本文へジャンプ
main Log information Side Story Gift link

コミュ-黒い竜と優しい王国- SS
『うそつきアイドルとロリコンな王国』 第1話


何処へ行きたい?
















・・
・・・ロリコンが許される優しい王国へ





穏やかな凪の時間が相変わらず続いていた。
初夏から本格的な夏に移り変わろうとしている季節の中で、暴力だとか、恐怖だとか、そんな物騒な単語たちとは縁を切ったようなまったりとした毎日を過ごしている。
カエサルだとかラウンドだとかの内部のゴタゴタ、それから事後に聞いたのだがギグなんか物騒な話もあったらしい。
とは言え、それなりに話はまとまったらしい。
そこら辺は王様が積極的に働きかけたとか何とか。
よく頑張った。
感動した。
平和を享受するばかりの一市民としては、今度王様に会ったときには缶コーヒーでも奢ることにしようと思う。

「そんなわけで初ドラマは絶賛好評中のうちに終了いたしました。
暁人さんもしっかりと見届けてくれましたよね?」
「まゆまゆはちょい役だったけどな」
「それでも私のあまりに素晴らしすぎる迫真の演技に今度は国営放送の大きな河やら朝の連続やらに出ないかとオファーが殺到してます。
暁人さん的には恋愛ドラマの可憐なヒロイン役なんぞに抜擢されては嫉妬の炎で身を焦がすことになり、夜も眠れずたまったものではありませんよね?
それからまゆまゆ言うな」

自分自身の野望のために殺伐とした日々を好き好んで生きる王様のことは、無造作にぽいぽいと意識の外に放り出す。
スペースはいくらでも余っているのにわざわざ俺の膝の上に座る、絶賛売出し中の地元アイドル兼オタクアイドルにクラスチェンジしたうそつき少女のニヒルな笑みを上から見下ろしながら、余裕を込めつつも少し真面目な口調で返事をした。

「心配してないさ。
・・・愛しているからな」
「あ、あうううぅううっ」

歯の浮くような台詞を内心のむず痒さを堪えて吐き出すと、真雪の顔が真っ赤に染まった。
自分から皮肉気に仕掛けてきたくせに、直接的な言葉で返されると途端に弱くなるのが真雪の特徴である。
寂しがりの甘えん坊なので好意の押し付けには弱い少女なのだ。
とは言え、今のはこちらにも極大呪文クラスのダメージを与える諸刃の剣だ。
多用はできない。

「う、嘘ですからっ!
オファーは確かに来ましたけど、高倉市を舞台にした2時間サスペンスもののちょい役です!
ほら、はぐれ相棒刑事あぶない純情派貴族!?」
「なんだそれは」

ぶんぶんと腕と首を振り回してばしばしと俺に攻撃を加えながら、尚もテンパった口調で謎の番組を口にする少女に対して呆れた口調で首を捻る。
真雪が出演する番組名はさっぱり分からないが、多分刑事モノなのは間違いない。
それも新聞のテレビ欄を見ると3行やら4行やらある長ったらしいタイトルの番組だろう。
放送開始一時間目ぐらいのところで温泉シーンがあって、最後は崖の上で問い詰める類のヤツだ。

「不覚です、屈辱です、りょーじょくです。
不意打ちの恥ずかしい台詞は私のような純粋乙女にはダメージ大きすぎです。
ああ、さすがに夜の帝王の名をほしいままにするエセロマンチスト暁人さんには、ちっぽけでピュアな乙女では抗うことすら許されないのでしょうか・・・よよよ」
「ウソヲツクナー」

口ではまるで普段から練習しているかのようにするすると散々純真さをアピールしながらも、彼女は何故か身体を横にずらして両腕で俺のズボンをごしごしと擦っているため、全く説得力がない。
ジーパンのごわごわとした生地があまりお気に召さなかったのか、それとも俺の声に何かを思い立ったのかぴたりと腕の動きが止まる。
少女の小さな手が衣服ごしに急所を這い回る感触にもどかしい快感を覚えていた俺の口から思いがけずに残念そうな声がもれてしまう。

「・・・ぁ」
「にやり」

にたり、と天使のような顔に悪魔のような笑みを浮かべて真雪が笑う。
攻守が逆転したのを理解した。
わざわざ声に出して言うあたり意地が悪いと言わざるをえないだろう。

「何がしたいんですか、暁人さん?」
「・・・っ」

一度だけぺたり、と小さな手をズボン越しにソレに押し当ててから囁くように、それでいて熱の篭った呟きを耳元に囁く。
俺はごくりと大きく喉を鳴らすと、その小さな体躯をぎゅうと抱きしめながら素直な心を内を吐き出した。





瑞和暁人と結花真雪は繋がっている。
それは他人という究極の断崖を超常的な手段で飛び超えて、精神的にテレパシーなどで繋がっているという意味では決してない。
結婚という人間社会によって作られた契約で法律的に繋がっているわけでもない。
少女Aによって導かれたコミュというルールの中で命が繋がっていた。
コミュは5人。
瑞和暁人、結花真雪、竹河紅緒、伊沢萩、春日部春。
5人で一体のアバター、竜型の亜種であるバビロンを操る。
アバターはコミュの命を弾丸に、力を奮う。
そしてアバターが滅びるとき、コミュのメンバーは共倒れとなる。
高倉市でたびたび起こる原因不明の集団死、というものの原因がズバリそれだ。
だからコミュは、コミュのメンバーは否応無しに命と命で繋がっている。

「・・・っふゅふぃひひひひ」

ベッドで眠る真雪が不気味にも聞こえる寝息をこぼす。
全裸な身体では夏に近い季節と言えども流石に冷えるのか、かすかに粟立つように鳥肌をたてる肌に優しくタオルケットを被せてやる。
丸く縮こまっていた小さな身体が安心したかのように弛緩した。
それを見つめながらぼんやりと続きを考える。
声に出してみると、はっきりとする。

「コミュの中で一番の問題は接続者の暴走だ」

アバターは接続人数が多いほど強力になるし、その制御は多数決で決まる。
コミュの人数が奇数なのが幸いして、進むも戻るも多数主義となるのが基本だ。
だからと言って一人ではアバターを召喚出来ないというわけではない。
むしろ一番のネックはそこで、コミュの最初にして最大の仕事は同じコミュのメンバーの人となりを把握することなのだろう。
だからコミュのメンバーたちは交流する。
男女のメンバーであれば、恋愛感情を持つことだってあるかもしれない。
つり橋効果という言葉があるがそれと同じようなことで、ただ違う点はその不安定でぐらぐらと揺れ続けるつり橋からは死ぬまで逃れられないというところだろうか。
だからこれもそんな同族意識が始まりで。
何が言いたいのかというと。

「だからひらべったい中にぽつんとさくらんぼが見える胸だとか、わずかに産毛が主張するだけのほとんどつるつるの一本のスジだとか、そんなものが・・・っ!」

つまりは俺はロリコンなのではなくて。
命のやり取りという非日常的な学園バトルモノ展開の中でコミュのメンバーの1人に好きを意識したのは、つまりはそういうことなのだと自己弁護。
無論誰も聞いてなどいないこの発言がただの自己満足に過ぎないのは十分承知の上である。

「・・・このロリコンが」

本当に寝ているのか怪しい寝言が聞こえてきたが、今こそアクセプタースレで培ったスルー能力を最大限発揮してスルーした。
ベッドの上に無造作に広がった色素の薄いさらさらのロングヘアを意味もなく撫でておきながらふと異臭を感じて、すん、と鼻を鳴らす。
栗の花だとかイカ臭いだとか揶揄される独特の臭気が満ちた部屋で、思わず顔をしかめる。
やることをやっておいて今さら言い訳じみたことを考えても仕方がない。
俺は肩をすくめてから一つため息をついて立ち上がった。

「こんなところだってリアルは何時だって多層的だ。
・・・換気しよ」

魔女がククリナイフを振りかぶっていたりはしないかを心配する必要が無い、平和な真雪のマンションでカーテンごしに窓を開けると沈みかけた夕日が覗いていた。
昼間から情事にふけっていたのかと思うと、真面目に勤労しておられたり、勉学に励んでおられたりする色々な方々に申し訳ない気もしてくるが、これも若さの特権というものだろう。

「それは無茶な理屈ですね、暁人さん」
「心を読むな、ちみっこめ」
「読めません。
私は赤猫さんではありませんので、あしからず」

電波を受信したのかのような台詞をごく当たり前のように吐きながら、いつの間にか起きだしたのか、真雪が服を着るよりも先にデスクトップPCを極当然のような動きで起動させる。
くああああ、とあくびをしながらも小さく、くしゅん、と鼻を鳴らした彼女がクローゼットにのそのそと近づく。

「・・・あう。
垂れてきました」
「お風呂入れておいたから先に入っておけって」

しかめ面をした真雪は、小さく泡を立てながら重力に従って太ももを伝う白い液体を拭いもせずに下着を履くことを諦める。
そのまま風呂場に向かうかと思いきや2次元の少女がデスクトップいっぱいに占められたPCの方へとふらふらと引き寄せられるように近づいていく。

「んー、スレだけチェックさせて下さっくしゅんっ!」
「まゆピー語だな」
「暁人さんも結構私たちの世界にはまってきましたね」

ニヤリ、と口角を歪める真雪の肩に上着だけでもかけてやりながら呟く俺の言葉に満足気な笑みを返す彼女は、座ることも出来ずに立ったままくるくるとマウスを動かして専用ブラウザを起動させる。

「ふんふん。
うわー、商業化してからブラクラっぽいリンク増えましたねー。
NG登録、NG登録。
あぼーん乙」
「やっぱり本スレにも影響があったのか?
勢いが早くなったのぐらいは俺にも分かるけど」
「そりゃありますよー。
新規さんが増えましたし、プロになるつもりの天國さんは逆に投稿減りましたし。
まあ相変わらず好き勝手やってますから、気楽なものですけど」
「ふぅん、名無しなのによく新規だって分かるよな」
「☆羅さんたちのせいでいつの間にか私が女の子だって知れ渡ってますしねー。
変なレスも多いですよ」
「・・・ホントだ」

真雪が指差してみせた先には、『ユキのおま×こ云々』『ユキは俺の嫁云々』とか書いてあったりして思わずゲンナリとしてしまう。
伏字が必要なのはいただけないが、こればかりは仕方がない。

「ふむ。
特に新しい動きもないようですし、お風呂いってきますね。
・・・そうだ、一緒に入ります?」

先ほどの仕返しのつもりなのか不敵な笑みを浮かべつつ、真雪がパソコンから視線を外す。
思わず目を見張ってからむくむくと湧き上がる好奇心のままに頷こうとして、その前に彼女はパソコンの前からさっと一歩横へとずれる。
ふわり、と上着を床に落として生まれたままの姿となった彼女は、小さな胸と内もものあたりを手で隠しながら続ける。

「冗談です。
狭いんですから襲われたら逃げられませんから」
「よし、一緒に入ろうか」
「キャーっ、おーかさーれーるぅ」

棒読みで悲鳴を上げながら風呂へと逃げ出す真雪を見送って、はぁ、とため息を一つ。
とりあえず彼女が先ほどまで見ていたスレを自分の携帯電話で開く。
ま、これも一つの自己主張。
この優しい王国でしっかりと主張することは非常に大切だってことで、気合を込めてレスを書き込む。

『お前ら乙。ユキは俺の嫁』

恥ずかしくて首を吊りたくなった。
真雪に見られてはたまらないと、最近ようやく使い方を覚えた彼女の専用ブラウザの機能を使って自分の携帯IDをNG登録しておく。
証拠隠滅は大切です。
それでも照れくささは消えず、馬鹿みたいに一人で百面相をしながらもごもごとしかめ面をしていた俺の耳にかすかにシャワーの音が届いてきた。
座っていたパソコンチェアから、おもむろに立ち上がる。
きょろきょろと周囲を見渡してこほん、と一つ咳払い。


・・
・・・さて、乱入しようか。

前略、父上様。
あなたの息子はいつの間にか世間の常識という名の荒波と真っ向から対決する罪深い人間になってしまいました。
かしこ。
自分で言っていて悲しくなってくるが、ふんふんふ〜ん♪、という楽しげで可愛らしい鼻歌がバスルームから聞こえてきた。
世間様の普通は視界の端に見えるゴミ箱に勢いよく投げ捨てる。



「ぎゃわ!?
覗きぐらいなら可愛げもありますが、何マジに乱入してきているんですかっ!?
は、はだかだしっ!!」
「はっはっは、まゆまゆはお風呂に入るのに裸以外の格好で入るのかな?」
「まゆまゆ言うな!
っていうか暁人さん、性格変わってますよ!?」
「ヒトは時とともに変わらざるをえない。
悲しくても、これが現実なんだよな」
「こーのーへーんたーいーっ」

ようするに、これはロリコンの話だ。

(続く)