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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第6話』



「逃げ出すなら今のうちだよ、平民」

・・・さて、一体こうなった理由はなんだっただろうか。
才人は目の前に居る薔薇の造花を口にくわえたと思ったら、
指先でくるくると振り回し始めたおおよそアホとしか思えない貴族と、
決闘しなければいけない事態に陥っていた。
ブロンドの巻き髪を無意味にかき上げているソイツはギーシュと言った。
フリルがシャツのそこら中に縫い付けられた、
才人には理解しかねるセンスに溢れた服の気障野郎を前に、
どうして自分がこいつと戦うハメになったのかを思い返そうとしていた。

「ギーシュが決闘するぞ!!」

「決闘の相手はタバサの護衛の平民だとよ!」

「ギーシュ、そんなアホ面に負けるんじゃねぇぞ!」

「そこの平民に貴族との格の違いってヤツを教えてやりな!」

「ギーシュ、負けたりしたら笑いものだぞ!」

決闘の場に指定されたヴェストリの広場は、
いつの間にか昼休み最中の生徒たちによって溢れかえっていた。
決闘の噂を聞きつけるや否や、わらわらと暇つぶしに集まってきたらしい。
貴族と言ってもそうガラが良いヤツばかりでもなく、
ギーシュが才人を痛めつけることを望む威勢のいいダミ声と、
才人への野次で広場は埋め尽くされていた。

「ふっ、取りあえず貴族と真っ向から立ち向かうその度胸だけは褒めてあげよう」

ギーシュの勿体ぶった台詞に観客が無意味に盛り上がる。
うおーっ、などと歓声まで上がる始末だ。

ギーシュが観客に手を振って答えるのをぼんやりと眺めながら並行して行っていた、
才人の記憶の掘り返し作業は難航していた。
観客から才人への否定的な言葉が耳に入るたびに、
心の中で『やかましいわ』などと悪態を吐いていたので、遅々として作業が進んでいない。
悲しむべきは才人のリソース不足である。
あるいは集中力の無さであった。

それでもまぁ、なんとかかんとか思い出した。
そう、事のはじまりは今からほんの30分ほど前の出来事だった。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第6話



才人はルイズから押し付けられた教室の後片付けを終えると、
遅れてしまった昼食をとるために食堂に向かっていた。
が、どこか足取りがおかしい。

「俺、いきなりほぼ初対面の娘にあんなことするなんて、
もしかしてヤヴァイ・・・?」

声に出してみると、殊更強く感じられた。
先ほどはつい我を忘れて下着姿のルイズに飛び掛ってしまったが、
冷静になればなるほど、痛恨のミスだったと思わずにはいられない。
と言うか、普通はしないだろう?
うん、ありえない。
才人だってそのぐらいの常識は持っていた。
だから、そんなことをしてしまった自分はもしかして、
人として失格なのでは?とブルー入っていた。

精神が身体にも影響すること甚だしい性質の才人は、
強大な精神ダメージのせいで、
身体を動かすのも億劫そうにのたりくらりと廊下を歩いていた。

「俺って、もしかして・・・ロリコン・・・なのか?」

遠い望郷の彼方にある故郷の言葉を思い出す。
確か意味は小さな女の子が好きな・・・なんだっけかな。
小さい頃に聞いただけなので詳しくは覚えていなかったが、
とにかく、悪い意味として使われていたと思う。
ルイズの未成熟な身体に過剰反応してしまった自分に、
何故かその言葉は妙にしっくり来る気がした。


「ぺったん、ぺったん♪
つるぺったん♪」

謎の歌を自嘲気味に口ずさみながら、
食堂に向かう足でさきほど見た光景を反芻する。
レースのついたキャミソールにパンティ。
色は純白。
だけど、女性としての膨らみがあるはずの場所は何も無かった。
触って確かめて見ることが出来れば違うのかもしれないが、
遠めには
「え、あれがおっぱい?
またまたご冗談を」
って感じだった。
俺はそれが良いのだろうか?
うーん・・・


良いかもしれないぜ!


才人は繰り返し思い出しているうちにあっさりと洗脳されていた。
彼にとって初めて見るに等しい同年代の少女の下着姿が、
脳天を直撃するほど魅力的であったことに間違いない。
胸の大小でそれが損なわれるかどうかなど些細なことだと才人は思い始めていた。
それどころか、その発想は逆転を始めた。
そもそも、普通女性ならば胸は膨らむものだ。
つまり、全く膨らまない胸は逆に希少価値なんじゃないだろうか。
ステータスなのだ。
どこかからか電波を受信したのか、ディープな方向へと飛躍を遂げんとして、

「きゃっ!?」

ちょうど厨房から出てきたメイドと正面衝突して、なんとか免れる結果になった。

「ん?」

夢現の世界から舞い戻ってきた才人が始めに感じたのは、

ふかっ

という未知の感触だった。
考え事をしていたために俯いて歩いていた才人の頭は、
咄嗟に銀のトレイに乗ったデザートをひっくり返すわけにはいかないと、
両手でトレイを精一杯持ち上げ背筋をピンと伸ばした、
この学院では珍しい黒髪のメイドの大きな膨らみに沈み込んでいたのである。

温いミルクのような少女の香りと、
今までに経験したことのない柔らかさが才人の頬を通じて伝わってきた。
才人は取りあえず頭をぐりぐりと動かした。
理屈ではない、本能がそうさせたのである。

「きゃんっ」

可愛らしい声がした。
やばい。
これ、すごい。
夢中になって頭をさらに動かそうと・・・

「何してやがるっ!」

がつんっ!!
凄まじい音がするぐらいの速さで、こぶしが振り下ろされた。



「そりゃ、ただの変態だな・・・」

才人ががつがつと賄いを食べるのを見つめながら、
事の相談を受けたトリステイン学院のコック長こと、マルトー親父は呆れた口調で呟いた。
マルトーはシエスタ相手に粗相をしている才人を殴り飛ばした後、
シエスタに今日の朝助けてもらった恩人であると教えてもらったのである。

そして、才人を庇おうとするシエスタがさっきまでの事を全然気にしていなかったこともあり、
マルトーはお詫びにと才人に昼食を振舞うことになった。
お腹の空いていた才人は文句のつけようが無かった。
そして、昼食を食べながらマルトーと話している内に意気投合して、
先ほどの才人自身の変態疑惑を相談してみた訳である。

「そんなっ!?」

才人は認めたくないものを見つけてしまったと、悲しげに叫び声を上げた。

「いや、そりゃあ、どう見てもその結論しか出せんだろ。
まぁ、男なんて須らく変態なものだ!
さっきも剣士の兄ちゃんはシエスタのおっぱいに顔を埋めて喜んでたしな!
ちっちゃいのも、大きいのもいけるんじゃねえか!
立派な変態だ!!」

そう言って言って、ガハハと豪快に笑うマルトーは、
何とも言えない顔で苦笑を浮かべるシエスタに

「ほら、さっさとデザート配ってこないと、
貴族連中に何言われるか分かったもんじゃねぇぞ」

と追い出しにかかった。
そういえば、シエスタはデザートを配りに行く途中だったのである。
それから、マルトーはシエスタの姿が見えなくなると、

「でも、アイツも満更でもなさそうだったがな。
うらやましいぞ、兄ちゃん」

そう言ってニヤリと笑う。
所詮、この親父も変態だった。

「アイツでも構わんが、剣士の兄ちゃんはさっさと相手を見つけた方がいいぞ。
戦いなんて場に長くいると、どうしても性欲が強くなってしょうがなくなるみたいでな。
戦場なんかに出てた俺の知り合いにも何人もそういうヤツがいたしな。
まぁ、大概そういう奴らも嫁さんとか恋人見つけると落ち着くみたいだから。
兄ちゃんもあまりにも若さを持て余すなら、
誰か1人に決めて、
ソイツの尻にでも敷かれた方が良いってもんよ!」

そんなもんだろうか、と才人は思う。
確かに反省しようと思いながらも、
速攻でそんなことを忘れてシエスタの胸に顔を埋めてしまったりした。
それどころか、ぐりぐりとしてしまった。
やっぱり大きいおっぱいはすごいな、と再確認してしまった。
どう見ても変態だ。
あっさりと許してくれたシエスタは優しいなぁ。
と言うか、
ルイズの平原、と称されそうなものも、
シエスタの丘陵、と称されそうなものも、
どっちも大好きだ。


・・・うん、きっとそんなもんなんだろう。


「そうかもしれねぇなぁ。
親父の言うことは言い過ぎにしても、
この学院に来てから同年代の奴らばっかりだってのに、
今までマトモに話す機会なんてなかったし・・・。
シエスタやルイズと話す内に、
知らない内に溜まっていたフラストレーションが表面化したのかもなぁ」

「だったらアイツの手伝いにでもいってくるか?」

マルトーの軽い調子で出された提案は才人にとって渡りに船であった。
何しろ、今まで朝は健気に毎日の鍛錬に頑張る自分を演じたり、
昼間は学院の生徒も教師も従業員も忙しい。
夜は夜で、警備上の重点箇所をチェックしたりするのに費やしていた。
・・・もう少し、学院生たちとコミュニケーションを取ってみたいな。
そう思った才人は食べ終えた昼食の皿をマルトーに押し付けると、
彼の言葉に従い早速シエスタを手伝いに行こうかと、すぐ隣の食堂へ向かった。



「す、すいませんっ!」

才人がアルヴィーズの食堂に入ると、
初めに聞こえてきたのはシエスタの萎縮した謝罪の言葉だった。

シエスタは目の前のテーブルに座った貴族に、ペコペコと頭を下げている。
何故か白いシャツが素肌に張り付いたびしょ濡れの貴族は、
顔をハンカチで拭きながら冷ややかな態度で彼女を見下している。
本人はカッコつけているつもりかもしれないが、
濡れ鼠のような有様では笑いを誘う仕草にしか見えない。
・・・うーん、シエスタが何か溢しちゃったのかな。

それならばシエスタが全面的に悪いだろうが、ま、一緒に謝るぐらいはしてやろうか、
と才人は気軽に考えて彼女の傍まで歩いていった。

「アホだろ、お前が悪いんじゃん。
他人に八つ当たりすんじゃねぇぞ」

才人がシエスタのすぐ後ろまで来ると、
そんな声が聞こえた。

「・・・なんだい、君は?」

濡れ貴族がジロリ、と才人を見つめた。
どうやら、今のは才人が言ったと思ったらしい。
見事なまでに才人の口調を真似ていた声であったが、
どちらにしろ才人の事を知らない貴族の前ではあまり意味がない。

「・・・へ?」

だが、当の本人は何が何だか分からない。
シエスタが驚いた表情で才人の方を振り向いた。
慌てた様子でジェスチャーをして謝ってくれ、と促している。
・・・えーと、

「当然だろ、このかませ犬。
犬なら犬らしく、香水なんて頼らず自分でマーキングでもしてやがれ」

周囲がざわつき始める。
シエスタは、蒼白な顔でこちらを見つめるし、
かませ犬は、顔を真っ赤にして屈辱を感じているようだ。

「なんだとっ!
・・・キミは貴族に対する口の利き方を知らないらしいね」

才人はそんなかませ犬の言葉を無視して、
辺りに視線を配る。
・・・あの声は一体何なのか?
そして、一つの結論に達した。

シエスタの懐からその言葉は聞こえたという結論だ。

つまり、
地下水か・・・。
アイツ、俺にトラブル擦り付けるなんて、根に持ちすぎじゃね?
飼い犬どころか、飼いナイフに手を噛まれたのかよ、
とも思うが、今のアイツの主人はシエスタだ。
ならば主人の危機を回避するのは当然とも言える。
・・・まぁ、俺が我慢すればいいのか。

「シエスタ、いいよ。
ここは俺がなんとかするから、行っちゃって」

シエスタに取りあえず身代わりを引き受けると言ってやってから、
目の前のかませ犬に視線を戻す。

「全く、卑しいことこの上ないね、君たち平民って奴は。
せっかくだから君に礼儀を教えてあげようか
ああ、僕はなんて優しいんだろう!」

「へいへい」

かませ犬は自分に酔っているのか、
こちらの反応など構うことなく未だ何かを喋り続けているが、
聞く気は皆無なので聞き流すことにする。

ていうか、俺一応シュヴェリエだし、貴族じゃね?
と思ったりもしたが、紋章が縫い付けられたマントはルイズから追い剥ぎされたままである。
マントの紋章以外に証明するものが無いのだから、平民で通すしかないのだろう。

「そもそもだね、君たち平民は僕ら貴族のお陰で生きていられることを知るべきだね。
そうそう・・・」

だが、ヒートアップし始めた彼の話は止まるどころか、段々と飛躍を始めた。
ついには彼のひいひいおじいさんが如何に素晴らしかったを語る始末だ。
もしかして、これ滅茶苦茶長い?
才人はうんざりとし始めた。
全く興味のない貴族自慢を長々と聞かされるのは、正直勘弁してもらいたい。


「・・・おや、そう言えば君は、確かタバサとか言う子の護衛だったっけかな?
あの私生児の子は発育が悪くて、育ちの悪さが知れるというものだが、
君を見ているとそれが良く分かるよ」

バカにしたような仕草で言われたその言葉で、
才人は別に我慢する必要ないんじゃね?
キレやすい若者のような論理で怒りに身を任せることにした。

「うっさい、かませ犬。
わんわん喚くな」

というか才人は普通に怒っていた。
確かにアイツは発育が悪い。
ルイズと比べてもそれはひどい。
ぱかぱかと人一倍食べるくせにどこに消えるんだろうか、と考えることだってある。
だが、そんな分かりきった事でも、
他人に言われるとどうしようもなくムカついた。

「なんだ、貴族に対してその口の利き方は!
僕にはれっきとしたギーシュ・ド・・・・」

「お前なんぞ、かませ犬で充分だ。
もしくは一ボスだ。
初心者のための一面ボスだ」

かませ犬ことギーシュの言葉を遮るように畳み掛けてやる。
ギーシュの目が怒りでつり上がった。

「どうやら、君には徹底的に貴族に対する礼儀を教えてやらないといけないようだな。
丁度いい腹ごなしだ、ヴェストリの広場までついてこい」

ギーシュは立ち上がった。

「おもしれえ」

才人も彼に続こうとして、ふと思い出したことがあった。
結局逃げ出さずにその場に残っていたシエスタにそっと顔を近づける。

「俺の部屋から剣を持ってきてくれ。
部屋の場所も剣の場所も地下水が知ってるからさ」

「あ・・・は、はいっ!」

オロオロと、どうしたらいいのか分からず怯えていたシエスタであったが、
才人の言葉を聞いて駆け出していった。



そして、舞台は冒頭に戻るのである。

「・・・で、なんであの貴族はシエスタに怒ってたんだろうなぁ?」

歩いている内に冷静さを取り戻してしまった才人は事の発端が分からないので、
イマイチやる気になれなかった。
観客に答えているギーシュに今更聞くわけにもいかないだろうし・・・。


才人がそんな風に悩んでいる決闘のスペースの周りでは群集の輪が出来上がっていたが、
その中に2人の少女の姿があった。

ルイズとタバサである。

ルイズは、
「あのアホ、なにやってんのよ・・・」
とでも言いたげに頭を抱えていた。
僅かなりとも自分と関わった人が痛い目にあうのは気持ちの良いものではない。
それが貴族対平民、といった分かりきった勝負ならば当然である。
彼女はギーシュがやりすぎるようならば止められるよう、
少しでも前に陣取ろうと躍起になっていた。
才人の実力を知れば、その対応は逆転するだろうが、
知らないのだから仕方が無い。

タバサは、空に居た。
シルフィードの背に乗り、ヴェストリの広場を見下ろす。
シルフィードは初めての決闘と言うものに興奮を覚えているようだが、
タバサ自身は醒めた視線で2人を見つめていた。
彼女に言わせると、
「弱いもの苛めも甚だしい。
むしろ、自分を構わずに何をやっているのか?」
といった感じですらあった。
才人が何に対して怒ったのかを知れば、そのベクトルは逆転するだろうが、
知らないのだから仕方が無い。


「す、すいませんっ、通してくださいっ!
才人さんっ、持ってきました!!」

才人のやる気ゲージが急降下しつつある最中、
剣を取りに行ったシエスタが周囲の貴族を合間を縫って駆け寄ってきた。
随分急いだのか、息を切らして頬を真っ赤に染めていた。

才人は彼女が両手で抱えた剣を受け取ろうと近寄り、
彼女の耳元で呟いた。

「・・・で、どうして俺たち怒られてたんだっけ?」

「へっ!?」

シエスタがびっくりした声を上げて、
それからようやく喋る剣の地下水が2人を焚きつけたことに気付いたらしい。

「・・・あ、す、すいま・・・」

才人は謝ろうとするシエスタの口を軽く押さえて、

「まぁ、その辺りはいいから。
ソイツの判断はまぁ、間違ってるわけでもないし。
それよりもシエスタが怒られた訳を教えてくれないか?」

「はい・・・あの、ギーシュ様が香水の小瓶を落とされたんです。
それをあの、私が拾ったのでお届けしたんですけど、
それが原因でギーシュ様の二股がばれてしまったんです」

・・・なるほど。
才人の心が震えてきた。
特に最後の『二股』と言う言葉に強く震えた。

「シエスタ、ありがとうな!
これで思いっきりあのアホをぶっ飛ばせるぜ!」


才人がメイドに近寄り二言三言ほどすぐ間近で話してから、
剣を受け取ったのを見てルイズのこめかみがぴくり、と引きつった。

「別にあんな奴が誰といようが構わないんだけど。
何かムカつくわね・・・人がイザとなったら助けてあげようとしてんのにっ」

才人がメイドに近寄り二言三言ほどすぐ間近で話してから、
剣を受け取ったのを見てタバサのこめかみがぴくり、と引きつった。

「朝もアレだけ奉公に来ている職員に手を出すなって教えてあげたのに・・・、
あっちのメイドも氷漬けにしてあげないとダメ?」

シルフィードがきゅいきゅいと首を振って否定した。



「さてと、そろそろいいかい?
始めようか?」

余裕の笑みを浮かべたギーシュが薔薇の花を振るうと、
毀れた薔薇の花びらが、甲冑を着込んだ女戦士の形をした人形に変化した。
人間と同じくらいのサイズだが、材質は青銅のようだ。
がしゃり、と人形が金属音を鳴らしながら構えを取る。
なるほど、剣士相手であればかなり有効な魔法だろう。

「僕はメイジだ。
だから魔法で戦う。
君もその剣で存分に戦いたまえ」

人間の膂力では目の前の人形を剣で切り裂いたり、
銃で急所を撃って倒すのは難しいだろう。
魔法が使えない平民であれば、
ハンマーか、爆薬、それから火炎瓶くらいしか効果がないのではないだろうか。
だが・・・。

「言い忘れていたが、ガリアでは自動人形の研究が盛んでな」

才人は怯えることも無く、
唐突に話し始めた。

「石で出来たガーゴイルとか土で出来たゴーレムとかが主流なんだけどな。
悪徳貴族とか商人なんかは人権費の掛からない、
安上がりな自動人形を大量に持ってたりするんだ。
でだ、相手が分かっているのなら、
対応策も当然考えられているんだ。
・・・つまりだ。
相手が悪かったな、『青銅』のギーシュ」

才人が手に持った剣を掲げると一瞬刀身が輝いた。
そして、

青銅の人形が風に溶けるように崩壊した。
タバサの同級生に怪しい奴がいないかと事前に調査していたために、
ギーシュがどんな魔法を使うのか分かっていたのである。
そして、その対応は万全であった。

「スクウェアクラスぐらいでなけりゃ、
この剣の力でざっとこんなもんよっと訳だ」

「ふ、ふざけるなっ!」

ギーシュが慌てて造花を振るうと新たに6体のゴーレムが現れた。

「さぁ、いけっ!
僕のワルキューレっ!!」

「無駄だぁっ!」

再び才人が剣を掲げる。
一斉に6体全ての人形が崩れ落ちた。

「そ、そんな・・・」

ギーシュの肩が、がくんと落ちた。
才人はその隙を逃すことも無く、ギーシュの眼前まで凄まじい速度で移動すると、
彼の持つ造花をあっさりと切り裂いた。

「ひっ!」

ギーシュが怯えた声を上げ、本能的に両手をあげて頭を抱えた。
誰がどう見ても完全なギーシュの敗北である。
だが・・・
才人は剣を地面に突き刺すと、にやりと笑って言った。

「オマエは剣を使えないから仕方ない。
素手で相手してやる」

才人のパンチがギーシュの隙だらけのガードを潜り抜け顔面で弾けた!

「がはっ!?」

ギーシュが吹っ飛んで地面に叩きつけられた。


ルイズはぽかん、と開いた口を閉じることが出来なかった。
平民が・・・貴族に勝った?
嘘・・・!?
仰天していた。
確かにあの剣の力は反則に近いものがあるが、
そもそも魔法自体が平民相手では反則のようなものだ。
誰もあの平民を反則だ、などと騒ぎ立てることなど出来ないだろう。

タバサはため息を吐いた。
それでも少しは期待していたのに、全くと言っていいほどギーシュは相手にならなかった。
・・・というかギーシュはゴーレム造ること以外出来ないの?
と思わずにはいられなかった。


ギーシュはフラフラと立ち上がると、才人に向けてこぶしを振るった。
このままでは終われない、
貴族としてあまりにも情けなくて、
せめて一撃でも反撃せずにはいられなかったのだ。

がすっ!

鈍い音がして、才人の顔面にこぶしが入る。

「なぜ・・・防がない・・・?」

「その理由はこうだっ!」

才人のパンチがギーシュの無防備な顔面にぶち当たった。

「そうかっ!」

ギーシュも震える足を押さえつけるように、才人にこぶしを振るった。
才人が殴る。
ギーシュが殴る。
2人の殴り合いが続いた。



観客たちはもはや高貴さのカケラも感じられない子供の喧嘩となった、
2人から目を離すことが出来なかった。

それどころか、
「ギーシュ、負けんなっ!」

「腰が入ってないぞ、ギーシュ!」

「ここで負けたら貴族じゃねえぞ!」

ギーシュに向けて大きな声援が沸き起こった。
ギーシュは熱を持って朦朧とし始めた頭でその声を聞いた。
そして、最後の力を全て振り絞って才人へと渾身の一撃をお見舞いした!

才人の2本の足が始めて地面を離れ、
ごろごろと地面に転がる。

一瞬、観客がわっ、と盛り上がり・・・
それでも立ち上がってきた才人に驚愕の声が漏れる。

皆の声援を受けて、確かにいつも以上の力を発揮したはずだ!
とギーシュは困惑の表情を浮かべ・・・

「見る場所が違うだろうがっ!!」

才人の叫びとともに放たれた一撃で再び吹き飛ばされた。
倒れた地面から、ギーシュが横目に見たのは・・・・

「モンモランシー?」

・・・彼女は悲しげに僕を見ていた。
そうだ、僕は彼女に謝らないといけないんだ。
勝負に勝って、勢いづけて彼女に謝ろうと思ったんだ。

くそうっ!
彼女のために頑張らないといけないんだっ!
観客の奴らなんかじゃないっ!
僕は彼女のために・・・っ!?

だが、もう身体が動かない。
負け、か・・・。

「負けた奴はどうすればいいのか分かるよな?」

才人の言葉が聞こえた。

「ああ、そうだね・・・」

大の字に寝転がりながら、息を吸う。
せめて声ぐらいは張り上げようと。

「僕の不義理を詫びよう!
モンモランシー!
本当にすまなかった!!
キティ、君にもすまなかったっ!
それから・・・」

ギーシュは寝転んだまま、才人に視線を向けた。

「八つ当たりをしてしまった君とメイドに、
それから君の可愛いご主人様を侮辱してしまったことを謝ろう!!」



ギーシュの謝罪が終わると、見事な巻き毛のブロンドの少女が彼に駆け寄った。
その光景を見ながらシエスタはあれ?と思った。
じゃあ、才人さんは私のために?
なんだか物語のような決闘だった。
自分も物語のヒロインになったような気分で、
才人に後ろから抱きつくぐらいしても罰は当たらないだろう。


「おめでとうございますっ!」


と言うわけでシエスタは抱きついてみた。
がっしりとした背中がなんだか心地よい。
ほぅ、と息を吐いてさらに言葉を続けようと、彼の方を見上げて・・・

凍りついた。

朝のドラゴンが空からこちらを見つめていた。
いや、ドラゴンはいい。
確かに怖いけど、けど・・・。
その背に乗っている少女に比べたら1000倍マシだ。

少女は、物理的にシエスタを凍らせてやろうかとでも思っていたのだろうか。
シエスタが自分に気付いたと知るや否や、
もごもごと動かしていた口の動きを止め、
かすかに、ちっ、と呟いたような気がした。

それはシエスタの幻覚かもしれないが、
とりあえずそのぐらいは怖かった。


硬直したシエスタを地面に降りたタバサがべりべりと引き剥がす。
それから、才人に向け
「治療する」
と有無を言わさず一方的に言い放ち、
朝の焼きまわしのように彼をずるずると引きずっていった。

まだ周囲に詰め掛けていた観客が、
「ああ、確かに『雪風』だなぁ」
と納得の表情を浮かべたりしていた。

(続く)