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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第17話』


「・・・さて、出て行くタイミングを逸してしまったか」

俺は台所で、そろそろ生鮮品を手に入れるのが難しくなってきた苺を
形の良いものと悪いものとにより分けながら、すぐ隣の居間へと視線を向ける。
普段は作ったりしないケーキを作っている姿を皆に見せたくはなかった俺は、
揚げ物を料理する際に使う台所区切り用のカーテンを引いて、
休日の昼下がりをオトメちっくに一人、お菓子作りをして過ごしていたのだが・・・。
ついつい料理に夢中になっている間に、お客さんが来たらしい。
余熱が完了したオーブンに寝かし終えたタルト生地を突っ込み、
ひと段落ついた俺は、にわかに騒がしくなったリビングへと改めて顔を向けた。
・・・向こうが透けて見えてくるなんてことはないが、姦しい声はひっきりなしに聞こえてくる。
八神家の居住人口は二ヶ月前に比べて4倍になったのだが、
はやてもフェイトも騒がしく喋るタイプではないし、
ヴィータも俺以外が相手だと必要以上に声を張り上げたりはしない。
普段は静かなものなのだが・・・やはり客・・・なのはでも遊びに来たのだろう。
俺はそう結論を下すと、再びボウルの中のイチゴへと視線を戻した。
今日は普段頑張っているはやてたちのためのご褒美のつもりだ。
普段は面倒くさがって敬遠していることもやってやりたいと思う。

「・・・ま、翠屋のを買ってきた方が確実に美味しいんだけどな」

そう一人ごちて苦笑する。
未知の敵に対して何もしてやれることがない自分が、情けないのかもしれない。
そんな自己分析をしてしまうことがそもそも女々しい。
俺はグレアムさんからの忠告とも取れるこの前の会話を思い出しながら、
軽くため息を吐いて作業に集中し直した。

「わたしの言うことは正しい。
わたしのなすこともただ・・・って、こんな台詞言えないよぉ〜」
「ダメよ、なのはっ!
こういうのはなりきって遊ばないと面白くないものっ!?
さぁ、もう一度挑戦よっ!!」
「にゃ〜、えぇっと、
わ、わたしが天下に背こうとも、天下の人間が、わたしに背くことは許さん
・・・こ、これで良い?」
「ふふふ、なのはちゃん、頑張ったね」

・・・?
台詞はかなりぶっそうだが、まぁそれはそれとして、
小さな鍋にゼラチンを落とし膨潤させるために水を加えていた俺の耳に、
なのは以外の見知らぬ声色が二つほど聞こえてきた。
初めて聞く声だよな?
俺は疑問に思いながらも、リビングの方へと耳をそばだてて話の続きを聞こうと試みる。

「・・・あはは、でもなのはちゃんが言うと何や、妙に説得力がある気がするなぁ」
「うん、なのはのイメージにあってるかも」
「えと、はやてちゃん、フェイトちゃん、それって褒めてないよね?
・・・わたし、そんなイメージなのかなぁ」
「そうじゃないわよ?
だけど・・・ねぇ、すずか?」
「ふふふ、そうだね、アリサちゃん。
私も乱世の奸雄って言葉、何となく、なのはちゃんにあってると思う」
「・・・わたし、女の子」

聞こうと思うと、割とはっきりと声が聞こえるものらしい。
・・・まぁ、距離的にはすぐソコだし当然だ。
とにかく、どうやら本日八神家にいらしたお客様はなのは以下、
月村すずかとアリサ・バニングスの3名らしい。
なのはが遊びに来るようになった以上、遅かれ早かれだったかもしれないが、
現在リビングに小学生女子(相当)が6人か・・・。
うん、無茶苦茶出て行き辛いシチュエーションだ。

「なのは様、出兵の準備が整いました。
・・・ってなんであたしがコイツの部下なんだっ!?」
「コイツって言ったっ!
ヴィータちゃん、ひどいよ〜」
「う、うっせー」
「さて、こっちの準備はどうや?
水軍はばっちりか?」
「任せなさいっ!
一分の隙も見当たらないわっ!」
「さて、フェイトちゃん、こちらの兵の配置は、ああして・・・こうして・・・」
「う、うん・・・、じゃあわたしはこの位置で・・・」

・・・というか一体何をしているんだろう?
兵がどうとか軍がどうとか聞こえるから、軍隊モノのゲームでもやっているのだろうか?
そう考えると確かにその通りに聞こえてくるもので、
どうやら3チームに別れて戦うゲームのようだと思い当たる。
どちらにしろ、女の子が集まってやるゲームでもないような気もするんだが・・・。
俺はオーブンの中身を確認して機械の設定を変更してから、
今度は先ほど分けておいた形の良くないイチゴを使ってピューレを作り始める。
ミキサーを動かすと、さすがに隣の声は聞こえなくなってしまう。

「・・・よっと」

ヴィンヴィンとそこそこ大きな音がするブレンダーのスイッチを切り、
いくつかの隠し味と褐変防止にレモン汁を加えて2分ほど待ってから再起動。

「クリームチーズとそれから・・・生クリームも泡立てないとな」

最終的な焼きあがりを確認してからタルトを手早く冷ますためにオーブンを開けつつ、
口の中でぶつぶつと呟いて工程を確認する。
確認した工程を手早く一つずつこなして、タルトに流し込むクリームを作っていく。
ゆるくしたクリームチーズに苺ピューレ、溶かしたゼラチンを入れたボウルを手早くかき混ぜる。
さらに生クリームも加えてやってから、タルトのへこんだ部分に流し込んでいく。
・・・あとは冷蔵庫で冷やすだけ。





一通りの作業を終えた俺がリビングへの聞き耳を再開する頃には、
ゲームは大分先へと進んでいたようである。
大河を挟み、向かい合った軍隊同士による大決戦が行われようとしていた。

「ヴィータちゃん、そろそろ決戦だね。
戦力差は10倍以上だし、苦手な水軍でも大丈夫かな?」
「そーだな、艦隊の数も揃ったし、教練も充分だ。
埋服毒の計で敵の動きも掴めているし、
やけに強く吹く風が気になるっちゃなるんだが・・・数で押して蹴散らすべきだな」
「アリサちゃん、策の仕上がりは?」
「もちろん完璧よっ!
こちらが先手を打てるわ。
・・・むしろ気になるのはすずかの方よ、はやて、そっちの対策を練ってちょうだい」
「あの、すずか・・・わたしたちは・・・?」
「くすっ、フェイトちゃんは私の指示通り動いてくれれば良いわ。
取りあえずやることはやったし、この場所から逃げないといけないから迎えに来てちょうだい」

正攻法で押せ押せの、なのは・ヴィータ軍。
罠を仕掛けて迎え撃つ、はやて・アリサ軍。
そして背後で謀を企てる、フェイト・すずか軍。
・・・うーん、ヴィータのなのはに対する苦手意識に気づいての組み合わせなのかもしれないな。
あの2人、本当は相性いいはずだからな。
仲良くしてもらいたいものである。

「・・・お、船体が見えてきたな。
うーん、こうして見ると数が全然違うなぁ」
「ふふふ、逆にその数が命取りになるのよ。
・・・こっちの陣中に来ていたすずかは上手く捕らえられたの?」
「そっちはあかん。
追っ手はやっとるけど間に合わんな、多分」

形の良い方のイチゴにゼラチンシロップをからめながら、ぼんやりと会話に聞き耳を立てる。
・・・うーん、これはなんとなく、なのは・ヴィータ軍に死亡フラグの気がしてきたな。

「・・・ん?
何だこりゃ?」
「ヴィータちゃん、どうしたの?」
「いや、急にパラメータ変更が・・・風向きが変わったのか?」
「・・・えっ!?
それはまずい、は、反転なのっ!!」
「もう遅いでっ、さぁ開戦やっ!」
「行くわよ、なのは!
さぁ硫黄を積んだ船団は体当たり、その後、火矢という火矢を降らして敵を焼き尽くしなさいっ!!」

・・・赤壁の戦い?
何となくそんなイメージだ。
なのは・ヴィータ軍が魏、はやて・アリサ軍が呉、フェイト・すずか軍が蜀、
そういう設定なのだろうか。

「うそぉっ!?
ヴィ、ヴィータちゃん、何とかなる?」
「だ、ダメだっ!
予備勢力も別個叩かれているし、何より火の勢いが激しすぎるっ!」
「はっはっは、燃やし尽くしたるでー」
「後はなのはとヴィータを逃がさないようにしないといけないわね。
あたしが出るわ」
「す、すずか?
このままじゃわたしたち何もしないで終わっちゃうよ?」
「慌てないで、フェイトちゃん。
なのはちゃんたちの命数は私が握っているわ。
フェイトちゃんはこことここに伏兵を置いてね?」

火計に見事にはまったらしいなのはとヴィータの声色が悲壮なものに変わる。
2人とも機転は利くが、全体の機微を見る目は弱そうだもんなぁ。
・・・と言うかすずかちゃんが恐ろしい、確実に孔明だな。

「逃げろ、なのはっ!!
ここはあたしが喰い止める!!」
「ふっふーん、このアリサ・バニングスの前に立ち塞がるなんて命知らずもいいとこね?」
「ヴィータちゃんっ!
・・・ごめんねっ!」

何だか大いに盛り上がっているようで、大分台詞も真に迫ったものに変わってきた。
既にはのは・ヴィータ軍は散々に討ち払われて惨敗を喫し、
ヴィータの手勢もアリサちゃんの手勢に取り囲まれている。
だが、なのは自身は這々の体で逃げることに成功したようである。
・・・何だか声を聞いているだけなのに、俺も盛り上がってきたな。

「ぅん?
・・・ふ、伏兵っ!?」
「なのは・・・ごめんね」
「フェ、フェイトちゃん・・・そんな」
「や、やっぱり、わたしにはなのはを討つなんて」
「ううん、フェイトちゃんに負けるのなら・・・仕方ないよ。
・・・残念だけどひとおもいにやって?」
「ダメ・・・出来ないよ・・・行って、なのは。
ごめんね、すずか、わたしにはどうしても出来ないよ」

・・・ゲームで倒すことも出来んのか。
最近フェイトも色々な意味でなのは依存が進んでいる気がするなぁ。
俺はそんなことを考えながら冷蔵庫からタルトを取り出して出来を確認した後、
これでもかという勢いで苺をトッピングをしていく。

「・・・なのはっ!」
「ヴィータちゃん、無事だったんだね!」
「あれぐらいでどうにかなるあたしの訳ないだろっ!?
それよりそっちも・・・」
「・・・え、嘘?」
「残念だったね、なのはちゃん。
もう一隊隠れてたんだよ」
「・・・すずかちゃんは結構えげつないな」
「・・・それは否定できないわね」

ヴィータと再開したものの、ついになのはが策士すずかちゃんの伏兵の前に倒れたらしい。
水軍では追い払うだけ追い払ったもののその後が続けられずに傍観者になってしまった、
はやてとアリサちゃんの声にえらく怯えが篭っているのは気のせいだろうか。

「お、おいっ!
バカヤローっ、しっかりしろよっ!」
「・・・から。
だいじょうぶ・・・だ、から・・・」
「おいっ、医療班っ!
なにやってんだよっ、こいつ死んじまうよっ!!
早くしろよっ!」
「ヴィ、ヴィータちゃん・・・あ、あとは・・・任せた・・・よ・・・」
「な、なのはーーーーっ!!!」

どんだけー。
俺は完成させた苺チーズタルトに粉砂糖をふりかけながら、突っ込みを思い浮かべてしまう。
・・・いや、まさか本気で殺しあっているわけじゃないよ・・・な?

「ははっ・・・まさか・・・」

声に出してみるが、一度不安に思うとそれを払拭するのは難しい。
この薄っぺらいカーテンの向こう側で、どんな惨事が・・・。
気になる。
だが、小学生たちの遊びにわざわざ入っていくのはさすがに辛いものが・・・。

「うーん、どうしたものか・・・」

俺がさらに首を捻ってこの後のことを考えようとしたとき、フェイトの声が聞こえた。

「えっと、合戦もひと段落ついたし、一度休憩しようか?
わたし、紅茶でも淹れるよ」

・・・はわわっ!?
っとと、いかんいかん。
つい、変な言葉が出そうになってしまった。
俺が一度こほんと咳払いをしてカーテンの方へと視線を戻すと・・・、
ちょうどこちらに入ってきたフェイトと目が合った。

「・・・あ、あれ?
兄さん?」
「おう、お客さんか?」
「うん、なのはと、それから・・・えっと」
「ああ、後でいいよ。
取りあえず紅茶淹れるんだろ?
手伝うからさ」
「うんっ」

とととっ、と俺の隣まで移動してきたフェイトが紅茶の準備を始めるのを横目に見ながら、
ティーポッドやカップを並べていく。
電気ポッドから人数分のお湯をやかんに移して沸騰させ、
その間に各々の茶器にもお湯を注ぎ暖めておく。
するとフェイトがテーブルの上に置かれたケーキに気付いたのか、
ちょっとだけ浮ついた声で俺に尋ねてくる。

「ねぇ、兄さん、このケーキは兄さんが作ったの?」
「ああ、・・・だが、なのはたちに出すのは危険な気がするな。
翠屋のバカ旨いケーキで舌が肥えたあの子たちは・・・危険だ・・・。
出来が悪いと怒られる気がするぜ。」
「ふふっ、そんなこと無いよ、兄さんの料理美味しいよ」

そう言ってフェイトは笑ってくれるが、ぶっちゃけ普通レベルだからな。
スイーツが評判の店の看板娘におぜうさま2人相手では・・・うん、絶対、
『普通』
という感想が返ってくるだろうぜ。
でも、最近は美味しいものにも興味を持ち始めたフェイトは、
ちらちらともの欲しそうな視線をケーキに向けている。
・・・ま、フェイトとヴィータは美味しいと言ってくれるだろうし、
はやても俺の味を気に入ってくれているからな、別にいいか。

「じゃあ、切り分けるからこれも一緒に持っていってくれ。
味は期待するな、と客人3人には伝えとけよ?」
「うんっ、美味しいよ、って伝える」

・・・笑顔で返されたら何も言い返せません。
俺はフェイトが真剣な顔つきで紅茶を淹れ始めるのを見つめてから、
諦めたようにため息を一つ吐き、タルトを切り分け始めた。

「フェイト〜、手伝いに来たぞ〜?
ってアニキ?」
「おっす」

カーテンを開いてこちらに入ってきた二人目の来客を出迎えてやる。
フェイトはヴィータに人数分のケーキが載ったお盆を渡すと、
自分は紅茶を注いだカップをお盆に並べていく。

「おー、じゃあ俺は出て行く必要ないな?
ここでぐでーっとしているから、後よろしくー」
「もおっ、後ではやてに怒られてもしらないよ?」
「むむ、そうは言ってもフェイトたちの中に入っていくのも変だろ?」
「・・・確かにね」

フェイトも納得してくれたらしく、くすり、と笑みを零す。
俺はリビングに戻る2人にひらひら、と手を振ってから、残ったタルトの一片にフォークを突き刺す。
さくさくとした食感と素朴な甘みを感じる香ばしい生地、濃厚で酸味のあるチーズクリーム、
本来の旬である時期だからか、瑞々しく身の詰まった爽やかな甘みの苺とのバランスが丁度良い。
・・・うん、素材が良かったせいか、思ったよりも美味しい。
フェイトがしっかりと俺の分まで紅茶を淹れてくれていたので、
ずるずると遠慮なく紅茶を啜りながら、ぼけっと天井の一角を眺める。

「・・・で、俺はいつまでこうしていれば良いんだ?」

謎だ。
フェイトにああ言ってしまった以上、今さらのこのこと彼女たちの前に現れるわけにもいかないし、
かと言って何処に行くにしてもリビングを通らなければ別の部屋にも、
まして外にも出て行くことは決して出来ない。
・・・あっれぇ?

「兄ちゃ〜〜〜んっ!
ちょっとええか?」

俺が袋小路にはまってしまったかと気付いたその瞬間、リビングからはやてのお呼びがかかった。
・・・うん、これはチャンスだな。

「何だ?」

ほいほいと呼び出しに応じた俺が世界を区切るカーテン一枚を潜りぬけリビングに入ると、
・・・思わず回れ右してキッチンに戻りたくなる光景が待っていた。

「紹介するな、さっきも言ったけどわたしの兄ちゃん。
兄ちゃん、彼女たちはなのはちゃんのお友達で、アリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃんや」
「初めまして、アリサ・バニングスです」
「初めまして、月村すずかです」
「お邪魔してまーす」
「・・・よ、よろしく」

さすがに広いリビングとは言え、6人も居ると手狭に感じる。
・・・が、それ以上に全員速攻犯罪に巻き込まれてもおかしくないような、
普通の女性がこの世の神の不平等さを嘆きたくなるぐらいの美少女揃いだ。
そんな少女たちに一斉に注目されるのは、些か心の平穏に悪い。
一種の圧迫感というかプレッシャーのようなものを感じた俺は、
アリサちゃん、すずかちゃん、それからなのはの挨拶に対して、
戸惑ったような返事をすることしか出来なかった。

「ケーキ、ありがとうございます。
美味しいです」
「ありがとうございます、男の人がって聞いて驚いてしまいました」
「わたしも驚きました。
色々隠し味も入っているんですね」

あ、なのは普通にぴんぴんしてる。
ちょっと安心。
少しだけ気を取り直した俺は、改めて残りの2人の顔を眺めてみる。
すずかちゃんはニコニコとして無害っぽく装っているが、
先ほどの会話を聞いていただけで分かるとおり、一筋縄ではいかない賢い子だろう。
アリサちゃんはちょっとお澄まししているようだが、
『美味しい』と言ってくれたのは何気なく彼女だけなので、俺の中ではポイントが高い。
・・・それにしてもどっちもふざけた美少女だな。

「ああ、いや翠屋と比べたらどうしようもないほど劣るから、
怒られちゃうんじゃないかって心配してたんだけど、喜んでもらえたら嬉しいよ」
「あはは、そんな事言いませんよ。
そうだっ!
今度ウチのケーキも持ってきますね?」

ほにゃっとした笑顔を見せるなのはの顔に見惚れそうになり、慌てて視線を外す。
俺がずらした目線の先には、
テーブルの上に置かれた携帯ゲーム機があったので、
再度気分を落ち着かせるために台数を数えてみる。
ひーふーみー、6個ある。
・・・やっぱりゲームをやってたみたいだな。

「何や、兄ちゃん緊張してんのか?」
「はやての顔を見ると和むけどな」
「・・・そ、そっか」

俺がきょろきょろと視線を動かしているのに気付いたのか、
からかうような口調でそんなことを言ってきたはやてに軽口で返してやる。
・・・て、あれ?

「「「わぁ・・・」」」

何故か三人娘がきらきらとした視線を俺とはやてに向けてますよ?
なにごと?

「に、兄ちゃん、ちょいと外の空気吸ってこよか?」
「・・・?
ああ、いいけど」
「ヴィータ、フェイト、ちょっと行ってくる。
なのはちゃんたちのこと頼むで」
「ああ、任せとけ」
「うん、気をつけてね」

突然のはやての申し出に、戸惑った様子も見せない二者二様の挨拶が返ってくる。
・・・ヴィータはえらい静かだと思ったら、一心にケーキに向かっていた。
そのせいか、もうほとんど無くなっているようである。

「ヴィータ、おかわりまだあるから、足りなかったら食べてくれ」
「おー、食べる食べる。
育ち盛りだかんな」

俺の言葉を聞くや否や、口にフォークを咥えてキッチンへと戻っていくヴィータ。

「ふぉかにふぉひぃひと〜」

と思ったら、くるりと振り向いて周りにおかわりを尋ねている。
うん、他の人のことも色々考えられるようになるなんて、成長したね。
・・・ただしフォークをくわえっぱなしなので、プラスマイナスゼロって感じだが。

「あ、わたしも食べる」
「あたしも」
「貰っていいかな?」
「じゃあ全員だね」

うん、どうやらおかわりはして頂ける位には好評なようで何よりです。






「じゃあ、軽くその辺りまでお散歩な」

いつものように車椅子の後ろの定位置に立ち、ゆっくりとした速度でハンドルを押していく。
春の季節に相応しいぽかぽかとした麗らかな陽気を感じながら、のんびりとはやてと歩く。

「はやて、ありがとな」
「ん?
何や、ヤブからスティックに」
「俺があの子たちのパワーに押されて戸惑っていたから連れ出してくれたんだろ」
「あはは、さすがの兄ちゃんもタジタジやったもんな。
・・・まぁそれだけや無いんやけどな」

ぼそりと呟いた最後の言葉は聞こえなかったが、
気にすることもないかと緑の多くなった町並みに目線を向ける。

「俺はアレだけでもちょっと疲れたけど・・・、はやては疲れてないか?」
「わたし?
わたしは・・・」

くすくす、とはやてが笑う気配が背中越しに伝わってくる。
それから少し大げさに右手で左肩をとんとんと叩く仕草をしながら返事をする。

「ちょっと疲れたな。
やっぱり同年代の子は慣れてないんかな。
なるべく合わせようと余計な気を張ってるせいで、肩の力が入ってるかもしれへん」
「楽しそうだけどな」
「楽しいで。
ただ疲れるのはホントだってだけや」

そう言って、こちらを振り向くはやての顔は良い笑顔で、
俺は多分この笑顔に色々と救われているんだろうと、なんとなくそう思った。

「そうだな、今もそうだけど、ずっと今日はニコニコしてるもんな」
「・・・それはそれで変な子やな。
これでどうや!」

こちらを向いたままキリッとした顔をしてみせるが、・・・うん、とても似合わないな。

「変な顔だな」
「ひどすぎるっ!!」

ガーンといった感じの効果音が聞こえてきそうなぐらいショックを受けた表情を浮かべたはやてがぷぅ、
と頬を膨らませる。

「女の子に向かって、『変』はないやん。
女の子って生き物はな、可愛いって言ってくれないと拗ねてまうんやで?」
「可愛いよ」

すぐにお望みの言葉を返してやると、はやてがもう一度こちらを振り向き、

「知ってる」

と嘯き、くすくすと年相応の笑顔を見せる。
だが、彼女の幸せそうな笑顔が、逆に俺の心に影を落とす。
さて、俺は何時まで彼女にとって必要な存在でいられるのだろうか。

「なぁ兄ちゃん」

そんな俺の心情に気付いているのか、居ないのか。
前を向いたはやてが、ぽつりと呟いた。

「ずっと、ずっと一緒に居てほしい。
・・・たまにすごく怖くなる。
今の生活が冗談みたいに目まぐるしくて、楽しいことばかりなせいかな。
これは全部夢で、わたしはもう病気が進んで眠りっぱなしなんじゃないか。
そんな私が見ている夢の中に居るんじゃないかって、怖いんや・・・」

自分の両肩を抱きしめるように、震える声で喋るはやての首筋にはうっすらと鳥肌がたっていた。
そんな風に身体を震わせているはやてだが、
春の日差しをたくさん浴びた髪はぽかぽかと熱が篭っているように見える。
俺はその熱を感じるために、自分の片手を無造作にはやての頭の上へと置いてみる。
・・・暖かい、な。
大丈夫、はやてはちゃんと頑張って生きているよ、と心の中で呟く。

「駄々っ子なうちは心配で一人になんてしておけないよ」

心とは裏腹に、ぐちゃぐちゃに髪をかき回しながら軽い口調で俺がそう言ってやると、
はやては俺の乱雑な手をそっと、愛おしそうに両手で抱えてきた。

「そんなん言うたら、わたし、ずっと駄々っ子やで?」

ちらりと、こちらを横目に見つめながらそんなことを言ってくるはやてに、肩をすくめて返してやる。

「じゃあ、残念ながらずっと一緒だ」
「・・・うんっ」

・・・俺はこの信頼から、理由をつけて逃げようとしていたのかもしれないな。
何となくそう思った俺は、グレアムさんに殴られた理由を今さらながら理解していた。
俺は所詮お客さんだという立場に甘えていた、これまでの自分を卒業しなくちゃいけないんだと、
漠然とそんな風に理解した。

(続く)