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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第9話』


4月26日、夜8時。
先ほど夕食を終えた俺たち3人はまったりとした時間を過ごしていた。
俺が台所に主夫のように立ち皿洗いをしている最中、姦しい2人のお姫様は・・・
何故かPCの同人STG、東方花映塚で対戦中である。
無論、はやての家にそんなものがあったはずもなく、
俺が調べモノなどで便利だからと中古の安物PCを買ってきたときについでに購入したものだ。

「ふっふっふ、ヴィータ、わたしに勝てたらアイスもう一個食べてもええで?」
「はやて、そんなこと言っていいのか?
勝負は非情なんだぜ、あたしは接待プレイなんてしらねーからな。
とは言え、騎士は一方的な勝負はうけねーっ。
あたしもアイス賭けるからなっ!」

俄然熱の篭った口調で白熱したバトルを展開しているらしき二人の方へと耳を傾けながら、
俺はそわそわとした気持ちを隠すことが出来ずに皿をいつもより2割増しの速度で片付けていく。

「・・・よしっ、片付け終わりっ!
はやて、ヴィータ、どっちが勝ってる!?」

俺は皿洗いを終えると、手を洗う暇も惜しんで居間に舞い戻った。
ばたばた、と音を立てて部屋に入り込んだ俺に、ヴィータの背中が一瞬ビクっ、と震える。

「・・・あーーっ!?」

俺の視界に入ってきたディスプレイの画面には文字が映っていた。
はやての座っている側には『人生の勝利者』、
ヴィータの座っている側には『負け犬』と・・・あー、何と分かりやすい。

「・・・アニキが突然入ってきたせいだ」

何故かこちらを振り向いてぶすっとした顔で、
そんな無茶なことを言ってきたヴィータに俺は焦りを覚える。
・・・さて、状況がつかめないぞ。

「またまた、ヴィータ。
そんなん言うてもヴィータのアイスはもうわたしのもんやで〜♪」

にやにや、と笑みを浮かべながらコントローラーを掲げて宣言するはやてに、
ヴィータがうるうると瞳を滲ませながらすがりつく。

「は、はやてぇ〜。
もう一回、もう一回お願いだっ!!」
「うーん、どうしよっかなぁ〜?」

どうやら勝負ははやての圧勝だったようだ。
それから、はやてに圧し掛かって再戦を希望しているヴィータの必死さから見て
何かを賭けていたようだが・・・食べ物かな?

「よし、ヴィータ!
今度は俺と勝負だ!
俺に勝ったら、お前の望みのモノをくれてやるぞ!!」

俺も久しぶりのゲームがしたくてたまらなかったので、はやてよりも弱そうなヴィータに狙いを定める。
案の定、ヴィータは俺の言葉に食いついてきたようで、
ばっ、とくっ付いていたはやてから勢い良く顔を上げて代わりにこちらに詰め寄ってきた。

「本当かっ!
じゃあアニキのアイスを賭けて勝負だ!」

・・・アイスを賭けてたのか。
はやての方を見ると、こくん、
と頷きを返して車椅子を器用にバックさせて俺がゲームを操作する場所を空けてくれた。
早速俺はPCを操作しやすい位置に陣取ると、パッドのキー位置を自分用にカスタマイズする。

「わたしはヴィータの応援をするで。
ヴィータ、頑張ってなーっ!」
「おう、任せとけ!
アニキみたいな未熟者に負けるわけねーが、はやてにこの勝利を捧げるかんな!」

後ろでわいわい、とはやてとヴィータが言葉を掛け合っているが、まだまだ甘いな。
・・・と言うか、ヴィータはこの前のマラソンで自分が言っていたことをもう忘れやがったのか。
油断大敵、火事ボーボー・・・それを実践してやるぜ。
このシリーズは俺もやりこんでいるし、素人には負けられねーな。

「くっくっく、能書きたれてねーでさっさとコントローラーを握りな。
ひぃひぃ言わせてやるぜ」
「ほほぅ、アニキの分際で生意気な」

にやり、と不敵に笑みを浮かべたヴィータが隣に座り込むとコントローラーを握り締める。
そして、画面に向うと彼女の瞳がすっと細まって戦闘モードに移行する。
・・・コイツ、本気だ!!
俺は彼女のやる気に冷汗を浮かべながら、逆に面白い、と凶暴な笑みを浮かべてやる。

「いいからパッドのキーを調整しな。
時間稼ぎをしてもヴィータの負けは変わらないぜ」
「必要ねーよ。
アニキこそ、負けて惨めな上さらにアイスを渡すぐらいなら、棄権しても構わないぜ。
さっさとあたしにアイスよこしな」

横目で互いににらみ合った俺たちの視線が、バチバチと火花を散らす。

「おー、いい具合に脳みそゆだってるなぁ、二人とも。
やっぱ遊びも本気でやらな、いかんなぁ」

はやてが俺たちの様子を後ろから覗き込みながら、朗らかに言った。
まるではやての周りだけ非戦闘地域のようだが、言っていることは結構物騒である。

「じゃあ俺てゐ使うから、てゐ」
「あたしはやっぱりウサギがいいなぁっと」
「お、おいっ!
ヴィータ、オマエはうどんげ使えよ、うどんげ」
「ああ?
うっせー、あたしが誰使おうとあたしの勝手だろ?」
「だからてゐ使うなってっ!?」
「よしっ、じゃあこのうさぎに決定―!」
「だから、てゐ使うなーっ!!」

「・・・何や、このやり取り」
「いや、一応お約束の意味でやっとくべきかなぁって」

はやての冷静な突っ込みで一瞬、素面に戻りかけた俺だが、
ディスプレイ上に二人のてゐが現れたことで集中を取り戻した。
隣のヴィータは、キャラ選択を終えてから、画面に向けた視線を一度足りとも逸らしていない。
面白い。
相手にとって不足はないということか。

「いくぞっ、ヴィータ!」
「かかってこいやぁ!!」



俺とヴィータの白熱した攻防も早5分が経過していた。
互いに、残り半分になったライフで必死に弾幕をかわしながら散発的にチャージショットを放つ。
二人とも、次にお邪魔キャラであるリリーホワイトが来たときが勝負の決め所だと、
同じようなことを考えていた。

・・・まだか?
まだ来ないのか?

俺が少しだけ密度の濃くなってきた弾幕に、焦りを覚え始めた頃。
突然、世界の一部が切り取られたかのような不可思議な違和感を覚えた。

「・・・えっ?」

ぴちゅーんっ!

俺がぼんやりとした瞬間を狙い済ましたかのように迫っていた弾幕を避け切れずに、
あっと言う間に俺のキャラが沈んでいった。

「あーーーっ!?」
「よっしっ!
あたしの勝ちっ!!」

ヴィータはコントローラーを持ったままガッツポーズを取るとそのまま立ち上がり、
居間を飛び出していく。
・・・そんなにアイス喰いたいのか。

「くそぅ、何だったんだ、あれ・・・」
「・・・んー、私も感じたで。
ぞわぞわって来たなぁ」

俺が感じた不可思議な感触に首を傾げていると、
隣まで移動してきたはやても同意の言葉を返してくれた。
二人で悩んでみても答えが出なかったが、三人寄ればなんとやら、
台所の冷凍庫からアイスを持ち出してきたヴィータははやての分のアイスを差し出しながら
あっさりとした口調で答えを出してくれた。

「・・・ありゃ、広域結界だな」

ぱかっ、とカップアイスの蓋を取って、すぐにぱくり、と一口。
ぱぁっと顔を綻ばせながら、言葉を重ねた。

「誰かはわかんねーけど、結構な量の魔力流を打ち込みやがった。
それを隠すためか何かで、別の奴が広域結界を張ったみたいだ。」
「もぐっ・・・、じゃあ少なくても二人以上の魔道師さんが居るんやな?」
「そーみてーだな」
「ちなみに結界って何や?」
「結界ってのは、魔法を知らない人間、魔力の無い人間を排除するために作るフィールドだ。
その中には魔法を知らない人間は入れねーし、中の出来事を意識することも出来ねーようになる」
「なるほどな、ファンタジーに有りがちな設定やな」

はやてもアイスを頬張りながら相槌を返す。
・・・残念ながら俺の分はヴィータが食べていて無いので、
一度ため息を吐いてから俺はヴィータに質問する。

「ちなみにどの辺りで展開されているかって分かるか?」
「ん?
ああ、・・・えーと。
繁華街の方みてーだな」

ヴィータはアイスをぺロリ、と舐め取ったスプーンをひょい、と繁華街の方に向けた。
再びアイスを掬って口に運ぶとスプーンを含んだまま呟く。

「みゃあ、めっこうでぁいけっきゃいばな。
ばなりのちゅいてだ」
「・・・何言ってんのか、分からん」
「結構デカイ結界らしいで。
それから術者はかなりの使い手らしいな」
「・・・良く分かるな」
「や、何と無くな」

はにかんだ笑みを浮かべるはやての頭をくしゃくしゃと撫でてやりながら、
どうやら物語が展開し始めたようだと思い当たる。
・・・恐らく、これから全ての始まりとなる、次元震が起こるのだろう。

「あーアイスうめー」

・・・緊張感のないお方が約一名いるけどなっ!!

「ほんま美味しいなぁ。
さすがハーゲン○ッツ」

・・・約二名いるけどねっ!!

「ん?
なんや兄ちゃん欲しいんか?
・・・そやな、兄ちゃん可哀想やからわたしからおすそ分けや。
あーん」
「・・・もぐもぐ。
ぉう、美味しいな」
「・・・し、しょうがねーから、あたしのも一口だけアニキにやるよ!
あたしは心が広いからなっ。
だ、だからさっさと口開けろっ!」
「・・・もぐもぐ。
ぁあ、こっちも美味しい」

・・・訂正、全員緊張感がなかった。





「さて、そろそろ外に出よう。
多分、今からやっかいな事態が起こる・・・はずだ」

アイスを食べ終え名残惜しそうな顔でゴミ箱にカップを捨てるヴィータと、
結局俺とほとんどアイスを半分に分け合ったはやてに向けて俺は時計を見上げながら呼びかけた。
時刻は・・・もう8時25分を廻っていた。

「・・・?
結界を張っている現場に行くのか?
もう間に合わねーと思うけどな」

ヴィータが訝しげに呟くが、
俺はそれを首を振って否定しながらはやての後ろに立って車椅子を押し始めた。

「いや、庭に出るだけだ。
これから見て欲しいものがあるんだ」
「・・・分かった。
いや、よー分からんけど、外に出るんやろ。
ヴィータも行くで」
「おう、構わねーぞ」

俺が窓の間近まではやての車椅子を押すと、
ヴィータがぱたぱたと走りよって中庭に面した窓を開けてくれた。
それから彼女は二足のサンダルを持ってくると赤い子供用のを自分で履いて、
もう片方の黒い大人用を俺の足元へと置いた。

「ありがとう、ヴィータ」
「なんや、抱っこされるのも久しぶりな感じがするな」

俺はサンダルをひっかけてから、はやてを抱きかかえて中庭へと移動していく。
そして、繁華街のある方向へと視線を向けると、改めて二人へとそちらへ注目するように伝えた。

「はやて、ヴィータ、あっちの空を見ていてくれ。
もう・・・間もなくのはずだ」

「・・・?」
「・・・?」

不思議そうに首を傾げながらも二人は俺の言葉に素直に従って、
繁華街のある方向へと顔を向けた。


8時27分。
大地が震えたかと思った瞬間だった。


キシィイイイイイイイっ!!!


大きいような小さいような判断の難しい、恐らく、広域結界の影響もあるのだろう。
まるでこの世のものとは思えない音を響かせて、巨大な流れ星が空へと駆け上がった。
分かっていたこととは言え、俺の心が大いに泡立ち、身体が勝手に怯えてしまうのが分かる。

「・・・なっ!?」

隣に立つヴィータも驚愕に眼を見開いていた。
さすがにここまでは予想していなかったのだろう。
一瞬ぶるり、と大きく震えた彼女は、
まるでその震えを堪えるかのように両腕をぎゅっと自身の腕で抱きしめた。

「・・・すごいなぁ」

対照的にはやてはほえほえとした笑顔で、その光の束を見つめていた。
それどころかはやては、俺の怯えに気付いたように、
優しく、
懸命に腕を伸ばして俺の髪を撫でてくれた。

「大丈夫やで。
わたしは兄ちゃんを信じとるし、ヴィータも信じとる」
「おっ、おう!
あたしはあんなんに負けねーっ!!」

はやての心強い言葉に、ヴィータは一度だけ頭を振ってから力強く返事をした。
それから、気を取り直したかのように俺に向き直った。

「アニキ・・・アレは次元震か?」
「分かるのか、ヴィータ」
「あれでも、くそっ、規模としては小せー方なんだろうな。
それだって、下手すりゃ管理局に眼をつけられるレベルなのは間違いねー」
「・・・その通りだ。
遅かれ早かれ、確実に来るだろうな。
それにしても・・・くそっ!
もうちょい後だったと勘違いしてたぜ・・・。
ジュエルシードを続けざまに2個ゲットして油断してたんだな」

俺は光が上っていった方向を見つめながら、心底悔しそうに呟いた。
とは言え、・・・ここからが勝負だ。
ここから間違えずにいくつかの選択と勝負を乗り越えることが出来れば・・・ん?
気付くと、俺へとヴィータとはやてが胡乱気な視線を向けていた。
ヴィータは何処か怒った様子で、はやては少し悲しそうに顔を伏せながら。

「おい、アニキ、何隠してやがる」
「・・・そや。
水臭いで、わたしら、そんなに信用ないん?」

俺はここまで来たらもう隠す必要もないか、と俺がこの世界に来て出会った、
フェイト・テスタロッサという少女について二人に語ることにした。
・・・無論、一度出会っただけの本人から聞いた話ではない。
俺が知っている、恐らくそうであろうという別世界のアニメに基づく予測に過ぎない話ではあるが。




「・・・そっか、まぁ今はそのぐらいで勘弁しといたる」
「・・・でだ、アニキはどうしたいんだ?」

俺の拙い説明にとりあえず納得してくれた二人は、まだいぶかしんでいる部分もあるだろうが、
取りあえず俺の言葉を信じてくれたようだった。
はやてはぎゅっと俺の手のひらを握り締めると、自分の額にこつり、と押し当てながら許してくれた。
ヴィータも俺が言い辛い話はしなくていいとばかりに、俺がこの後どうしたいか、を尋ねてくれる。
俺はそれが、ただ素直に嬉しかった。

「んー、そうだな。
これだけのことをしたんだ、恐らく明日、動きがあるはずだと思う。
そこであの子と少し、話がしてみたいかな」
「・・・そやな。
兄ちゃん、場合によってはその子を家に呼んでも構へん。
ううん、追われているなら匿ってもええ」

はやてが真剣な顔で俺に心強い言葉をくれた。
その瞳は、俺を純粋に信じてくれていて、どうしてか、
俺がフェイトにお節介をやいても構わないんだ、とそんな気分にさせてくれた。

「ありがとう、はやて。
それからヴィータ、頼みがある。
明日フェイトは隠れ家へと転移するはずだ。
恐らくダミーをいくつも用意しているはずだが・・・トレースしてくれないか?」
「・・・仕方ねぇ。
ただし!
これで借り一つだかんな!!」

これで明日の朝の準備は整った。
・・・さて、後は祈るだけだ。
世界が、俺の思っているより、ほんの少しでも、どうか優しくありますように。


(続く)