本文へジャンプ
main information Side Story link

魔法少女リリカルなのは SS
『魔法少女ブリーディングはやて 第2話』



「・・・ここか」
「そうです。
わざわざ運んで下さってありがとうございます」

助けた少女ことはやてを抱えて歩くこと5分ほど、思っていたよりもずっと近く。
少女一人分とは言え人を担ぐことに慣れてなどいない俺の肩と腕が悲鳴を上げるよりは早く、
『八神』と表札のついた一軒家が見えてきた。
事故現場からはそれほど離れていなかったが、見た感じはやての家が被害を受けた様子はない。
軽く見回してまずはそこに一安心した俺は、つい声が漏れてしまった。

「・・・でかいな。
っていうか二階建てなのか?」
「あはは、二階なんてほとんど使ってませんけどね」
「と言うかその足じゃあ階段に登れないだろ・・・それにお風呂とかどうしてたんだ・・・?」
「うわ、いきなり初対面の人間に辛辣な突っ込みや!
・・・って、わたしがこの家に一人暮らしだって言いましたっけ?」
「あっ!!」

はやての何気ない疑問に俺は咄嗟に口を噤む。
確かにそんなことを聞いてなどはいない。
・・・だが、当たっていると言うことはますます『その』可能性が高まってきた、とも言える。

「いや、普通だったらあの状況からだと家の人に迎えを頼むだろ?
そうしなかったから、つい早合点しちまってな。
悪い、気に障ったか?」
「いいえ、ただ驚いただけですから。
気にしないでいいですよ。
普段はヘルパーさんに来てもらって色々手伝ってもらってますし、
人間慣れれば何だって出来るもんなんですよ?」

俺の謝罪に対してはやては本当に気にした様子もみせず、
彼女が抱えていたポーチから不安定な体制のまま何とか家の鍵を取り出してみせた。

「すいませんけど、これを使って家の中まで運んでもらっていいですか?
電話のあるところに行けば病院にもヘルパーさんのところにも連絡つけられますんで」
「ああ、任せとけ」

俺は彼女の言葉に従って鍵を受け取り、八神家の扉を潜った。
さて、鬼が出るか、蛇が出るか、・・・それとも闇の書が出てくるのかな?




「・・・結論から言うと、俺の思い通りでした」
『何がですかな、主よ』
「この家の前に着いてから、やけに静かだったな」
『他者のテリトリー内ですから警戒もいたします。
先ほど主がわざわざはやて殿の寝室までお邪魔したのもそのせいですな?』

俺とセイは八神家のリビングでぼそぼそと言葉を交し合っていた。
家に入った後、部外者に聞かれてはまずい話もあろうと、
電話の子機を渡して寝室まで彼女を連れていったのだ。
無論その目的は、はやてが俺の思っている『八神はやて』であれば持っているだろう
あの本を確認するためである。
一瞥するだけで簡単に目的を果たした俺は、
リビングではやての電話の終了を待っているというわけなのだが・・・。

「・・・ビンゴだったな」
『ええ、ですが主よ、良く気付かれましたな。
まだ起動しておらぬ故、私でも違和感を感じた程度だったのですが』
「ああ、その理由はな・・・」

俺がその理由について答えるよりも早く、

「えええええーーーーーーっ!!
ほ、ほんまですかっ!!?」

寝室からはやての声が響いてきた。

「何だ?」
『うむ、気になりますな。
行ってみましょう』

俺とセイは彼女の部屋まで戻ることにした。
普通に考えれば後はお暇するだけの俺たちなのだから別段気にする必要もないのだが・・・、
『あんなもの』を見てしまって動揺していたのだろう。
さも当然のように部屋をノックして彼女の寝室へと入ってしまった。
・・・まぁ、返事も待たずに女性の部屋に進入すれば当然、

「きゃあっ!!」

悲鳴の一つも上げられるものだろう。
・・・反省。

「・・・え?
今のは何かですって?
あ、あのー、ちょ、ちょっとですね・・・」

あれ?
何だかはやての様子がおかしい。
受話器を前にやけに焦った様子で、何かごまかしの言葉を捜しているかのような・・・あ!

『主が悲鳴を上げさせるものですから、電話先の人に不信感を与えてしまったようですな』
「・・・反省」
『とは言え、どうとでも誤魔化してくれるでしょうから・・・』

「あ、兄なんですっ!!」

『・・・凄まじい変化球ですな』
「・・・結構パニック体質なんだな、はやては」

俺とセイの呆然とした呟きさえ聞こえていないのだろう。
傍目に見ているだけでさえ、はやてのしどろもどろした雰囲気が分かってしまう。
電話の相手も、さぞ『はやて曰く兄』を胡散臭く思っていることだろう。

「え?
兄と代わってくれ、ですか?
あ、あの・・・そのですね・・・」

「・・・まぁそうなるよな」

こうなってしまってはもう俺が一度は電話に出ないとまずいだろう。
俺は軽くため息をつきながらはやてに近づいていき、電話の子機をそっと取り上げた。

「・・・もしもし」
「あの、はやてちゃんのご兄弟の方でしょうか?」
「いえ、遠く離れた親戚のものです。
最近この子の存在を知りまして様子を見に来たんですが、
先ほどまではやてと一緒に散歩に行っていまして」
「えっ!
では先ほどの天災に?」
「ええ。
正直信じられないぐらいの異常事態に巻き込まれまして・・・。
はやてもまだ少し興奮しているんだと思います」

俺は口から出任せを並べ立てながら今後のことを考える。
最悪警察に通報されるかもしれないが、どうせ2,3日で何とか向こうの世界に帰るつもりだ。
そうそう気にすることもないだろう。

「・・・そうですか。
あの、はやてちゃんは聞き耳を立ててはいませんか?」
「・・・?
ええ、大丈夫ですが」

そんなことを考えていた俺の耳に、医者と思われる女性の急に下がったトーンの声が聞こえた。
俺ははやての方をちらりと見てから答える。

「はやてちゃんのこと、よろしくお願いします。
見た感じしっかりしていると思うかもしれませんが、彼女は子供です。
すごくムリをしていますので・・・。
支えになって下さる方が居れば、本当に助かります」
「・・・はい」

・・・くそ、なんとお人よしの医者だ。
こんなことを言われてしまっては、
なまじ『はやて』のことを知っているだけに断れなんてしないじゃないか。

「・・・すいません、それから車椅子の件なのですが」
「何でしょう」
「そちらもやはり先ほどので?」
「先生の仰る通りです。
完全に壊れていましたし、道路もかなり破損して運ぶには危険でしたので放置してきてしまいましたが・・・」
「・・・そうですか。
実は病院にあった在庫の車椅子なんですが、
こちらでもちょうど倉庫が破壊されてしまって不足しているんですよ。
申し訳ないのですが、そう言う事情ですので
はやてちゃんの車椅子の代わりが来るまで一週間程度かかってしまうと思いますが・・・」
「・・・仕方ありませんね、分かりました」
「申し訳ありません。
何かありましたらまたご連絡下されば対応致しますし、
もしご都合がよろしければ一度はやてちゃんと一緒に海鳴大学病院までお訪ねください。
私は八神はやてさんの担当の石田と申します」
「ええ、近いうちに伺えればと思います」


その後、あれだけの事故だか天災だかがあった後だから、
当然のように病院はてんてこ舞いなのだろう。
石田医師は呼び出しを受けている、との断りを入れて慌てたように電話を切った。
・・・忙しい最中はやてとの電話を大切にしてくれたのか、本当に良い先生なんだな。

「・・・あの、兄ちゃん・・・、その・・・」

俺の目線を窺うように声を掛けてきたはやての頭をぽんぽんと撫でてやる。
ま、これも何かの縁だ。
頼まれてしまったことだし、この世界に居るうちはこの子のことを大いに気にかけてやるとしよう。

「はやて、リビングに移動しようか。
ちょっと色々話があるんだ」
「あ、はい」

俺は何度目になるのか分からないぐらい繰り返した動作で、はやてを持ち上げる。
やっぱりはやては軽くて、俺は今後この少女に降りかかるだろう災厄を思うと、
少し目頭が熱くなりそうになってしまった。




「じゃあ兄ちゃんは、こことは違う別の世界からやってきた異世界人なんですか!?」
「まぁ簡単に言うとそうなる」
『私は平たく言うと古代の遺産、とでも呼ぶのが相応しいのではないですかな』
「・・・びっくりや」

はやてと一緒にリビングに戻った後、俺とセイははやてに俺たちの素性を隠すことなく伝えた。
別に喋ったからと言ってカエルになるわけでもないのだから、
秘密にすることもなかろうと考えたのである。
そして俺たちの話を聞き終えたはやてはやはり、ぽかんと口を開けて驚いているようだった。

「そう難しく考えることもないよ。
どちらかと言うと俺はただ巻き込まれただけだし、
異世界って言ってもこの世界と多分ほとんど変わらない世界だ。
言葉も普通に通じるし、この町も俺のいた日本にある普通の街と変わらない。
・・・ちなみにこの町の名前は?」
「難しく・・・てそういう問題とも違うような・・・ああ、まぁいいです。
そのことについてはゆっくり考えますんで。
えと、この町の名前は海鳴市中丘町言います」
「知らないな、一体何県な・・・」
『主の世界にはない市町村ですな。
・・・まぁそのようなことは些事につきませぬ。
気を使う必要もありますまい』

確かにこの町が何処にあるかとか、
俺の居た世界で言うどの辺りなのかとか、
個人的には気にならないわけでもない。
ないんだが、そんなことよりも優先すべき問題がある。

「まぁ、そのあたりの地理的情報は置いておいてだな。
俺たちはこの町に散らばっている魔力結晶を探しにきたんだ。
さっきみたいな事件はその魔力結晶が起こしているに違いないから、
ここしばらくは町のあちこちで似た事件が起こるかもしれない。
だから、ごが・・・ちょっとの間は外に出るのを控えた方が良い」

『5月の半ばまで』と言いそうになった俺は慌てて言葉を濁した。
はやての場合はどうせその内関わることになるだろうだから、
特に魔法のことは言っても別に問題ないと思っている。
逆に、だからこそ『俺の知っている物語の情報』を話すのはマズい。
きょとん、とした顔で俺の動揺に気付いたらしいはやてが疑問を口にするより前に、
俺は立ち上がって、はやての手元に置かれた空のマグカップを持ち上げた。

「おかわり入れてくる。
台所借りるよ?」
「あ、はい。
ありがとうございます」

そのまま台所に移動した俺の耳に、残った二人の声がかすかに聞こえてきた。
どうやら話題は俺のことらしい。
確かに気になる話の打ち切り方をしてしまったからな・・・。

「なぁ、兄ちゃんどうかしたんか?」
『主のことですから、いらない気をまわしたのでしょう。
はやて殿、主は愚直なまでのお人よしな上、まごうことなき阿呆ですからな』
「あははっ、そうなんや。
・・・うん、わたしの思ったとおりの人なんやね」
『ああ、ちなみに主はロリコンですから、はやて殿も気をつけられた方が・・・』

「ちょっと待てっ!!!」

聞きづてならないことを口走る土器に、適温に淹れたホットミルクを運びながら突っ込みをいれる。

「この無生物が何言ってやがる!!」
『なに、先ほどからの主のはやて殿を見る目に危機感を覚えまして。
先に釘を刺しておくのが懸命かと愚考いたしました。
主、分かっているとは思いますがYESロリータ、NOタッチですよ』
「そんな説得は必要ないわいっ!!」

LでOな雑誌的説得を続けるアホ土器を睨みつけつつ、はやての目の前にカップを置く。

「ふふっ、ほんま面白いですね兄ちゃんたちは」
「・・・不本意ながらな」

どうやらセイの戯言を本気に取らなかったらしいはやてに安堵しつつも、
俺もはやての正面に座りなおした。

「それでな、俺たちはしばらくこの町に滞在することになると思うんだが、
この町にビジネスホテルとかってあるか?」
「あ、はい。
駅前にはいくつかあったと思います。
さすがに利用したことはありませんので、細かい場所は調べないと判りませんけど・・・」
「いや、そこまでは良いよ。
むしろはやてがそんなことまで知っていたら、その方が怖い」
「・・・そうですね、あははっ」

ころころと笑うはやてを見つめながらも、俺は財布の中身について頭を悩ませていた。
一泊5000円として何泊出来るかな。
これは思ったよりもやばいかもしれないな、野宿も考える必要があるか・・・?

『しかし、主よ。
そんな何泊も出来るお金があるのですかな?』
「・・・そこは俺も今考えていた・・・ってそういうこと子供の前で言っちゃめーだぞ」
「そうなんですか?」

はやてはお金のことには無頓着なきらいがあるらしい。
・・・と言うよりも『援助者』が罪悪感からか充分過ぎるほどのお金を振り込んでいるから、
気にする必要もなかった、というのが本当のところだろうか。

『・・・主?
ふむ、仕方ありませんな。
はやて殿、お頼みがあります』

俺が見も知らぬ『援助者』について考えていたせいだろう。
セイは俺を介さず、直接はやてに話かけていた。

「何や?
わたしに出来ることなんてほとんどないと思うけど・・・」
『すいませんが、はやて殿の家をしばらくの宿としてお借りできませんか?
ぶしつけなお願いで申し訳ありませんが、はやて殿しか頼れる方がおりません。
無論、はやて殿の家を借りている間は、代償として主がヘルパーとしての仕事をこなしましょう』
「おい、セイっ!
何勝手なことを・・・っ!!」

俺の言葉は途中で飲み込まれてしまう。
だって、俺は見た。
はやてはその言葉に、本当に嬉しそうな表情を浮かべていたんだ。

「わたしもそうしてもらえると嬉しいですっ!」

そしてはやての言葉を聞いて俺は嘆息した。
・・・この子には危機意識がないのか?
俺はセイに向けていた意識をはやてに割り振ってこの天然さんを説得しようと声を上げる。

「はやて、それはダメだ。
そもそも女の子の一人暮らしなのに、安易に男を同居させちゃいけませんっ」
「それは男女差別ですよ?
それにそんなことを言ったら、女の子の一人暮らしだからこそ男手が必要なんじゃないですか?」
「それにだ、俺みたいな見も知らずの不審人物をそう簡単に信用するんじゃない」
「だって兄ちゃん、悪い人やないですもん。
優しいですし、気使ってくれますし、怒ってくれますし」
「怒るってな・・・」
「わたしを本気で心配してくれているから今怒ってくれてるんですよね?」
「・・・そんなんじゃ」
「それに車椅子・・・兄ちゃんがもうちょい上手く立ち回れば壊れんかったかも・・・」
「うっ!?」
「さっきは石田先生にわたしのこと、頼まれているみたいやったのに・・・」
「うううっ!!?」

自分の後先考えないその場限りの行動に俺が自己嫌悪に陥って悶えていると、
そこまでジト目で俺を見つめていたはやてが、急に堪えられなくなったかのように吹き出した。

「あははははっ、全部兄ちゃんのせいやあらへんよ!
あらへんのにそんなに気にしてくれるんは、兄ちゃんが筋金入りのお人よしだからじゃないですか。
わたしは、むしろこちらからお願いしたいくらいです。
初対面の人にこんなことお願いするのは悪いと思ってましたけど・・・、
セイちゃんが仲間についてくれるんやったら遠慮することないと思いまして・・・。
もちろん衣食住はきちんと提供させていただきます」
『そうですぞ、主。
主がはやて殿のために出来ることはたくさんありましょうからギブアンドテイクな関係ですし、
何より袖振りあうも多生の縁と申しましてな。
・・・それとも主?
本当にロリコンだから、手を出さない自信がないのですか?』
「だから出さんって!!」
「え―――っ」
「そこ、がっかりした声出さないっ!!?」
「あははっ、冗談ですよ。
わたしまだ生理始まってませんから子供はつくれませ・・・」
「そう言う事は言わないでっ!!!」

俺ははやての危険な発言を大声を張り上げて遮った。
・・・なんちゅうか、危険だ。
叫んだあと、俺はソファにずるずると身体を沈みこませながら呟く。

「判った、降参だ。
確かにそれが双方にとって一番良いだろうし。
ただし、それなら2つだけ条件がある」
「何ですか?」
「1つは衣食住はありがたく提供を受けるがヘルパーとしての給料はいらん。
資格もないし、あくまでお手伝いって感じしか出来ないだろうからな。
それともう1つ。
今から俺とはやては一時的かもしれんが同居人で家族みたいなもんだ。
普通家族同士では敬語は使わない。
・・・まぁこんな提案は普通こちらから申し出ることじゃあないんだがな」
「ううん、とっても嬉しいで・・・嬉しいわ。
ありがとう、兄ちゃん」
『私はこの口調がアイデンティティゆえ、変えませんよ?』
「セイは別にどうでもいい」
『ひどいお言葉ですな、主・・・』

セイのちょっとすねた感じの言葉に俺とはやては声を上げて笑った。
はやての目じりにちょっとだけ涙が浮かんでいたような気もしたが、
それは気付かなかったことにしておこう、そう思った。


それから俺は、はやてにこの家のこと、はやて自身のこと、近所のこと、
病院のことなどを尋ねながら俺のするべきことを考えていった。
・・・問題はやはり車椅子が壊れてしまったので、
はやてが家の中での移動にさえ苦労してしまうという点だろう。

・・・と言うかトイレとお風呂が問題だ。

『ふむ、そうなると問題はトイレとお風呂などでの移動ですな』
「・・・確かにな」

セイも俺と同じ結論だったようで、先にその話題を振ってくれた。
内心自分から振らずにすんだことに安堵を覚えながら、俺はどうしたもんかと考えてみる。
・・・や、やっぱり俺が頑張るしかないか?
か、勘違いしないでよね!
べ、別にエロい気持ちなんて一切な、ないんだからねっ!!

『まぁ、其処は主に魔力を提供してもらって、私がはやて殿を魔法で浮かせて移動させましょう。
・・・おや、主どうしましたいきなり突っ伏して』
「い、いや、何でもない、それがいいな、うん」
「おおきにな、迷惑をかけてまうな」
『なに、遠慮する必要はございません。
主の魔法練習にもなりますゆえ』
「・・・そうですねー」
『おや、主、残念そうですな?』
「ソンナコトナイデスヨ?」

上ずった俺の言葉はセイにはお見通しだったようで、
くっくっくっ、とイヤらしい笑い声がセイから漏れた。
当事者であるはやてはきょとんとした顔で俺とセイを見比べているが、
全く動じないのは生まれた頃から慣れっこだからだろう。
確かにはやての場合、気にしてなんていられなかっただろうしなぁ・・・。
まぁはやてが気にしなくても配慮って奴は必要でして。
この世界ではデフォルトでそこそこの力が奮えるらしいセイがはやての細かいサポートを担当、
それ以外の家事や雑務を俺が担当する、と言うことで話がついた。

こうして、俺とはやての一時的な同居生活が始まってしまったのであった。




いつの間にか、外に輝いていたはずの太陽が姿を隠してしまい、部屋は暗がりに沈んでいた。
俺はじゅうじゅう、とこもった音を立てるフライパンの火を気にかけながらも
キッチンに電気の明かりを灯す。

お風呂場の方向からはシャワーの音がかすかに聞こえてきた。

俺は一人、軽く頭を振って再びフライパンに向き直ると、
蓋を取ると菜箸で軽く穴を開けて出来上がりを確認する。
・・・あとは余熱で蒸らすか。
そう判断した俺はフライパンを火からおろし、
付け合せに作っていたとポテトサラダとレタスを皿に盛り付ける。
あまり綺麗には見えないが、まぁ男の料理などこんなもんだ。
続けて別の皿に適当にちぎったりして作ったサラダを盛る。
こちらも大雑把に仕上げて軽くチーズを散らし、
それからお鍋に張った出汁に味噌を溶いて味噌汁を作る。
お味噌の良い風味が出てきたところで火を止め、豆腐を投入する。

「うおっ!?」

途端に膝から力が抜けそうな感覚を覚えてしまう。
それと同時に、風呂場のほうから

「うわっ、また浮かんどるっ!?」

というはやての驚きの混じった叫びが聞こえた。
・・・風呂から出たのは判りやすいが、毎回これじゃあ身体が持ちそうにないんですが・・・。
誰だ、この世界ならセイが俺に負担を掛けずに魔法が使えるなんて言った奴はっ!?
結構な勢いで疲労がのしかかりげんなりとしてきそうな表情を何とか堪え、
台所からはやてに声を掛ける。

「お風呂上がったかー?」
「いいお湯やったでー」

セイの力でリビングまで運んでもらってもいいのだが、
正直俺が自分で運んだ方が圧倒的に疲れない。
2,3回やったはやての空中浮遊でそのことを悟った俺は、
なるべく自分ではやてを運ぶようにしようと内心決心していたので脱衣所に移動した。

「はやて、もう着替えたか?」
「うん、お願いしてええか?」

セイをペンダント状にして首から下げたパジャマ姿のはやてが、
湯上りのほんのりと赤く染まった頬で俺に向けて手を伸ばしてくる。

・・・色々もちつけ。

主に俺の動揺する心を落ち着かせるために、軽い会話をふってみることにした。

「じゃあご飯にしようか。
今日は冷蔵庫の余り物とかでハンバーグを作ってみた」
「ふっふっふ、
わたしは実は結構料理にはうるさいんや。
イマイチやったらはっきり言うで。
この料理を作ったのは誰だーっ、ってな?」
「・・・見た目は男の料理だから気にしないでくれよ?」

なんとか落ち着きを取り戻した俺がはやてをようやく抱きかかえる。
うーん、当社比+50%ぐらいか。

・・・湯上りはやては魅力増し増しだ。



「この日本的混沌がたまらんなぁ」

はやてはテーブルに並んだ料理を見て良い笑顔を見せた。
まぁハンバーグにサラダ、そして白米と味噌汁だ。
言いたいことはよく分かる。

「まぁその混沌が家庭料理の売りってことで」
「そやな。
いただきまーす」

はやてはナイフなど用意していないから箸を使ってハンバーグを切り分けようとして、
ぴくりと眉をひそませた。

「ほほう、硬くなっとらんし肉汁もしっかり閉じ込めとる。
・・・やるな、兄ちゃん」
「ちなみにソースは市販だ。
隠し味は入れているけどな」
「なんやろ、もぐっ・・・生姜?」
「げっ、何で分かるっ!?」

本当にアクセントになるぐらいしか入れてないのにあっさりと言い当てたはやてに、
思わず俺は驚愕の声を上げてしまった。
これは本当に料理はうるさそうだなぁ・・・。

「兄ちゃん、結構やるもんやなぁ。
ほんまおいしいわ」
「ははっ、その言葉を聞いて安心したよ。
一人暮らしが長かったから料理は色々作ったりはしたんだけど、
食べるのは俺一人だったからな」
「あー、でも盛り付け方はもうちょい頑張ってほしいかもしれへん」
「男の料理だからな、諦めろ」
「えー、諦めはやいでー」

唇を尖らせてそんなことを言うはやてに笑いかける。

ずずず、と味噌汁をすすりながら今日一日のことを喋る。
サラダの大きさがばらばらだとはやてにダメ出しを受けながらこの町のことを喋る。
ご飯つぶもきれいに食べなくちゃいけないと言われながらも明日のことを喋る。
和気藹々と、俺とはやての始めての夜は更けていった。

・・・と言うか異世界でのんびりするなんて思いもしなかったよ。





『さて、主。
聞かせてもらいましょうか。
随分とはやて殿を気にかけてらっしゃるみたいですな』

はやてが寝室に引っ込んでから約1時間ほど。
頃合を見計らっていたセイが言葉を漏らした。

「・・・その前にだ。
セイ、オマエははやての寝室にあった『あの本』をどう思った?」
『可哀想な本ですな。
あそこまで歪な形では、道具としての性質を果たしてはいられないでしょう』
「・・・ふむ」

俺は頭をひねる。
俺の思っている本と、あの本が同じじゃない可能性も捨てきれないからだ。

『ただ、同時に許せません。
アレは己の主に迷惑をかけるのみあらず、命まで奪わんと設定されております。
現にお風呂場で確認させて頂きましたが、はやて殿の身体の変調もあの本が原因でしょう
自身がそのようなモノに変質していると言うのに、
己を戒めずに主への寄生を続けているアレに同じ意志を持つ道具として怒りを覚えますな』
「・・・っ!!
やっぱりか。
セイ、分かりにくい話になるかもしれないが、我慢して聞いてほしい」

俺はセイに語った。
この世界が、俺の世界の物語の一つをそのまま現したかのような世界であること、
今日の巨大樹の事件も、
次元を超えるという魔力結晶のことも、
八神はやてという少女のことも、
そしてあの本さえもその物語に附合していると。

『・・・なるほど。
おそらくこの世界は主の世界に関わらず元々存在していたのでしょう。
それが、主の世界で物語として書かれたことで二つの世界の境界が一部結びついてしまっていた。
その上、魔力結晶の存在でその結びつきが強固なものになってしまったのでしょう。
平行世界の移動など、
本来ならば大魔法に属するはずのことをあっさり成し遂げてしまったのもそもそも妙な話ですからな。
・・・ふむ。
しかしそういう事ならば主よ、魔力結晶の場所に心当たりはありますかな?』
「ああ、ある。
この海鳴市にある海の中だ。
恐らく6個の魔力結晶、・・・ジュエルシードがあるはずだ」

俺が記憶をたぐりよせながら出した答えに、セイは真面目な口調で言った。

『主よ。
その6個を用い、我らは予定通り力を蓄えもとの世界に帰ることも出来ます。
・・・そうなさいますか?』

俺は一瞬言葉に詰まる。
だが、はやてと関わると決めてしまった時点で答えは決まっている。

「いや、帰るのは後回しにしよう。
セイ、どうにかはやてを救えないか?
もしかしたらこのまま彼女を放っておくことが一番なのかもしれないけど・・・。
それでも俺は関わってしまった以上、彼女を助けてやりたい」
『・・・方法はあります。
4個の魔力体・・・ジュエルシードですが、それを使うことを許して下されば、
私の誇りに掛けてはやて殿を救いましょう』
「ならそれで頼む」
『即答ですな』
「・・・ああ、もちろん。
物語通りなら全部でジュエルシードは21個あるはずだ。
俺の事情は後回しではやてのことを優先させよう」
『くくくっ、主よ。
やはり貴方は我が主として相応しい。
何、心配めさるな。
あの本がいかなる力を秘めていようと、生命情報を操作する技術において私の敵はございません。
はやて殿の身体に影響が出ている時点で、私の得意とする領域の話です』

俺はセイの言葉に軽く頷いてみせる。
はやての治療についてはセイを信じて、
俺は『なのは』や『フェイト』といった必ず立ち塞がるだろう登場人物たちを出し抜き
最低でも4つのジュエルシードを集める。

これが、今の俺の成すべき道だ。

そんな決意の下、俺の異世界一日目の夜は更けていった。

(続く)