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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第10話』



「おーい。
本気か?
お前らーっ!?」

才人は情けない声でそう怒鳴ったが、
下でどちらが先行かを言い争っている二人は返事もしてくれない。

「きゅいきゅいっ。
おねえさまに苛立ちをぶつけられた今日一日の意趣返しなのねっ!」

残念なことに相手をしてくれるのは、
物騒なことを小声で宣言してくれたシルフィードだけだ。

「というか、お前は何故小声なんだ?」

高さ数十メートルはある本塔天辺のすぐ脇を、
くるくると旋回するシルフィードの手にはロープが握られている。
そのロープの先には、ぐるぐるに縛られすまき状態で吊るされた才人が、
ぶらぶらとシルフィードの進行方向にあわせるだけの、
嬉しくもない真夜中の空中散歩を強要されていた。

「きゅい。
おねえさまから喋っているところを人に見せないように、と言いつけられているのね。
万が一にもあの桃色の小娘に聞かれないように、
この偉大なる古代種の配慮なのね、きゅい」

律儀に答える伝説の韻竜だが、
生憎オマエが隠そうとしているあちらさんも伝説だ。
それもこの何かと偉そうな幻種よりもレアだろう。
まぁ、それが隠さなくていい理由になるかっていうとそれは別の話ではある。

「だけどなぁ・・・」

才人は改めて、地面を見下ろして言った。

「あいつら、絶対何も聞こえちゃいないぞ?」

「きゅい?」


「このちびっ!」
「発育不良!」
「ひんにゅー!!」
「マイクロ胸!!」
「ちんちくりん!!!」
「3サイズ一緒!!!」


ギラギラとにらみ合う二人は、
なんと言うか・・・、どうしようも無いほど低レベルな争いだ。
さらにヒートアップして、ぎゃいぎゃい、と騒ぎ立てる二人は、
こちらから言わせてもらえれば・・・

「きゅい。
どっちもどっちなのね」

「ごもっとも。
どんぐりの背比べだ」

才人とシルフィードは自分のプライドを切り売りして罵りあう少女たちに、
深くため息を吐いて憐憫の視線を向けるのであった。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第10話



そんな生暖かい視線に晒されているとは露知らず、
一通りの口げんかを終えた二人はようやく落ち着いたらしい。
タバサがいつもの調子を取り戻し、杖を本塔の上空に持ち上げて言った。

「あのロープを魔法で切って、サイトを地面に落とした方が勝ち。
勝った方が優先権を得る。
それでいい?」

「わかったわ」

ルイズはじっと空を旋回する竜を見つめて、硬い表情で頷いた。

「使う魔法は自由。
さっきの口げ・・・ごほん、話し合いで、貴女が先行」

「そうね」

さっきまでのハイテンションをは打って変わって、
急に真剣な表情を浮かべたルイズにタバサは首をかしげた。
彼女の魔法の失敗例ぐらいは何度も身を持って体験していたが、
だからと言って『ゼロ』という蔑称の通り、全く魔法が使えない、
なんてことはないとタバサは思っていた。

使う魔法は自由なのだから、コモンでもなんでも良いのだ。
いや、そもそも、彼女にとって才人がどういう存在だかは知らないが、
ここまで肩入れする必要があるのだろうか?
一度頭が落ち着いてくると、ルイズの必死さがどうも腑に落ちない。
彼女は典型的な貴族主義だったはずで、
魔法の使えない才人を認めること自体が良く考えると信じられないことだ。

「じゃあ、いくわよ」

ルイズの言葉にタバサは思考を中断して、そちらに意識を向けた。
どちらにしろ、魔法は精神力の強さ。
今からルイズが唱える魔法で、彼女の真意が分かるだろう。


エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・・・


ルイズの中をスペルが巡っていた。
先ほど覚えたばかりだと言うのに、
生まれたときからこのスペルを、
この唄を知っていたかのような懐かしさを覚える。
もしかしたら、このスペルはルイズにとって子守唄のようなものなのかもしれない。
一音一音呟く度にルイズの中で、
集まってきた力がぐるぐると回転して強くなっていくのを感じる。
ドキドキと高まる心音の中で、反して意識はどんどんと研ぎ澄まされていく。

すぅ、と杖を旋回する竜と吊るされた才人のちょうど中間、
ロープがある位置に来るよう持ち上げた。
ルイズという名の器に満たされた力はうねりとなって、
さらに大きな力を欲さんと自然とルイズに続きのスペルを連想させた。
でも、ダメだ。
ルイズはぎり、と歯を食いしばり破壊のイメージを追い払う。
代わりに、短い時間だったが、楽しかった今日の魔法の練習を思い出す。


私の・・・
魔法は・・・
ここにあるっ!!


普通の系統魔法よりは少しだけ長い詠唱を終えたルイズが、
宙の一点を目指して、
杖を振り下ろした。


魔法を唱えるルイズの様子を横目で見ていたタバサは、
発動した魔法を見て驚愕の表情を浮かべた。
シルフィードと才人のすぐ傍に、現れたのは光の球だった。
小さいながら、火ではない、他の何か強大な力を連想させる眩さだ。

球が、弾けた。

タバサの視界を覆いつくすような光が辺りを満たした。
音は無い。
タバサは咄嗟に目をつぶり、さらにその上から腕で両目を庇った。
そうしなければ、目が使い物にならなくなるんじゃないか、と錯覚したほどである。
光が消えた後に恐る恐る開いた視界には、
シルフィードと才人がなんとか宙を旋回しているのが見えた。

「はずしたっ!?」

ルイズの叫び声が聞こえたが、正直それどころではない。

アレは・・・虚無だ。
何度かジョゼフ王の虚無を見たことがあったが、
アレと似たようなものがあったことを思い出す。

タバサはようやく才人がルイズを気にかける訳を知った。

それならば、才人が自分に説明を躊躇うのも分からなくもないし、
不安定なルイズを優先してしまうのも理解は出来る。
理解は出来るが・・・それでも、自分が放って置かれることに納得は出来ない。
うん、取りあえず勝負に勝って、私が主導権を握ろう。
ルイズをどうすべきかは、その後だ。

「次は私の番」

タバサは絶対の自信を持って、ゆっくりと呪文を唱え始めた。



「でだ、シルフィード。
タバサはそんなに、その、アレだ、
機嫌が悪かったのか?」

話は少し遡って、ルイズが呪文を正に唱えんとしていたときのことだ。
才人は真上を見上げて、シルフィードに問いかけている。

「きゅいきゅい。
ストレスでご飯も喉を通らないかと思ったのね。
おねえさま、ずっと同じ本の同じページをいつまでも睨み続けているし、
シルフィが声を掛けると絶対零度の視線が返ってくるのね。
アレは前世が雪女だったに違いないのね」

きゅいきゅい、と尚もシルフィードは勝手な言い分を並べ立てるが、
それでも言いたいことはよく分かる。
話半分で聞いても、あまりよろしくないことには違いない。

「そっかぁ・・・。
ここんとこ、本当にタバサの相手してやれてないからなぁ」

「きゅいきゅい、おねえさまの機嫌が悪いとシルフィがつまらないのね。
そうだ、サイト!
オマエ、おねえさまの恋人になるのね!
おねえさまにはサイトみたいな気さくで陽気な考えなしがあってるのね!!
そうすれば、おねえさまはいつもご機嫌で
シルフィも面白い話が聞けるだろうから退屈しないのね!!」

「考えなしってなぁ・・・」

才人はシルフィードの歯に衣着せぬ言い方に、
自分はそこまでアホなのかとげんなりとする。

「でもま、もっとタバサのことを気にかけてやらんとなぁ」

恋人云々はともかく、
タバサがいつもご機嫌でいられるようにしたい、
というのは才人も大賛成だ。

「きゅいきゅい、そう言われるのが嫌なら、もっと精進するとい・・・」
「ん・・・」

シルフィードの声が途中で止まったので、どうしたのだろう、
と上を見た才人は、真横の壁を呆然と見つめているシルフィードに気付いた。
才人もシルフィードの視線を辿り真横に視線を向けた。
滅茶苦茶眩しい光の球がすぐ傍で輝いている。

「げ・・・」
「ひっ・・・」

才人とシルフィードが恐怖の声をあげた。
その瞬間、光の球が一瞬膨らみ閃光が弾けた!!


光が収まってみると、驚くべきことに才人は無傷であった。
本塔の壁にはあちこちに大きく亀裂が入り、
パラパラと細かな壁のカケラが地面に落ちていっているのが分かる。
才人の服と結ばれたロープは焼け焦げてぷすぷすと異音を放っているが、
それでも才人自身、それからシルフィードも全く怪我を負った様子はない。

「無生物だけの破壊・・・?」

直撃を受けなかったから、という理屈ではないだろう。
ルイズが恐らく『そうなるように』魔法を組んだということか・・・。
彼女の虚無の魔法のセンスは、なかなか悪くないようだった。

「きゅ、
きゅい、
きゅいーーーーーーーっ!!」

突然の叫び声に才人は何事かと上方へ視線を向けた。

「お、おいっ?」

「きょ、きょきょきょきょ、虚無の魔法なのねっ!?
こんな禍々しいの、き、聞いてないのねっ!!
怖い、怖い、怖いのねーーーーっ!?」

「ってこらっ!?
危ないっ!
斜めに飛ぶな!
ぶつかるっ!
塔にぶつかっ!?」

シルフィードは叫ぶだけ叫んだと思ったら、
今度はパニックに陥ったのか、
じぐざくと飛び、繋がれた才人は遠心力に従ってぶんぶんと振り回された。
そして、ついに塔の壁に才人がぶつからんとしたその瞬間、


ぶちっ!!


タバサの放った氷の矢が才人とシルフィードを結ぶ、
ロープを断ち切った。

辛うじて塔との激突は避けられた才人であったが、
まだ危機は続いていた。
今度は地面に激突する危険だ。
とは言え、両手が使えない才人にはどうすることも出来ず、
ただタバサを信じることしか出来そうに・・・


とさっ


と思った矢先、ちょっと固めの土の地面にぶつかっていた。
結局、ほとんど落ちていないから、
ちょっと痛い、ぐらいで済んだが・・・これは・・・?
才人は状況を理解するよりも先に、身動きを取れるように縄を解こうとして、


ぎちっ!


今度は地面が才人を握り締めた!

「へぶぅ!
って、ご、ご、ゴーレムっ!?」

才人の下にあった地面は、巨大な土ゴーレムの手のひらであったようだ。
いつの間にか、土ゴーレムがぬぼーっ、とその巨体を持ち上がらせていたのである。
だが、才人を救うために作ってくれたにしては、どうも様子がおかしい。
そもそもレビテーションでも唱えてくれれば良いのだし、
助けた才人を握り締めて逃がさないようにする必要も無い。

・・・ということは?

才人がきょろきょろとゴーレムの周囲を見渡すと、
肩の上に人が立っていた。
頭からすっぽりと黒いローブに身を包んだいかにも私は悪人です、
と宣言しているような出で立ちである。
しかも、目の前の本塔の、確か宝物庫がある辺りにじっと視線を送っている。


どうやら、学院の宝物庫を狙う賊のようであった。
となればやる事は一つである。


「きゃああああ、たすけてぇーーーー?」


一度囚われのお姫様というヤツを体験してみたいと思っていた才人は、
これ幸いにと裏声で叫んだ。
がくり、と黒ローブの肩が沈んだ。

「緊張感のない奴だねぇ・・・?
まぁ、いいさ。
こっちはこっちの仕事をさせてもらうだけだからね」

そう呆れた口調で言ってくるところから、どうやら話が通じる相手のようではあった。
しかし、さすがはと言うべきか、
そう簡単に才人のペースに流されることもなく自分の本題に戻っていった。

「しかし、見事にヒビだらけだねぇ。
初めて見る魔法だったけど、どんな手品を使ったらこんなんなるんだろう・・・ね!」

言葉と同時にゴーレムの才人を握っていない方の拳が
ヒビだらけの壁に打ち下ろされた。
あっさりと壁が崩れたのを見た黒ローブは、苦笑を浮かべているようだった。

「全く、本当に何をどうしたらこんなに出来る?
そこの辺りを聞きたいところだけど、・・・そう長居もしてられないし」

黒ローブは軽口を叩きながらも、
自分が開けた穴が宝物庫のある場所だと確認を進めている。
このままでは、すぐに宝物庫に侵入され、お宝を奪われてしまうだろう。
どうやら、相当手馴れている常習犯らしく手早く侵入の準備が行われていた。
今度は他に魔法の罠がないかの探査を始めた黒ローブに、
才人の声が被さった。

「待て待て、その前に俺を解放してロープを解いてくれ。
さっきから頭がかゆくてしょうがないんだ!」

「くっくっく、なんだいそりゃ?
ホントフザけた奴だね」

「ああ、かゆいっ!
かゆすぎるっ!?
というか、一度意識したかゆさは、ああ、もうどうにも止まらないっ!!」

「ああ、もう、うるさいね!
もうちょっと待て!
こっちの仕事が済んだら解放してやるからそれまで黙ってな!!」

「・・・や、優しくしてね?」

「何言いだすんだい!!
解放してやるけど、私が掻くなんて言ってないだろうが!?」



なんだかいつの間にか上空で始まったコントのような様子を、
地べたで見ていたルイズが呆然と呟いた。

「アイツ、何やってんの・・・?」

「もちろん、全部本気。
あの盗賊の目を完全にこちらから逸らすのが目的」

ルイズはタバサの言葉にハッとした顔をして、呪文を唱えようとして・・・

「貴女じゃ無理」

タバサに止められた。

「狙いが甘いから無理。
それに何より・・・私がその役目を譲ることが、
ありえない」

ルイズが自分の眼差しに圧されて、
杖を下ろすのを確認したタバサがスペルを唱える。

唱えるのは・・・彼女の最も信頼する氷のスペル!



「アンタ、いい加減にしないとこのまま握りつぶすよっ!」

いつまでもとぼけた様子の才人を睨みつけ、
ゴーレムに指示を出そうとした黒ローブは、
地面から飛んでくる氷の矢に気付いた。
氷の矢・・・?
違うっ!?
この距離であの大きさってことはっ!!


ずがんっ!!


太く、鋭い、
全長3メートルはあろうと言う氷の長大な槍がゴーレムの肩口に食い込んだ。

大きな衝撃が肩に立つ黒ローブに伝わった。
黒ローブはゴーレムから振り落とされないようにしがみついた瞬間、
さらに四本の槍が一本目の槍が突き刺さった箇所に正確に命中するのを目撃した。

続けざまに四回続けて伝わってきた振動がようやく収まった、
その時には、
ゴーレムの才人を握っていた片腕が根元から消失していた。
それどころか、砕かれた肩口は分厚い氷で覆われ、
腕を再生させることもおぼつかない有様である。

捕まっていた才人は、
崩壊した土ゴーレムの片腕からなんとか脱出した後、
助けに入ったシルフィードに跨り剣を構えていた。


黒ローブは、自分と同じ高さにいる才人を牽制しながら、
遥か下方にいる、青いメイジに忌々しげな視線を送った。
それが伝わったというわけではないだろうが、
タバサが黒ローブに向けて杖を向けた。

「大人しく捕まったほうが身のため」

小さな少女であるはずのタバサがやけに大きく見えると黒ローブは感じた。
全く、と心の中でため息を吐く。
ああいう育ちの良さそうな貴族を見ると萎縮しちまうのは、
もうどうしようもないサガなのかねぇ・・・。

「次は本気で行く。
命の保障は出来ない」

ハッタリだ、と思いつつも否定出来ないのは、
タバサの淡々とした声に本気が込められているようにしか聞こえないからだろうか?

「エターナルフォースブリザード。
一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる。
相手は死ぬ」

抑揚の無い言葉を重ねる青いメイジの声が耳にこびりつく。
そんなスペルがあるわけない。
だが万が一・・・?
焦りを見透かされたのか、勝機と見たのかシルフィードからブレスが放たれた。
黒ローブは慌てて回避行動を取るが、
すぐ真横を走る光のブレスでローブがちりちりと焦げたような匂いを発した。

その瞬間、黒ローブの姿が消失した。
学院の外れ、
魔法で常時点灯している灯りで煌々と照らされている地面の上に、
黒ローブは一瞬のうちに移動していた。

「な・・・?」

ぎょっとした声を浮かべた黒ローブは慌てて、自分の顔を覆った。
暗闇ならばともかく、
こんな光のある場所では、自分の正体がばれる可能性があると思ったのだろう。
それに、数十メートルもの距離を突然移動したが、それもどうやったのか分からない。
先ほどから、次から次へと予測不可能な事態が襲い掛かってくる。
この分では、エターナルなんとかも本当にあるのかもしれない、とすら思える。

「く、くそっ!
この借りはいつか返してやるからねっ!!」

この状況では目的を達成することが出来ない、
それ所かお縄についてしまうことも有り得ると判断した黒ローブは、
そんな捨て台詞を残して、慌てて逃げ出していった。



ルイズは目を白黒させてタバサを見つめていた。
さきほどのタバサが使った高位スペルのジャベリンの五本連打も驚いたが、
その後宣言したエターナルなんとかという魔法は、
効果を聞いただけでも正直信じられないぐらい凄まじいものだ。
もしや、タバサも虚無の使い手なのだろうか、と少しだけ期待を込めて聞いてみた。

「ねぇ、そのエターナルなんとかって、どんななの?」

「・・・そんなの冗談。
使えるわけないし、使えると思うほうもどうかしてる」

しれっと答えるタバサにルイズはちょっとだけ黒ローブに同情したくなった。

(続く)