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魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第3話』



「・・・という訳で港です」
『原料高の影響か、船の数が少ないですな』
「・・・漁港じゃないだけだろ?」
『おや失敬』

翌日の午後。
はやてに断りを入れてぶらぶらと港までやってきた俺たちは、
どうでも良い会話を繰り広げながら海面を目の前にした港の一角にぼけっと突っ立ていた。
ちなみにはやてはお留守番である。

「ト、トイレいきたくなったらどうするんや!
わたしも連れてけ〜!?」

と我が侭こねたのでペットボトルを渡してみたら、投げ返されたのも今となっては良い思い出です。

『段々本性が出て参りましたな、主よ。
幼女は鑑賞用。
眺めて楽しむものですからな』
「いや、アレは冗談だからね?
はやてを連れてうろうろしていたら確実に職質されるだろうし・・・」

今はもう放課後だろうが、あのときはまだ普通の子供は学校に行っているはずの時間帯だった。
そんな最中女の子を抱えてうろうろしていたら、そりゃあ怪しさ大爆発だ。
俺なら通報するね。
間違いない。

『・・・まぁそれもそうですな。
それよりも主、昨日の話の続きなのですが、闇の書、でしたかな』
「ああ、もう一度確認するが4個あればよいんだな?」
『ええ、主の話と私自身が軽く解析してみたところによりますと、デバイス本体の情報変換、
フィードバック用のパス破壊、はやて殿自身の強化、そして守護騎士プログラムの書換え、とそれぞれ1個ずつ。
やはり4個あれば充分でしょう』
「・・・守護騎士プログラムの書換え?」

俺は昨日は出なかった言葉に疑問を返す。
あの4人ははやての『本当の家族』になるはずの存在だ。
なるべくならばはやてとめぐり合うようにしてやりたいが・・・

『ええ、主との会話の後に、あの書の解析を進めておきました。
本体の起動前ゆえ、管制プログラムが私の作業に横槍を入れることはないでしょう。
ただ、そう言った際のことを想定してあの書には二つの防衛プログラムが存在しております。
1つは、宿主への攻勢フィードバック。
これは書に仇名す行動は主にもダメージがいくような設定になっているということです。
何も対策を採らずに例えば書を燃やしたりしてしまうと、
はやて殿も一緒に死んでしまうでしょうな』
「・・・っ」

しかめ面をした俺の表情に気付いたのか、セイが軽い口調で続ける。

『ですが、そのような呪いの類であっても現実に外傷としてダメージを負う類のものであれば、
私がそのパスを全て押さえることが出来ます。
それゆえ、こちらは問題にさえならないでしょう。
むしろもう1つの防衛プログラム。
こちらが少々やっかいかと』

そこまでセイが語ったところで、俺が覗き込んでいた水面に波紋が広がった。
おや、もしかして・・・

「セイ、ちょっと待った」
『承知』

黙って水面を見つめ続けること30秒ほど。
波紋が段々と大きくなると同時に数が増してきた。
その数は・・・6。

「キュイ!」

甲高い声に従って海面から顔を出したのは、6匹のイルカだった。
それぞれの口にはひし形の蒼い、不可思議な輝きを持つ宝石が咥えられている。
・・・まさか一発でうまくいくとはな。
内心では呆れながら、手をのばして1個ずつ宝石、ジュエルシードを受け取っていく。

「・・・とりあえずこれで第一段階クリアだな」
『然り、あなたたちもご苦労さまでした。
お礼に病気や怪我、蓄積した遺伝子変異の類は治しておきますよ』

セイの言葉が分かるのか、イルカたちがきゅいきゅい、と嬉しそうな声をあげる。
俺は手の中のジュエルシードを巾着袋に詰め込みながらも、
その光景を苦笑を浮かべながら見つめていた。

「ロドフェラックスはそのままで良いのか?」
『・・・まぁかまわぬでしょう。
数日のうちに淘汰されて自然と元の生態系に戻りましょう』
「・・・そうか」

今日のカラクリはこんなところだ。
発電機能を持った微生物を使ってジュエルシードを探索させ、
昨日解析した巨大樹の波長と似た性質を持つ物質を見つけたらそれをインデューサーとして放電を起こさせる。
そして『外的な電気信号を感知出来る』ようにしたイルカを使ってジュエルシードを回収させる。
ミソは水は電解質だから放電が広範囲に散らばるので検知しやすいってことなんだが・・・、
それでも10の20乗ほどの微生物と誘引フェロモンの類を使って呼び寄せたイルカを6匹ほど
てなづけるだけで手一杯だった。

その程度の数では正直かなりの無茶だったんだが・・・。
俺のちっぽけな魔力で出来る海なんて広大な範囲での探し物というと、そんなことしか出来なかった。

「とにかく上手くいって良かったよ・・・。
これではやてにも良い報告が出来るな」
『ええ、さて急いで帰りましょう。
今の主の魔力ではジュエルシードを封印することすら出来ませぬ。
他の探索者に見つかっては厄介なことになりますからな』
「・・・うげぇ」

セイの言葉に思わずげんなりとした声を漏らす。
他の探索者と言うとおそらく・・・

「あのっ、すいませんっ!」

・・・あれ?
噂をすれば影、って奴ですか?




いつの間にか、俺の目の前には女の子が立っていた。
ランドセルは背負っていないが、多分小学生ぐらい。
真っ白で洗濯するのが大変そうな可愛らしいワンピース型の制服を身にまとい、
柔らかそうな髪が二房、ぴょこん、と飛び出している。
信じられないぐらい可愛い顔立ちをしているが、今は俺に向けてどこか心配そうな表情を浮かべている。
そして彼女の足元にはフェレットっぽい生き物が一匹。
・・・確定だ。

「はぁ〜〜〜〜〜っ」

俺は自分の運の悪さに、思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「あれっ!
ど、どうしましたっ!?」

彼女が俺に近づいてくる。
・・・確か身体能力はあまり高くなかったはず。
ダッシュで逃げればなんとか・・・ならないな。
背中から撃たれて終わりか。

「何処か痛いんですかっ!
もしかしてわたし、原因分かるかもしれないです!
このくらいの石を拾ったりしませんでしたかっ!?」

そう言いながら、指で『このくらい』を示してくれる。
・・・このちっちゃな指先が・・・どこかのランスターさんを墜落させる指か・・・。

「・・・いや、何処も痛くはない」

仕方がない。
俺は正直に答えながらも、なんとか気力を総動員して立ち上がる。
・・・俺の肩よりも低い身長しかない少女が、
何だか見上げるほど大きく感じるのは俺の恐怖心が生み出した幻影でしょうか。

「なのはっ!
気をつけてっ!
その人、何個か持ってるっ!!」
「ユ、ユーノ君、喋っちゃだめ・・・って、ええっ!?」
「どうやら偶然手に入れたんじゃなくて、その人もジュエルシードを集めてるみたいだっ!
離れてっ!!」
「う、うんっ!」

そして余計なことを喋ってくれるフェレットもどきのせいで、
なのは、と呼ばれた少女は慌てて俺から距離を取ってしまった。
やったことのない肉弾戦で今から不意をつこうとしても、きっとあのフェレットかデバイスに防がれて終わり・・・だな。
うーん、やばいな、打つ手がない。

「レイジングハート、セットアップ!!」

仕舞いには杖を構えられる始末。
同時に一瞬光が瞬いたかと思うと、彼女の着ていた衣服がほんの少し変化していた。
・・・ちょっと派手になったが、これがバリアジャケットか?
本当に一瞬なんだな、何にもみえんかった・・・って、そんなこと考えている場合じゃない!
とにかくあの方法を試してみるか。
あまりしたくはなかったがそうも言ってられん。

「フ、フハハハハハハっ!」
「にゃっ!!?」

一度気合の笑い声を上げて覚悟完了。
少女はビビッたような声を上げるが、それでも杖の先は動じずにこちらを向いたまま微動だにしない。
・・・なんだかこの時代から既に一流の砲撃屋っぽいなぁ。
大笑いを終えた後、訝しげに見つめるなのはを横目に、
俺はおもむろに地面に膝をつけ巾着袋から1個ジュエルシードを取り出すと、
上半身を頭ごと折り曲げながら前方へ腕を突き出した。

・・・簡単に言うと土下座してジュエルシードを差し出した。

「これ一個で勘弁してつかぁさいっ!!」

「ええええええっ!?」

俺のワビの言葉とそれに対する少女の素っ頓狂な叫びが、海沿いの人気の無い通りに響き渡った。

『みっともないですな、主』
「・・・えーと、あの・・・?」

続けて、心底面白そうな響きを持ったセイの言葉と、状況を理解していないユーノ、
と呼ばれたフェレットの呆けた声が聞こえる。
セイが非難の言葉を口にしないのは、きっと彼我の戦力差を理解しているからだろう。

「マジすいませんっ!
ウチには、ウチには病気の子がいるんですっ!
残りのコレを持っていってやらないと、あの子は・・・あの子は・・・ううっ!
ですから、ですから、どうかお慈悲をっ!?」
「あ、あの・・・え?
えと、ユ、ユーノ君、どうしよう?
なんだかわたし、悪い人になったみたいで・・・」
「えーと、そ、そうだね・・・。
でもなのは、昨日のこともあるし、ジュエルシードは危険なものなんだ。
そんな都合の良い結果を易々とは出せないから・・・」
「う、うん、そうだよね。
すいません、その、やっぱり全部渡してください。
それはそんな便利なものじゃないんです。
きっと悪い結果になっちゃいます」

・・・くそう思ったよりも冷静だな、泣き落としは通じないのか。
ならば仕方ない。
奥の手を使うしかないな。

「そうか・・・」

俺は呟くと、何事も無かったかのように彼女から距離を取りながら立ち上がる。
そしてポケットに手を突っ込むと、お目当てのものを取り出してみせた。

「これだけは使いたくなかったがな・・・」
「携帯電話・・・?」

なのはは立て続けに揮われる俺の頭脳プレイについていけないのか、
きょとん、とした顔で事の成り行きを見守っている。
馬鹿め、その余裕が命とりだ!

「警察に電話するぞ!
ちびっこギャングに宝石を強奪されそうだってな!
後で身元引き受けのために警察に呼び出された親が泣くぞ!!」

「ええええええええ――――――っ!?」

先ほどよりもさらに大きな叫び声を上げるなのはは確かに仰天しているようだった。
ふっ、この携帯電話はこっちの世界じゃ使えないけどなっ!

「どうする?
こっちは別に警察呼んでじっくり警察署でお巡りさん立会いの下、話をすることになっても構わないぜ?
カツ丼食ってやる気マンマンだぞっ!」

フフフ・・・、と渋く笑いながら言ってやると、なのははさらに分かりやすく狼狽してくれる。
フェレットと顔を見合わせて困惑した様子で話し合っているようだった。

「それはマズいかも・・・。
どうしよう、ユーノ君?」
「どうしようって言われても・・・」

勝ったな。
俺は、ニヤリと笑みを浮かべて折衝案を提示してやる。

「ただしっ!
ここでキミが俺を見逃せば、そちらに1個これを渡してあげよう。
さぁ、どっちを選ぶ!!!」

俺の言葉にほっとしたようなため息をなのはが漏らしたのを好機とみて、一気に畳み掛ける。
ここでミソは、1つ渡して貸しを作っておくところだ。
この1個が、彼女に
「まあ今回はこれだけでも良いかな、話は通じる人みたいだし」
と思わせるのだ。

「よしっ、商談成立だなっ!」
「え?
あの・・・?」
「ほらほら、受け取って、受け取って!」
「あ、・・・はい、レイジングハート」
『Capture』
「じゃ、そゆことで」

俺は半ば強引になのはにジュエルシードを押し付けると、
彼女とフェレットが呆然としているうちに、いそいそとその場を後にする。
根が生真面目な彼女のことだ。
少なくとも今日一日は、一度不本意ながらも了解してしまったことを翻してまで追いかけてきたりはしないだろう。




『主・・・随分と手馴れた感じでございましたな』
「フフフ・・・実は昨日の夜から万が一に備えてシミュレーションしていたからな」
『先ほどの少女も主の言っておられた物語の登場人物で?』
「というか主人公だな。
あの子に勝つのはまずムリだ。
何と言っても幸運補正がありそうだからな」

10分ほど走り続けた後、なのはを撒いたことを確認してから歩き出してさらに10分。
ようやく先ほどの余韻を振り払い大分余裕が出てきた俺たちは、
林の中をまったりと歩きながら先ほどの遭遇を振り返っていた。

『では、こちらも何かシミュレーション済みですかな?』
「何のことだ?」
『一人、高速でこちらに近づいてくる者がおります。
さきほどの少女のものとは違う魔力波形ですが』
「・・・マジで?」
『マジです』

俺が再びげっそりとした顔を浮かべた瞬間、俺の頭上を影が通り抜ける。
その影はそのまま進行方向の前方に廻りこむと、
俺から数メートルほど離れた場所に降り立ち、俺を見据えてきた。

「あなたのロストロギア、ジュエルシードを・・・渡して下さい」

そしてシンプルな言葉で自分の用件を告げた。
だからこそ、強い意志を感じさせる。
金髪の長い髪をツインテールに結び、同じく金色に輝く刃を掲げた杖を構えた、これまた美少女であった。
かすかに風にはためくマントと、真っ黒で身体を覆う部分が多いわりに何故か露出が目立つ印象を受ける衣服を
体中のベルトで固定したかのような格好の少女は、先ほど出会ったなのはのライバルだろう。
俺が続けてのサプライズに混乱している中、少女は静かな瞳でこちらの一挙一動を窺っていた。

・・・こいつは・・・なんてふざけたエンカウント率だよ・・・。
思わず心の中で毒づくが、そんなことで状況が改善されることはない。

『・・・主、もてもてですな。
それも少女にばかり』
「・・・泣きそうなぐらいな」

セイの言葉に反応を返したのは俺だけではなかった。
金髪少女が警戒を強めた様子で眉をひそめる。

「インテリジェントデバイス・・・?」

そう言えばインテリジェントデバイスは結構な魔力資質がないと使いこなせないんだっけ?
なら上手くこっちの力が強大だと騙くらかして・・・。
イヤ、ダメだ。
きっとこの子は、それでも関係なく挑んでくるだろう。
・・・では、どうする?

「おお、お客さん、強盗か!?」
「・・・違う」
「私、商人!
ジュエルシード、1個この国の通貨で10万円でどうか?」

緊張の余り、何故か片言になってしまった俺の言葉に少女は訝しげな顔を浮かべた。
俺の考えが正しければ、きっとしなくていい戦闘をわざわざ仕掛けてきたりはしないはずだ・・・。

「・・・分かりました」

少し考えるような仕草をした彼女がぼそりと呟いたと思ったら、
少女は可愛らしいピンクの財布を取り出して札を数え始めた。
・・・・あ、ちょっと悲しそうな顔をした。

「あぅ、足りない・・・」

ぽつり、と漏れた無表情ながらも可愛らしい、悲しげな口調の台詞に思わず胸が高鳴ってしまう。
・・・何だ、この萌えっ娘。

「お客さん、いくらある?
お値段次第では譲ってもいい」

心の中での動揺を必死に抑えつつ、なんとか平坦な声を出して尋ねる。

「・・・8万4千円」
「おお、お客さん、運が良い。
私、それで譲ってもいいよ?」
「本当?
・・・ありがとう」

やはり表情をほとんど変えることはなかったが、それでもかすかに嬉しそうに唇を持ち上げ、
ペコリ、と頭を下げる少女に再び悶えそうになる心を必死に隠す。
・・・くそう、むしろこっちが金を払ってしまいそうだっ!?

「では、これ、貴女のもの」
「バルデッシュ」
『Capture』

彼女に無防備に近寄って敵意が無いことをアピールする。
そして、そのままジュエルシードを1個渡した後対価として現金を受け取った。
うーむ、思わぬところで大金を手にしてしまったな・・・、はやてに美味しいものでも買って帰ろうか・・・?

「・・・あの」
「ん?
何か、お客さん?」
「まだ、持ってるんですか?」
「残念ながら、売約済み。
お客さん、奪わないで欲しい」
「・・・いえ、それは・・・」

少女がかすかに眉を下げ、躊躇するような表情を浮かべた。
この子はこうやって会話をした相手、
特に一度決闘や売買などで取引や契約をした相手からさらに追い討ちをかけたりすることなど出来ないだろう。
色んな意味で素直な子である。
そして、非常に心配になってしまう子でもあるわけだ。

それでも己を守る力は持っているわけだし、使い魔も居る。
力のない俺なんかが気にかけるべきではないだろう。
・・・そもそも、今ははやての事が先決だ。

「それは、良かった。
また手に入ったら交渉。
それでよろしく」
「あ、・・・はい」

俺はそう結論づけると意識を切り替えて彼女に背を向けた。
そして、まだ迷っているような雰囲気の少女に、次を匂わせて襲い掛かってこないように仕掛けを作る。
きっとこれで次もいきなり襲ってくることはない・・・はずだ。

「さようなら旅の人、また会いましょう」
「ちょっと待ってくださいっ!」

再びドサクサに紛れて逃げようとした俺は、少女に背を向けたまま立ちすくんだ。
『衣装は黒でも心は真っ白!むしろ透明?』とか評されるほど甘くはないのか、さすがに・・・?

「あのっ、ジュエルシードを何処で手に入れましたかっ!?
わたしもソレを探しに来たんですが、手がかりが思ったよりも少なくって・・・!」

少女の顔を見なくても分かるほど、必死な声が俺の耳に届く。
結局、この子は本当に愚直なまでに馬鹿素直だった。
・・・ああもうっ、これ以上俺を迷わせないでくれよっ!?

「この町の海だよ。
6個あったけど、全部回収したからもう海は探しても無駄だ。
ただ、俺はもう4個しか持ってない。
2個は・・・キミと、もう一人の魔道師が持っている」

「・・・もう一人?」

彼女の呟きに俺はハッと口を噤む。
どうやら2人は、まだ出会っていないらしい。
・・・それなのに何という失態だろうか。

「それ以上は、自分で確かめるべき。
私、話せない」

素で喋っていたことにも気づき、先ほどまでの怪しげな商人口調に戻してみるが、
そもそも少女は俺の口調の変化に気付いてすらいないだろう。

「・・・わたし以外にも、探している人が結構居るんだ・・・、あの、教えてくれて、ありがとう・・・」

背中越しに聞こえた彼女のその言葉を最後に、俺は駆け出していた。
少女は追いかけてはこなかった。
ただ、俺のまぶたの裏には、あの無表情な仮面を被る少女の姿がこびりついて離れやしない。
・・・俺には何も出来やしないと言うのに。

「くそっ!」
『・・・主。
良いことを教えてさしあげましょう』

俺の葛藤を知ってか知らずか、セイがいつもより少しだけ優しげな声で語りかけてきた。
思わず立ち止まった俺に、セイは言葉を続ける。

『二兎追うものは頭を使って捕らえよ』
「・・・は?」
『なに、闇雲に捕らえようとしては二兎どころか一兎でさえ捕らえることは困難です。
いわんや、二兎など以ての外でございます。
であれば二兎を捕まえられるものは、力を振るうのみにあらず知恵を駆使するものではないでしょうか。
私は主は二兎を捕まえることの出来る知恵者であると信じたいものですな。
何しろ、力は既にここにある』

はやてを救うと決めたからには、それを果たすのはもう当然のこと、
それどころか、もう一人ぐらい余分に救うぐらいの気概を見せてみろ、とこの無機物は言ってやがる。
そのぐらい、俺とセイの二人ならば出来るはずだ、と。

「・・・全く、簡単に言ってくれるな」
『ええ、我が主なればこそ、ですが』

俺の呟きに、セイは自信たっぷりに答える。
・・・だったらやってやろうじゃねぇか。

「・・・やってやる」
『何をですかな?』
「ああ、オマエの口車に乗せられてやる。
あの子・・・フェイトも絶対に助けてみせる。
俺なりのやり方でなっ!」

あの子もはやてと同じだ。
このまま俺たちなんかに関わらなくたって、きっと幸せを手に入れる。
だけど、それでもあの子は『いらん子』なんだ。
これから母親に言われてしまうはずの言葉はなんだかんだ言って、幾つになってもあの子を縛り続ける。

それはきっと物凄く悲しいことなんだ。

「・・・とは言え、しばらくは静観か」
『・・・おや?
何故ですか、はやて殿のことがあるからですかな?』
「それもあるけど・・・二人の魔法少女にはこれから大切な出会いが待っているんだ。
その出会いに、俺のような異物が関わるのは無粋だろう?
子供は子供同士・・・」

言って、俺は空を見上げる。
そこには何も見えなかったが、きっとこの空の何処かには巨大な戦艦や箱庭があるはずだ。

「大人は大人同士で喧嘩するべきだってな」

(続く)