ無駄だ」
「・・・良い度胸してんじゃねぇか。
上等だよ!!!」

ヴィータは叫ぶと同時に、
先ほどのはやての繰り出したミサイル攻撃よりもさらに早い速度でゼストに向けて吶喊した。
彼女に立ち向かうゼストは、一瞬口元を悲しげにゆがめたが、すぐに

「・・・大切なモノを守るということは、難しいものだな」

ゾッとするような冷たい鉄面皮を浮かべると、躊躇無く三つ編みの少女へと向けて槍を振るった。





画面が消える。
同時に、部屋が再び白色の空間に戻っていく。
目の奥が急な光量の変化でちかちかと霞むが、そんなことを気にしている場合ではないようだった。

「おいこらっ!
今のはなんだ!!」
『ただの、今現在起こっている現実でございます。
さぁ、主。
結論をお聞かせ下さい。
この世界に新たな可能性を与えるか、否か』

こんなものを見せられて、俺が答えることなんて決まってんじゃ・・・そこまで考えて、思考が止まる。
俺が関わらなければ、どうなるって言うんだ?

「一つだけ教えてくれ。
もしも俺がこのまま関わらなければ、どうなるんだ?」
『どうもなりませぬ。
はやて殿はフェイト殿やなのは殿といった救援を呼ぶことも出来ず、
最後の希望とばかりに闇の書の封印を解き、力及ばず暴走させてしまうでしょう。
その結果、闇の書事件を今も監視し続けているグレアム氏によりクロノ執務官が物語に介入し
・・・そして、世界は元の姿を取り戻す。
ある意味、はやて殿は約束された将来を迎えるわけですな』
「そうだな」
『フェイト殿も何らかの形で母を失うことになるでしょうが、まぁそれは規定事項。
彼女も将来は優秀な執務官という出世コースを歩むことに変わりはありませぬ』
「・・・くそ」

俺は頭を振ってどうするのが一番良いのかを考えてみる。
きっと、ここで彼女たちを見捨てるのがベストだ。
もうこの世界は、俺が知るあの物語とは大きくかけ離れちまっている。
それに、俺は色々な人物から度々忠告を受けていたはずだ。
主人公なんてなれはしない、分をわきまえろって。

だからこそ、俺は答えを下す。

「家族になっちまったんだ、もう、ほおっておけないさ。
こんな性分なんだよ、俺は。
自分勝手でも何でも、今ここにある悲劇からはやてを守りたい」
『そうですか』
「そうだよ。
悪いか、この野郎」
『いえいえ、それでこそ主です。
致命的なまでにお人よしで、それでいて人間臭い貴方だからこそ、
私が主と仰ぐに相応しい。
物語の主人公となれずとも、我が盟主は貴方だ』

くつくつくつ、と嫌味な笑いを浮かべるセイは、何でもないことのように続けた。
まるで、最初からこの選択が選ばれることなど分かりきったことだったと、
そう思っていたかのように。

『さぁ、話が決まりましたら早々に助けに参りましょう。
これで間に合わなかったらどうしようもないほど間抜けの極みですしな。
はやて殿が持つ闇の書の中にいる、もう一人の私のところまで転移するだけです』

そうセイが言った瞬間、目の前にある祭壇のような場所に鎮座していたセイが揺らいで消える。
同時に、俺の持つセイに、何かが重なったかのような感触があった。

『Metastasis!』

つまり、この世界に来たときと同じ理屈で転移した。
さぁ、願わくば、この世界に誰もが笑って過ごせるハッピーエンドを。
俺の手で掴み取ってやれるだけのちっぽけな明日のために。

(続く)