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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第4話』


───俺の名前は・・・まぁ何だっていい。
心に傷を負った、という程でもない大学院生。
モテカワスリムで恋愛体質の愛されボーイ・・・という訳でもない。
俺がつるんでる友達は海水浄化研究をやってるミキオ、学校にナイショでGM植物を作っているユウジ。
訳あって産官学共同研究の一員になってるアキオ。
友達がいてもやっぱり学校はタイクツ。
2,3日前もミキオとちょっとしたことで口喧嘩になった。
男のコ同士だとこんなこともあるからストレスが溜まるよね☆
そんな時俺は一人で研究に没頭することにしている。
がんばった自分へのご褒美ってやつ?
自分らしさの演出とも言うかな!

「あームカツク」

数日前の自分を思い出しながら、しつこいキャッチを軽くあしらう。

「おいオマエ、ちょっと話聞け?」

どいつもこいつも同じようなセリフしか言わない。
キャッチの女はカワイイけどなんか薄っぺらくてキライだ。
もっと等身大の俺を見て欲しい。

「おいこら・・・」

・・・しつこいな、と財布の中に臨時収入8万7千円を持つセレブな俺は思った。
シカトするつもりだったけど、チラっと黒づくめのボディスーツを着た女の顔を見た。

「・・・!!」

・・・チガウ・・・今までの女とはなにかが決定的に違う。
スピリチュアルな感覚が俺のカラダを駆け巡った・・・。

「・・(カワイイ・・!!・・これって運命・・?)」

女は守護騎士だった。
連れていかれて凹された。

「キャーやめて!」

カートリッジをきめた。

「ガシッ!ボカッ!」

俺は気絶した。スイーツ(笑)。


・・・俺は闇の書から放り出された赤毛の三つ編み少女のハンマーが俺の頭に振り下ろされる、
ほんの一瞬の間にそんな白昼夢を見た。
そしてやっぱり殴られて気絶した。スイーツ(笑)。





「兄ちゃん、トイレ――――っ?」

俺が家に帰ってきたとき、
「ただいま」
というごくありきたりな挨拶に返された斬新すぎる挨拶がそれだった。
思わずがくん、と肩を落としながらはやての私室に駆け込む。

「やばいでっ!
もう限界ぎりぎりやっ!
ダムがっ、ダムが―――――っ!?」
『ではかぶりつきでお漏らしを見学致しましょうか』
「うわっ、外道がおるっ!?」
「・・・掃除が大変だから、さっさとトイレに運ばんか」
『魔力を温存したいので、主が運んで下され』

悪びれることのないセイの言葉に、俺は思わずはやての顔を覗き込んだ。
さすがにトイレは恥ずかしいよな・・・?

「何でもええから、早うお願いっ!」

・・・恥じらいどころではないようだった。
俺は部屋の隅に転がっているペットボトルを一瞥すると、諦めてはやてを抱え込んだ。

「そーっとやで!?
でもなるべく急いでな?」
「はーいはいはい」


ちょっとしたドタバタがあったものの、
リビングに移動してきた俺たちは改めてはやてに今日の報告を話し始めた。

「・・・と言う訳で無事に4個のジュエルシードを手に入れたわけだ」
「兄ちゃん以外にもこんなんを探している人がいるんやなぁ。
・・・なぁ、兄ちゃん、怪我しとらんか?」
「怪我はしていないけど、俺の安いプライドはずたずただな・・・」
「そ、そうかぁ」

はやては俺のよどんだ表情を見てそれ以上追求しない方が良いと判断したのか、
苦笑を浮かべると改めてジュエルシードをマジマジと眺めている。
触れたりしないようには初めに言い含めてあるが、
この宝石が本当にそんな力を持っている、などということが信じられないようだ。

「それで兄ちゃんはこの・・・ジュエルシード?
これを使って何をするつもりなん?」
「ああ、それなんだがはやてには黙っていたことがもう一つあるんだ」
「何や?」
「はやての足のことだよ」

俺の言葉に、ピクリ、と大きく肩を震わせたはやてをちらりと見つめてから俺は続ける。

「昨日はまだ確証が無かったんだが、俺とセイの意見は一致した。
・・・その足は、魔法技術による障害だ。
はやてにも分かりやすく言えば、霊障、なのかな?」
「・・・霊障・・・?」
『そうですな。
はやて殿は先天的に非常に高い魔力資質を持っているようです。
・・・その才を見込んだ次元横断『寄生』型魔道書が、はやて殿を主と仰いだ。
ですが、この世界には魔法に対する抵抗技術がない。
はやて殿は魔力を操作する術も知らず、ただ大きすぎる力に振り回されて身体を蝕まれているのです』
「・・・じゃあ、じゃあ!
わたしがその、魔法を学べば、この足は治るん?」

喜色ばむはやての顔を横目に、俺は首を軽く振った。
・・・きっと、それでは侵食のスピードにはやての成長が追いつかないだろう。

「残念ながらそう簡単にもいかない。
魔道書が本来の姿であれば、はやての問いに対する答えは『Yes』だが、
もう魔道書は本来の在り方を失って久しい」
『平たく言えば、長い時間起動し続けているくせにメンテナンスもほとんどされていないためにバグだらけ、
さらにはその上から随分と改造もほどこされて、
もう魔道書の自意識さえも届かぬ歪な道具と成り果てております』
「・・・そっか」

落ち込むはやての頭を、ぽん、と軽く撫でてやってから優しい口調を心がけて続けた。

「そこで、はやてを治療するための秘密兵器としてこのジュエルシードを使うんだ」
「・・・秘密兵器?」
『ええ、この宝石は指向性を持たぬ魔力の塊でしてな。
知識さえあれば如何様にも使える便利な道具です。
・・・まぁ細かいことは省きますが、魔法による身体障害に対抗するには魔法、という図式は正しいのですよ。
ですが、我々が今日出会った魔道師の様なプログラミング式術法を用いる魔法では、
あまり医療には向いてはおりませんかもしれませんが。
ともかく、結論としては、
ジュエルシードを4つ使って主は、はやて殿を救おうと考えておるのです』
「・・・え?
じゃあ、兄ちゃんはわたしのために戦って・・・?」

頭に置いたままだった俺の手を両手で抱え込むようにして掴みながら、はやては俺を見つめて呟いた。
その瞳には、小さな少女らしくもない、遠慮と戸惑いの光が浮かんでいた。

「まぁ成り行きだから、はやては気にしなくていい。
それに俺たちには誰かを助けられる力があった。
・・・それをはやてのために使ってやることは、決して間違いじゃあない」
『はやて殿は良い子ですからな。
そんな子が救われないのは、私も主も嫌なのですよ。
これは我々の親切の押し売りでございますから、はやて殿はむしろ我々に対しても被害者ですな』
「・・・うっ、・・・ううっ」

俺たちは本当に何も考えずに喋っていた。
だから、はやてがしゃくり声を上げるまで、彼女が泣いていることにも気付かなかった。

「って!?
はやてっ!
おい、どうしたっ!?
どっか痛いのかっ!!」
『これは・・・ふむ、治療いたしますかな?』
「ちゃうねん・・・ちゃうねん・・・。
うれしい、わたし、うれしい・・・。
何で兄ちゃんたち・・・そんなに優しいの・・・?」

頭を振りながら、涙を流す彼女の姿に俺は居たたまれない気持ちを覚えた。
何しろ、俺は優しくなんてない。
ただ、自分が気に食わない物語を手前勝手に改変しようとしているだけだ。
むしろ、将来的には彼女に恨まれてしまうかもしれない。
だが、そんなことをはやてに言うわけにもいかないだろう。

『優しい・・・?
それは違いますよ、はやて殿。
私はむしろ、はやて殿に辛酸辛苦の旅路を求めます。
はやて殿、お願いがございます。
・・・件の魔道書を救ってやって下されぃ』
「セイ・・・?」
「セイちゃん・・・?」
『実を申しますと、ただはやて殿を助けるだけならば非常に簡単な話でございました。
何しろ、私は生命情報および生命活動を操作する特化された存在ですゆえ。
ですが、私は、そのしゃらくさい魔道書をはやて殿に救っていただきたい。
はやて殿自身の手で、魔法使いとしての力量を蓄え、真正面から魔道書に挑んでやってほしいのです。
・・・きっと、はやて殿ならそれが出来る、私はそう確信しましたゆえ、お手伝いをさせて頂くのです』
「・・・まぁ、その話は俺も始めて聞いたが、正直賛成だ。
魔道書は呪われているとは言え、はやてを主として仰ぐ、はやてのパートナーに違いはないんだ。
だから、はやて自身の手で呪いを解いてもらいたい」
「・・・パートナー・・・?」
『ですが、今の状況ではそれも適いませぬ。
はやて殿が魔道師として成長出来る余地は全て魔道書のわずかばかりの抑制に使われておりますゆえ。
だからこそ、私が呪いを完全に防いでいる間に、はやて殿には魔道師としての力量を高め、
哀れな魔道書を救ってやってほしいのです』
「・・・わたしが・・・魔道師に・・・?」

はやては涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、呆然としながら呟いた。
俺だってはじめて聞くセイの想いに驚いているんだから、彼女の驚きは如何ともし難いものだろう。
彼女はしばし、呆、とした後、きりりと顔をひきしめてセイに向きなおった。

「・・・やる。
やってみせる。
正直、その魔道書には文句の一つでも言うてやりたいけど、
文句言うのにも私が弱いまんまじゃ言えへんわ。
それに・・・それにな。
そんなん関係なく、わたし、その子とお話してみたいんや」
『良いご返事です。
ですが、はやて殿。
物事には順序がありますからな。
まずは日常生活ができるぐらいには身体を治し、それから魔法修行に入られるといいでしょう』
「・・・まぁ、そこら辺はおいおい、だな。
じゃあ魔道書の封印作業の具体的な説明に入る前に、一度休憩入れようか。
紅茶でも淹れてくるよ」

俺はそこで話を区切ると、紅茶を淹れに台所へと向かった。
正直、大体の話が分かっていた俺でさえ結構疲れたのだ。
初めて聞く、それも俄かには信じられない話のオンパレードだったはやての心労は相当のものだろう。
小難しい話は一度キリをつけて、はやてにも心の整理をつけさせる時間を与えたほうが良い、
そんな風に考えながら、戸棚から2人分のティーカップを取り出した。





紅茶と、帰りがけに購入してきたケーキをリビングに運ぶとはやての顔がパッと輝いた。

「翠屋のケーキ?
初めてやけど、あそこの美味しい聞いてるなぁ」
「ああ、いきなり留守番させちまったからな。
雰囲気の良さそうな店があったからお土産を買ってきてみたんだが・・・成功だったみたいだな」

無論言うまでもないが、あの店には狙って行った。
アニメの上でのこととは言えアレほどまで、
『美味い美味い』
言われていれば一度食べたくなるのが人情ってものである。
実際に店を訪ねた折も、かなり雰囲気が良い店だと一目で分かった。
・・・それから店の人たちもやばいぐらいの美男美女ばかりで、
そりゃあ流行るよなぁ、と納得してきたのだった。

「はやて、どれがいい?
4個買ってきたから、今は1個ずつにして、夕御飯の後にもう1個は残しておこう」

ちなみに買ってきたのは、
定番の定番、イチゴのショートケーキ、
旬の果物が鮮やかな、フルーツのタルト、
爽やかな酸味と滑らかな舌触りの、レアチーズケーキ、
ほんのり苦味が香る、ザッハトルテ、
以上4品である。

「そやなぁ・・・」

きょろきょろと目線をさ迷わせて選ぶはやての姿は、年相応で微笑ましい。
・・・それはそうとはやてって食事制限はないのかな?
疑問に思うが、まぁ気にしても仕方が無い。

「良し、決めたで!
レアチーズケーキや〜♪」
「じゃあ俺はザッハトルテかな?」

俺はちょいちょい、と皿にケーキを取り分けはやての前にレアチーズケーキを、
自分の席の前にザッハトルテを置く。
そしてソファに再び座り込んで、ぱくり、と一口。
はやても俺がフォークを取るのを待っていたらしく、ほぼ同時にケーキをひとかけ、口に運んだ。

「・・・おっ!?」
「・・・わぁ!」
「なんだこれ、うめぇ・・・」
「美味しいわぁ・・・、あー、これは評判になるのよー分かるわ」

先ほどの泣き顔が嘘のように、ニコニコと笑顔でケーキを頬張るはやての姿に心の中でほっと安堵する。
・・・それにしてもこのケーキ、やべぇぐらいの美味さだな。
何か変なもの入ってるんじゃないか?

「兄ちゃん兄ちゃん」

俺がケーキの成分について考え込んでいると、はやてに呼びかけられた。
はやては自分のフォークを置いて、右手の指先で自分の口先にちょっと触れる。
それから控えめに自分の口を開けて、

「あーん」

・・・うわ、恥ずい。
でもここは負けてやるものか、と良く分からない対抗心を燃やした俺は、
はやての口にあわせてケーキを切り取って放りこんでやる。

「えへへ、こっちも美味しいなぁ」

・・・そう言いながらも、ふわふわとした笑顔を浮かべたまま、自分のケーキを切り分けて、

「お返しや、あーん」

俺にフォークを差し出してきた。
・・・こっちの方がきつい。

「あ・・・あーん」

とは言え、断ることも出来ないヘタレな俺は、諦めて口を開けた。
ゆっくりとした動作ではやてのフォークが俺の口腔内に入ってきたのでケーキを受け取り、
もぐもぐと咀嚼する。

「こっちもやべぇぐらい美味い・・・」

どうやら、あの店は保健所の手入れが必要らしい。
・・・いや、何と無くそう思ってしまった。





『さて、そろそろ本題に戻っても宜しいですかな?』

俺たちが紅茶の二度目のお代わりを終えた頃、セイがゆっくりとした口調で話しかけた。

『主殿、申し訳ないが、件の魔道書を持ってきてくだされ。
ここからは実作業にも入りますのでな』

セイの言葉に従って、俺ははやての寝室に向かった。
その本棚には、小学生が持ち主だとは到底思えないほど、
古めかしくも高級そうな装丁のハードカバーの本が1冊だけある。
何しろ、鎖で封印されているなんていうフザケた本だ。
・・・それにしても。

「うーん、確かに呪われているような気がするぜ」

見つめているだけで、ひしひし、と全身にプレッシャーが襲ってくる。
普通の本を見たときにはあり得ない反応だ。
見た目の奇抜さだけでなく、中身そのものがヤバイものなのだと、それだけで良く分かってしまう。
・・・ともあれ、リビングまで持っていこう。
俺はその本を両手で掴むと、少々怯えながら、おっかなびっくりと戻っていった。

『・・・主、怯えすぎですよ。
安心して下され。
起動前のそういった類の魔道書は威圧感だけは十二分ですが、実際のところは何も出来ません』
「・・・そうか」

俺の不安を感じ取ったのか、セイが苦笑混じりの言葉を投げかけてくれる。

『では、主が本を取りに行っている間に机に描いた魔法陣の真中にその本を置いて下され。
続けてジュエルシードを陣の四隅に。
・・・ええ、それで問題ありません』

セイの言葉に従って一冊の本と、四個のジュエルシードを
輝きを放っている魔法陣の所定の位置に配置する。

『では説明に戻りましょう。
・・・はやて殿、大丈夫ですか?』
「う、うん。
なんとか、状況は整理できた。
内容もなんとかついていっとる」

こくこく、と肯くはやての瞳は、輝く魔法陣と一冊の本に向けられている。
・・・さて、ここから先はセイ次第と言うわけか。

『件の魔法書は、収集蓄積型の巨大ハードディスクを有する辞典機能が本体となっております。
ただし、先ほども言いました通り、通常の方法ではデバッグしきれないほどのバグが発生しており、
なおかつ後から導入されたプログラムによりいくつかOS部分が上書きされてしまった箇所もあるようで、
元の魔道書の設計図でもない限り根本治療することは不可能でしょう。
・・・普通なら、と注釈がつきますが』
「セイなら出来るんだろう?」
『ええ、無論。
しかし私だけではこの書とはやて殿の魔術的繋がりを、
はやて殿の足の麻痺部分から逆転写させて突き止め、
魔道書とはやて殿の間のマスター契約を破棄させることぐらいしか出来ませぬ。
この魔道書が生き物であれば、一発で治して見せますが、残念ながら非生物ですしな。
キモは、主に収集して頂いたジュエルシードにあります』
「・・・な、なんとかついていってるで・・・」

はやてはうんうん、と唸りながらセイの言葉を頭の中で噛み砕いているようだ。
セイは気にした風もなく続ける。

『ジュエルシードは、周囲の生物が抱いた願望を叶える特性を持っているようですが、
それはすなわち、次元間を越えて『そうなる可能性』を模索する魔道具であるからなのです。
ですから、絶対にあり得ない可能性を叶えることは出来ず、
例えば、主がパソコンのディスプレイから滅茶苦茶可愛い女神さまが出てこないかなぁ、
とジュエルシードに願ったとしても、その願いは叶うどころか、
無茶な願いは数多の次元階層に多大な負荷を起こしてしまい、
『破壊』や『暴走』という結果をもたらします』
「・・・その例えはやめて欲しかった」
『・・・まぁとにかく、ジュエルシードの力の本質は『次元干渉』なのです。
それも生命体の『想い』に特化した、非常に興味深い性質ですな。
ですから、私のように生命解析と治療に特化した存在であれば、
逆にこのジュエルシードの力を利用してありとあらゆる次元世界から、
様々な『可能性』を取り出すことが出来ます。
すなわち、『魔道書が出来たばかりの過去』に属する世界から
魔道書の設計図を引き出すことさえも出来ます。
同様に主以外が魔道具に干渉すると防御プログラムにより、主の身体を蝕む機能がついているようですが、
こちらもジュエルシードを使って別次元にバイパスを通してやれば、
呪いの類は指向性が無ければ作用しないものですから無力化が可能です』
「・・・とまぁ、これで2つのジュエルシードが必要と言うわけだ」
「ううん、・・・ま、まだなんとか・・・ええと、アレがそうなって・・・」

はやては眼を白黒させながらなんとか話についていこうと頑張っているようだ。
そんなはやてを微笑ましく思いながら、俺は先を話す。

「それからはやての足のことだ。
今後の進行は止められるが、現在の病状を回復させるにははやて自身の力が必要になる。
そこで、まぁ反則気味だが、
はやて自身が本来持っている人間の『治癒力』を向上させるのにも使おうと思っている。
魔術的な負担が長い間掛かり続けていたからな。
医学的な側面からでは、ちょっと完全に治るまでには時間がかかってしまうかもしれないし」
『それから、はやて殿の強大すぎる魔力資質を隠すのにも使おうかと思っております。
一見したところ、はやて殿は主の10倍・・・いえ、もしかしたら100倍近い魔力保有量がありそうなので、
垂れ流しにしてしまうのはあまりにも危険ですからな。
良くないものを呼び寄せ、
良くないものに引きずられてしまいます』
「・・・うーん、そのあたりはピンと来いへんが、任せるわ」

やはりはやての頭の回転はすこぶる良いようだった。
正直、9歳児が理解できる範囲はとっくに超えているはずだが、
辛うじてほとんどの中身を理解しているようである。

『さて、最後のジュエルシードの使い道なのですが、こちらは少々毛色が違います。
この魔道書には、守護騎士プログラム、と呼ばれる防衛プログラムもまた存在しております。
・・・このプログラムが少々やっかいでしてな。
独立した4騎分の人格プログラムが存在しておりますため、
単一の方法で騎士たちを防ぐのには少々手こずり・・・』
「騎士?
何や、えらいカッコイイ響きやなぁ」
『味方であれば頼もしいのですが、・・・どちらにしろ、
今のはやて殿では負担が大きすぎますゆえ、騎士たちには表舞台には出てきてほしくはないですな。
ともあれ、騎士たちに対しては魔道書が起動していない、
と誤魔化しの偽プログラムを組み続けてやる必要がありそうです。
それも4つですので、まぁ、これが一番手間がかかりますな。
何しろ専門外ですから。
これがジュエルシード1個分ですむかどうか・・・』
「さて、説明はこんなところにして始めるか?」
『そうですな、ジュエルシードを解放状態でいつまでも放置しているのもいささか問題ですし、
こういったことはさっさと済ましてしまうのが宜しいでしょう』

セイの言葉に従って、魔法陣が眩いばかりの光を放つ。
さらに四隅に置かれたジュエルシードが連動して震えだし、
闇の書も、まるで自分のこれからの運命に気が付いたのかのように表紙がびくびくと、波打ち始めた。
・・・む、抵抗されるか?

『案ずることはございません。
・・・想定の範囲内でございますから。
ただ、こちらの最終スキャンに反抗しているだけで・・・っ!?』
「どうかしたか?」
『むむっ、これは・・・まずいですな。
守護騎士プログラムが思っていたよりも強い力を持っております。
ジュエルシード1つでは・・・まかないきれませんな』
「・・・ってことはどうなるんだ?」
『何とか3騎は抑えこみますが・・・すいませんが、1騎が出てきてしまいそうです』
「ええええええっ!?」

はやての素っ頓狂な叫びが聞こえる。
確かに何も知らなければ不安だろうが、
あのヴォルケンリッターたちならきっと話せば分かってくれるんじゃないかと俺は楽観的に考えていた。

「セイ!
それはもう構わん!
守護騎士一体の維持ではやての身体に悪影響は出ないか?」
『それは・・・、はやて殿の身体を治療するために1個分用意していたことが幸いしましたな。
多少回復に時間がかかるようになってしまうかもしれませぬが、大事ありません』
「なら良しっ!
説得は俺に任せろ!」
『心強きお言葉、感謝の極み!!』
「兄ちゃん、カッコええでっ!!」

ばちばち、と紫電を放つ闇の書の力の一部が
ジュエルシードの一角に吸い込まれていくように消えていく。
ごうごう、と蒼炎が爆ぜる闇の書の力の一部が
ジュエルシードの一角に吸い込まれていくように消えていく。
びゅうびゅう、と氷嵐が舞う闇の書の力の一部が
ジュエルシードの一角に吸い込まれていくように消えていく。
黒く輝く光の一筋がはやてに向う瞬間、弾かれるようにジュエルシードに飲み込まれていく。

『さて、ここまで問題なく術式が済めばもう問題ないでしょう。
・・・主、はやて殿、私は今より魔道書内でデバッグ作業に入りますゆえ、
こちらに意識を割りふることができませぬ。
何、心配めさるな。
私が持ちうる全ての情報バンクと魔術式は、主にも参照できるようにしておきましたゆえ』
「・・・て、おいっ!
そんな話、初耳だぞ!」
「そ、そやっ!
セイちゃん、そんなんわたしイヤや!」
『何、はやて殿が闇の書の呪いを解いて下されば、私の仕事も終わりです。
またすぐに逢えましょうぞ』

セイはあっけらかんとした軽い口調で言い放つ。
セイにとって、まぁ、瞬きするような時間なのだろうから、気にした様子も見せていない。
・・・はやてにとってはかなりのショックだったらしいが、俺も少しはショックを受けていた。

『はやて殿・・・、私も中からデバッグしておりますが、
この魔道書を本当の意味で直せるのははやて殿をおいて他におりませぬ。
次に見えた時には、この書の主に相応しいお方に成長していて欲しいですな』
「う、うん、約束する!
すぐにセイちゃんを助けたる!」
『いえ、時間を掛けてゆっくり成長して下され。
まぁ5000年ぐらいでしたらデバッグしながら待っておりますので』
「・・・そ、それはちょっとゆっくりすぎるなぁ」

何処までも軽いセイの言葉に、ようやくはやてが笑みを零す。

『主・・・しばしのお別れですな』
「・・・そうだな」
『もしも・・・
もしもの話ですが・・・』
「何だ?」
『主がはやて殿を身篭らせていたら軽蔑しますからな!』
「おいこらっ!!」

俺の叫びにセイがケラケラと笑う。
その笑いが何故か俺に安心感を与えてくれた。

『まぁ、私の勘ですが、どちらにしろはやて殿が一人前になるには1年もかかりますまい。
さて、そろそろ封印作業が一段落つきますが・・・、そうそう。
主よ。
守護騎士ですが、封印と同時に放り出しますので、説得をお願いしますな』
「ああ、・・・って誰を出すんだ?」

説得しやすい、というか話を聞いてくれそうなのは緑の騎士かな?
そんな風に思いつつ話を振る。

『主の好みそうなロリっ娘がおりましたので、そちらに決めておきました』
「・・・いい加減にせい」

最後までふざけた態度のセイにため息をつきながら突っ込みを入れる。
・・・むぅ、しかも微妙にダジャレになっているなぁ、関係ないが。

『冗談ですよ。
はやて殿の負担が一番少ないというのが理由でございます。
・・・しかし、この守護騎士プログラムも趣味に走りすぎておりませんか?
一体誰が何を考えてこんな設定のプログラムを・・・?』
「まぁ、そこは突っ込んでやるな。
きっと深遠な理由があったんだよ」
『・・・とてもそうは思えませんが、さて、もうそろそろしばしの別れですな』
「セイちゃんっ!
わたし、頑張るでっ!」
「まぁ、俺もほどほどにはやてをサポートするさ」

『心強いお言葉ですな・・・、ではさらばっ!』


ぱきぃいいいいいんっ!!


甲高い音が響いたと思った瞬間、四隅に置かれたジュエルシードから碧色の光が伸びた。
光線はぐるぐると本の周囲を囲み、やがて四重の鎖となって、さらなる封印が闇の書にほどこされた。
気付くとさきほどまで感じていた、闇の書のプレッシャーさえも消失していた。

「ぎゃっ!?」

神秘的な光景に浸っていた俺の顔にぺちゃ、と黒いものが覆いかぶさってきた。
それと同時に蛙が潰れたような声が聞こえた。
・・・何これ?
とりあえず引っ剥がそうと、掴んでみる。

ぷに。

「きゃんっ!」

うわ、すげぇやわらかい。

ぷにぷに。

「あひゃっ、ひゃんっ!」

うわ、すげぇ何これ。

ぷにぷにぷに

「やっ、やめろっ・・・きゃあっ!」

・・・きゃあ?

そんな声に気付いておそるおそる手を放すと、俺の顔にひっついていたソレも離れてくれた。
全身黒づくめのボディースーツのような衣装を着た赤い髪のちびっこが、
何故かおしりを押さえながらこちらを睨んでいる。
・・・さて、俺はこの後どうなるのでしょうか。

答え: 最初に戻る。

・・・そんな訳で、説得の『せ』の字もしないうちに、
あっさりと俺は鉄槌の騎士の一撃を受け、昏倒してしまったのである。

「兄ちゃん・・・カッコ悪ぅ・・・」

やかましいぞ、はやて。



(続く)