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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第32話』


12月24日は土曜日である。
俗に言うクリスマスイブというヤツだ。
とは言え、学校運営においてそんなイベント日が休日であるわけでもなく、
本来であれば今日が終業式の日・・・であったはずである。
しかし、私立聖祥大学付属小学校では11月の頭頃、
文科省による全国テストがわざわざ土曜日を潰して行われたため、
今年は繰上げで22日に終業式を終えていたりする。

・・・確か、原作だと普通に24日にも学校はあったはずなんだよな。

今さらながらそんなことを思い出すが、そう気になる話題でもない。
どうでも良いことか。
そう考えた俺は学校のスケジュールを頭から追い出して、
テーブルの上に置かれた水の入ったコップを一気に呷った。

「それで、注文はもう決まったか?」
「あ、はい、決まりました」

目の前で向かい合って座る、
メニューと睨めっこしているユーノに注文が決まったかを尋ねてみる。

・・・と言うか、改めて考えるとクリスマスイブに野郎と2人か。

何だか切ない気分になってきた。
敢えて考えないことにして、さっさと昼食を済ませてしまおうと店員の姿を探す。

「注文お願いします。
しじみラーメン1つ」
「あ、僕も同じものを。
2つでお願いします」

ちょうど休みのシーズンな上に昼時だからか、
厳冬と言えるような寒い地方の観光地としてはそこそこ賑わっている店内の一角で、
手を上げて見つけた店員に注文を告げる。
ぱっちりとした瞳のアルバイトらしき女性店員は、
20半ばの日本人と10歳程度の外国人の2人連れという異色の組合せに
少しだけ驚いた表情を浮かべながらも、なんとかと言った感じで了解の意を告げる。
ただ、ユーノの年の割りに旅慣れた堂々とした姿のおかげか、
不可解な2人組みだとは思われても犯罪の匂いは感じないのだろう。
好奇心に満ちた瞳は、疑念や疑惑の欠片を含んではいないようだった。

「やっぱり目立つな、俺たち」
「そうですか?
えっと・・・」
「ああ、周りを見渡さんでいい。
余計に目立つ」

思わずといった感じで、俺の言葉に従って鮮やかな金髪を
さらりと靡かせながら辺りを見渡すユーノの動きを、手を振って遮る。

・・・確かにこんな田舎に金髪の美少年はそぐわない。

今さらだが、ここは海鳴ではない。
東北のさらに果て、この弓状列島のさらに本州と呼ばれる場所の北端にほど近い、
浅く、それでも大きな湖で採れる大和貝を使ったラーメンを出す料理屋に俺たちはやってきていた。
これではラーメンが主目的のように取られかねないが、違いますからね?
あくまでも、目的はユーノの遺跡調査のお手伝いといったところである。

「目的地はここよりも少し戻ったところか」
「はい、現在のなのはたちの状況は聞きましたけど、
魔力を気取られないように転移魔法を使うと座標をそこまで細かくは指定できないもので。
・・・すいません」
「気にしないでいいって。
ムリを言ったのはこっちだし、ここまで来るのに2時間もかかっちゃいないなんて、
どの交通機関を使うよりも圧倒的に早かったしな」

年不相応に成熟しているユーノとは言え、
一回り以上年の離れた子供に気を使われるのも何なので、軽く首を振って気楽な口調で言葉を返す。
そんなことを話している間に、ラーメンが2つ、お盆の上に乗ってやってきた。

「とにかく食べようぜ。
さすがに腹が減った」
「そうですね。
いただきます」

届けられれた湯気のたつラーメンは透き通ったスープに、
メニュー名に相応しい黒く艶やかな光沢を放つしじみ貝がしっかりと乗せられていた。
鼻腔に届く水系生物特有の匂いはしじみからダシが良く出ている証なのだろう。
れんげでまずはとスープをすすると、
薄めの塩味にしじみからしみ出たコハク酸を初めとした独特のぴりぴりとした癖のある、
それでも濃厚なうまみを感じる。
二口目を口に含む頃にはぴりぴりとしたクセにも慣れてくる。
どっしりとしたエキス成分が舌の上にしゃっきりポンと・・・いや、そんなアホな感想はいらん。

「うまいな」
「はい、初めての味ですけど美味しいです」

ユーノも気に入ってくれたらしい。
お世辞ではない証拠に、よどみ無く麺を啜っていく彼の姿は満足げだ。
ならば俺も食べるのに集中しようかと、そのまま2人で一言も発せずにずるずると麺をすする。

・・・蟹だけじゃなくて、ラーメンも結構無口になる食べ物だよな。

俺は真っ白な湯気を上げるどんぶりに箸を近づけながら、
はやてたちにはこのラーメンでもお土産に買っていくべきだろうか、と考えていた。
いや、どうせだったら生の蜆を手配した方がいいか?
どっちかね、一体。





「じゃあ行ってくる。
とりあえずは明日には帰って来る予定だから。
もし予定が変わったら連絡いれる」
「えー、ずるいで、兄ちゃ〜ん。
わたしも一緒に連れて行くべきやで」

今朝のことだ。
俺がユーノとの待ち合わせ場所に向かおうと玄関まで行くと、
はやてが頬をぷう、と膨らませて駄々をこねてきた。

「それでも俺はいいんだが。
はやては今日は病院の定期診断だろ?
石田先生と久方ぶりに会うのを楽しみにしていたじゃないか」
「ううう、そ、そうやった・・・。
さすがにこっちの勝手な都合で診察時間をずらしてはもらえんしなぁ」

がっくりと肩を落とすはやてに苦笑を返す。
落ち込んだ様子の彼女を見ていると、心なしか、
髪についたバッテンなアクセサリも萎れているような気さえしてきてしまうのは、不思議なものだ。

「・・・はぁ。
とは言え仕方ないか。
兄ちゃん、せめてお土産よろしく頼むで♪」
「ん?
アニキ、もう出るのか?」

はやてが諦めた表情で、それでも割り切った様子でそんなことを言うと同時に、
今度はヴィータがひょいと玄関に顔を出した。
ぼさぼさの髪に、よれっとした大きめのピンクのパジャマを着た彼女は、
くああああっ、と大きな口を開いて欠伸を漏らす。
・・・可愛らしいがダラシないな、むぅ。

「むにゃ・・・、フェイトは?」
「フェイトは俺よりも先にもう出たぞ。
今日は泊りがけで翠屋の手伝いをなのはと一緒にするってのは知ってるか?」
「随分と朝早くから準備しとったもんなぁ。
今日は遅くまでお店があるって言ってたけど、大丈夫やろか?」
「まー、アイツのことだから心配いらねーよ」

テンションがかなり高かった、と言うかルンルン♪という擬音が見えてきそうだったフェイトの様子を、
眉を潜ませて思い出すはやての心配をヴィータが笑って杞憂だと吹き飛ばす。
確かにそちらは心配いらないだろうと、俺も思っている。
フェイトは張り切って頑張るだろうが、高町家の面々がそこのあたりは気をつけてくれるだろう。
そちらよりもむしろ・・・

「はやてこそ気をつけろよ。
何か困ったことがあったら我慢しないで、すぐに連絡してくれ」

はやてのことが心配だ。
俺の言葉を過保護だと思ったのか、
はやてが苦笑気味な笑顔をこちらに向けてから軽い口調で言葉をつむぐ。

「大丈夫やって。
日常生活送るのにとっくに介助はいらんし、それに何より、
何か困ったことがあっても今日はヴィータが一緒に居てくれるもんな?」
「そうそう、あたしがついているんだ。
気にする必要ねーぞ」
「そや、ヴィータ!
今日は2人やから、夕御飯豪勢にいこか?
何がええかな!」
「おおっ、はやて、それいいな!
あたしはそうだなぁ・・・」

わいわい、と今日の夕飯についての献立の話題に花を咲かせる2人を微笑ましく見つめる。

・・・ま、大丈夫に決まっている。

こっちも今回はユーノが一緒なんだ、
例え携帯が通じなくても通信魔法もあるし、何よりも転移魔法がある。
と言うかそもそも、ヴィータがいれば大抵のことは大丈夫だろう。

「そうだな。
ヴィータ、はやてのことを頼んだぞ」
「おうっ、任せとけ」
「そうやな、ヴィータ、わたしのことを頼むでっ!」
「一生だって任せとけっ!」
「ヴィータ・・・」
「はやて・・・」
「・・・盛り上がっているところ悪いが、遅れるから行ってくるな」

玄関先で互いに見つめあってから、ひしっ、と抱き合うはやてとヴィータを横目に、
俺は手をひらひらと振ってからその場を後にしたのだった。





そして舞台は何の動きも無い現在の時刻に戻ってくる。
ラーメンをたいらげた俺とユーノは、店を出ると湖の周りをぐるりと歩いて回っていた。
のどかな田舎の光景は、見知らぬはずの土地であってしても何故か郷愁を誘うものだ。
が、それもじきに終わる。
ただでさえ静かな場所ではあったが、幹線道路を離れてからもさらに先に進んでみると、
急激に人気のない場所に早変わりする。
こうなると、カムフラージュは終わりだ。
早速飛行魔法を使うユーノの横で、俺も彼に補助をしてもらいながらふわり、と空に浮かぶ。

「まっすぐ飛んでいけますので、多分1時間もかからずに目的地に着くかと思います。
僕が補助をしますので、速く飛ぶことだけに力を集中してください」
「助かる。
1時間も飛ぶとなると、俺の魔力的にはかなり厳しいけど。
ダメだと思ったら遠慮なく言うからそのときはユーノが俺を引っ張って行ってくれ」
「頑張ってくださいよぉ」
「頑張れ、男の子」
「・・・理不尽ですね、ソレ」

ユーノはどうしようもない程イラつきを覚えるだろう俺の発言について、
恨みがましい目でこちらを見つめて反抗の意を示す。
そりゃ成人男性にそんなこと言われても全く嬉しくないのは分かるけどな。
事実は事実だ。
受け入れてもらうしかない。

「とりあえず飛行機とかヘリコプターには気をつけていこう。
いくぞ!」
「はいっ」


勢いこんで離陸した俺たちが南東の方向に飛ぶこと1時間と少し。
そこは県内のちょうど真中にある、空港からもほど近い小高い丘、とでも表現すべき場所だった。
丘とは言っても、
上空から見下ろしているせいでソコが台地になっているということが分かるのであって、
地面に降り立ってしまえば、おそらくそこは平地とそう変わらないだろう。

「これだけの規模だなんてすごいですね」
「確かにすごい、上空からなんて初めてだしな」
「上空からは、初めて?」
「・・・いや」

ユーノの疑問に答えずに、俺は何とかここまで持ってくれた己の魔力を振り絞って、
直系数十メートルにも及ぶ環状列石が数千の単位で並ぶ石作りの遺跡の前に降り立った。
上からでは判別が難しかったが、降りてみるとよく分かる。

・・・前に来たことがある場所だ。

この有名な遺跡は確かに大地に造成された聖域と呼ぶのに相応しい場所だ。
俺が知っている場所であるからには、それは間違いない。
ちらり、と隣にいるユーノの方へと視線を向けると、
彼は考古学者っぽいことをしているせいなのか、それとも生まれつきの性分なのかは知らないが、
目を爛々と輝かしてバックから取り出したノートに何事かを書き込んでいるようだった。
どうやら、この場所の石の並びをスケッチしているようである。

「ユーノ、言われたとおりに飛んできたが、目的地はここなのか?」
「えぇっと、ここも目的地の一つなのですが、この他にもいくつか調査場所が指定されています。
全部で計6箇所。
それぞれの場所で、観測チームによって特殊な、
それもかなり大きな力の魔力波が観測されたので、今回は調査が行われることになりました。
もしも、モノがロストロギアであるならば、我々の手による発掘も已む無しかと思われますが・・・」

そこでユーノは口ごもり、
しばし考える仕草をしてからばたばたと誤魔化すように手を振って否定の言葉を続ける。

「いえ、もちろんこの世界の遺跡はこの世界のものです。
ですが危険なロストロギアであれば、あまりそういったことはしたくもありませんが・・・」
「少なくても俺はそんなことを気にするような奴じゃないから、
ユーノもソレについては気にしなくて良い。
・・・まぁ人のことは言えないし」
「はい?
えぇと、違ったらすいません。
先ほどからこの場所に来たことがあるような口ぶりのような・・・?」

いぶかしげな顔で疑問符を浮かべるユーノだが、それも仕方がない。
先ほどからポロポロと失言も漏れていることだし、
そもそも冷静に考えればわざわざここまで俺が着いてくること自体が彼にとっては不可解であろう。
・・・そろそろ、俺がついて来た理由を説明しておいた方が良いかもな。

「・・・実はな」
「実は?」

何かとんでもない緊急事態を想像しているのか、
真剣な眉根を寄せた顔をしたユーノがごくり、と唾を呑み込んでから口を開いた。
それと同時である。
俺とユーノの足元にあったはずの地面が、音も立てずに問答無用に陥没した。

「ここでおれぁああああああーーっ!?」
「ってうわああああああーーーーっ!?」

こうして、あっさりと俺たち2人は真っ逆さまに暗闇の中に転がり落ちていった。
冬の遺跡に、かすかに悲鳴の残滓を残して。





光が全く届かない、完全に真っ暗な闇の中だった。
俺が目を覚ましたのは、何処までも黒で塗りつぶされたかのような場所である。
ほのかに暖かみを感じる硬質の床に両手をついてから、
何処かにぶつかったりしないようにゆっくりと身を起こす。
まるで世界そのものが目を瞑っているかのような暗闇に覆われた世界で、
俺はあまり驚くことはなかった。
むしろ、心のどこかでこの展開を予想していたとさえ言える。

「・・・これはやっぱり、間違いないか」

二度目となればあまり驚きもない。
この遺跡に来るのも。
遺跡から変な落とし穴に落ちるのも。
真っ暗な空間で目が覚めるのも。
そして、その先にあるものと出会うのも。

「まさか、な」

ただ、再びあのインチキデバイスと会うとは、未だもって信じられなかった。
あるいは、・・・信じたくなかったのかもしれない。

「そういえば、ユーノは何処いった?
多分その辺にいるとは思うんだが・・・くそ、何も見えないな。
おーいっ、ユーノ!!」

叫ぶと、かすかに音が反響を返す。
そんなに広くない場所だったはずだ、叫べば俺の声ぐらいあっさり聞こえるだろう。

「聞こえないかっ!
おい、起きろっ、ユーノっ!!」
「・・・あ、は、はい、ここっ!
ここです!!」

声はすれども姿は見えず。
思わず声がしたと思しき方向へと顔を向けてみるが、
よくよく考えてみると音が反響するせいか、イマイチ方向にも自信が持てない。
それにしても真っ暗だ。
仕方ない、こうなったらココに呼んだ奴に登場してもらおうか。

「おいっ!
俺たちをここに連れてきた奴っ!
いい加減姿を現したらどうだっ!!」


・・
・・・シーン

「えーっと?
あの、明かりを灯す魔法を使ってみますか?
遺跡探索の基本なんで覚えてますけど」
「・・・ヲイ」

普通ここは
『良くぞココまで来た』
とか、
『そう急くでないわ』
とか何かリアクション帰って来るところじゃないのかよっ!
せめてライトアップするぐらいはしても良いだろっ!?

「いや待て。
アイツのことだ。
素直に出てくるわけがない」
「あのー。
やっぱりココが何処だか知ってますか?」
「ということは・・・ティンと来た!!」

敢えてユーノの発言は軽くスルーして、背景も真っ暗だし、
自分のシルエットも真っ黒なので折角だからそれっぽいことを叫んでみる。
今ならアイドルでもプロデュース出来そうだな。

・・・いかん、想像したら本気になってきた。

俺はぷるぷると首を振って、
頭に浮かんだミニスカ白衣を着て注射器を構えたはやてとか、
ウサ耳ゴスロリヘッドドレスの下に正統ヴィクトリア風のメイド服を着込んだヴィータとか、
じゃらじゃらと鈍く輝く鎖を全身に巻きつけたシスター服のフェイトとか、
某バーニングな魔女っ娘風衣装で小太刀を構えるアリサとかの妄想を追い払う。
っていうか、コスプレ自重。

「よし、ユーノ。
無視して帰ろう。
お腹空いたし、めんどくさくなってきた」
「ええっ!?」
『って、ちょっとまてぇええええ!!!』

ユーノの声に被さるように何処からとも無く大音量の叫びが聞こえてくる。
ふっ、やっぱり様子を窺ってやがったな。

「馬脚をあらわしやがったな!
さっさと出て来い、この馬鹿デバイスっ!!」
『やれやれ、一本取られましたな。
私の負けです』

声と同時に部屋の照明が一斉にオンとなって、煌々と辺りを照らす。
急激な光量の増加に、意図せず反射的に己の瞳を閉じる。
再び視力が戻ったとき、俺は予想通りのものがそこにあることを確認した。

『ようこそ、主。
楽園のさいはてへ』

そこには、初めて出逢ったときの姿の再現だった。
今も俺の懐にしまわれているはずの
白く濁った三角錐を象った3センチほどの土器と思われる置物が、
懐かしい声色もそのままの俺が持つデバイスの姿があったのである。

(続く)