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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第28話』


「それで、あたしにお鉢が回ってきたってわけか」
「まぁそうなるかな。
何か気付いたことってあるか?」
「・・・そうだな。
朝礼で見たあの男の立ち振る舞いは訓練された人間の動きだったぞ。
魔道師であるにしろそうでないにしろ、それは確かだ」

ヴィータはガラスの器に綺麗に盛り付けられた色とりどりの季節のフルーツと
半球型に盛り付けられた鮮やかな色をした数種類のアイス、
それからカラメルソースの代わりにチョコレートソースでコーティングされた黄金色に輝くプリンを、
手に持った少し長めのスプーンで遠慮することなく自分の口に運びながら俺の話に耳を傾けていた。
無論、話題は件の保健医、ゼスト・グランガイツのことである。
一通り話を聞き終えたヴィータは、
独断専行した俺の行動にちょっと眉根をよせて渋った顔をしてみせたものの、
パクリ、とアイスを頬張ると、少し頬を緩ませながら疑問に対して気付いたことを答えてくれた。

・・・うん、スムーズに話が進みそうで助かった。

温かい店内とは言えヴィータの目の前に置かれた、
翠屋のプリン・ア・ラモード・大盛りスペシャルを見ているとぶるり、と寒気が走る気もするが、
それでもスムーズに話を進めるための必要経費である。
俺も自分の前に置かれたホットアップルパイのさくさくとしたパイ生地を一口頬張ってから、
続きを喋ることにする。

「・・・軍人っぽいとか?」
「さすがにあれだけじゃ、むぐっ、そこまではわかんねー。
ただ・・・あたしやシグナム、つまりベルカの騎士の体裁きに近そうな印象は受けた」
「ふぇっ!?」

思わず変な声を漏らした俺をヴィータは怪訝そうな目で見つめていたが、
取り繕う態度をとることさえ出来そうになかった。
これはもう、あの保健医と、かのベルカ騎士をイコールで結んだ方が良いだろう。

・・・だが、あまりにも想像の範疇を超えた出来事だ。

何かしらかの物証が欲しいところではある、な。

「ヴィータは魔力探知とか出来ないか?」
「出来るぜ。
っていういか、フェイトのときもやったじゃねーか。
ただ、相手が魔力行使をしていれば気付かれずに、ということも出来るだろうけど、
相手が魔道師であることを隠していれば、
逆にこちらが気付かれるリスクを負わねーとさすがにムリだ。
もちろん、逆も言えるからな。
あたしたちが魔力行使をしていたら、ソイツが魔力探査をしているならバレると思っていいだろうな」

むぅ、そう都合良くはいかないか。
PT事件で時の庭園を突き止めたときのように、さくっといければ楽なんだが・・・、
残念ながらこの先の展開を俺が知らない以上、そう簡単には行かないだろう。
それに、向こうが何処までこちらの情報を掴んでいるか分からない以上、
必要以上のリスクは背負いたくはない。

・・・闇の書に目をつけているのか、PT事件に目をつけているのか、そこも分からないことだし、な。

ゼストがいると言うことは恐らくバックはヒゲのおっさんなわけで、
F計画絡みである可能性だってあるはずだ。
いや、第一線の研究者であるプレシアさんが生きている以上、その可能性は低いか?
戦闘機人は・・・関係ないだろうし。

「それじゃあ、下手に手を出すわけにもいかないか」
「何だか知らねーけど随分弱気だな?
あたしにフェイトになのは、これだけ戦力がいれば、
それこそ管理局のトップレベル魔道師相手でもねー限り問題にならねーぞ」
「恐らく、そのトップレベル魔道師だよ相手は」

パクリ、とスプーンを口にしたまま、ヴィータの動きが俺の発言に呼応して停止した。
真剣な表情でこちらをじっと見つめているが、
口元にべったりとこびり付いたチョコレートソースがありとあらゆる真面目な雰囲気を破壊している。

・・・ダメだ、気になってしょうがない。

俺は未だじっとこちらを見つめ続けているヴィータから視線を外すと、
テーブル備え付けの紙ナプキンを摘んでヴィータの口元を優しく拭ってやる。

「よし、きれいになった」
「おい、アニキ?
・・・いや、あたしがわりーんだろうけど、そういう場の空気を読まない真似はやめよーぜ」

俺が一点の曇りもない可愛い顔立ちに戻ったヴィータをじろじろと見つめてそんな感想を述べると、
彼女はぶすっとした顔で俺をじろり、と睨み付けてきた。
だがさすがに少しは恥ずかしかったらしく、微妙に頬を赤く染めているのがまた、
うん、からかいたくなる気分にさせてくれる。

「すまんすまん、どうにも気になってな。
ヴィータみたいに可愛い子はどんな時でも、可愛くしていてもらいたいもんなんだよ」
「っ!?
・・・な、何いってんだ、アニキ」

ぷい、と俺から首ごと顔を背けて明後日の方を向いてしまったヴィータは、
何でか知らないがこちらを注視していたなのはママこと桃子さんと視線がぶつかってしまったらしい。
慌てた様子でヴィータは再びこちらに顔を向けると、
冬に入ったこの季節、消費もされなければあまり氷も溶ける様子のないお冷をがぶがぶと飲んで、
一緒に口に含んだ氷をがりがりと齧っている。

・・・と言うか、桃子さんは何でめちゃくちゃ笑っていますか。

お客さんの手前、手を口元に添えて誤魔化しているつもりでしょうが、バレバレですよ。
いや、まぁ、こんなに可愛いいきものを前に、微笑ましい気分になるのは理解できますけど。

「と、取りあえず真面目な話をするにゃー、この場所はむかねぇ。
さっさと移動するぞ!?」
「それはかまわんが・・・」

ヴィータのやけっぱちになったのかのような、叫びともつかぬ言葉に俺は首を傾げながらも頷いた。
自分の既に空になった皿をちらりと見てから、
向かい合う位置にあるまだアイスの山1個と幾分かのフルーツが残った皿を眺める。
ヴィータが残すなんて珍しいな、と思いつつも、
これでも重要案件を相談しているつもりではあったのでそこは彼女の提案に素直に従うことにした。
だが、俺のそんな想像は杞憂だったようである。
俺が伝票に手を伸ばすと同時に、
ヴィータは凄まじい勢いでスプーンを動かして残ったデザートをたいらげる。

「・・・うぎっ!?」
「大丈夫か?」
「問題ねー」

さすがに勢い良く食べすぎたせいで頭にキンと来たのか、
ヴィータは少し顔をしかめてうめき声を漏らすが、
そんなものに屈した様子も見せず椅子から降りると手提鞄を抱えて言い放つ。
それを見て俺も負けじと自分のコーヒーの残りを一気に呷ってみる。
・・・まだ思ったよりも熱かった。

「ぃひくか」
「・・・アニキ、舌火傷しただろ」
「・・・ぅん」

はぁ、とため息を吐いて先行するヴィータに付き従う従者のように、
俺はのろのろとレジへと向かって歩いていったのである。
・・・まだ痛い。





「でだ、さっきの話の続きだが」
「わぁーってる。
その前にこっちから良いか?」

適当に公園のベンチに陣取ると、
俺は道すがらに購入したホットミルクティーをヴィータに差し出しながら話の続きを促した。
だが、彼女はこちらに手を伸ばして、ぴたり、
と俺の口を押さえてから自分の話を先に聞いてくれとばかりに切り出した。
俺がこくり、と肯定の意を示して首を縦に振ると、
ヴィータは俺から『あたたか〜い』な缶を両手で受け取りながら話し始めた。

「聞きたいのは一つだけだ。
アニキは保健医にあたしが勝てねーと思っている。
そうだな?」
「・・・む」

ヴィータの強い口調の言葉に少し怯んでしまうが、それでもそれだけは言わなければいかないだろう。
俺は意を決して、口を開く。

「ああ、ヴィータじゃあの保健医・・・管理局のエース魔道師であるゼスト・グランガイツには勝てないな。
それだけは確かだ」
「・・・言っとくがあたしはまだフェイトやなのは相手でも本気出してねーぞ」
「そうみたいだな。
確かにヴィータがカートリッジを使っているのを俺も見たことがないよ」

ヴィータはたびたびなのはやフェイトと模擬戦をしている。
俺もそれを見学はしているものの、ヴィータがカートリッジを使うのを見たことが無い。
それだけAAAランクに近いフェイトやなのはを相手にしていてもレベルの差があるのだろうが、
それでもゼストと比べてしまうと見劣りするだろう。
アニメでヴィータを墜としたのは彼なのだから、俺の想像は限りなく正しいはずだ。

「それでも俺の見立てだとゼストの方がレベルが上だ。
相性の問題もある。
ヴィータはフェイトみたいなスピードかく乱型の敵は実は苦手だろう?」
「・・・うっ!?」
「何て言っても獲物が獲物だからな。
ヴィータの体格でアイゼンで物理攻撃することを考えたら、それは当然なんだ。
速く動き回ることが出来る個人が相手だと、それだけで相性は最悪だ。
そしてヴィータの指摘通り、あの男がベルカ式の優秀な魔道師、
『騎士』だとしたらその時点で確実にヴィータが不利なんだよ」
「それだけじゃ何とも言えねーだろ。
確かにあたしのデバイスに搭載されているモードは対軍装備が多いけどよ、
そこを覆すためにカートリッジシステムがあるんだぞ。
だから・・・」
「確かに、俺の不安が的を外して一対一でゼストを倒せる可能性だって十分にあるかもしれない。
だけど、わざわざこんな場所までやって来た敵が一人なはずがないんだ。
例えば後2〜3人もエース級が来ていたら俺たちに勝ち目はない」

自分の分の缶のプルタブを開けながら、俺は首を振ってヴィータの意見に反対した。
正直な話、ヴィータは恐らくゼスト相手には勝てないだろうが、
それ以上に大きな問題は相手の組織だった動きなのだ。
俺の言葉には彼女も返す言葉が見つからなかったのか、しかめ面をして黙ってしまったが、
一口紅茶を口に含んでから思い出したように口を開く。

「いや、そんなことはねーだろ。
管理局の人材不足は相当なもんだ。
あたしの知っている時代でも一つの艦にエース級が数人乗るなんてことは、
規定でわざわざ禁止されていたんだ。
アニキの懸念通りの実力をソイツが持っているんならなおさらだ。
連れてきていて準エース格のAA〜AAAランクが数人ってとこだろ。
それだったら、フェイトやなのはだって十分に闘えるはずだぜ」
「・・・・うん、そう、かな」

ヴィータの意見について考えてみる。
原作通りのゼストであるならば敵はおそらく、いわゆるゼスト隊だろう。
勇者王チックなマーシャルアーツの使い手や、
地震を起こすはた迷惑な魔獣を召喚する召喚士がいるのであれば・・・うーん、やっぱきついだろ。

「いや、やっぱりダメだろ。
向こうが小隊編成で来ているとしても、こっちはそれよりも数が少ないんだ。
兵法の基本は兵数で勝ること。
特に未知の敵に対してだとなおさらだ」
「こっちの戦力と言うと・・・あたしとフェイト、なのはに・・・それから一応アニキか」
「いや、ぶっちゃけると俺は戦力にいれないでくれ」
「・・・はぁ」

空戦の出来ない俺に何を期待するのか、といった感じである。
それでも無印やA’sのように野良魔道師相手であれば手を打つことも出来るだろうが・・・、
本職の軍人さん相手じゃあぬこ姉妹のときのように、抵抗するのでさえ難しそうだ。
俺の至極全うな言葉にため息で答えてくれたヴィータは、
しばらくうろん気な瞳でこちらを見つめていたが、
確かに直接的な戦力として俺を加えることはあまり意味がないというのは理解しているのだろう。
改めて今後の対応を考えているようである。
それにしても、こうやって話していると問題点が確実に浮かび上がってくるな。

・・・つまりは戦闘可能人員の絶対的な不足だ。

フェイトやなのはを本格的な戦闘に巻き込むのはなるべく避けたいし、
空戦の才能がないはやてなんて以ての外だ。
こうなるとアルフがミッドに行ってしまったのは痛いが・・・、今さらそんなことを嘆いても始まらない。
どうにかぬこ姉妹でも連れてこれないかを考えてみるべきか?
ぬこ師匠はSランク近いだろうし。

「・・・まぁ、しばらくは相手の動きに着目しつつも、こちらからは手はだせねーってことだな。
下手にやぶを刺激してわざわざハチを出すのは下策だ」
「そうなる、そうなるんだが・・・。
だがなぁ、ジリ貧なんだよなぁ」
「そうでもねーぞ」

特に妙案が思いつかず、ため息をついてしまう俺に対して、
ヴィータは飲み干した空き缶をゴミ箱に投げ捨てながら呟いた。
俺も彼女を見習って投げ込んでみるが、・・・外しました。

「はやてが闇の書を完全解放出来れば話は別だぜ。
暴走の心配がないならば、そもそも管理局の干渉を受ける謂れはないだろうし、
それでも突っかかってくるなら、あたしたちヴォルケンリッターが叩き潰してやるからな」
「・・・そっか」

立ち上がって転がる空き缶を改めてゴミ箱に入れながらも、
俺は両手をぽん、と叩いて思わず納得してしまう。
確かにヴィータ一人ではまずゼスト隊全員を相手にすることは不可能だろうが、
ヴォルケンリッター対ゼスト隊、となれば話は別だ。
そこにはやて、フェイト、なのはの3人娘とくれば・・・まぁ、艦隊でも攻めてこないかぎりはアンパイだ。

「じゃあ、そうだな。
はやてへの修行を急ピッチで進めるのが一番の解決への近道だな。
それから一応グレアムさんには連絡をどうにかしてとっておきたいってあたりが、今取れる対策かな。
・・・確かにはやては頑張ってくれているからな。
今月中にはもう何とかなりそうな気がするよ」
「・・・それからアニキは特訓やり直しだぞ。
せめて一般魔道師ぐれーは相手に出来るようになってくれねぇとダメだかんな」
「・・・うへぇ」

俺はヴィータのにひひ、といった嫌な笑顔にげんなりとした顔を返しながら、
今の俺が出来ることは何だろう、と考えるのであった。

・・・最悪、バイオテロ再び?

ミッド人にだけ罹患するウィルスでも開発してみようかなぁ・・・、
でも、なのはともうそういうことはしないって約束したし・・・。
いや、対象が限られているからテロじゃないって言い訳をすれば?
そもそも魔力結合も物理的なシナプスのやり取りを起点としていることは、
既に解析して分かっているんだ。
そこをブロックする部位に感染する細菌で、敵の魔力だけ削いでやれば・・・もしかして完璧?
待て待て、フェイトにも感染しちゃうからそれはダメだ。

・・・では、どうしようか。

可能性としては・・・やっぱりアンチマギリングフィールドか。
おそらく原作で格上のはずのゼストがチンクに負けてしまうのは、
初見だったAMFのせいというのが大きいのだろう。
俺も魔力リンク切断系のフィールド魔法でも開発してみるのが良いのかなぁ・・・。
セイの魔術式ならミッドやベルカの魔法で展開を阻害されないだろうし。

「おし、アニキ!
とりあえず今から特訓だ!
走って帰るぞ、負けた方がアイスおごり!!」
「・・・それはヴィータがアイス食べたいだけだろう、こんちきしょう」

そこで俺の思考は打ち切られ、勝敗の分かりきった勝負へと巻き込まれてしまうのであった。
もちろん、アイスをおごらされたのは言うまでもない。





「じゃあ、今日は俺の講義の番かな」
「よろしくおねがいしまーす」

夕食も済ませて、お風呂にも入った。
後はもう寝るだけ・・・というわけでもなく。
俺とはやては夕食を片付けたテーブルにいくつかの教材を置いて、
本日の魔法修行を始めることにした。
湯上りたまご肌なはやての手には手製のテキストが抱えられている。
フェイトやヴィータの時は俺やなのはなんかが聞いていることもあるが、今は他に傍聴者はいない。
俺の場合は魔法体系が大きく異なるため、
既に完成した魔道師に聞かせては混乱させてしまう話だからだ。
フェイトなんかは好奇心が旺盛なのか聞きたいオーラを発することもあるが、
俺の一存で最近はあまり関わらせないようにしていたりする。
何と言っても俺の十八番は生命操作だ。
フェイトにとってはあまり踏み込んでもらいたくはない分野であることだし。
さて、と俺は一つ息を吐いてから授業を始めた。

「・・・以前にやったことを簡単に復習するぞ。
俺の、と言うよりセイの魔法はミッドやベルカといった魔法と、基本は一緒だ。
擬似的な自身の魔力核としてリンカーコアを設定し、その制御により魔力を精製する。
さらに精神的なエネルギー波である魔力を定型の現象と化すために
いくつかの儀式や魔法陣、呪文なんかで定めて対応している。
問題は、この方法が大きく異なることだな」
「えぇっと、ヴィータやフェイトの魔法はコンピューター制御のような二進法でやっていて、
だから、デバイスに組み込まれた演算機で補助が出来るんやよね?」
「そう、なのはのレイジングハートのように祈祷型のデバイスとなると、
むしろ術者の方が演算という意味では補助の役目になるぐらい、計算機制御の役割が大きい」

俺ははやての説明に頷き、より分かりやすくなればと思って補足説明をつけながら続ける。
すると、彼女ははーい、と手を上げて質問を挟んできた。
まるっきり学校の授業のノリだが、まぁ別に問題があるわけでもないのでこのままでいこうと思う。

「えーと、質問。
呪文をむにゃむにゃと唱えても魔法は使えるやん。
演算機に頼る理由は?」
「それは組織として使用するためと、学問として魔法を成り立たせるためだ。
他にも予備魔力蓄積とか安全装置だとか記憶装置としてだとか・・・まぁ、
多機能なのが必ずしも良いことだとは思えないけどな。
とにかく、基本は『魔法は技術』というミッド文明の考え方に沿った形でデバイスは必須になる」
「・・・えっと。
どうして、デバイスを使うことが技術とイコールになるん?」

少し今日の講義の内容とはずれていってしまうが、はやての疑問も最もだ。
特に管理局と現在まで関わっていないので、『魔法は技術』というところがピンとこないのだろう。

・・・アースラにでも乗ってれば話は早かったんだろうけど。

あれは分かりやすいほど分かりやすい。
と言うかあんなもん運用しておいて質量兵器はNGとか理屈が良く分からん気がするが、
それこそ今考えることではないため割愛する。

「安定的に運用されなければ、エネルギーは技術として認められないからだ。
例えば、100の力を持つAランク魔道師と10の力を持つDランク魔道師が
射撃魔法『シュートバレット』の魔法を撃つと仮定する。
全く同じ呪文を唱えて魔法を使うと、10倍もある力量差に応じた威力となってしまう。
そのため同じ魔法とは言えないほどの差が出てしまうことになるが、
デバイスを通して魔法を発動することでほぼ同じ威力に調整しているんだ。
Aランク魔道師の魔弾は弱く、Dランク魔道師の魔弾は強めに設定されてだ。
つまり、デバイスを使用することで非常にブレの大きい個体差というランダム要素を排除して、
組織での集団運用を可能にしているんだ」
「えっと、魔法なんて強ければ強い方がいいんとちがう?
わざわざ弱くするんなんて・・・」

はやてが俺の説明に首を傾げながら自論を展開するが、
まぁ独立愚連隊に近い形で単独行動を主とする部隊ならばともかく、
10人以上の単位でまとまって行動するのであれば平均値と標準偏差はかなり重要になるだろう。

「そうでもない。
例えば20のダメージを与えることの出来る
Cランク魔道師の『シュートバレット』3発が作戦に必要だとする。
ところが、配備されている魔道師は30のダメージを与えることが出来るBランクが1人、
10のダメージを与えることの出来るDランクが2人だ。
さて、この場合はどう命令を出すべきだと思う?」
「なるほど、確かに計算がめんどくさいな」

何と無く指を折って数字を確かめていたはやてだったが、計算が合わないことに気がついたのだろう。
しかめ面をしながら、ぼやく様な口調でそう呟いた。

「ああ、逆に高ランク魔道師が強い魔法が使いたければ、
登録されているもっと強力な別の魔法を使えば良いんだ。
例えば60のダメージを与えることが出来る『ヴァリアブルバレット』のような強力な魔法を、
この作戦では一発だけ使った方が良いかもしれない」
「まぁそうなるな。
同じ魔法で使う人によって威力が違うなんていうより、
威力の異なる魔法が使いたければ魔法の名前自体を変えてしまう方が確かに便利やな。
それで、もう一つの学問っていうのは?」

納得してくれたようなので次の話題に移るはやてにほっと胸をなで下ろしながら話を続ける。
・・・何しろ、俺は別に管理局の人間じゃあないから想像でしか話を進められないし。
とは言え、全く的外れなことを言ってはいないつもりだからあまり気にはしていないが。

「そっちはもっと単純だ。
学問として成り立たせるためには再現性が必要になる。
個人によって結果が違うなんて状況じゃ、魔法は再現性が取れていると言えるわけがない。
例えばはやてに魔法を教えるにしても『ヒーリング』の魔法で
どこまで治せるのかを教えられないようじゃ困るだろう?
擦り傷は治せるのか、捻挫は治せるのか、打撲は、骨折は・・・
それぞれ術者の力量によって異なりますじゃあ、教えるのだって一苦労だ。
教わる方だって、術者の才能で効果は違うなんて説明じゃ混乱するだろ?」
「なるほど・・・確かにそうやな。
普通は1+1=2だけど、この人が使った場合は1+1=3になる、じゃあ困るわ」
「とは言っても、個人差が完全に無視できるわけじゃないんだけどな。
発動時間に多少の強弱なんて当然のようにあるわけだ」

結局のところ、個性を完全に無くすのは不可能に近い。
そんな中でも例えば管理局が局員に同じストレージデバイスを与えるのも、
平均値のバラツキを小さくする工夫なのだろう。
・・・そんな平均値集団の中で個別のデバイスを使う奴がいわゆる単独行動組、
エースなんて呼ばれる連中と言う訳だ。

「脱線はそのぐらいにして、それじゃあ話を戻すぞ。
セイの魔法はミッド式が確立されるよりもかなり古い魔法なんで、
もちろん二進法でプログラムコードが書かれているわけじゃあない。
ぶっちゃけて回答を言ってしまえば、
生命操作に特化という特徴に合わせて三進法でプログラミングされた魔法を使っているんだ。
正確に言えば塩基対であるACGTの四文字で構成される。
そのため、ヒトゲノム情報やSNPランダム塩基などの理解があれば、
対応箇所を容易に判断することが可能となる。
例えばブースト魔法を掛けたいと思ったら、
ヒトのリンカーコアを強化するための情報配列がゲノム上のどの位置にあるのかを把握し、
その位置にポジティブフィードバックを誘導させるような配列を組む必要がある」
「・・・えっと、よー分からん。
でも、それって三進法じゃない気がするで?」
「まぁな。
便宜的にそう言っているだけだ。
とにかく、感覚的には塩基文字の組み合わせによるコドン表を作るような翻訳工程があって、
魔法が構築されることになる。
はやても闇の書の最終的なデバッグに入る際には、
セイが治した箇所をチェックするために少なくてもコドン表を読める必要があるからな。
しっかり理解しておく必要があるぞ」
「・・・せんせぃ、ムリです」

額に一筋の汗を流しながら、きっぱりと言うはやて。
確かに小学生には荷が重いだろう。
が、だからと言って甘やかしていられる状況ではなくなりつつある以上、
最低限はこなしてもらわなければ困るのだ。
ここは心を鬼にして、はやてに頑張ってもらうべきだろう。

「ムリでもやるしかないぞ。
無論翻訳魔法はつけてやるから、翻訳機を通して理解できる範囲で構わない。
ちなみに現在の闇の書のデバッグ状況を確認してみたんだが」
「ああっ、それは気になるな。
何処までセイちゃんは頑張っているん?」
「ああ、もう大分進んでいる。
どうやら既に失われた情報が多すぎるわりに、
新しいバグ情報については破壊されるたびに前回の構成まで再生してくれる素敵仕様らしくてな。
時間軸を遡って正規の情報を手に入れて、修正箇所にマーキングしていっているらしい。
重要箇所の訂正は管理者権限が必要だから、
一部のマーキング箇所の修正ははやてが直接することになるそうだ」
「うーん、出来るかなぁ・・・。
何か、説明を聞くたびに自信がなくなってきたで」
「とりあえず守護騎士プログラム、マスターへの物理フィードバックシステム、
蒐集行為、その辺りのタスクについては修正プログラムを導入済みらしい。
はやてが闇の書に魔力を流して、最初の封印を解除すると同時に、
簡単なプログラムの書き換えをすれば段階的に使えるようになるそうだ」

つまりはシグナムやシャマルといった守護騎士を起こすのは今の段階でも出来なくはない、
ということだ。
とは言え、
それをやってしまうと数日以内に闇の書をどうにか出来ないといけなくなる時限爆弾仕様であるため、
まだ時期尚早だということらしい。
・・・どちらにしろ、もうあと一息だ。

「それから本丸だが、管制プログラムとガン化した再構成・再生プログラムについては取りあえず、
セイががちがちに封印かましているみたいだから、
はやてが完全に闇の書を解放しなければ
例え封印に手間が掛かったとしても暴走する心配はないそうだ」
「よっしゃ、なんだか先が見えてきたな!?
・・・で、いいん?」
「ああ、セイのコドン言語を翻訳機を通して読めるようにして、
それから闇の書の防衛プログラムに対抗するための魔力を得て・・・
そうだな、今年の終わりまでには何とかなるんじゃないか?」
「じゃあ、目標、今年の年末までには終わらせるで!!
えい、えい、おーっ!!!」

ざっくりとした、かなり大雑把な説明を終えると、はやてが気合を入れなおすためだろう。
片手を思いっきり振り上げながら、大きな声で掛け声を上げた。
俺はきっとはやてならば、もう少し時間を掛けてやれれば余裕を持って対応できたはずなんだがな、
そんな風に考えて、少し早足になってしまう修行日程を申し訳なく思いながらも、
はやてに俺たちの魔法体系の詳細を教えるためにテキストを開くのだった。



「そうだ、はやて!」
「何や?」

気合を入れなおして授業を開始してから早くも1時間ほどが経過していた。
俺は大事なことを思い出したとばかりに、ついつい声を張り出してはやてに声を上げる。
突然の叫び声にちょっとビックリした様子のはやてが目を白黒とさせながら、こちらを見ているが、
それどころではないので気にすることもなく話を続ける。

「はやては改訂版、とでも言うべき新しい闇の書の初めてのマスターになるんだ
だから、闇の書、なんていう悪の大ボスみたいな名称はこの際止めてさ。
生まれ変わった闇の書にピッタリな、はやてらしい名前を考えておいてあげるといいんじゃないかな」
「そうなん?」
「ああ、そうだと思うよ」
「・・・ん〜?
うん、そうやな、わたしもそう思う。
でもな、どんな名前がええんやろうな〜?」

俺の提案を首を捻って考えたはやては、新しい名前の件は賛成してくれるらしい。
どんな名前が良いのだろうと、うんうん、と頭を悩ませる彼女にくすり、と笑みを零す。
未だ見ぬ、祝福の名を与えられた主従が一刻も早く出会えることを祈って、
俺ははやてへの授業を進めるのだった。

(続く)