本文へジャンプ
main information Side Story link

魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第8話』


世間様では連休と呼ばれる、3日以上続くお休みが重なったとある休日の早朝、
どこかの現役小学生魔法少女とスク水魔法少女が温泉へと出かけているはずの日でもある。
とは言え、毎日が日曜日状態の俺たちには、そんな暦の理など関係があるはずもなく、
変わらぬ日々の日課として、俺とヴィータはここ最近の日常であるマラソンに励んでいた。

・・・ただ唯一平日とは異なる点は、
この自然公園に辿り着くまでにそこそこの人数の方々とすれ違ったことぐらいだろうか。
幼女に引きずられるように走る俺を、皆が奇異の目で見ていたのは、
もう胸にしまって取り出せないよう鍵をかけておこうと思います。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」

とは言え、だだっ広い自然公園内まで入っていくと、人の姿も見当たらなくなっていた。
ジョギングコースからは外れているので仕方がないが・・・、
どうしてアイツはこんな足元が悪いところをわざわざ走るのか。
俺は足を木の根に絡め取られそうになりながら数メートルほど離れた背中をひと睨みすると、
乱れた息でむせ返るようなフィトンチッドを大きく吸い込んだ。
気を取り直して、朝露に濡れた新芽が生命力を感じさせる木々の間をすいすいと走る、
前方の人影、ヴィータの後にくらいついていく。

春ももう本格化し、大分気温が上がってきたせいだろう。
八神家から外に出た当初は肌寒さを感じないうららかな陽気を無邪気に喜んでいたものだったが・・・、
走り始めてしまうと、むしろ暑くてしょうがなく、吹きだす汗に忌々しささえ覚えてしまう。
瞳に入り込みそうになる汗を飛ばすように軽く頭を振ると、くらり、と意識が揺れる。
・・・やばい、限界か。

「・・・ヴィータっ!
も、もう限界っ!!」

何とか声を張り上げると、走っていた彼女はぴたりと足を止め、こちらを振り返る。
上気して赤らんだ頬と小さな口から漏れる規則的な吐息が、
彼女も全く疲れていないわけではないことを表したが、それでも俺と比べると微々たるものだろう。
ヴィータは無地の真っ白なTシャツとスパッツを穿いた簡素な格好で、
俺が近寄ってくるのを顔をしかめながら見つめていた。


「だらしねーなー、アニキ」

ヴィータの隣までようやく辿り着いた俺がばったりと草むらに倒れこむのを見ると、
彼女はもうここ数日、毎日聞いている言葉を発する。
オマエとは違うんだよとばかりにしっかりと2本の足で地面に立ち、俺を見下していた。

「あー、はいはい、ヴィータはすごいでちゅねー。
さすがスーパー幼女は違いますねぇ」

疲れていて思考回路が廻っていなかった俺がおざなりと言うか、皮肉を込めた返事をすると、
ヴィータの顔がむっ、と強張った。
ふんぞり返るように腕組みをした彼女は、唇をひくつかせながら俺を睨み付ける。

「そんな寝ぼけたことが言えるなら休憩は必要ねーな。
よし、走れ、今すぐ走れ」

ガルルルルっ、という形容詞が似合いそうな感じでそう言いながら、
俺を蹴っ飛ばそうとでもいうのか、こちらに一歩近づいてきた。
・・・やばい、ここでムリに走らせられたら、俺の身体が普通にもたん。

「ああ、冷蔵庫には昨日の夜に作っておいた、自家製とろけるプリンが入っているんだけどなぁ。
甘くて、とろっとしてて、ふわっと口の中で蕩けるんだけど、
・・・ヴィータはいらないのかぁ」

俺の言葉にピタリ、とヴィータの動きが止まった。
それから、何かを考え込むような仕草を見せたと思うと、こほん、と一つ咳払い。
大きく首を縦に振りながら自分を納得させるように呟く。

「・・・ま、まぁ、アニキも頑張ってるしな。
あたしも鬼じゃねー、まだまだだらしねぇとは言っても、
最初のころに比べたらあたしになんとか着いて来てるだけでも努力してんのは分かる。
きゅ、及第点やってもいいぞ?」

・・・だからプリンはよこせ、と。
急に寛大な態度になるヴィータの分かりやすさに苦笑を浮かべる。
全く、毎日こんなやり取りをしているのに、
どうして俺が最初から三人分に分けて作っていることを失念してしまうのだろう。
作った人に食べて良いと言ってもらわずとも、勝手に戴いてしまえば良いと考えない、
律儀なヴィータを俺は好ましく思った。

「・・・ああ、少しはマシになったかもしれないな、認めてくれてありがとうよ。
プリンはちゃんとヴィータの分もあるからな?」
「お、おう!
あたしは別にプリンなんてどーでもいいんだが、
わざわざ作ってくれたもんを残すのは勿体ないもんな!」

彼女の目の先にはもうプリンの幻が映っているようで、
帰ってからのデザートの存在を今から楽しみにしているのがよく分かった。
俺はばくばく、と必死に鼓動を続けていた心臓がようやく少し落ち着いてくるのを感じながら、
滲む汗を手の甲で拭いながら先ほどのマラソンの様子を振り返る。

「・・・というかヴィータは相変わらず速すぎだろ。
歩幅は俺の半分くらいしかないはずなのに、なんでそんなに走れるんだよ」
「あたしは騎士だぞ?
アニキぐらい軽く体力だけでもぶっちぎれねーようじゃ、逆に情けねー。
騎士の名が泣くぜ」
「・・・そう言えばそうだったな」

じゃあ騎士じゃない俺に過大なレッスンをしないでくれ、との言葉は飲み込みつつ、
俺はぐでっ、と草の上に改めて寝転んだ。




そのまま10分ほどゆっくりとした時間が経過し、俺も幾分体力が回復してきた。
ヴィータは先ほどから俺の横でストレッチを繰り返し、
身体の熱を逃がさないようにしているようだった。
・・・俺の身体はこの篭りきった熱を逃がそうと必死に働いているというのに、
何か理不尽な差があるように思えてしまうのが不思議だ。

「それにしてもさ。
ヴィータに魔法を使った戦い方を教えてくれと頼んでみたら、
まさかマラソンが待っているとは思いもしなかったなぁ」

俺が最初に頼んだ日に、

「じゃあマラソンからすっか」

そんなえらく軽く言われたことを思い出して、げんなりとした口調で呟くと、
ヴィータはあの日と同じように、当然、といった顔で頷いた。

「何事も体力が基本だからな。
アニキだってそう思っているから、
はやての魔法修行は足のリハビリが終わってから始めるつもりなんだろ?
そうじゃなきゃ、簡単な座学くらいなら始めててもおかしくねーし」
「ははは・・・。
はやての場合は足を治すことを第一に考えてほしかったからな。
とは言え、俺は軍人や騎士じゃないんだから、お手柔らかに頼むぜ?」
「何言ってやがる!
『戦闘』の準備にやりすぎ、なんてものはねーんだ。
相手がいる以上、不慮の事態なんて当たり前だしな」

ヴィータはストレッチを止め、俺の視線に自分の視線をぶつけてくる。
彼女の目線には確固たる意思が込められており、俺にはヴィータの本気が良く分かった。
いいか、とヴィータは前置きをしてから、言葉を続けた。

「あたしも、自分より弱い奴だって油断なんてしねーように気張ってる。
真剣勝負する以上はいつだって絶対はないって分かってるからだ。
弱い奴が強い奴に対峙するときはなおさらだ、相手が自分よりも総合的に優れているならば、
そのときに弱え奴は何か一つでも相手より優れてるところがなけりゃ絶対に負けるんだからな?」
「・・・むう、確かにそうだな。
そうそう、一度聞いておこうと思ってたんだが、ヴィータも戦うのが怖かったりするのか?」
「・・・あたしだって、怖いぞ。
そもそもあたしは戦いなんて好きじゃねぇ。
でも、そっから立ち向かう強さは・・・持ってるからな」

真剣な表情で己のデバイスを見つめるヴィータは、確かに『騎士』を連想させた。
この強靭な意志は、きっと俺の敵となる奴らでもしっかりと持ち合わせている人たちばかりだろう。
・・・俺はここまでの覚悟を持った敵と出会ったとき、
それでも勝利できるように準備しておかないといけないってわけか。

「というかだな!
アニキの魔法体系は正直、ベルカ式とは全然ちげーみたいだし、
あたしの記憶に残っているミッド式ともちげー。
防御や攻撃といったパターンに優れている魔法じゃねーし、
そもそもアニキ自身が魔道師としての才能、魔力値が中途半端なんだ。
・・・となると、あたしがアニキに教えられることって言ったら、体術ぐらいしかねーのが実情だ」
「魔法バトルでもやっぱり体術は使えた方が良いのか?」

身も蓋もないヴィータの発言に苦笑を浮かべた俺だったが、
体術が魔法バトルにとってどれだけ有効なのかはイマイチ掴めない。
そこで尋ねた俺の問いに、ヴィータは少しだけ考える仕草をしたが、すぐにこくり、と頷いた。

「そりゃあ誰かと戦う、ということを想定する限りはその方が良いに決まってる。
ベルカ式もミッド式もプログラムで補助するとは言え、使うのは人間なんだ。
身体の何処に魔法をぶつければ大きなダメージになるのかなんて、
砲台やってんでもなけりゃ当然知っている方が有利だしな。
それからだ、敵が複数だったり、例えばアニキとあたしぐらい魔力数値の差があったりすりゃあ、
攻撃は防ぐことより避けることを考えた方がいい。
すると、避けるには体捌きが重要になるからな」
「それもそうだな・・・っと」

俺はヴィータ先生の講義を聞き終えると、ようやく立ち上がった。
ぐっと大きく背中を反らせて伸びをして、肩や腰、腿に足首と、
ストレッチをして各部に異常がないことを確認していく。

「さて、そろそろ戻ろう。
はやてが心配しているだろうし」
「おう、そうだな!
良く寝てたから起こさずに来ちまったけど、もうとっくに起きてるだろうしな!」

はやての話題を振ると、すぐに機嫌良さそうに応えてくれたヴィータに続ける。

「はやてもリハビリ頑張ってるからな・・・。
ここんところ、毎日ぐっすりと良く眠れているみたいだし。
起こすのが可哀想に思えてくるぐらいだ」
「まぁその分、はやてのリハビリは順調だけどな!
そのうち、アニキははやてに体力で抜かれちゃうんじゃないか?
ひっひっひ」
「・・・笑えん冗談だ」

ヴィータが手首をパタパタと振りながら悪い笑顔をするのを俺が憮然として見つめていると、
彼女は突然何かに気付いたかのようにぎょっとした顔をしてみせたと思うと、
頬から耳まで真っ赤に染めあげて後ろを向いてしまった。

「・・・どした?」
「ううううう、うっせー!
こっち見んな!」
「・・・な・・・あぁ」

問おうとして気付いた。
気付いてしまった。
ヴィータは両腕で自分を抱え込むように胸元あたりをぎゅっと抱きしめているが、
・・・何処か痛いわけではないだろう。

そういえば今日は暑い。
春の陽気、というより初夏の熱がありそうなほどだ。
走れば汗をかくものだが、彼女はこの休憩時間中もストレッチなどを続けていた。
・・・むしろ、走っている間は風も感じられるし、
ヴィータほどであれば結構涼しかったのかもしれないけれど、
動かずにストレッチを10分近くも続けていれば結構疲れるし、熱も篭もる。
そして、彼女の服装は・・・無地の真っ白なTシャツである。

・・・簡単に言うと。
後ろを向いたヴィータは、前方に服を引っ張っているからか、
背中を汗でぺったりとシャツに張り付かせたまま、余計に肌の色を透き通らせていた。
頬や耳に留まらず身体中が火照っているのか、
背中の色も肌色、というよりピンク色に見えるぐらい、鮮明に。

「・・・あ、ピンク・・」

ぼそり、と呟いてしまってから失言に気付く。
俺の発言を聞きとがめたヴィータは、ぎょっとした感じでこちらに振り向くと、
何故か凄まじい形相を浮かべながら透けるシャツをカバーするのも忘れた様子で、
スパッツを両手で押さえつけていた。
・・・あれ?
もしかして、何か、俺、透視した?

ヴィータは無言で目の端に涙を浮かべながら俺に向けてなりふり構わず走ってきた。
白いTシャツが、半ばその役目を放棄したかのように俺の目に飛び込んでくる。
彼女が錯乱のあまり、何かよくわからないことを叫びながら、思いっきりその手を振り上げると、
ピン、と張ったシャツの白と肌色のグラデーションの中で、
ただ2点だけ、ぽつん、と色の違う箇所が見えた。
俺の瞳と脳髄が強制的にその桃色にひきずり込まれた瞬間、
音速よりも速いのでは、と疑わしくなるほどの勢いで、
ヴィータは俺に向けてその手を思いっきり振りぬいた。





「痛ひ・・・」
「・・・アニキがわりー」

ヴィータは頬をぷぅ、と膨らませたまま、俺から気まずそうに視線をそらせた。
ちなみに彼女は俺から奪い取ったジャージの上着を着込んでいたりする。
・・・今日のサービスは終了か。
次回のヴィータ先生の天然エロスをご期待ください。
阿呆なことを考えながらも、俺の頬には小さな椛が季節感を無視して、
真っ赤にその勇姿を表している。
それでも、まぁデバイスを使わなくなっただけ最初に比べると・・・優しくなったのかなぁ。

「大体、アニキはだなっ!?」

ヴィータはなおも怒りが収まらないのか、さらに説教を始めようとした瞬間、その言葉が詰まった。
俺もぞくり、と走った悪寒に思わず目を見張る。

「・・・っ!
ジュエルシードかっ!!」
「関係ねーっ!!
そんなんよりもあたしの話が先だっ!!!」
「いや、そんなこと言われても・・・」

とは言え、ヴィータの中では俺への説教の方が優先順位が上だったようだ。
なおもこちらに詰め寄ってくるヴィータに、落ち着いてもらおうと、
両手を降参の意もこめて持ち上げた瞬間、
ぼろり、と嫌な音を立てて、何かが先ほどまで俺の手があった位置を掠めて落ちた。

「・・・えぇ?」

俺のぽかんとした声に、逆にヴィータがぎょっとしたのか、
慌てた様子で、落ちてきたものを凝視した。

「大きな火の塊・・・?」
「やばっ!?」

呆然としていたせいで下を見つめていなかった俺は、空から次々と落ちてくる何かに気付いて、
慌ててヴィータを抱えて大きくその場から跳びすがった。
その瞬間、後ろからじゅうじゅうと音を立てながら、草木が焦げる嫌な音が聞こえた。

「あ、あぶねーっ!」
「アニキ、サンキュー。
・・・しょうがねぇから、これでさっきのはチャラにしてやる」

俺は地面に強かに打ちつけた痛みも気にせず、すぐに立ち上がる。
その直ぐ横でヴィータもデバイスを構えながら周囲に視線を送った。
何しろ辺り一面を火の粉が舞い飛んでいるのだ。
例えるならば、そう、赤い雪がしんしんと降り積もっている、といったところだろうか。

「犯人はアイツだな・・・。
どうやら火の粉は飛んでいるときは熱いみてーだが、
一度地面に落ちるとそれ以上は燃え広がったりはしねーみたいだな」

ヴィータはいつの間にか身に纏ったのか、バリアジャケットに身を包むと、
冷静に上空を見上げていた。
俺も幻想的な紅い世界から何とか意識を切り離して、空を見上げてソイツを確認した。

『キエエエエエエっ!!』

俺とヴィータを威嚇するつもりか、その、燃え盛る炎で出来た怪鳥は、
大きく羽ばたきながら空中を支配するかのごとく気勢をあげる叫び声を発した。
この前の水に続いて火かよっ!?
ごうごう、と音を立てて火の鳥が羽ばたく度に、ばらばら、と火の粉が辺りに舞う。

「・・・アニキが一人で倒せ。
それが今日の修行だ」

ヴィータは一瞬迷うような素振りを見せた後、一度舌打ちをしてからそう呟いた。
俺はそんな彼女の発言に目を見開いて驚く。

「ええっ!
ムリっすよっ!?」
「うっせー、弱えなら弱いなりになんとかやってみせろ」

彼女の顔は全くの無表情を保っていたが、
デバイスを力一杯に握り締めているヴィータの指先が目に映ると、
俺は何故か覚悟を決めることが出来た。
・・・きっと、彼女が俺を強くするためにしてくれていることが分かったからだろう。

「分かった。
きっと一人で無事に倒して帰ってくるさ。
・・・だから、そんなに心配するな」
「心配なんてしてねー。
あたしは実戦主義なんだ。
・・・だから、ぜってー傷一つ負わずに勝ってみせやがれ」

こっくりと、俺が頷きを返してみせると、ヴィータは少しだけ嬉しそうにそう言って、
それから、まるで自分に言い聞かせるかのように、もう一度同じ言葉を繰り返した。

「ぜってー勝てよ」
「ああ、任せとけっ!」

俺たちの話が終わるのを待っていたかのように、
ぐるぐると空中で旋回を繰り返していた火の鳥がまっすぐこちらに突っ込んできた。
ヴィータはひらり、と後ろに跳び下がっていき、俺一人がソイツと真正面から対峙する。

「・・・さて、火の鳥か。
こんな奴は・・・いたような・・・いなかったような・・・?」

考えても咄嗟にはこの火の鳥が原作にいたかどうかを思いつかなかったので、
俺はアニメから対策を持ってくることを諦めた。
とりあえず、空を自由自在に飛びまわる相手とは、困ったもんだ。



ごう、と風を切って俺の懐目掛けて飛び込んでくる火の鳥を大きくジャンプしてかわす。
ちりちりとした熱が身体を苛むが、展開したバリアジャケット、
一言で言えば白衣を着ていたおかげで火傷一つ負わずに潜り抜けることが出来た。

「・・・火がやっぱり厄介だな。
熱を浴びるだけでどんどん体力を奪われていきそうだ」

俺はヴィータとの修行で培った体力を駆使して、なんとか火の鳥の体当たりからひょいひょい、
と身をかわしていたが、この行為がジリ貧なことは強く感じていた。
何しろ、アレが生命体かどうかも分からない以上、俺の魔法はほとんど役立たずだ。
バインドや魔力の矢を撃つことも出来るし、実際牽制に打ってみたりもしたが、
本当に牽制以上の効果は望めそうも無い始末だ。

「ええいっ、打つ手がねぇ!!」

セイを大上段に構え、
空に向って弱誘導性と爆発性を兼ね備えた『マジックミサイル』を5〜6発放つが、
3〜4発は火の鳥の羽ばたきと火の粉によって途中で爆発してしまう。
残りの2発ほどが、どん、どどん、と火の鳥にぶつかるが・・・

『キエエーーーーーッ!!』

よりいきり立ったかのような叫びを上げて、変わらぬ勢いで怪鳥がこちらに突っ込んできた。

「き、効いてねぇ!!」

慌ててその場から離脱しつつ、火の鳥をやりすごす。
ぜいぜい、ととっくに乱れてしまった呼吸で無理矢理酸素を肺に取り込みながら、
俺は懸命に打開策を考えていた。

・・・ううっ、ユーノの気持ちが良く分かるっ!

アタッカーの才能を持たずにこんな奴が倒せるかっ!!
つまりはバインド出来ようが、防御出来ようが、有効打を与えられない時点でどうしようもない。
じわじわと体力を削られて・・・終わりだ。

埒が明かない現状に、火の鳥の方も焦れてきたのか、
一旦こちらから距離を取ってぐるぐると旋回を始めた。
そのおかげでこちらも、この硬直した状況を打破するための方法を考えられているわけだが・・・。
そんな折、俺はふと視線を感じた。
ヴィータがこちらを睨み付けるような視線で俺の一挙一動をじっと、見つめていた。
俺があまりにも不甲斐ないからお怒りなのだろうか?


ごおおおおおっ!!!


「うひゃあ!!」

俺の視線が逸れたのを目敏く感じ取ったのか、
風切り音を響かせながら一気に距離を詰めてきた火の鳥を
なんとかかんとかと言った具合で避ける。
とは言え、今は火の鳥よりもむしろヴィータが怖い俺は、
彼女がさらにお怒りだろうか、と恐る恐るそちらの方向へと懲りずに視線を向けた。
ヴィータは、足を一歩踏み出して、デバイスを振りぬこうした格好で固まっており、
さらにイライラと苦虫を噛み潰したような表情へと目まぐるしく顔つきを変化させていた。

やばい、やばいやばいやばい。
ヴィータ様が俺のあまりに不甲斐なさっぷりにお怒りだ。
これはさっさと倒せないと、あの火の鳥と一緒に俺もグラーフアイゼンの頑固なシミにされてしまう。
俺は思わずぞっと背筋を凍らせると、決意を固めた。
・・・安全性、その他もろもろ、まだまだ未調整な部分が多いから使いたくはなかったが。
もはやそんなことを言っている場合ではないらしい。

『キシャアアアアア!!』

俺が立ち止まり、まっすぐ見据えていたせいか、
火の鳥が再び威勢の良い叫びを上げて体当たりをかましてきた。
俺の平穏な明日のために、もうこれ以上避けるつもりは・・・ないっ!!
まっすぐ突っ込んでくる火の鳥へと、俺はセイを両手で向けて構えた。
火の鳥の眉間があるらしき位置へと視線を固定させながら、大きく息を吸って、キーワードを唱える。
セイに取り込んだロストロギアの力を制御することで可能となった、
ジュエルシードの莫大な魔力を一方向へと『放出』させる、それだけに特化した俺の新魔術。
そして、これが俺の奥の手だっ!!!


「ジュエルスパーークっ!!!」


俺の手のひら、正確にはセイの表面から極太の魔力光がまっすぐに吹き荒れた。
魔力の槍、むしろレーザーと呼んだほうが相応しい一撃が火の鳥を直撃し、
その身体を構成する火の欠片を次々に吹き飛ばしていった。



「ジュエルシード吸収!」
『Absorb』

俺が放った一撃は、火の鳥を完全に吹き飛ばし、
その場には蒼い宝石、ジュエルシードだけが残されていた。
俺はゆっくりとジュエルシードへと近づき、吸収作業を終えると、ようやくほおっ、と息をついた。
どうやら制御も問題なくいったし、こりゃあ実戦でもすげぇ使えるな。
俺はほくほくとした顔で、ジュエルシード制御に良い感触を見出していた。
それから、勝利を報告するために、くるりと彼女の方を向き直る。
・・・何故だか、彼女は納得のいかないような、憮然とした表情を浮かべていた。

「・・・どうした?」
「なんでもねぇ」

やはりご機嫌ナナメなようだ。
・・・もしや辛勝が気に喰わなかったのかっ!?
俺が彼女のお怒りの言葉がいつ振ってくるのか、と怯えていると、


「あたし一人でヤキモキして、心配して・・・馬鹿みてえじゃねえか」


ぼそり、とヴィータは小さな声で呟くと俺に背中を向けて歩き出した。

「スマン、聞こえなかった。
ヴィータ、何か言ったか?」
「・・・っ!?
な、何も言ってねーよっ!!」

ヴィータはそう叫ぶやいなや、俺には到底追いつけそうもない速度で、
だだだだっ、と凄まじい勢いで走り去っていってしまった。
むぅ、やっぱりあの化物鳥を倒すのに時間が掛かりすぎたせいで、
朝食が遅れそうなのが気に喰わないのだろうか。

・・・よし、今日の朝食はちょっと豪華にしてあげよう。
べ、別にご機嫌とりじゃ、な、ないんだからねっ!!




俺がそんなようなことを朝食の席の後でヴィータに言ったら、
彼女はちょっとだけ苦笑を浮かべながら、

「あの時はそうは思わなかったけど・・・今思うとそうかもしんねー。
アニキの朝飯食ったら気にならなくなったしなぁ」

と言ってくれたのだった。
・・・あれ、何か違った?

(続く)