本文へジャンプ
main Log information Side Story Gift link

ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第13話』


才人とロングビルを乗せた馬車は深い森の中に入っていった。
鬱蒼とした森は、昼間だというのにも関わらず薄暗く、ホーホーと何かの動物の鳴き声が響いていた。獣道にも近い小道に突き当たったため、二人は馬車を置いてさらに先を目指した。
なんでもこの先には、木こり小屋として以前使われていた廃屋があるらしい。
人通りもなく、町からもそこそこ近いこの場所は、
泥棒の隠れ家として可能性があると判断出来なくはない。

「ようこそ、剣士くん」

案の定と言うべきか。
日の光も入ってこれるほど開けた場所にようやく出ると、
その真中にある小屋の入り口に立ち塞がるかように、黒ローブの男が立っていた。
すらりと背が高いが、全身を黒ローブで覆っているので体格までは良く分からない。
顔を隠すように白い仮面を被っているのでどんな面をしているのかも判別出来ないが、
声と雰囲気で男だろうということは分かった。
そして、ローブの先から見える細身の尖った杖が、
この人物がメイジであることを証明している。

「アンタがフーケか?
わざわざ討伐者を待ち構えているとは、ずいぶんと暢気じゃないか?」

才人は学院襲撃のときとの雰囲気の差異に違和感を持ちながらも、
ソイツに話しかけてみた。
腰に差した二本の剣に手を置き、臨戦態勢を取る。

「いや、僕はフーケではないよ」

くっくっと仮面の奥で笑いながら、ソイツは否定の言葉を発した。
それは本当だろう。
才人はこの目の前の仮面の男は、
先日出会ったばかりのフーケよりも強い力を持つメイジであると感じていた。

「だが、キミたちが探している破壊の杖はこの小屋の中にある。
返して欲しければ簡単な話さ。
僕と手合わせをして勝てばいい」

「手合わせだと?」

才人が疑問を投げかけると、ソイツは杖をフェンシングの仕草で構えてみせた。

「こういうことさ」

「なるほど、分かりやすい」

フーケが何処に行ったかとか、
コイツの目的は何かなど不可思議な点はしばらく置いておくことにして、
才人も腰に差した剣を引き抜き仮面の男と向き合った。

「そこのレディには介添え人をお願いしよう」

ロングビルが微かに動揺の色を見せたように感じたが、
才人にはそれを詰問している時間などはなかった。
ビリビリと痛くなるような殺気を放つ仮面の男から、目を放すわけにはいかない。

「俺は不器用だから、真剣勝負なら死んでも恨むなよ?」

才人がそう言うと仮面の男が声を上げて笑いながら言った。

「構わぬ。
そちらこそ恨むなよ?」



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第13話



才人が一瞬で十メートル以上の距離を跳び、
神速の動きで袈裟懸けに切りかかった。
仮面の男が杖で才人の剣を受け止めると、
がぎぃっ!!、
と嫌な音が辺りに響く。
火花が散ったと思うと、仮面の男が慌てて距離を取った。

「・・・驚いたな。
僕の杖がへし折られそうになるとは」

自分の杖をじっと見つめながら仮面の男が呟く。
隙を逃さんと才人はさらに飛び掛り、二度三度と剣を振るう。
それをなんとかといった感じで受け流した仮面の男は、
後ろに下がりながら反撃とばかりに杖で才人を突いた。
びゅうびゅうと風切り音がするぐらいの鋭い突きが繰り出されたが、
才人はあっさりと潜りぬけてお返しとばかりに剣で突き返す。

何とか杖を振り上げて才人の剣を弾いた仮面の男が再び飛び退り、
態勢を立て直そうと大きく息を吐いた。

「魔法は使わないのか?」

「・・・そうだな。
使わないと歯が立ちそうにないようだ」

仮面の男はうなった。
身動きを妨げる黒いローブを脱ぎ捨て、杖を低くレイピアのように構えた。
そのまま先ほどよりもさらに速い閃光のような突きを繰り返しながら、
低い声で何かを呟き始めた。

攻撃は一定のリズムを持っていたので、なんなく才人はかわすことが出来る。
合間を縫って、切り上げ、なぎ払ったが
分かりきったタイミングでの単発的な攻撃だ。
こちらの攻撃もあっさりとかわされたと思うと、呟きが途切れた。

「エア・ハンマー」

凄まじい風の一撃が才人を襲う。
空気が撥ね、目には見えない巨大なハンマーが
横殴りに才人を吹き飛ばさんと牙をむいた。
そのまま狂風は荒れ狂い、めきめきと辺りの木々を薙ぎ倒しながら、
破壊を撒き散らした。


仮面の男が吹き散らす風でわずかに目を瞑った瞬間、
ざんっ!
と彼の両腕が切り落とされていた。

「・・・ば、馬鹿なっ」

「風の魔法には慣れてるし、特にエア・ハンマーは分かりやすいしな。
見切ることだって結構簡単なんだぜ?」

才人が仮面の男の目の前で剣を振り下ろしていた。
荒れ狂う暴風を潜り抜けて術者の目の前まで突っ込んできたらしい。
多対一なら当然警戒すべき事柄であったが、
うかつにも仮面の男は一対一の状況でそんなことをする奴が居ることなど
思いもしなかったのだろう。
木偶のように立ち尽くしたまま、才人の剣で致命傷を負わされていた。

「なるほど、一対一では魔法を使っても完敗か」

だが、彼は大怪我を負いながらも、痛がることもなく至極冷静に呟いた。

「では、四対一ではどうかな?」

ゆらり、とそのまま仮面の男の身体が風に溶けるように消える。
同時に、つむじ風が才人の四方から舞い上がった。
一つ・・・
二つ・・・
三つ・・・
四つ・・・
気付くと、仮面の男が四人になっていた。

「な、なんだこりゃっ!?」

さすがに仰天した才人が驚いた声をあげる。
風の最高ランクの魔法、『遍在』である。
初めて見た彼ならずとも、ハルケギニアに生きるものであれば、
この仮面の男の才能に驚愕を隠しえないであろう。

「一つだけ言っておこう。
四人ともが分身ではなく、遍在だ。
遍在する風は何処からも現れ、その力も寸分変わらぬ」

言うや否や、二人の仮面の男が突っ込んできた。
残りの二人は魔法の詠唱を始めている。

「く、くそっ!
こんなんありかっ!?」

才人は慌てて下がりながらも、二人の仮面の男と切り結ぶ。
剣の速度も、技のキレも全く遜色がないことに才人は舌を巻きながらも、
さすがに防御に専念せざるを得なかった。
反撃の糸口を掴むことは難しそうだと、考えていると・・・

「ウインド・ブレイク!」
「エア・ニードル!」

後方にいた二人の構えた杖が青白く輝く。

始めに襲い掛かってきた風の塊を大きく後ろに跳んでかわす。
だが二発目は、才人には襲い掛かってこなかった。
前衛二人の杖にくるくると風が巻きついたと思ったら、かすかに杖が振動を始めた。
どうやら杖を中心に空気の渦を発生させているらしい。
これでは、剣で相手の杖を受け止めたら、すぐさま風の渦に切り刻まれてしまうだろう。

「くそっ!?
っていうかホント反則だって!」

才人が愚痴を零すのも分からなくもない状況である。
飛んでくる魔法からは逃げ回るしか術は無く、
その上物理攻撃からも逃げ回るしか出来ないのである。
避けきれないレベルではなかったが、それでもつらいものがあった。

「ふむ、それにしても剣士くんは冷静だな。
もっと慌てふためいてくれても良さそうなものだが」

自分の優位からか、仮面の男が饒舌に話す。
無論、話しているのは一人だけで、残りの三人は次々に才人に剣を振るい、
魔法を仕掛けてきているので、才人にはそんな呟きに言葉を返す余裕もない。
だが、それでも言われっぱなしは気に食わないらしい。
才人は、無理やり二人の仮面の男を剣で横殴りに弾き飛ばしてから言葉を発した。

「こんな状況で堂々と出てきたくせにあっさりとやられちまう方がよっぽど詐欺だろうぜ!」

「なるほど。
それもまた真理ではあるな」

「それにだ!」

飛び掛ってきた二人が放つ『ウインド・ブレイク』をかわしながら才人は言葉を続ける。

「いかにも劣勢な方が勝ったとき、正義っぽいんだよっ!」

「正義など如何様にも変わるものさ。
キミが負ければ、剣士くんは悪になるだろう」

仮面の男は才人の言葉に呆れたように、言葉を発した。
だが、才人はその言葉を待ってましたとばかりに声を張り上げる。

「俺の故郷にはな!
勧善懲悪っていう言葉がある!」

「ほう、どういう意味だい?」

「どうしようもない悪党はどんなに優勢であっても、
最後には正義の味方にぶちのめされる運命にあるって言葉だよっ!」

才人は叫ぶと同時に風よりも速く動き、二体の仮面の男が真っ二つに引き裂かれた。

「なにっ?」
「ライトニング・クラウド!」

残った仮面の男の片方が顔を歪めてうめく。
同時に詠唱を続けていたもう片方が強力なスペルを唱えた。

空気が震え、ばちばちっ!、と男の周辺から才人に向けて稲妻が伸びる。
マトモに喰らえば致命傷に違いない、凶悪な攻撃魔法である。
その雷の舌が才人を捉えんと顎を広げた。

「渡れ!!」

一瞬で才人の身体が沈んで消えた。
その次の瞬間、

ずむっ!!

魔法を唱えた仮面の男の胸から、一本の剣が生えていた。
そのまま、その身体が風に溶けて消滅する。
才人がそれを見届けて、残った男に視線を向けた。

「・・・ほう、どうやらその剣が瞬間移動のカラクリか」

自分以外の三体がやられたというのに、仮面の男は動じることもなかった。

「なるほど、どうやら影から影へと移動する類のマジックアイテムのようだね。
これでいくつかの疑問が解消された。」

「疑問?」

才人の言葉には仮面の男は答えず、大仰に手を振り上げて叫ぶ。

「そろそろお遊びの時間は終わりだ!
決着をつけよう!!」

そして、
ぴゅうっ!
と口笛を吹くと凄まじい速度で滑空して現れたグリフォンに飛び乗った。



才人は窮地に立たされていた。
仮面の男は空を飛び、広範囲に効果のある魔法を幾度と無く放つ。
かわすことも、反撃することも出来ず、ただじっと耐えていた。
突風が起こり、思わずたたらを踏むが、
体勢を崩してしまった瞬間に強力な魔法が飛んできてバッドエンドを迎えてしまうだろう。

いつもなら、地下水に『フライ』を唱えてもらうのだが・・・、
シエスタに貸したままなのが微妙に悔やまれる。
だからと言ってどうなるものでもない。
才人は普段はあまり使わない頭を懸命に巡らせて反撃の機会を窺っていた。

「そうだ!」

何故今まで何も手出しをしなかったのかは分からないが、
才人は一人で来た訳ではなかったのだ。
であるならば、彼女の手を借りるのが当然であろう。

「ロングビルさん、フライの魔法を・・・」

「お断りしますわ」

「えっ?」

ロングビルの予想もしなかった言葉に、才人がぽかんと呆けた顔をする。
そこを狙ったのかのように強風が吹き、才人の身体を吹き飛ばした。

「し、しまっ!?」

ごろごろと転がりながらも、上空を見上げる。
仮面の男が、哂っていた。
仮面の奥にある口が何故か笑みの形に歪んでいるのが分かった。

「さて、その格好からでは反撃も難しかろう?
最後に一つだけ種明かしをしてあげよう」

哂いながら仮面の男はさも可笑しそうに続ける。

「キミが連れてきたその女こそがフーケだよ。
剣士くんは拙い罠に嵌った間抜けな犬といったところかな?」

「拙いとは言ってくれるわね・・・」

「いやいや、これでも褒めているつもりなんだがね。
どうも私は女性を煽てる才能があまりないようだ。
この分では婚約者にも嫌われはしないかと心配でしょうがない」

やれやれ、と肩を竦めている仮面の男は、
それでも自らの性格を改善するつもりはないらしい。
ロングビル、改めフーケも言っても無駄だと思っているのか、
軽く舌打ちをしながらも何も言い返しはしなかった。

「ち・・・、どうやらホントに道化を演じちまったわけか。
それから最初に色々やっていたのはこちらの実力を探っていたってところか?」

「その通り。
そこの女が、瞬間移動のような謎の魔法を受けたというものでね。
試させてもらったよ」

仮面の男は種明かしをしてくれながらも、こちらへ油断なく視線を送っている。
すぐさま仕掛けてこないのは、才人の影を使った瞬間移動を警戒しているのだろう。

もちろん、才人もソレを最後の賭けに使うつもりなのだから、どっちもどっちである。
・・・大事なのはタイミングである。
どうにかタイミングを見計らって、咄嗟に考え付いた作戦を実行できるかどうか・・・。

「ふむ、しかしこうしてにらみ合っていても埒が明かんな」

焦れた訳でもないだろうが、
仮面の男が呪文を唱え始めた。
才人はそれがライトニング・クラウド、
それも幾分かアレンジされ、より強力になった魔法であることに気がついた。

・・・さて、どこに逃げるべきか。
安全を見るならフーケの方に逃げるべきだ。
あの男がどんなに広範囲に設定していても、まさか味方まで黒こげにはしないだろう。
だが・・・、その後は何も出来ずに終わってしまう公算が強い。
であれば、ここは一つ、賭けてみるかっ!!

才人が目を見開き、剣の能力を使うタイミングを見計らう。
そして、仮面の男が詠唱を終えた。

「ライトニング・・・」


そのときである。
風が走った。
仮面の男の風が、熱い、稲妻の風だと言うならば、
このとき吹いた風は、冷たい、氷雪の風であった。

「クラウドッ!」

「アイス・ストーム!!」

雷の嵐が、横殴りの氷の嵐と激しく衝突した。
鋭利な氷の刃にぶつかった雷のエネルギーが辺りに散乱し、
バリバリと嫌な音を周囲に響かせた。
氷のヘビが雷のヘビに絡みつき、
雷の龍が氷の龍を砕かんと小規模な爆発音をそこら中で響かせた。

しばらくの間、びりびりと割れるような悲鳴を大気は発していた。
気付くと、雷の嵐は一筋も残さず氷の嵐に喰い尽くされ、
そして、仮面の男の目線の先には竜に乗った一人のメイジが立ち塞がっていた。

「・・・キミは確か」

渾身の魔法を見事に相殺してみせた風竜を従える年若きメイジに、
仮面の男が感心するような声色で問いかけた。

「私はタバサ。
ガリア王国北花壇騎士、雪風のタバサ。
団長の敵を断罪する一本の剣として、貴方を討伐する」

雪風の少女が、ぴたりと杖を仮面に向けた。

(続く)