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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第14話』


二体の幻獣が空を翔けていた。
地上からはその背に跨り対峙する二人のメイジを確認する術は無い。
ただこげ茶けた毛皮で覆われた鷲の頭と翼、ライオンの胴体を持つグリフォンと、
陽の光に反射する青い燐に覆われた敵より一回り大きいドラゴンの姿が見えた。

メイジは互いに魔力を温存しているのだろうか。
空に魔法の光がびかびかびか、輝きを放つことはない。
故に勝負は幻獣の強さで優劣が決まった。
体格と種族で優れたタバサのシルフィードが果敢に攻めるが、
戦闘経験と機動力で優れた敵のグリフォンが巧みに回避し背後に回る。
その企てを人間の頭程度なら打ち砕きそうな尻尾の一振りで退けたシルフィードが、
大きく距離を取ったかと思うと口から竜種の特徴であるブレスを吐いた。
グリフォンは急制動をかけると同時に降下し、
慌てることもなく悠々と竜の吐息をかわしてみせる。

・・・怪獣大決戦か?

下から見上げていると遠く離れているとは言え、結構な迫力である。
空中での戦闘を、首を持ち上げて眺めながら、
才人はそんな緊張感のカケラも感じられないことを考えていた。

「で、俺はどうすればいいんだ?」

完全に蚊帳の外になってしまった才人の呟きがフーケの耳に入ったのは、
上空の衝突、いや、まだまだ様子見といった所だろうか?
とにかく、一度目の衝突がひと段落して、
二人の幻獣乗りが仕切りなおしのために距離を取り直したときであった。

「・・・ここで見ているぐらいしか出来ないんじゃないかい?
たとえアンタが飛べたとしても、幻獣の飛行速度には太刀打ち出来ないだろ?」

フーケも特にやることがなくて暇だったのか、才人の話に相槌を打った。
彼女とて仮面の男を援護しようにも、
ゴーレムや土のスペルでは役に立たないことぐらいは理解していた。
ぶっちゃけ、二人とも暇であった。

「・・・やらないか?」

才人は暇人同士戦わないか、とフーケに向けて言ってみた。
少々言葉は足りなかったが、そこはそれ。
フーケは他の意味に取ってほいほい着いてきたりはしないだろうし、
才人もベンチに座っているわけでも、例の格好をしているわけでもないのだから問題ない。

「お断りよ。
あんたゴーレム殺しの武器持っていたじゃない、
魔力の無駄使いだし、やらないわよ」

「ちぇっ」

案の定、フーケは才人を冷たくあしらい、また視線を上空に戻す。
正直なところ、ドットメイジのように自分のゴーレムが
そう易々と無効化されるとは彼女は思わなかったが、
わざわざ魔力を使って試すほどのことでもない。
才人も予想通りの反応だったのか、
特に追求もせずにフーケの視線を追って空中に目を向けた。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第14話(最終回)



さて、地上で不毛なやり取りが行われている頃である。
がっしりとした体格と長髪の、仮面をかぶった男と、
ちんまりとした背格好と短髪の、眼鏡をかけた少女がいる上空でも、
実りがあるとも思えない会話が行われていた。

「ふむ、その年齢でなかなかのものだ。
・・・使い魔の質も素晴らしいし、さすがはガリアの王女様と見受けられる」

「・・・どうしてそれを?」

「おや、口が滑ってしまったな。
いかんいかん、どうも僕は口が軽くてね
・・・おっと、また言わなくて良いことを言ってしまった。
この事は内緒にしてもらえるかい?
人から信用されなくなってしまうのでね」

事実、軽薄そうに、饒舌に喋る仮面の男をタバサは全く信用出来なかった。
だが、この発言の真意はタバサを逃がすつもりは毛頭ないという、
仮面の男からの宣言であることは想像に難くない。
それを理解したタバサは、男に付き合い勿体ぶった言い回しで答えてやる。

「・・・破壊の杖を返して、そのまま逃がしてくれるなら考えないこともない」

「ふむ、悪くない取引だが・・・、
それではクライアントに怒られてしまうのでね。
いやいや、この年で失敗するというのはなかなか大変なものだ。
君も失敗するなら若いうちの方がいい。
若いうちならいくらでも取り返しがきくからね」

「・・・大きなお世話」

タバサは心の隅に怒気を隠しながら言葉を返す。
どうやら舌戦では仮面の男の方が一枚も二枚も上手のようだった。
仮にもタバサがガリアの王族であることが分かっていても、全く怯まぬ相手である。
このままタバサが劣勢な立場で言葉を交わし続けても、
有益な情報を引き出させてくれるとも思えない。
彼が突然心を入れ替えて改心する可能性も、全くなさそうだ。

・・・であれば先手必勝が相応しい。

「本気でいく」

タバサは相棒への宣言と同時にスペルを唱え始める。
唱える魔法は先刻と同じ、『アイス・ストーム』。
急加速をし始めたシルフィードの背中で、
ごうごう、という風切り音を耳元で響かせながらもスペルに集中する。
練習での成功率は50%程度だが・・・、
ここで失敗するほど、場を読めないタバサではなかった。

「ほうっ!?
その体勢でそれだけのスペルが使えるのかねっ!」

さすがに驚愕したとしか思えぬ声色で仮面の男が叫び、
回避行動を命じられたグリフォンが動くよりも早くタバサの魔法が完成した。
ほぼ同時にグリフォンの真横をシルフィードが駆け抜け、
振り向きざまにタバサは杖を振り上げて叫ぶ。

「アイス・ストーム!!」

仮面の男とグリフォンが凶悪な吹雪に襲われた。
これでもかと精神力をつぎ込んだ一撃には、
強くあれ、猛り狂え、天をも覆え、とばかりに気力を注ぎ込んだ。
あまりに力を尽くしたせいでタバサは意識を失いかけ、
杖が手から滑り落ちそうになる。
それをぐっと唇を噛んで、じくり、という痛みでなんとか堪える。
続けて空を駆け抜けながらも凍りついた後方の空気による気圧差で、
頬がびりびりと引っ張られるような感触を覚えた。
少し肌が切れたかもしれないと思いながらも旋回し、
完全に覚めた頭で冷静に自身の放った魔法を見つめた。

凍てついた空気の束が、
弾ける爆弾のような圧縮された空気の塊が、
呼気を奪う輝くダストが、
凶器と化した鋭い雹が、
全てを砕き、切り裂かんと男を襲った。

広範囲に渡る氷の嵐から逃れる術はなく、
今から対抗策をうったところで間に合うわけもない。
最早仮面の男に出来ることは、木偶のように魔法を正面から受け止めるだけである。

ぶらああああぁっあああっっっ!!!

嵐と氷の粒がぶつかり、叫びのような轟音が響いた。



「・・・上っ」

あまりの温度差に水蒸気爆発でも起こったのかのように煙る周囲に、
鋭い視線を送っていたタバサがシルフィードに命令を出す。

「ほぅ?
・・・よく気付いたな」

一瞬後、小さな雷がタバサのいた場所に落ちて消えた。
その上空には、爆発の余波を全く受けていない、
先ほどと変わらぬ格好で仮面の男がグリフォンにまたがっている。

「きゅいっ!?」

思わずシルフィードが上空を向き声を漏らすが、
タバサはそれを意にも返さずに杖を再び高々と振り上げた。

「ウィンディ・アイシクル!!」

タバサは作り出した数十本の氷の矢を、彼女を支点に周囲全てに向けて解き放つ。

「な、なにっ!?」

左下の方向から声が聞こえると、回避行動を取るグリフォンの姿があった。

「・・・やっぱり」

本数の増やしすぎで額にじわりと浮かんだイヤな汗を拭いながら、タバサは呟いた。

「無茶をする・・・。
僕が光を屈折させて自分の虚像を映していたと見当をつけていたんだろうが、
だからと言って今のはかなり負担になったのではないか?」

「それでも、効果はあった。
それに・・・分身の身なりが全く乱れていなかったから、
方向に予想はついていた」

タバサは、ぶんぶん、と頭を振って気力を振り絞る。
光を屈折させるような魔法は地味とは言え、かなり難度は高い。
回復させる機会を与えなければ、連続しては唱えられないはずっ!!

「・・・一気に攻めるっ!」

タバサはシルフィードと自分に言い聞かせるかのように宣言すると、
再び高速で飛翔しながら懸命にスペルを唱え始めた。

・・・私も恐怖から退かない勇者になってみせるっ!!



「・・・やばいな」

才人はごくり、と唾を飲んだ。
タバサも健闘しているが、あまりにも相手が悪い。
現時点ですら魔法の構成、戦略の立て方、使い魔の操り方、その他もろもろ、
どう見ても相手の方が一枚以上は上手だ。
そもそも大の大人の男性相手で、少女、
それも周りよりもずば抜けて小さな体躯しか持たぬタバサである。
体力差は如何ともし難いものがあった。
今はまだまだ仮面の男に喰らいついていけるようだが、
いざと言った場面で手段が力押しだけしかないのであれば、
すぐに坂道を転がり落ちるように戦況が悪化していくのは間違いない。

「・・・今の装備は・・・剣が二本・・・」

才人は自分の持っている手段を確認しようと腰に差した剣をなぞる。
持ってきていた武器は、
毎度おなじみ影を渡る程度の能力の些か使いすぎている感のある剣と、
ゴーレム退治用の剣が一本。
これで、空を飛ぶグリフォンとその乗り手を倒すためには・・・

「やっぱり無理か」

どんなに頭をしぼっても選択肢が少なすぎる。
都合の良い妙案など出てきそうにない。
・・・となると、狙いはやはり

「フーケ、さっきは冗談だったけど、今からは本気だ」

「何がだい?」

「懸念材料から先に倒させてもらうっ!」

どんっ!!

地面が地響きを起こすくらいの勢いで才人は地面を穿った。
引き絞った弓から放たれた矢のように飛び出した才人の狙いは・・・フーケ!

「くそっ!」

がきんっ!と金属がぶつかり合う音が響き、才人の剣が止まる。
フーケが懐にしまっていた杖を引き抜き、見事に一撃を受け止めてみせる。
彼女もただのメイジという訳ではなく、かなりの体術の使い手でもあるようだ。

「くっ・・・!
あの旦那はこんな奴とまともに戦っていたのかいっ!?」

だが、さすがに本職とマトモに剣術で戦って勝てるわけもない。
受け止めたフーケは一撃で見て取れた実力の差に驚愕の表情を浮かべつつも、
伸び上がるような蹴りを出し才人の追撃を牽制しつつ後ろに下がった。
そのままフーケは杖を掲げ才人の剣をなんとかいなしながらスペルを唱える。

「させるかっ!」

「丁度いい!
私のゴーレムが剣の魔力になんて負けない所を見せてやるよ!」

「やれるものならやってみろ!」

才人の猛攻にフーケの顔に脂汗が滲んだ。
1回受け止めただけで、数度の追撃をいなしただけで
彼女の腕はもうびりびりと痛みを放ち、杖を持ち上げるのさえつらくなってきていた。

「ゴーレムよっ!!」

だが、なんとかフーケのスペルは間に合った。
彼女の足元が急激に膨れ上がり、大地が隆起する。
周囲の木々が根元からぶちぶちと引き裂かれ、倒れ伏す。
真っ先に出来上がった巨大な腕が、
才人を倒さんとその凶悪な重量を込めた破壊の張り手をぶちかました。

「うおおおおおおっっっ!!!」

その腕が止まる。
才人は下がることなく剣の柄を両手で握り締め、その凶行に立ち向かった。
そして・・・森の木々も弾け飛ばす巨大な手のひらを真っ向から受け止めてみせた。

「なっ!?」

「遅いっ!
発動しろっ、ゴーレム殺しっ!!」

受け止めたままの刀身が眩いばかりの光を放つと、
触れ合った箇所から光がゴーレムにも伝わっていく。
腰まで出来上がっていた巨大な土人形がさらに下半身を作り上げるよりも早く、
フーケのゴーレムを塵に返さんと剣が大きく震えた。

「ば、馬鹿なっ!」

さらさらと溶けていくゴーレムから飛び降り、その惨状を呆然と見つめていたフーケは、
目の前に迫る才人を前に何もすることが出来なかった。
そのまま、彼女の腹に剣の柄が突き刺さる。

「ごふっ!」

「すまんっ!」

才人は倒れるフーケには目もくれず、この広場唯一の小屋へと駆け込んでいった。
目的はただ一つ、『破壊の杖』。
あの武器は本来対地用武器だが、場合によっては対空にも使えるはずだ。
小屋に入った才人は、部屋の真中に堂々と鎮座されていたソレを手に取る。
触った瞬間に彼の左手が輝き、考えを肯定するだけの情報が頭に入ってきた。

後は・・・っ
きちんと使えることを祈るだけだっ!!

小屋から飛び出した才人が再び空を見上げると、もう空中戦は佳境に入っている。
もちろん、仮面の男の優勢によってだ。
タバサとシルフィードは攻めから一転、防御に徹し、
グリフォンの突進をかろうじてかわし、
仮面の男の魔法をぎりぎりのところで相殺していた。
そして、そのことは才人にとって都合の良いことでもあった。
呼吸が必要以上に乱れることを嫌ったタバサは低空を翔け、
仮面の男のグリフォンはシルフィードよりも速度に劣るために直進では引きなされるのだ。

「・・・狙いによっては・・・当てられるな」

ごくり、と才人が息を飲む。
少し難易度が下がったとは言え、この武器は単発式だ。
そして代わりの弾なんてあるわけがないのだから・・・

「一発勝負ってわけか」

手に持った破壊の杖−才人の世界で言うところのロケットランチャー、
の安全ピンを引き抜きながらタイミングを測る。
リアカバーを引き出し、インナーチューブをスライドさせながら、リズムを探る。
チューブに立てられた照尺を立てたとき、仮面の男の魔法がシルフィードを掠めた。
肩でしっかりとランチャーを支え、フロントサイトを目標へと向ける。
エア・ハンマーの魔法がタバサとシルフィードを抉る。
安全装置を解除し機会を窺うべく意識を集中する。
すぐにその機会はやってきた。
なんとか空を飛んでいる程度までダメージを受けてしまったタバサとシルフィードへ、
決着をつけようと仮面の男が一度大きく距離を取ったのだ。

・・・チャンスだ!

迷わずトリガーを押す。
しゅぼっ!と気の無い音が響き、白煙が一瞬でグリフォンの目の前まで駆け抜けた。
ソレに気付いた仮面の男が咄嗟に何かを唱えると同時に、大爆発が起こる。
空気を震わし、大気を壊さんとするかの如く大音量が響き、
爆心地を覆う黒白の破壊の雲から一匹の魔獣と一人の人間が地面に叩きだされる。

それでもなんとかレビテーションを唱えることが出来たのか、
爆発の影響で意識を朦朧とさせつつもゆっくりと地面に落下した男は、
そのすぐ後に繰り出された蹴りを延髄にまともに受け、意識を刈り取られた。

「・・・ちょいと卑怯だが・・・ま、お互い様ってことで」

蹴りを打ち抜いた姿勢のまま、才人はゆっくりと息を吐いた。
コイツが何者だ、とか色々と調べなければいけないことは山ほどあるだろうが・・・、
それでも今はもうゆっくり休みたい気分である。
空から降りてきたおてんばなお姫様を眺めながら、
才人はようやく終わったかと、再び大きく息を吐いた。



「・・・」

言葉もなく才人は気絶した仮面の男を縛り上げている。
初めは仮面を外そうと頑張ったのだが、
魔法で加工しているのか力技では引っぺがせそうになかったので、断念した。
視界の端では、同じようにフーケを縛り上げているタバサが居る。
少し落ち込んで見えるのは、多分、見間違いではないだろう。
そう考えた才人は、ぽりぽりと頬をかきながらタバサの方を向いた。

「タバサっ」

「・・・なに?」

恐る恐るといった感じで才人を見つめたタバサは、それでも平静を装っていた。
才人はそんな彼女にペコリと頭を下げた。

「さっきは・・・ありがとうな。
タバサが助けに来てくれて本当に良かったよ。
さすがにアレはやばかったし」

「・・・ううん。
助けに来たはずなのに、助けられてちゃ世話がない」

「そんなことないぜ。
事実、かなり楽にこいつらを倒せたしな」

そう言って縛り上げた二人を指で示す才人であるが、
タバサはそう気楽には思えなかった。
瞳の奥に落ち込んだ色を残したままの顔で、浅く首を下げるぐらいが精々である。

「・・・ふぅ。
タバサ怪我してるだろ?
ちょっと来い、手当てしてやるから」

「べっ、別にいいっ!」

「ほれほれ、逃げるな逃げるな」

才人は突然の提案に恥ずかしさから逃げ惑うタバサをはっし、
と捕まえ持参していた救急セットを取り出す。
擦り傷だらけになってしまったタバサを間近で見て一瞬しかめ面を浮かべるものの、
すぐさま消毒薬や包帯を取り出すと彼女の治療を始めた。

「・・・サイトは」

始まってしまうと、大好きな人と触れあうのは心地よいものだ。
沁みる薬も、かさかさと音を鳴らす包帯も、
傷の具合を確かめるために腕や足を伸ばしたりされるのだってそうだ。
タバサは先ほどの嫌がり具合は何処吹く風で、才人に身を任せながら尋ねた。

「正直に言って?
私が来て迷惑だった?」

「いや、そんなことはないぞ。
かなり劣勢だったからな。
・・・地下水を貸してしまったことが悔やまれる」

「でも、私は負けそうだった」

「そりゃあなぁ、相手が悪かったし、
そもそも本気の戦闘なんて初めてのようなもんだっただろ?
じゃあ上出来だよ」

「でも・・・」

「それにな、タバサが助けに来てくれて嬉しかったんだよ。
今までずっと一人で戦ってきたんだからな。
タバサを俺の騎士団にホントに入れてやろうかと思ったよ」

「む・・・。
私はとっくに北花壇騎士団に受勲されてるのに・・・」

「ええっ!
そうだったっけ・・・?」

「・・・うん。
一応形式的にはそうなってる」

「そっか。
じゃあ、団員としてこれからも一緒に頑張ってもらわないとな?」

「・・・いいの?」

タバサは才人にじっと視線を向けた。
これまで才人はあくまでも一人で戦おうとしていた。
その方が彼にとっては戦いやすいだろうに・・・。

「ああ、いいさ。
何といっても俺も油断できるようなご身分になっちまったみたいだからなぁ。
ちょっと反省したんだ。
今日だって相手がフーケだけじゃないかもとか、
一応考えて他の武器を持ってくるのが当たり前だったんだ。
それなのに、フーケ対策のゴーレム殺しといつもの剣しか持ってこなかったからなぁ」

「・・・それは、そうかも」

「だからさ、信頼出来る奴が傍にいてくれた方がいいだろ?
フォローもしてもらえるしな〜。
ま、ソイツが護衛対象だってのはちょっと問題だけど、
家族で部下でもあるからな!
だから助けあうもんだ!」

「・・・うん、それでいい」

タバサは、才人の発言にほっとため息をついた。
取りあえず、それでいい。
その先に進むのはまだこれからだ。
治療も終わりをむかえ、最後にタバサの頬にガーゼが当てられる。


「それにしても・・・顔にまで傷をつけてくれやがって・・・。
残らないと思うけど、学院に帰ったらしっかり治癒してもらった方がいいぞ?
可愛い顔に万が一傷が残ったら大変だ」

「えっ!
ええっ!?
か、可愛い?」

顔が火照る。
真っ赤に染まった顔でじっと才人を見つめると、彼は照れたように顔を逸らした。
・・・これは・・・イケルっ!?

「・・・あ、あの・・・私は、
・・・その、い、妹じゃなくっ・・・」

「きゅいきゅいきゅいっ!
サイト、シルフィもいっぱい傷出来て痛いのねっ!
こっちも治療するがいいのねっ!」

・・・ヲイ

「あいたっ!
お、おねえさまっ!
なんでシルフィを叩くのねっ!!
シルフィ今日は怖いの我慢して一杯頑張ったのにこの仕打ちはあんまり過ぎるのねっ!?」

「私だって今日は凄い頑張ったのに、貴女の気の使わなさぶりにはがっかり。
空気読め」

「きゅいきゅい!
何わけ分からないこと言ってるのね!
・・・こうなったら下克上なのねっ!!
このちび助っ、今日こそシルフィの方が上だと思い知らせてやるのね!
そしてご飯を毎食1.5倍にするといいのねっ!!」

「・・・そう。
使い魔の教育が足りなかった。
私が勝ったら毎食半分」

「きゅ、きゅいっ!
お、おねえさまっ!!
今日の所はこれぐらいで勘弁してあげるから減らすのは勘弁してほしいのねっ!?」

「シルフィ弱っ!!」

才人が思わず突っ込みを入れる。
もう先ほどの少し甘さを感じる雰囲気は無くなっていた。
タバサは、はぁ、とため息を吐いてからシルフィードに向き直った。

「私がやってあげるから、おいで」

「きゅい〜」

「なんだかんだで仲良いよな、お前ら」

才人は苦笑を浮かべ、縛り上げた二人に目を向けた。
そして、

「げぇっ!!」

素っ頓狂な声を上げた。

「なに?」

タバサもそちらを向く。
そこには・・・さらさらと崩れる、『土で出来た』人型の姿があった。

「・・・逃げられたか。
まぁ、破壊の杖だけは無事だし、良しとするかな」

才人はそう言いつつも、
学院の人たちになんと言い訳をしようかと考えて気が重くなるのだった。




「全く・・・予想以上だったな」

「そうね、こうして尻尾を巻いて逃げ出しているほどだし」

戦闘場所であった森の広場からかなり距離が離れた深い木々の間で、
二人の男女が立っていた。

「そういえば、依頼主さん。
破壊の杖は置いてきてしまったけど、良かったのかしら?」

「・・・構わぬさ。
有れば有ったで困ることもないが、僕たちには使い方が分からないからね。
そんなものに戦場で命を預ける気は毛頭ない」

「そうかい。
じゃあ約束の依頼料は全て頂けるわけだね?」

「ああ、約束しよう。
王宮に『ガリアの伝説』の力を報告することが我々の任務だからね。
別段、報酬には関係ないさ」

「しっかし、トリステインもアンタのような化け物みたいに強いメイジを飼っているのに、
『ガリアの剣』まで手に入れたいのかね?」

女の言葉に男は仮面を外しながら、少しだけ考える素振りを見せた。
顎髭をなでつけながら、女に向き直って答える。

「そうではないさ。
アレにはエルフをも退ける力があるという噂があってね。
・・・もしそれが本当ならば全く以って脅威だ。
生かしてはおけないほどね」

「メイジの脅威の脅威は、滅ぼすべきだって?
怖いねぇ、お偉いさん方の考えは」

「・・・が、確かに彼は強い、強すぎるが、全く手に負えないほどではない。
これが何を意味するか、分かるかい?」

「・・・さあ?」

「我々でも、場合によってはエルフを打ち倒せるってことさ。
・・・彼の噂がホンモノだとしたらだけどね」

「ふん、それこそ私にはどうでもいいさ。
・・・というより、そこまでベラベラと喋ってしまっても構わないのかい?」

「なに、簡単な話だ。
君にはこれからも僕の下で働いてもらうつもりだからね。
これぐらいの情報共有は当然だ」

「・・・断るって選択肢もあるんだよ、私には」

「断らないさ、君は」

「・・・まぁ、ここまで聞いちゃったんだし。
もう少しは付き合ってやってもいいわよ」

「ほらな」

けらけらと哂う男に、女はやかましい、と恨みの篭った視線を向けた。




才人とタバサは小道を抜け、ロケットランチャーを抱えて馬車に乗り込んだ。
才人が手綱を握りながら、がたがた、
と大きく揺れる整備のあまり進んでいない道を進む。

がたごと
がたごと
がたごと

森を抜け、大きな街道に辿り着くと揺れがある程度収まり、
才人はほっとした顔を浮かべて手綱を握り締めていた手の力を緩めた。
それから、思い出したかのように告げた。

「なぁ、タバサ。
・・・この前のやり直しじゃないけどさ、デートしないか?」

「・・・へ?
ふええええええっっっ!!?」

タバサは荷台に座り込みながら眼鏡をずり落とすほどの絶叫を上げた。
ドキドキと高鳴る心臓の鼓動の音で『がたごと』という音が全く聞こえなくなって、
才人の声も聞こえないんじゃないかと心配で必死に耳を御者台に傾ける。

「い、・・・いいけど。
何処に行くの?」

「トリステインの王都かな?」

「へ?
う、うん、・・・いいけど」

二回目の『いいけど』は少し不安をはらんでいた。
少し嫌な予感がした。

「いやなぁ、武器が足りないんだよ」

続いた言葉にタバサはがっくりと項垂れる。
それから、頭を切り替えてどうせならと、提案した。

「・・・その代わり、私の買い物も付き合って?」

「ああ、いいぜ。
・・・うーん、どんな武器がいいのかなぁ?」

「また喋る武器がいいの?」

「おいおい、そんなのがあちこちに在るわけが・・・。
ま、そうだな。
探してみるのもいいかもしれないけどな」

才人はそう言って笑った。
タバサもそんな性もない武器を探して回るのもきっと楽しい一日になると、笑った。



「へっくし!」

「うをっ!デル公、武器がクシャミすんなよっ!
驚くだろうがっ!」

「俺自身もおでれーたよ。
おでれ〜た〜おでれ〜た〜♪」

トリステイン王都にある城下町。
白い石造りの街の大通りから外れた裏通り。
あまり治安の良くない裏町の一角にある、小さな武器屋。
店のカウンターに座っていた親父が乱雑に積まれた剣の山に向けて話していた。

今日は朝から誰もお客が寄り付かず、暇であった。
さて、このお店に蒼の使い魔が訪れるのは明日か明後日か一週間後か。

(終わり)