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コミュ-黒い竜と優しい王国- SS
『うそつきアイドルとロリコンな王国』 第4話


死ぬような目にあったとしても、魔女から制裁を受けたとしても、そんなことはお構い無しに日常は続く。
空は青く、雲は白い。
一瞬の判断の迷いが、魔女の怒りをかった。
朦朧とした意識の中で『教える、真雪先生のコーナー』を久方ぶりに拝見した気もしたが、ロリ先生と男子生徒によるイメージプレイをして終わってしまったことを追記しておこう。

「平和だ・・・」

呟きが漏れる。
変わりばえのしない俺の家、もっと正確に言えば瑞和家の大黒柱である瑞和暁人の父が所有する城である。
高層マンションの14階、必要以上に広くて大きい部屋で常駐しているのは、基本息子である俺だけだった。
親父は海外出張に行ったきり、コミュ騒動が終わった後に数度は帰宅しているが、それでも合計して1,2週間程度に過ぎない。
気ままな学生とは思えぬほど豪華なマンションに、俺は羽根を伸ばし放題な1人暮らしをする日々が続いていた。
・・・そんな生活だったらどんなに楽だったのだろう。

「・・・はっ」
「・・・じーぃ」

ジロジロとした、無遠慮な視線が俺を背後から貫いていた。
そこに被さるように聞こえてきたのは鼻でこちらをあざ笑う声と、それから射殺さんとばかりに穴の開くほど見つめているぞ、と主張する声。

「・・・」

そわそわと、落ち着かない。
後ろから感じるプレッシャーに対して、なす術もなく視線をさまよわせる。
顔を向ける先にあるディスプレイに映された電子掲示板の内容がスクロールされるが、もちろんそこに意識など向いていようはずがない。

「そろり」

色々と刺激しないように、ゆっくりと、こっそりと後ろを振り向く。
視線の先に見えるのはソファに座る2つの人影。
現在の家主に断りどころか挨拶もせずに堂々と上がりこんだ黒髪の魔女。
数ヶ月前には同居していたこともある色々と危なっかしいツインテールの正義の味方。

「・・・ふふっ」
「・・・じろーっ」

魔女はブリザードもかくやという視線のまま口元だけを器用に持ち上げて声だけで笑う。
正義の味方は裁くべき悪の手先を見る胡乱気な目つきで、尚も突き刺さる凶器の眼光をそそぐ。

「・・・うっ」

それどころか呻いた俺に目敏くも気付いた2人は、決して狭くはないソファで寄り添いあってヒソヒソと内緒話を始める始末である。
・・・アイツら、何時の間に仲良くなってやがるんだ。
かなり相性が悪い、もとい、魔女が正義の味方を一方的に蹂躙するだけの関係だった2人の仲の良さに疑問を覚えつつも、彼女たちの視線から意識を逃そうと手持ち無沙汰な両腕でふわふわさらさらした金糸を掬い、ぷにぷにとする柔らかくも暖かい感触をじっくりと感受する。

「ふんふんふー?
ちょ、ちょっと、暁人さん、お触り厳禁ですよ?」

俺の行動に気付いた声が、真下から届く。
とは言っても、嫌がる素振りは見せずに自分の作業を進めたままである以上、その声はただのポーズに過ぎないことは分かっていた。
さらに頬をくすぐり、首筋を撫でる。

「ひゃんっ」

そのまんまな表現をしてしまうと、パソコンチェアに座る俺の膝の上にさらに座った真雪から、甲高い声が漏れた。
その感情は10を総計とすると、驚愕2、くすぐったい3、興奮2、喜び3、といったところか。

「こーらーっ、
もうっ、誤爆しちゃったじゃないですかっ!?」

突然の刺激にマウス操作を誤まったらしい真雪から非難の声が届く。
ちらりとモニタに視線を向けると、真雪がROMっているアイドル板にアクセプター用のレスが書き込まれてしまったようである。
それでも膝の上からは退こうとはしないあたり、彼女も神経が図太いというかなんと言うか、とにかく中々のツワモノであった。

「・・・だな。
でだ・・・」
「うん・・・。
そうそう、・・・」
「おい、そっちの2人。
何だよ、さっきから」

遮るもののないリビングのソファから聞こえるヒソヒソ話からは、断片的な情報が舞い込んでくる。
中途半端に理解の及ばない言葉の断片が耳の端を掠めるように届くとなると、逆に内容がどうも気になってくるのは何時だって他人の評価を気にしてしまう矮小な人間のサガなのだろう。
俺はいい加減放っておくのも難しいと、諦めたかのようなため息をこぼしてから、改めて背後にいる女性たちに目を向けた。

「犯罪者め」
「小児性愛は、犯罪だーぞー」

一言で切って捨てる魔女の吐き捨てるような言葉が胸に突き刺さる。
シュプレヒコールのように言葉を発する正義の味方は、まるで刑事ドラマのようなノリであった。
とは言え。
なるほどと思わず納得してしまいそうになるが、同時に下から伸びてきた手の平にぎゅう、と頬を抓られてその結論を引っ込める。

「誰が、小児ですか。
誰が」
「ひったのはほれじゃなひ・・・」
「問答無用です。
まぁ、それはそれとして」

真雪に抓られながらももごもごと聞き取りにくい反論を述べてみたが、それでも意図は伝わったはずだ。
だが彼女はそんな俺を軽くスルーして、PCチェアをくるりと回転させて魔女と正義の味方が牛耳るソファへと身体ごと向きなおる。
上方から見た彼女の口元には人の悪い笑みが張り付いていて、何事か悪巧みを企んでいるようだった。

「暁人さんはロリコンですから。
もう貴女たちに勝ち目はありませんよー」
「・・・ぐ」
「あう」

ひどい不名誉な発言をされた。
誰もそんな事はない、とフォローを入れてくれるものはいない。
へこむー。

「大体ですね。
私のことを小娘だとかちみっ娘だとか小児だとか。
そもそも膜がないのは私だけじゃあないんですか?」
「がっ」
「ぎゃーっ」

思わず頬が染まる。
それから慌てる。
ちょ、ちょっと待て。

「あの暁人さんの18センチが身体の中を貫く感触も知らずに人のことをロリだロリだと。
全く、ちゃんちゃらおかしいですもがっ」
「くぅ・・・っ」
「きゅう」

くつくつ、と芝居がかった悪い女の笑いを洩らす真雪の口を遅ればせながら押さえてみるが、時は既に遅い。
魔女は顔を青ざめさせて窮地に陥ったような苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、正義の味方は純情な己に負けて目を廻していた。
・・・と言うかこんなよくも分からないことで、初めて無敵超人な幼馴染の危機的表情を見たのは世界広しといっても俺だけなのではなかろうか。
これ以上真雪に自由な発言をさせてしまっては、前回のようにあっさり死亡エンドになってしまうことになりかねないと、俺は保身のために声を上げる。

「いや、さすがに聞き捨てならない発言が多いのだが。
真雪さん、もう少し自重を!
自重ください!
大和撫子っぽく!!」

確かに何を言われても仕方のない立場であるとも言えない気もするが、主張を辞めてしまってはこの優しい王国では生きてはいけない。
それが男の子と言うものなのだ。

「がぶっ」
「いたぁっ!」
「鼻ごと抑えられると息が出来なくて苦しいんですよ、暁人さん?」
「ごめんなさい」

発言を抑えるためにすっぽりと片手で顔半分を覆いつくしていたためだろう。
真雪に齧りつかれた腕を慌てて振りほどいた。
俺の膝椅子からするりと降りた彼女に、そのまま覗き込むように睨まれて素直に謝る。
・・・調教されているな、と思ってしまう。
それを認識しても、嫌だとは思えない自分が少し情けなかった。

「・・・ソレはそうと暁人さん。
暁人さんはあくまでも自分はロリコンではないと?」
「そりゃそうだ。
真雪が小さいからそう見えるだけで、真雪が成長するにつれてそんな発言は間違いだったと皆気付くってものさ」
「ほほぅ。
この真雪さんが気付いていないとでも思っていましたか。
この隠しフォルダの中身に」
「ぎゃーっ!」

悲鳴を上げる。
その声を聞きつけた魔女と正義の味方が好奇心に満ちた瞳でソファから立ち上がり、パソコンの前にわらわらとむらがってくる。
椅子に座る俺を押しのける格好で顔と腕を伸ばした真雪が、PCを操作して最近構築した隠しフォルダにある一つの動画ファイルを容赦なく開く。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

沈黙が世界を満たす。
魔女は(エ エ)といった顔文字で現すことが出来そうな冷たい目をしていた。
正義の味方はまだ理解がありそうな様子だが、それでも流れる動画を前に素で引いているのが手に取るように分かる。

「ちなみに再生回数がこちらでカウントされていまして・・・100回軽く突破してますね」
「罰をプレゼントだ」
「教育的しどーっ!」

言葉よりも早く襲い掛かる魔女の物理的なダメージを伴う拳と正義の味方の蔑むような視線がザクザクと身と心を切り刻む。
そんなことは関係なく、リピートを繰り返す『せーのっ』で始まる初週7万枚を売り抜けた某人気アニメのオープニング。
うん、なでこ可愛いよね。
そんな期待をこめて周囲を見渡す。
それから声に出してみる。

「ダメカナ?」
「「ダメダヨ♪」」

重なる言葉で凹にされる。
助けてバビロン。
思わずそんな呟きを心にこぼすが、決して口には出さない。
だってカゴメが本気で弱点(人間)部分を狙ってきそうだったから・・・っ!!



「って言うか!
まゆまゆは本気で暁人を変な方向に教育しすぎ!!」

倒れ伏す俺の上で、紅緒が声を上げる。
・・・確かにダメな方向へと着実に染まっているような気がする。

「・・・ふん」

カゴメが見下すような視線で死んだフリを続ける俺を見下ろす。
・・・死んだフリをしていることはあっさりと見抜かれているようだった。

「いえいえ。
私はほんの些細なきっかけを与えただけに過ぎません。
コレもソレも皆、暁人さんの素質ですよ、素質」

真雪の挑発的な言葉に対して考える。
確か以前は普通におっきい方が好きだったはずなのだが、今では鼻で笑える気がしてしまうのはどうしてだろうか。
・・・アレ、もしかして重傷?

「とーにーかーくっ!
ちょっとは矯正してあげないと大変なことになるんじゃないの?
暁人のストライクゾーンがどんどん下がっていったりしたら大変なことに!?
ほら、まゆまゆを彼女にすることがどんなに危ないことなのか、街行く人に現在の暁人がどんだけやばいのか聞いてまわってらっしゃい!!」
「・・・はぁ。
とは言え、私が圧倒的に人気を誇るのは、人気投票の結果から明らかだとは思いますけど。
比奈織さんとは約2倍。
紅緒さんとは・・・7倍ぐらい、ニタリ」
「有象無象の評価は気にする必要はないな。
1000ぐらいいけばそれで十分だ」
「うわーんっ!
というか、メタ発言禁止っ!?
紅緒さんは不人気じゃないもんっ!!
とにかく、さっさと聞いてこーいっ!!!」

正義は何時だって横暴で、理不尽だ。
魔女という最強の武力を手に入れた、それでもどこぞの人気投票で心に小さくはない傷を負った正義の味方の一方的な勧告によって、俺たちは当てもない旅を送るハメになったのだった。





瑞和暁人と柚花真雪が街を歩く。
何時も通りというか、特に代わり映えのしない夏服の俺の横には、髪をおろし涼しげな意匠だが可愛らしいフリルが少しアクセントとなった短めのワンピースでおめかしした真雪。
それでもミニスカートとハイソックスで太ももを露出するのは忘れないのは、彼女なりのこだわりなのだろうか。
ともあれ同年代の少女たちと比べて頭二つ分ぐらい抜け出した整った容姿が、さらに際立ってしまうせいで小市民の俺としてはソワソワと焦りを覚えてしまうほどである。

「・・・なんでそんな気合入った服を」
「少女ですから」

ニヤリと笑みをこぼされる。
それから取り繕うように媚の入ったアイドル然とした営業スマイルを浮かべて繰り返す。

「アイドルですから」

・・・女は怖い。
そんな感想を抱く。



「死ね」

ばったりと街中で出会ったソイツの出会いがしらの言葉がそんなんだった。
一言で切って捨てられる。
と思ったら追加があった。

「苦しんで死ね」

少しだけ内容が具体的になった。
さすがにカチンと来て、こっちも数少ない狂犬のアキレス腱を攻めることにする。

「黙れ、シスコン。
妹よりも背は高くなったか?」

唾を吐きあう。
そのまま通り過ぎようとしたソイツは、さも今思い出した風を装って立ち止まる。
そのまま、狂犬にはそぐわない手に持つ小奇麗なバッグを開く。

「けーこのヤツが、ゆう・・・あんたと会ったらコレにサインくれって頼んでたんだよ」

何時もの言い訳乙、と悪態をかけたくなるが踏みとどまる。
そんな皮肉を言った瞬間に、どう考えても諍いになるに決まっていた。
それよりも伊沢が何を真雪に頼むつもりなのか気になったという訳で。

「はぁ。
構いませんけど、サインですか?」
「ああ、手持ちのCDで悪いな」
「いえいえ、ファンサービスは大事です。
ペンも都合よく持ち合わせがありますから」

伊沢は、一応は仲間といっていいはずの、俺やカゴメに接するよりは100倍ほど優しげに真雪に声をかける。
ちょっと声が上擦っている気もするが、それをつっ込むのも抑える。
穏便に穏便に。
自制しながら真雪が慣れた手つきでサインをするのを見ていて違和感を覚える。

「ん?
CDは2枚あるのか?」
「ちっ、細かいことを気にしやがって。
・・・けーこの友達のだよ」
「今の間は何だ、このシスコンアイドルオタク」
「死ね」

ハっ、と鼻で笑って、その裏にあるだろう真実を射抜いてやると、問答無用で狂犬の拳が振るわれる。
小さな体格とは比較することすら馬鹿らしい力と速度が込められた一撃を何とか避けて、それでも体勢を崩してたたらを踏む。
この狂犬と素手でマトモにやりあってあっさりと勝てるのなんて、それこそ魔女ぐらいであるのは間違いない。

「勝った方に商品としてキスしてあげましょーか?」
「ばっ、ばかっ!
何言って・・・」

伊沢が真雪のどう見ても冗談な発言にひどくうろたえる。
本気で狼狽されるのがちょっとムカツく。
勝機に躊躇なく踏みこんだ。





「暁人さん、大丈夫ですかー?」
「・・・何とか」

路地裏。
それでも伊沢は強かった。
2人とも本気ではなかったが、数発は互いにぶち込んでいくハメになったせいで少し足取りが重い。
恐らく伊沢がさっさと退いてくれなければ、俺の方が地面に倒れるハメになったのだろう。

「んー、それでもあそこまで、で見たら暁人さんが優勢でしたし。
それじゃあ、勝者へのちゅー」

キスをもらう。
フレンチな感じだった。
それでも微かに触れ合う唇同士の粘膜の接触は、ただひたすらに甘く錯覚させる。

「うわ・・・」
「てへへー」

照れる。
真雪も頬を染めて照れる。

「・・・わ、すいません」

そんな声が視界の外から聞こえてきて、恥ずかしいシーンを人に見られたと気付く。
思わずぎょっとして振り向いた先に居た人影が、否応無しに視界を埋める。
すらりとした体躯の、スレンダーなモデルさん、とでも言うのだろうか。
女性としては身長は高い方だろうが、それよりも高原のお嬢様を想像させるような柔らかい雰囲気と、美術品のごとく整った顔立ちに目を惹かれてしまう。

「お邪魔でしたよね、すいません。
待ち人が全然来ないんでもしかしてその辺の路地裏にいるかなーとか思ったんですけど、いや、全然何も見てないですし、もちろん邪魔もしませんからっ!?」

アタフタといった感じで慌てる様子が純情な淑女のようで、余計に魅力を感じさせる美人さんだった。
仕草の一つ一つが可愛らしい美人さんの様子に、何となく胸を高鳴らせる。

「むか」
「ぎゃあ!」

隣のアイドルに思い切り足を踏んづけられる。
伊沢に殴られたよりも痛い。

「・・・大丈夫ですか?」
「な、何とか」
「暁人さんに優しくしたり餌を与えたりしたらダメですよー。
こんな人畜無害そうに見えて女たらしの浮気性男ですから。
おねーさんもパクっといかれてしまいますよー?」
「あはは・・・。
それは絶対に大丈夫だから。
僕は男の人には興味ないし」
「僕っ娘ですか・・・!?
驚愕ですね、暁人さん」
「・・・俺はそっちよりも男に興味ない発言の方が驚愕なんだが」

俺と真雪がそれぞれの事情で驚きの表情を浮かべる。
そんな2人を眺めていた美人さんが、あはは・・・、と苦笑いを浮かべながら場を濁す。

「・・・あれ?」

真雪がそんな美人さんの表情と振る舞いを見て、眉をしかめた。
それから、すん、と鼻を鳴らしてから一言呟く。

「・・・何だか僕っ娘さん、私と同じ匂いがしますね」
「ええ?」
「うそつきの匂いです」

そんな真雪の発言を聞いた途端、美人さんはぴしっと、そんな擬音を響かせて凍りついた。
だが、すぐに取り繕うように、それでも先ほどよりも不自然な引き攣った笑いを浮かべる。

「それは・・・正解かも。
すごいね」
「いえいえ、職業柄ですよ、職業柄。
あ、そうです。
ついでに聞いておきましょう」

真雪が良いことを思いついたとでも言いたげに、声を上げる。
その内容は言わずもがな。

「僕っ娘さんは背とか色々と小さな女の子を恋人にすることをどう思われます?」
「・・・は?」

きょとんとされる。
だがすぐに気を取り直した様子で、少し黙考した後、美人さんは彼女なりの答えを語り始めた。
頭の良さそうな見かけ通り、美人さんは頭も切れるようである。

「ええっと、僕は身体が大きいとか小さいとか、そんなことは些細なことだと思いますよ。
そりゃもちろん、個々に好みってのはありますから、互いにその好みに合致していれば一番良いですけど、それこそ千差万別ですからね。
個人的な意見を言わせてもらえれば、・・・うーん、あははっ」
「何がおかしいんですか?」

何かを思い出したのだろうか、芝居では無さそうな笑顔を浮かべた美人さんが、ほんのりと頬を染めてから続けた。

「恥ずかしいけど、さっき貴方たちの恥ずかしいところも見ちゃったから、オマケしてあげます。
『ここがどんなに、身勝手で、自堕落で、冷酷非情で、不条理な、最初から最後まで呪われた世界だとしても
私は、世界の全部を、問答無用に、大好きだって誓えます。』
こんな台詞を、僕が好きだからってだけで言ってのけるんですから、それだけでもう他の些細なことなんて気になりませんね。
それが僕の答え。
・・・でも、身体的にはちっちゃい部類にその子ははいります。
これは本当に、ね」
「素敵な人ですね」
「ええ、本当に」

そう言った美人さんは顔を上げて、路地裏の向こう側に何かを発見したのだろうか。
かすかに紅色に染めた頬をさらに緩めて嬉しそうな声を上げる。

「待ち人が来たみたいなので失礼しますね」

そう言って、ペコリと頭を下げて歩いていってしまう美人さん。
つい視線で彼女を追ってしまうと、待ち合わせ相手なのだろう。
色白で、平均よりもかなり小さめな体つき、それでも俺とそう年は変わらないだろう女の子の姿が反対側の入り口に見えた。
両手も陽に焼けたことがないように白く、その上夏なのに露出がほとんど見られない厚着をした、少し変わった少女だった。
少女は美人さんの腕を絡めるようにして掴むと、早々に街中へと消えていく。
風に乗って、少女の声が届いた。
おや、と思ってしまうほど隣の真雪と似た声質。

「また、別の女の子にホイホイついていって・・・全く。
足の爪、断ちバサミで縦に切ります」
「ぎゃーっ!?」

内容はひたすら物騒だった。
美人さんの発言から想像していた彼女さん像が粉々に砕けてしまうが、まぁ、そんな俺の評価なんてものは些細なことだ。

「・・・色々な人がいるもんですね、暁人さん」
「だな、俺たちよりレベル高そうだな」

とりあえず真雪と2人、顔を見つめあって苦笑した。





「・・・で、何か収穫あったのか?」
「さぁ。
多分ありません」

帰り道。
伊沢と美人さんとの遭遇で色々と使い果たした俺たちは、早々にマンションに引き返すことにした。
もちろん、明確な収穫なんてものがあるわけもない。
そもそも真雪と付き合うことが正しいかどうかなんて、他人にアレコレ言われるべきことではないのだろうし。

「ま、いいじゃないですか。
私たちは私たちですよ。
ちっちゃい子ばんざーい、と声高に宣言しても良いですよ?」
「ちっちゃい子ばんざーい」

ヤケクソ気味に告げる。
すると背中に圧し掛かる重さを感じる。
両肩から覗く少女の腕から考えるに、真雪におんぶのような格好でくっ付かれているのだろう。

「おやおや、こんなところに危険思考の持ち主が。
しょうがないですから、私がちっちゃい女の子たちに被害が及ばないように付き合ってあげますよ?
ああ、ご町内の平和と安全のために犠牲になるアイドル。
何という素晴らしいお話でしょう!?」
「それはありがたい。
まゆまゆは私にとって女神様でございますー」

自画自賛する真雪を呆れた目つきでもって褒め称える。
どうせ背中にまとわりつく、この小さな少女の重さを振り払うことが出来ないのだ。
ここは一つ、自己犠牲精神を発揮してくれるというのであれば、それにのってやるのも一興なのだろう。
という訳で。

「早速失礼して・・・」
「ぎゃわ!
何お尻触ってるんですかっ!?」
「いや、俺のために犠牲になってくれるって言うからさ」
「言い訳しながら揉みしだくなーっ!」

ぎゃーぎゃーと騒ぎながら、それでも離れることなく一つの影が寄り添って歩く。
それはきっと、誰の目にもお似合いに映る2人なのだろうと、そんな風に思わせる光景に違いなかった。


(続く)