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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第10話』


次元を震わす極光が観測された夜が終わりを告げ、その翌日が普段と変わらずにやってきた。
街の住人たちは既に朝の支度を終え、それぞれの生活を始めているだろう時間。
本来ならば、俺も朝食を終え、病院にリハビリに行くはやてを送る準備をしているはずの、午前8時。
俺は遠見市にある住宅街の一角、高級そうなマンションの屋上に立ちつくしていた。

「・・・そろそろかな」

腕時計を眺めて、俺はゴクリと息を飲み込む。
400メートルほど向こうに建っている同じような高層マンションには
こちらをモニタしているヴィータとはやてが居るはずだ。
相当厳重にステルスをかけているせいか、
使っているはずだと分かっている俺ですら魔力をキャッチすることは出来ない。

・・・ちゃんとモニタしてるよな?

何と無くそんな不安を抱いてしまうが、気にしていても仕方が無い。
俺は心を切り替えて、屋上に出るための扉をジッと見つめる。


ぎぃっ・・・


開いた扉から、少女が一人、屋上に立ち入った。
陽の光に煌く金髪のツインテールを、屋上の強い風で揺らす小学生らしき人影。
手には、お菓子と思しき紙箱を抱えている。
まさか、早朝の屋上に人がいるなど思いもしなかったのだろうか。
少女の視線が俺に向かい、そのぱっちりとした瞳をぎょっと見開かせて立ち止まった。

「ひ・・・」
「フェイト?
急に立ち止まってどうしたんだい?」

俺が声をかけるより早く、後ろからもう一つの人影が、ぬっ、という感じで現れた。
少女よりもかなり上背があるからだろう。
少し腰を折り曲げて少女の様子を伺いながら俺の視界に入ってきた新たな人影は、
まだ俺には気付いていない様で固まってしまった少女のことを気にかけている。

「・・・ん?」

だがまぁ、遮蔽物もないこんな場所で、いつまでも俺に気付かない訳もない。
何しろ別に隠れてもいないし。
炎のような赤色の長髪をなびかせたラフな格好をしているその女は、
ようやくこちらに気付いたようである。

「・・・なんだい、アンタ」

・・・こわっ!?
その眼光の鋭さに思わず回れ右して帰りたくなった俺だが、何とか立ち止まる。
尚もガンをつけてくる狼女から必死に視線を逸らしながら、少女に向けて声をかけた。

「久しぶりだな、お客さん。
あれから景気はどうだい?」

少し声が震えたが、何とか怯えた感じを見せずに振舞うことが出来た。
少女も警戒を込めた視線をこちらに向けていたが、
その言葉でようやく俺が誰だったかを思い出したのだろう。

「・・・ああ。
商人さん、お久しぶりです。
えと・・・ぼ、ぼちぼちです」

ちょっとだけ口の端を緩めて、少女は俺に挨拶を返してくれた。
・・・何かいつの間にかお茶目になったか?

「フェイトっ!!
コイツが以前言っていた悪徳商人なのかいっ!
アタシたちの前に堂々と現れるなんて、血迷った選択をしたものだねっ!!」

気の緩んだ俺を脅かす敵意は少女の横からやってきた。
俺の頬がひくひくと強張るぐらいの凶悪な視線を浴びせながら、
犬歯をむき出しにした狼女がこちらに比喩表現抜きに噛み付かんばかりの大声を張り上げた。

「こんな下種と話すことなんてないからねっ、フェイトっ!
あたしが直ぐに叩きのめしてやるっ!!」
「・・・アルフ。
ダメだよ、そんなこと言っちゃ」

少女は柳眉を下げて自身の使い魔を諌めてくれたが、狼女はそれでも納得がいかないようだ。
ご主人様を俺の視界に入れないように一歩大きく前へ出ると、

「ガルルルルっ!」

威嚇を込めた唸り声を上げる。
・・・それにしても、この女、マジ怖えー。

「アルフ、・・・お願い」
「フェイトのお願いでも聞けないよっ!
この男はフェイトが世間に疎いのを利用して、悪い商売を吹っかけてきたんだっ!
フェイトが許しても、このあたしが許しゃしないよっ!!」

珍しくも自分の意見に逆らったからか、狼女を諌める手を緩めて、
どうしたものか、と戸惑いを浮かべる少女に俺はため息を一つ。
・・・怖いけど、まぁ、やるしかないか。

「あー、ちょっといいか」
「なんだいっ!
謝っても無駄だよっ!
あんたはしっかりと叩きのめしてやるからなっ!!」

感情的にがなり立てる狼女を、怯まずに見つめ返す。
いきなり殴りかかってこなかった以上、こちらにも対処の仕様がいくらだってある。

「そっちの使い魔のキミは、
ジュエルシード1つの値段が10万円だっていうのが高すぎると思っているのか?」
「・・・うっ!?
そ、そりゃ、ジュエルシードの価値から言えば安すぎる気もしないでもないけど・・・」
「じゃあ問題ないだろ?」

俺はしたり顔でそう言ってやると、対峙している狼女は一瞬うっ、と怯んだ表情を見せるが、
自分の主人の方を振り向くと、すぐに反論を思いついたようだ。
こちらに向けて、再び声を張り上げる。

「いや、あるよっ!
安すぎるのも実に怪しいし、そもそもこんな小さい子から大金を巻き上げるなんてのがダメだろっ!!」
「・・・それについては弁明の仕様がないな。
普通にすまん」

俺はペコリと彼女たちに頭を下げる。
確かに体裁は悪いし、何より俺自身悪いことをしたかも、と思っていたし。

「俺としては、その子に退いて貰えればそれで良かったんだ。
だからあんな方法をとったわけだけど、・・・まぁ、金銭を介した取引をすれば一番穏便かな、
と思ってな。
俺だってあまり気が進まなかったんだけど、
初めて対峙したときはとても年相応の落ち着きじゃなかったし、もしかしたら、
変身魔法でこちらの油断を誘っているのかも、とか思ってたわけだ。」

それから俺はオーバーな感じで両手を掲げ、
『Oh,No!』と言った風に肩をすくめる。

「大体、俺が彼女に狙われてだ、まともにやって勝てると思うか?」
「・・・そりゃ確かに。
魔力は弱そうだし、身体つきだって普通そうだ。
まぁ、フェイトと戦うなんて選択を選ばなかった時点で、
自分ってやつが分かっているって言ってもいいのかもしれないねぇ」

俺をじろじろと胡散臭げな目つきで眺めながら、失礼なことを言う狼女に顔を顰めてみるが、
・・・自分から言い出したことだしな。
諦めてため息を一つ零した俺の前に、
狼女の後ろに所在無さげに立っていた少女が数歩前へ出ると俺に向けてペコリと頭を下げた。

「あの、すいません、ウチのアルフが失礼なことを・・・」
「気にしなくていいよ。
キミみたいな小さな女の子を騙すような行為がよくないのは本当だし、
俺がキミとまともにやっても勝てないのも本当だ」

俺がそう言ってやると、少しだけ、ほんの少しだけ笑顔らしきものを浮かべてくれた少女は、
何かに気付いたのか、きょとん、とした顔をして再び口を開いた。

「あの、そう言えば、喋り方は・・・」
「・・・ああ、忘れてくれ」
「・・・?
えぇっと、忘れるんですか?」
「ああ、あの時は少々テンパっていてな。
互いのためにも、水に流してくれるとありがたい」

その大きな瞳に不可解の色を浮かべる少女に、
俺は気になっていたことをついでに尋ねてみることにした。

「・・・そう言えば、有り金を全部渡してくれたんだよな?
その後、大丈夫だったか?」
「・・・はい。
もう住む場所も決まってましたし、雑貨品とかも揃えた後でしたし・・・」

少女は無表情で、こくん、と頷いてくれたが、
その隣に再び並んだ狼女は大分緊張感が抜けてきたのか、
世間話でもするかのような呆れた声を出した。

「何言ってるんだい、フェイト。
食べるものもなくて、私と合流するまでずっと何も食べてなかったじゃないか」
「・・・ア、アルフ、それはナイショに・・・」
「げ・・・」

少女は頬をかすかに赤らめて、自分の使い魔の発言を止めようと口を塞ぐが、
もう聞こえてしまった。
・・・さすがにそれはマズいことをしちゃったか。

「いや、・・・ホントすまん」

改めてペコペコと、頭を下げて俺が謝ると、
フェイトも慌てた様子で心配させてすいません、とこちらに対抗するかのように頭を下げた。

「・・・何やってんだい、フェイト?」

そんな光景を使い魔は、ただ不思議そうにきょとん、と見つめていた。



「あの・・・それで今日は一体?」

ペコペコ合戦がひと段落すると、少女がおずおずとこちらに用件を尋ねてきた。
・・・しまった、普通に忘れていた。

「ああ、今日も取引に来たんだ。
ブツは・・・コイツだ」

俺は懐から『[』と刻印が打たれた碧眼の瞳を思わせる形状をした宝石、ジュエルシードを取り出した。
少女はその宝石を眼にすると、びくり、と身体を一瞬震わせる。
俺が詳しい話をしようと口を開きかけると、

「そいつを・・・よこしなっ!!」

こちらに向けてダッシュを仕掛けてきた狼女の凶手を辛うじて避ける。
無理矢理身体をひねったからかズキズキと痛みを発する腰を庇いながらも、
ジリジリと下がる俺に向けて隠すことなく舌打ちをした狼女の伸びた爪が、
俺の恐怖を存分に煽ってくれる。

「あ、あぶねーっ」
「ダ、ダメだよ、アルフ!」
「でも、フェイト!
こんな得体の知れない奴と付き合う必要なんてないよっ!
後のことは奪ってから考えればいいって!!」

・・・確かに、それも正論だな。
さて、フェイトもその気になってしまったら・・・どうしようか。

「・・・やっぱりダメだよ、アルフ」

だが、少女は首を振って自分の使い魔を諌めてくれた。
しばらく、少女と使い魔はじっと見つめ合っていたが、やはり主人の意向には逆らいたくないのか、
狼女は仕方が無い、とばかりに肩から力を抜いて一歩後ろに下がる。
・・・ただし、俺には油断なく視線を向けているが。

「すいません・・・」
「気にしなくていい、何とか避けれたからな。
で、だ。
取引に応じてくれるのか?」
「はい。
・・・その、こちらに提示する条件はなんでしょうか?」

小さな女の子らしくもない冷静な視線で、
しっかりと取引に応じようとする少女に俺は満足げな笑みを返してやる。

「キミのことを出来る限り教えてくれないか。
コレを集めている理由もだ。
教えてくれたら、この1個を報酬にあげよう」
「・・・?
分かりました、あの、話せない部分もあるんですけど・・・」
「ああ、その辺りは適当にぼかしてくれても構わない」

少女は少しの間、話すべきことと、話したくないことを選別しているようだったが、
やがて、ゆっくりとした口調で俺に自身のことを話し始めた。

「わたしの名前は、フェイト・テスタロッサです。
こっちは、狼を素体にしたわたしの使い魔で、アルフって言います。
わたしたちはこの世界とは異なる次元世界から、
お察しの通り、ジュエルシードを探索しにやってきました」

少女−フェイトは喋り慣れていないせいか、一言一言、
自分の言葉を確認するかのように区切って言葉を発する。
俺は彼女の鈴のような軽やかな声を聞き漏らさないよう、真剣な顔つきでフェイトの話を聞いていた。

「えと、それからわたしは魔道師で、雷系の魔法が得意です。
デバイスの名前はバルディッシュで、あの、あとは・・・、ええと、特にわたしについてはないです」

思ったよりも何も語ることが無い自身が情けなくなったのか、
少し落ち込んだかのようなフェイトの声が尻つぼみに小さくなっていく。

「ジュエルシードを集めている理由は・・・すいません、
わたしもよく分からないんですけど、わたしの大切な人が、
どうしても必要だって言うから、集めています。
・・・あの、喋れることなんてこのぐらいしかないんですけど」

彼女の様子に嘘をついているかのような雰囲気は見られない。
もちろん、大した話は聞くことが出来なかったが、それでも、
フェイトが懸命に彼女が知っている限りの事情を喋ってくれているのは分かる。
俺はフェイトがやっぱりとても良い子だと分かって頬が少し綻ぶのを感じながら、
彼女の話に大きく頷きを返した。


「最後に2つ・・・いや、3つだけ良いか?」
「・・・?
はい」

フェイトが頷いてくれたのを見てから、俺はゆっくりとした足取りで彼女の目の前まで近づいていった。

「・・・っ!」
「アルフ、大丈夫」

咄嗟に構えを取ろうとするアルフを嗜めるフェイトの前で俺はしゃがみ込むと、
彼女の両手を無造作に手に取った。

「あっ・・・あのっ?」
「あー、こりゃひどいなぁ」

俺の行動にぎょっとした視線を返したフェイトだったが、俺が彼女の手のひらから包帯をくるくると外し、
見るからに痛々しい傷を確認しているのを見ると、少し居心地が悪そうに視線を逸らした。

「1つ目は・・・これを治させてくれ」
「え?」
「セイ、治療だ。
熱傷浅達性U度、裂創対応」
『Medical Treatment!』

俺がかざしたセイの言葉によって出現した青白い魔法陣がクルクルと回転し、
フェイトの両手を暖かな光で照らしていく。

「あ・・・あったかい・・・」

セイの治療魔法は凶悪なまでに良く効くが、・・・その・・・何と言うか、効果が強すぎるのだ。
痛みを和らげるための効果は、逆に患者に気持ち良いと感じさせるぐらいの精度だし、
裂傷を治療するために血行を良くするせいか、身体がぽかぽかと熱くなって、
寝起きか風呂上りのようにトロン、とした気分になってしまう。

・・・実際、フェイトも未知の感覚なのだろう。

彼女は顔を頬から耳まで真っ赤に染め、どこか瞳をぼんやりと潤ませながら、
虚空をぼうっと、見つめていた。

「・・・はぁ・・・はゅ」

悩ましげな吐息を吐くフェイトの表情を見ないように心がけながら、素早く治療を終える。

「終わったぞ」
「・・・ふぇ?」

両手を離して、一歩後ろに下がってからフェイトに呼びかけてやるが、
とろん、とした瞳をした彼女はまだ夢見心地なのか、何とも可愛らしい声で返してくれた。
・・・なんだか、彼女の後ろに立つアルフも呆然とした感じで立っているし。

「おーい」
「・・・はっ!?
あ、あれっ?
痛くない・・・すごい・・・っ」

彼女の目の前でパタパタと手を振ってやるとようやく自分を取り戻したようで、
慌てた様子で自分の両手を握ったり開いたりして手のひらの傷の具合を確認し始める。
そんな彼女を尻目に、俺は、こほん、と一息吐くと彼女の眼前に二本の指を開いてみせる。

「二つ目の質問だ。
ジュエルシードは今までに何個集めたんだ?」
「・・・ええと、ご、5個です」

治療がすんで自由に動かせるからか、つい指をぱっと開いて『5』を見せてくれたフェイトは、
今度はちょっと恥ずかしそうに頬を染めながら指をにぎにぎと閉じたり、開いたりを繰り返す。

「あ・・・うぅ。
・・・す、すいません」
「気にしなくて良いよ。
・・・それにしても、ふむ」

どうやら俺が先に一つあげた分だけ収集した数は多いらしい。
これがどう出るか・・・気にしても今は仕方が無いか。

「さて、これが最後の質問だ。
・・・フェイト、キミは母親は好きか?」
「・・・え?」

予想もしなかった質問なんだろう、彼女の眼が見開かれた。
だが、すぐにはにかんだ笑顔で、フェイトははっきりと答えてくれた。

「好きです」
「そっか。
無駄につき合わせてすまないな。
・・・ほら、受け取ってくれ」

俺がフェイトに改めてジュエルシードを差し出すと、
彼女はバルディッシュを待機モードからシーリングモードに移行させる。

「あ、ありがとう・・・。
バルディッシュ、お願い」
『Capture』
「いや、こちらこそ色々聞かせてくれてありがとうな。
・・・褒めてもらえると良いな?」

俺は最後の言葉を呟くと同時に、
フェイトの反応を確認したりはせずに駆け足で移動して屋上を後にする。
・・・追いかけてはこないようだな。
少し喋りすぎたしまったことを反省しつつも、エレベーターに乗り込んだ俺は、
屋上からフェイトとアルフが転移する気配を感じ、そっと息を吐いた。

本当に、褒めてもらえると良いんだがな。





「はやて、ヴィータっ!
・・・追跡はちゃんとできたかっ!」
「問題ねー。
大分複雑な空間内だったけど、あたしにとっちゃ朝飯前ってところだったぜ」
「兄ちゃんお疲れ様―。
・・・でも、兄ちゃんはどうして飛んでこなかったん?」

俺は、フェイトとアルフから別れた後、
はやてとヴィータが待つ、ビルの屋上に息を切らせながら上っていった。
そこには、昨晩した打ち合わせ通り、車椅子に乗ったはやてとヴィータが待っていてくれた。
ヴィータが空を飛んでここまではやてを運んできたんだろう。
はやては階段を上ってきた俺を不思議そうな顔で見つめていた。

「・・・俺は人前で飛べないんだよ。
練習しないといけないよなぁ・・・」
「そうなんや・・・がんばれー兄ちゃん」
「ま、飛ぶだけなら出来ないこともないんだけど・・・」
「アニキの場合、結界系が苦手なんだ。
認識阻害や狭域結界の類で普通の人たちに
空を飛んでるところをみせねーようにしないといけないんだけど、ソイツが出来ねーんだよ。
それから速く飛ぶとなると、反動を抑制する結界の類も必要だしな」

げんなりとした俺の言葉に、応援してくれるはやてと、
的確な回答を返してくれるヴィータに苦笑を浮かべる。
っとと、それで首尾はうまくいったようだが、はてさて、俺の予想通りの場所かな?

「・・・俺のことはまぁ置いといて。
ヴィータ、転移場所の具体的な地名とかは分かるか?」
「わかんねーな。
・・・座標からして高次空間内のどっかだぜ。
ちゃんとした世界じゃねーな、異次元の島の類か、あるいは・・・?
取りあえず、アジトっぽいことだけは確かだ」
「そっか、こちらから転移して乗り込むことは可能なのか?」
「ん?
出来ねーこたないけど、乗り込むつもりか?」
「今すぐじゃないけど、いずれはする必要もあるかなーと思って。
その際にスムーズに行きたいしなぁ」
「そのときはあたしも連れてけよ、アニキだけじゃ心配だからな!」

俺の言葉にヴィータは、薄い胸をどん、と叩いて頼もしいことを言ってくれる。
・・・今のところ、ヴィータを連れて行くつもりはないが、素直に嬉しいものは嬉しい。

「わぷっ!?」

くしゃくしゃとヴィータの頭をかき回してやると、うっとおしそうに手を払われた。

「ええなー。
わたしも一緒してええ?」
「・・・それは無茶だろ」

はやての言葉に肝を冷やすが、はやては頬を膨らませて俺にダメだしを返してくる。

「そこはヴィータと同じようにわたしも頭を撫でてくれないかんで?」

・・・どうやら冗談か。
まぁはやての頭を撫でてやることはやぶさかでないので、
ぽんぽんと力を込めずに叩くように撫でてやる。
はやてがくすぐったそうに眼を細めたので、さらに頭を撫で回してみる。

「みゅーぅ。
兄ちゃんは撫でリストやなぁ」
「・・・何だそれ?」
「マッサージ師とか向いているんやない?」
「向いていてもソレを一生の職業にはしたくないなぁ・・・」

俺はバカな会話を終えて、そっとはやての頭から手をどける。
はやても満足してくれたようで、改めて先ほどの俺とフェイトの会話を思い出しているようだ。

「それにしても、あの子・・・、フェイトちゃんやったな。
うん、わたしも気に入ったで。
兄ちゃん、わたしも出来る限り協力する」
「そーだな。
あたしもはやてがソレで良いなら依存はねー。
だけど、あっちの狼女は一度シメてやるぜ!?」
「ヴィータは兄ちゃんが襲われそうになったとき、飛び出していきそうやったしな」
「・・・そうなのか、ヴィータ?」
「う、うっせ!
アニキは黙ってろ!!」

どうやら二人ともフェイトに協力したがっている俺を、さらに手伝ってくれるらしい。
俺ははやてとヴィータにお礼を言おうと向き直る。
すると、何故かはやてが苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見つめていた。

「せやけど、兄ちゃん。
ちょいとアレはあかんな。
小さな女の子からお金を強奪するのは、感心せぇへん」
「・・・反省してます。
せめて半額くらいにしとくべきでした」
「そやな。
・・・まぁそういう問題でもない気もするけど、あの子も普通の子とは違うみたいやしなぁ」

『普通』には決してカテゴリーされないだろうフェイトのことを思い出しながら、
頬をぽりぽりと掻いて妥協点を見出してくれるはやて。
うーん、遂にバレてしまったか。

「・・・で、だ。
アニキ、この後どうするんだ?」
「・・・次は・・・ま、ちょっと俺に任せてくれないか?」

俺は心の中で考えていた『次は管理局が相手かな』という言葉は発せずに、
そう言ってヴィータの問いに対する回答を濁した。
はやてとヴィータをまだ管理局と関わらせたくない以上、
管理局は俺が一人でなんとかする必要があるだろう。
俺は、無造作にポケットへと突っ込んでいた、
秘密兵器入りフラスコの手触りを確認しながら、どうしたものか、と思案するのだった。

(続く)