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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第6話』


「あ・・・ありのまま今起こった事を話すわ!
『私は患者が原因不明の下半身麻痺に罹患していると思ったら、
いつの間にか治っていた』。
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、
私も何をされたのかわからなかった・・・
頭がどうにかなりそうだった・・・ブラックジャックだとかスーパードクターKだとか、
そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ・・・」

石田先生はあまりの事態に虚空を見つめながら、
ぶつぶつと何事か独り言を呟いていた。
・・・そりゃあ現実逃避したくなる気持ちも分からないでもない。
何しろ回復不可能なはずの重度障害が、数日のうちに完治していたのだ。
医者としてのアイデンティティを砕かれたと言っても過言ではないだろう。

「い、・・・石田先生?
どうされました」
「・・・はっ!?」

さすがに驚いたのか上ずった口調のはやての詰問に、
ようやくこちらの世界に帰ってきた石田先生だったが、
彼女は慌てた様子ではやての過去のカルテをひっくり返し、
病状に回復傾向があったのかを確認し始めた。

「・・・うーん、忙しそうやなぁ」

はやてはその様子を苦笑を浮かべながら見つめている。
どうやら、ようやく自分がどれだけの奇跡を体験しているのか、
実感を持ち始めたようだ。

「・・・なぁ、アンタ。
この世界の医者はああやって患者を放置して書類とにらめっこすんのが、
仕事なのか?」
「・・・難病だった患者が次来たら治っていたんだ。
そりゃあ、信じられなくて過去のデータを見直したりもするさ」
「そーいうもんなのか。
でだ。
あたしらはどうすりゃいいんだ?」
「あの先生が満足するまで待つしかないだろ?」
「やれやれだな・・・」

はやての後ろに立つ俺たちの会話も聞こえないぐらい集中していた先生は、
10分ほど経過した後、ようやくはやてのカルテから視線を外した。
真剣な表情ではやての足に視線を送った彼女は、はやてに向き直って口を開いた。

「・・・はやてちゃん、検査入院しましょう」
「えええええっ!?」

はやてはこうなる予想をしていなかったようで、
くるくる、と回転させて暇を潰していた椅子の上で叫びを上げた。

「・・・病状が良いほうに向ったとしても、
逆にそれが何か悪いことの前兆である可能性もあるわ。
検査が終わって問題がなければもちろん退院して構わないから、お願い」

一応形式上は許諾を得ようとしているが、
その勢いはもう入院を譲る気はない、と明確に示していた。
確かに医学的に治ったかどうかをきちんと検証しておく必要はあるな・・・。

「はやて、俺も賛成だ。
ちょっと窮屈だろうけど、きちんと検査を受けるにこしたことはない」
「・・・あたしは良く分からないけど、はやてが好きな方にすればいいと思うぞ。
手伝ってほしいことがあれば、何でも言ってくれな!」

ヴィータは何時の間に握り締めたのか、
右手で待機状態のデバイスを弄りながら答える。
はやてが反対したら医者を殴り倒してでも帰る気なんだろうか・・・。
そんな風に俺が考えている間にも、
じわじわ、とヴィータから思わず息を呑みそうになるほどのプレッシャーを感じた。
イカン、普通に実行しそうだぞ。

「・・・そやな。
我が侭言ってる場合違うか。
石田先生、よろしくお願いします」

だが、空気を読んでくれたはやてがペコリと石田先生に頭を下げたのを見て、
ヴィータから発せられていた緊張感が解れるのを感じる。
恐らく誰も気付いていないとは思ったが、
それでも俺はヴィータの異質さを隠すように一歩前に歩み出ると、
石田先生と今後のことを話し合うために口を開いた。





「・・・で、どうしてあたしとオマエの二人で歩いてんだ?」
「そう睨むな。
別にはやての傍に残っていても構わないって言ったろ?」
「睨んでねー。
って・・・そんなん分かってる、つまんねー事しなきゃいけない自分へのただの愚痴だ」

俺はヴィータと行きよりも人数が一人ほど足りない、
平たく言うと二人きりで病院からの帰り道を歩いていた。
はやては検査と経過観察のために順調でも3日ほど入院することになるだろう、
と石田先生から告げられた。
俺たちは、すぐにも検査を受けさせようとする石田先生と
退屈だろうから帰っていいと主張するはやてに病院を追い出され、
八神家への道のりを二人で歩くことになった。
往路よりも早いペースで歩くヴィータに急かされるように早足を続けていた俺は、
自然と無言のまませかせかと歩を進めていた。
ヴィータもまた一言も語らずに歩いていたが、ついに我慢の限界がきたのか、
イライラとした口調でそんな愚痴をこぼしてきたわけである。

「・・・つまんねーこと?」
「ああ、いい加減、はっきりさせておこうと思ってる」

疑問符を浮かべながらも、俺はヴィータが言いたいことの検討はついていた。
彼女は再び『睨んでない』視線で俺の本心を射抜かんと、
じっとこちらを見上げてきた。
足が止まった彼女にあわせて俺も足を止めると、
ヴィータはひどく冷たい口調で言い放つ。

「オマエ、何を企んでやがる」

単刀直入にそう言われた俺は、
心の中でやっぱりか、と呟き気持ちを引き締める。
・・・そう簡単に俺を信用してくれるわけがないか。

「はやてには昨日の夜、色々聞いた。
オマエが異世界からやってきた変な魔道師で、
はやてのためにほとんど見返りなしで力を尽くしてくれたってな。
・・・正直、そんな奇特な奴いるわけねー」

俺が口を開こうとするのを片手で制してから、ヴィータは言葉を重ねた。

「大体だ、闇の書プログラムにバグがあるだなんてのがそもそもおかしいぜ。
そんなわけねぇってことぐらい、あたしが一番よく分かっているんだ!」

言うや否や、デバイスを起動させたヴィータは、
両手で振り上げるようにハンマーを廻して俺の顎をかすませる。
避けようともしない、・・・正確に言うと反応出来なかっただけだが、
俺に少し訝しげな視線を向けたヴィータだが、
直ぐに気を取り直したかのように激しい感情を込めた視線をぶつけてきた。

「答えてみろよ?」
「・・・じゃあ言うよ、それならどうして、はやての足は悪かったんだ?」
「っ!?」

びくり、とヴィータの身体が震えた。
闇の書の封印と同時に治ってしまったのだから、
両者に因果関係は存在しているのは確実だ、それが分からないヴィータではない。
だが、それでもやはり認められないものがあるようで、
迷いを断ち切るかのように叫び声を張り上げた。

「それにっ!
どうしてオマエがはやてのために自分のデバイス犠牲にしてまで、
闇の書を封印したんだっ!?
言葉はわりーがオマエとはやては他人で接点なんてなかったはずだ。
それもオマエは異世界からの異邦人。
・・・そんな状況のくせに何の見返りもなしで、
誰かを救おうとするお人よしなんているわけねー」

ヴィータは俺にデバイスの先端を突きつけながら、疑問をぶつけてくる。
・・・ここが閑静な住宅街で助かったな。
結界も張らずにこんな詰問を続けるなんて、
よっぽど俺の行動が腑に落ちないのだろう。
とは言え、下手に結界を張られて一昨日のようになのはやフェイトと
出会ってしまうほうがこちらとしては不味いので、指摘してやることでもない。
・・・それにしても、さて。

「分かったよ。
本当のことを教えてやってもいい」

俺は頭を振りながらそんな風にヴィータに提案をしてやる。
ヴィータは一瞬、顔を顰めさせるが、
すぐにこちらに敵意に近いプレッシャーを送り始めた。
・・・もしかして、ヴィータも俺のことを出来るだけ
信じようとしてくれていたのかもしれないな。

「さて問題だ。
俺がはやてを助けようとした理由は?
@ 実は俺には年の離れた妹がいて、はやてと重なってしまい放っておけなかった
A 俺は誰も彼も救わないと気がすまない正義の味方なんだ
B 光源氏計画・・・漢のロマンを果たそうと思った
・・・どーれだ?」

間の抜けた俺の声に、かくん、とヴィータの肩が落ちて、
同時にデバイスの先端が俺とヴィータを結ぶ射線上から外れる。
ヴィータのデバイスはハンマー形のくせに先が尖っていて刺さりそうだから、
ちょっと安心感を覚えてしまう。

「・・・オマエっ!?
まぁいい、答えるだけ答えてやる」

言うと、ヴィータは少しの間頭をひねるように首をめぐらしてから、ポツリと言った。

「・・・@か?」
「無論、全部不正解だ。
読みが甘いぞ、ヴィータ」
「よし殺す。
はやてにはオマエは夜空の星になったと言っておいてやるから安心しろ」

俺のちょっとしたお茶目に対して、
ギラギラと輝く双眸でこちらをねめつけるヴィータに
慌てて手をぱたぱたと振って言い訳を重ねる。

「ちょっと待て!
その前にヴィータ、光源氏計画ってなんのことか知っているのか?」
「しらねー、どうせ不正解なんだから関係ないだろうがっ!」
「まぁそうなんだが・・・、
ちなみに小さい頃から唾つけといて、
大人になったら美味しく頂いてしまおうという計画だ」
「・・・そんなにアイゼンの頑固なしみになりたいのか、オメー?」

言葉は剣呑だが、俺の本気を量りかねたのか、
毒気が抜かれ呆れのこもった視線をヴィータは向けてきた。
・・・ふむ、ヴィータも少しは落ち着いたらしいか、頃合だな。

「正直に言うと、はやてのことが気にいっているからだよ。
まだ出会ってちょっとしか経ってないけど、
それでも俺は多分この世界の誰よりもはやての可能性を知っている。
その可能性に惹かれているってのもあるだろうし・・・」

突然の話の切り替えしに、苦笑を浮かべた俺をヴィータは怪訝な顔で見つめていた。
・・・そうだな、こんな言い方じゃ分からんか。

「いや、まだるっこしい言い方はやめよう。
簡単に言うと俺ははやてのことが好きなんだよ。
好きな奴のために身体を張ってやるなんて当たり前のことじゃないか?」
「・・・オメー」

ヴィータは俺の言葉の真偽を見極めるかのように、
再び真剣な顔でジッと俺の瞳を見つめてきた。
しばらくの間そのままの体勢でいたヴィータは、
ピクリとも動かさずに俺に向けていたデバイスを、
ようやくクルクルと廻しながら自分の肩に立てかけた。
それから軽く息を吐いてから言葉をつむぐ。

「・・・ま、あたしにもオメエが嘘を言っているようには見えねぇ。
取りあえずは信じてやるよ」

俺がヴィータの言葉にほっとため息を吐いて、
彼女の方を見るとヴィータはもう俺に背を向けて歩き出していた。
・・・どこかその背中が嬉しそうに見えて、
俺はついつい調子に乗って口を滑らせてしまう。

「・・・というかヴィータ、話を蒸し返すが『美味しく頂く』の意味が分かってるんだな」
「なっ!?
何言ってやがるっ!!」

俺の言葉に振り向いたヴィータは顔を真っ赤に染めながら、声を張り上げてきた。
・・・うーむ、本気で分かっていたのか。
って、まさかっ!!?

「・・・も、もしかして、ヴィータさん?
その・・・経験がお有りですか?」

もし有ったら、俺はきっと何かが崩壊してしまうだろうなぁ、
と内心確信しながら搾り出すような声をあげた。
俺の言葉に一瞬、怯むような顔をしたヴィータは
さらに頬の色を一段上に染め上げながら叫んだ。

「そんなんあるわけねーだろっ!
この馬鹿っ!!!」

ドシドシ、と音を立てながら逃げるように早足で歩いていくヴィータを見つめながら、
俺は心の底から安堵の息を漏らした。
危ない危ない、世界が崩壊するところだった・・・、イヤ、なんとなく。
と言うか、俺余計なこと言って、さらにヴィータに嫌われてませんか?
・・・ちなみに言っておく、マゾじゃないからね?





「・・・さて、勝負の時間がやって参りました」

俺はキッチンで立ち尽くしたまま、ごくり、と息を呑んだ。

俺のせいではあるが、微妙な気まずさの中、
ヴィータと一緒に八神家に帰ってきてから、
はやての入院に必要な着替えや生活用品をかき集めて
ヴィータに再び病院まで届けてもらった。
家人がいなかったため、
そこら中をひっくり返して探し物をするハメになった八神家のお片づけと、
夕飯のお買い物を俺が完了させてみるともう時計の針は夕方5時を廻っていた。

現在は、そんな俺が夕飯の準備をようやくそれが完了させたところである。
・・・ちなみにヴィータは先ほど帰ってきたようだが、
ちらりとリビングの様子を窺った限り、
はやてと過ごすことが出来たせいか少し機嫌が良さそうであった。

「・・・ヴィータと言えばご飯で手懐けるのが最善」

野生の動物か何かか、と突っ込みを入れられそうではあるが、
ヴィータ相手に『なのは式殴り合って友情を育む』という行為が、
主に俺の安全のために不可能であることから、
残された手がこのくらいしかないのが実際である。

「ヴィータはたくさん喰いそうだし、こってりしてた方が好みっぽいしな。
今日は中華で攻めてみました」

米粉の皮で出来た特製さくさく五目春巻き、
辛みは抑え目に卵で包んでまろやかさをアップさせたエビチリ卵とじ、
青椒牛肉絲は牛肉にしっかりと下味をつけてご飯が進む仕様、
麻婆豆腐は豆腐は小さくさいの目で一度湯がいたものは壊さぬよう、
湯がかずに入れた豆腐は少し砕いてスープとしっかり馴染ませる、
それから味の変化として少しすっぱい春雨サラダ、
ご飯は美味しそうに炊き上がったし、
スープはちょっとあっさり目の中華スープにしてみたぜ!

ぱーぺき、だ。
事実、食卓に皿を並べるたびに、
ヴィータの戸惑いつつもきらきらとした視線が突き刺さってくる。
準備を終えると、ごくり、という唾を飲み込む音が背後から聞こえてきた。
俺がそちらに視線を向けると、
そこには既にヴィータが食卓に座ってレンゲを持ちながら待っていた。

「・・・おい、もう食べていいか?」

ヴィータの目が食べたい、食べたい、と切々と語っていた。
俺は自分も食卓に着くと手を合わせる。
ヴィータも何気なく従って、レンゲを手放して俺と同じように両手を合わせる。
・・・すげぇ素直だ。

「いただきます」
「いただきます」

二人の声が唱和して、ヴィータに食べていいぞ、と促す。
目に爛々とした光を浮かべたヴィータが再びれんげを手に取って、
卵とじを掬って一口。
もぐもぐと咀嚼したかと思うと、ぱあっ、と表情を輝かせた。
続けて使いづらそうに箸を握り締めたヴィータは、
春巻きを突き刺してそのまま自分の口に運ぶ。
さくさく、と油で皮が滲んでいては出ない音が響き、満足気にヴィータがこくこく頷く。
青椒牛肉絲はレンゲですくいとってパクリと口に放り込み・・・
そこでようやく俺の視線に気付いたのか、少し恥ずかしそうに顔を顰めてみせる。

「こっち見んな。
くいづれーだろ?」
「なに、調理した人としては初めて食べる人の感想が気になるんだよ。
で、感想は」
「・・・めー」

俺の質問に対して、ぼそぼそと答えたヴィータがご飯をかっこむ。
ばくばく、と言った擬音が似合う勢いでさらに麻婆豆腐を喰らい、
口直しにスープを飲み込んでからヴィータは改めて言い直した。

「すげえ美味えよ、ちくしょう!
ギガうまだ!!
ああもう、気にしても仕方ねぇ!
美味しいもんは美味しく食べないといけないよなっ!!」

一度口にしてしまうともう気にならなくなったのか、
美味い美味いと言いながらヴィータは改めて料理を食べ始めた。
その様子に俺は満足すると、自分の皿に向き直る。
さて、俺も冷めないうちに食べますか、と箸を持って、

「おかわりっ!
ギガ盛りでなっ!!」

凄いイイ笑顔を浮かべたヴィータの空になった茶碗に遮られました。
・・・ま、いいけどね。



ヴィータに食い尽くされないよう自分の分は確保しながらも、
それ以外は取り立てて問題もなく、夕飯は終了した。
結局ヴィータは3杯の山盛りご飯を食べ、
今は満足そうにぐでーっとテーブルに突っ伏している。
お皿を片付けた俺が彼女の目の前にデザートの杏仁豆腐を置いてやると、
さすがにもう食べすぎのようで少しげんなりとした顔を浮かべた。

「あー、もう食えねー」

そう言いながらも、
ヴィータはスプーンを持ち上げデザートの器から杏仁豆腐を一掬い、二掬い。
けだるそうに口にスプーンを運びながら、

「つめてー、あめー、うめー」

と唸るように呟いている。
とは言え、やっぱり限界だったようで、
杏仁豆腐をつんつんとスプーンでつつく動作を繰り返すばかりで、
口に運ぶ回数が極端に減ってきてしまう。

「なぁ・・・」

そんなヴィータが、俺とは反対の方向へと顔を向けながら呟きを漏らした。

「はやては・・・闇の書のせいで身体おかしかったんだよな?」
「・・・どうしたヤブから棒に」
「さっき病院に行ったとき、改めてはやてに聞いてきたんだ。
石田先生にも聞いた、
あたしがこんなナリだからあんま教えちゃあくれなかったけど・・・、
やっぱり重度の障害だって」
「・・・そうか」

俺の方を向いてはくれないから、
ヴィータが今どんな表情を浮かべているかは分からないが、
どうやら彼女なりの今後に対する答えが出たようだった。

「あたしが今まで信じてきたことって・・・何だったのかな・・・」
「別に闇の書にちょっとバグがあったからって、
ヴィータが間違ったことをしてきたわけではないだろ?」
「・・・オマエがいなかったら、闇の書を完全に起動させれば治ると信じて、
他のヴォルケンリッターたちとはやての足を治すために蒐集をしてたかもしんねー。
そうすりゃ、結果がどうあれはやては犯罪者になっちまう。
はやてが日の当たる場所に居られねぇのは・・・なんかイヤだ」

真面目な口調で独り言のように言葉を重ねるヴィータの三つ編みが、
彼女の内心を表すかのようにテーブルから地面に向けて、だらん、と下がっていた。
2〜3分ほどそのままの体勢でいたヴィータだったが、
ゆっくりと顔を上げて彼女は俺と視線を交錯させた。

「・・・自分の弱さを認めるのは癪に触るが、認めざるをえねぇ。
あたしは、闇の書にバグがあって所有者に害悪をもたらしていることを認める。
現在のあたしが、その異変に対して何も出来ないことも認める。
だから・・・」

至極真面目な口調で、俺を見つめていたヴィータが騎士の礼をとったのを、
俺はぽかんと間抜け面で見ていた。
・・・正確には、この可愛らしくも凛々しい騎士殿の勇姿に見惚れていた。

「現闇の書の主、八神はやてのヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータは、
アンタに助力を請う。
八神はやてが真なる意味で闇の書の主として立ち上がるその日まで、
アンタのその知識ではやてを共に支えてやってほしい」

そこまで言ったヴィータは、少し身体の緊張を解いて続ける。

「はやてに聞いたんだが、アンタにはアンタの事情があるんだろ?
見返りとして、それにあたしは全力で協力する。
アンタの敵は、あたしの敵だ!
あたしと鉄の伯爵グラーフアイゼンがぶっ潰してやるっ!!」

そう言って、ニヤリ、とこちらに笑みを浮かべるヴィータに、
ようやく自分を取り戻せた俺もなんとか笑みを返してやる。
ヴィータが伸ばした右のコブシが、俺のコブシとこつり、とぶつかり合う。

「ああ、俺は魔力も少ないし、ピンチになったら助けてもらうこともあると思う。
よろしく頼むぜ、ヴィータ」
「任せておけ!」

そう言って自分の胸を叩いたヴィータが、けぷっ、と小さなゲップを漏らす。
さすがに恥ずかしくなったのか、彼女は頬を染めて、
誤魔化すかのようにそれまでの話題とは180度ずれたことを尋ねてきた。

「そ、そういや、はやてはどうしてオマエを『兄ちゃん』って呼んでんだ?」
「ああ、同居するなら家族みたいなものだってはやてが・・・」

苦笑をかみ締めながらなんとか答えた俺を、
ヴィータはひと睨みしてから話を続けた。

「・・・そっか。
じゃああたしもオマエのことを『アニキ』って呼ぶかんな。
アニキは・・・あたしのことをヴィータって呼べ」
「まぁ、始めからからそう呼んでたがな」
「う、うるせー、今までは勝手に呼んでやがったんだ!
せっかくあたしが許してやるんだ、感謝しろ」
「はいはい、感謝するよ」
「むぅ、誠意がこもってねー」

しかめ面を浮かべながらも、既に腹がこなれて来たのか、
杏仁豆腐食べを再開するヴィータを見ながら、
少しは仲良くなれたかな、と俺はそっと息をついた。


「・・・なぁアニキ、あと一つだけ」

杏仁豆腐を食べ終え、
スプーンを空になった皿に突っ込みながらヴィータが俺に問いかけてきた。

「なんだ?」
「明日はハンバーグってのにしてくれっ!」
「・・・了解」

・・・もしくはただ食い意地が張っていて、
美味しいメシを作る人間が手放したくなくて妥協してくれただけだろうか。
具体的には、
はやて>食事>>(超えられない壁)>>俺の処遇
ってな具合だ。

・・・いかんな、それも十二分にありえそうだ。

(続く)