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ゼロの使い魔 SS
『蒼の使い魔 第4話』


才人の朝は早い。
日の出と共に目を覚まし、木剣を片手にヴェストリの広場に向かう。
そして、丁度学院の本塔と、
平民たちの住居となっている離れの建物の中間地点までやってくると、
柔軟運動を始めた。

もう一時ほどすれば、
この場所は学院勤めの平民たちの姿で溢れ返ることになるが、
まだ朝も早過ぎるこの時間、周囲には人っ子一人の姿もない。

才人はキョロキョロと辺りを見回し誰もいないことを確認すると、
剣を握りしめ素振りを始めた。
ひゅっ、ひゅっ、と小気味の良い音が周囲に響く。
それだけで彼が剣を振る、という動作に馴染んでいることが分かる。
剣士であれば、その研鑽された技量に舌を巻くであろうし、
貴族であれば、剣舞と呼ばれる芸能だと思うかもしれない。
つまりはそのぐらい堂に入った姿だった。

才人はこのハルキゲニアをよくするために、
少しでも誰かの役に立とうと一生懸命に修練に励む。
・・・そんな殊勝なことを考えていた訳では決してない。

彼の考えは以下の通りである。
こんな風に健気に練習する俺、カッコいい。
きっと努力する姿は誰が見ても惚れ惚れするだろう。
それで、たまに仕事で朝早く学院に向かうことになった、
可愛いメイドが俺を見つけるんだ。
カッコいい俺の姿に心引かれつつも、急ぎの仕事があるから行かなければいけない。
その日が終わっても、次の日とか気になってしょうがなくなるんだ。
あの人は何方かしら?
あんな素敵なお方、学院にいらっしゃったかしら?
ああ、でもきっとあの素晴らしいお姿は貴族に違いないわ!
そんな、私などに声を掛けられてもご迷惑になってしまうわ!
陰から俺の練習を見続ける日々が続くメイド。
だけど、そんな我慢の日が続いて、
もう・・・もう耐えられないのっ・・・!

とか、その内俺に惚れたメイドが差し入れとかを口実に会いに来るんだ!?
というアホの一つ覚えの考えであった。

一応才人は騎士団長の称号を持つ貴族様であったが、
本人にそんな自覚はトンとない。
それに口調と振る舞いが大げさな貴族より、
平民の素朴な少女の方が好みだったりする。
貴族の自覚がないのだから、平民を無理やり自分のモノにするなどという考えもなく、
健気にタバサが入学した当初から、
1年以上も朝っぱらから剣を振り続けている日々が続いていた。
げに恐ろしきはエロスである。

いつもはそんな桃色思考一色で剣を振っている煩悩全開な才人であったが、
今日だけは全く関係ないことを考えていた。
そういう気分で無いなら素振りになど来なければ良いのに、
もう習慣と化してしまったのか、気付くと自然と目が覚めて中庭で剣を振っていた。



ゼロの使い魔SS 蒼の使い魔 第4話



才人は剣を振りながら、ボンヤリと昨日のことを思い出す。
タバサと別れてから才人が向かったのは学院長室であった。
召喚に失敗してしまったルイズの処遇が知りたくなった。
あの好々爺とした風体とは裏腹、
飄々として捉えどころの無いトリステイン魔法学院の学院長は、
何を考えているのか分からない狸なのが特徴だ。
おの爺さんがどうするつもりなのか、きちんと確認する必要があると考えたのだ。

「そりゃ留年じゃろ?」
・・・まぁいきなりそう来るとは思わなかったが。

「というかどうしてお前さんが気にするんじゃい?」
目をパチクリとさせながら学院長こと爺さんは、
じっと才人を見つめてきた。

ひょんなことからこの爺さんと親しくなった才人は、
オールド・オスマンが信用できる人物だと言うことは分かっていた。
しかし、それ以上に喰えないジジイであることを失念していた。
才人がわざわざ尋ねてきたことで、ルイズに何かがあると確信したのだろう。

だから、トリステインでは名のあるヴァリエールですら、
手心を加える気はないとあっさりと言ってのけた。
つまり、才人が何かを知っているのならそれを教えなければ留年にするぞ、
と脅しているわけだこのジジイは。
才人は口では全く敵わないと判断し、諦めて全部話すことにした。

「ほぅ、お主の下に召喚のゲートが現れたのか・・・」

「そうだよ。
召喚魔法自体は成功しているんだ、
でも俺があの娘の使い魔になるわけにはいかんだろうが」

学院長としての立場から、
才人がガリア王の使い魔であることを知っていた爺さんは、頷いてみせてから、

「まぁ、規定では召喚魔法に成功しさえすれば
進級は出来ることになっておるからのぅ。
そう言う事ならヴァリエール嬢を進級させても良いんじゃが・・・、
他の先生方を説得するのは骨が折れるじゃろうなぁ。
ワシ、めんどくさいのぅ」

とかほざきやがった。
まぁ、交換条件を突きつけられるのは覚悟の上だ。
仕方ない。

「・・・何が望みだ?」

「ミス・ロングビルのパ・・・いやいや、
パン・・・いやいや、
貸し一つということでどうじゃ?」
2回も言い直しながらも、何とも太っ腹なことを言い出した。
それにしても思いとどまってくれて助かった。
もし下着ドロなどがバレたら、きっとガリアに強制送還の上イザベラに殺される・・・。

「爺さん、どんだけパンツ欲しいんだよ・・・。
まぁ、いいよ。
貸しってことなら借りておくからさ」

「ふぉっふぉっふぉ。
契約成立じゃな」

「ああ、それじゃあルイズのことはヨロシク頼む」



昨日のことを思い出している内に半時ほどが経っていたらしい。
腕が痺れるほど素振りを繰り返していた才人は汗だくで、
もうヘロヘロになるまで疲れきっていた。

「あ〜疲れた〜〜」

こういうものは一度自覚してしまうと、途端に疲労が襲いかかってくるものだ。
才人もその例に洩れず、
木剣を芝生の上に投げ出し、自分もどさりと音を立てて座り込んだ。
朝のそよそよと流れる冷たい風が気持ちよく、目を閉じて風を感じる。

「でもちょっと冷えるかも・・・」

だが、春先の北風が才人の体温を奪わんと、引っきり無しに吹き始めた。
もしかしたら、上空では結構な勢いで
冷たい空気が流れこんでいるのかもしれない。

こんな事は珍しい。
今日は天気が荒れてくるのではなかろうか。
こりゃ、もう戻って汗を拭かないとダメだなぁ、
・・・でもまだ動きたくねぇ。

才人は疲れた身体を休ませるのと、
身体が冷えないよう早々に退散するのと、
どちらを優先させるべきかと悩んでいた。

「あ、あのっ!」

だが、そこに第3の選択肢が現れたのだった。


「急に冷え込んで来ましたから、
汗かいたままじゃ風邪を引いてしまいますよ?」

顔を上げると、白いタオルを手に持ち、
メイドの格好をした素朴な感じの少女が
心配そうに才人を見つめていた。
この世界ではとんと珍しい真っ黒な髪をカチューシャで纏めた、
可愛い女の子である。

「あ、ありがとう」

才人は立ち上がってお礼を言いながら、
『遂にキターーーー』と心の中で叫んだ。
しかも才人の本能をくすぐる日本人ぽい顔立ちだ。
くりくりとした大きな瞳も黒色で肌の色も自分に近いのに、
きっと直接触ってみたら自分とは違って、
もちもちぷるぷるで柔らかいんだろうなぁ。

「どうぞ」

にっこりと微笑んで手渡してくれたタオルを受け取る瞬間、
才人は胸元に目を落とした。
意識したわけではないが、
胸の高さから差し出されたタオルを受け取るには
そりゃその辺りに視線が行くに決まっている。
うん、当然だ。

そこで、才人は気付いた。

こ、この娘、む、むむむむ、胸大きいな。
胸元は黄色いリボンで隠されているが、
それでも見て分かるぐらいにメイド服が持ち上がっている。
大当たりだっ!

才人はタオルで自分の汗を拭いながら、
彼女からは見えない位置で、ぐっ、とガッツポーズを決めていた。

「本当にありがとう。
急に冷え込んできて、どうしようかと困っていた所だったんだヨ」

声が浮ついて変な感じになってしまったが、
メイドは気にした様子も見せることは無く微笑んだ。

「いいえ、剣士様がいつも早朝練習していらっしゃるのは、
その、私たちの間では有名ですし。
たまたま私が早出でしたし、
ちょうど練習もお休みのようでしたし、
冷え込んできましたし・・・」

メイドが一生懸命にフォローの言葉を返してくる。
すわ、これは脈有りかっ!
才人はそう思い、だが、落ち着け落ち着け、と心にブレーキを掛ける。

慌てるなんとかは貰いが少ないとか言うしな。
余裕、余裕が大切なんだよ、才人くん。

自分にそう言い聞かせた才人は、
改めて彼女を見つめた。
・・・うん、可愛い。
合格。
「俺はガリアの剣士、平賀 才人って言うんだ。
君の名前を教えてもらってもいいカナ?」

またもや才人の声が上ずった。

「あ、はい。
私、このトリステイン魔法学院にご奉公させて頂いております、
シエスタと言います」

今度は少しだけ戸惑いながら返事を返してくれた。
どうやら、才人が自分よりも身分が高いことは知っているらしく、
言葉遣いに気をつけながら喋っているようだ。
慣れない言葉のため、少し怪しいところがありそうだが、
舞い上がった才人がそれに気付くことなどあるわけはなかった。

「あ、すいません。
私もう行かなくてはいけませんので・・・」

シエスタが肩を縮めながらそう言った。
才人はそんな控えめな仕草がまた可愛いなぁ、と考えていた。
アホであった。

「ああ、そうだネ。
タオル今度返しにいくヨ」

「い、いえっ、そんな恐縮ですっ!」

シエスタは驚いて手をブンブンと振りながら言った。
そんな事を言い出すとは思ってもいなかったのだ。

「ほら、早くいかないと大変なんだろ?
行っておいデ?」

「あ、あの、本当に私が取りに伺いますので・・・」

最後までそんな才人的には健気な事を言ってくれる
シエスタの背中を押してやるように、
才人はシエスタに仕事に行くように促した。


シエスタの姿が見えなくなると、
今度は大きくガッツポーズを決めてみせた。
『我が人生に一片の悔いなし・・・』と、
タオルを握りこんだ拳を高々と天に向けて悦に浸っていた。

ああ、ガリアと違って男色だと思われてないからなぁ、
いやっほーっ、トリステイン最高!
叫びだしたい気分で浮き浮きと心を躍らせる。


ガリアでは才人は

1. 男性が王宮のトイレに駆け込もうとする
2. 何故か長いベンチが置いてあり、そこには1人の男の姿が
3. ツナァギと呼ばれる呪いの衣装を着込んだ才人がそこに座っている。
4. ツナァギを見てしまうと呪いでもう眼が離せなくなる。
5. 才人はおもむろにツナァギのファスナァを下ろし、さらに呪縛を掛ける。
6. 『やらないか』という先住を超える、『ラストスペル』を唱える
7. いいのかい、ほいほい付いてきて・・・などと言いつつ、2人は闇に消える

なんて言う都市伝説扱いを受けているのだ。
というか、やけに話が具体的だが、そこに突っ込んではいけない。
ケツにも突っ込んではいけない。
一部の王宮の女性からは逆に熱い目で見られているが、
そのことで突っ込んでもいけない。
というか、そんな都市伝説広めたのは誰だ。

とにかく、才人は人生最大の春の予感と浮き足立っていた。
ああ、努力って報われるんだなぁ、と感動すら覚えていた。



「きゃーーーーーーっ!!」

そんな才人の耳に、先ほど別れたばかりの少女のものであろう。
悲鳴が飛び込んできた。

ぎょっとする。
今の悲鳴はただ事ではあるまい。
才人は大慌てで彼女が歩いていった方向、
そして悲鳴が聞こえた方向へと走り出した。
そこで才人が見たものは!!


「ハッハッハッハッ・・・」

シエスタに圧し掛かるようにその身体を押し付けて、
尻尾をブンブンと振り回す犬ころの姿と、

「ひぃ、ひぇええええええ・・・」

犬に押し倒され、涙目でがちがちに身体を緊張させたシエスタの姿だった。
スカートがめくれ上がり、隠されていた肌色がちらちらと視界を掠める。
胸元についていたリボンも飛ばされてしまったのか、影も形もない。
相手が犬でなかったら、まぁ、問答無用で警察にご厄介になる光景であった。

才人はとりあえず鼻を押さえて、深呼吸。
それから出来るだけ、衣装を乱したシエスタを見ないようにしつつ、
犬ころを、ぼかっと蹴り飛ばした。

「きゃいんきゃいんっ」

どこまでシエスタに夢中だったのか、
まともに才人の蹴りを受け、野生のカケラも見せずごろごろと犬ころが転がった。
・・・こんなアホ犬が入ってこれるなんて、学院の警備は大丈夫なのか?
才人はそんな事を考えつつも、シエスタに声をかける。

「大丈夫かっ?」

「は、はいぃ・・・」

座り込みながら、スカートの裾を直すシエスタから力無い言葉が発せられた。
ま、犬だし。
文字通り犬に噛まれたと思って忘れるしかないんだろうなぁ。

とりあえず大したことが無かったので、ほっと息を吐く。
だが、まだ事態は終わっていなかったらしい。


「ああっ、ボクのガルム!
どうしたんだいっ!?
ああ、そんなに毛並みを乱してしまって!」

アホ犬に大仰な名前をつけた犯人であり、
犬の主人であろう貴族がやってきたからだ。

「くぅうううん」

「何、あの女平民が欲しいのかい?
全く、君はゲテモノ喰いだなぁ。
でも、いいさ。
ガルムはボクの大切な使い魔だからね。
出来ることは叶えてあげるさ」

・・・なんか犬と会話してるんですけど。
才人とシエスタは突然現れ、犬と会話を始めた危ない人をぽかんと見つめていた。
その話がかなり不穏なものであったのにも、気付かないぐらいの衝撃であった。

「さて、そこのメイド。
君はボクが引き取ろう」

「はい?」

だが、突如こちらを向いた貴族がそんなことを言ってきた。
シエスタは何がなんだか分からない、と言った風に呆けた言葉を返した。

「君を光栄にもガルムのお嫁さんにしてあげようと言ってるんだ。
・・・光栄だろう?」

「へ?」

今度は才人の口から言葉が洩れた。
何ソレ。
コイツ、頭イカれてる?

だが、シエスタは貴族の本気が伝わったようだった。
かちかちと歯を鳴らし、絶望的な表情を浮かべていた。
ぼろぼろと涙がこぼれるが、
絶対的な権力社会を嫌と言うほど教え込まれた彼女に、
否定の言葉など出せるわけもない。

何の冗談だと思っていた才人も、
シエスタの反応を見てようやく本気だと言うことに気がついたようだ。
そうすると、今度はこの貴族に対する怒りがこみ上げてきた。
犬はいい。
シエスタ可愛い。
欲情するのもよく分かる。
自重しろ、と言いたいが、まぁ犬だし。

しかし、この貴族、いや下種野郎は許せん。

才人はずいと座り込むシエスタの前に、
下種野郎からの視線を遮るように立ち塞がった。

「サ、サイトさん・・・・?」

ぐちゃぐちゃになった顔でシエスタが疑問の声を上げた。

「助けて欲しかったら、
助けてって言ってくれ」

才人がそう言うと、シエスタはかすかに・・・

「・・・たすけて・・・」

と呟いた。
才人には確かに聞こえた。
充分だ。


「おい、こら。
この下種野郎」

「なんだ君は。
・・・そうか、あの留学生の小娘の護衛とかだったかな?
悪いことは言わん。
今ならその無礼な発言は忘れてやるから、早々に立ち去りたまえ」

才人はなるほど、と思った。
どうやら目の前の下種野郎もそこまで悪い奴ではないようだ。
ただ、シエスタたち平民よりも貴族、そして自分の使い魔の方が圧倒的に大切だ、
そういう風に育てられただけだろう。
だが、彼への教育方針がどうであったとしても、
俺はシエスタを助けることに決めたからな。

「だが断る」

そう力強く宣言し、胸元から短剣を引き抜いた。

スペルを唱える。

唱えるは、
『ファイヤーボール』
火球を打ち込む初歩の魔法である。
普通は握りこぶしよりも小さいほどの火球が生まれる。

だが、才人の心の震えに反応し、
地下水がその本来の力を何倍も増幅させていく。
人間の頭を丸々飲み込むぐらいの火球がごうごうと、渦巻いた。

「ひ、ひぃっ!?
き、君はメイジだったのかっ!!?」

急激に発生した熱量で、
空気が、ギギギギ・・・と悲鳴を上げた。

「わ、分かった。
ボクの負けだ!
諦める、諦めるからっ!!」

そう言い捨てるとソイツは犬を抱きかかえて、すたこらさっさと逃げ出した。
逃げ出した彼らを見送ってから、魔法をぽんと投げ飛ばす。
遠くに見える宝物庫の壁にぶち当たり火球が霧散するのが見えた。
ありゃ、やっぱ傷一つつかないかー、とボンヤリと考えていた才人は、

「・・・あっ」

シエスタの声で彼女の方に向き直った。


「ひっ」

しかし、シエスタは才人を見るなり、怯えた表情を浮かべ後ずさった。
それも、ムリもないかもしれない。
何しろ、メイジ=貴族=恐ろしいモノ、という等号が成り立つのが平民らしい。
今さっき、あんな怖い目にあったばかりなのだから尚更だろう。

「あーあ、相棒、ナンパ失敗だーねぇ」

左手に握り締めた地下水が才人に茶々を入れる。

「そんなんじゃねーよ」

半分以上強がりで才人はそう悪態をつき、

「タオルありがとな」

そう言ってシエスタに背を向けた。
やっぱりちょっとへこむなぁ、と才人はぼんやりと考える。
彼女が気に入っていただけにショックも大きかった。

「ありがとうございました!」

突然背中から声が響いた。
振り返ると、シエスタが震える足で懸命に立ち上がって
頭をこれでもか、というぐらい下ろしていた。

「おう!」

「ま、助けたのは俺だぜ、お嬢ちゃん」

才人の台詞に地下水の心無い、
この場はどう見ても狙ってのことだろうが、
言葉が被さる。

「おい、コラ!
そこは俺に花を持たせるべきだろうが!!」

「関係ないねぇー。
正当な扱いを要求するものであるー」

「なんだとーっ!」

唐突に才人と左手の短剣が子供っぽい喧嘩を始めた。
シエスタはそんな彼らに怯えていた自分が可笑しくなって、
声を上げて笑った。

「ほら見ろ、相棒がガキだから嬢ちゃんに笑われたじゃねぇか」

「う・・・ち、違うだろ、お前が短剣の分際で生意気だからだろ」

「へいへい、そう言う事にしておいてやるよ」

才人と地下水もそれで毒気を抜かれたのか、
互いに矛を収めあった。


シエスタはしばらく笑っていたが、
落ち着くと、もう一度

「ありがとうございました」

礼を言ってくれた。

「でも・・・あの、1つだけいいですか?」

シエスタがどうしても聞きたいことがあります、
という感じで話を続けた。

「どうして貴族様なのに、いつもあそこで剣を振ってらしたんですか?」

「俺はメイジじゃないよ、さっきの魔法はこの口の悪い短剣の力だよ」

確かにメイジが剣を振る練習をするというのは意味のない行為だろうから、
シエスタの疑問は当然だ。
だが、前提から間違っているのだから、
答えは簡単だったりする。


「すごいですねぇ」

マジマジと短剣を見つめながら、シエスタが感嘆の声を上げた。
実際のところ、貴族と平民の境である魔法の境界を侵犯する行為なのだから、
ハルキゲニアを揺るがしかねない武器であったりするのだが。
一平民であるシエスタがそんな事を気にするはずもなかった。

「そうだ!
これ貸してやるよ。
ああいうタイプはしつこいし、逆恨みするかもしれないからな!」

才人はさも名案を思いついたとばかりにはしゃいだ声を上げた。
無論、真の目的は
『これでシエスタと親密になれる、むしろフラグゲット!!』であるが。

「ええっ、そんな凄いものお借りするわけにはっ!?」

「ひでぇ、相棒。
俺をそんな簡単に貸し出すなんて、担い手として失格だぜ?」

恐縮するシエスタには万が一、万が一と言いくるめ、
文句たらたらの地下水には、たまにはいいだろ、と説得した。


「そこまでおっしゃるなら・・・」

シエスタが納得してくれる頃には地下水も不承不承ながらも頷き、
才人は心の中でガッツポーズを繰り返していた。

「本当に危ないかもしれないし・・・
ま、俺が心配なだけだからさ」

あくまで才人的にはクールに話を纏める。
シエスタも軽く頬を赤らめ、満更でもなさそうであった。
地下水はそんな2人を冷めた視線で見つつも、
再度諦めたのかのようなため息を吐いた。


才人が地下水を差し出して、それをシエスタが受け取った。
才人の手とシエスタの手が触れ合って、
互いに、はにかんだ笑みを浮かべる。

「なぁなぁ相棒。
俺ぁ、今からこのおじょーちゃんのナイフだかんな。
お前を守る必要ないな」

突然の地下水の言葉に、
せっかくの良い雰囲気を邪魔された才人は、

「ああ、その通りその通り。
ちょっと黙ってろ」

と邪険に扱う始末である。

「そっか。
じゃあ頑張れ、元相棒」

「は、何が?」

才人が疑問符を投げかけると同時に、空から風切り音が聞こえた。

「ウィンディ ウォール」

同時に地下水が唱えたスペルで出来た風の境界線が、
シエスタの周囲2メートルほどを辺りの空間から遮断した。

「へ?」

境界の外で才人の呆けた声が聞こえた。
瞬間、氷の嵐が世界を埋め尽くした!

「おー、このお嬢ちゃん、掘り出し物だ。
メイジでねーのに、なかなか良いもの持ってんなぁ」

今日一日で色んなことが起こりすぎて限界を突破してしまったのか、
何故だか分からないが笑い出したシエスタと、
足を残し氷の山に埋め尽くされた才人を尻目に地下水が悠々と呟いた。

空から、ばっさばっさと竜の羽ばたきが聞こえた。
ま、元相棒がどんな目に会おうと、もう俺にゃー関係ないかんな。

(続く)