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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第12話』



「実はタバサはガリアの王女で、
本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアンだったんだよ!」

「「「な、なんだってーっ!?」」」

「・・・何をしているのですか、あなた方は」

眼鏡をかけ、右手を顔の高さまで掲げつつ左手で眼鏡のブリッジを持ち上げる才人と、
口と目を見開き、わざわざ一直線に並んで驚愕の表情を浮かべる
オスマンとコルベールとギトーの三人を、
ロングビルが冷ややかな眼差しで見つめていた。

「ノリじゃよ、ノリ」

「そうそう、お約束なんだ」

「我々も息ぴったりでしたな!」

「こう言ったことは初めてでしたが、なかなか楽しいものです」

「・・・はぁ」

ロングビルは理解しようとするだけ時間の無駄だろうと結論を下したのか、
軽くため息をついて頭を振る。


「気にすること無い、いつも意味なんてないから」

「そ、そうなんだ・・・」

小道具として使われている眼鏡の持ち主であるタバサが、
裸眼の瞳をぱちくりと瞬かせながらも素っ気無く呟く。
ルイズはまだこのノリには完全にはついていけなかったようで、
呆然と才人たちを見つめていた。

ストーリーも山場を迎えたと言うのにぐだぐだである。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第12話



「・・・まぁ、バカ騒ぎはこれぐらいにして」

ロングビルはこほん、と咳払いをし、
場を無理やり仕切りなおしてから続けた。

「フーケ討伐の件ですが、ミスタ・サイトだけに任せるというのも酷な話です。
私もお手伝いいたしますわ」

そう提案しながらロングビルは魅力的な微笑を浮かべる。
まるで、ようやく欲しかった答えを導くことが出来た生徒に
ほっと胸をなで下ろす教師のようであった。

「ではサイト君、行きましょうか?」

「そうだな、私の風の凄まじさを披露する良い機会だ」

その魅力に対して誘蛾灯に惹かれた虫の如き反応を示したらしい。
コルベールとギトーが一緒について行こうと、
鼻の下を伸ばしながらさも当然のように宣言する。
ロングビルの表情が、
さも更正の機会さえ見当たらない問題児を見る教師のソレに変わったが、
残念ながら盛った本職二人はそんなことには気付かなかった。

「私の技術力の結晶がきっと我々を導いてくれますぞ」

「私の風が襲い来る災厄という災厄から貴女を守り抜くことを誓いましょう」

「何が風だ、私の封印した本当の力の前には塵芥ですぞ?」

「何が封印だ。
邪気眼か、貴様」

ばちばちと恋の鞘当で火花を散らす二人の大の大人を、
二人の生徒が冷ややかに見つめている。

「・・・この先生たちの下で真面目に学んでいたと思うと、
なんだか悲しい気分になってくるわ」

「・・・私も」

互いに同意見だと知るやいなや、
二人は視線を交錯させため息をこぼしあった。


その時である。
会議室のドアがノックされ、一人の男が入ってきた。
がっしりとした体格に鎧兜といういかにも衛兵の格好をした男が、
ロングビルに近づくとひそひそと耳打ちをする。
その男が報告が終えて、
一礼してそのままその場を後にするとロングビルが切り出した。

「オールド・オスマン、独自に調査をしておりましたが、
たった今報告がありました」

「なんとっ!?」

「結果は?」

コルベールとギトーも襟を正し、
学院の教師としての顔をなんとか取り戻して続きを促した。

「はい。
聞き込みをしてもらいましたところ、フーケの潜伏場所の候補が見つかりました」

「なんですとっ!」

あっさりと言ってのけるロングビルにコルベールが驚きの声を上げる。

「ですが、候補は二つあるようですので・・・」

そう言って、ロングビルはちらりと才人を見つめて続けた。

「ミスタ・サイトと私で片方、
ミスタ・コルベールとミスタ・ギトーでもう片方を担当していただきたいのですが」

「・・・二つというのはどういう事かね、ミス」

オスマンが、考え込むような仕草でロングビルに尋ねる。

「ええ、黒ローブのフーケと思われるメイジを近在の農民が目撃したようですが、
そこから先に進んで隠れることの出来る建物はと言いますと、二軒だけです。
ですがその二つの建物はかなり離れた場所にあります。
さらにその先に逃亡されてしまうと捜索が困難になりますから、
少しでも早く事件を解決しなければいけません。
ここは戦力を分散してでも同時攻略に取り組むべきではないかと」

よどみ無く答えるロングビルの話に反論の余地はなさそうだ。
コルベールもギトーも破壊の杖を取り戻すことが先決と頷きを返し、
オスマンも咳払いをして宣言する。

「では、見事フーケを打ち倒し、破壊の杖を奪還してまいれ!」

コルベールとギトーが直立して杖を掲げ、

「杖にかけて!」

と唱和した。


「じゃあミスタ・サイト、私たちも行きましょうか?」
コルベールとギトーが会議室を飛び出していくのを横目に、
ロングビルが才人に出発を促した。

「ええ、・・・とっとと」

答える才人が歩こうとした瞬間、突然足を躓かせた。
その身体をロングビルが慌てて支える。

「ミスタ・サイト・・・眼鏡外したらいかがです?」

苦笑を浮かべながら才人がかけた眼鏡の蔓を指でコツコツと触れてくるロングビルに、
才人は合点がいった、という表情を浮かべた。

「そういえば、ずっと視界がくらくらするなぁ、と・・・」

小道具である眼鏡を今まで身に着けたままでいたらしい。
慌てて眼鏡を外した才人は、
目の前にあるロングビルの顔にドキっ、と胸を高鳴らせた。

眼鏡をかけていたときは視界が歪んで、
こんなに近くに居たとは気付かなかったが・・・、
長い睫毛と艶やかな光を放つ唇に思わず視線が釘つけになってしまう。

「あら、ミスタ・サイト?
そんなに見つめられては照れてしまいますわ?」

くすくすと笑うロングビルの髪からふわりと甘い香りが漂ったような気がして、
ますます才人の心を揺るがせた。

「す、すいませんっ!?」

才人がドモりながらも謝って離れるが、その頬は真っ赤に染まっていた。


「・・・むか」

「・・・ふーん?」

才人がほんわりと先ほどの素晴らしい光景と香りに浸っていると、
殺意の篭ってそうな視線が才人の背中を貫いた。
言うまでも無くタバサとルイズである。
特にタバサは視力の悪い瞳で状況を確認していたことにもイライラしていたようで、
その三白眼気味となった視線は、ぎらぎらと黒い輝きを才人に感じさせた。

「悪い・・・眼鏡返す」

才人は眼鏡をタバサに掛けなおさせて仲裁を試みた。
だが、タバサの機嫌は直らず、
ぷいっ、とそっぽを向いてしまう。

「・・・私は行かないもん」

明後日の方向を見つめながら、拗ねた子供のようにタバサが呟く。
ルイズはいい加減、この王女様も子供っぽいなぁ、
と自分の怒りも忘れ苦笑を浮かべた。

「うーん、それがいいかもなぁ。
タバサがガリア王家だと知られてしまった以上、
爺さんも易々と危険な任務に入れられんだろ?」

「そうじゃな、
わしの首が物理的に飛びかねんしの」

残った教師たちに今後の対応とタバサの処遇を指示していたオスマンから
相槌が返ってくる。
その言葉に才人は軽く頷き、ルイズに声を掛けた。

「じゃあ、行ってくるな?
ルイズ、タバサのこと頼んだ」

「へ?
・・・あ、うん」

「さんきゅ!」

ルイズがこくん、と頷きを返すのを確認すると、
才人は先行して馬車を取りに行ってしまったロングビルを慌てて追いかけていった。

「・・・でもでも、サイトがどうしても私について来て欲しいって言うのなら、
・・・その、頬にちゅ、ちゅー、一回と引き換えで、その・・・」

「タバサ、いい感じの妄想の所悪いけど、サイトもう行っちゃったわよ?」

「・・・へ?」

ようやく明後日の方向から復帰したタバサがきょろきょろと辺りを見渡す。
視界に入ってきたのは、
ちょっと離れた所で会議を続ける教師陣、
目の前で苦笑いを浮かべるルイズ、
それだけだった。

「・・・あぅ」

タバサはがっくりと肩を落として、
それから、ルイズにさっきの独り言は忘れてしまえと念を送った。
多分、効果はなかった。



才人はロングビルを案内役兼、御者に早速馬車で学院を後にしていた。
二人ならそれぞれ馬に乗った方が速く辿り着くことが出来るが、
帰りに破壊の杖を持ち帰ってこなくてはいけない。
必然、馬車が必要になった。

「ロングビルさん、俺がやりましょうか?」

才人が声を掛けると、ロングビルはにっこりと笑って言った。

「いいんですよ、わたくしは貴族の名を無くした者ですから」

「そうですか?
疲れたら代わりますから言ってください?」

貴族の名云々に、全く動じることもなく言ってのける才人に、
むしろロングビルが驚いて話しかけていた。

「あの・・・、貴族の名を無くした、とか気にならないのですか?」

「へ?
あ、ああー。
そういうのはあんま拘らないかなぁ・・・?」

首を捻って考え込む才人を、
振り返った視界に入れたロングビルが別の疑問を口にする。

「では、ちゃんと王女様のフォローは済ませてきましたか?」

「・・・聞かないでくれ」

ちょっとげんなりしたような、心配したようなトーンで喋る才人に、
ロングビルは少し親しみを覚える。
何処でも兄や姉ってのは大変なんだねぇ、と心の中で呟く。

・・・それでも、仕事は仕事だ。

割り切ってやりきることにしよう、と鋭い視線を前方に送りながら、
ロングビルは目的地に向かって馬を走らせるのであった。



一方、学院の学生塔である。
タバサは自分の部屋で窓から外を眺めていた。
その顔にはありありと落胆の色が見て取られ、
事実、先ほどから何度もため息を繰り返していた。
気分を落ち着けようと何度も何度も読み返した本を取り出してみたものの、
両手で抱え込んだままで、全く手付かずの状態である。

「・・・はぁ」

またため息を吐く。
そのとき、窓の外に桃色が見えた。
遠目にも目立つその女学生は、一直線に馬屋に向かっていた。
・・・まさか。

気付くや否や、タバサは窓から外へと飛び出した。
フライの魔法で馬屋の前まで先回りすると、そのまま彼女を待つ。


「・・・何してるの?」

「えっ?」

ルイズが馬屋に辿り着くと同時に、タバサは声をかけた。
誰かが居るとは思っていなかったルイズはぎくりと身体を強張らせた後、
相手がタバサだと知りほっと息を漏らした。

「決まってるでしょ?
サイトを助けに行くのよ、・・・何だか嫌な予感がするし」

真面目な顔でルイズはそう言い放った。

「貴女が行っても足手まとい」

「・・・そうね」

ルイズがあっさりと辛辣な言葉を認めたので、
タバサは驚いた。
タバサの記憶ではルイズはプライドが高く、自分に対する非難など、
例えそれが正しいことであっても認めようとはしなかった。
それが、あっさりと自分の力不足を認めたのだ。

「でも、でも・・・
わたしにもプライドってものがあるの。
ここで何もせずに居たら、
わたしはずっと逃げ続けなくちゃいけないんじゃないかって・・・」

ルイズの言葉は、自分の気持ちを確かめるように断片的な言葉であった。
タバサがその意味するところを理解するよりも早くルイズは言葉を重ねた。

「わたしは貴族よ。
魔法を使えるものを貴族と言うんじゃないことは知ってる。
敵に後ろを見せないものが貴族だって・・・そう思っていた」

タバサはあまり親しくはなかったが、ルイズはやはりそのような印象だった。
負けず嫌いの頑固者。
それがタバサだけでなく、学院生、皆が彼女に抱く感想だった。

「でもアイツと出会って、少し変わったの。
敵に後ろを見せない、じゃなくて・・・
大切な人までその刃を届かせたくないから戦うんだって。
いつでも自分の後ろにはたくさんの守りたい、悲しませたくない人たちが居て、
その人たちのためにあらゆる物に立ち向かうのが、きっと貴族なのよ」

タバサは何も答えることが出来ず、ただルイズの話の続きを促した。

「それでさ、アイツはいい奴なのよ。
自分が戦う理由は、大切な家族を守りたいからだって、
悲しませたくないって、そんなこと言うのよ。
普段はバカみたいにバカなことしてるのに、ホント真面目な顔でさ」

タバサの顔色が変わった。
何か、自分が勘違いしている気がした。
・・・まだ分からないから、ルイズの話に耳を傾けた。

「わたしはそんなサイトを見届けてみたい。
ううん、たださ、負けたくないのよ、
アイツに負けるのがどうしようも無く悔しくて、許せないの」

そう言ってルイズが笑った。
タバサも思わず見惚れるほど、魅力的な笑顔だ。
いつの間にか、ルイズは変わっていた、成長していた。
まだ成長途上ではあるが、それは確かだった。

・・・自分はどうだろう。

タバサはここ最近の自分を省みる。
とても情けなくなった。
ただ嫉妬するか、いじけるか、我が侭を言うか・・・、
そんなことばかりだった。

「・・・これじゃあ、妹呼ばわりでも仕方ない」

タバサは呟いて、
ずっと昔から自分が成長していないことに気が付いた。

助けられるお姫様でいることが嫌だったはずだ、
帰りをただ待つことが嫌だったはずだ、
・・・彼を守りたかったはずだ。
それなのに今の自分はただ彼の後ろにくっ付いて歩くだけで満足し、
ただ我が侭を言うだけの存在だった。

「・・・あげる」

タバサは部屋を出るときにそのまま抱えていた本をルイズに押し付けた。

「・・・え?」

ルイズが突然のタバサの行動の意味が分からず、いぶかしんだ顔をする。

「やっぱり貴女が行く必要はない」

タバサは、はっきりした声で言い放つと、口笛を吹いた。
間も置かず、シルフィードがタバサの真横に降り立つ。
シルフィードをそっと撫でながら、タバサは続けた。

「私が行く。
大切な家族を守るのは、同じ家族の役目。
・・・やっぱり譲れないから」

そのままひらりとシルフィードに飛び乗ると、タバサの口がもう一度開いた。

「ありがとう、ルイズ。
・・・少し成長できたかも」

「今回までは譲ってあげる。
次からは、
・・・そうね、負けないわよ?」

ルイズが言葉を捜すように考えた後、不敵な笑顔を浮かべながら言い放つ。
タバサもそれに応えるように、

「受けて立つ」

それだけ言うと、シルフィードは空を舞った。
ルイズの髪を大きく靡かせながら小さくなる竜の姿をルイズはじっと見つめていた。

タバサから貰ったくたびれた本は、
『イーヴァルディの勇者』
とタイトルがふってあった。



「良かったのかのぅ?」

いつの間にか、オスマンがルイズの隣に立っていた。
突然の呼びかけに驚くこともなく、ルイズはオスマンへと振り返った。

「ええ、わたしが行っても、ほら、足手まといですし」

悔しそうな表情を隠しながらも、苦笑いを浮かべてルイズはさらりと答える。

「ほっほっほ、そうかそうか」

オスマンの年寄り特有の低い笑い声があたりに響いた。

「オールド・オスマン・・・わたしは、
わたしの、まだ見たことさえ無い、
虚無の使い魔に相応しい貴族になれると思いますか?」

さらに少しの沈黙の後にルイズがぽつりと呟くと、
オスマンは、むぅ、と軽くうなる。

「そうじゃの、きっとこの学院の誰よりもな」

ニヤリと年を考えさせない笑みを浮かべて、
何でもない事のようにオスマンは言ってのけた。

「もちろんです。
それも、そう遠くない未来にです」

ルイズはオスマンの答えに、
満足そうに、晴れ晴れとした笑顔で宣言した。

(続く)