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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第9話』


ハルケギニアの社会、
特に貴族たちの暦では『虚無の曜日』と呼ばれる休日が存在する。
それは貴族の子弟たちが通うトリステイン魔法学院でも例外ではなく、
何が言いたいかと言うと、本日の授業はお休みであった。

タバサは才人とともにシルフィードでラグドリアン湖までお出かけの予定である。
朝も早い時間から二人で寄宿舎の廊下を歩いていると、
雲ひとつ見当たらないほどの晴天が窓越しに見える。
隣の才人はまだ眠いのか歩きながらも、欠伸を一つ。
この暢気そうな顔を驚かせてやるために召喚の儀式の翌日から、
シルフィードと空中戦の特訓を重ねてきたのだ。
湖はかなり広いからちょっとした模擬戦くらいだって出来るだろう。
今日こそ彼を負かしてやろうと、タバサは心の中でひそかにガッツポーズを決める。

それにしても絶好のお出かけ日和である。
常春で温暖な気候のハルケギニアとは言え、
出かける日に天気が良いのは単純に嬉しい。
まるで、空も自分たちのことを祝福してくれるかのような感慨を覚える。
・・・って、別にデートに行くわけでもないんだから、
それは・・・とは言え、思うだけなら自由、自由。

ちょっとだけうきうきとした気分で、今日はシルフィードにも奮発してあげようか、
・・・と食べ物にやけに五月蝿い使い魔にも幸せをお裾分けしてあげようかと考える。

「お、タバサ。
今日はやけにご機嫌だな?」

才人がタバサの微妙な表情の変化に気付き、声を掛けてきた。
無表情な上、眼鏡のせいでさらに表情が分かりにくいタバサであるが、
その奥の目がキラキラと輝いているのと口元がわずかに綻んでいるので、
慣れれば結構分かりやすかったりするのだ。
無論、本人が隠そうとしているときはその限りではないのだが。

「今日こそ一本取ってみせる。それで今後は勝ち越し」

「ふっふっふ、そう簡単にはやられはせん・・・ん?」

タバサの不敵な言葉に応えた才人の言葉が途中で遮られた。
貴族の学院の宿舎らしく静謐な雰囲気であった廊下に
走りこんできた闖入者が現れたからだ。

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ!
・・・ちょ、ちょっと、待って」

才人たちの前まで全速力で走ってきたのか、
目の前に辿り着くや否や、乱れた呼吸をなんとか戻そうと
精一杯の呼吸に従事している少女は

・・・ルイズであった。

タバサはそこはかとなく嫌な予感を感じつつも、
一応律儀に待つことにした。
先日も騒動を巻き起こした落ちこぼれな上トラブルメーカーな少女であるが、
それでもその貴族としての高潔さと
何事にも努力を惜しまないルイズの真面目さは気に入っていたからだ。

それにしても不思議だ。
タバサはルイズが息を整えるのを眺めながらも首を捻る。
ルイズが自分を引き止める理由がどうしても分からないのだ。

「おいおい、大丈夫か、ルイズ?」

そう言いながらも、才人がルイズの背中を擦り始めた。
・・・もっと分からないことが出来た。
いつの間に、サイトとルイズは知り合いになったのだろうか?

「あ、ありがと、サイト」

そう言いながら、なんとか回復したルイズが改めて才人たちに向き直った。

「お早う、タバサ、サイト。
で、早速で悪いんだけど、タバサ?」

「・・・何?」

警戒心を滲ませて返事を返す。
もう嫌な予感はひっきりなしに警報をがなりたてているが、状況が良く分からない。

「ちょっと護衛借りるわよ?」

そう一方的にタバサに宣言したルイズは、
今度はサイトの耳元にこっそりと呟いた。

「よく考えたら、サイトは虚無の魔法に詳しいんじゃないの?
わたしが魔法を使えるように協力してよ?
・・・お願い」

ルイズの口調はぶっきら棒だが、目はひどく真剣だった。
それもそうだろう。
何しろ、これまで願って願って願い続けてきた魔法の可能性が、
ようやく見えてきたのだ。
必死になって当然だ。

「・・・それもそうだな、乗りかかった船だし。
悪い、タバサ!
ラグドリアン湖はまた今度だ!!」

その必死さを感じ取ったのか、今度は才人がタバサに一方的に言い放った。
そして才人はそのままルイズに引っ張られて、廊下を走り去って行ってしまった。


「・・・えぇっ!?」


タバサは結局何も分からないまま廊下に取り残されたが、
しばらくたってから今日の計画が潰れてしまったことに気付き、驚愕の声を上げた。
続けて抗議の声を上げようとしたが、ちょっと遅かったようだ。
タバサ以外、廊下にはもう誰も見当たらなかったのである。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第9話



そんな騒動があってから、もう5時間近くが経過していた。
タバサは仕方なくシルフィードに乗って空を旋回しながら、
先日に途中まで読んでいた本を広げていた。
しかし、集中できるはずもなく、
全くと言っていいほどページは進んでいない。
それでも他にやることがないので、仕方なく開いているといった風体だ。

時間が経つにつれ、
ますます機嫌が悪くなってきたタバサに思わずシルフィードが怯えた声を上げる。
その声を聞いたタバサが忌々しげにシルフィードを睨み付ける。
その雪風の瞳に恐怖したシルフィードがまた縮こまる、
そんな光景が長いこと繰り返されていた。

とは言え、シルフィードはそろそろ限界であった。
何しろ、朝に突然呼び出されてからずっとこの調子である。
朝ごはんも昼ごはんも食べていないシルフィードにとって、
空腹は恐怖に勝るのである。
だんだん、自分がこうも萎縮する必要があるのかと、
フラストレーションが溜まってきた。

「あー、もうこのちび助!
いつまでもうじうじ悩んでいるんじゃないのね!?
したいことがあるなら無理やり奪っちゃえばいいのねっ!!」

「・・・奪う?」

ついにぶちギレたシルフィードの言葉にぱちくりとタバサが目を瞬かせた。
シルフィードが癇癪を起こすのはいつものことなどでいちいち腹を立てることもないが、
その発想は失念していた。

以前は才人に入る急用というものは『公務』であった。
それゆえ、ドタキャンなどが当たり前であっても、
それに対して我が侭で文句を言うことは出来なかったし、
まだ騎士でないタバサは、そもそも彼を手伝うという選択肢さえ持てなかった。

しかし、今はタバサはただの学生の身分なのだ。
そして、ドタキャンの理由も別の学生の勝手な言い分だ。
であれば・・・そう、シルフィードの言うとおり、
奪うという選択肢もアリ、だ。


「ひ、ひぃっ!?
な、生意気言ってごめんなのねっ!?」

急に立ち上がったタバサに、
強気で出ていたはずのシルフィードがいきなり侘びを入れてきた。
相変わらずのヘタレ竜だが、・・・まぁそこの矯正は今後の課題だ。
今はいい。

「別に気にしてない。
それより、ルイズからサイトを取り戻す」

待っているだけはもう飽きた。
であれば、こうするのが一番良い。



「で・・・出来た・・・」

ルイズはぽかんと口を開けて、
目の前にぽっかりと空いたクレーターを見つめた。

「うひゃぁ・・・すげぇなぁ・・・」

才人もポカンと口を開け、同じようにクレーターを見つめた。
才人が知っているジョゼフから聞き及んでいたいくつかのスペルを教え込んで、
それから虚無の魔法の使い方をルイズに伝授してやって・・・。
5時間近くを練習に費やしてようやくコツが掴めたらしい。
ルイズの唱えた『エクスプロージョン』は学院の中庭の一角を、
10メートルほど球状に削り取っていた。

「これが虚無の系統の基本スペル、『エクスプロージョン』だ。
さっきも言ったけど、詠唱の長さに応じて威力が増減するんだが、
まぁ、このぐらいの威力が妥当なところだと思うぞ」

「どうして?
もっと長い詠唱にすれば、もっと強い魔法になるんでしょ?」

ルイズは自分が作った穴を興奮冷めやらぬ様子で見つめながら、
才人に疑問を投げかけた。

「ああ、それもそうだが・・・、でも威力強くするとすぐに精神力尽きるぞ?」

「うっ!
それもそうね・・・、でもさ、わたし、
今まで精神力尽きるほど魔法なんて唱えられたことないから、
自分の限界なんて知らないのよね〜?」

そう言って、ルイズはニヤニヤと悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべた。

「せっかくだから、一回ぱーーーっ、とでっかく使ってみたいわよね?」

そう言いながら、ひらひらと杖を上空に構えてポーズをとってみせるルイズに、
才人が慌てて飛びかかった。

「バ、バカかっ!?
もしルイズ自身が思っているより、お前の精神力があったらどうすんだよ?
ヘタしたら学院ごと吹っ飛ぶぞ!?」

ルイズ自身、半ば冗談で言った台詞であったが、
才人の様子があまりにも真剣なので、
ルイズは彼が本気で『学院の壊滅すら有り得ること』と言っているのが分かった。

「え・・・?
本気で?」

「ああ、それぐらいは出来ちゃう可能性があるぞ、はっきり言って」

「こ、こわぁ・・・。
なるほど、確かに伝説だわ・・・」

ルイズは確かめるように呟きながら、自分が持つ杖にじっと視線を送る。
それから、ごくり、と息を呑む。

「わたし・・・そんなに凄い力なんて、扱えるのかしら?」

ぶるっ、とルイズの体が震えた。
ゼロと呼ばれることは凄く嫌だったけど、
全く期待されないと言うことは、ある意味気楽でもあった。
自分にそんな感覚が無かったかと言えば、
少しはあったと言わざるをえない。

そんな自分が、伝説の・・・ほとんど誰も使うことの出来ない、
最強の力を手に入れた?
正直言って、使いこなす自信なんてない・・・。


「まぁ、そんなに怯える必要もないさ。
虚無の系統にも色々あるみたいだけど、俺はどうせ基本しか知らないからな。
簡単に、世の理を思うままに云々、なんていう伝説染みた魔法は使えないぜ」

だけど、自分のことを認めてくれる、
手伝ってくれる人がいればなんとかなりそうな気もする。
・・・全く、わたしったら単純ね。

「ん、どうした?」

突然くすくすと笑い始めたルイズに才人は訝しげに尋ねた。
その言葉に振り向いたルイズの瞳が思ったより間近にあって、
思わずドキリと胸が高鳴った。

「それで、いつまでくっついてるつもり?」

笑いながら、ルイズは柔らかい口調でそう言った。
そこでようやく才人は自分がいまだにルイズの杖を抑えようとしたまま、
彼女を羽交い絞めにしていたことに気付いた。
急いで離れようと・・・


「・・・何してるの?」


離れようとして、空中から聞こえた声に才人は凍りついた。



タバサはぴりぴりとした表情で真下の光景を見つめていた。
これでもタバサはゼロと蔑称されるあのヴァリエールの娘が嫌いではなかった。
・・・だが、人の一番大切なものに手を出そうというなら話は別だ。

ひらり、とシルフィードから飛び降りたタバサは、
途中でフライの呪文を使いふわりと地面に降り立つ。

その間も視線は二人から離しはしない。
才人は慌てた様子でルイズから離れ、
しどろもどろと言った感じの表情を浮かべて、どう言い訳したものかと考えているようだ。
彼が女性と二人きりで居る現場に踏み込んだ、
いつものときと同じリアクションだから、
取りあえずルイズが深い意味での特別だって言う訳ではないのだろう。
少しだけほっとする。


問題は、あからさまに不満気な視線を向けているあの娘だ。


「もう帰る」

とはいえ、付き合ってやる義理はない。
タバサはなおさらぶすっとした表情を浮かべて、
才人の腕を軽くひっぱった。

「ちょっと待ちなさいよ!」

タバサが再びフライを唱えるよりも早く、
ルイズがタバサの前に立ち塞がった。

「今、サイトに付き合ってもらって魔法の練習中なのよ。
いくらサイトがタバサの護衛だって言っても
そんな簡単に連れて行かせるわけにはいかないわ」

タバサはルイズを睨み付けるが、
ルイズは気にした様子も見せずいけしゃあしゃあと言ってのける。

「どういう意味?
ヴァリエール」

身長の低いルイズよりもタバサはさらに小さいため、
見上げる格好となったが、それでもさすがに王族というべきか。
声高に言い放ったぞんざいな言葉でさえ、
思わず『私が悪かったです』と謝罪をいれてしましそうな威圧感が溢れていた。

事実、何故か才人が『私が悪かったです』と頭を下げていた。
軽くスルーされてしまったが。

「別に学院の中では護衛なんて必要ないから問題ないでしょ?
それとも何?
サイトが他の女と一緒に居ると許せないの?
嫉妬?」

だが、この手の威圧はうんと小さい頃から受け続けてきたルイズだ。
一言で切って捨て、それどころか特大の爆弾を問答無用でタバサに投げ込んできた。

「嫉妬?
・・・誰が?」

タバサの口調は静かだが、声が震えていた。
沸点が見た目のクールさほど高くないタバサは相当頭に来ているようだ。
それを好機と見たのか、さらにルイズの言葉が重ねられる。

「そうでしょ?
そうじゃなきゃ、そんなに本気にならないでしょ?」

「うるさい。
ぴーちく喚くな」

タバサはルイズの追求を、ぴしゃり、と切って捨てた。
ここの所色々あって、タバサもストレスが溜まっていたのである。
メイドに従姉妹姫に、今度はヴァリエールだ。
言葉遣いもそりゃあ悪くなって然るべきである。


突然の暴言に、ルイズはさすがに少し気圧されながらも言った。

「じゃあ、サイトにどっちが良いか決めてもらいましょう?」

「・・・望むところ」

タバサとルイズの二人の間にばちばちと火花が散る。
才人がそれを見て、

「ひぃっ!?」

と悲鳴をあげる。
いきなり自分に振られたので戸惑いつつも、才人は悩んだ。

「お、俺がか・・・?」

「そうよ、あんたの事でモメてんだから」

ルイズの言葉にさらに頭を悩ます。
状況は良く分からないが、どうやら俺のことで二人が対立してしまったらしい。

才人はちらりとタバサに視線を送る。
珍しくも感情むき出しでこちらを睨みつけている。
どうせ感情を出すなら嬉しいときに笑顔でも見せて欲しいとは思うが・・・。
それでも妹のような女の子が自分を慕ってくれるのは単純に嬉しいし、
やきもちを焼くのも可愛いとは思う。
ちょっと度が過ぎている気もするが、
先日怒らせたばかりで、今朝も約束をすっぽかしてしまったのだ。
ある意味当然の反応である。
三度目の正直ではないが、タバサを大事にしてやるべきだろう。

・・・でも。
才人は今度はルイズに目を向けた。
ルイズもこちらを睨みつけてはいるものの、
どことなく瞳の奥に不安がのぞいている気がする。
この孤独な虚無の担い手を一人にしたくない、という想いもある。
それにぶっちゃけて言えば、
ルイズの容姿は才人の好みなのだ。
ちょっと良い雰囲気になることも有るし、惜しいと思ってしまうのは男の性質である。

散々悩んだあげく、才人はお茶目さんな様子でてへりと笑って切り出した。

「・・・その、二人ともって・・・ダメ?」

ルイズから蹴りが繰り出され、
タバサの巨大な杖が頭に振り下ろされた。
才人が中庭の芝生に転がって、ビクビクと震えた。


「ねぇ、このままじゃ埒があかないわね?」

ルイズはタバサに向き直った。

「今なら許してあげる」

タバサは才人を折檻して少しは落ち着いたのか、
無表情を取り戻してそう言った。
・・・しかしながら、もう互いに止まらない所まで進んでしまっていたようだ。

「・・・貧乳のくせにいっちょ前に色気づいて」

ぽそりと呟いたルイズの言葉にタバサの顔色が変わり、目が吊り上った。

「なに、怒ったの?
本当のことでしょ?」

自分のことは棚に上げて、ルイズがせせら笑うかのように言った。

「・・・ゼロのくせに勝てると思ってる?」

ぼそりと呟いたタバサの言葉にルイズの顔色が変わり、目が吊り上った。

「なに、怒った?
・・・本当のこと」

二人は同時に杖に手をかけた。
そして、怒りをむき出しにして怒鳴った。


「「決闘よ!!」」


「やめとけって」

才人が地面に寝そべりながら呆れた口調で口を挟んだが、
ルイズも、タバサでさえも感情をむき出しにして睨み合っている。

無論、才人の話を聞くものなど居なかったのは言うまでもない。

(続く)