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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第22話』


早朝の街は、既に夏の兆しを見せていた。
まだ時間が早いからかきっちりと服を着込んでいても汗が滲むほどではないけれども、
空を見上げると今日は雲ひとつない快晴のようだ。
これからどんどん暑くなってくるだろう。

俺は相当の敷地を持つ私有地の入り口に立っていた。
隣に居るはやては俺と視線が合うと小さくガッツポーズをして励ましてくれる。
車椅子の後ろに立つヴィータは先にある大きな建物を見て嘆息を漏らしている。
逆側の隣には幾分か緊張した面持ちのフェイトがすーはー、と深呼吸を繰り返している。
ピカピカという形容詞が相応しい、初めて袖を通す新しい服に身を包んだ俺たちは、
自然と揃って門扉の横にある表札に視線を向けた。

・・・そこに込められた感情は各々大いに異なるだろうが。

その見つめた視線の先には、俺たちがこれから過ごすことになる場所を示す文字が書いてあった。


私立聖祥大学付属小学校


つまりは、なのはたちの通う小学校である。
お金持ちも多く通うエスカレーター式の小学校であるせいか、
俺が昔通っていた小学校とは比べ物にならないぐらい綺麗なものである。
視線を左右に動かすと、同じ通りのはるか遠くに同じような門扉が見える。
中学校やら何やらも隣接しているということだろう。

「よし、行くかっ」

気合を入れる意味を込めて声を上げると同時に、
ついつい無意識の内に首をしめつけるネクタイを片手でぐいっ、と引っ張り緩ませてしまう。
・・・っていきなりダメじゃん。
むむ、鏡がないとネクタイも直せないダメダメな俺になんという試練か。

「兄さん、ネクタイ直さないと」

すかさず気付いたフェイトが俺の前に立って、
腕を伸ばしてネクタイをちょいちょいと小器用に直してくれる。
そのまま、彼女は上半身から下半身まで俺の全身にじぃ、と視線を向ける。

「・・・うん、大丈夫だよ兄さん」

ちょいちょい、といつの間にかついた小さなゴミを指先で摘まみながらフェイトが太鼓判を押してくれた。
何とも似合わないことに、俺は着慣れないグレーのスーツを身に着けていたりする。
・・・白衣が俺のフォーマルスタイルじゃダメか、
とかなり本気で尋ねてみたら、案の定却下をくらったのも今は良き思い出です。

「・・・やっぱり、あたしは行かなくてもいいだろ?」

俺がフェイトチェックにより身だしなみを整えている間に、
だんだんと気持ちが萎えていったらしいヴィータがヘタレたことを言い出した。
彼女は白を基調にしたワンピースタイプの服の裾を両手でつまみながら、
眉を下げつつも不満げな口調でそんなことを言ってくる。
俺は彼女の格好を一通り眺めてみるが、似合っていないわけではない。
むしろ、新鮮で良いと思うな。

「ここまで来て今さら文句言うな、ヴィータも納得してくれただろ?」
「いや、だってさぁ・・・」

なおも口の中でもごもごと愚痴りながら、
今度は胸元の赤いリボンを指先で弄り始めたヴィータにフェイトがはらはらとした視線を向ける。
リボンの形が崩れやしないかと気が気でないのだろう。

「ほら、ここまで来てしまった以上後には引けんって。
それともヴィータは敵に背を向けるのか?」
「そもそも敵じゃねーし。
・・・何が悲しくてあたしが小学生をやらなくちゃいけねーんだ」

もう一度スカートの裾を摘まんで自らの格好を見下ろしながら、ヴィータが憮然と呟く。
そう、ヴィータ、それからはやてとフェイトもおそろいの聖祥の制服を着ているのである。
ヴィータは小学校に通うということが不満らしく、いつまでもグチグチと文句を言ってはいるが、
フェイトとはやてだけ小学校に通わせてヴィータがずっと家に居たりしたら確実に怪しいからなぁ。
ご近所の噂を独り占めしてしまうこと間違いなしだ。

「ま、きっと楽しいこともあるから我慢してくれよ。
はやてもフェイトも、それからなのはも一緒なんだしな」
「わぁーってる。
何時までも文句言っててもしょーがねーかんな。
一度決めた約束を破る気はねー」

俺がヴィータへの説得というかグチを聞いてやっただけというか、
そんなことをしていると、はやてが車椅子から慎重に立ち上がった。
今まで一言も喋っていなかったことからも、実は結構緊張しているのだろう。
当然だ。
学校教育に復帰する、というのは子供にはかなりのプレッシャーだろう。
それでも愚痴一つ零さずに頑張ろうとする姿勢は凄いと思う。
ヴィータもはやてが頑張っているのが分かっているから色々言いながらも最後は折れてくれるのだ。
はやてを守ってやるには、クラスメイトになるのが一番手っ取り早いのは確かだしな。

「兄ちゃん、ちょい腕借りるで」
「うわっと?」

そんなことを考えていた俺にはやてが抱え込むように俺の右腕に組み付いてきた。
突如右腕にかかった重さに俺が少しふらつくと、はやてがくすりとした笑みを零す。

「お、良く耐えたなぁ。
さすが兄ちゃんや」
「危ないからそういうことは止めなさい」
「はーい。
くすくす、何や兄ちゃん先生みたいやな」

こんなことで少しは緊張が解れてくれたのか、
声を上げて笑ってくれたはやての言葉に俺は肩をすくめて答える。

「みたいじゃなくて、先生らしいからな」
「そやったな」

俺の言葉にくすりと笑って返事をしながら、
彼女は俺に寄りかかっていた身体を重力がかかる方向へとゆっくりと起こしていく。
まだ俺の右手をしっかりと握りしめていたが、
それでも、はやてはしっかりと自分の2本の足で立ち上がった。

「よっし、何とか車椅子無しでもいけそうやな。
この学校色々行き届いているから移動は楽やろうし」
「おいおい、まだ無しは早いだろうに。
ムリはするなよ?」
「見てて?」

俺に一声を掛けてきたはやてはそのまま俺の腕から手を離して、
自分の足だけで一歩、二歩と前に進んで行きそのまま校門を潜る。

「な?
大丈夫やろ?」
「はやてには叶わないな、全く」
「・・・それにしても夢みたいな展開やな」

はやてが自分のところへと駆け寄るヴィータとフェイトを見つめながら呟いた。
それは俺も思っている。
まさか、はやてとフェイト、それからヴィータが同じ学校に通うことになって、
その上、俺がこの学校の先生になってしまうなんてな。
冗談としても悪質だ。
が、何の因果か、それが真実だって言うから人生は複雑怪奇である。

「ヴィータ、フェイト。
はやてのことを頼んだぞ?」
「とーぜんだろ?」
「うん、頑張る」

はやてを真中に三人で手を握り合った少女たちを微笑ましく見つめながら、
俺も校門を潜ろうとはやてが置いていった車椅子を押しながら歩き始める。
そう、この日が訪れることが決まった、約2週間ほど前の日を思い出しながら。





俺の厚かましい願いを聞いたアリサちゃんがあれよあれよと言う間に色々と手配してくれたため、
その日のうちに採用試験を受けることになった俺は、もう少しの間バニングス家に留まることになった。
どうやらバニングス家が後見となってくれるということで、
ファンタジーな俺の経歴は不詳でも構わないらしい。
いきなりで何も準備さえ出来なかった試験と面接を終えて、
へとへとに疲れた俺を出迎えてくれたアリサちゃんはこう言ってのけた。

「おめでとうございます。
ちょうど枠もあったし人柄と知識も大丈夫そうだから、教師として雇って下さるそうです」
「そっか、色々ありがとうな。
何だかすごい世話になったみたいだ」
「私の御礼なんだから気にしなくていいですよ。
それに紹介はしましたけど、合格したのはあくまで御自身の実力ですよ」

そう言って上品に微笑んでくれるアリサちゃんだが、
普通経歴不詳でその上戸籍もない人間を雇ったりしてくれるところはない。
教育現場なんてもっての他だろう。
それが即決で採用だなんて、どんな裏技だよ、と苦笑を浮かべるしかない。

「・・・信じてませんね。
本当に実力ですよ、先生?」
「いや、そこで信じられるほど自信過剰じゃないつもりだしな。
・・・って、先生?」
「ええ、今度からあたしの担任になるんですから、先生です」

何故かえっへん、と胸を張って答えるアリサちゃん。
うん、完全にコネ採用だコレ。
公立だったらえらいことだが、私立だから・・・やっぱマズイ気がするな!?

「なんだかゴメンな。
すっごい無茶を言った」
「むぅ。
だから、本当に先生の実力なんですってば。
そりゃ身元保証はウチでしましたけど、それ以外は何も言ってませんよ。
あたしだって事務方かあるいは専門があるようでしたので専門教科担当かな、
とぐらいしか思ってませんでしたし」
「そうなの?」
「嘘なんて言いません」

腕を組んで俺にこくこくと肯く彼女は嘘を言っている風には見えなかった。
・・・ま、どんな裏があったにせよ、
どちらにしろ下手すりゃ子供の一生を左右することになる責任重大な仕事には違いない。
やることになった以上、必死にこなすしかないってところかな。
俺は考えても結論の出ないことは考えないことにして、そう折り合いをつけておくことにする。

「・・・あの、もしかしてご迷惑でしたか?」
「へ?」

俺がしばらく黙っていたからか、アリサちゃんは不安そうな色を瞳に浮かべておずおずと尋ねてくる。
突然のことに何だか分からずにちょっと惚けた返事をした俺を見て、
しゅん、と彼女は肩を落ち込ませてしまった。

「そんなことはないって。
むしろ上手い話過ぎて疑っちゃってゴメンな。
アリサちゃんのご期待に応えられるかは分からないけど、精一杯頑張るからよろしくね」
「は、はいっ!」

事実迷惑などとは思っていなかったのだから素直にフォローをいれると、彼女の顔がぱあっ、と輝く。
こくこく、と肯いてからにっこりと笑顔を浮かべたアリサちゃんを見ていると、
小学校の担任などという滅茶苦茶しんどそうな仕事も何とかなりそうな気がしてくるのだから、
我ながら現金なものだろう。

「・・・先生、かぁ」
「アリサちゃん?」

ぽつり、と漏らした彼女の言葉に俺が反応を返すと、
彼女はあうあう、と言った感じに慌てた様子で矢継ぎ早に言葉を続けた。

「そ、そうです、『ちゃん』はいらないですっ。
アリサって呼んでください、皆そう呼びますしっ!」
「いや、担任になるならバニングスって呼んだ方が」
「アリサでお願いしますっ!」
「はい」

きっぱりとした口調のアリサちゃん・・・もとい、アリサに言い切られて思わず頷いてしまった。
俺よえぇ。

「そ、それから今日はウチに泊まっていって下さい!
もう夕飯の支度してもらってますし、お医者さんも呼びましたから診察も受けないといけませんっ。
先生のお部屋も用意させましたし、ベッドも、あ、こっちはあたしがベッドメイキングしたんですよっ!
何だか先生に懐いている子・・・、
あ、飼っている犬なんですけど、その子の相手してあげてくださいっ!
後で連れてきますから、えへへ、とっても頭の良い子なんですよ。
父も帰ってきたら一度挨拶したいって言ってますし、
・・・えと、それで、そうそう、フェイトたちも聖祥に通うんですよね!
その手続きも一緒にやった方が・・・っ」

勢いに任せて呼吸する隙もないぐらいにがんがんとマシンガントークを乱射するアリサに対して、
場に流されるままについ、こくこくと頷きを返す。
そして、俺は何かを忘れているな、と解消出来ないもやもやを感じたまま、
凄まじい勢いでバニングス家での一日を過ごしたのであった。





「3日や」
「3日だな」
「3日だね」

俺は異口同音に発せられた彼女たちの言葉を、針の筵に座らされた気分で聞いていた。
アリサに見送られて3日ぶりに八神家に帰ってきた俺であったが、
そこで待っていたのはどうにも機嫌の悪い3人娘の姿である。
ソレも仕方ない、何しろ昨日目を覚ましたくせに連絡もいれなかったのだし。
バニングス家の使用人が連絡をいれてくれていたのが不幸中の幸いだったが、
それは言い訳にならないだろう。

「面目次第もございません」

深々と頭を下げてみるが、顔をあげてみると相変わらず3人の白い目が待ち構えていた。
さすがにこれだけで許してもらえるとは思ってなかったけど、
うう、もうちょっとお手柔らかにしてほしいもんだ。

「昨日はどうして帰ってこなかったんや、兄ちゃん本人からは連絡も無かったしな」
「・・・ごめんなさい」

はやての言葉を聞いて素直にペコリと頭を下げる。
とりあえず誠意を示すことを第一に考えて言い訳はしないでおく。

「一応話は聞いてるから、アニキが何で無茶したかは知ってる。
だけどだらしねーぞ。
敵に負けて無様に2日も寝てるなんてありえねー。
っていうかな、どうしてあたしたちを呼ばなかったんだよ」
「いや、俺一人でも敵には勝ったんですよ?
でも・・・」
「兄さん、言い訳は止めた方がいいよ。
ヴィータ、すっごい心配してたんだから」
「し、してねぇ!?
勝手なこと言うんじゃねぇ、フェイト!」
「ええっ、わたしが怒られるのっ?」

即効言い訳に走ってしまった自分のダメっぷりを情けなく思ったりもしたが、
ヴィータの矛先がフェイトに移ったため、ほっと一息吐く。
フェイトはまさか自分が責められるとは思ってなかったらしく、
慌てた様子でヴィータからの叱責に驚きの声を上げている。

「・・・とにかく説明はしてもらうで」
「ああ、もちろん」

状況がカオスになってきたからか、はやてがピシャリと場を仕切る。
俺はどちらにしろ自分の口から説明するつもりだったから、
異存があるわけもなく3日前に何があったのかを彼女たちに教えることにした。



「・・・兄ちゃんらしいなぁ」
「・・・情けねぇ」
「・・・頭は大丈夫?」

俺から3日前の事件の顛末を聞いた3人の感想はまぁそんなもんだった。
はやては苦笑を浮かべ、ヴィータは眉をしかませ、フェイトは心配そうにしている。
・・・フェイトさん?
何だか別の意味に聞こえなくもないですが、怪我的な意味で良いんですよね?

「あたしからは一つだけだ。
確かに時間との勝負だったんだろうが、
アニキはそこで無茶をして一人で突っ走る必要はあったのか?
多少時間が掛かっても確実な手を打つべきだったんじゃねえか?
場合によっては逆にアイツを危険にさらしてたかもしれねーし、
はやてを悲しませる結果になってたらどうするつもりだったんだ」

ヴィータが静かな口調で俺に問い詰めるかのように言葉を重ねた。
普段は感情に任せた言い方をすることが多い彼女が淡々と喋っているからこそ、
ヴィータの本気が伝わってくる。
だから俺も繕うことなんてせずに、正直な気持ちを話すべきだろう。

「・・・多分待機しているのが正解だったと思う。
念話の類は俺は使えないから選択肢に無かったんだけど、
近くで電話を探して110番したり、ヴィータたちと何とか連絡を取るのが正しかったのは間違いないよ。
でも俺はあの時の自分の判断を後悔してないし、
無茶をしてでも突撃するのが正しかったと今でも信じているよ。
むしろもっと早く動くべきだったと思ってる」
「・・・くそっ」

ヴィータは俺の話を聞くと、目を逸らして唇を噛み締めていた。
それからがしがしと両手で自分の髪を掻き毟りながら、唸るように荒げた声で叫ぶ。

「ああ、もうっ!
わぁーったよ、確かにそんな場面だったことは分かったよ!
だけど、あたしは・・・っ」
「そうだね、わたしも心配したし正論だけじゃ納得出来ないよね」
「フェイト?」

フェイトがヴィータの後に続くように口を開いた。
彼女は俺の方を真剣な瞳で見つめて、それからふっと息を吐いて続けた。

「罰として兄さんは通信の魔法を絶対に使えるようにすること。
わたしとヴィータと、もちろんはやてにも何時でもすぐに連絡がつけられるようにしないと許さないよ」
「・・・りょーかい。
結構才能的に厳しいけど、そう言われちゃ頑張るしかないな。
本当にゴメンな、心配ばっかりかけて」
「ううん、兄さん、アリサを助けてくれてありがとう」

フェイトがペコリと俺に向かって頭を下げてくれるのを見て、
取りあえず彼女は矛を収めてくれたようだとほっと胸をなで下ろす。
そんなフェイトと俺の様子を見たヴィータは、
はぁ、と一回大きく息を吐いて冷静さを取り戻したようである。
自分の乱れた髪を手櫛でなんとか整えようとしながら、俺から視線を外したまま呟く。

「次はねーぞ。
絶対あたしに相談してから行動すること。
分かったか?」
「ああ、ヴィータを頼りにしているのは本当なんだ。
ただこんな荒事はもう経験したくないんだけどな」

俺の言葉にヴィータは一つ満足気に頷くと、しょうがねぇなぁ、と言った顔を俺に見せてくれた。
それだけ彼女に心配を掛けさせていたという事実にちょっと気が重くなったが、
今は話の続きを聞かせるのが先だろう。
はやてはまだ黙って顔を俯かせたまま、俺の話の続きを待っているようだし。

「それで2日間も寝込んだあげく昨日起きたんだけど、
色々混乱もしてたし、医者を呼んでもらって検査を受けさせてもらったりと忙しくてな。
もう一日だけ養生させてもらったんだ、ごめんな、心配させて」
「状況は良く分かったで」

俺が昨日までの状況説明を終えると、ようやくはやてが顔を上げた。
彼女はにっこりと満面の笑顔を浮かべたまま続ける。

「じゃあこれが埋まるまで『ごめんなさい』な」

そう言って俺に一冊の何処にでも売っている平凡な大学ノートを差し出してくれた。
取りあえず受け取ってみる。
ペラペラとページを捲ってみると、いたって普通のノートである。
無論中身は真っ白。

「・・・え?」

何かに気付いた俺が咄嗟に顔を上げると、はやての顔が目の前にあった。
顔は笑顔の表情を浮かべているが、・・・目は笑っていない。

「文句ある?」
「・・・ないです」



「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

あれから何時間が経っただろうか。
俺は1人居間のテーブルに陣取り、ノートにひたすら『ごめんなさい』と埋める作業を繰り返していた。
この部屋には今は俺の姿しかない。
ただ、俺がペンを動かし紙をこするシュシュと言う音だけが響いている現状に耐えられずに、
言葉に出して謝ってみたが、いや、これはなかなかツライものがある。
うん、段々思考も染まってきたような気がして、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ・・・

「に、兄さんっ!
大丈夫ですかっ!?」

俺のテンションがヤバイ方向へと走り始めた頃、様子を見に来てくれたのだろう。
フェイトが素っ頓狂な叫びを上げて、慌てた感じで俺に走り寄ってくる。
ああ、動揺させてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・

「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「も、もう十分に反省伝わりますから、兄さん、帰ってきてくださいっ!」

フェイトが俺の手元のノートを覗き込んでから、
引きつった口元を隠すことさえせずにがくがくと俺の身体を揺する。
ああ、文字の線が崩れてしまった、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・

「うわぁ、ダメだぁ!?」
「・・・ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

フェイトが頭を抱えて見てはいけないようなモノを見てしまった視線でこちらを見つめているから、
俺はさらに謝らなくてはという気分に堕ちていってしまう。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・

「どや、兄ちゃん反省したかー?」
「は、はやてっ、ヴィータも!
兄さんちょっと壊れてるよっ!?」
「・・・へ?」

壊れててごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・
ああ、もう何も考えられなくごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・

「あかん、やらせ過ぎた」
「はやて、どうしよう?」
「こういう単純な罰の方が色々な意味でキツイって聞いてたんやけど、
正直ここまで効くとは思わんかった。
・・・どうしよぅ」
「こういうときの対処は昔っから一つだぜ。
すなわちっ!」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・

「叩けば治るっ!!」


ぼかぁああっ!!


「オヤシロ様っ!?」

意味不明なことを叫ぶ俺の目の奥で火花が散った。
あうあうと鳴くシュークリーム好きの神様を幻視したと思ったが、
どうやらそれは俺の気のせいのようだ。
すぐにその姿は消えてしまい、それからぼんやりと目の焦点があってくる。
それと同時に視界に映ったノート一杯に『ごめんなさい』とか書いてあってまじ引いた。

「な、何だこりゃ!?」
「お、正気に戻った、すごいでヴィータ」
「こんなもんだぜ」
「に、兄さん、この指何本に見える?」
「・・・2本?」
「ほっ、大丈夫みたい」

何故かずきずきと痛む後頭部を押さえながら顔を上げると、きゃいきゃいとはしゃぐはやてとヴィータ、
それから俺にブイサインしているフェイトの姿が見えた。
取りあえずフェイトの質問に無難に答えてから、同時にティンと来た頭が大事なことを思い出した。
・・・怒られるのもほどほどにしてそろそろ先に進まないとダメだな。
何しろ、準備期間は2週間ほどしかないんだから。

「はやて、ヴィータ、フェイト、話がある。
・・・まずはこれを見てくれ」

そう言って俺は今まですっかり忘れ去られていたが、
バニングス家から一緒に持ち帰ってきた紙袋から3着の上等な布地で作られた服を取り出した。
突然の話の切換えの上、突然服だけ渡されても何が起こったのか分からないらしく、
首を捻る3人に俺は告げた。

「再来週から3人とも私立聖祥大学付属小学校の生徒だから。
ちなみになのはと同じクラスらしい」

「「「・・・へ?」」」

それぞれの制服を受け取り、まじまじと眺めていた彼女たちの言葉が止まる。
1秒、
2秒、
3秒、

「「「えええええーーーーーっ!!」」」

そして悲鳴が見事なまでに唱和した。
フェイトは嬉しそうに。
はやては複雑そうに。
ヴィータは嫌そうに。

「そっか、なのはと一緒なんだ♪」
「まだ足も勉強も十分やないんやけどなぁ・・・」
「っていうか、あたしは小学生って年じゃねえ!?」

それでもあっさりと納得してくれたはやてとフェイトの感想をかき消すようにヴィータの怒声が響く。
まぁ見た目はここにいる誰よりも小学生なヴィータではあるが、実際のところはそうではない。
だが、これはもう既に決定事項である。

「はやて、ヴィータにも小学校一緒に行ってもらいたいよな?」
「そりゃもちろん一緒の方がええな」
「ううう・・・はやてぇ・・・後生だぜぇ」
「とヴィータが納得してくれたところで」
「してねぇっ!?」

ヴィータの叫びは無視して俺は話を続ける。
書類面ではクリアしている以上、世間体のためにもはやてのフォローのためにも
ヴィータが結局首を縦に振らざるをえないのは承知の上だし。

「俺がはやてたちの担任になるからヨロシク」


「「「えええええーーーーーーっ!!!」」」


再び八神家の居間に驚愕の叫びが満たされた。
そして、その日から色々な準備に追われる日々が続き、そして本日、
ついに俺たちの初登校の日を迎えたのだった。
冒頭に戻れ!

(続く)