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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第13話』


今さら言うことでもない話だが、物語には結末が存在する。
願わくば、その結末が『末永く幸せに暮らしました』であることを祈る。
何も聞かずに俺を笑顔で見送ってくれたあの子も。
立ち塞がる敵と友達になりたいなんてことを言うあの子も。
そして、母親に愛されたかっただけのあの子も。
みんなが幸せに暮らしました、と言える日が来ることを祈る。

「・・・ジュエルシードが2つあれば、俺1人の力でも時の庭園に跳べるはずだ」

次の休日のことだ。
俺は、まだ眠りから覚め始めたばかりの住宅街の真中で顔を上げる。
今頃、なのはは決闘の場に向っているはずだ。
フェイトももう時の庭園には居ないだろう。
2人のことが気にならないと言えば嘘になるが、
だからと言ってやるべきことを放棄するわけにもいかない。
・・・クロノを退場させてしまった以上、俺がなんとかしないといけないのだ。

「よしっ」

パンっ、と両手で自分の頬を強めに叩き、気合を込める。

「『よし』じゃねーっ!」

バカァっ!!

「痛いっ!?」

いきなり後頭部に走った痛みで、眼の奥に星が散った。
じんじん、と熱を放つ患部を両手で押さえながら振り向くと、
そこにはバリアジャケットを着込みデバイスを肩に担いだ三つ編みの少女が立っていた。
その瞳は怒りで吊り上がり、
今にも手に持つハンマーをもう一度こちらに振り下ろしてきそうな雰囲気である。

「・・・ヴィ、ヴィータ?」
「おいこら。
あたしはアニキになんて言った?」
「・・・へ?」

ずい、と顔を近づけてこちらを見上げてきたヴィータのきつい視線と、
投げかけられた質問のギャップに俺は疑問符を浮かべるばかりだった。
その質問の意味に俺が気付きそうもないと判断したヴィータは、
もう一度グラーフアイゼンを眼にも止まらぬ速度で振り下ろした。

「っひえっ!?」
「・・・だ」

俺の顔の目の前でピタリ、と止めたデバイスの陰に顔を隠したヴィータが何かをぼそり、と呟いた。

「すまん、聞こえなかった。
もう一度言ってくれ」
「・・・だぁーーっ!?
空気読めよ、アニキっ!
そこは例え聞こえなかったとしても、察してくれよっ!!
あーもうっ!
めんどくせーっ!!」
「・・・はぁ」

シリアスな雰囲気を一変させて、
デバイスをぶん投げるように地面に落としたヴィータが、がしがしと頭を掻き毟った。
・・・そんな風にすると、髪が痛むぞ?

「あたしはアニキと協力関係なんだっ!
それにあたしの実力はアニキも知ってんだろっ!!
だからアニキがやらなくちゃいけないことがあるなら、手伝ってやるって言ってんだ!!」
「ああ、そういうことか。
でも・・・」
「でも、は禁止だっ!
いいかっ、あたしは家族が困ってるのを見過ごせねぇ!!!」

ヴィータはそう言ってから、急に顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
はて、どうしてしまったんだろう?

「ヴィータ・・・?」
「あ・・・」

俺が話しかけると、ヴィータは慌てたように両手をぶんぶんと振りまわしながら叫んだ。

「う、ううううう、うっせーっ!
どうせ情が移っちまったよっ!!
わりーかっ!!!」
「・・・ああ、そういうことか。
すまん、ヴィータ。
そうだったな、俺もヴィータのこと家族だと思っている」
「・・・お、おう」
「だからさ、手伝ってくれないか?
俺だけじゃ、手が廻らないところがあるんだ。
ヴィータが手伝ってくれれば、百人力だ」
「おうっ!
・・・さ、最初っから、そう言やいいんだっ」

俺は嬉しそうな顔をして返事をしてくれたヴィータを見て、
一つだけあった懸念を埋めてもらうことにした。
・・・うん、これで安心して決戦に臨める。



「・・・で、あたしはその小娘2人の決闘に立ち会えって言うのか?
その間に、アニキは敵の本拠地に乗り込むと」
「ああ、頼まれてくれるか?」

俺の頼みとは、ヴィータになのはとフェイトの決闘の見届け人になってほしい、というものだった。
俺の話を聞き終えたヴィータは少しだけ考え込む素振りを見せたが、
すぐに首を捻ってこちらに声をかけてくる。

「普通逆じゃねーか?
あたしの方がストライカー適正は圧倒的に上なんだ、あたしが敵陣に前衛として突っ込むべきだろ?」
「それはダメだ。
俺は戦いに行くんじゃない、説得に行くんだからな。
だが、一筋縄で行く相手にも思えん。
ヴィータは余計な横槍が入らないよう2人を守ってやってほしい」
「・・・はぁ、わぁーったよ。
ここでさらにゴネても仕方ねー。
ただしっ!!」

ヴィータは俺にじっと視線を向けたと思ったら、
諦めたかのようにため息を吐いて俺の提案を受け入れてくれた。
・・・と思ったら、何かお話があるようだ。
俺に可愛らしい人差し指を向けて、一度話を区切ってから言葉の先を続ける。

「ぜってー、無事に帰ってこい。
傷一つでも負ってたら、その分だけアイゼンでぶん殴る。
わぁーったな?」
「・・・傷一つってなぁ、そりゃちょっと厳しいかもしれないな。
せめて傷二つまでは勘弁してくれ」
「・・・ぷっ、あははははっ!
アニキ、どこまで情けねーんだよっ!」

俺があまりにも真面目な口調でヘタレなことを言ったからか、ヴィータが耐えきれずに吹きだした。
彼女は情けない、と俺を叱ったが、その声は優しさが込められている。
俺はヴィータのおかげで、大分気持ちが落ち着いてきたのを感じていた。
・・・ガラにもなく、緊張していたのかね。

「しょうがねぇから、アニキが無事に帰ってこれるようおまじないをしてやるよ」

笑っていたヴィータだったが、何かを思い出したらしい。
そんな言葉を出すや否や、無造作に浮き上がったヴィータの顔が俺の目の前にまで迫ってくる。
俺が何か言うよりも、顔を動かすよりも早く、彼女の唇がさっと触れて離れていった。

「な、なんだか知らねーが、こっ恥ずかしいな。
な、なんか顔があちぃ気もするし・・・ま、まぁ何でも良い!
いいか、あたしはあたしの役目をしっかり果たしてやるから、
アニキもぜってーやり遂げてみせろよなっ!!」
「・・・あ、ああ」

一瞬のうちに、ずざざざざ、と音を立てて高速で後ずさりしたヴィータが、
慌てたように早口で捲くし立てた。
そのまま彼女は、呆気に取られた俺を放置したまま、空を翔けていく。
一人残されてしまった俺は、
確かにコレで負けたら男が廃るか・・・絶対に無事に帰らないとな、
と放心した頭で決意を新たにするのだった。





「・・・ここが、時の庭園か」

俺が以前にサーチを済ませていた座標へと転移で辿り着いてみると、
その場所はまるで洞窟を削りだして作った年代モノの城のようだった。
立ち止まり見回してみると、通路は中庭と城の奥へとそれぞれ通じていた。
俺は一つ大きく息を吐くと、ゆっくりと奥へと向けて歩き出す。
・・・敵はいなかった。
侵入者に気付かないほど、この城の主は疲弊しているのか、
それとも防衛機構を発動させるまでもないと、そう判断されたのか。

「まぁ、気にしても仕方がない、か」

俺はセイを握り締め、バリアジャケットを纏うと城の奥へ奥へと進んでいく。
すぐに、その場所へと辿り着いた。
玉座の間、とでも言うべき部屋。
がらんどうの大部屋には、1つだけ、ぽつんと大きな椅子がある。
そこには、1人の女性が大きな椅子に腰掛け、宙に浮かんだ画像に視線を向けていた。
俺に気付いたのか、ちらり、とこちらにつまらなそうな眼差しをよこす。

「やぁ、初めましてかな、プレシア・テスタロッサさん」
「・・・ふん」

フレンドリーを心がけて挨拶をしてみたら、鼻で笑われた。
・・・俺がジャニーズ系じゃないからダメだったのだろうか。

「それとも、あの子をモニタしていて、俺のことを既に知っているのかな?
それなら話は早い」
「・・・オマエのことなんて知らないわね。
でもどうでも良い。
やることは一緒よ」

気だるげな仕草で、プレシアが腕を持ちあげた。
何も持っていなかったはずの手には、いつの間にか杖が握られていた。

「消えなさい」

瞬間、紫色の雷光が走る。
大部屋を埋め尽くすように這う紫の蛇は、互いにぶつかり合い、
バチバチと音を鳴らして部屋中で爆発を起こした。

「・・・フェイト、あの子じゃダメね。
こんな雑兵にあっさりこの場所を掴まれるなんて・・・ホント、使えない失敗作」
「失敗作?
俺にはアレが失敗作とは到底思えないぜ」
「・・・私のことは調べてきたようね」

プレシアの魔法を防御した俺の言葉に、
彼女は動揺した気配も見せずに淀んだ視線をこちらに向けた。
不自然なまでに青ざめている顔色と、くすんで艶を無くした髪、
かさかさに乾いた唇からは時折ひゅーひゅー、と言った不均一な呼吸がもれており、
俺の目から見たプレシアは、もう単発の魔法操作だけでさえ限界に近いように思えた。
濁った澱のような瞳は、こちらを見ているようで、どこも見てなどいない。
・・・恐らく、肺を蝕む病気は、呼吸器のみにあらず内臓や脳まで影響を与えているのだろう。

プレシア・テスタロッサは、明らかに狂っていた。

「セイ、オマエのデータベースを借りるぞ。
ジュエルシード解放」
『Amplify & Medical examination』
「・・・見たことのない術式ね。
それにロストロギアの制御とは・・・、何者?」

俺の魔法を見て、少しはこちらに興味を持ったのか、
ようやく俺を意識の中に入れたプレシアは、それでも俺の攻撃など何とでもなると考えたのだろう。
何をするわけでもなく、ただ俺の前に立ち尽くした。

「・・・随分余裕だな」
「そうね、今はオマエを捕まえた後、
どうやって制御方法を聞きだしてやろうかと考えるので忙しいわ」
「そうか・・・ソイツはゴメンこうむりたいな」

軽口を叩ける程度には、まだ冷静なところもある。
俺はそれに気付くと、にやり、と唇を不敵に持ち上げた。
どうやら、ジュエルシードで増幅した俺の治療魔法で、治せないレベルではないらしい。
後はこっそりとやっているセイの診断が終わるのを待つだけか。

「・・・何が可笑しいのかしら?」
「なに、ちょっとだけ青臭いことを吐いてみようと思ってな」

俺はこの場にいないクロノの代わりに、お決まりの台詞を口にする。
正直、時間稼ぎ以上の意味なんてないが、その時間稼ぎが目的なのだから、構わないだろう。

「世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだ。
いつだって誰だってそうなんだ。
こんなはずじゃない現実から逃げるか立ち止まるかは個人の自由だ。
だけど自分の勝手な悲しみに無関係な誰かを巻き込む権利は誰にもありはしない!」
「・・・それで?」
「そんなことを正義感に燃えた管理局の執務官なら吼えるんじゃないかなと思って。
ま、大きなお世話だよな。
そんな分かりきった言葉で説得されるようなら、初めからんなことせんわ」
「・・・」

正直、役所の人間にそんなこと言われても俺は綺麗事にしか思えない。
公益、などという言葉で何でも誰でも好き勝手に巻き込む上、
『決まったこと』だと逆らうことを許さないのが役所だしなぁ。

「ま、何が言いたいかと言うと、好きなようにやればいい、ってことだ。
誰かを巻き込むのも、誰かを利用するのも、誰を作るのもプレシアさんの自由だ。
ただ、俺がそれを邪魔するのも自由だろってことだ。
どうも子供が大人の都合で利用されるのが好きじゃなくってね」
「・・・そろそろ煩わしくなってきたわね」

プレシアの瞳が殺気を帯びる。
ただでさえ時間のない彼女だ。
こんなあからさまな無駄話に付き合う余裕はないのだろう。
だが・・・なんとか無事に診断結果が出たようで。

「さて、時間稼ぎは終わりだ。
実は俺は医者みたいなものでね。
プレシアさんの病気を診察させてもらった」
「・・・なっ」

初めて彼女に動揺の気配が窺えた。
セイがよこした診断結果は、小細胞肺癌と、それに伴ういくつかの合併症状。
・・・進行性の早い病気だ、やはり脳にまで転移が進んでいる。

「結論から言おう。
ギリギリのところだが、俺には治せる。
・・・治療を受けてくれないか?」
「何を企んでいるの?」
「何も。
・・・そうだな。
報酬としてフェイトを貰えないか?
失敗作なら構わないだろう?」
「・・・」

俺の言葉にプレシアの表情がかすかに強張る。
・・・それだけで、俺は彼女に賭けてみることにした。
あの子が母親に捨てられることに耐えられる強い子だからって、わざわざ辛い道を選ぶ必要もない。
そんな辛酸辛苦から逃れられる方法があるのであれば、それをどうにか掴み取ってやりたかった。

「冗談だ。
無償で構わない、元々押しかけでやってきたんだ」
「信用できないわね。
・・・げほっ、ごほっ」

ぜひ、ひゅー、という質の悪い笛のような甲高い音がプレシアの喉から漏れた。
呼吸をするだけでも身体が痛むのか、表情を軋ませる。
彼女の手から握力が抜けたのか、からんからん、と音を立てて杖が転がった。

「・・・どうせ悪魔に魂を売った身。
アリシアとともに生きられるのなら、もう、どうなっても良いわ」

・・・発作がおさまると、プレシアは倦厭した雰囲気で憂鬱そうに呟いた。
狂気に血走った視線をこちらに向けた彼女の雰囲気は、最早何が目的だったのかすら、
明確には覚えていないのではないか、と俺に思わせる。

「・・・アリシアを生き返らしてどうするんだ。
死んでいく自分を看取らせるために生き返らせるのか?」
「アルハザードへと辿り着ければ、私も治せるはずよ」
「可能性があるだけだろう。
アルハザードへ行けたとしても、
目的を果たすまでにどのくらい時間がかかるかも分からない」
「五月蝿いわ・・・」

再び紫電が駆けた。
だが、自然の脅威の代名詞とも言える雷は対策だって充分に研究されてきたのだ。
そう何度も受けてやる義理もない。

「避雷結界」
『Lighting rod』

予め用意していた術式により、部屋中に雷ストリーマを発生させる避雷針が突き出してきた。
ほとんどの稲妻がそちらの方向へと吸い込まれていき、
俺に届くのは、かすかに肌がぴりぴりする程度の残りカスに過ぎなかった。
・・・とは言え、実はこの魔法は結構魔力を喰う。
現実問題、後2〜3回程度しか使えないだろう。

「よしっ!
こうなったら勝手に治しちゃる!!」

俺は声を張り上げた。
この距離、そして免疫系がズタボロのプレシアであれば遠隔治療も可能のはずだ。
すぐさま、セイのデータベース上にある治療プロトコールを引き出し、適切な対処を選択する。

「超高速治療だ。
癌細胞の自死、同時に正常細胞の保護、不足する臓器細胞の補填のための細胞分化促進。
・・・いけるか?」
『Apoptosis & Cell protection & High speed differentiation & Recovery』
「っ!?
何をするつもりっ!!」

プレシアが叫ぶが、もう同意など知ったことか。
こちとら医師免許を持っているわけでもない、勝手に治療してしまうだけだ。
俺は治療開始をセイに言い放った。

「始めろっ!」
『Medical treatment』
「止めなさいっ!!」

如何に優れた魔道師といえど分子量数万ほどの微小単位の挿入単位配列を、
結界で防ぐことなどよほどの準備と設備が無ければ出来はしない。
・・・奇しくもプレシア自身がそれを良く理解しているのだろう。
何しろ、彼女自身の張った防御結界がヒュードラの暴走で発生した微粒子状エネルギーの前では
役に立たなかったせいで娘を失ったのだ。
そして、俺の魔法が発動した。



「い、一体何が・・・」

一瞬、青い光が室内を満たしたと思った、それだけの間に治療は終了していた。
プレシアは未だ状況を理解できないようで、呆然とした顔で呟いただけである。

「う・・・あ・・・あああ・・・」

そう思ったら突如、頭を抱えてうずくまる。
俺が何か思いもよらぬトラブルが起こってしまったのか、と彼女へ向けて駆け寄ろうとした瞬間、

「ああああーーーーーーっ!?」

プレシアが叫んだ。
瞳からは涙をぼろぼろと零し、ヒステリックに喚きたてる。

「アリシアっ!
アリシアっ!!
私が、私が・・・っ」

言葉にならぬ言葉を発し、誰もいない虚空へと腕を伸ばす。

「・・・まずいな」

プレシアはひどく混乱していた。
今まで彼女は狂うことによって何とか心の平穏を保っていたのだ、ということに俺はようやく気付いた。
病気の治し方も問題があったらしい、
もしかしたらヒュードラの事故を彼女にまざまざと思い出させてしまったのかもしれない。
俺が対応を考えていると、プレシアは地面に転がる杖を拾い、
幽鬼のようにゆらりと力無く立ち上がった。

「・・・アリシアは何処?」

淀んだ、焦点の合わぬ瞳だった。
過去と未来が混ざり合った、現在を見つめていない眼差しのように感じる。

「・・・彼女は死んだ」
「嘘を言わないで。
あの子は昨日もここに居たわ。
・・・ああそうね、昨日はお母さん、ちょっと怒りすぎてしまったもの。
拗ねて隠れてしまったのかしら?」
「・・・その子はアリシアじゃない」
「嘘よ」
「嘘じゃない」
「嘘よっ!!」

彼女の怒気のこもった叫びと同時に、杖がこちらに向いた。
こちらが何をするよりも早く、彼女の口からたった一言、言葉が漏れた。

「プラズマランサー」

途端に虚空から現れた数十の光球から弾き出された雷の矢が、
先ほどから残っていた避雷結界を砕き、無力化していく。
プレシアはその結果を気にした素振りも見せず、杖をこちらに向けたまま続けて告げる。

「プラズマスマッシャー」

新しい結界を張る暇も無く、木偶のように光の巨槍の直撃を喰らった俺は、
なけなしの防御結界を引きちぎられバリアジャケットも一瞬の内にパージさせられてしまった。
だが逆に、バリアジャケットが弾けたおかげで俺は大した傷を負うこともなく、
衝撃に耐えることができた。
あ、あぶねーって、げっ!?
さらに追撃!!?

「・・・トール」
「く、くそっ!?」

慌ててセイを両手で掲げ持った俺は、
一度大きく振りかぶったプレシアの杖が再度俺に向けて振り下ろされると同時に、
2つのジュエルシードに込められた魔力を全て解放する勢いで叫ぶ。


「ハンマー」
「ダブルスパークっ!」

巨大な怪光を纏う稲妻の槌が、俺の放った極太の魔力光とぶつかる。
あまりの衝撃に吹き飛ばされそうになるが、俺の手を向けた方向にレーザーは進んでしまう。
歯を食いしばって耐え抜こうと気を引き締めなおした瞬間、
先に音をあげてしまったのかセイの中にあったジュエルシードが1つ、砕け散った。

「うそっ!?」

思わず集中が解けてしまい、俺は叫び声をあげてしまった。
当然のように俺が作った魔力光線は掻き消え、魔力の槌が俺を塵芥も残さぬとばかりに迫る。
絶体、絶命・・・っ!?

パキィイイイイインっ!!!

思わず眼を瞑ってしまった俺の耳に、金属が弾け飛ぶような音が響いた。
1秒、2秒、3秒・・・。
何時まで経っても襲ってこない衝撃に目を恐る恐る開いた俺の視界に飛び込んできたのは、
プレシアの手の中で、彼女の魔法の負荷に耐え切れなかったのか、
真っ二つに砕けてしまった杖だった。

・・・あ、ありえねーっ。

って言うか強すぎだよっ、この女っ!?

「・・・全盛期の頃まで魔力が戻っているようね」

自分の腕の中にある壊れた杖を見下ろしながらプレシアが呟く。
少しは先ほどの混乱から立ち直っているようであるが、・・・まだ油断できん。
こうなったら、こっちも奥の奥の奥の手・・・本当の最終手段を出すしかないか。

「武器を失ったところ悪いが、戦闘不能にさせてもらう」

俺はズボンから10mLの液体が入った一本の試験管を取り出し、一気に呷る。
この中には、遺伝子組換え乳酸菌が10の9乗ほど生育している。
組換えた遺伝子は、ずばり、微生物のリンカーコアを肥大させるための遺伝子である。
そもそも、リンカーコアというのものはやはり、生物体にごくごく普通に存在するものなのだ。
セイに存在する莫大な生物種の遺伝子情報から、
リンカーコアの存在が普遍であることが示唆されていた。
もっとも数多くの人間や動物はそのサイズが微小であることが多く
外部環境にも働きかけることがないため、物理科学的スキャンで測定することができない。
そしてジュエルシードやその他の魔道具を擬似的なリンカーコアとできるのならば、
身体に取り込んだ他の生物のリンカーコアも、擬似的に己の魔力とできるのではないか、
と考えたのが出発点だったりするのだが・・・。

「さぁ、最後の一発といこうかっ!」

どちらにしろ、これが上手くいかなかったら後がない。
小難しい理屈は、上手くいったらそのときに考えれば良い!!

「これが俺の!
全力!!
全開!!」

両足を精一杯踏ん張り、腰を落として両腕をプレシアに向ける。
彼女はまだ呆然とした様子で何事かを、ぶつぶつと呟いていた。
やっぱり戦闘不能にしなければいけなかった己の能力不足を少しだけ嘆き、
首を振って惰弱を追い払う。

「ビリオンっ、スパーーーークっ!!!」

一つ一つはちっぽけな、Fランクにも満たないリンカーコアであっても、
それが10億も集まれば脅威と化す。
そんな反則に近い、俺のとっておきの集束砲は、
玉座の間を吹き飛ばさんと高らかに咆哮を上げて突き進み、あっと言う間に彼女の姿を飲み込んだ。

「・・・え?」

その瞬間、器量に対して力を使いすぎた影響か、
俺の意識が、ぶつり、とブレーカーが落ちるように途切れた。

(続く)