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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第27話』


はやてと別れた俺は後れた分を取り戻そうと少し急ぐはめにはなったが、
それでも予定時刻とそう変わらない時間に学校までたどり着くことが出来た。
警備の人間に挨拶してから誰もいない職員室へと入ると、
早速自分のノートPCを、保管している棚から引っ張り出してスイッチを入れる。
ピプー、とやる気のあまり感じられない起動音を鳴らしたノートを放っておいて、
インスタントコーヒーを淹れるために一度デスクから離れた。

「・・・よっ」

浄水器を通して流れる水をヤカンに少しだけ入れて、備え付きのコンロのつまみを回す。

「火が点かない?
ああ、そうか」

つまみを回してもコンロがうんともすんとも言わない理由に見当がついた俺は、
ガスの元栓をのぞいてみる。
・・・やっぱりか。
元栓を開けてから再度コンロに火を灯そうと試みると案の定上手くいった。
火の強さを調整してから、立ち上がりの様子を見にデスクまで戻っていく。
立ったまま屈みこんでキーボードまで腕を伸ばし、IDとパスワードを打ち込んでログイン作業をした。
続けて職員室備え付けのLANプリンタを待機モードから通常モードに移行させる。

「さて、新任の先生が来るまでに準備を終わらせないとな」

俺は一度背伸びをしてから気合を入れなおし、
起動したPCに向き直るために椅子を引き出すのだった。



ずずず。
一通りの書類の印刷処理を終えた俺はバインダーにプリントをまとめながら、
最後に残った冷めかけのコーヒーを飲み干した。
取りあえず準備を終えることが出来たので、ほっと息をつく。

・・・全く、週末の帰り際に何故に週明けの一番に必要な仕事を頼むかな。

ちょっとした愚痴を心の中でこぼす。
だが、そんな恨み節以上にソワソワとした自分の気持ちを殺しきれずに、
コーヒーカップを流しに戻しながら壁に掛かった時計に視線を送る。

「もうそろそろ来る頃か」

思わず無人の職員室の真中で独り言を呟いてしまってから、苦笑を漏らす。
どうやら緊張しているらしい。
それは恐らく、初めて迎える後輩が今から来るから、というわけではなく・・・。

「この時期に脈絡もなく、唐突にやってくるヤツなんて色々な意味で怪しすぎるんだよな・・・」

ジャーっと水道の蛇口をひねって水を流す。
カップを洗いながら、そんな不安が言葉になって口から漏れた。
魔道師の関係者だろうか、
時空管理局の人間なんじゃないだろうか、
それとも全く別の『何か』だろうか。
とにかく、そんな可能性なんてほとんど無いはずなのに、
何の違和感もなく受け入れられた嫌な不安が浮かんでは消える。

「・・・どちらしろ、もうすぐはっきりと分かる」

カップをことん、と水切り場に置く。
どうせこんな不安は杞憂に終わる、
きっと今から来る人物は全く以って極普通の一般人で、
学校だと言うことも考えないエロ妖艶な格好でムチムチな感じのお姉様先生か、
保健室を訪れるとコーヒーをご馳走してくれる、ほんわかとした雰囲気のお姉さん先生か、
年の割りには小さすぎる身体の割りに、すごい知識力を持ったロリっ娘先生か、

・・・まぁ、エロゲだとそんな感じだろう。。

いや、まぁ、そのあたりが本当に来られても困りものかもしれない。

「・・・ん?」

洗い物を終えた俺が立ったままそんな妄想にふけっていると、職員室の扉の磨りガラスに影が写った。

・・・でかい。

恐らく新任教師をここまで案内してきたはずの教頭は、
そんなに大きな体型ではなかったから・・・あの影が噂の新しい保健医なのだろう。
っていうか、男である可能性を失念していたな。
保健医というイメージと、前任の存在から勝手に女だと思い込んでいたようだ。

「それじゃあ、入ってくれ」
「失礼します」

がらがら、と扉を開けた教頭の後ろに立っていた彼よりも二周りは大柄な男性が、
のそり、そんな音が似合う感じでゆっくりと入ってきた。

「・・・は?」

近づく二人、正確には新任の保健医と思われる男性が近づいてくるのを見つめながら、
俺は思わず呆けた感じの声を漏らす。

それは男というにはあまりにも大きすぎた。
(身長が)大きく、
(胸板が)ぶ厚く、
(がっしりとして)重く、
そして(存在感が)大雑把すぎた。
それはまさに巨漢だった。

「・・・すごく、大きいです」
「はぁ?」
「・・・」
「いえ、何でもありませんですよ〜」

ぷるぷる、と首を振って疑問符を浮かべる教頭と大男の意識を今の俺の発言から逸らす。
改めて男を眺める。
身長は・・・190cm近いのではないだろうか。
俺自身もそれなりに大きい方だと思っていたが、それでも思わず見上げてしまいそうになる。
そして、特注のようなサイズのグレイのスーツにぱっつんぱっつんに覆われたがっしりとした体躯は、
まるで何かのスポーツ選手のようだ。
・・・プロレスラー?
軽く見積もっただけで肩幅は俺の二倍近くあるのではないだろうか。
うわ、素ですげぇ。

「・・・で、だね・・・というわけで・・・」

教頭が何か喋っているが、呆然としていた俺はその言葉を全く聞いていなかった。
その男を見上げると、精悍で凛々しい表情を浮かべている。
まるっきり余計な贅肉がついていないせいか、顔つきはすごくシャープであるが、
造形そのものは男前と表現して差し支えないだろう。
ぼさぼさの黒髪のせいで分かりにくいが、
鋭い眼差しと、きりりとした眉は彼に厳つい印象を与えている。
つまりは、その大男はまるでハリウッド映画に出てくるようなアクションスターのようだった。
あれ?
そこまで考えてようやく気付く。
もしかして、外人さんだろうか。
そのことを思いつくと、なるほど、と思える。

「聞いているのかね?」
「・・・えっ!?
あ、す、すいませんっ!
つい・・・」
「まぁ分からないでもないから良いよ」

彼を見ながら呆然自失としていた俺がようやく尋ねられたことに気付いてペコペコと頭を下げるのを、
教頭が苦笑を漏らしながら見つめていた。
そりゃまぁ保健医が来ると聞いていたのに、
レスラーかハリウッドスターかといった大男が現れたのだ。
呆けもして当然というのは彼も理解できなくはないのだろう。
・・・いや、教頭自身も初見で呆けたのかもしれないけれど。

「えぇと、世話係・・・っていうほど大層なものでもないけど、
先生の指導役を任されていますので、困ったことがありましたら何でもご相談いただければ・・・」

とりあえず頭を下げて、挨拶をする。
するとその大男は俺に向けて手を差し出しながらも、流暢な日本語で話しかけてきてくれた。

「初めまして。
ゼスト・グランガイツと言います。
初めての教職ですので、何かとご教授を受けることも多いかと思います。
よろしくご指導ご鞭撻のほど、お願いします」
「あ、はい、ご丁寧に・・・」

差し出された手を握り返すと、もの凄くがっしりとした手だった。
例えるならば『てのひら』ではなくて『こぶし』って感じ。

・・・って、うん?

何か大事なことを聞き逃したような気が・・・。
えぇと、彼の名前はと。

「・・・ん?
グランガイツ先生。
ゼスト・グランガイツせんせ・・・あ?」

彼の名前を声に出してみて、さっと顔が青ざめる。
気付いた、気付いてしまった。
っていうか、知らない方が幸せだったよ、これ。

「・・・うそー」

思わずorzの格好で跪いてしまった俺の奇行を、
教頭とその新任教師・・・ゼストという名の巨漢が不思議そうに見つめていたが、
俺はぶっちゃけそれどころではなかった。

・・・助けて、チンク姉!?

そんな風に、俺に出来ることは何処かの世界にいるであろう、
俺に『姉』などとは呼ばれる筋合いもない何処かのロリっ娘姉さんに向けて、
届くはずの無い心の叫びを届かせるために祈ることに必死だったのだから。





結論から言うと、当然のことながら届きませんでした。
・・・いや、本当に来られたらそれは即ちどこぞのドクターに目を付けられるということで、
そっちの方が最大のピンチなんだろうけど。

「・・・はあ」

とりあえず、今日の授業を全て無事に終わらせることが出来た俺は、
職員室の自分のデスクに戻って途方に暮れていた。
今日一日をビクビクと脅える小動物のように過ごした自信がある。
多分、相当危ない人だったんじゃあなかろうか。

「ゼスト・グランガイツ・・・」

確か、オーバーSランクとか言う管理局の最強クラスの魔道師だった・・・と思う。
思う、となってしまうのには理由があって、
実はあんまり男を覚える気が無かったので、印象がおぼろげだったりするのだ。
似たような風貌だったとは思うし、名前も俺の記憶が正しければ一致している。

だが、待て。

もしかしたら似たような名前の普通の地球人なのかもしれない。
単純に考えれば唐突に管理局の中でもトップクラスの精鋭がいきなり先生としてやってくるわけがない、
・・・あああ、でもなぁ、そんな楽観がむしろありえねぇ・・・。

「先生?
どうしたんですか、体調が悪いんですか?」

思わず頭を抱えて机に突っ伏してしまった俺の後ろから声がかかる。
・・・おう、シット。
恥ずかしいところを見られてしまったぜ。

「あ、あははは、何でもないですよ〜」
「・・・はぁ。
あの、これ今日のクラス日誌を持ってきました」

思わず変な口調とアクセントでごまかしの言葉を掛けてみたが、
今日の日直だったアリサにはひどく不評だったようである。
他の先生の目もあるからか、敬語で喋っていたアリサの口元が
俺の奇妙奇天烈な反応にどう応えれば良いか分からないと、ちょっと引きつっていた。

「あ、ああ、ありがとう。
もう全部書き終わったのか」
「はい、今日はすずかが怪我した子を保健室に連れて行ったぐらいで、他には何もありませんでしたし」
「ほ、ほけんしつ・・・」
「先生?」

とりあえず先の発言は無かったことにして日誌を受け取った俺に、
アリサから今の俺には鬼門となる言葉が飛び出した。
思わず漏れてしまった脅えの篭った言葉にアリサが眉を顰める。
あああ、でもそれどころじゃない。
保健医と魔道師が繋がるのか、繋がらないのか、ああああ、もし同一人物だったらどうすれば・・・。
だってSランクだろ?
しかもあのゼストは確かフルドライブだか何だかでユニゾンヴィータでさえ圧倒する実力のはずだ。

・・・今の俺たちの戦力で倒せる相手じゃない。

って言うか、そもそもはやてたちには普通の女の子として生きてもらいたくて
ストーリーに余計なチャチャを入れたのに、結局彼女たちの手を借りてしまっては元も子もないだろう。
かと言って一人であのレベルの化物を倒せることが出来るかと言えば、そんな方法は・・・?

「・・・いっ。
・・・せいっ!
・・・せんせいっ!!!」
「うわあっ!!?」

突然の大声に意識をこちらの世界に何とか戻した俺は、
睫毛がばっちりと覗けるほどに近づいていたアリサのどアップに驚いて、
思わず後ろにひっくり返りそうになるほど仰け反った。
ガタン、と音を立てて椅子が軋む。

「むぅ」

アリサは話を聞いていなかった俺に立腹しているのか、
何なのか知らないが頬を膨らませて怒りの表情を見せている。

・・・いかん、必殺アリサパンチでも飛んできそうな雰囲気だ。

周囲の他の先生たちは、何とも微笑ましいものを見るような顔つきでこちらを見ているようで、
担任に対して隠そうともせずに怒りをあらわにするアリサを止めてくれそうもない。
薄情なヤツらめ。

「もおっ!
今日はホントにオカシイですよ!
朝のホームルームからずーーーーっとですっ!!」
「す、すまん」

両腕をこれでもかと広げて『ずっと』を表現するアリサが、ぷんすかと怒りながら俺に詰め寄ってきた。
何故俺は生徒にペコペコと頭を下げなければいけないのだろう。
ひどく真っ当な疑問が頭の中を掠めるが、今にも噛み付きそうな勢いでずずい、
と接近するアリサに対抗する術を持たない俺としてはもうどうしようもなかったりする。
攻撃色をしたオームと呂布と怒りモードのアリサには逆らってはいけない。

・・・このバーサクアリサならSランク魔道師にも対抗できるか?

などとアホなことを考えながらも、なおも続く彼女からのダメ出しに対してワビをいれ続けていたが、
ついポロリと本音を漏らしてしまう。

「いや、すまんすまん。
ちょっと新任の保健医のことが気になってな」
「・・・?」

やばい、と思ったがもう遅かった。
新任の保健医という単語を聞いたアリサは、カタチの良い眉を顰めて何かを考えているようである。

「ねぇ、先生。
もしかして今日一日それで悩んでたんですか?」
「・・・あ、ああ」
「はぁ〜」

ため息をつかれましたよっ!?
小学生にため息をつかれる教師って・・・地味にショックだよ。

「分かりました。
じゃあちょっと聞いてみましょう」
「へ?」
「ほら、先生早く!」

言うや否や、アリサは俺の腕をしっかりと握り、立ち上がるように促す。
そして俺は、彼女にずるずると引き摺られるようにして職員室を後にした。



「校長先生でも詳しいことは知らないなんて不思議ね」
「うぅむ、やっぱりそうなのか・・・」

校長室から出てきたアリサが、こくん、と首を傾けて至極最もな疑問を口にする。
これでまた一つ可能性が高まったと、俺は隠すことなくため息を漏らした。
校門や教室のある方向へは足を向けず俺の隣をちょこちょこと歩き続けるアリサは、
ふと思いついたかのようにこちらをじっと見つめる。

「・・・先生。
もしかして、この事って予想してたりする?」
「え、な、何でだ?」
「さっきの話を聞いても全然驚いてなかったもの。
だったら初めから知っていたか、もしくは見当がついていたんじゃないかなって」

器用に驚きのポーズらしきジェスチャーをしながら尋ねてくるアリサに、
俺は苦笑を返して誤魔化しておく。

・・・だが、俺は最初からそんな予感がしていたのだ。

新しい保健医、ゼスト・グランガイツという人物が
どういう経緯でこの学校に勤めることになったのかは恐らく誰にも分からないのではないかと。
そして、その事に対して疑問を持つ人はいないのではないか、という予感である。
とあるお偉いさんの紹介状を持ってきたと言うことと、
保健医としての力量は十分に持っていたと言う話を校長から聞くことが出来ただけでも収穫だろう。
少なくてもこれで普通に採用されたわけじゃないことが分かったのだから。

・・・と言うか下っ端教員と一学生にそんな内情をベラベラと喋って良いのだろうか。

俺のときでバニングス家が採用にも関わっているのは確かだし、
むしろアリサが一緒に居たから教えてくれたのかもしれんが。

「・・・こうなったら直接行くしかないのかしら」
「えぇ?」
「ほらだって、当たって砕けろ、って言うし」

アリサがシュッシュッ、とシャドウボクシングをしながらそんなビックリ宣言をする。
俺がイヤそうな顔を隠そうともせずにすると、彼女は情けなさそうにため息をついた。

「臨時朝会で見たときは確かに驚いたけど、
今日保健室に付き添いで行ったすずかは丁寧な印象を受けたって言ってたし、
そんな悪いようにはならないわよ。
と言うかそもそもの話しなんだけど、先生はどうしてそんなに新しい保健医さんを気にしてるのよ?」
「ぐぅ」

ひどく当然の疑問である。
ぐうの音も出ない、というか敢えて『ぐぅ』と言ってみた。
確かに保健医はごついプロレスラーのような風貌の外人兄ちゃんといった人物ではあるが、
所詮保健室の先生に過ぎないのだ。
それにこの小学校は生徒に外人が多いせいか、教員にも幾人か外国人教師が勤務している。
確かに多少は気になる容姿をしているとは言え、
普通であればそんなことで過剰に気にかける必要なんてないのである。
事実、俺も名前に聞き覚えがなければ今の段階でここまで心配になることもなかったはずだ。

「・・・それはなぁ、むぅ」
「それは?」

俺が話すべきか話さないべきか迷っていると、
アリサは歩きながらこちらに身を乗り出すように寄り添って来る。
わくわくとした好奇心を隠すこともなく続きを促す彼女に、本当のことを言うべきか。
言わざるべきか。

「誰にも秘密にしてくれるなら、話しても良い」
「??
なのはやすずかに、フェイトたちにも?」

結局俺は喋ることにした。
アリサが疑問符を顔中に浮かばせながらも頷いてくれたので、そのまま近くの空き教室へと入る。

・・・電波な人だと思われるにしろ、何だと思われるにしろ、あまり他人に聞かせたくはない話だからな。

喋ることで現在の状況を冷静に判断できるようになると思ったのも理由の一つだが、
きっと最大の理由はスケールが大きくなりそうな事態に、一人で挑むのがイヤだったのだろう。
アリサならば魔道師でないわけだから、
イザと言うときにはゼストとやらも見逃してくれるのではないか、という打算もある。

「ああ、場合によっては話すことにもなるだろうけどな。
・・・あの男は多分、はやてを狙う時空管理局の一味だ」
「・・・え?
じ、時空管理局?
時空管理局ってええと、確か、・・・その、おまわりさん?」
「まぁ単純に言ってしまえば、だけどな。
フェイトやヴィータからその辺りのことは簡単には聞いているだろう?」
「うん、一応。
・・・ええと、魔法使いの世界があって、そこの世界からフェイトは来たんだよね?」
「そうだな、フェイトは確かミッドチルダの出身だったか」

俺の言葉にこくんと頷くアリサを席に着くように促してから、俺自身は教卓、
すなわちいつもの定位置に立つ。

「でもあんまり自信ないかな、よく分かってないかも」
「そっか、じゃあ適当にまとめて話そうか。
そうそう、初めに言っておくと、俺も地球以外なんて行ったことないし、
全部聞きかじりの知識だから間違っているところもあると思う。
ま、それでもアリサよりは詳しいと思うからな、ちょっと我慢して聞いてくれ」

アリサがそう素直に言うからには本当にほとんど分からないのだろうと判断して、
基本から喋ることにした俺は一つ頷きを返してから、教室の黒板に2つの丸を描く。
1つには地球、1つにはミッドチルダと注釈をつけて、その間を遮るようにチョークで線を引く。

「2つの星の間にはこんな境界線があると思って欲しい。
だがこの線を飛び越えるためには今のところ、科学の力だけでは不可能らしい。
そこで魔道師たちは魔法と科学の力を組み合わせて、ラインを飛び越えることを可能にした」

ミッドチルダの横にロケットのような絵を描いて、矢印で地球までの道を作る。
ついでに離れた場所にいくつか線と丸を描いていく。

「他にもいくつもある世界へと、この魔道師たちの世界、ミッドチルダは進出を始めたんだ。
そして同時に数多に存在する世界を一元化して管理することで、
無秩序な侵略行為に歯止めをかけようとする警察組織が・・・時空管理局だ」

ミッドチルダの上に建物を描き、時空管理局、と注釈をつける。

「・・・?
でも先生、それがどうしてはやてと関係してくるの?」
「ああ、それはだな。
正確にははやてが狙われているわけじゃないんだ。
はやてが持っている魔道書が、彼らにとって封印したい忌まわしいアイテムだからだ。
現に過去何度かその本は暴走して、管理局に多大な被害を出しているらしい」

狙ったのかのようなベストタイミングで疑問の声を上げるアリサに種明かしをする。
地球側にはやてを意識した棒人間と一冊の本を書く。

「この本は俺たちでなんとか抑え込んで暴走しないように封印している。
はやてが修行しているのも、きちんとこの本を扱えるようになるためだ。
・・・・だけど相手はそんなことは知らないだろうからな」
「だったらそう言って帰ってもらえば?」
「ま、そうだな。
それもアリか」

アリサの何気ない、だが至極最もな発言についつい苦笑いを浮かべてしまう。
確かにそれがベストなんだが、彼らにもメンツというものがある。
自分たちがどうしようも出来ないものに対して、他の関係ない連中が何とかしますから帰って下さい、
そう言われたからといって素直に帰ってしまっては、管理局の存在意義が問われてしまうだろう。
つまりは、彼らが引くとしたら、はやてを身内にしたとき、か。

「でも先生、やっぱり分からないんだけど。
・・・どうして新しい保健医さんがその管理局の人だって分かるの?」
「それは・・・つまりだ・・・」

首を捻って、はーい、と手を上げて質問を述べるアリサに思わず詰まる。

『リリカルなのはStrikerSで見たんだよ!』

ここでそんな風に言えれば良いが、まぁ、それを言ってしまうと
ただでさえ管理局やら次元世界やらで複雑になった説明がさらにこんがらがってしまう。
俺はちょっとだけ考える仕草をした後、無難な答えを返すことにする。

「以前に管理局のデータベースをちらりと見ることが出来たんだが、
そのときに見た顔写真と名前に似ている気がするんだ」
「・・・ふぅん」

アリサは詰まらなさそうにそう呟くと、唇を尖らせながらも口を閉じる。
どうやらあっさりとウソだとバレたようだけど、取りあえず追求する気はないようだ。

「でも結局本物かどうかは分からないの?」
「ああ、それにもし本物だったらエライ化物だからな。
なるべく穏便に済ましたいんだ」
「化物って大げさね、先生」

俺の表現が面白かったのか、くすくすと笑うアリサを俺はしかめ面で見つめていた。
そんな俺の顔色に気付いたのか、アリサの笑い声がピタリ、と止まる。

「・・・本気なの?」
「すごく本気だったりするんだ、残念ながら」
「えぇと、でもさ、なのはやフェイト、ヴィータもすごく強いじゃない。
だったら・・・」
「正直、現役オーバーSランク魔道師と彼女たちの差はドーベルマンとチワワぐらいはありそうだ。
歯が立たないな」
「・・・むぅ、ドーベルマンも弱点はあるわよ?」

ちょっと話の流れはずれてしまったが、まぁ、実はアリサの発言は正しい側面もあったりする。
つまり、万能なヤツなんていうのは存在しないってことだ。

「その通り。
ドーベルマンにも弱点はあるんだから、敵の魔道師にも当然何処かに弱点はあるだろう。
・・・まぁ、どちらにしろ情報が足りんのだが」
「だったら!
こうしてる場合じゃないじゃないっ!
すぐに保健室に行って直接確かめないと!!」
「・・・あんまり刺激したくないんだけど」
「大丈夫!
あたしはドーベルマンの扱いも慣れているからっ!!」
「いや、それはものの例えであって・・・」

結局そこに行き着いたアリサの声に、俺はもう諦めたとばかりに頷くのであった。
確かに、踏み込まなければ見えないこともある、か。




「・・・それじゃあグランガイツ先生、失礼しました」
「お菓子ありがとうございました〜」

十数分後。
俺とアリサは保健室の外から中にいる白衣の大男に挨拶をして、ドアをピシャリと閉める。
その場で、2人、顔を見合わせてみる。
アイコンタクト。

どう思った?
わかんない。

何となく伝わった気がした。
取りあえずこの場所にいても仕方がないので、アリサを促して歩き始める。
稽古事があるらしく、家に帰らなければいけない彼女を校門まで送るために昇降口へと歩いていく。
出て行くときにもらった飴の袋を手の中で弄ってみるが、ただの飴だ。
それ以上でもそれ以下でもない。

「折角だから食べちゃお」

アリサはピリリ、と封を切ると苺の飴をぱくりと頬張る。
微かに俺の鼻腔まで甘ったるい苺のフレーバーの香りが届いたと思ったら、
ころころ、と口の中で彼女が飴を転がす音が響く。
瑞々しい頬がぷくり、と膨れるのはなんだか子供っぽく可愛らしい印象を与える。
俺はくすり、と笑みを零して手を首の後ろに組んだ。

「結局、よー分からなかったな」
「そぉね」
「改めて、アリサはどんな風に思った?」
「うーん、さすがに10分ぐらいで判断するのはグランガイツ先生に悪いけど、
・・・敢えて言うなら顔は怖いけど優しい人、かな」

ちょっとひどい、そう思いつつも確かにそんな雰囲気だった。
だから俺は素直に頷いてやる。

「・・・ああ、確かにそんな表現がしっくりくる」

さて、アイツは本物の『ゼスト』なのだろうか。
俺はまぁ8割がたそうなんだろうけど、違うかもしれないしなぁなどと悩むのであった。

(続く)