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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第11話』


翌朝・・・。
トリステイン魔法学院では、昨夜からの蜂の巣をつついたような騒ぎも収まり、
平穏を取り戻しつつあった。

本塔の前では物見高い生徒たちが、
次から次へとやって来て、壁に空いた大きな穴をぽかんと見つめている。
それを追い返すために躍起になっている、
衛兵と一部の教師だけが忙しそうに立ち回っていた。

しかし、会議室に集まった残りの教師たちは気楽なものであった。
宝物庫に繋がる壁が破壊されたとは言っても、
何も盗まれることなく盗賊が撃退されたのである。
その盗人が今トリステイン中の貴族を恐怖に陥れているメイジの盗賊、
『土くれ』の二つ名で知られる大怪盗フーケであると思われたことから、
むしろ追い返せただけでも満足のいく成果だろうと、
予算に頭を抱える必要のない教師たちは大事件とは考えなかったのだ。

むしろ、強力な魔法で厳重にガードされた本塔の壁をどうやって破壊したのか、
という技術的な側面を早く調査したいのか、
うずうずと落ち着きの無い顔をした教師まで居る始末である。

オールド・オスマンは集まった教師陣のそんな様子を見て軽くため息をついてから、
犯行現場に居合わせた参考人である才人に向き直った。

「さて、ミスタ。
君が呼ばれた理由はもう分かっておるじゃろ?」

「はぁ・・・、昨日のことが聞きたいんですよね?」

ちなみにこの場にはタバサとルイズの姿はない。
かたや内密とは言えガリアの王族、かたやトリステインの大貴族である。
このような釈明の場に呼ぶことでさえ、
下手をすればややこしいことにもなりかねない。
面倒を嫌うオスマンが、さして必要の無い二人をわざわざ呼ぶわけも無かった。


「大きなゴーレムが突然学院の敷地内に現れて、
本塔の壁をゴーレムの物理攻撃で破壊しました」

才人は身振りでパンチを振るう動きをしてみせると、
そのまま説明を続けた。

「その肩に黒いローブですっぽりと身体を覆ったメイジが居ました。
フーケと思われるソイツが宝物庫に侵入する前に
実力とハッタリで何とか撃退したというわけです。
何も盗らずに逃げましたので、深追いはしませんでした」


都合の悪い部分は隠しつつも、昨夜の襲撃の説明を才人が終えると、
教師たちはざわざわと騒ぎ始めた。
焦点は二つだ。
一つは、フーケが学院に侵入する手際が良すぎること。
もう一つは、厳重に固定化された本塔の壁が物理的な手段で破壊されたという、
自分たちの盲点を付かれたことである。

「うむ、私もそれならば、と考えたことはあるが、まさか実行する者がいるとは・・・」
「確かに、トライアングル、いえ、スクウェアクラスのゴーレムであれば可能やもしれません」
「では、やはり、あの恐ろしい怪盗の仕業で間違いなさそうですな」
「それにしても、彼奴はどのようにして侵入したのでしょうか?」
「ふむ、内部に手ほどきをしたものがいたとも考えられます」
「まぁ、なんにせよ、何も盗られてないのだから、良かったではないか」


「お待ちください、皆さん。
そもそも、本当に何も盗まれていないのでしょうか?」


楽観視する教師陣の前に、
オールド・オスマンの有能な秘書として知られるロングビルが
落ち着き払った態度で疑問を投げかけたのであった。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第11話



「どういう事じゃ?
ミス・ロングビル」

「はい、皆様ご存知の通り、
フーケは国中の貴族を震え上がらせている大怪盗です。
そのフーケがここまで大仰に仕掛けておきながら、
何も盗らずに逃げ出すなどおかしな話なのではないでしょうか」

オスマンの疑問に答えるロングビルは一度言葉を切ってから、
さらに話を進めた。

「そもそも、巨大なゴーレムというのは囮であり、
そちらに気をとられている内に、
別働隊に既に宝物庫を荒らされている可能性もあるのではないかと。
プロであれば、目敏く高価な品だけを盗み、
後は巧妙に自分たちの足跡を消し去ることも可能でしょう。
ですから、取り急ぎ何も盗まれていないことをきちんと確認した方が良いでしょう」

彼女の意見を聞いたオスマンは少し悩むような仕草をしてから、
特に問題を見つけることは出来なかったのであろう。
すぐに顔を上げて宣言した。

「まぁ、特に異論はないの。
・・・ミスタ・コルベール!
君は宝物庫の中にも詳しかったろう?
マジックアイテムや宝物の照合をしてもらおう!」

「ええっ?」

「では、私もお手伝いいたしますわ。
よろしいですか、オールド・オスマン?」

「そうじゃな、以前に作ってあった目録を渡すからそれを参考に二人で照合してくれ」

「ええっ!?」

とんとん拍子に決まる話の途中で挟まれた学院の中堅教師、
コルベールの叫びは、
先と後とで全くニュアンスが異なっていた。
すなわち、最初のは
『なんで私がそんな面倒くさいことを』
であり、
後のは
『ミス・ロングビルとお近づきになれるチャンス、ラッキー!』
であった。

見るからに浮き足立った様子のコルベールをちらりと見つめたオスマンは、
悪戯を思いついた小僧の様な目つきで才人を見た。
才人と目が合うと、同じことを考えていたのか、才人はこっくりと頷いた。

「そういえば、ミスタ・サイト。
お主も宝物庫の中を一度見たいと言っておったな。
どうじゃ、手伝ってくれるなら着いていってくれても構わんぞ?」

「ええっ!
本当ですかっ!?
いやーっ、嬉しいなぁ。
よろしくお願いしますねっ!
コルベール先生、ロングビルさん!!」

「あ、ああ・・・、
宜しく頼むよ・・・はぁ」

白々しい態度で大仰に驚く才人を悲しげな目つきで見つめていたコルベールに、
オスマンと才人はニヤリと、してやったりの表情を浮かべた。
純情な中年の数少ない楽しみを奪う悪党であった。




「それでは宝物庫の中に入りますぞ」

先頭に立つコルベールはそう宣言すると、巨大な鉄で出来た扉を見つめた。
続けて懐から鍵を取り出すとドアのサイズに見合った、
大きな閂についている錠前をかちりと開ける。
才人はコルベールが閂を外すのを確認してから、
扉に力を込めてゆっくりとドアを開け放った。

「さて、ここには魔法学院成立以来の秘宝が収められておりますからな。
作業は慎重にお願いしますぞ」

コルベールは神妙な顔つきで才人に向き合い、
才人も珍しく生真面目な顔でこくり、と頷き返す。
そんな二人を呆れた顔でロングビルが見つめていた。

「慎重も何も壁に開いた穴のせいで、ただでさえ狭苦しく、
乱雑に物が置かれた室内は恐らく、ぐちゃぐちゃになっていると思いますわ?
衝撃に弱いものなどは壊れている可能性もあると思いますし・・・」

そう言って、宝物庫のリストとは別に破損物品用に用意した
白紙の表が挟まったファイルを開いてみせるロングビルだが、
残りの男二人は聞く耳も持たずノリノリであった。

「さぁ、サイト君。
この巨大な迷宮に立ち向かう気力は充分か!
体力は蓄えてきたかっ!?
ここにあるのはお宝か?
あそこにあるのはガラクタか?」

「コルベール隊長!
ご指導ご鞭撻の程、おねがいっ・・・うわっ!
早速トラップです!
明かりを灯したら、謎の反射源から凄まじく眩しい光がっ!!」

「それは私の頭の光だよ、サイト君。
あっははははは!」

「わっははははは!」

「・・・アホだ、コイツら」

さり気なく地が出まくっているロングビルであった。
私の気力が尽きるわ、とげんなりとした顔でため息を吐きつつも、
気を取り直して今も何とか探検隊のノリで会話を続ける二人の間に割って入っていった。

「ミスタ・コルベール、ミスタ・サイト。
お遊びはそれぐらいにして早速作業をお願いしますわ。
この量ですから、
下手をすれば一日がかりになってしまいますよ?」

「おおっ、そうでしたな!
すいません、すいません!
年甲斐もなくはしゃいでしまいまして!」

「そうだぜ、先生、恥ずかしいぜ全く」

「それは私の台詞です」

このメンバーで大丈夫かしら、とロングビルが真剣に考えつつも、
兎にも角にも、ようやくリスト作りが始まったのである。


コルベールが一品ずつ判定して、
ロングビルがリストと照合して既定の場所に戻す。
才人は倒れた書簡や棚を持ち上げ元々あったと思われる場所に戻しつつも、
明らかに壊れているアイテムを『後で判定するよ箱』にぽいぽいと投げ入れていた。
作業が始まると、全員黙って作業に従事していた。
何しろ量が半端ないのだ。
遊んでいる暇もない。


そんな風に黙々と仕事をこなし、時計の針が昼を廻ろうかという頃、
ロングビルが目頭を押さえて休憩を切り出した。
才人とコルベールもいい加減疲れていたので、
あっさりとその意見に同意し、昼飯タイムが始まった。

「このペースでしたら3時前には終わりそうですな」

ロングビルが用意してくれたサンドイッチをパクつきながら、
コルベールが作業の進捗を判断する。
ロングビルもパラパラとリストを埋めたファイルを眺めながら、
それに頷いてみせる。
才人はずずずっ、と紅茶を飲みながら疑問に思っていたことを切り出した。

「そういえば、この宝物庫には破壊の杖というもの凄い秘宝があるって聞いてますけど、
それは確認しなくていいんですか?」

「ああ、そうだね。
一番奥にあるから後回しにしていたけど、
どうやら盗まれている物は一つもないみたいだし、
ご飯を食べ終わったら見に行ってみようか」

壊れてしまったガラクタは数あれど、
高価なアイテムはさすがに頑丈らしく一つも壊れているものは見当たらなかった。
そんなこともあって、お気楽なムードが流れる中、
彼らはまったりと食事を続けるのであった。


昼食後、コルベールの案内の下辿り着いた、
破壊の杖が保管されている場所に才人は立っていた。

「お、おい・・・?
これが・・・破壊の杖か?」

「ん?
そうだよ、これがオールド・オスマンの秘宝中の秘宝、破壊の杖だ」

才人は震える手と足を総動員して、じりじりと破壊の杖に近づいていった。
もうずっと昔の記憶に見たことがある。

・・・あれは確か、社会科見学か何かだったろうか。
・・・それともテレビだったろうか。
・・・漫画か何かだったろうか。

ああ、どこで見たかなんて関係ない。
これは・・・

「ロケット砲だ・・・」

かすかに残った、元の世界の記憶。
子供心に印象に残っていたこの武器は、見間違えようになかった。

「ん?
何か言ったかね?」

「いえ・・・、なんでもありません」

コルベールの問いにふるふると首を振って、そっと手を伸ばす。
恐らく固定化の魔法が掛けられているのだろう。
コルベールは咎めはしなかった。

「冷たい・・・ですね」

「ん?
ああ、ソレは鉄のような金属で出来ているようだからね。
しかし、驚くべき合金の技術を誇っているんだ。
現行の技術では、とても再現できそうにない」

触れてみて、使い方が分かると余計に感慨が沸いてくる。
同郷のよしみか、親近感さえ覚えてしまう。

「ははっ・・・、オマエも異邦人か・・・?」

「異邦人・・・?
サイト君、キミは一体何を・・・?」

コルベールがいぶかしんだ顔をしたと思ったら、
かすかに、

ちりん

音が聞こえた。

はっとして才人が顔を上げると、ほぼ同時にコルベールが辺りを警戒するように、
鋭い視線で音のした方向へと睨みをきかせていた。

ちりん

もう一度音が聞こえた。

「し、しまった!!」

今度ははっきりと聞こえた音色を確認したコルベールが驚愕の声を上げた。

「これは、眠りの鐘だっ!?
才人君、逃げ・・・っ」

「く、くそ・・・、こりゃ駄目・・・」

才人とコルベールの意識が、ぶつん、と電源の切られた機械のように吹き飛んだ。
どさどさ、と音を立てて重なり合う二人を、
片手で眠りの鐘を掲げ持った一つの影がじっと見つめていた・・・。


「ミスタ・コルベール!
ミスタ・サイト!!」

ゆさゆさと肩を揺すらされる感触で、目覚めた才人が見つけたものは、
自分を起こそうと声を張り上げるロングビル、
すやすやと眠るコルベールの顔、
そして、壁にでかでかと貼られた

『破壊の杖、確かに領収いたしました。
土くれのフーケ』

という犯行声明文であった。




「・・・それでまんまと破壊の杖を盗まれたというわけかの?」

「・・・はい。
力及ばず、申し訳ありません・・・」

コルベールが頭を下げるのを見つめながら、
学院長は軽くため息を吐いて言った。

「良い良い・・・とは言えんが、
眠りの鐘など使われては仕方なかろう。
壁の穴に見張りに立たせていた衛兵に教師もぐーすか眠りこけておったしの」

「すぃません・・・」

見張り役の当番であった、シュヴルーズが情けない声をあげた。
結局、昨夜は何も盗まれてはいなかったものの、
改めて今日、白昼堂々と破壊の杖を奪われてしまったのだ。
再び召集された教師たちは一様に厳しい顔つきで、矢面に立たされた
コルベール、シュヴルーズ、ロングビル、そして才人を見つめていた。

「ふむ、そこの少年。
キミがフーケではないのか?」

そんな中、教師の一人からそんな発言が飛び出した。
彼が言うには、
昼の時間帯に誰にも見咎められずに学院に入って出て行くなどとは考えづらい、
ということは内部犯行である可能性が高いが、
学院でしっかりと身元を調査しているはずの3人は間違いなくシロだろう。
となると、消去法で一番怪しいのは才人だと言うことになる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!
爺さん!
アンタからも何か言ってやってくれ・・・」

「そう言えば、貸しがあったのう」

才人が抗議の声を上げようとしたその時、
ぼそりとオールド・オスマンの口から囁きが漏れた。

「ぐ・・・ぐぅ、そこでそれを持ち出すのかよ・・・」

「ふぉふぉふぉ。
使えるものは何でも使うのが年寄りの役目じゃからな。
それにお主も騎士ならば、
己に降りかかった火の粉ぐらい、己で払えるじゃろう?
むしろ、汚名を返上するまたとない機会だと思わんかい」

「くそっ、分かったよ・・・。
俺が犯人じゃないことを証明するために、
本物のフーケを捕まえて破壊の杖を取り戻してやる!
それでいいんだろっ!?」

飄々と言ってのけるオールド・オスマンに、
才人が噛み付きながらも身の潔白を晴らそうと宣言した。
それを聞いて、にんまり、と笑みを浮かべたオスマンが
フーケ捕縛を才人に命じようとした、その瞬間!


ばんっ!!


大きな音を上げて、会議室の扉が解き放たれる。
そこには、盗み聞きをしていたのだろう。
肩を怒らせたタバサとルイズが立っていた。

「どういうこと?」
「どういうことよっ!」

教師たちが大勢詰め掛けている中、
二人は臆することも無く声を張り上げた。

「サイトは私の護衛。
サイトを疑うということは・・・、私を、
シャルロット・エレーヌ・オルレアンを疑うということ」

「わたしもサイトを信じるわっ!
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールを疑うのっ!?」

「・・・ルイズは関係ないから、黙ってて」

「別に信じるだけなら関係ないでしょっ!?
サイトに居なくなられたらわたしも困るのよっ!!」

ぎゃあぎゃあと関係ないところで喚き始めた二人であったが、
教師たちはタバサの爆弾発言に、ぽかん、と言う顔をするのに夢中で、
それ所ではなかった。

「ガリアの姫殿下・・・?」
「そういえば、あの青い髪は・・・」
「時折見せる高貴な振る舞いから私は以前から疑っておりましたぞ」
「私の方が早くから確信しておりましたな」

ざわざわとやかましくなり始めた彼らの弁に、
才人は軽くため息を吐いた。

「あー、タバサ。
何爆弾発言してやがる」

「・・・だって」

ルイズと口喧嘩をしていたタバサであったが、
周りの様子にようやく気付いたのだろう。
才人の呆れた口調に対して、
タバサは眼鏡をいじって才人と視線を合わせないようにしつつも、
ぶすっとした声を上げた。

「だって、じゃない。
全く、これどうフォローすりゃいいんだよ・・・」

げんなり、とした顔をしたまま才人はため息を吐いた。

「まぁ、とりあえずこのアホ教師たちはワシがなんとかするから、
おぬしは破壊の杖取り戻してきてくんない?」

もう威厳もへったくれも無く、オスマンが投げやりな口調でそう言った。

「おう・・・。
フーケ討伐にいってくるわ」

カッコよく決められるかと思ったのに、
ままならんなぁ、と思いつつ才人は旅立つのであった。

(続く)