本文へジャンプ
main information Side Story link

魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第25話』


11月28日 AM6:00
海鳴市 桜台−

わたしは八神はやてといいます。
自分で言うのも何なんですが、
今年の春までは不幸の星の下に生まれた少女なんてのをやっていました。
とは言え、それも結構過去のお話だったりします。
ここ最近はごくごく平凡な小学3年生なつもりなんですけど・・・。
魔道師なんて目指している時点で普通じゃないかもしれませんが、
気分的には平凡な女の子のつもりです。

わたしは春先に起こったとある出来事をきっかけに魔法使いになることに決めました。
何もかもが不自由だったわたしが外に出るための文字通りの意味で『足』になってくれた、
それから魔法使いの世界なんていうビックリワールドを教えてくれたみんなとは、
今でも一緒に暮らしています。
ヴィータはわたしにべったりです。
わたしもヴィータにべったりなのでお相子ですけど。
フェイトはなのはちゃんとべったり、かな。
この前なんてなのはちゃんと2人で喫茶翠屋でウェイトレスやってたとか言うし。
それから兄ちゃんもいます。
いつの間にかわたしの担任になってしまいましたが、それ以後は至って平凡な人間を装っています。
きっと根は芸人です。
とにかく、そんなわたしたちは変わらず仲良く元気に・・・

『Zuvor sechs Hunderte Sekunden』

っとと。
そんなことを考えている余裕はなかったな。
あと、600秒やね。

ぎりぎりなんとかなるか・・・っ!?

わたしは改めて目の前にある一冊の本に向き直る。
それは思わず和んでしまいそうな可愛らしい文字で『算数』と表紙に書かれたノート。
今日の課題は・・・ヴィータとフェイトの2人がこのノートに施した封印を解くこと。
なんとこの試験が上手くいかなければ、
明日の授業で宿題が提出できないという罰ゲームつきである。
かなり難易度の高い課題や。
宿題なんてむしろやってなければ別にそれでも良かったのだが、
昨日そこそこ頑張って取り組んだだけに悔しさはひとしおだ。
わたしは残りの時間でなんとかその惨劇を回避しようと、
最近ようやくお喋りしてくれるようになった自分のデバイスを握り締める。
そして、真剣な眼差しで膝の上に置いたノートを見つめてから封印解除の術式を組んでいった。





この桜台という場所には木が茂った林の一角に、ぽっかりと空いた広場がある。
数脚の長いすとゴミ箱などが置いてあるこの開けた場所の、
隅のベンチに座っていた俺がちらりと反対側に目を向けると、
はやてが目を閉じて残りの時間で何とか封印を解除しようと本気を出し始めたところだった。
街から離れた高台にあるこの場所は周囲が高く伸びた木々に囲まれており、
この底冷えする冬の朝であっても風さえ吹かなければ、
ようやく昇りきった太陽が穏やかに周囲を照らす立地なせいかあまり寒さを感じなかった。
日ごろから整備されているらしい、背の揃った芝生・・・はあまり関係なく、
やはり折角あるのだからと、ベンチに何人かの女の子が座っている。
そのうちの一つには、先ほども言った通りはやてが座っている。
はたから見るとただ難しい顔でうんうん唸っているだけにしか見えないが、
彼女が両手に握り締めた鈍く光る黒い宝玉が時折カウントダウンをしている。
それに急き立てられるようにはやてが必死に、ノートの封印の解析と解読を進めているようだ。

俺の隣のベンチでは、2人の少女が座って姦しくもお喋りに興じていた。
一本の長めのマフラーを互いに共有しているが、
そのマフラーは彼女たちの首を温めてもなお十分に丈が余っているようである。
必然的にくっついた格好の2人・・・アリサとすずかちゃんは先ほどから熱心に何かを喋っていた。
時折聞こえる話から想像するに、
バリアジャケットについて自分だったらどんなデザインが良いかなんていうことがテーマらしい。
うん、そうだな。
きっとアリサは真っ白な衣装に赤い炎の紋様を象った動きやすい騎士服をモチーフにしたもの、
すずかちゃんは吸血鬼ちっくな黒い小悪魔風衣装に歯車を象った刺繍が似合う気がする。
・・・まぁ、下手に発言して変態扱いされたらたまった物ではない。
黙っていることにする。

さらに上空に視線を転じてみると、3つの影が浮かんでいた。
今日は休日だからか、
魔道師3人娘で久しぶりにかなり実戦に近い模擬戦としゃれ込んでいるわけである。
赤いゴスロリ騎士服を着込んだハンマーを持つ少女。
黒い死神を思わせる金色の鎌を構えた少女。
白い学校の制服に似たバリアジャケットを纏う杖を掲げる少女。

どうやら、これからガチバトルをするようで、
ひしひしとした緊張感が見上げているだけの俺にも伝わってきた。
ちなみに対戦カードはヴィータvsなのは・フェイト、である。
白い影、なのはが腕を大きく前方へと振るうと、
十前後の桃色の光弾が前後左右から微妙にタイミングをずらしながらヴィータへと迫る。
彼女は障壁を張ることもなく、
ぎりぎりのタイミングで見事に中空でステップを踏みながらなのはの魔法を避けた。
その間隙を縫うようにつっ込んできたフェイトが、
サイズモードにしたバルディッシュを大きく袈裟に刈る。
ヴィータはその一撃をアイゼンでがっちりと受け止めると、
すぐに寸頸の要領でフェイトを弾き飛ばすと同時に迫り来るなのはの誘導弾を紙一重でかわした。

「砕けっ!」

ヴィータを襲うために一箇所にまとまってしまったなのはの魔法を、
まとめて鉄球を打ち込んで誘爆させた彼女は、さらにフェイトに向けて牽制の一撃を放る。

・・・それにしても、冷静だな。

ヴィータはなのはやフェイトの執拗な攻撃にも無理をせず、一つずつ対応しているようだった。
以前は感情に任せて激昂することが多かったが、彼女も成長しているってことだろうか。
まぁ1対2で勢いに任せて突っ込んでたらたちまち不利になるのは当然だから、
当たり前っちゃあ当たり前のような気もするが。

「いけぇーっ!」
『Divine Buster』

離れた場所から見ていても目がちかちかするぐらいの光量だった。
なのはの十八番。
前衛をフェイトに任せられるからか、
しっかりと魔力を溜め込んだと思しき強大無比な威力の魔砲がヴィータを襲う。
それでも彼女は障壁を張ることを良しとせずに、大きく弧を描くように空を翔けて光線をかわした。

「もう一回っ!」
『Divne Buster』

なのははディバインバスターを撃った体勢のまま、
すぐさまヴィータの逃げた方向へと追撃をかけてきた。
さすがに連続では避けきれるわけもなく、
ついに彼女は障壁を開いて正面から魔砲を受け止めるはめになってしまう。
障壁はかなり頑丈なため、すぐに耐えられなくなるというものではないが。
・・・これはやばそうだな。

「敵はなのはだけじゃないよ」

ヴィータの動きが止まったと見るや、鉄球をとっくに始末していたフェイトが
上空から彼女のいる位置へと真っ逆さまに急降下してきた。
そのまますれ違い越しに正確な狙いで鎌を振るう。
辛うじてヴィータの全身障壁が一撃を耐え抜いたが、フェイトはすぐに転進し追い討ちを狙う。

「とどめっ!」
「なめんなぁーーーっ!」

ヴィータは障壁を解くと同時に桃色の光に全身を焼かれながらも、
気にすることも無く己に向かうフェイトへと自ら突っ込んでいく。

・・・痛そうだ、無茶するなぁ。

だがこの攻守逆転の意味は大きい。
突撃同士となれば獲物の差から言って、ハンマーと鎌とではどう見てもヴィータに分があるだろう。
何しろ彼女のデバイスは、どう見ても突破力を重視した形状なのだ。

「きゃああああっ!?」

案の定、まともに正面からぶつかった2人の対決はヴィータに軍配があがった。
だが、フェイトもアレで落とされたわけではない。
ヴィータはこの機を逃さずに一気に攻勢に出ようとしたが、
その動きが不自然なまでにガクリと止まってしまう。

「こっちも忘れてもらっちゃ・・・困るよっ!」
『Hoop Bind』
「く、くそっ!
馬鹿みてぇな数を用意しやっむぅっ!?」

下から見ているとヴィータの全身がどんどんバインドで動きを封じられていくのが見える。
左手は腰と結着するように封じられ、
右手は折り曲げた前腕と上腕でがちがちに固められ、
左目と口を覆うように顔までわざわざ束縛して、
胸郭は強調するかのような位置に二重にバインドされているが残念ながら全く膨らみは見えず、
ふくらはぎの位置から長いスカートごと彼女の両足の自由を奪う。
後、股部にもバインドがしっかりとエロちっくに。
ってやりすぎだよっ!?

「ちょっと可哀想だけど・・・これも勝負だしっ!
フェイトちゃん、やっちゃえ!!」

・・・恐るべし、白い悪魔。
とにかく、完全以上に完璧にバインドされたヴィータに向けて、フェイトがUターンして迫る。
彼女もどうしたものかと眉を顰めているが、なのはに逆らうつもりはないらしい。
ああ、こりゃ決まった。
そう俺が思った瞬間、

「があああああっ!!!」
「う、うそっ!?」

ヴィータがバインドを力任せに引きちぎった。
さすがに怒っているのか、今日一番といった感じの勢いでぐん、と一気にフェイトへと間合いを詰める。
だが、フェイトは今回はもう完全に終わったと思っていたらしく、
慌てて射線上に己のデバイスを掲げたもののまともにアイゼンの一撃を受けてしまう。

「フェ、フェイトちゃん?」

なのはが自分の目の前まであえなく吹き飛んできたフェイトを咄嗟に受け止めると同時に、
ヴィータが追い討ちとばかりに2人に向けて鉄球を穿つ。





俺はそんなほとんど本気バトルな3人の模擬戦を見つめながら、
教員になってしまった後のことを何と無く思い起こしていた。
そう、7月に俺は私立聖祥大学付属小学校で働き始めたのだが、
その後数週間もたたないうちに夏休みがやってくる、という時期だったのだ。
学期終了を見越した様々な事務作業があったのだが、
当然何も知らない俺は色々な先生たちに泣きついて仕事を進めたものである。

・・・通信簿とかどうしろっていうねん。

分からんって。
色々な意味で新鮮で、慌しく過ぎていく日々は、目を回すような忙しさであったことを覚えている。
とりあえず分かったことは、働くってことはとても大変なことであるってことだろうか。
そんな当たり前のことを学んだ俺は、
まるでこの地に根付いてしまったかのように普通の社会人になってしまったと思えた。


8月の中ごろにははやてのリハビリはほぼ終わり、
日常生活を送るぐらいならば、もう彼女にとっての問題はほとんど無くなった。
ちなみに車椅子はまだ八神家に残っている。
はやては大切な思い出が残っているから残しておきたいと言ってはいるが、
闇の書の問題を全て解決させた後には手放すように言おうと思う。
その後も週1、さらに後には月1と定期検査では問題は出ておらず、
少しずつはやてが病院へと向かう日は少なくなっていったのである。
ちなみにはやての身体能力は現在のところ、体育スキルではなのはと同レベルだったりする。
これは、なのはの運動音痴っぷりがヒドイのか、
はやての回復が著しいと考えるべきなのか・・・さて、どっちだろう。


夏休みの後半にアリサの別荘に招待されたなのはたちは、
アリサたちに魔法のことを告白することにしたそうだ。
個人的には特に隠す理由はないと思っていたので、俺も特に反対はしなかった。
ちなみに案の定と言うかなんと言うか、
アリサとすずかちゃんにはあまり魔法の才能は無かったようである。
とは言え、そのせいで友情が壊れるなんていうことは有るわけがない。
アリサは何時か魔法を使ってやろうとまだ諦めていないようだが、多分ムリだと思う。
そうそう、はやての魔法勉強を本格的に始めたのもその頃である。
フェイトによるリニス式魔法教室は大変勉強になったので、
俺まで生徒になっていたのはナイショである。


新学期になると、学生生活も大分慣れてきた俺たちは少しは生活に余裕が出るようになってきた。
早朝にこの場所に集まって、
みんなで魔法の練習をしたり勉強をしたりなんてことをするようになったのも9月の後半からだ。
アリサやすずかはほとんどすることもないだろうに、
わざわざ早起きしてつきあってくれているのはありがたい限りだ。
とは言え、結構犬を連れてくることの多いアリサは犬の散歩も兼ねているのかもしれないが。
それから何も予定の入っていない土日などは、
そのままこの場所でピクニック風に朝食を食べるのが定番になってしまっている。
ちなみにご飯は持ち回りである。
高町家は言うに及ばず、バニングス家や月村家もかなりレベルの高いお弁当を持ってくるので、
八神家の番が来るとはやてが張り切って対抗していたりする。
何はともあれ、ご飯が美味しいのはとても良いことです。


そして、街の空気が澄んで来始めたように感じる冬の入り口とも言える時期になった。
はやてはプレシアから貰ったデバイスを何とか起動できるようになって、
彼女の修行は第二段階に進んだのである。
そう、闇の書をデバッグするための修行である。
テキスト通りの解析はもうばっちりなはやてにとって、
フェイトとヴィータの本気封印が解除できるようであれば、もう彼女の修行は最終段階になるのだろう。
セイが進めている闇の書のバグ取りの最終的な取捨選択をするのは、
現マスターの役割なのである。
原作のようにかなり侵食の進んでいる管制プログラムを破棄するか、
あくまでも治療にこだわるかで難易度は大分変わってくるだろう。
・・・恐らく、考えるまでもなく難しい方を彼女は選ぶのだろう。


俺が長々と回想していると、不意に嬉しそうな声が響いた。

「終わったぁ!!」
『vollstandig』

声の聞こえた方へとふいに顔を向けると、
はやてがバンザイの格好で両腕を上げて背伸びをしていた。
嬉しそうに緩んだ頬と糸のように細まった瞳が安堵の雰囲気に満ちていた。
どうやら、見事ノートの解呪に成功したようである。
俺がお疲れさまなどと声をかけるよりも早く、今度は上空から何かが降りてくる気配がした。

「にゃー、あんまり大きいの撃てないのが辛いなぁ・・・」
「オメーの大きいの、ってのは本気で森が吹っ飛ぶから絶対ダメだ」
「そう考えるとなのはだけ大分ハンデがあるね」

ヨレヨレになったバリアジャケットは所々やぶけてはいるものの、
その下まではダメージは通らなかったようで、実戦派魔道師3人娘がにぎやかに地上に降り立った。
約1名ほど模擬戦ルールに不満のあるお方もいるようだが、
狙撃型というよりも殲滅型な己の素質を恨むが良い、としか言いようがないな。

「ああぁ、でもあそこまで本気になっちゃうと少し後悔・・・」
「ムキになって色々と飛ばしすぎたぜ。
やる前とやった後は普通に痛いの嫌なんだけどなぁ・・・」
「そ、そうかな?
わたしは結構楽しかったし、負けたままじゃ悔しいからまたやりたいけど・・・」

だが、その後に続く言葉を聞く限り真に危ないのは金髪なヒトな気もする。
ヴィータは闘っている最中は平気で血みどろやるくせに、一歩離れると実は平和主義だしな。
普段だと稽古や運動は趣味のように良くやる癖して、本気で組み手やろうとかはまず言わないし。
・・・まぁ、俺が何時まで経っても圧倒的に弱いせいもあるかもしれないが。

「バトルマニアだね、フェイトちゃん」
「バトルジャンキーめ」
「ううっ、ひどいよ、2人とも・・・」

2人にいぢめられているフェイトを微笑ましく見つめてから、
俺は辺りの様子に目をやりながらもそれなりにこなしていた自分の作業を止める。
・・・魔法修行ではなく、学校の仕事ってのが社会人の辛いところですが。

「みんなお疲れさん。
終わったんか!?」
「はやて〜♪
勝ったぞーっ!」
「おお、さすがやなヴィータ。
わたしも何とか課題の解呪は成功したで〜」
「やったーっ、はやて、はやて!
やっぱりはやてはすごいよ!」
「うん、確かにすごい。
この調子だともう教えられることってほとんどないね」
「あ、あはは・・・。
なのははもう抜かされちゃったかな・・・」

3人に近づいていったはやての言葉を聞いたヴィータがはやての腰に抱きつき、
素直に喜びの声をあげる。
フェイトもはやての成長を素直に驚いているようだし、
なのははまぁ、オマエも頑張れと言っておこう。
そんなことを思いながら、俺は電源を落としたノートPCを持参したバッグにしまう。

「こらーーっ!!
終わったんなら、こっちを手伝いなさーいっ!
まだまだ準備するものは残っているのよーっ!!」
「あはは、こっちは大丈夫だからゆっくり休んでいていいよ?」

すると都合の良いタイミングで、俺の仕事に邪魔にならないように離れていてくれたのだろう。
ちょっと離れた場所に陣取ったアリサとすずかちゃんの声が響く。
朝ごはんに用意していたお弁当を食べようと準備をしながら、
2人でまるっきり反対のことを言っている。
・・・ま、4人とも疲れているだろうし。

「よし、俺が手伝うから皆は休んでてくれ!
アリサ、それでいいかっ!?」
「えっ!?
・・・う、うん、いいけど・・・」
「うふふ、良かったねアリサちゃん」
「な、何がよっ!!」

しゃー、と威嚇の叫びを上げるアリサと、
きゃーきゃー言いながら逃げ惑うすずかちゃんを一瞥してから、
俺は彼女たちを手伝うために腰をあげた。

「今日はアリサが持ってきたんだっけ?」
「そ、そーよっ!
先生が好きなものも仕方ないからいっぱい入れてきてあげたわよっ!」
「・・・くすくす」

何故か含み笑いをこぼすすずかちゃんを不思議に思いながら、彼女たちのいるところまで走る。
以前は敬語で話していたはずのアリサだったが、
はやてたちが普通にタメ語を話すせいでクラス中の生徒が俺に敬語を使わなくなったりした。
そのせいか、いつの間にか彼女もクラスの風潮に習って砕けた言葉遣いをすることが多くなった。

「先生、こちらの卵焼きは最初に食べて下さいね?
そうじゃないと、犬の餌となった何十と・・・もがもが」
「な、何を言ってるのかなー、すずかは。
何でもないから、先生はき、気にしないでいいわ・・・よ?」

俺にバニングス家の料理人さんが手づから作ってくれたであろう、
色取り取りのサンドイッチが入ったランチパックとは別の、
すずかちゃんが手に持つ小さなお弁当箱へと視線を向けた。
そこには、ちょっと焦げた色がついた卵焼きが大事そうにしまってあった。
弁当箱を差し出しながら何だかんだと喋っていたすずかちゃんの口を勢いよく塞いだアリサが、
それでもちらちらと落ち着きなく卵焼きへと目線を動かす。
とても気にしているのは確かである。
・・・恐らくすずかちゃんの言葉から判断すると、ふむ、そういうことだろうか。

「・・・そっか。
じゃあそれを一番に頂こうかな。
アリサの手作りなんて嬉しいよ」
「な、ななななな、何言ってるのよっ!?」
「違うの?」
「ち、違わないけど」

ぎくしゃくとした感じで答えるアリサに、やっぱりそうだったか、ともう一度御礼を言う。
うん、同世代のはやてやなのはがかなり料理が出来るせいで触発されたのかな?
とりあえず食べたら褒めてあげようと心に決めておく。
それから、彼女たちを手伝って朝食の準備を始める。
一瞬、冷たい北風が吹いて身体がぶるりと震えた。

「さむっ!
こりゃ暖かいスープも持ってきて正解だったわ」
「そろそろ外で食べるのも限界ですね。
もう12月になりますし」
「・・・そうだな」

ぽつりと呟くすずかちゃんの言葉に相槌を打ちながら思い出す。
そう、もうすぐ12月がやってくる。
俺は本編で、いわゆるA’sが始まってしまうこの月に、
何かが起こるのではとそんな不安を覚えずにはいられない。
きっと、その不安は的中する。
俺はそんな漠然とした、けれども明確な確信という矛盾した感覚を抱きながらも、
何もすることが出来ない自分をもどかしく思うしかなかったのである。

(続く)