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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第15話』


「・・・どうしたん、兄ちゃん?
紹介するから、入ってきてな」
「・・・あ、ああ。
いきなり外人さんのお客さんはインパクト強くてな。
小市民の俺としては、フリーズせざるをえなかったんだ」
「・・・くすくす、何言ってん。
ヴィータもフェイトちゃんも外人さんやん」

どう見ても日本人とは思えない3人組にもう一度だけ視線を向けると、
覚悟を決めて手招きをするはやてに従い、俺は居間の中に入っていった。
俺の後ろには、ヴィータとフェイトが続く。
2人は今のところ、突然の珍客に不審な点を感じていないようだが・・・。
念話でヴィータに彼らのことを伝えておくか?
いや、止めておこう。
盗聴されていたら一発でアウトだ。
車椅子から降りてソファにちょこんと座っていたはやての横に俺たち3人が並ぶと、
はやてはまず俺たちと向き合って座るお客さんの紹介を始めた。

「じゃあ、わたしから紹介させてもらいます。
こちらは、わたしの父の知人で財産管理をお願いしているギル・グレアムさん。
それから・・・娘さん、でよろしいんでしたよね?
リーゼアリアさんとリーゼロッテさんや」
「初めまして、挨拶が遅れてすまないね」
「突然お邪魔してすいません、よろしくお願いします」
「ふっふ〜、よろしくね〜」

グレアムがイギリス紳士然とした態度で礼儀正しく頭を下げると、それに続くように、
アリアがしっかりとした口調で、ロッテが軽い口調で俺たちに向けて挨拶をした。
ちなみにリーゼ姉妹はネコ耳を変身魔法か何かで隠しているようで、傍目には人間にしか見えない。
・・・それにしても、しっかりとしたポーカーフェイスを保つグレアムはともかく、
双子の目線はこちらを品定めするかのような剣呑な色をはっきりと見せている。
まるでよく訓練された肉食獣に睨まれているような恐怖を、小心者の俺は覚えてしまう。
ぶるっ、と意図せず身体に震えが走る。
やはり、こちらの不可思議な様子を知って探りに来た、と考えるのが妥当だろう。

「それから、我が家の家族を紹介させ・・・」
「はやてっ!
そいつ等、軍人の動きだぜっ!!
敵だっ!?」

俺が気付いた感覚をヴィータはさらに鋭敏に悟ったらしい。
叫ぶと同時に、ヴィータがアイゼンを起動させようと一歩前へ踏み出し・・・

「・・・ちっ」

だが、遅かった。
俺たちとグレアムたちとの間のテーブルをあっさり飛び越えたロッテが、
ほんの一瞬でヴィータの目の前まで移動した。
そう俺が意識した瞬間、ロッテの蹴りでヴィータは壁際まで吹き飛ばされてしまう。

「がぁっ!?」
「ヴィータっ!」

俺は叫び、彼女に駆け寄ろうとして・・・ぎょっとした。
双子のもう一人も居なくなっている?

「ふぅ、出来れば紳士的にいきたかったのですが・・・仕方ありませんね」

居なくなったはずのアリアが、いつの間にかフェイトの背後に回りこんでいた、そう思った瞬間、
棒読みの口調でそんな事を口に出しながら、フェイトへとバインドを仕掛けてくる。
現在の状況をこのメンバーの中で一番把握していないフェイトは、
まさか自分が巻き込まれるとは予想もしていなかったのだろう。
あっさりと何重かのバインドに絡みとられてしまう。

「あうっ!?」
「フェイトっ!」

・・・まずい、一瞬でこちらの主戦力が抑えられた。
すぐに立ち上がったヴィータはダメージこそ無いようだが、
先手を打たれたこの状況では、ロッテとの一対一は分が悪いだろう。
なのはとの決闘の後となる上、拘束されてしまったフェイトにいたっては言うまでもない。

「ちょ、ちょっと!?
グレアムおじさんっ、どういうことなんですかっ!!」
「リーゼ、離してあげなさい。
・・・すまないね、はやて君」
「え?」

一方的とも言える双子のターンが終了を遂げたと同時に、はやてが慌てたような叫びを上げた。
だが、あっさりとしたグレアムの返事にはやては疑問符を浮かべている。
・・・きっと、彼の言葉尻に、強い苦渋の色を感じ取ったからだろう。

「でも、父様。
この2人は危険です」
「そーだよ、父様。
きっと遅かれ早かれこうなったから、一緒だって!」
「てめぇら・・・、はやてに手ぇ出したらぶっ飛ばすかんなっ!」
「・・・えぇと、わたしは・・・?」

ヴィータとフェイトを睨み付けるリーゼ姉妹は、取りあえず2人を解放するつもりはないらしい。
ヴィータはそれでもはやての危機を感じたら我武者羅に突っ込んでくるだろう。
フェイトはいまだに事態を飲み込めず困惑しているようだ、・・・ムリもないが。

「重ね重ね、すまないね。
娘たちの教育が行き届いていないようだ」
「・・・は、はぁ。
グレアムおじさんも魔道師やったんですねぇ?」

はやても急展開の割に柔らかい口調のグレアムを相手に困惑しているようで、
何処かボケた事を喋っている。
・・・それもそうか。
何しろ、彼は今まで唯一といっていい、はやての後援者だったんだ。
その人物をはやてが信じていたい気持ちはあるだろうし、
何より彼とは関係なくぬこ2人が暴れているだけ、といった風に見えなくもない。
見えなくもない・・・が。

「・・・下手な芝居はそこまでにしたらどうですか?」

すっかり忘れ去られていた俺は、立ったまま、はっきりと言葉に出してからグレアムを見つめた。
・・・くそ、俺の言葉じゃ動揺する素振りも見せやしねぇ。
はやては取りあえず自身の気持ちにケリをつけるまでは話の流れに任せることにしたらしく、
じっと俺の言葉に耳を傾けていた。

「何を企んでいるかは知りませんが、あの2人の行動は貴方の指示でしょう?
・・・感情に任せた行動のようで、綿密に打ち合わせされた的確な行動の結果にも見える。
初めからこういう状況を作るつもりだったんじゃないですか?」
「・・・さて、何を言っているのかな。
はやて君はもう魔道師のことを知っているようだから、改めて自己紹介をさせて頂くよ。
私も魔道師でね、
魔道師たちの多くが所属している警察機関である時空管理局という組織に所属している。
この世界はまだ魔法が認知されてはいないが、広い世界の平和を保つために、
数多くの魔道師が、魔法を知らない世界を含めた数多くの世界で次元間を越えて活動していてね。
私は非才の身ながら、顧問官として事後の調査なども引き受けている。
・・・ここには先日にあった次元空間航行艦が撃退されたことに対する調査があってね。
そのついでに寄らせて頂いた」
「へー、なんかすごい組織やねぇ・・・って警察さんがやられちゃったんですかっ!?」
「・・・うぐ」

・・・なんていうか、俺の自業自得か。
いや、結果だけ見れば病原体もその後の検査でも見つかっていないだろうし、
クロノの準備不足としか見えない事故として扱われたはずだ。
例え自らの名前が使われたからといって、この足長おじさんが自ら出向くだけの事態とも思えない。
独自に・・・闇の書のヴォルケンリッターである鉄槌の騎士、
ヴィータが既に今代のマスターの元へと現れていることを調べていたのだろう。
それでアースラのことを知り、これ幸いとわざわざやってきた、と見るのが自然だ。

「・・・ああ、と言っても心配はいらないよ。
どうやらあのタイミングでこの世界に介入されたくなかった輩がいただけのようで、
私たちが来たときには全く痕跡は見当たらなかった。
今となっては、アースラの記録に照らし合わせるしかないんだが、職員の話と合わせても、
どうやら向こうからは手を出されてはいないようでね。
事件ではなく事故としての扱いになりそうな状況だ。
幸い、職員たちも皆完治している。
その上、クロ・・・関わった捜査官もプライドのせいか、口を閉ざしてしまってね。
結果として捜査を続けることが難しい案件となってしまった。
私としては途中で投げ出すようで情けないがね」
「・・・はぁ、何やスケール大きいですねぇ」
「結局、こちらに与えられた短い時間では、事件も被疑者も詳細は分からず仕舞いだ。
ただの私の失態だよ」

・・・同時に見えてきたものがある。
ベラベラと要らぬことまで喋るグレアムに皆の意識を集中させて、
リーゼ姉妹が先ほどから拘束した2人以外にも魔道師が存在しないかを、
サーチを飛ばしてこの家を中心にチェックして廻っているようなのだ。
残りのヴォルケンリッターが隠れている可能性があると思っているのか?
つまり、彼らも全てを掴んで乗り込んできたわけではない、と言うことか。

「・・・父様、干渉可能圏内には魔道師反応ありません」
「こっちも同じくっ!」
「・・・そうか、それでは何かの間違いで一体出てきただけなのか?」

他に伏兵がないことを確認し終えたせいか、圧倒的な優勢を自覚しているのだろう。
堂々と念話も使わずに話すグレアムの何気ない言葉に俺の頬が思わずひくついた。
・・・コイツ、今ヴィータのことをモノ扱いしやがった。

「・・・はやて君。
本題に移らせていただこう」
「はい、何でしょう」

・・・それにしてもはやては冷静だ。
俺は今、彼らに話しかけられたら確実に語気が荒くなってしまう自信があるが、
はやての口調にはそういったネガティブなイメージを全く感じさせない。
俺以上にヴィータを可愛がっているはやてだ。
妹分を蹴り飛ばされた上モノ扱いでは、内心はかなり怒っているんじゃないか、と思うんだが。

「はやて君は、もう闇の書のことは知っているね?」
「はい」
「闇の書は、今までも何人ものマスターの命を喰らってきた呪われた過去の遺物だ。
我々は長いこと追い続けてきたし、これからも被害を喰い止める為に全力を尽くすだろう。
・・・だが、どうやらキミには才能があるようだ」

グレアムの視線が、ちらりとヴィータに向けられる。
・・・少なからず過去の憎しみがあるのだろうか。
珍しくも、ヴィータを見る彼の目には侮蔑のような色が見えた。
・・・それにしても、グレアムははやてが闇の書の制御に一部成功し、
ヴォルケンリッターを1人だけ召喚したとでも思っているのだろうか。
それならそれで、こちらとしては好都合な気もするが・・・。

「キミの才能を見込んで頼みがある。
最先端の魔法技術を有する我々の本拠地、ミッドチルダに来て本格的に魔法を学ばないかい?
キミならば、闇の書を完全に自分のモノとすることも出来ると思う」
「・・・」

はやては言葉を発さずに、ただ俯いた。
グレアムは、静かな視線で彼女を一瞥すると、話を続けた。

「無論、はやて君の家族である隣の彼も一緒に来てもらって構わない。
私もね、地球出身なんだ。
だがやはり、魔道師として生きていく上で、地球では限界があってね。
才能を伸ばし大成するためには、ミッドチルダに移り住むのが良いと思う」
「・・・そうかもしれませんね」

はやてが自嘲するかのように呟いた。
俺がはやてにどうしたもんか、という困った視線を向けると、
こちらの視線に気付いた彼女が俺に向けてにっこりと笑顔を見せる。
それから、一度深呼吸して、グレアムにまっすぐに視線を向け口を開く。

「お断りします。
ウチの子たちをいきなり攻撃するような人たちはやっぱり信じられませんし、
・・・何より、ヴィータをそんな眼で見る人は、嫌いです」

きっぱりとした口調で、はやてはそう宣言した。
俺ははやてがそのつもりならば、と少しだけ身体を捻ってはやてを庇えるような体制を作る。
・・・俺が壁になれば、ヴィータがはやてを救出できるぐらいの時間は稼げるだろうと信じて。

「・・・そうか。
残念だよ、手荒な方法をとらざるを得ないのは」

彼の言葉が聞こえたと思った瞬間、俺は地面に転がっていた。

「う、嘘だろっ!?」

じたばたと足掻こうとするが、身体が動かない。
・・・バインドっ!?
何時の間にだよ、信じらんねぇっ!

「くそっ、あっちの使い魔たちが主力じゃなかったのかよ・・・」
「キミは、使い魔よりも主人が弱いとでも思っていたのかい?」

・・・言われてみればその通り、その通りなんだが・・・納得いかねぇっ!?
グレアムは俺にそんな言葉をかけると、再びはやてに向き直る。

「はやてっ!!」
「おぉっと、アンタは動くんじゃないよ。
恨むんだったら、デバイスも用意せずにあたしたちの前に立った自分の迂闊さを恨みな」
「・・・っ!!」
「・・・貴女のことは知らないですが、結構な力を持っているみたいですね。
関係ないのですから、動かないでいただいた方がお互いのために宜しいですよ」

転がった俺には見えないが、リーゼたちに足止めされている2人が動こうとしたらしい。
・・・だが、さすがに本職と言うべきか。
そうそう、逆転の機会は与えてくれそうにないらしい。

「兄ちゃんっ!?
大丈夫かっ、痛いとこないかっ!?」
「・・・痛くはないが、無様だな」

はやてが俺のことを覗き込むように見つめていた。
心配そうな色を湛えた彼女の大きな瞳には、涙が滲んでいる。
こちらに体重を傾けすぎたのか、ガタっ、と大きな音がして、
はやての身体のバランスが崩れて転びそうになる。

「・・・なんで、わたしの身体、こんなに・・・」

拘束された俺にすぐに駆け寄ることも出来ない自分を恥じるように、はやてが唇を噛み締める。
だが、すぐにキッとした彼女にしては珍しい敵意を込めた視線を、
自分と向き合って、未だに泰然と座ったままのグレアムへと向ける。
・・・まぁ、転がされて成す術の無い俺よりは相当マシだからな。

「止めてくださいっ!
何で、何でこないにひどいことするんですかっ!?
ヴィータが、兄ちゃんが一体何をしたって言うんですっ!!」
「もう一度聞こう、どうする八神はやて君。
私は何もキミたちに危害を加えたいのではない。
ただ、これ以上不幸な人たちを作りたくない、それだけなんだ」
「・・・そんなん知らん・・・」

はやての瞳からは涙がぽろり、と一粒落ちた。
くそ、ホントにやばいぞ、これっ!?
魔力を練ろうとするも、全くと言っていいほどリンカーコアの反応がない。
火事場の馬鹿力まで使い果たした反動か・・・。

「・・・知らなかったのかね?
闇の書は非常に危険なモノなんだ。
暴走すればキミたちだけでなく、この街、いやこの世界が危なくなる。
それを未然に防ぐためには、私と一緒に来るのが一番だ」
「兄ちゃんが、兄ちゃんが助けてくれるっ!
わたしの足も治してくれたっ!
ヴィータとも会わせてくれたっ!
それに、約束したからっ、わたし、約束したから、ここで頑張るんやっ!」

グレアムが背負わせてくる、小さな少女に背負わせるには大きすぎる荷物を振りほどくように、
はやての珍しくもヒステリックな金切り声が響く。
くそっ、こんな時に何も出来ないなんて、ありえないだろっ!?

「はやっ!?」
「アンタは、ちょっと黙ってな!!」
「がはっ!」

見えないから憶測に過ぎないが、
俺と同じようなことを考えたヴィータが堪えきれずに飛び出そうとして、ロッテにやられたようだ。
・・・とは言え、もしもやられていなかったとしたら、グレアムに殴りかかってきているだろうから、
ほとんど間違えようのない話ではあるが。

「やめてっ、ヴィータにひどいことせぇへんでっ!?」
「・・・そこの彼が助けてくれる?
ほとんど魔力も感じない、ただの一般人に見えるがね。
それから、ヴォルケンリッターのことは、彼女の自業自得だよ。
ああ、それでもキミが頷いてくれたら、解放してあげよう」
「いや・・・いやや・・・」

・・・ここまで追い詰められてアレだが、何だか違和感を覚えた。
グレアムたちは、一体何を企んでいる?
この段階で、ここまではやてを追い詰める必要はないはずだ。
まるで、彼らは何かを確認したがっているかのようにさえ感じる。
それは一体?

「子供の我が侭だな。
残念だが、力尽くでも連れていかせてもらおう」

ゆっくりとグレアムが立ち上がる。
・・・げっ!?
答えの出ない考察は後だ!
今はこのバインドをどうにか・・・って、俺のチャチなパワーオブパワーじゃムリっすっ!?
って、うん?
何だか、胸が急に熱い・・・?

「・・・え?」

俺の胸の熱に呼応するかのように、
子供がダダをこねるように頭と手足を振り回していたはやての動きが止まった。
そして、きょろきょろと何かを探すように虚空に視線を向け始める。

「・・・闇の書か?」

グレアムの表情に緊張の色が走った。
一瞬、強い躊躇の色が彼に見えたが、すぐさま紳士の仮面で己の内面を覆い隠してしまう。

「・・・なまえ?
名前を呼べばいいん?
・・・アナタのお名前は?」

誰かと会話しているかのようなはやての言葉が聞こえる。
・・・まさか、本当に闇の書?
起動前だから、管制人格が起きているわけが・・・っ!?
俺の焦りに呼応したわけもないだろうが、胸の中の熱が一度、どくん、と鼓動した。


「BERG KAISER!!」
『Danke!』


はやての呼び掛けと同時に、俺の胸が弾け・・・たように感じた。
正確には、俺のシャツの胸元を引きちぎるようにして現れた黒い光が、
そのまま俺のバインドを砕きながらはやての手元に集まっていく。

「・・・バ、バカな・・・」
「助けてくれるん・・・いい子やね・・・」

今までポーカーフェイスを保っていたグレアムの顔にはっきりとした驚愕の色が浮かぶ。
かくいう俺も同じような顔をしているだろう。
俺たちの視線を独り占めしているソレは、はやての手の中でしっかりとした形を作っていた。
不可思議な形状の、左側が抉れたように見える左右非対称の杖。
・・・プレシアの杖かっ!

『Rakete』

しゅぼっ、と言う気の抜けた音とともにはやてが手に持つデバイスから、一筋のロケットが飛んだ。
グレアムにまっすぐと向った、その魔力弾は彼にぶつかる瞬間、障壁に遮られて爆発した。

どがぁあああああっ!!

がしゃああああああんっ!!

ごがぁあああああああっ!!!

「父様っ!?」
「嘘ぉっ!?」

冗談のような大げさな爆音が続けざまに響き、グレアムは問答無用で吹き飛ばされてしまった。
ちらりと見た限り、一瞬で障壁が砕かれていたんだが・・・。
もしかして死んだ?
リーゼ姉妹の呆然とした叫びが聞こえたが、当の本人からは苦悶の叫び一つ聞こえやしない。

「やりすぎてもうた・・・」
『ganz recht』

さすがに呆然とした顔で、いまだに煙りで覆われた事件現場を見つめるはやて。
・・・って、そこのデバイスよ、『All right』ってオマエはどこぞのレイジングハートさんか。

「そ、そっか、オールライトやな」
『ya』

・・・さすがにグレアムに同情するぜ。

「っのわけあるか―――っ!
父様――――っ!?」
「ああっ、もうっ!
ロッテ!?」

ヴィータを押さえつけていたはずのロッテが、あっと言う間に煙の中に飛び込んでいった。
アリアも慌てた様子で、その後を追いかける。
・・・ちなみにはやての魔力弾はグレアムを庭まで吹き飛ばしてしまったらしく、
庭に面した窓ガラスもひしゃげて吹き飛んでいる。
つまり、さきほどの爆音の正体だが、一発目は着弾の音、二発目はガラスが砕ける音、
そして三発目がグレアムが庭に吹き飛んで地面とぶち当たったとされる音である。


「・・・あ、ソレ母さんの杖だね」
「そうなんか、助かったで。
おおきにな」
「うん、母さんがええと・・・兄さんにあげるって言ってた」
「兄さんっていうと、ええと?」
「・・・うん、えっと、ヴィータが一緒に暮らすんなら『家族』だからそういう風に呼べって」
「そっか、わたしは八神はやて。
年は変わらんらしいから、はやて、でええで」
「うん、よろしく。
わたしはフェイト・テスタロッサ。
フェイトでいいよ」

・・・未だに倒れこんでいる俺の後ろではやてとフェイトが、
もう過ぎたことは忘れてしまったかのようにすげぇ和んでる。
フェイトがあまり人見知りをしないことを素直に褒めてやりたいが・・・何か違う気もする。
と言うか、きっとあまりの事態に2人で現実逃避しているだけだな。

「・・・アニキ、何時まで寝てんだ?」
「・・・ヴィータ、シリアス担当お疲れ」
「何だかあたし、殴られ損な気がするぜ・・・」

最早不貞寝のような感もある俺の横に、ちょこん、と座り込んだヴィータが軽くため息をつく。
俺たちはようやく落ち着いてきた庭の様子を一瞥する。
ぬこ姉妹が半泣きになりながら、
犬神家のように地面へと逆さに突き刺さったグレアムにすがり付いていた。
『父様しっかりー!』
『死んじゃやだーっ!』
とか言う声が聞こえるが、きっとソレは幻聴。

「生きてると思う?」
「・・・さっきまでの態度見てると死んでもいいや、って思えるけど・・・
やっぱりはやてを犯罪者にしたくないから生きていてもらったほうが良いぜ」

ヴィータもさすがに呆れきった声だ。
・・・ぶっちゃけ、こんなオチはないだろう。





「・・・さて、改めて答えを聞かせてもらえるかな?」

グレアムが渋い声で、はやてに問いを発した。
・・・だが、体中に巻かれた包帯と左右からしっかりとネコ耳少女で支えられたその姿では、
どう見てもコントにしか見えないのが残念でならない。

「・・・大丈夫ですか?」

フェイトが心配そうにグレアムに声をかけているが・・・、
空気を読んで今はそっとしておいてあげなさい。
案の定、グレアムもフェイトの問いを無視し、
はやても今の発言を無かったことにしてシリアスな目線でグレアムに語り始めた。

「わたしも自分の我が侭だけで大勢の人たちに迷惑をかけたいわけじゃありません。
・・・ただ、わたしはこの家が大好きなんです。
街にはお世話になった人たちがいます、何も言わずに不自由なわたしを助けてくれた子もいます。
御礼も言えなかった人もいます。
兄ちゃんやヴィータ、それからフェイトにも勝手にそんなことを決められません。
だから・・・1年間時間を下さい。
わたしはまだ何も出来ないひよっこですが、力になってくれる人たちがいます。
・・・その人たちと、この場所で、精一杯頑張ります。
その、闇の書をきっと誰にも迷惑をかけないように、助けてみせます。
グレアムさんは歯がゆいでしょうが、機会を下さい、お願いします」

頭をしっかりと下げるはやてに、グレアムがふっと力を抜いてソファに腰を深く沈める。
慌ててぬこ姉妹が彼が痛みを感じないように丁寧に体重を移動させる。

「・・・老兵が出る幕はない・・・か。
分かった、はやて君がそこまでの決意があるのなら、私も援助を惜しまないよ。
キミが素晴らしい成果をあげることを・・・
私が過去に受けた醜い恨みの念を消し去ってしまうことを期待するよ」

・・・まぁ、やっぱり端から見ていると笑い話にしか見えないわけで。
恐らくグレアムは初めからはやての意思を確認に来ただけなのだろう。
追い詰めて追い詰めて、それでも自分の意思を最後まで貫けるだけの強い少女なのかを見たかった、
それだけだったのだろうが・・・。
まぁ、やっぱり空気を読んで黙っているのが一番だな。

「はいっ、ありがとうございますっ!
でも・・・」

続くはやての言葉に、俺は閉口してしまった。
確認していないが、恐らくヴィータもだろう。

「援助は必要ありません。
自分たちのことは、きちんと自分たちでやってみたいんです」

・・・そんな大風呂敷掲げて、後で後悔しそうだなぁ。



ちなみに、後ではやてに真意を確認したところ、

「だって、わたしのせいであんな大怪我したんやで。
それを許してもらって、尚且つ目的も果たせずに帰らせて・・・
それで援助だけは下さいなんて恥ずかしくて言えんって!!」

・・・ごもっとも。


(続く)