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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第7話』


「おいこら、アニキ!
少しは手伝えよっ!!」

怒鳴りながらもヴィータは全く危な気ない動きで、
湖からこんこんと湧き出し続ける水が噴出して出来たヘビが勢いよく放った、
高圧の水大砲をグラーフアイゼンで打ち砕く。
攻撃を仕掛けてきた巨大なヘビを一瞥すると、今度はこちらの番だと言うつもりか、
放り上げた鉄球をヴィータがアイゼンで弾き飛ばすのを、
俺ははやての真横で観戦していた。


ばしゃあああんっ!!


ヘビの身体が高速で飛来した鉄球にあっさりと砕かれる。
飛び散った水の塊が中空で雨となって降り注ぐが、
俺が掲げた傘という名の防御壁ではやてまで到達するのは辛うじて防がれた。

「ムリだ!
俺の力では、はやてのことを守るだけで精一杯だ!」
「いや、これただの水やし、濡れるだけやろ?
わたしは大丈夫やから、ヴィータのフォローに・・・」
「正直あの戦闘に割り込むなんて怖くてムリっす」
「兄ちゃんは相変わらず情けないなぁ」
「返す言葉もない」

はやてが発した気楽な口調の呟きに対して、
面目ない、
といった表情で反省の意を告げる俺に、再度ヴィータからの喚き声が響く。

「うがーっ!
何だかコイツ、ぶっ叩いてもぶっ叩いてもあんまりダメージ与えられねぇ!?
もう助っ人は期待しねぇから、せめて何かアドバイスよこせっ!!」

俺とはやてを守るように蛇と俺たちとの射線上に立っているヴィータは、
グラーフアイゼンを振り回して次々と襲い掛かってくる水のレーザー
とでも呼ぶべき攻撃を弾き散らしながら、

「いい加減にしやがれっ!」

だの、

「だーっ、めんどくせーっ!!」

だの声を張り上げている。
とは言え、彼女に余裕がないわけではない。
・・・俺たち、いや、はやてが攻撃に晒される可能性を考えて、
ヴィータが今の場所から動くことを良しとしないため、
思い切った攻撃が出来ないというだけだ。
十分な詠唱の時間が取れれば、
ヴィータならこの湖の水を全て蒸発させることも可能だろうから、
彼女の力量的優位は確かなのだが・・・。

とは言え、このままではジリ貧だ。
最終手段ははやてと一緒に俺は戦略的撤退をして、
ヴィータにタイマンで頑張ってもらうことだが、
せめて、その前にやるべきことぐらいは果たさないとな。

「ちょっと待ってろ!
すぐに・・・サーチするっ!!」

俺は自由に喋ることは無くなったとはいえ、
デバイスとしての能力は相変わらずのセイをズボンのポケットから取り出し、
かたく握り締める。

『Chain Reaction Area Search』

少ない魔力でも発動できるよう調整した、以前にも似たような方法を使った、
特殊な術を発動した。
相変わらず俺自身の魔力量は少ないので、やはり他者の力を借りる必要がある。
湖の一点にジュエルシードの波長探索用のプローブを仕込んだ遺伝子を導入し、
その領域の微生物に遺伝子変異を強制的に発現させる。
さらにその起点から、
鎖が連なるように次々と湖中の微生物に探査プローブの挿入が広がっていく。
たった数十センチ四方程度だったサーチ領域が、
じわじわと、湖全域に塗り替えられていく。

「あと、2〜3分は掛かりそうだ!
それが終われば、この暴走を引き起こしている核の位置が掴める!!」
「上等っ!!
5分だって余裕だぜっ!!」

巨大ヘビに己のデバイスをしっかりと向けたまま、ヴィータが上出来だ、
とばかりにの威勢を込めた大声を張り上げる。

「おおっ、兄ちゃん魔法使いさんみたいやっ!」
「ドスをきかせて、大魔道師と呼んでくれ」
「100年はえーーーーよっ!!!」

はやての賛辞の声に答えた俺の言い過ぎの発言に、
ヴィータの水ヘビをあしらいながらの叫びが応じる。

「・・・せめて5年ぐらいにはまかりません?」
「だったら、アニキがコイツ倒してみろっ!!」
「頑張れ、ヴィータ〜!
ファイト〜いっぱ〜つっ!!」
「・・・後で説教な、アニキ」

背中で怒りを雄弁に語るヴィータを見つめながら、冷や汗を背中に浮かべる。
・・・ちょっと自重しよう。
ちなみに、横にいるはやては初めての魔法戦闘に多少心が浮ついているようで、
さっきから、

「ヴィータ頑張れっ!
ぶちかませーっ!!」

だの、

「今や、そこをぶちぬけっ!
必殺の一撃やーっ!!」

だとか、

「後ろ、後ろっ!
ヴィータうし・・・ほっ、さすがやな〜」

だの実に楽しそうにヴィータの応援をしていた。
この余裕は、ヴィータとあの暴走体の力量差をなんとなく理解しているためか、
もしくは、はやて自身の潜在の魔力値がでかすぎるせいで、
あの暴走体の規模程度では脅威とは認識できないのだろうか。
・・・ちなみに俺はアレがめっちゃ怖いです。

とは言え、さて、後は待つばかりである。
せっかくなので、今の経緯を簡単に振り返ってみようと思う。
そう、それは先日の土曜日、はやての退院の日から始まった。






「はやて〜っ♪」

「ヴィ〜タ〜っ♪」

一日千秋の思いで再開を待ち続けてきた恋人同士のように、
はやての病室へ入ると同時に声を掛け合い、
ひしっ、
とベッドの上で抱き合う二人を俺と石田先生は苦笑いを浮かべながら見つめていた。

「ヴィータ、兄ちゃんと仲良おできたか?
喧嘩せんかったか?」
「任せとけ、はやてっ!
アニキはあたしがしっかり面倒みてやったぞっ!」

何故か大威張りするヴィータを見て、
石田先生が真偽を問うような視線をこちらに向けてきた。
・・・いや、基本的に面倒をみているのは俺だから。

「ああ、そうそう、ヴィータ。
これはお約束やから、聞いとくで。
・・・えっちぃことはされとらんな?」
「・・・えっちぃ?」

「おいこらっ!!」

きょとんとした表情を浮かべたヴィータに代わって突っ込みを入れる俺に、
はやては『はっはっはっ』と実に男らしい笑顔で応えてくれた。
俺は再び苦笑を浮かべ、隣の石田先生にフォローを入れようと向き直る。
何故か石田先生は手に携帯電話を持ち、
何処かへ電話を掛けようとしているようだった。
・・・病院内は使用禁止じゃないのか?

「いえ、もちろん冗談ですから石田先生?
何処へ電話掛けようとしてますか?」
「えっ?
・・・あー、もちろん、冗談だって分かってたわよ?
でも、まぁ、一応・・・ねぇ?」
「・・・同意を求めないで下さい」
「・・・あ、あはは。
この手の冗談は止めとくわ。
兄ちゃんの社会生活に著しいダメージを与えそうや」

どこか乾いた笑いで、場を流そうとする俺たちに3人であったが、

「・・・なぁ、はやて?
えっちぃってなんのことだ?」

ヴィータさん、掘り返さないで下さい。

とまぁ、お約束の掛け合いの後、
はやてを含めて石田先生から検査結果のお話があった。
結果は麻痺については全く問題なし。
多少神経系に違和感を持つところもあるだろうが、時間が経つにつれゆっくりと回復してくるだろうし、
歩行訓練もしていけば走れるようになるだろう、という話だった。

「ただし、無茶はダメよ。
はやてちゃんの場合、足の筋肉が全然発達してないから、
歩行訓練は時間もかかるだろうし、結構大変よぉ〜」
「うへぇ〜、厳しいのは堪忍してほしいです。
わたしは現代っ娘やから、辛いのは苦手ですよ〜」

リハビリは真実、大変だろうが全く悲壮感を感じさせない、
むしろすこぶる嬉しそうに言葉を重ねる石田先生とはやては
笑顔さえ浮かべながら言葉を交わしていた。

ぽっと出の俺やヴィータには無い長い闘病生活の感慨がこの2人にはあるのだろう、
今の雰囲気だけで俺にもそれが良く分かった。

「・・・はやてっ、あたしも手伝うからなっ!」

えっちぃの意味についてずっと考え込んでいたヴィータも、
面倒くさくなったのか、頭を切り替えてはやてに意気込みを伝えてきた。

「おおっ、そうやなっ!
ありがとう、ヴィータっ!
目指せ、夏までに完治やっ!!」

はやてはベッドの上で片方の手でヴィータの手をがっしりと掴み、
もう片方の手を天井に向けて振り上げながら勢い良く宣言した。

「・・・夏までにいけそうですか?」
「・・・うーん、微妙なところですが、成長期ですから治りも早いとは思います。
日常生活なら問題ないレベルまで、リハビリは進むとは思いますが」

そして冷静な大人二人組みがあーでもない、
こーでもないとリハビリ計画について話し始めたのを尻目に、
はやてはヴィータに、『夏の楽しみ』について熱く語っているようだった。



「・・・とまぁ、こんな具合でいきましょう」
「ええ、よろしくお願いします」

「って、わたしの感知しないとこで
わたしのリハビリ計画のスケジュールが完了しとる!!」
「はっはっはっ、
しっかりみっちり仕込んでもらうことにしたから音を上げるなよ、はやて」
「うへぇ〜、ほどほどに頼みます、石田先生〜」

はやて監修『夏だ、海だ、花火だ、盆踊りだ!夏を遊び尽くせ!!計画』を
身振り手振りしながらヴィータに聞かせていたはやてを無視して確認を終えた、
リハビリ計画のプリントをはやてに手渡す。
ちなみにスケジュール自体に問題はなかったので、
ほぼ石田先生の提案通りである。

「ふーん、最初はマッサージと筋トレが主なんやな。
それから歩行器と松葉杖やな」
「ええ、最初は様子を見ながら負担を掛けすぎないようにしようかと思って。
大丈夫そうなら、びしびしいくから覚悟が必要よ?」
「・・・頑張れ、わたしの足」

剣呑な色を浮かべる石田先生の瞳に怯えて、
はやてがさすさすと自分の足を労わるように撫でさする。
その後、本格的に石田先生が今度ははやてにスケジュールの説明を始めたので、
俺とヴィータは病室の片付けと退院の手続きなど家に帰る支度を進めていた。

「はやてっ!
片付け終わったぞっ!!」
「こっちも終わったぞ」
「そうか、ありがとな2人とも。
石田先生、ほんまありがとうございました」

俺たちの声にはやては石田先生にペコリとお礼の言葉を投げかけた。
どうやらあちらも説明は一通り済んだようで、もう退院しても構わないようだった。

「いえ、はやてちゃん、今までと勝手が違うこともあるけど、
無茶はしないようにね?」
「あはは、大丈夫です。
兄ちゃんもヴィータも居ますし、
比喩表現抜きにオンブにダッコでいきますから」
「ああ、それそれっ!」

石田先生ははやての発言にポン、
と両手をうつと何かを思い出したかのように言葉を発した。
はやてに向き直ると、一枚の紙を差し出す。

「ごめんね、はやてちゃん。
今日の朝車椅子が届いたのをすっかり忘れていたわ。
・・・今から持ってくるから、そうね、
ロビーで待ってもらったほうがいいかしら」
「ええ、分かりました。
届くの、思ったより早かったですね」
「そうね、でも病院に車椅子ないと困っちゃうから急いでもらったのよ。
・・・さて、あまり無駄話も出来ないわね。
それじゃあ、ロビーで」

そう言いながら石田先生は、受領のサインをはやてから受け取ると、
せかせかと病室を後にしてしまった。
・・・相変わらず忙しそうなお方だ。
俺たちは石田先生が出て行くと、残っていても仕方がないとばかりに、
はやてを連れて移動することにした。


「・・・あたしがはやてを連れていきたいのに」

俺たちの後ろではぁ、とため息をつきながら、
荷物を抱えるヴィータが恨み言をこぼす。
俺の腕の中でははやてがだっこされているが、それが気に喰わないらしい。
・・・じゃんけんで負けたんだから、大人しく荷物を持て、ヴィータよ。





「やってきたで、といざるす!」
「おー、なんだココ、すげぇ!」
「・・・何で退院早々こんな所に」

石田先生から車椅子を受け取り、退院したはやてを連れた俺たちは、
まっすぐ家に・・・帰ることは無く、近所のチェーン展開の玩具屋を訪れていた。
先ほどのだっこの仕返しとばかりに、半ば無理矢理
車椅子を押す権利を俺から奪い取ったヴィータとはやてのやる気に溢れた口調と、
げんなりとした俺の口調が対照的だ。

「それはもちろん、
入院中に聞いたヴィータの騎士甲冑のためやっ!
カッコイイ、そして可愛い騎士甲冑をイメージするにはこういう場所が一番やっ!
・・・ああ、そうや。
兄ちゃんは騎士甲冑とかはあるんか?」

目をきらきらと輝かして尋ねるはやてに思わず俺の表情がきしんだ。
・・・アレは、あんまり考えたくはなかったのだが。

「・・・まぁ、あるっちゃああるが・・・。
甲冑なんて大げさなものじゃなくて、ただ白衣羽織るだけだがな」

何しろ戦うことなど想定すらしてなかったのだ。
実験室内で便利に白衣を着たり脱いだり出来るような
バリアジャケットを選んでいたりしても・・・、
べ、別におかしくないよねっ!?

「・・・そうなんか。
兄ちゃんのもわたしがデザイン出来ればおもろかったのになぁ、ちょい残念や」
「なぁ、はやてはやてっ!
そんなことどうでもいいからさ、ここ面白れーものいっぱいありそうだ!
さっそく見てまわろーぜ!!」
「・・・どうでもいいって・・・。
まぁ否定できないところが悲しいが」
「うっせー、アニキは今日はオマケだ!
今日はあたしのための騎士甲冑をはやてが考えてくれてんだから、
大人しくしてろっ!」
「はーいはいはい」

俺はおざなりに頷くと、ヴィータに代わりはやての車椅子を押す係に収まった。
ヴィータは早速見た目相応のきらきらとした表情で
棚に置いてあるヌイグルミを物色し始める。
商品棚を物色しながらぱたぱたと歩くヴィータを
後ろから眺めながら進む俺たちであるが、
はやてはその光景をニコニコとただ笑顔で見つめていた。

「・・・あっ!」

そんなヴィータの足がぴたりと止まる。
・・・そこには魔界に住んでそうなちょいと小粋でコケティッシュな
ウサギのヌイグルミが陳列されていた。
ウサギを見つめるヴィータの瞳は、こちらからは窺うことは出来ないが、
ただそのヌイグルミが気になっていることだけは良く分かる。

「・・・兄ちゃん♪」

はやてがくるり、とこちらを振り返り何かを含むような笑顔を見せる。

「お任せを」

俺は形式ばった頷きを返し、ヴィータの背後に近づく。
この距離まで近づいても気付かないとは・・・、よっぽど気になってるのな。
そのまま、ウサギのヌイグルミに手を伸ばす。
自分の顔の真横を人の腕が通るのを見て、ヴィータの身体がビクリと震える。
そのままウサギを手に取ると、俺の手、正確にはウサギを
視線で追っていくヴィータを内心で微笑ましく思いながら、
はやてにヌイグルミを手渡した。
はやてはおろおろとした顔をして、
言葉も発することの出来ないヴィータをにこりと見つめる。

「ヴィータにこのウサギさん買うてやるからな。
この前のケーキは正確には兄ちゃんからやし、
・・・わたしの守護騎士になってくれたヴィータへ、
感謝の意を込めてわたしからの初めてのプレゼントや」

「えっ、・・・あ、はやて?」

ヴィータは、主に何かをしてもらう、という経験が無いのか、
いや、そもそも自分が普通の女の子のように扱われた記憶がほとんどないのだろう。
何か、理解し難いものを見てしまったかのように、
はやてと、それからはやての手の中のヌイグルミに目線を行ったり来たりさせていた。

「・・・こういうときは、ありがとう、かな」

ヴィータの戸惑いに気付いた俺は、軽い助け舟を出してやることにする。
普段なら俺にこんなことを言われると憎まれ口の一つも出てくるヴィータであるが、
今日はすごく素直にこくり、と頷いてはやてに視線を送った。
それからかすかに頬を染めてペコリと頭を下げる。

「あっ!
はやて、ありがとうっ!」
「どういたしまして、ヴィータ。
・・・そや!
ええこと思いついた、このウサギさんをベースにヴィータの騎士服をデザインしたる!
うわー、何や、ええアイディア浮かんだでーっ!!」

そう言うとはやてはウキウキとした様子で、
今にも作業を始めようと頭をひねりはじめる。
右手をわきわきと動かし、折角浮かんだアイディアを手放さないように、
ぶつぶつと呟きながら空中に衣装を描いていく。

「それじゃあさっさと会計を済ませて帰るか。
ヴィータもそれでいいだろ?」
「おっ、おう!
かまわねーぞ!?」

ヴィータもはやての左手に抱えられたウサギのヌイグルミが気になって、
もう他の商品を見る余裕もなさそうだった。
俺ははやての手からヌイグルミと財布を受け取ると、
ヴィータにはやてと外へ先に出ているように言ってレジへと向った。






・・・それから、俺たちが家に帰ると、はやては原作と同じようなデザインの騎士甲冑を
ヴィータのために用意してくれたのだった。

そしてその翌日、つまり今日なのだが、
ヴィータの騎士甲冑のお披露目のために人がほとんど訪れない辺鄙な湖へと
バスを乗り継いでやってきたのである。
不可思議な鳥居のような石柱がいくつも湖中に沈んでいる、
まだ春先の冷たい風が身に染みる人気の無い湖であった。
早速ヴィータが騎士甲冑を纏おうとした瞬間、
その魔力で刺激を受けた、湖に沈んでいたジュエルシードが暴走したわけである。
・・・こんな場所にもあったんだなぁ。

とは言え、何の因果か今日は日曜日。
おそらくなのはとフェイトは二人とも月村家の巨大ネコ騒動で手一杯であろうから、
こちらは邪魔が入らずに済みそうなのは幸いだ。


「・・・そこだっ!!」

俺がそんな、長い回想に耽っている間にも、サーチは進んでいた。
そして、遂にかなりの大きさの湖の中、ジュエルシードの位置を特定する。
ジュエルシードが持つ特定の波長をインデューサーとする発光遺伝子が、
鮮やかな緑色の光を放ち湖面を照らした。

「任せろっ!!」

俺の叫びとほぼ同時に、
目敏くその光を発見したヴィータがグラーフアイゼンを一閃した。
ヴィータを狙っていた水の矢が全てその一撃で吹き散らされるが、
彼女はそんな当たり前の結果には目もくれず、
手にした鋼色の鉄球を3つ空中にバラまいた。
鉄球はまるで意思を持つかのように、グルグルと回転を始め、光を放つ。
対峙する水ヘビはその光景に恐怖を覚えたかのように、
今まで遠くから水鉄砲を撃つだけだった戦法を切り替え、
慌ててヴィータに向けて突進を仕掛けてきた。

「危ないっ!」

俺の叫びに、ヴィータがにやり、と不敵な笑みを浮かべたように感じた。
彼女は大きく、自身の身長よりも遥かに高くグラーフアイゼンを振り上げると、
渾身の力でもってハンマーヘッドで鉄球をぶん殴った!!

「砲煙弾雨!!
シュワルベフリーゲン!!!」

ヴィータの叫びに呼応するかのように凄まじい速度で射出された鉄球が
水ヘビを頭から粉砕していく。
同時に放った残り二つの鉄球は
緩いカーブを描きながら別方向から湖の一角に突き刺さる。


バッキイイイイイイイイッ!!!


辺り一面に響き渡る大音響のあと、凄まじい量の水が空中に舞い上がる。
ざああああああっ!
スコールのような音を立てて地面に帰ってくる水をなんとか手持ちの傘で弾きながら、
俺は湖を凝視していた。

「・・・すご・・・」

はやてが隣で呆けたような声を漏らすが、今はちょっと相手にしてあげられない。
ヴィータの方は、騎士甲冑とデバイスこそそのままであるが、
片付いたと確信しているらしく、ふわり、と空を駆けてこちらに近づいてきた。

「どうだ、アニキ!
これがあたし、鉄槌の騎士の実力だ!!
まぁ、ちょっとばかり手こずったかもしんねーな。
何せ、久しぶりの戦闘だったしな!!」

喜色満面に近づいてくるヴィータに、俺はちょっと静かに、
といったジェスチャーを取る。
むっとした表情を浮かべるヴィータだったが、そのすぐ後、はやての

「うわぁ・・・、何やあれ・・・?」

と言った声に慌てて湖へと向き直った。

「ジュエルシードだ・・・」

蒼く輝く宝石に対する俺の呟きにはやてとヴィータが驚きの眼差しを向ける。
俺は湖の中空に浮き上がったジュエルシード目掛けて、
セイを掲げ封印の言葉を発する。

「ジュエルシード、シリアル・・・えっと、何でもいいやっ!
吸収っ!」
『Absorb』

浮き上がり、セイの頭上にぴたり、と制止したジュエルシードが、
にゅるんっ、
といった感じでセイの中に吸い込まれた。
そこまでやって、ようやく俺の口から、安堵の息が漏れた。

「・・・もう大丈夫だ。
助かったよ、ヴィータ。
おかげですんなりジュエルシードが捕獲できた」
「そ、そうかっ!?
まぁ、あたしにとっちゃあんなん朝飯前だけどなっ!」
「えらい幻想的やったなぁ・・・
なあなあ、兄ちゃん、前の4個もああやって捕まえてきたん?
ええなぁ、見たかったなぁ・・・」

はやての言葉に俺は苦笑を浮かべて答える。
また随分肝が据わってきたな、このお嬢さんは。

「今回のようなのばかりだと大変だよ。
前回は暴走する前に確保してきたんだ、何しろ一番安全だし」
「それもそーやな。
ヴィータ、格好良かったで、お疲れさま」
「ああっ、はやてには何が襲ってきても
指一本触れさせねーから、安心してくれよっ!
・・・アニキもはやてのついで、でよかったら守ってやっかんな」
「おう、ありがとうな」
「・・・き、気にすんな!
そーいう約束だったからな!?」

ぷい、とそっぽを向きながらヴィータがデバイスを待機モードに戻すのを、
俺は彼女にも仲間だと思われていたことが嬉しくてニコニコと見つめていた。
そんな俺とヴィータの様子を嬉しそうに見つめていたはやてであるが、
やんわりと年上の男のくせに弱っちい俺に対する苦言を呈す。

「でもな、兄ちゃん、ヴィータを守ってやるぐらいでないと情けないでー」
「・・・それもそうだなぁ」

余剰魔力も手に入れて、魔法を使うのも余裕が出てくるだろうし、
何か魔法特訓でも始めた方が良いかもしれない。
何しろ、ジュエルシードの暴走体にすら歯が立たないなんて状態では、
なのはやフェイト、はてはプレシアなんて立ち向かうことも出来ないだろうしなぁ・・・。

「・・・ん、何だ、アニキ?」

俺はヴィータに魔法特訓でもお願いしようかな、
と今後のことを考えるのであった。


(続く)