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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第14話』


「・・・あれ、ここは?」

眼が覚めると、初めに見えたのは宙に浮かぶ四角いウィンドウだった。
ゆっくりと上半身を起こして、呆としてまとまらない頭で画面に映る場所の様子を見つめる。
白い服の少女が画面の端に映ると、桜色の砲撃が画面一杯に撃ち込まれる。
黒い服の少女が画面の端に映ると、金色の残像を残して光の槍が飛んでいく。
大きく弧を描くように移動する少女が力任せの防御で敵の攻撃を弾き散らし、
見事な制動で鋭角に高速移動する少女が際どいタイミングで敵の砲撃を避ける。

そんな2人の決闘を、じっと食い入るように眺めているプレシアの姿があった。

手には見たことの無い杖。
左右が非対称の、何とも形容しがたい不可思議な雰囲気の杖である。
・・・どうやら俺の決死の一撃は防がれてしまった挙句、
敵の眼前で倒れるというどうしようもない悪手になってしまったようだった。
ざまあない、慣れないことはするもんじゃないな。

「・・・どっちが勝ってるんだ?」
「フェイト・・・と言いたいところだけど、あっちの子は奥の手があるようね。
五分五分といったところかしら」

プレシアがまさかこちらの問いに答えてくれるとは思わなかった。
俺は驚きのあまり立ち上がろうとしたが、
全身に引き裂かれるような痛みが走り思わず悲鳴を上げてしまう。

「いてぇっ!?」
「動かないほうが良いわ。
リンカーコアがオーバースペックの余波でかなり衰弱しているようね。
そこまで肉体に影響を与えるなんてよほどのことよ」

痛みでようやく正気を取り戻した俺は、
こちらに顔を向けたプレシアの眼差しが理知的な輝きを宿しているのに気がついた。
俺は彼女と視線を交錯させると、思わず肩の荷が下りたような気がして、ほっと息を吐く。

「・・・そうか、そいつは良かった」
「何が良いの?
しばらくは魔法も使えそうもないようだけれど、それが良かったのかしら?」
「プレシアさんが自分を取り戻してくれたようだし、病気も無事治ったからな。
・・・まぁ、俺も五体無事なようだし、良かったよ」

俺が心の底からそう思っていることに気付いたのだろう。
彼女は信じられないものを見るような表情で、俺をしばらくの間見つめていた。

「・・・貴方は何者?
目的は何かしら」
「プレシアさんの娘が行っている、地球という世界の一原住民さ。
ちょっとした事情でジュエルシードとフェイトのことを知ってね。
小さい子が無碍に扱われるのを見るのが好きじゃないんで、お節介をやいてみた。
・・・結果としては大敗といったところだったが」

ずきずきと痛む両腕の関節を半ば無理矢理折り曲げて、お手上げのポーズを決めながら答えてやる。
まぁぶっちゃけこれで全部だ。
我ながらすげー単純だなと思わざるをえないが、人間の行動原理なんて、
突き詰めれば皆似たようなものなんじゃないかな、とも思う。
要は、良い子には、気に入った子には幸せになってもらいたい。
まぁ、異邦人だからこそ余計にそう思っちまうのかもしれないけどな。

「・・・それだけ?」
「ああ、細かく言えば色々あるんだろうけど、
突き詰めればそれだけだったような気がするよ。
行き当たりばったりの考えなしでスマン」

彼女は自分の口元に手を当てこちらをじっと眺めていた。
どうやら、俺の言葉の真贋を見極めようとしているようである。
手持ち無沙汰になってしまった俺が浮かぶ画面に視線を向けてみると、
そこには光り輝く輪で両手両足を拘束されたなのはの姿があった。

「フェイトのバインドかっ!?」
「・・・フォトンランサーの一点集中連射で打ち落とすつもりかしら?
ダメね、フェイトの負けよ」

俺の声に気付いて画面に意識を移したプレシアは、
どう見ても優位に立っているのはフェイトのように見える光景に対して、
平坦な口調でそう言ってのけた。

「見る限りなのはが不利のようにしか思えないが・・・?」

俺の疑問に応えるように、画面上でいくつもの光刃がなのはに向けて走る。
瞬時に画面が煙で覆われて、詳細を確認することすら出来なくなってしまう。

「勝つつもりなら、小出し小出しで持久力勝負に持ち込むべきだったわね。
あれじゃあ、魔力量と資質の差でフェイトの分が悪すぎる」

何でもないように呟くプレシアの言葉はなのはとフェイとの才能における
質の差を知っている俺からすれば、なるほど、と思わせるものだった。
俺が無言で頷くと、プレシアはさらに言葉を続ける。

「あの子とフェイトの一番の差は経験だったはずよ。
曲がりなりにも2年は格上との戦闘経験を積んできた、
その経験をもっとずるく使うべきだったわね」

彼女の言葉が正しいことを証明するかのように、
ほとんど無傷でフォトンランサーを耐え切ったなのはが反撃に転じた。
桃色に輝く魔力光がフェイトのバリアジャケットを削り取っていく。
フェイトが全力の一撃でなのはのジャケットを削れなかったことを考えると・・・明確な差だ。

「・・・なるほど。
大砲の打ち合いになればその差は明確だな」
「全く、末恐ろしい子ね」

言葉とは裏腹に、冷静なプレシアの声に被さるように、
画面には末恐ろしいなのはの顔がアップに映し出される。
レイジングハートを空に掲げスターライトブレイカーを撃つ体勢に入ったなのはに、
ここからでさえ、見ただけで分かるほどの力が集まっていく。

「・・・なんちゅう馬鹿魔力だ」
「ご丁寧にフェイトにバインドまで仕掛けているわ。
勝負アリね」

プレシアは軽く首を振って、息を吐いてみせた。
俺が思わず、ごくり、と唾を飲み込みながら画面を凝視すると、
大砲としか形容できないようななのはの一撃がフェイトの全身をあっさりと飲み込んだ。
数秒間も続いた光の奔流が収まると、バリアジャケットをずたずたにしたフェイトの身体がぐらり、
と大きく傾きそのまま海に落ちていく。
その光景を見たなのはが慌てたように海に飛び込み、すぐにフェイトを抱えて戻ってくる。
・・・どうやら、フェイトはもう戦闘を続けることは出来ないようだ。

「そうだな、勝負あった」
「負けてしまったわね。
・・・ああ、でもやっぱりあの子は、フェイトはアリシアとは全然違うのね」

何処か嘆くように、何処かさっぱりしたような声を出して呟いたプレシアは、
なのはに抱きかかえられながらも、しっかりと彼女と向き合ったフェイトの顔を眺めていた。
しばらくの間、そうしていただろうか。
なのはとフェイトが向き合うと、
バルディッシュからフェイトの持っていたジュエルシードが全て放出される。
そのタイミングを見計らったように、プレシアは後ろを向いて俺に言葉をかけた。

「移動しましょう。
・・・相応しい場所へ」
「いいのか?
次元魔法でも使えばジュエルシードを総取りするチャンスじゃないか?」

プレシアは俺の言葉には答えずに、最後にもう一度画面に映るフェイトへと横目で視線を向けてから、
先に立って歩き始める。
残念ながら、俺には彼女がどんな表情を浮かべているのか、それを見ることは出来ない。
俺は、まだ軋みをあげる身体で何とか立ち上がると、
ひょこひょこと覚束ない足取りで彼女の後を追っていった。




玉座の間から百メートルほど続く回廊は、すぐに行き止まりにぶち当たる。
正確には行き止まりではなく、そこが、終着点だった。
・・・終着点には、人が入れるほどの大きさの保存ポットが鎮座している。
あまり身体に良さそうには見えない保存溶液が詰まったその中には、
幼い少女が瞳を閉じてぷかぷかと浮かんでいた。
俺がその眠り姫のことに気付いたとき、
プレシアはそっと硬質なポットの表面を慈しむように撫でていた。

「貴方のせいで、ひどく頭がすっきりしてしまったわ。
今まで狭窄していた視野が、一気に広がりすぎて眼を廻してしまいそう」
「・・・その子が?」
「ええ、アリシアよ。
私の本当の娘、私の罪の形」

自戒するかのような言葉を呟いたプレシアが俺に向き直る。
俺はまだ立ち続けていることさえ辛かったから、
ずるずると壁にもたれて座り込みながら彼女が次の言葉を発するのを待っていた。

「さて、貴方は何処まで知っているのか、改めて教えてもらおうかしら?」
「・・・大雑把には、事の次第は全て把握しているはずだ。
プレシアさんが魔力炉の暴走で娘を失ったこと、
娘を生き返らせようとクローンであるフェイトを作ったこと、
フェイトとアリシアが異なることに絶望を覚えたこと、
実験の薬害で肺の病を患ったこと、
そして生命再生技術を完全なものにするため、
アルハザードへの道を求めてジュエルシードを探していること」
「・・・驚いたわ、良く調べたわね。
失われた世界『アルハザード』にはあらゆる魔道理論の礎があると言われている。
ただ、その場所は虚数空間の先、とも言われる誰も知らないサルガッソの果て。
それでも本当にあるのであれば、ジュエルシードは探索に都合の良い道具だったわ」

俺に向けて話しているというより、自分自身の当時の考えを思い出しながらといった感じに、
プレシアが俺の話に補足をいれる。
この時点で、身体の病は顔色と足取りから完全に治療できたことを改めて理解できたが、
彼女の精神が先ほどの錯乱状態からどのくらい回復したのかは、
残念ながら俺には良く分からなかった。

「もう3つ聞きたいことがあるわ。
貴方の魔法は一体何?
ミッドチルダやベルカ・・・私の知る魔法体系とは異なるものよ。
でも、どうして私を救ったのかしら?
それから・・・貴方ならば、過去に居なくなった人でさえ生き返らせることが出来るの・・・かしら」
「・・・蘇生は難しいな」
「そう。
それは残念ね」

俺の死者蘇生に関する答えは、元より折込済みだったのだろう。
プレシアはさして気に留めた様子を見せることもなく、くい、と顎を持ち上げ話の続きを促してきた。

「俺はプレシアさんたちが言う次元間とは、また別の意味での平行世界からやってきたんだ。
俺の魔法は、あらゆる生物が持つ構造の解析・復元・強化を行うために作られた、
その世界の古代魔法技術の結晶らしい。
それから、プレシアさんを治した理由は・・・」

一度話しを区切った俺が、ポットの中で今もなお眠り続ける少女を見上げると、
プレシアの視線も少女に向かった。
俺は、きっと拒絶されるだろうとそう確信しながらも、一縷の望みを託して彼女に言葉を続けた。

「貴女に・・・フェイトと幸せに暮らしてもらいたいからさ」
「ムリよ」

案の定、プレシアは怯む様子も見せず、きっぱりと首を振って否定した。
だが、いきなり激高して俺に襲い掛からなかっただけで、俺は微かに脈を感じていた。

「フェイトのことが嫌いだからか?」
「あの子を見ていると、アリシアとの違いが目に付いて心がもやもやするのよ。
アリシアはもっと優しくて、我が侭も言ったわ。
・・・そうね、あの子が、『アリシアじゃない』から受け入れられないのよ」
「そっか」

俺は顔を伏せながら、淡々とフェイトを否定するプレシアと真正面から対峙しようと、
根性を入れて立ち上がる。
ぷるぷると震える足を気合でねじ伏せ、
プレシアの顔から目線を放さないよう瞬きさえ堪えんとガッツを込めた。
・・・彼女が、フェイトのことをまだ『嫌い』とは言っていないことに全てを賭ける。

「・・・蘇生は難しいが、出来なくはない。
鍵は、リンカーコアだ。
そもそも、リンカーコアとはあらゆる生命に宿っている精神エネルギーの塊・・・つまり魂だ。
生命は、肉体に宿り、魂に宿る。
アリシアのリンカーコア、つまり魂はそこのポットに存在している。
肉体はプロジェクトF.A.T.Eにより作られた、フェイトがいる。
フェイトのリンカーコアを砕き、代わりにポットの中からアリシアのリンカーコアを移植してやれば、
・・・確実に彼女は蘇る」
「なっ!?
・・・いえ、それは本当?」

俺は、確かに彼女が一瞬、フェイトを犠牲にすることに嫌悪の表情を浮かべるのを見た。
だが、『アリシアの母』としての自分を取り戻したプレシアは、
冷酷な判断でフェイトの犠牲を是としたようだ。

「ああ、本当だ。
・・・プレシアさんがそれを望むなら、フェイトは喜んで身を差し出すだろうぜ」
「・・・っ」

それでも迷う素振りをみせるプレシアを、俺は心から安堵を覚えながら見つめていた。
今度は一瞬ではなく、数十秒ほど眼を泳がせていたプレシアは、諦めたようにため息をつく。

「・・・ずるいわね。
さっきまで病魔に犯された私だったら、是も非も無く飛びついていたはずよ。
こんな冷静さは・・・今となっては邪魔なだけなのに」
「確かにずるいさ。
何といっても俺は、テスタロッサ家を味方したいんだ。
そのためには、プレシアさんも、フェイトも、
・・・アリシアだって納得のいく結末を迎える必要があるからな」
「無茶を言うわね。
それが不可能だと、奇しくも貴方自身が言ったんじゃない。
アリシアとフェイトは、ともに居ることは出来ない、と」

ポットの中で、何も語らぬ我が子をじっと見つめながら、プレシアは言葉をつむぐ。
もしかしたら、プレシアは、フェイトを娘だと認めることで、
本当のアリシアを忘れてしまうのが怖かったんじゃないだろうか、ふと俺はそんなことを考えた。
わざわざ尋ねることでもないが、そう思ってしまった俺は、後はもう信じて突っ走るだけだ。
まるで、アリシアにどうしたいのかを尋ねるような視線を向けているプレシアに、
俺は最後の提案をすることにした。

『pull out』

・・・存分に役に立ってくれ、これがオマエの生まれた理由だ。
俺はセイから取り出したジュエルシードを手のひらに載せ、掲げる。

「だから、アリシアにもどうしたいのかを聞いてみてくれ。
この石は、『願いを叶える石』だ。
願いを叶えるために生み出されたはずなのに、
誰も彼も本当の使い方を知らずにただのエネルギー炉としてしか考えていなかった。
そんなジュエルシードだが、最後にその本懐を遂げるために、俺が願おう。
アリシアに、一時、生を取り戻させてくれと」
「・・・そんなこと、出来るわけが」
「出来るさ」

俺は手のひらの青い石を見つめる。
まるで、本来の使われ方をされることを喜ぶように、
ジュエルシードは柔らかい、温かみのある光を穏やかに発していた。

「・・・もし、出来たとしてもよ。
アリシアが生き返りたいから、フェイトを犠牲にしろと言ったらどうするつもり?」
「そのときはその時さ。
でもさ、プレシアさんの娘なんだ。
きっと今一番、貴女が欲しがっている言葉をくれると思う。
いや、プレシアさんを不甲斐ないと怒るかもしれない」
「・・・ふふっ、それはありそうね」

初めてかすかに笑みを浮かべてみせたプレシアが、そっと俺の提案を受け入れるように瞳を閉じた。
それを見た俺はさらなる願いを込めて石に魔力を注いでいく。
これが多分、フェイトと、そしてプレシアを救うラストチャンスだ。
オーバーヒートした俺のポンコツリンカーコアでさえ、
今の状況を理解しフル回転して普段に倍する魔力を生成する。
これで、上手くいかない、なんてわけがないっ!

「願いをかなえよ、ジュエルシードっ!
さんざん、役立たず呼ばわりされてきた今までを、見返してやろうぜっ!!」

俺が吼えると同時に、ジュエルシードがその叫びに応えるように光を発した。
世界を今この瞬間だけ、塗り替えろっ!!





光が止んでも、世界は何も変わらなかった。
ただ、俺の手の中にあったジュエルシードと呼ばれた石は、崩れて砂になっている。
さらさら、と手から零れていく欠片が風に溶けて見えなくなると、
俺は目の前の女性に視線を向けた。

「・・・夢を見たわ」

俺に語りかけているのか、それとも別の誰かにか。
プレシアは、ぽつりぽつりと、夢を語る。

「私が居て、アリシアが居て、フェイトが居て、リニスが居て、アルフが居たわ。
アルフは無邪気にアリシアとフェイトの遊び相手をしていたわ。
奔放に駆け回り、アリシアとフェイトはそれをニコニコと眺めていた。
リニスは口うるさい小姑のようだったわ。
やれアリシアが勉強をすぐサボる、
やれフェイトが信じられないドジをした、そう笑顔で私に愚痴を零すの。
フェイトはアリシアの妹なのに、アリシアよりもしっかり者。
私の研究の手助けをしようとはりきって、たまに失敗してはアリシアに慰められるの。
アリシアは姉なのに、フェイトよりもだらしがない。
いつもフェイトの後ろにいるようで、気付くと自然にフェイトをフォローしているの。
・・・そんな幸せな夢よ」

彼女は、アリシアのポットを見つめながら喋る。
夢の話は、特に幸せに満ちた夢の話は嫌いじゃなかった。

「私は、フェイトに尋ねてみたわ。
お姉ちゃんのためなら自分を犠牲に出来るかと。
あの子は即答してくれたわ」

どう即答したかは言うつもりはないようだった。
プレシアはポットの中にいる少女の髪を撫でるように、ポットに手を軽く当てる。

「私は、アリシアに尋ねてみたわ。
妹を犠牲にしてでも生き返りたいかと。
あの子は笑って言ったわ」

両手で抱きしめるようにポットを抱え込むと、彼女は静かな口調で続ける。

「母さんだったら、フェイトを犠牲にしなくても私ぐらい生き返らせられるでしょ、って」

こちらを振り向いたプレシアは、しっかりと前を見据えた、
力強さを込めた眼差しを瞳の奥に宿していた。

「過去を変えることなんて出来ない。
ただ、未来は何だって出来る。
誰が何と言おうと死んだ子を生き返らせたいなら、生き返らせればいい。
・・・世の中は、俺が思っているよりも薄情なんかじゃないって、俺のデバイスが教えてくれた」
「・・・?」
「俺にはまだ原理も理解さえ出来ないが、そんな奇跡も起こせるらしい。
・・・いつか、その原理を解き明かして使いこなしてやるさ」
「それじゃあ、私が貴方よりも先にそんな理論は解き明かしているはずね。
アリシアと一緒に、遅い、って笑ってあげるわ」
「なんだとこの野郎!?」

俺がその可能性は十分にありそうだと、
怯んだ顔で声を張り上げると、プレシアは再び微笑を浮かべた。
正直、俺の考えが正しいのかは分からない。
結局、問題を先延ばしにしただけなのかもしれないが・・・、それでも。
その先にはきっと誰もが幸せな顔で居られる未来があるんだ、そう信じた。

「・・・ちなみにコレがその奇跡を生み出すための方法だ。
俺が先に解読するか、プレシアさんが先に解読するか、競争だな」
「そんなものをタダで貰うわけにはいかないわね」

俺がセイからデータを引き出し、彼女の持つデバイスにエクスポートしようとしたが、
彼女は首を振って俺の行動を遮る。
そして、俺に向けて自身が持つデバイスを改めて差し出した。

「代わりに、と言ってはアレだけど、このデバイスをあげるわ。
この庭園を買った際に、前の持ち主が忘れていったものだけど、
古代ベルカ時代のモノらしくて、その性能は凄いの一言ね。
貴方のあの魔力砲を防いだのもこの杖の力だし、
Sランク以上の力を持つ魔道師なら使いこなせるはずよ」

そう言いながら、彼女は握っていたデバイスを待機状態に戻しながら、
逆の手で小さな宝石のついたイヤリングを持ち出す。

「・・・そうか、それじゃあありがたく頂くよ。
・・・・・・・・・・・・ん?
Sランク?」

俺は彼女にお礼を言いながら黒い宝玉に変化したデバイスを受け取り、
代わりにデータをセイから簡易データバンクのようになっているらしいイヤリングにコピーしていたが、
コピーが終わるとほぼ同時にスルーしていた言葉を思い出した。

「Sランクじゃないと使えないのか、もしかして」
「ええ、そのぐらいの力がないとデバイスが応えてくれないみたいね。
フェイトでもダメだったぐらいよ」
「・・・使えません」

俺はがくっと、肩を落としながら告白する。
だが、プレシアは初めからそんなことは分かっていたとばかりに、
動ずる気配を少しも見せることがなかった。

「それじゃあしょうがないわ。
でも、一度あげたものを引っ込めるわけにもいかないし、
かと言って役に立たないものでは取引にはならないわね・・・」

それどころか、ポーズは悩んでいるらしい格好を取ってはいるが、
この一連の流れは彼女の中で既に規定事項なのだろう。
結局悩む素振りすらほんの一瞬で、すぐに言葉を続ける。

「それじゃあ、代わりを見つけるまでフェイトを担保として預けるわ。
これから管理局に出頭する私には不要だし、丁度良いわ」
「おいこらっ!?
・・・って管理局?」

あまりにも突然のキラーパスに思わず突っ込みを入れた俺だったが、
すぐにその先の言葉に対する疑問が生まれ、せっかくの突っ込みが埋もれてしまう。
プレシアは俺の疑問に答えるように、ひとつ肯きを返すと一歩俺の前から離れる。

「ええ、管理局でもこの事件についてはある程度掴んでいたようよ。
実際、一度は現場に現れたのは間違いないわね?」
「まぁ、俺も立ち会ったからな」
「だったら、犯人がきちんと出頭しなければ、またそちらの世界に介入する切欠となってしまうわ。
・・・さっきの白い女の子なんて、管理局にしてみれば喉から手が出るほど欲しい人材でしょうしね」
「そ、それは・・・俺の不手際だな、スマン」
「そう思うんだったら、余計にフェイトを預かってもらえるかしら?
普通の女の子のように過ごせるようになってくれれば良いわ」
「・・・分かったよ」
「恐らく、拘留は一年程度で済むはずよ」

どうやら管理局に出頭するという彼女の意思は固いようだった。
了承した俺に対して再度、念を押すようにフェイトのことを頼むと、
ゆっくりとした動作で俺に背を向けた。

「・・・そうそう、あの子に一言だけ伝えてもらっても良いかしら?」
「何だ?」

俺が彼女の背中に向けて問いかけると、
プレシアはこちらに背中を向けたまま真摯な口調ではっきりと言葉に出した。

「大嫌いでいないといけなくて、ごめんなさい」

言葉と同時に、転移した。
・・・俺が。





「うっそーーーーーーっ!!?」

次の瞬間、俺は空の真中にあった。
無論、魔力を使い果たして、尚且つ火事場の馬鹿力まで絞りつくした俺に
もう浮遊魔術など使う余裕がないのは・・・言うまでもないっ!?

「いきなり死ぬっ!!?

・・
・・・あれ?」

じたばたと、悲鳴をあげながらも空を翔けるようなクロールで何とかならないものか、
と抵抗していた俺だったが、いつまで立っても身体は落下する気配を見せなかった。
・・・ニュートンを超えた?

「・・・アニキー、眼を開けろ、眼を」

そんな馬鹿なことを考えていた俺に、良く聞きなれた声が掛かる。
空にいる、と認識したときから固く閉ざされていた俺の瞳をゆっくりと開けると・・・、
魔力の泡のようなもので包まれた俺が、じたばたと暴れているという微妙にシュールな光景だった。
ともかく、その泡のおかげで俺は落ちずに済んだようである。

「・・・よぉ、ヴィータ。
お疲れ様」

俺を助けてくれた恩人らしき、真っ赤なゴスロリ少女に軽く手を上げて挨拶。
ちょっと離れた場所では、ユーノが呆れた顔でこちらを見つめ、
アルフは腹を抱えてげらげらと笑っていた。
・・・ちくしょう。

「・・・ばぁーか、お人よしっ」

俺が自分の間抜けっぷりに黄昏ていると、ヴィータが再び声をかけてきた。
自分が作った泡状の結界をやぶり、俺にぎゅっと抱きついてくる。
泡を失った俺もヴィータに抱きついていないと下に落ちてしまう危険性が高いので、
しっかりと抱きつく。

「・・・心配させた罰だ。
しばらくこうさせろ」

ヴィータが自分の顔を隠すように、ぎゅっと俺の胸ぐらを掴んで縮こまる。
俺はヴィータの背中をあやすようにぽんぽん、と叩いてやりながら、彼女が満足するのを待った。

「・・・ん、もう良い」

本当に少しの間で、俺への罰が終わったらしく、ヴィータはそのまま俺を連れて地面に降りた。
下にはユーノとアルフの他に、当然だが、なのはとフェイトの姿が見える。
フェイトは何処か嬉しそうに、そして何処か悲しそうに泣いていた。
なのははそんなフェイトの心を2人で分け合おうとでも言いたげに、
ぎゅっと両腕に力を込めてフェイトを抱きしめていた。

「・・・どしたの?」
「この2人の決闘が終わったあと、アニキたちの様子をモニタしてたんだよ。
・・・後は、まあ・・・分かるだろ?」

俺と同じように2人に視線を向けながら、ヴィータが頬をぽりぽりと掻きながら答える。
・・・モニタされてたのか、気付かなかったな。
いや、もしかしたらプレシアは気付いていたのかもしれないが。

「・・・そっか」
「・・・で、フェイトはウチで預かるのか?」
「ああ、そのつもりだ。
はやてにもちゃんと話さないとな」
「そーだな。
まぁ、はやてなら大歓迎だろうけど」

俺とヴィータがそんな事後報告をしあっていると、なのはとフェイトの抱擁もひと段落したようで、
彼女たちがそっと離れた。

「なのはっ!」
「フェイトっ!」

そんな2人に、一目散に駆けつけたのは互いの使い魔・・・もとい、
使い魔であるアルフと協力者のユーノである。

「なのは、悪いけど僕もすぐに管理局に出頭するよ。
集めた分のジュエルシードを全部管理局に引き渡して、
フェイトのお母さんにかかる罪がなるべく少なくなるように尽力する!」
「フェイト、あたしはプレシアのこと嫌いだったけどさ。
やっぱりフェイトの母親だったよ、・・・あたしもユーノについていってプレシアを助けるよ」
「じゃ、じゃあわたしも・・・!?」
「ダメだよっ、フェイトっ!
フェイトは今日から普通の女の子なんだ。
プレシアのことはあたしに任しておきなっ!」

アルフは自信満々に言い放つが、やはり心配なのだろう。
フェイトはもごもごと、口の中で言うべき言葉を捜しているようだった。
そんなフェイトの心情を表すかのように震える彼女の手をそっと、なのはが包み込む。

「・・・大丈夫だよ。
ユーノ君、アルフさん、フェイトちゃんのお母さんのこと、よろしくお願いします」
「任しておいて、なのは。
・・・事が片付いたら、また会いにくるよ」
「おうっ、フェイト、行ってくるね!」
「・・・うん、ありがとう、2人とも」

なのはに諭されたフェイトの言葉を聞いた2人が、すぐに転移陣の用意を始める。
さすがに早いな。
あっと言う間に転移ゲートが完成し、2人が軽く息を吐いた。

「本局までの転移・・・、ちょっときついかな」
「あたしもサポートしてやるから、しっかりやるんだよ!」
「そうだね、あまりぐずぐずはしていられない。
・・・行くよっ!」

そうして、ユーノとアルフはこの地球という舞台を後にしたのだった。
なのはとフェイトを残して・・・。





その後、なのはとも別れた俺とヴィータとフェイトの3人は、
ぶらぶらと八神家への道のりを歩いていた。
ちなみに、今は誰も言葉を発しない。
フェイトがこれからお世話になる家はどんな所だろうと、
緊張に身体を固くしてしまっているのが原因だ。
そのためか、さっきから何を聞いても、

「よ、よろしくお願いしますっ!!」

としか言ってくれない。
・・・壊れた玩具か。
ヴィータとフェイトの相性は良く分からないが、はやてとフェイトの相性は悪くないはずだ。
すぐに打ち解けて仲良くなれるとは思うけどね・・・って。

「おっ、着いたぞ、ここだ」
「あっ、はい、よろしくお願いしますっ!」
「何だか段々面白く感じるようになってきたぜ・・・」

ヴィータがげんなりとした顔つきで、
オウムのように繰り返されるフェイトの発言にどうみても取り繕いとしか思えない言葉を返す。
俺も苦笑を返し、勝手知ったる我が家のごとく、チャイムも鳴らさずにドアを開ける。

「ただいまーっ」
「ただいまー」
「お、お邪魔します・・・」

俺とヴィータの後に続いたフェイトのお客様然とした口調を訂正させようとして、気付く。
・・・あれ?
靴が3つ?
玄関には、フォーマルな感じの革靴とお揃いと思われる女性用のブーツが2ペア、並んでいた。

「ヴィータ、今日お客さんが来るとかって聞いてる?」
「・・・いや、聞いてねぇぞ?」

俺とヴィータは首をかしげながら、取りあえず客が来ているのならば挨拶に行かねばならぬだろうと、
客間に足を向けた。
フェイトも状況は良く分かっていないようだが、大人しくついてくる。
んー、病院の関係者かな?
そう思って俺が客間の戸を開けると、

「あ、おかえり、兄ちゃん」
「お邪魔しているよ」
「こんにちは」
「はろ〜」

はやてと、それから彼女と向かい合って座っている
髭がダンディな老紳士ときわどい感じのミニスカートを穿いた女性2人が、待っていたのである。

・・・え、足長おじさんにぬこ師匠っすか?
うそー?

(続く)