コミュ-黒い竜と優しい王国- SS
『うそつきアイドルとロリコンな王国』 第5話
高倉市のインターネットインフラには、他の街にはありえない、ある特定の人々だけが利用するアングラサイトが存在する。
この街に数多く存在する都市伝説の総本山。
正体不明の怪物たちが踊る、おとぎ話のふるさと。
幻想ではなく実在するアバターという人智を超えた怪物と、それを操る接続者が潜む街。
そんな彼らが創り上げた世界、それは誰が呼んだか一つの名で呼ばれる。
―――コミュネット。
管理する土地を持たぬ接続者たちは、今時の若者らしくインターネットの中に交流の場を作った。
誰の趣味かハードコア系の18歳未満はお断りなエロサイト、その隠されたリンクをクリックしてさらにパスワードを入力する。
そうやって辿り着く場所が彼らの宿、wikiで作られた経験則から得られた辞書を入り口に広がる接続者たちのパプリックハウス。
この場所を知ることから、この街の裏側にある、とある一つの怪獣大決戦を理解する。
逆に言えば、コミュネットを知らないはぐれコミュは、何時まで経っても自分たちの立ち位置に妥協点を見つけることも難しい。
つまり一言で言ってしまうと、初心者コミュから上級者コミュにいたるまで誰もが利用する、そんなコミュニティサイトだった。
「・・・何だコレ?」
コミュネットの闇は何処までも深く、松明の灯りも届かぬ暗闇の洞穴のようなものだ。
それはごく一般的に利用しているインターネットでさえ当然のように同じことが言えるのだが、大きな違いが一点だけ存在した。
俺たちのコミュ、バビロンコミュがそれなりに有名で、コミュネットを利用する他者の口から名前があがるぐらいの知名度があるということである。
竜型の亜種で珍しい上にコミュ狩りを返り討ちにした一匹狼、そのくせラウンド幹部の一部や果てはカエサルとも個人的な繋がりを持っているなんて噂が流れていれば、それこそ面白半分で名前が知られてしまう。
もしも俺が外から見ている立場だったら、確かに話題に上げていたっておかしくない。
「だからってこれは」
呆然と呟く。
ディスプレイに無機質に映るはコミュネットの掲示板。
アングラの、さらにアングラ。
掲示板の中でも巧妙に隠された、背景と同化したリンクの向こう側。
そこにはこんなタイトルのスレッドが存在した。
【覇王鬼畜攻め】カエサル×バビロンリーダー【道化誘い受け】
吐き気がする。
一瞬、王様の尊大な顔が瞼の裏に写り、眉をしかめる。
それでも怖いもの見たさが先行する愚か者の常として、震える指先でカチカチとマウスをクリックしてスレッドを開く自分を止めることが出来なかった。
464 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:30:55
そろそろ燃料が欲しいね
465 ゆきゆき◆1d01ma5ter[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:38:51
おkおk
ちょっと短いけど燃料投下
466 名無しさま[age]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:39:15
神キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
新作期待age
467 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:43:21
ageんな、くそ新参
468 ゆきゆき◆1d01ma5ter[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:45:05
まぁまぁ落ち着いて。8レスいきます
469 ゆきゆき◆1d01ma5ter[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(土) 11:45:05
カエサル「俺は貴様が欲しい」
バビロン「な、何を言い出すんだカエサル」
向かい合った白の王と黒の竜が声を交わす。
白の王の言葉に秘められた毒のような甘ったるい蜜が、黒の竜の背骨をビリビリと震わせ彼の胸中にゾクゾクとした悋気を纏わせる。
カエサル「貴様の意思などどうでも良い。ただ、俺が貴様を手に入れるだけだ」
バビロン「王様は相変わらず傲慢だな。そんな言い方で俺が靡くとでも思っているのか?」
あくまでも尊大な王の差し出す指先と隆々した下腹部の膨らみに身体を乙女のように紅潮とさせながら、それでも黒い竜は嘯いた。
だが、そんなものがどれだけの虚構であるかを、誰よりも王が強く理解していたのだ。
だから王は朗々と声を上げる。
カエサル「見ろ、俺の高ぶったアバターを。貴様の18センチを超える力を秘めた軍神はここにある」
バビロン「すごく・・・大きいです」
カエサル「精々抵抗しろ。そして俺の手によって征服されることを悦びに変えてやろう」
バビロン「だったら、勝負だ王様。俺を倒してからそういう妄言は吐いてもらおうか」
カエサル「俺のやり方が気に入らんか。・・・いや、違うな。無理矢理屈服させて欲しいわけだな」
王が真っ赤な毒林檎のようにぬらりと色付く舌を好色に覗かせ、押し倒されるのを待っている竜へと向けて進行を開始した。
先を読む気には全くと言っていいほどなれなかった。
それでも矛盾したことに、続きを読む自分の視線は固定されたままである。
確実に後悔するだろうに、だ。
バビロン表記の俺らしき人物は女のように謎の穴から蜜を垂れ流し、カエサルは俺の逸物を激しく擦りながら高ぶった己の漢の証を背後から突き立てていた。
吐き気がする。
英雄は竜を征服するものだと、カエサルが己の牙をバビロンの首筋にずぶりと埋め込み歯型を残した。
泣きたくなってくる。
覇王が謎の穴にこれまた謎の白濁液を流し込む描写を読みながら思わず尻を押さえた。
「・・・勘弁してくれぇ」
思わず声が漏れる。
当然だった。
512 777[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:10:55
乙すぎます!
この燃料だけで1週間は闘えます!
513 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:11:32
ゆきゆきさんは神。
紙じゃなくて神。
514 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:11:48
コミュネット界の801神が爆誕。
ゆきゆきコミュを倒すことだけは許さん>コミュ狩り
515 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:11:51
∧_∧ コミュ狩り?ぼこぼこにしてやんよ
( ・ω・)=つ≡つ
(っ ≡つ=つ
/ ) ババババ
( / ̄∪
516 777[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:11:51
やっぱりバビロンリーダーの受けは最高ですね!
ゆきゆきさんとは上手い酒が呑めそうです。
517 名無しさま[sage]投稿日: 20XX/XX/XX(日) 00:11:51
>>516
同意
続きを待ってます
777とか言う何処かで見たようなハンドルネームを全力で見逃しつつ、頭を抱えた。
その後のレスも何十と賛辞が続く。
いや、どう見ても惨事だろ、これ・・・。
「うぇっぷ」
あまりの腐臭に再び吐き気をもよおす。
そこで気がついた。
「・・・この作者はどう見ても真雪です。
本当にありがとうございました」
バビロンという竜型のアバターは名も形も良く知られているとはいえ、そのコミュメンバーについては知るものはそれほど多くはいやしない。
その割にはどう見ても俺を知っているとしか思えないほど、バビロンリーダーとやらの描写が細かかった。
それに18センチだとか言い回しからして既にヤツとしか思えない。
夜空に浮かぶニヤニヤ笑いのカエル娘のイメージに呪いの視線をぶつけながら、ため息をこぼす。
「アイドルに学生にアクセプターにバビロンコミュにと、忙しいくせに何こんなとこでも遊んでやがる」
とりあえず不幸は分かち合うべきだと携帯を弄る。
アドレスをメールにメモってそのまま送信ボタンをペチリ。
「くたばれ王様」
小市民らしく、他人を不幸にして溜飲を下げる。
本当に少し気分が楽になるあたり、自分のこととは言えどうしようもないクズだと思ったりするが、敢えて気にしないことにした。
「瑞和―――――っ!!」
ガシャアアアアアアンッ!!!
それから5分ほど経ったときだろう。
腐れオタクとは言え恋人でもある、真雪に対する報復を考えていた俺の耳に突然の衝撃が走った。
「な、何だっ!?」
慌てる。
ガラスが根こそぎ吹き飛んだような音と、何処かの騎士の叫び声。
そう気付いた瞬間、俺の頬のほんの数センチ横を巨大で鋭利な何かが、まっすぐに通り過ぎていった。
ドガァアアアアッ!!
「ちょ、ちょっと待てぇ!!?」
振りむいた俺の背後はえらいことになっていた。
部屋の壁には誰憚ることもなく堂々と突き刺さった白金の色をしたブレード。
被害金額を考えて泣きそうになるが、それよりも先に引きつった頬を流れる一筋の赤い血に恐怖する。
「五樹に何をしたかを白状しろ」
そんなどうしようもないほど人間の原初の感情を覚えると同時に、背後から俺の喉にピタリ、と金属質の何かが押し付けられる感触があった。
振り向かずとも分かる。
この声は・・・。
「それなら遺言だけは聞いてやる」
覇王の忠実なる騎士様、あるいは王様のワンコ。
四宮夜子が、威風堂々と立っていた。
「いや、待て夜子。
オマエは勘違いをしている」
「何がだ。
五樹はお前のメールを見るや否や、携帯を握り締めたまま床に突っ伏してピクリとも動かなくなったんだぞ。
どんな攻撃を仕掛けてきた。
黙っているつもりなら・・・」
ちくり、とした痛みが首筋に走る。
主の危機を前にした騎士には、躊躇も、遠慮も、容赦もない。
夜子は俺が喋らなければ問答無用で首を落とすことを選択するだろう。
ヤツにとっての忠犬は、俺にとっての狂犬だった。
「まぁ、思ったよりもダメージを与えられたようだな。
でも安心しろ。
別に王様に危害を加えようとしたわけじゃあない。
むしろ、何だ。
俺も被害者なんだぞ」
「・・・言っている意味が分からない」
首を傾げる気配を後ろから感じる。
どうやらこちらの話は聞いてくれるらしかった。
・・・多分彼女自身も一通のメールで人間を昏倒させる方法があるなどと、そんな不可解な事態は想定外だったのだろう。
普段の夜子よりも少しばかり沸点は高いようだった。
「まぁ、俺の話を聞くよりも見た方が早いだろ。
覚悟して見ろよ、オマエは耐性無さそうだしな」
「・・・変な動きをしたら容赦なく殺してやるからな」
物騒なことを言い放つ夜子に内心で恐れおののきながら、パソコンへと視線を向ける。
彼女はもう一度こちらへと鋭い視線を送ってから、ディスプレイを直視する。
眉を顰めてスレッドを遡る。
遡る。
遡る。
止まる。
「な・・・ななななななな・・・なんなんななんんん」
未知との遭遇に混乱したようだった。
パクパクと金魚のように口を意味もなく開閉し、言葉にならない呟きを洩らす。
顔は真っ赤に染まり、それでもスレッドから目を離すことが出来ないぐらいに頬は引き攣り固まっていた。
「・・・よし、今のうちに逃げよう」
マンションの後始末を考えると胸が切なくなるが、それも生きて帰っての物種だ。
俺は1人の純真な女の子を腐らせてしまったかもしれないと、そんな虚しさを胸に抱いたまま、涙をちょちょぎらせながらの遁走に励むしかなかったのである。
人生は何時だって薄情の連続だった。
そんな訳で元凶の下まで逃げ出してきた。
つまりは結花真雪が1人暮らしをするマンションである。
チャイムを鳴らしても返事がないので、合鍵で進入し再び施錠。
「・・・何だかドキドキするな」
家に入ると同時に他人の家特有の匂いを感じ取って少しだけ緊張する。
ついでに何かを予感して外履きを隠しておいた。
女の子の家に留守の内に侵入することでさらに胸を高鳴らせながら、準備する。
何をかは言わずもがな。
有利な交渉を可能にするための仕掛けその1である。
とは言ってもあんまりひどいことが出来るわけもなく、ただのロープとかその程度のものなのだが。
がちゃがちゃっ
そして、あまりにも都合の良い展開だった。
マンションの外を歩く靴音が1種類。
それから、彼女の家のドアの鍵穴が廻る音。
とりあえず真雪が親や友人、マネージャーといったお付き合いのある方々を部屋に招いた様子は無さそうなので、ニヤリと笑みを浮かべる。
ちょうど目の前にあった鏡に写った顔は、すっごい悪い顔だった。
それこそ某正義の味方にいきなり悪認定を受けても仕方のないぐらい。
「ただいまー」
そんなことを考えている内に、声が聞こえてきた。
こちらの想定通りの声が1人分。
全く以て油断しきったことが丸分かりの響きに一層悪い笑顔を浮かべる。
そそくさと音を立てずに彼女の私室の死角に隠れ、その時を待つ。
「ふぅ・・・、今日は早く終わってラッキー・・・もがぁっ!?」
部屋に入ってきた少女を後ろから羽交い絞めにする。
片手で口を抑えるのは悲鳴を上げられたら困るっていうのも確かにあるが、それ以上にバビロン対策だ。
咄嗟の危機意識で大いに目立つ存在であるアバターなんぞ呼ばれてしまっては、この家に愛着のある真雪が引っ越すハメになってしまうだろう。
「むぅっ!?
むがあああああぁっ!」
真雪が闇雲に暴れるせいで、彼女の爪が俺の肌を引っかいたり、地団駄を踏む足で散々向こうずねを踏みつけられたりとかなり痛い。
尚も頭をぶんぶんと振り回し何とかこちらの拘束を振りほどこうと必死な彼女の様子にさすがに居たたまれなくなって声をかけた。
「待て、真雪!
落ち着け、俺だ、暁人だ!!」
「・・・むが?」
ぴたり、と彼女の動きが停止した。
その瞬間を逃さずに、超・探偵仕込の緊縛術で真雪の身体を拘束する。
もちろんエロアレンジをしっかりと仕組んでいたりするのは言うまでもなかった。
「・・・で、これは一体何の真似ですか、暁人さん」
「そう慌てるな、真雪くん。
今日ばかりは俺は怒ってもかまわないと思うんだ」
そんなこんなで、フローリングの床にごろりと転がされた真雪が今にも噛み付きそうな様子で文句を告げるのを、俺はさすがに余裕を持って受け流していた。
ベッドに尊大に腰掛け、自分よりも二回りほど体躯の小さい少女を見下ろす姿はどう控えめに見ても通報ものだが、そんな些細なことは気にならない。
何故なら、俺には大義名分があるのである。
身体をぐるぐるに縛られ、いきなり襲われたせいで目元にまだ涙を滲ませた恋人にゾクゾクとした嗜虐心を掻き立てられながらも、俺はゆっくりとした口調で続けた。
「な、何がですか!
私は疚しいことはこれっぽっちもありませんよ!?」
「そんなことを言っていられるのも今のうちさ。
すぐに『私はご主人様の忠実なペットです。どんなご奉仕でも悦んで尽くしますのでお許しください』と頭を垂れることになるのは間違いない」
ひっひっひ、と下卑た笑いを浮かべる。
そんな俺の様子を見て芋虫のように転がる少女がうっ、としりごむ様子が見てとれた。
俺は、本日手に入れたばかりの、最も強いカードを一枚、隠すこともなくあっさりと晒す。
「コミュネットの掲示板。
カエサル×バビロンリーダー」
「・・・てへ☆」
とびきり可愛いアイドルスマイルで誤魔化される。
とりあえず確定。
罪は確かであるならば、後は罰を与えるのみだ。
「さて真雪君、何か言い残すことはあるかな?」
大仰に告げる。
絶対の勝利を確信したからこその言葉。
「ええ、ありますよ」
だが真雪は、あっさりとした様子で反論があると、そう答える。
犯行を認める謙虚さはなく、ただ開き直ったかのような、こちらの懺悔を期待するかのような、そんな意味深な口調だった。
「何だと?」
「お春さんに聞いちゃいました」
「何・・・だと・・・?」
同じ台詞を繰り返したが、その意味は一回目と二回目であまりにも違う。
一回目は余裕の態度。
二回目はこちらが始解しか出来ぬというのに敵が卍解をしてみせた様な絶望的な気持ち。
それでも会うたびに何度も頼んだアレのことは春だってしっかりと口をつぐんでくれているはず。
空の彼方に春の映像がサムズアップをして任せてくれ、と言いたげな笑顔を見せていた。
「い、一体何のことか、お、俺にはさっぱり・・・」
「言わせんな、この浮気者―――っ!」
「ぎゃあ!?」
珍しくも頭に血を上らせて激高した様子の真雪が、縛られたまま器用に蹴り飛ばしてきたスリッパで顔面を打ち付ける。
確かな衝撃に思わず仰け反ると、空の春はサムズアップした親指を真下に下ろして、どえらい悪人の笑みを浮かべていた。
・・・今度会ったら絶対に復讐してやる。
「それで暁人さん。
何か私にいう事は?」
「ごめんなさい」
立場はほんの数分前とすっかり逆転していた。
俺はフローリングの床の上で正座して座り、真雪はベッドの上で額に青筋を浮かべながら引き攣った笑顔を浮かべている。
改めて構図を説明すると、余計に切ない気分になった。
「と、とは言いますが、真雪さん。
アレはその、真雪さんと付き合う前の出来事ですし、浮気ではないのではないかと」
「がるるるるっ!」
「すいませんっ!」
こめつきバッタのようにぴょいこらと頭を下げる。
ザ・土下座。
こんなとき、男とは弱いものなのだ。
格差社会、バンザイ。
「分かりますか暁人さん。
お春さんと街でばったり出くわしてオヤツをご一緒した時に、『そう言えばまゆまゆとは姉妹になっちゃったのよね〜』なんて言われた私の気持ちがっ!」
「声真似そっくりだよね、あはは・・・」
「がうがぅっ!」
「すいませんっ!」
三度謝る。
心の中で春に恨みの言葉を壱千ほどぶつけてやりながら、誠心誠意五体投地。
もしも伊沢にでも真雪相手でそんなことを言われたらとちらりと思う。
・・・間違いなく殺し合いに発展するだろう。
「しかも相手はお春さんですよ。
お春さんを怒ることは色々と世話にもなりましたし私には出来ません。
じゃあ私はこの怒りの矛先を一体何処へ向ければいいんですか?」
「仰るとおりです。
本当に申し訳ない」
「無聊を慰めるために801なSSを書いた私は攻められるべきですか?」
「とんでもございません。
悪いのは全て私でございます」
四度目、続けて五度目。
さすがに真雪もようやく溜飲を下げることが出来たのか、少し言葉の質を柔らかくしながら続けた。
「はぁ、もう良いですよ。
ただし、今後は絶対にダメですよ、当然ですけど」
「それはもちろん」
「それから、暁人さん。
何か言い残すことは?」
「私はご主人様の忠実なペットです。
どんなご奉仕でも悦んで尽くしますのでお許しください」
「浮気は」
「絶対しません」
「じゃあ誓いのちゅー」
唇にちゅーをされる瞬間に軽く唇に噛み付かれる。
少し舌に絡みつく粘液は、まとわりつくような真っ赤な血の味。
そんなわけで、ことの顛末はとても情けない最後を迎えたのだった。
・・・嫌な事件だったよね。
結局話しを誤魔化されて有耶無耶にされたような気もするし。
そしてまた幾文かの時が流れた。
新しい日がやってくる。
コミュネットに801ではなくて、新しい、それも見るからによく燃えそうな燃料が投下される。
係数初化(カウンターリセット)。
そんなどこぞのライトなノベルのような名前で語られる、幻のアバター情報がコミュネットを席巻した。
曰く、そのアバターの特殊能力は、「アバターを封印する」というものらしい。
そんな誰もが思ってしまうほどチート能力持ちなアバターは、賛否両論で以て、コミュの世界を大いに湧かせることになった。
「・・・へぇ」
アバターが封印されるということは、つまり。
強大な人間離れした力を出すことは出来なくなるということ。
同時に、
アバターの消滅や暴走に脅える必要がなくなるということ。
そんな夢のような。
夢の終わりのような。
そんな何処までも途方も根も葉も無い噂だった。
「都合の良い御伽噺だ。
散々力を使いまわした挙句、もういらないから捨てたいなんていう愚者の妄言だな」
魔女は三日月に開いた唇であざ哂う。
そんなめでたしめでたしで終わるハッピーエンドは、この優しい王国では決してありえないと。
「少女Aを狩るもの、とまで尾ひれがついていますからね。
ここまで来ると胡散臭いですよね」
うそつきが皮肉気に歪めた唇で苦笑する。
ネットを徘徊する生き物が本性であると嘯く少女は、ネットの嘘に敏感だ。
「でもさ、もしも本当だったとしたらさ。
探すだけの価値はあるって、そう思わない?」
瞳を輝かす正義の味方は何時だって正しい。
傷つきたくないから自分を誤魔化すよりも、信じて騙されて傷つく方を選ぶ。
「あったらいいよな。
どっちにしろ、選択肢が増えるのは大歓迎だ」
希望にすがりつくのは矮小な小市民だ。
自分の身に降りかからないのであれば、パンドラの箱だって躊躇い無く開けて希望だけを貪り喰らう。
「メイドはご主人様に従いましょう。
・・・借りも返さないといけないしね」
よく滑る口のせいで借りを作った偽メイドは肩をすくめる。
真雪という人物を恋愛感というか貞操観念というか、そういった点では全く見誤っていたとは、彼女の弁だった。
オタクちゃんって潔癖よね、と悪ぶれずに呟いていた。
「やなこった。
と言いたいところだがな、情報は力だ。
手は貸す。
どちらにしろ虚実は確かめなくっちゃいけねえしな」
狂犬はただ吼えるだけが能の一匹狼ではない。
彼が持つ既存の情報網がコミュ界隈ではあまり有効ではないことを考えると、この段階で反対する気は皆無のようだった。
そして、魔女はともかくとして、5人の意志が統一された。
世界はいつでも目まぐるしく。
生まれ変わるようにその様相を変化させる。
その中で、本当の答えを知ることは難しい。
特に、あーだこーだと自室で喋って手に入る真実など塵芥に等しいものではないか。
だから俺たちはチンタラとした足取りでも、夢の答えを求めて街へ出る。
あくせくと。
友情と努力と根性なんて、少年漫画でしか流行らない出来事は絵空事だと知りながら、それでも足掻くことは諦めきれない。
それでも、と言い聞かせる。
いくらでもある、それこそ都会の夜空に輝く、くすんだ星の数よりも多い厄介事を片付けることが出来るのならば、と。
全部片付けてやろうじゃないか、そんな強がりを吐いて。
また、夜が巡る。
それはきっと、何時か来る明日の日のためだった。
(終わり)
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