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コミュ-黒い竜と優しい王国- SS
『うそつきアイドルとロリコンな王国』 第3話


竹河紅緒は街を走る。
ツインテールに結ばれた髪を乱してひたすらに駆ける。
彼女の表情に浮かぶのはやり場のない怒りと、それから幾分かの焦燥。
その手には一つの鍵が握り締められていた。

「・・・そうよ、まだ私にはまだこれがあるもん!」

華奢に見える身体つきに反して、彼女は走りながら言葉を発しても息を乱すことがない。
運動は出来るほうだったし、何よりも日ごろからそれなりに鍛えている成果もあるのだろう。
もう一度しっかりと手の中にある硬質の金属を握り締めながら、紅緒はつい先ほどのことを思い出していた。





「・・・え、紅緒振られちゃったの?」
「わーかわいそー」

学校の帰り道に、よくありがちな女の子の風景としての寄り道をしていたときである。
アイス屋でバニラとストロベリーのダブルを購入し、その冷たくて甘い触感を堪能しながら紅緒がつい洩らしてしまった一言。
友人2人は紅緒の発言に対して表情では心配そうにしながらも、その瞳の奥にはワクワクとした好奇心が見え隠れしているあたり、いかにも好奇心旺盛な年頃ってヤツだった。

「べ、別に、そーいうんじゃないってば!?
ほら、アレよ、アレ!
なんて言うか、えーと、そのっき、気の迷いっていうか!」
「アレアレ〜♪
へぇ〜、紅緒も色を知る年頃なのかな〜?」
「・・・ちょっとだけ、ほっ。
女として先に行かれるのも何だかショックだしね〜。
まぁ約一名、既に中古がいるけれども少数派にまわってしまうとなるとさすがにショックでかいっス!」
「中古とか往来で言うな!」
「うぅうう・・・」

好き勝手に喋る友人たちに早まった真似をした数十秒前の自分を叱責したくなる紅緒だが、そんなことが出来るわけもなく矢継ぎ早に容赦のない質問が飛んでくる。

「で、で。
どんな男?
同年代?
それとも年上!?」
「それよりも紅緒が敗北した相手の女が気になるかも!
こんな可愛い女の子なのに、何故!
プチリンゴが原因かー?」
「確かに、こんなピッチピチで可愛い紅緒に好かれたくせに振っちゃうのは見る目がないかも」
「ぎゃー!」

じゃれつかれる。
コーチンという、名前だけ聞けば出汁をとったら美味しそうな友人に髪をいじくられながら男の情報を求められ、サホという情報通を自称する友人は後ろから抱きつき胸を揉みながら失礼なことを言ってくる。
同年代の何の心得もない人間、特に同性であれば、振りほどくことは出来るぐらいは筋力は持っていると自負している紅緒だがこのときばかりは違った。
本人的にはあくまでも『少し』意識していた男性が別の、しかもまるで想定外だった女の子と付き合うことになったのを聞いたのは結構最近だ。
ちょっとばかし、弱音を吐いて慰めてほしいぐらいには凹んでいる。

「・・・あー、じゃあ相手の女のことだけ。
ナイショにしてよ?」
「うん、するするー」
「もっちろん!」

何処まで信じてよいのか分からない友人の軽い了承ではあるが、もう滑り始めた口は止まらない。
するすると、相手の名が紅緒の口から発せられた。

「地元アイドルの結奈ちゃん」
「・・・」
「・・・」

黙った。
黙られた。
抱きついていた2人がそっと離れて、気まずそうに目を合わせている。
・・・なんか言え。

「そりゃ無理だ」
「ちょっと相手が悪かったね。
なーむー」
「なーむー」
「おいこら・・・」

2人で息ピッタリに手の平のしわとしわをあわせて拝んでくる。
客観的に見ればなるほど。
確かに地元限定という枠を取り払いつつある絶賛売り出し中のアイドルで、3人でライブに行ったことさえある相手だ。
遠目に見た限りとは言えそのアイドルの生顔も超絶可愛いことは2人も良く知っているし、一介の小市民には敵わない相手だと言うのは当然だ。
だが、そこは傷心の友人を慰める場面ではなかろうか。

「ハートを撃ち抜かれたわけね、その人も」
「キャハハハ!
そんなこと言ってたよね、ライブで!」
「んぅ?」

首を捻る。
何だか2人が体のよい勘違いをしているような気がした。

「えぇと、2人とも。
これってマジ話だからね」
「分かってる分かってる。
彼が結奈ちゃんのファンになっちゃったんでしょ?」
「それで紅緒は構って貰えなくて凹んでいるのよねー」

ああ、なるほどと思い当たった。
と言うか普通であればそう考えるのかもしれない。
が、現実は非常である。

「違うの。
そうじゃなくて・・・」

口ごもる。
もごもご、と口の中で2,3回言葉を馴染ませる。
アイドルのスキャンダルを喋ってしまうのも友達甲斐のない行動だとはちらりと考えてしまうが、それでも所詮我が身が大切。
それは正義の味方も変わらない。
ごくりと唾と躊躇いを飲み込んでから紅緒は口を開く。

「本気で。
その人と結奈ちゃんが付き合ってるの」
「・・・え?」
「・・・う、嘘」

ぽかんとされる。
分からないでもないけど。

「えっと、まぢ?」
「またまたご冗談を」

本気だと言う意思表示に紅緒が数度首を左右に振る。
さぁ、慰めてちょうだい、親友たちよ!
そんなことを内心で考えながら。

「あー、まー、うん、アレだ。
男はソイツだけじゃないって!
次を探そう、次を!」
「ああっ、うん、そうだね!
紅緒ちゃんにはその人よりももっと相応しい人がいるって!」

実際にそんな取り止めのないフォローを聞くと凹んでしまうものだ。
2人の瞳はそこら中に泳いでいるくせに、相手が悪かったな成仏しろと目の奥で語っているのが分かるだけに余計にである。
紅緒はどんどん真っ逆さまに落ち込んでいく自分の気持ちが、墜ちすぎてしまったのか反転するのを感じていた。
もともと直情的な彼女だ。
困難に立ち向かう、というシチュエーションは大好物でもあったりする。
こうまで打ちのめされると、逆に闘志が湧いてくる。

「ふ・・・ふふふ」
「うわ、紅緒壊れた?」
「あーほら、大丈夫!
紅緒、紅緒は可愛い!
・・・ただ相手が悪かっただけで」
「み、見返してやるーーーっ!
今度会ったら、私も非処女同盟の仲間入りしてやるからな、こんちきしょーーっ!!」

容赦のない呟きに紅緒は遂にキレた。
捨て台詞を叫びながら、勢いよく走っていく処女を友人2人が生暖かい目で見送る。
無論、今度会う日は同じ学校に通う身である以上明日なので、紅緒の捨て台詞を信じることなどなかったのは言うまでもない。





「・・・ここが、あの男のハウスね!」

回想が終わったところで目的地のマンションに到着した。
某動画のようにこういう場面の定型句であろう声を上げて、イザ行かん、魔王の居城へ!
とばかりのノリで紅緒が腕を振り上げる。
彼女の脳内ではBGM『強敵との闘い』が鳴り響く。
勢いにまかせて、実際のところは何度も立ち入った、どころか居候までしていた一室のドアの鍵穴へと返していなかった鍵を差し込む。

「さようなら、今日までの私!
こんにちは、明日からの私!!」

先の私には『処女』を、後の私には『非処女』とルビを振りつつ、紅緒が勢いよくドアを開け放つ。
部屋の中はしん、と静まり返っていた。
何だ、留守か、そんなことに気がつくと、紅緒の若さゆえの特攻精神が途端にしぼみ始める。
同時に今度は激しい後悔が襲う。

「な、何してんのーっ!
はずかしーっ!!」

悶える。
じたばた、と手足を振り回しながらあうあう、とオットセイのように誰もいない玄関先で混乱した。

「・・・ってホントに何してんだか」

少し落ち着いたので、軽い苦笑を浮かべた。
このまま帰ろうかとも思ったが、さすがにソレも情けないので折角だから部屋の中をちらりと見ていってやろうかと考える。

「・・・ま、見られて困るものもないだろうし。
け、決して暁人のパンツを盗みに来たとかではありません!」

誰に対する言い訳だ。
ともあれ、そろそろ、と靴を脱いでリビングへ。
紅緒がリビングに入ると、そこではごろり、と転がった人の塊がある。
何だあれ、と思う前に気付く。

「ぎゃーーーっ!」

暁人がピクリとも動かずに転がっていた。





「それでこの超・探偵が呼ばれたわけ。
ずばり動機は痴情の縺れ、犯人は女。
アッキー後輩のことだから間違いない」
「あやや・・・。
不詳アヤヤめも先輩の無念を晴らすべく、捜査にご協力いたします。
ジッちゃんの名に賭けて真実はいつも一つ!
ジェバンニが一晩でやってくれました!!」
「うーん、何だか人選を誤まったような気がしなくもない」

30分ほどばかり時間が経過した、瑞和家のリビングである。
この場には現在、数名の女子が集められていた。
と言うか蝉丸操莉と阿弥谷縁だ。
いつものチェシャ猫の表情で笑う化け猫と、だくだくと滝のような涙を流しながら色々とパクリまみれの発言をするハムスター。
ピクリとも動かない暁人を放置して盛り上がる3人に対して、とりあえず暁人が生きているのか死んでいるのか確認しろよとツッコむ者も、生きているのなら救急車呼んでやれよと進言してくれる者も存在しないあたり、このSSの適当さが伺えるものである。

「ノンノンノン。
アヤヤちゃんはともかくこの超・探偵に連絡を入れたのは正解よ。
この灰色の脳細胞にかかれば、犯人は風前の灯ニャー」
「まるで殺人予告のようですね、って、ぎゃあああ!?
まだ先輩の死体がそのままじゃないですかっ!
ちょ、ちょっと紅緒さん、これ、まずいですよ!?」
「・・・あ、そう言えば警察とか連絡してないや」

さぁっ、と紅緒の顔色が真っ青になる。
この国の法律では速やかに警察やら救急に連絡をいれなければ罪に問われるのは承知の通りである。
罪の意識か、檻の恐怖か、ガタガタと震え始めた紅緒の横を通り過ぎた操莉が、暁人のそばに無造作にしゃがみ込んだ。

「・・・んぅ?
ああ、紅緒ちゃん、セーフセーフ。
アキちゃん、まだ死んでないよん。
気絶してるだけだけ」

暁人を間近で観察した操莉は暁人が生きていると断言しながら、彼をごろり、と仰向けにひっくり返す。
触れた彼の身体は確かに暖かかったし、呼吸も正常のようだ。
さすがの化け猫と言えども思わず、安堵のため息を吐いて気絶したままの暁人の頭をさわさわと撫でる。

「・・・よ、良かった〜」
「えーと、これは一体・・・」

へなへなと腰砕けに床に座り込む紅緒と、状況がよく呑み込めないのかきょとんとした顔で首を傾げる阿弥谷。
そんな2人に苦笑を浮かべながら、暁人の様子を観察していた操莉が何かに気がついたように声を上げた。

「・・・頭出腫、つまりたんこぶが後頭部にあるみたい。
どうやらこれで気絶したようね。
それから手にはこれ見よがしのCDが握られている・・・事件かにゃー?
それから床に転がる潰れたティッシュ箱・・・事故かにゃー?」
「あやややややっ!
そうだ!
救急車呼んだ方が良いですか、操莉ちゃん先輩っ!」
「うーん、それは大丈夫、多分。
もう少し様子を見て起きないようだったら呼ぶことにしましょ」

阿弥谷がどこぞの幻想ブン屋を想像させる声を上げて携帯電話を取り出しながら言うが、暁人の怪我の様子を確認していた操莉は軽く首を振って否定する。
暁人の容態は見たところ血が出ているわけでも無く、取りあえずは様子見との判断である。

「CDは・・・『こころのプリズム』?
あ、まゆまゆの新曲だ」
「真雪ちゃん?」
「ふむ、これがアッキー後輩が残したダイイングメッセージだとすると、彼女が容疑者その1だね」

被害者のダイイングメッセージと受け取ったのだろう、多分その方が面白いという理由で。
操莉はニヤリ、と口角を持ち上げた。
ただ、暁人とはラブラブカップルであると公言して憚らない真雪である。
暁人を撲殺する理由があるとも到底思えない。
可能性としては暁人が浮気をして怒り狂った真雪がというパターンならありえそうだが、どちらにしても紅緒がこの家を訪れた際に鍵がかかっていたのは確かなので、その可能性も薄い気はする。
失神した暁人をそのままに放置して帰るほど怒り狂った彼女が、わざわざ鍵をしめて帰るとは到底思えなかった。

「それから、紅緒ちゃんが来たときは鍵は掛かっていたんだね?
それじゃあ、窓はどうだったかな?
開けた記憶はある?」
「鍵がかかってたのは絶対そう。
でも窓は多分入った当初から開いてた、と思う」
「つまり・・・所謂一つのツンデレ様ですね!?」
「容疑者その2かニャー。
よっし、アヤヤ後輩、容疑者2名をちょっとここまで呼んできて?」
「ぎゃーっ!
それはアヤヤに氏ね、と言っているのと同じです、操莉ちゃん先輩っ!
あの御方の召喚は何卒ご勘弁を〜〜」
「うっさい。
さっさと行け」

がしがし、と蹴り飛ばされて涙目で部屋を後にする阿弥谷を見送りながら、紅緒もまた考えをまとめていた。
ツンデレ様という代名詞は聞いたことはなかったが、彼女にも誰のことかは予想がつく。
ただ、比奈織さんが犯人だというならば、今もこの瑞和家のソファーで我が家の如くふんぞり返っていてもおかしくはないだろう。
というか、確実に勝者の笑みを浮かべながら寛いでいるだろう。
だから多分違う。

「それから容疑者その3・・・は除外しても良さそうだね。
紅緒ちゃんは犯人じゃないと」
「えええっ!?」
「そりゃ第一発見者は疑われるわ。
だけど、殺すつもりの傷跡じゃあどう見てもないからね。
何かの拍子で、と言っても死んでるかどうか確認ぐらいするだろうし。
ただ殴っただけだったらわざわざ私たちを呼ぶ必要もない」

仰天する紅緒に向けて告げる操莉の言葉に含むところはない。
ともあれ、容疑者候補から外されたことに対して紅緒は胸をなで下ろす。
暁人も死んでいないことが分かったし、これ以上シリアスでいく必要はないのだろうと、肩の力も抜いてずるずるとソファに沈み込んだ。

「もしくは、真雪ちゃんをイメージさせるものを持たせたってことは、彼女を犯人に仕立てて・・・って?
うぅん、真雪ちゃんイコール結奈ちゃんってことでオーケーだよね?」
「Exactly」

何故かどこぞの紳士のような口調の英語で答える紅緒を胡散臭げに見つめた操莉は、紅緒ちゃんも大概アホの子だニャー、などと内心で思いつつも現場検証を淡々と続けていくのであった。





「ほう、それでこの有象無象が私を呼びにきたわけか」
「・・・きゅぅ」

それから5分ほどして。
瑞和家の人口密度がまた上がっていた。
具体的には人にして1人分、というか同マンションに住まう暁人のパートナーを嘯く比奈織カゴメである。
彼女は猫の仔のように摘み上げていた阿弥谷をぽい、と無造作に放り投げるとそのままずかずかとリビングにあるソファへ、先住する紅緒を腕の一振りで追い払ってから当たり前のようにふんぞり返って座った。

「あ、あはは・・・、ひ、ひにゃおりさん。
わざわざありがとうございます」
「パートナーだからな。
暁人の危機ともなれば、協力もやぶさかではない。
頭を打ってこれ以上堕落されると、只でさえマイクロ単位な暁人の存在価値がマイナスになってしまうからな。
いくら美少女ガーディアンと言っても守りきれん」

紅緒はソファを追い出されながらも口のなかでもごもごと唇を湿らせながら、怒りではなく苦手意識による緊張で固まった舌を何とか動かして声を上げた。
魔女の顔色をちらりと窺うとどうやらそう機嫌は悪くないようで、先ほどの発言もあわせて珍しくもこちらの用件に付き合ってくれるつもりらしい。

「おやおやぁ?
カゴメちゃん、今日は随分と気前が良いね。
愛の力は偉大ってやつだニャー」
「な、投げ捨てられた後輩にも、あ、愛の手を・・・なるべくならアッキー先輩の手で・・・がくり」
「よし、そこの後輩。
折角だ、心優しい先輩から愛の手だ。
学校帰りのあのCGはどう見ても死亡フラグだったからな、回収してやる」
「それは決して愛じゃありませんっ!?」

泣いた。
おろろん、と阿弥谷が大粒の涙を浮かべてむせび泣く。
超・探偵はCGとか言うなよ、と内心思ったが敢えて火中の栗を拾いに行くつもりはなかったので軽くスルーした。
そして、アヤヤ後輩の生死よりも気になるものがあるのが探偵、もとい超・探偵というものなのである。

「ま、アヤヤ後輩への制裁は後にして。
真雪ちゃんはどしたの?」
「あー、それが携帯に出ないんですよ。
繋がってはいるんですけど・・・お仕事中ですかね」
「・・・うーん。
確か昨日の昼すぎに電話したんだけど、昨日今日はオフにしてもらったとか言ってたような?
私からもう一度掛けてみる」

首を捻りながらたまたま聞いていた真雪の予定を口にした紅緒は、携帯電話を取り出してアドレス帳から番号を慣れた手つきで呼び出す。
耳に響く機械音は確かに呼び出しの音だ。
仕事の場合は電源を切っているだろうし、もしかしてまだ寝ているとかそんなオチなのかもしれない。

「・・・あれ?」
「・・・ほぅ」
「・・・二度目?」

受話器に当たっていない方の紅緒の耳に、この部屋の中にいる少女たちの疑念のこもった声が聞こえた。
何か気になることでもあったのかと紅緒は顔を上げて様子を窺おうとしたが、その時電話口からくぐもったような声が聞こえてきた。

『ふぁい。
もしもし、あふぁようございまふ』
「お早う。
・・・まゆまゆ、もしかして寝てた?」
『はぁ。
ちょっと昨日夜更かししてしまいまして。
くふぁぁあああ』

電話口から聞こえてくる可愛らしい欠伸を聞く限り真雪が暁人を殴ったとはとても思えず、とは言えそんなことは確認するまでもなかったかと紅緒は苦笑いを零した。
そうなると、起きたばかりの真雪に暁人が倒れているなどと心配させるのも忍びないと、紅緒が考えるのも仕方がないことなのだろう。

「あーうん。
ちょっとまゆまゆとお話がしたかったんだけど、起きたばっかりならまた今度でいいわ。
ごめんね、お休み中に」
『いえいえ。
もうお昼前ですし、こっちが勝手に夜更かししただけですから気にしないでくだ・・・ふぁぅ。
ううぅ、まだ色々とだるい〜』
「・・・何だか辛そうね。
声も枯れてるみたいだし、風邪でも引いた?」
『うーん、そういうわけじゃないと思いますけど・・・。
夏ですし、裸で寝たって平気なぐらいです』

電話機の向こうから聞こえてくる声は、寝起きなせいだけではなくてローテンションな様子だった。
紅緒は調子の悪そうな真雪相手に、これは暁人のことを言わなくて正解だったと胸をなで下ろす。

「・・・もしかして」
「ああ、正解だ」
「うーん、色々盲点だったニャー」

先ほどから声が聞こえてくる同室の人間たちの声の質がどうも気になる。
アヤヤちゃんと操莉さんはともかく、比奈織さんまでもが輪に入っているのは一体どういう訳なんだろうか。

『紅緒さん。
ちょっと飲み物とってきていいですか?』
「うん?
ええ、もちろん」
『ではでは、少し失礼して〜』

ガチャ

声と同時に扉の開閉音が、受話器を当てた右耳と、・・・それから左耳にも響く。

「・・・あ?」
「・・・へ?」

目があった。
音のした方向には、開いた扉と、背の低い長髪の女の子。
右手には携帯電話を持ち、左手でドアノブを掴んだ格好。
着ている服は男物の、彼女と比べると2回りは大きなダボダボのワイシャツ。
下には何も履いていないらしく、白い素足がすらりとのびている。
ボタンは下半分程度しか止まっていないためだろう、だらしなくはだけた胸元に虫さされのような赤い点がいくつか見えたところで、何かに気付いた紅緒の頬が真っ赤に染まった。

「「ぎゃわ」」

バタン!

同時に叫んで再び扉が閉まる。
少女の姿が消えると、紅緒は意識せず大きく息を吐く。

「・・・もしかして」
『もしかしました』

電話越しに話してから、今度は同時にため息。
紅緒の後ろでも物騒な会話が始まっていた。

「操莉ちゃんの超・推理。
これから、アキちゃん残虐ショーが開催。
「そうか。
私は暁人が愛人相手に何をしようが気にも止めないが、ギャラリーの期待には応えなければな。
相応しい罰をたっぷりとプレゼントだ」
「あやや〜。
アッキー先輩、安らかにお眠りください」

全会一致。
判決、死刑。

「・・・あ、あれ?
俺は一体・・・」
「ほぅ、こうも都合の良いタイミングで目を覚ますとはな。
さて、暁人。
贅沢な話だが、お前には選択肢がある。
死ぬか・・・」

目覚めたばかりの暁人の真横まで瞬時に移動した魔女が囁くように告げる。
混乱した頭の中でどうしたらこの窮地を切り抜けられるのか必死に考えるが、そもそもどうしてこのような状況にあるのかすら分からない。
とりあえず現状を教えては貰えないのだろうか?
期待を込めてカゴメへと視線を向ける。

「死ね」
「選択肢になってねぇっ!!?」





「と言うわけで犯人はカゴメちゃん。
主な凶器は拳。
死因は撲殺。
超・探偵の推理に間違いはないニャー」
「・・・まぁ、すぐ横で見てましたしね」
「アキちゃんが倒れていた原因はCDを聞こうとしたはいいものの、三大欲求のうちの一つを満足させたせいで疲れてた上に、夜中の暗闇の中で歩いていたら床に転がっていたティッシュ踏んづけて滑って転んでテーブルの角で頭打った」
「それが分かったのはすごいっ!?」
「ノンノンノン、初歩的な推理だよ、ワトソン君」

終わっとけ。

(続く)